東方開扉録   作:メトル

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久々の金曜更新です。


第二十六話 格闘

冥界前、門。

結界が張られ、生きし者の侵入を拒んできた門は今日もしっかりと仕事している。

飛び交う弾幕は結界によってかき消され、損傷どころか傷一つついていない。

さすが冥界の門だ、何ともないぜ!

 

ル「よそ見をするな」

 

ルナサから放たれた弾幕は四方八方に散らばり、まるで小さな花火のように空中で弾幕の花を咲かせた。

 

誠「広範囲に弾幕を散らして戦うスタイルですか」

 

体を捻ってきりもみ回転、弾幕の隙間を貫くように回避していく。

このくらいの弾幕なら余裕で回避できる、所詮は道中ボスってところかな。

…俺に弾幕がまったく当たらないことで業を煮やしたのか、弾幕の数が徐々に増えだしているようだ。

 

誠「ただの人間にこんなことをしたらダメですよ」

 

ル「どこの世界にこの弾幕を避けるただの人間がいる!」

 

誠「ここにいますよ~」

 

ル「こんのぉ…」

 

俺の挑発で明らかにムカついているようだ、ストレスはお肌の天敵ですよ?

 

メ「姉さん、手助けします」

 

リ「私も~」

 

二人の声によって後ろで様子を伺っていたはずの次女と三女がいつの間にか長女の近くにいることに気付いた。 ルナサは二人が近くにいることを確認するとスペルカードを宣言した。

 

ル「騒符『ライブポルターガイスト』」

 

スペルカードの宣言と同時にルナサのヴァイオリンから音符型の弾幕が形成された、弾幕の形成と同時に発されている音は聞いていると気分が下がっていく感じがする。

…そういや『手を使わずに楽器を演奏する程度の能力』は三人の共通能力、それとは別に1人1人が能力を持っているんだったな。

長女ルナサの能力は『欝の音を演奏する程度の能力』…、厄介極まりない。

こんなので俺一番のいいところ、ポジティブスキルが無効化されるのは嫌だ。 ついでに欝も嫌だ。

耳栓は……したら普通に危ないから止めとこう。

 

メ「早く調理してお屋敷に行くわよリリカ」

 

リ「手助け~」

 

メルランのトランペット、リリカのキーボードからも弾幕が形成された。 それはさきほどのルナサの弾幕と同じように周囲に拡散し、空中で花を咲かせる。

この2人の能力は確か……、なんだっけ。

 

ル「くらえっ!!」

 

ルナサの音符型弾幕が俺へと襲いかかった。 それはムチのように一本の長い弾幕となり俺を潰そう迫る。

なるほど、二人で隙間を潰してからトドメをさすと。 さすが三姉妹、いいチームワークだ。

だが、遅い。

すぐに右に飛んで弾幕を回避し、ルナサに弾幕を放つ構えをとった。

 

リ「かかった!」

 

飛んだ先に音符の弾幕、それは俺が接近したと同時に拡散した。

至近距離でのこの攻撃なら回避し難いわな、しかも空中戦じゃ飛んだ勢いは簡単には殺せない。

でも残念、それじゃ40点だ。

弾幕を放つ構えを維持しながら足元に小さな結界を創造し空間に固定、それを足場に上へと飛んだ。

 

三姉妹「上!?」

 

三姉妹全員が俺の行動に驚き一瞬だが楽器の演奏が止まった。 その一瞬で音符は風船が破裂したかのように割れてなくなり無防備となる。

 

誠「…ルナサまでの距離、30メートル。 視界良好、創造完了。

  スペルカード!! 盗符『マスタースバーク』!!」

 

スペルカードを宣言し両手を前に突き出した。 一瞬の煌めきの後極太のレーザー型弾幕が放たれ、三姉妹を狙い撃つ。

虹色に輝くレーザーは冥界の門を照らし、空気をビリビリと震わせながら轟音と共に突き進む。

足元に浮かぶ雲が千切れ、桜吹雪は燃え尽き、頭上に浮かぶ太陽をも霞ませるほどの攻撃が視界を埋め尽くす。

それは五秒、いやそれよりも長かったかもしれないがそれくらいの時間を幻想郷の空に響かせた。

やがてそれは急激に細くなり、か細い光となって消えていった。

 

誠「…やりすぎたか?」

 

こりゃやりすぎたな、うわぁ怖い。 三姉妹のついでに全力で結界ぶっ壊そうとしてみたけど本当に結界割れちゃったよ…。

紫様に殺されないかな? 大丈夫だよね? 異変解決のためだから大丈夫だよね?

 

…あとで三姉妹と紫様には謝っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

三姉妹との弾幕決闘に勝利し、罪悪感に苛まれながら冥界に足を踏み入れる。 門の先には長い階段が続いていた。

三姉妹はごく普通に弾幕に被弾しただけだろう、亡霊だし消し炭になったりはしないだろう。

…多分。

今更だが原子レベルだか分子レベルだかまで分解されるってどんな気分だろうか。 考えるのも恐ろしいので考えないこととする。

 

誠「…にしても綺麗だな、桜は咲いてるし暖かいし。 防寒着もいらないな」

 

気持ちを紛らわすために独り言を呟く、冥界と言えどここはそこまで寒くないようだ。

階段を上りながら防寒着を脱ぎ捨てて普段の姿に戻った、その姿はジャージ。 男なら誰しもが着る魅惑のオシャレアイテムである。

やっぱりこの服装が一番だわ~、春よ早く戻ってこい。

 

階段を足早に上るといきなり周囲が明るくなった、まるで夜から夕方に戻ったような明るさに驚きながら階段を上っていく。

 

誠「…………?」

 

背後から気配を感じ、振り向くがそこには誰もいない。

おかしいな、と頭を掻くとまた背後から気配を感じた、さきほどよりも強い気配だ。

すぐさまその場から飛び上がる、すると俺が立っていた場所に弾幕が飛び交った。

 

誠「……招かれざる客ってわけか」

 

見渡すとふよふよと浮かんだ玉…いや(たま)が周囲に浮かんでいるのが感じ取れた。

それは漠然としたイメージでしかなく、事実俺の視界には何も写っていない。

また弾幕が放たれた。 足に力を入れてその場で上昇し弾幕を放つ、確かに弾幕が当たっている感じはするが目には見えない。

 

めんどくせぇ…。

 

幻想郷には野良妖精が存在し、人間を見かけたら挨拶なしに弾幕を放つ妖精がそこらにいるわけだがそれはまだいい。 敵が見えるから攻撃される前に潰せるからな。

だが霊はダメだ、見えないんじゃ放たれてからでしか対応できん。 場所は大体わかるが本当に大体だ、正確には方角くらいしかわからん。

弾幕は回避できるが不意打ちはキツイ。 不本意だが今は回避して弾幕を放った奴を仕留めるを繰り返すしかあるまい。

そうこう考えてる間に弾幕が放たれた。

 

誠「7時の方向、下に20度」

 

一瞬で状況を把握し的確に霊を撃ち抜く、スナイパーにでもなった気持ちだが残念なことに気分は最悪だ。 めんどくさいことこの上ない。

 

誠「4時の方向、上に60度」

 

全神経を五感に委ねて敵を撃ち抜いた、気配からして数は少し減ったがまだまだいるようだ。

クソ、雑魚を相手に使うのは(しゃく)だが拡散系のスペルカードで攻撃した方が早いんじゃねぇのこれ。

 

ストレスを感じながら霊を撃ち抜いていると視界に何か小さな人形のような影が見えた、もちろん冥界といえど人形が勝手に動くわけがないしアリス・マスタードもこんな所にいるはずがない。

つまりだ、影の正体は。

 

誠「野良妖精かよ!」

 

ただでさえ面倒なのに妖精まで加わったら更に面倒だ、そして俺の我慢も限界に近い。

もう使う、俺はこれを雑魚相手に使うぞ…。

 

誠「創符『真空切りの巻物』」

 

スペルカードの宣言と同時に巻物が現れた。 巻物を開き念ずるように読むと俺の周囲をかまいたちのように弾幕が吹き荒れる。

弾幕は俺の周囲にいた妖精や霊を次々に切り刻むように被弾し、一瞬にして周囲は冥界らしい静けさを取り戻す。

 

誠「……たく、一日中飛んでるから疲れてるんだよこっちは」

 

敵の気配がしないことを確認すると地上に降りて階段に腰を下ろした、腰が痛いわマジ。

 

……ん? 俺すげぇジジイみたいなこと言ってる。

ん~…まあいいわ、人間は歳をとって成長するわけだし。

 

?「あなた、人間ね」

 

誠「お! そうですよそうですよこの頃人間と言われることがなかったからなんか嬉しい!」

 

突然頭上から褒め言葉が聞こえた、笑顔で上を向くと見えたのは白。

 

?「…っ!! どこを見てるッ!!」

 

誠「おわっと!!」

 

俺の視線の先になにがあったか気づいたようでいきなり斬りかかってきた、間一髪で良けれたが階段の一部は無残にも粉々に砕かれている。

 

誠「危ないじゃないか、もうちっと遅かったら死んでるぞ」

 

これ絶対殺す気だよね? つまり正当防衛という名目でセクハ―――んんっ!! いたぶってもいいよね?

 

誠「そうですよねぇ? 魂魄 妖夢(コンパク ヨウム)さん?」

 

魂魄 妖夢たしか半人半霊というみょんな体質を持った人だったな。 武器は今手に持っている刀、二刀流もできるっけ。

白い髪に黒いリボン、青緑のベストとスカートを着ていて腰には刀を入れる鞘も身につけており、その隣でふよふよと白い魂が浮いている。

その魂切り捨てたらどうなるの? わたし、気になります!

 

妖「あなたが変なところを見てたからでしょうが!!」

 

ありゃりゃ、これみよがしにと空飛んでたんだから見るに決まってるでしょ。

ちなみに見えたのは真っ白なドロワーズだから、パンツじゃないから恥ずかしくないでしょ? と思って妖夢の顔を見ると赤くなってて明らかに恥ずかしそうな顔してます本当にありがとうございました。

ふむ、美少女が恥じらう姿………良い!

おっと、これ以上暴走したらポーカーフェイスが崩れちゃうわ。

 

誠「名前が当てられたことに驚かないんですね」

 

妖「名前くらいでは私は動じない」

 

いい精神をお持ちで。

 

妖「ふん、でも人間ね。ちょうどいい」

 

妖夢は俺に刀――楼観剣(ろうかんけん)(きっさき)を向けた、その眼は恥じらいを持った少女ではなく決意を持った眼だ。 確か咲夜さんもこんな眼をしたことがあったな。

 

妖「あなたの持ってるなけなしの春を…すべて頂くわ!」

 

血を払うように刀を払い、俺に向かって突進してきた。 地上戦、しかも肉弾戦とは心が踊る!

能力で俺の体以上の大きさを誇る大斧を創造し妖夢の一撃を受け止めた。

金属がぶつかり合う音が響き、自身の武器からギリギリと音を立てながら鍔迫り合う。

 

誠「その細い刀で大丈夫かァ? 今からそれを折ってやるよ」

 

妖「威勢は良くても足が震えているのね」

 

誠「武者震いかもしれないぜ?」

 

妖「それでも結構よ、どっちにしろここであなたは地獄に行くから」

 

誠「んじゃ罪を軽くしてもらうためにこれからやるのは正当防衛ってことにしないとな」

 

妖「それは無理ね、この楼観剣にあなたは勝てない」

 

誠「ハッ!! んじゃテメェは俺に切り傷は付けられねぇよ、ここで俺に負けるからなァ!!」

 

俺と妖夢がほぼ同時に距離をとるために後ろへ飛んだ。 妖夢は階段の上段に着地し俺は下段に着地、次は二人同時に走り出し自身の武器を振るう。

 

誠「ブッつぶれなァッ!!」

 

渾身の力を込めて上段から振り下ろされた斧は妖夢の刀によって受け流され、階段に大きなクレーターを作り上げる。

 

妖「そんなおお振りな攻撃は当たりません」

 

斧が地面に刺さったその隙を狙って妖夢は楼観剣を俺の頭に振るった、それを首をずらしてかわし、斧を引き抜いて間合いをとる。

 

階段の上、同じ段に足をかけて睨みあう。 ほんの少しの間同じ目線の高さで睨みあい、二人同時に弾かれたように階段の上へと走り出す。

疾風のような速さで階段を駆け上がる二人、そこに2匹の野良妖精が弾幕を飛ばしてきたが1匹を妖夢が一瞬で妖精を切り裂き、1匹を俺が斧をブン投げて片付ける。

斧を新しく創造し、妖夢へと向き直る。 妖夢も妖精を片付け終え、さきほどの状態に戻った。

先手をしかけたのは妖夢だった。 妖夢は俺に向かって右足で踏み込み、ジェット機のような速さで俺に接近した。

タイミングを合わせて斧を横に振るう、妖夢は俺が振るった斧を地面を蹴って頭上に飛び上がり回避、そのまま重力を利用し空中から斬りかかる。

斧は振るった勢いが残っているため腕で戻すことはできない、だが問題はない。 勢いがあるならそれに乗せればいい。

斧を振るった方向に体をくるっとターン。斧を背負うように構え、三日月を描くように下段から切り上げる。

妖夢は空中で斧の打撃を刀で受け止めたがバランスを崩すことなく地面に着地、あの体のどこにそんな力があるのだろうか。

 

誠「なかなかですね」

 

妖「ただの人間と少し侮っていたようね」

 

二人同時に武器を構え直した、睨み合いから先に動いたのは俺だった。

助走から地面を蹴ってジャンプ、斧を構え直して刃部分を妖夢に向けて斧にしがみついた。

 

妖「それは当たらないと言った!!」

 

妖夢の楼観剣にまたも受け流されて斧が階段に真っ直ぐ突き刺さった。 石でできた階段にまたもクレーターを作り上げる、それは俺の全体重をかけたためか最初にできたものよりも一回り以上大きい。

そして地面に刺さった隙を突くように妖夢が楼観剣を振るう。

 

誠「俺が同じ手を何度も使うとでも?」

 

真っ直ぐ突き刺さった斧を軸にした逆立ちで妖夢の攻撃を回避した後、斧をクレーターから引っこ抜き全力で回転斬りを放つ。

 

妖「なっ! クッ!!」

 

楼観剣で受け止めるが全力をこめたおかげで妖夢は数メートル後ろに吹き飛んだ。

 

誠「…ま、これで倒れるやつじゃないわな」

 

妖「…当たり前よ」

 

短く言葉を交わし、また武器を構える。

 

妖「あなたをたかが人間と侮っていたようね、謝るわ」

 

誠「俺も傷一つ付けられないは言いすぎたな、謝らせてもらう」

 

ツー…と俺の頬に血が垂れた、どうやら回避した時に軽く斬られたようだ。

 

妖「ようこそ白玉楼へ、幻想郷全ての春が集まったここに来た理由は?」

 

誠「冬が嫌いだから」

 

妖「死ぬかもしれないのに理由はそれだけ?」

 

誠「生き地獄は御免だからな、冬を終わらせられればいい」

 

妖「人間の常識が通用しない人ね」

 

誠「半霊の常識も通用しないがな」

 

妖夢の傍らでふよふよと浮いている魂を見る。

 

妖「ともかく、あと少しの春が集まればあの西行妖(さいぎょうあやかし)が満開になるのよ」

 

誠「それまで待てと?」

 

妖「いいえ、待たなくていいわ。 あなたの頭の中に広がるお花畑から春を取れば」

 

誠「普通に失礼だぞそれ」

 

妖「今から葬る相手に失礼も何もないわ」

 

誠「負ける気はサラサラないがなァッ!!」

 

頬から唇近くまで垂れてきた血を舐め、狂気を孕んだ笑みで斧を振り上げた。

 

妖「…妖怪が鍛えたこの楼観剣に」

 

妖夢が楼観剣の鋒をこちらに向けた。 その眼光は鋭く視線だけで人が殺せるのではないかというほどの威圧と敵意を醸し出す。

 

妖「斬れぬものなど、そんなに無い!!」

 

………ククク、クハハハハ。

 

誠「そうだそうだその意気だ!! 戦いはまだ始まったばかり、存分に楽しもうぜェッ!!」

 

そうだ、まだ戦いは始まったばかりなのだ。

どちらかが倒れるまで、死力の限りを尽くして楽しませてもらおうかッ!!




戦闘狂? はい、そうです。

ちなみにマスタースバークは誤字ではありません、仕様です。




次回予告
血湧き踊る戦闘を楽しむ誠、妖夢との戦いは長期戦となり次第に誠が妖夢を押し始める。 大斧の攻撃で手が震え、誠の気迫で足が震え、それでも戦う妖夢がついにあの刀を開放する! 「白楼剣もあればこの世界に斬れぬものなど、一つも無い!!」「そうだもっとだ!! もっと俺を楽しませろォ!!」ついに覚醒した妖夢との戦い、勝利を得るのはどちらなのか!? そして妖夢の影に潜む黒幕とは!? 次回『誠が弾幕決闘だとオーバーキルしてしまうのですがどうすればいいのでしょうか?』きっと幻想郷の大賢者さんがなんとかしてくれるはず…。

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