オーバーロード 白い魔狼   作:AOSABI

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7話

 シャルティアの離反、モモンガにとって最優先の事柄だが、モモンガそしてフェンリルはナザリックではなく冒険者組合の一室に居た。

 冒険者組合に緊急の要件として呼ばれた為だ。

 部屋にはモモンガ達2人の他に、冒険者組合の組合長アインザック、そしてミスリル級冒険者の『クラルグラ』のイグヴァルジ、『天狼』のベロテ、『虹』のモックナックの4人の男、いずれも緊急の要件で招集された者たちだ。

 これから話し合いが開始されるという時にイグヴァルジがモモンガとフェンリルに絡んできた。

 

「アインザック組合長、私はモモンもウォルフという名も聞いたことが無いのですが、いったいどういう偉業を成し遂げたのだろうか?」

 

 言葉の端々に敵意を含む言い方だがアインザックはそれに気付いていないような明るさで答えた。

 

「モモン君は森の賢王を服従させ、昨晩の墓地の事件を解決、そしてウォルフ君も大量のアンデッドを掃討し事件の解決に大いに貢献してくれた」

 

「その一件だけでか?たった一つの事件を解決しただけで?他の冒険者が不満に思うぞ?」

 

「だがモモン君はたった二人で2体のスケリトルドラゴンを退治し首謀者一味を討伐、そしてウォルフ君も二人で見たこともない凶悪なアンデッドを2体その後、他の冒険者達の先頭に立ち千体以上のアンデッドの軍団を倒している。そしてウォルフ君のパートナーであるルネ君は第5位魔法の使い手だ――」

 

 アンデッドはモンスターの部類でも弱い部類に入るモンスターである。リッチ等例外もいるが大抵はスケルトンなどの弱いモンスターを指す。スケルトンは新米冒険者でも2・3体なら対処可能なモンスターではあるが、それを千体になると話は変わってくる。

 30体程度で並みの武器は壊れ、集中力も体力は無くなり、不意の一撃で傷ついたが最後そこに群がる様に押し寄せ殺されてしまう。

 それを千体も倒すという事は、特別な武器を持ち、常人ではない人外の領域に踏み込んでいるという事だ。

 それにパートナーは第5位階の魔法を使うという、それが本当ならもはやアダマンタイト級の実力者だ。

 そしてスケリトルドラゴンを2人それも2体倒し首謀者一味を討伐したとなるとこちらも相当な実力者ということになる。

 イグヴァルジはそんな英雄譚の一説の様な話を信じられなかった。

 

「馬鹿な!そんな事出来るわけがない!」

 

 立ち上がり強く否定するイグヴァルジにフェンリルが不機嫌に声を上げた。

 

「あのさぁ、うるさいんだよ。俺もこっちの人も緊急だっつーから眠いの我慢して来てんだよ。これ以上話が先に進まないんなら、お前出て行けよ」

 

「貴様っ!――」

 

 フェンリルの挑発にイグヴァルジが顔を真っ赤にさせて睨んだ瞬間、目の前に弱く雷を走らせる刃の切っ先が突きつけられていた。

 

「な・・・」

 

 フェンリルが剣を抜きイグヴァルジに突き付けるまでの動きはモモンガ以外には見えなかった。ゆえにこの場にいる誰もが驚愕していた。

 

「黙って席に着くか、出て行くか、どっちか選びなよ先輩」

 

 突き刺すような視線と冷たい言葉にイグヴァルジは背中に冷や汗を掻きながら大人しく席に着くことを選んだ。

 

「さぁ話を進めようか」

 

「そうだな、では―――」

 

 アインザックが話した緊急の要件とは突如現れた吸血鬼の事だった。その吸血鬼とはもちろんシャルティアの事だ。

 そのことが分かるとモモンガは、その吸血鬼は自分が追っている非常に強力な吸血鬼の1体であり名前はホニョペニョコであり、詳細は極秘裏の任務であるため伝えられない、そしてこの事は国対国の話にはしたくなくその場合は自分はこの地を去りホニョペニョコはこの国の冒険者に任せる。

 アインザックはモモンガを睨んだが何の痛快も感じず、これだけは何物にも邪魔をさせないと、微かな怒気をはらみ告げる。

 

「偵察は我々で行う、もしその場に吸血鬼がいたら滅ぼそう」

 

 とそう断言する。そこには己に対する自信と、決意があり、空気が揺らいだのではないかという圧力に息を飲む。では他のチームを、と言われたがその言葉を遮り拒絶する。足手まといはいらないと傲慢不遜な態度だが、その場にいたフェンリルを除く男達はそれが決して傲慢や自惚れ、驕りから来たものではなく、そう言い切れるだけの力を有しており常人の域を超えた英雄と呼ばれる男であると感じた。

 アインザックが問いかける

 

「報酬は?」

 

「その吸血鬼を滅ぼした場合、最低でもオリハルコンを約束して欲しい。もう一体の吸血鬼を探索するのに一々力を証明するのも面倒だからな」

 

 なるほど、と部屋に居る者は納得する。

 するとモモンガの隣に座っていたフェンリルが笑った。

 

「クハハッ、良いなそれ、なら俺も付いて行こう。同じ依頼をするんだから俺もオリハルコンになれるんだろう?組合長殿?」

 

 アインザックはその提案に渋い顔をする。

 モモンは良い、オリハルコンになるという理由も分かる。だがウォルフには疑問に思うことがある、力はあると思う、先程見た目にも止まらぬ神速の抜刀に千体以上のアンデッドの軍勢を倒したのだから、だからと言ってこの依頼を完了したとして容易くオリハルコンを与えて良いものか

 

「構わないが、ついて来たら確実に死ぬぞ?全滅かどうかは知らんがな」

 

「良いね、ゾクゾクするよそういうの。で?オリハルコンになれるの?組合長殿」

 

 モモンが確実に死ぬと断言する依頼をこなすのであればとアインザックは渋々だが自分を納得させ首を縦に振る

 

「良いだろう、ただしモモン君の報告によって精査する。それによって君をオリハルコンにするかどうかを決めさせてもらう。これが条件だ」

 

「その条件で良いよ。それじゃよろしくモモンさん」

 

「えぇよろしくお願いしますウォルフさん」

 

 握手を交わすとイグヴァルジが立ち上がった。

 

「俺達も付いて行く!大体その吸血鬼が本当に強いのかも不明ではないか!第一お前の強さを信頼できない!」

 

 モモンガは軽く肩を竦めると

 

「警告はした。それでも良いなら付いて来い」

 

「も、もちろんだ!」

 

 イグヴァルジを見て若干余裕を取り戻したアインザックがモモンガに問いかける

 

「自信があるのはいいが、その根拠となるものは何かね?勿論君の強さは理解しているつもりだ。だが吸血鬼の強さを考えると、私達も君に任せて良いか不安があるんだ。・・・もし君が負けてしまった場合の対処ももある」

 

「切り札はここにある」

 

 懐の内から水晶を取り出す

 

「それは?」

 

「第8位階の魔法が込められている魔封じの水晶だ」

 

「なんと!?それは本当か!!」

 

「鑑定しても良いが、今は時間が惜しい。吸血鬼は日光下であった場合ペナルティで行動が遅くなる」

 

「そうだな、では何卒頼む」

 

「了解しました。これから出来る限り急ぎで出る」

 


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