東方開扉録   作:メトル

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言い忘れてたのですが全員一応防具を着ています、デザインは自身の服装と同じなため見た目は変わりませんが。


第二十二話 誤情報

集会場の裏口を出て「いざ!」と気を引き締めた瞬間、眩い光によって視界が潰れるような感覚が私――レミリアの目を通り抜けた。

光が収まり、私はゆっくりと目を開く。

そこには先程までいた雪景色の村など欠片もない、ごく普通の森にテントを張ったような場所だった。

周囲を見ると咲夜がいつものように付き添っていた、パチェとフランは周りの景色を見ているようだった。

 

レ「…移動時間は誠が短縮したのかしら」

 

咲「そのようですね、お嬢様」

 

…この頃誠とばかり喋っていたからなんだか咲夜の「お嬢様」を久しぶりに聞いた気がするわ。

気のせいかしら? まあいいわ。

 

パ「フラン、武器の素振りをしておくといいわ」

 

フ「そうなの? よっと!」

 

フランが背中に背負っていた自分の体よりも大きい剣を地面におろした、剣の柄を両手でしっかり持ちゆっくりと持ち上げる。

 

フ「思ってたより重いわ…、太刀にすればよかったかなぁ」

 

レ「後悔先に立たずよ」

 

フ「むぅ、次があったら太刀を使ってみよっと」

 

フランは大剣を数回振るったあと背中に背負った、本当に疑問に思うのだけどこれどうやって背中にくっついてるのかしら…。

多分誠なら「ツッコんではいけないことです」とか言うわね。

さ、私も武器を軽く振っておかないと。

 

背中に背負っていた私の武器――片手剣を両手に持つ、誠が言うには盾は右手で剣は左手に持つのが普通らしい。

誠が言ったその通りに構えて数回振るう、剣は軽く扱いやすいし塚には滑り止めのために麻縄? が巻いてあるから振るってる途中で飛んでいく心配もなさそうね。

そういえば誠が言ってたわね、「盾でガードしながらアイテムを取り出せることも魅力の一つだ」とか。

試しに盾を構えながら左手で腰に巻いたポーチから回復薬を取り出す、剣を持っていても回復薬は簡単に取り出せた、さすがに飲む動作までやるのはちょっと恥ずかしいのでそのままポーチにしまい込む。

 

パ「(ビン)は全部あるわね、こっちは準備OKよ」

 

見るとパチェとフランは武器の練習なども済ませたらしい、私は準備OKだけど咲夜はここに来てから一度も武器を触っていない。

 

咲「私は大丈夫です、さあ行きましょうお嬢様」

 

…咲夜がそう言うなら大丈夫ね、本かなにかでも読んできたのかしら?

まあ咲夜はなんでもこなせる私の従者、心配はいらないわね。

 

レ「それじゃあ出発よ!」

 

私の掛け声と共に私を含めた四人が歩きだす、ご褒美が欲しいわけじゃないけど勝負には勝つわ。

ふふ、武器ももたずに狩りに出たことを後悔する程のタイムを叩き出してやるわ!

 

 

 

 

 

 

拠点を出発してから程なくしてターゲットは見つかった、赤い鱗と赤い甲殻を纏っていて大きな翼があるモンスター、あれがイャンクックに間違いないわね。

武器を抜いて両手に持ち構える、確か資料には口から火を出して攻撃することもあるらしい、十分に気を付けないといけないわね。

 

レ「パチェ、ペイントは狙えそう?」

 

パ「大丈夫、この距離なら当たるわ」

 

弓には瓶と言う特殊なアイテムがあって、弓にこの瓶を装填して使うらしい。

ペイント瓶と言う瓶を使うことによってボウガンが撃てるペイント弾と同じ効果があり、それによってターゲットの位置が分かる…らしいわ。

パチェがピンク色の瓶をポーチから取り出して弓に装填した、ペイント瓶は強烈な匂いでターゲットの場所を知らせるらしいけど…これは確かに強烈ね、瓶をポーチから出しただけでこの匂い…。

 

咲「お嬢様、ターゲットがこちらに背を向けました」

 

イャンクックを見ると確かにこちらに背を向けていた、これは不意を突けるチャンスよね。

 

レ「パチェ、私が合図したら射って。フラン、咲夜、行くわよ!」

 

咲「かしこまりました、お嬢様」

 

フ「とっとと片付けてご褒美をゲットしましょ!」

 

足音を立てないように走りだす。私は武器を両手に持ちながら走り、咲夜は武器を構えずに走る。

フランも武器を構えずに走り出した、全速力で。

 

レ「…ちょ、ちょっとフラン!」

 

全速力で走り出したフランはイャンクックの尻尾を目で捉えると背中の大剣を抜き、最大限の力を込めて振るった。

イャンクックはゴァゥッ!? と何が起きているのかわからないと言った声をあげて振り返る。

…確かに不意を突いたわね、私にもイャンクックにも。

…まあ結果的に不意を突けたからいいわ。

パチェに手で合図を送ってから片手剣を振るう、狙うのは右足。

どんなモンスターだって足を攻撃されれば転倒して隙が生まれる、そこが一番の狙い目と誠も言ってたし。

 

レ「咲夜はコイツの注意を惹いて! フランは隙を見つけて攻撃! パチェは翼を狙って!」

 

全員に指示をしてから右足を斬りつける、イャンクックは尻尾を振るう攻撃をしてきたけどそれは盾でガード。

衝撃で少し後ろに下がったけどダメージはない、また右足を狙って攻撃を始めた。

 

攻撃の合間に咲夜を見るとランスを構えてイャンクックの目の前で応戦していた、たまに口から放たれる火球や噛み付くような攻撃も全て盾でガードしてランスで頭を攻撃する。

そういえば資料にはイャンクックには大きな耳があるって聞いたけどコイツにはないわね、怪我した状態でハンターと戦うこともあるって書いてあったけどそれは極希な状態らしいし…。

つまりラッキーかしら、それなら初心者の集まりでもタイムは結構縮まるわね。

それとも咲夜が破壊したのかしら? いやさすがの咲夜でもそれはありえないわ。

 

フ「そーれぇ!!」

 

フランが掛け声と共に大剣を振り下ろした、大剣は弧を描くようにイャンクックの尻尾を斬りながら地面に突き刺さる。

すぐさま大剣を引き抜いてから大剣を持ち直した、両手を右脇腹へと持っていき大剣を構えた。

そのまま尻尾に狙いを定めて大剣を上方に斬り上げる、僅かだがイャンクックの尻尾に切れ目が入ったように見えた。

 

レ「…案外早く終わりそうね」

 

そんなことを呟いた時だった。

 

ゴォオオアアアァァァアアアアアッッ!!と辺り一帯、いいえこの森丘全体を震わすかのような咆哮が私の耳に突き刺さった。

意識もせず完全な反射行動で耳に両手をやって鼓膜を守る。

体が動かない、全身が恐怖ですくみあがっている、単純な恐怖が全身を支配していくのを感じた。

咆哮をした主であるイャンクックは未だに首を上げて辺りの空気を轟音と共に震わせている。

 

…おかしい、確か資料にはここまで大きな咆哮をするなんて書いてなかったはず。

パチェに視線を向けるとパチェも両手で耳を抑えて体をすくませていた、私の視線に気づいきアイコンタクトを取るがこんな行動は確かにしないと書いてあったらしい。

 

咲「お嬢様!!」

 

体まで震えるほどの威圧感がこの場を支配している、でも咲夜はその中を走っていた。

ランスを背中に背負って私のもとに駆け寄り、私を抱えるようにしてイャンクックから離れる。

イャンクックはそれを見てから尻尾を使って私たちを薙ぎ払うように回転した。

間一髪のところでそれを回避し、咲夜と共に十分な距離を取る。

イャンクックを見ると口から炎が溢れるかのように出ており、それは怒りの証であることは初心者の私でもすぐわかった。

 

レ「フラン! パチェ! 一旦引くわよ!!」

 

何か違う、資料で見たイャンクックとは違う気がする。

慎重なくらいが丁度いい、初心者の鉄則はまず死なない事だって誠も言ってたし。

 

レ「咲夜!」

 

咲「はいお嬢様!」

 

私の合図と共に咲夜はポーチから閃光玉を取り出してイャンクックに投げつける、それはイャンクックの眼前で眩い光を放ちイャンクックの視界をブラックアウトさせた。

その隙に私たちは隣のエリアへと逃げだした。

 

 

 

 

 

 

 

レ「あれはイャンクックじゃない?」

 

それは隣のエリアで休憩を挟んで作戦会議を始めた矢先、咲夜が言った言葉だった。

 

パ「私もそう思うわねレミィ、あまりに資料と違う箇所が多すぎるわ」

 

そこにパチェも意見し、いつの間にか作戦会議はターゲットが違うのではないかと言う議論に変わっていた。

 

レ「咲夜、イャンクックじゃないと思う根拠は?」

 

咲「はい、資料にはイャンクックは大きな嘴、そして耳をした鶏風のモンスターです。

  ですがあれは鶏ではなく飛竜(ワイバーン)、恐らくイャンクックよりも上のモンスターです。

  そして何よりの違いは…あの威圧感」

 

レ「…確かに、あれは死の恐怖を感じる威圧感だったわ。

  でも咲夜、確かに耳はなかったけど私の見た資料には赤い鱗と赤い甲殻と纏うモンスターって

  書いてあったわ。しかも二本の足で立ち、腕はないかわりに大きな翼を持っている。

  それならあのモンスターはイャンクックじゃないのかしら?」

 

パ「いいえ、私が見た資料にはイャンクックにあんな音を出す器官はないらしいわ。

  誠が言っていた『バグ』で強化されたわけでもなさそう、それにイャンクックの鱗や甲殻は

  少しピンク色をした朱い色のはず…、でもあのモンスターは真紅の鱗を纏っていたわ」

 

レ「…つまりあれはイャンクックではない全く別のモンスターってわけね?」

 

パ「ええ、しかも咲夜が言うようにイャンクックよりも強いモンスターよ。

  資料には写真が一枚も貼られてなかったから確証はないけどあのモンスターは…」

 

フ「あのモンスターは?」

 

パ「…空の王者、リオレウスだと思うわ。イャンクックよりも遥か上のモンスター。

  初心者はまず戦っても命を落とすだけ、上級者も油断したら大怪我を負う程のモンスター」

 

…空の王者リオレウス、資料を眺めている時にチラっと読んだわね。

強靭な爪と牙を持ち、爪には猛毒、人間の大人くらいの火球を吐き、その姿はまさに王。

 

咲「…お嬢様、一旦引くのも手です。ですがその判断はこのパーティのリーダーである

  お嬢様が決断することです」

 

………。

 

フ「お姉さま?」

 

………ふふ…!

 

レ「空の王者、リオレウス…ね。上等じゃない!! その玉座から力ずくで引きずり下ろして

  王冠を粉々に砕き、その首を叩き斬ってやるわ!!」

 

空の王者? たかが王者如きが私に恐怖を味あわせたことを後悔させてやるわ!!

 

フ「そうこなくっちゃ! さあ行こっ!」

 

咲「お嬢様のご要望通りに」

 

パ「そう言うと思ってたわ、さあ行きましょ?」

 

レ「ええ! 行くわよ!!」

 

そして私たちはペイントの匂いを頼りに走り出した。

待ってなさいリオレウス! すぐ私にひれ伏させてあげるわ!!




レミリアの勇気が世界を救うと信じて。

…いや打ち切りませんよもちろん。




次回予告
レミリアがリオレウスとの死闘を繰り広げている最中、誠はブーメランを投げながら考えていた。 「そういや俺の部屋にあるヒーターの電源切ったっけ…?」 気になりすぎて戦いに集中できなくなった誠は突然拠点へと走り出し、ゲームを強制終了させる! 誠以外の全員が戸惑う中、誠は自室へと走り出した。 自室の扉を開く、そこに待っていたのは燃え盛る炎と炭になったゲーム達だった…。次回『RPGを始めると大体20~30レベルに達したところで面倒になる』ラスボス前で止まる派と中盤で止まる派でいうと私は中盤派です。

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