オーバーロード 白い魔狼   作:AOSABI

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14話

 新居が決まって数日、フェンリル達は新居に置く家具や必要なものを前日に買い終え、今日は何か掘り出し物が無いかと昼間の帝都北市場に来ていた。

 露店に並ぶアイテムを見て回る。

 見た事のない何に使うか分からない色々な道具を楽しそうに見るフェンリルだが、それとは反対にネルとクレマンティーヌの顔はつまらなそうだった。気に入ったものがあれば買って良いと言われているがどれもが冒険者やワーカーが使った中古品ばかりで気に入るものが無い。

 プラプラと見ながら歩いていると一件の露店の所で足が止まる。

 立派な天幕に並んだ商品はさっきまで見ていた冒険者が使うようなアイテムではなく、生活に使われるようなアイテムが並んでいた。その中にはフェンリルにとって見知った品物がいくつかあった。

 フェンリルがその一つ、自分より少し大きい長方形の白い箱の扉を開けてみると中は棚になっており、そこから冷気が漏れてきた。

 

「・・・冷蔵庫だ」

 

 他の商品を見て見れば、扇風機、ライトスタンド、など多少形は違うが現実世界の物とそん色ない物が並んでいた。

 驚いているフェンリルに

 

「冷蔵庫買うの?」

 

 クレマンティーヌが声を掛けた。

 

「知っているのか?冷蔵庫」

 

「ん?、まぁ珍しいっちゃ珍しいけど、そんなに驚くようなものでもないでしょ?ずっと昔に口だけの賢者が発明してから貴族とかなら普通に持ってるよ」

 

「口だけの賢者?」

 

「ずっと昔にミノタウロスでそういう奴がいたんだって、色んなアイテム考えたんだけどそれを作る能力もなんでそうなるのか、説明できなかったんだって、だから口だけの賢者」

 

「へー」

 

 店を後にし再び歩き始める。

 それは偶然なのだろうか、元いた世界とほぼ同じ外見に同じ機能の物、こちらのは魔法の力で再現されているという差異があるが、こうも似る物だろうか、その口だけの賢者をユグドラシルプレイヤーだと考えれば腑に落ちる。

 だとすれば自分たちよりも前に来たプレイヤーはいた。どれほどいたのかは分からないがクレマンティーヌでも知っている口だけの賢者のように伝承に残るような者もいたという事は世界各地にその伝承伝説は残っているはずだ。

 

「ん?」

 

 普段なら無意識に気付き対処するのだが深く考え込んでいたフェンリルは避けることが出来ず何かとぶつかってしまった。

 目の前には尻もちをついた少女がいる、どうやらこの少女とぶつかってしまったようだ。

 

「すまない、考え事をしていて気づかなかった」

 

「いえ、私がぶつかったのですから謝るのはこちらです」

 

 少女は立ち上がると頭を下げた。

 フェンリルは観察するように少女を見る。手には長い鉄の棒、ゆったりとしたローブに厚手の服、一目でマジックキャスターと分かる格好

 

「君はマジックキャスターなのか?」

 

 突然、自分の職業を言い当てられた少女アルシェは警戒しながらフェンリルを観察する。見た事もない真紅の全身鎧、腰に下げられている二つの剣は装飾からかなりの業物だろう、だが冒険者であれば下げられている胸のプレートがないことから貴族の息子と判断する。

 

「それが何か?」

 

 元々感情を表に出すことが苦手なので表情は変わらない自分の見た目から舐められたと思い不機嫌に答える。苦労を知らなそうな綺麗な顔立ちにアルシェの目は鋭く嫌悪を帯びていく。

 それに気付いたフェンリルは素直に謝罪する。

 

「あぁすまない、別に君がマジックキャスターだからどうこう言うつもりはないんだ。本当にすまない。許してくれ」

 

 頭を下げ謝罪するフェンリルの姿に周りがざわついた。アルシェと同じようにフェンリルをその姿から貴族の息子と判断していたのだ。

 それにアルシェは慌てた。鼻持ちならない貴族の息子と思ったフェンリルがこうも簡単に頭を下げるとは

 

「許しますから、頭を上げてください」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 頭を上げるフェンリル、だがその後ろに居たルネとクレマンティーヌはその行動に不満だった。

 自ら神と崇める者が軽々しく頭を下げるとは、それもとるに足らない人間の小娘に許しがたい行動だ。

 それを察知したのかアルシェはフェンリルの後ろで鋭い眼光で見下す様に見ている二人を見る。

 いや正しくは見れなかった。危険な香りのする薄い笑みを浮かべたクレマンティーヌを見た瞬間、自分の身体が泡になって消えてしまうかと思った。向けられた殺意が目に見えない何百もの剣となって身体を貫く幻覚すら見えた。

 一般人であれば軽く気を失う程に恐ろしい殺意だが幾つもの死線を潜り抜けたアルシェには耐えることが出来たしかし、ネルを認識した瞬間、自らの異能、魔力系マジックキャスターの力量を見破る看破の魔眼によってトドメを刺されることになった。

 

「うぐっ!」

 

 ネルの人を遥かに超えた魔力に耐えられずアルシェが膝から崩れ落ちる。身体から一気に汗が噴き出て息も荒く絶え絶えだ。

 

「え~ちょっと大丈夫~お嬢ちゃん」

 

「脆弱な」

 

「大丈夫か!?二人ともやめろ」

 

 周りの人間には何が起こったのか解らなかった。ただアルシェが突然具合が悪くなっただけにしか見えなかった

 

「・・・だいじょ・・・うぶっ」

 

 吐き気が止まらない。身体に力が入らない。

 

「大丈夫じゃないだろう。宿屋に送って行こう」

 

 普段なら断るところだがこの場を、ネルから一刻も早く離れたかった。

 

「・・・家・・・ではなく、歌う林檎亭・・・に・・・」

 

「分かった。歌う林檎亭だな、二人は先に帰っててくれ、俺はこの子送っていくから」

 

「分かりました」

 

「は~い」

 

 二人は嫌々ながらもそれに頷いた。

 

 

 

 

 

 歌う林檎亭、普段からワーカーのたまり場の一つになっているこの酒場も他の酒場と変わりなく、昼間から酒を煽っている者たちが多くいた。

 それを横目に見ていたフェンリルは、こういうのはどこも変わらないのだと思った。丸いテーブルの反対側にはいくらか顔色の良くなったアルシェが水の入ったグラスを見つめている。

 

「気分は落ち着いたか?」

 

「えぇ、だいぶ良くなったわ」

 

「オレの仲間がすまなかった」

 

「いえ、ここまで具合が悪くなったのは私の体質のせいだから気にしないで」

 

「体質?それはタレントというやつか?これは聞いてはいけない事か?」

 

 情報が命というのは冒険者でもユグドラシルでも変わらない、特にそれが自分の生命線の一つとなっているならなおさらだ。

 

「べつにいい、私はマジックキャスターの力量を見破ることが出来るの」

 

「見破る?もしかしてそれでルネを見たから?」

 

「そう、そのルネっていう人が初めて見る位すごいマジックキャスターだったから」

 

 マジックキャスターの力量を見破るという所にフェンリルは疑問を感じた。力量という事はユグドラシルでのMP、この世界でいう魔法の力、魔力の総量が分かるという事なのだろうか?それはマジックキャスターだけなのだろうか?格闘職中心に習得しているフェンリルでもLv100となればLv60のマジックキャスター位にはなる。昼間で人化でLv40までステータスダウンしているとはいえLv24分のMPはある。

 

「そのタレント能力は本当にマジックキャスターだけなのか?俺からはそういう力を感じないのか?」

 

 アルシェは何を言われたのか理解できなかった。見た目から戦士系であるフェンリルから魔法の力を感じるはずがない。

 

「いいえ、貴方からは魔法の力は感じない」

 

「そうなのか」

 

 フェンリルは一つの仮説を立てる。MPを所持しているのに魔法の力を感じずマジックキャスターからは感じる、つまりアルシェの能力は魔法職を納めている者のみの魔法の力を見破ることが出来るという事になる。

 これは面白い人間を見つけたと初めて見るタレント能力に興味がわいたフェンリルはさらに色々な事をアルシェに聞いていると

 

「うちの仲間に何か用?」

 

 ハーフエルフの女が話し掛けてきた

 

「イミーナ」

 

 名前を呼ばれアルシェを見ると顔色が悪いことに気が付いた。

 

「ちょっと、アルシェどうしたの!?」

 

 イミーナが睨む、おそらくフェンリルが何か顔色が悪くなるようなことをしたのだろうと思ったのだろう。当たらずとも遠からずだが

 

「どうやらお知り合いの方が来たようですので、俺はこれで失礼します。色々お聞きしたいこともあるのでお話はまた今度にいたしましょう。それでは」

 

 席を立ち店を出て行こうと歩き出す。

 

「ちょっと!まっ―――」

 

「違うの!待ってイミーナ!」

 

 出て行こうとするフェンリルに食って掛かるイミーナを制止するアルシェ

 

「あの人は気分の悪くなった私をここまで連れてきてくれたの」

 

 それを後ろに聞きながらフェンリルは店を出て行く。

 モモンガにアルシェという面白いタレント持ちの興味深く良い話が出来たと思いながら

 

 

 

 

 宿屋への帰路の途中でフェンリルはニンブルとばったり会ってしまった。

 

「げ」

 

「これはウォルフ殿、丁度良い所でお会いできました」

 

「丁度良い所?何の御用で?」

 

 色々と裏で糸を引いている人物だけにフェンリルは不信感は隠さない、しかしニンブルはそれを意に介さず表情を崩さず話を進める。

 

「明後日の食事会に是非とも出席をして欲しいのです」

 

「何で?俺堅苦しい食事嫌いなんだけど」

 

「食事会と言っても堅苦しいものではなくウォルフ殿のチームを入れても8人程度の小さなものです。実は今回中々手に入らない珍しい食材が手に入りまして、それを私の仲間たちで楽しむという食事会なのですが、そこで是非ともウォルフ殿が体験した冒険の話をお聞きしたいのです」

 

「話と言ってもなぁ」

 

 渋るフェンリルにニンブルがトドメの一言を放つ

 

「ウォルフ殿の舌を満足させる食事をお出ししますので」

 

 満足させる食事、すなわち美味い食事、それにフェンリルの目が輝いた。

 

「美味い食事?」

 

「えぇ帝都の中でも特に腕の良い料理人に作らせますので、そこはご心配なくそれに―――」

 

「参加します。是非とも参加させてください。冒険の話でいいならいくらでもしましょう」

 

 あまりの変わり様にニンブルは少し引いた

 

「そ、そうですか、それは良かった。では明後日に迎えを行かせますので」

 

「分かった。待ってるよ。それじゃ」

 

「えぇそれでは」

 

 ニンブルと別れるとモモンガへの面白い話を忘れて明後日の食事会の事を考え足取り軽く宿屋へと帰っていった。

 


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