東方開扉録   作:メトル

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第十六話 妹様

誠「つまり、俺はお前の友達ってわけだ」

 

雅「……」

 

誠「Do you understand?」

 

雅「ジョジョネタは昨日聞いたっての」

 

誠「ジョジョネタとわかってるのに記憶はないんだよなぁ」

 

雅「…帰れ」

 

誠「もう、つれないなあ雅人。はいはいいいですよ俺は帰りますよ」

 

俺の体が地面を離れて飛び上がる、飛行も随分うまくなったものだ。

 

季節は夏、いまだ暑さが幻想郷を包み込むこの季節は外に出るのも嫌になる。

だが大切な友人のためなら毎日からか――お話をしに行けるというものだ。

あれからほぼ毎日ネタを振っては帰ってを繰り返している、正直そろそろ記憶戻って欲しい。

 

まあそこらへんはあいつの頑張りしだいだな、俺は帰って積みゲー消化でもしよう。

 

 

 

 

 

紅魔館の自室には山のようにゲームが積んであり、一生かかってクリアできるかもわからない量だ。

PS3の棚からランダムで一本取り出す、ちょうど昨日ゲームを一本クリアしたので新しいゲームの消化をするためだ。

 

誠「…げ、スカイリムか。これクリアって概念あるのか?」

 

自由度の高さが売りのゲームと聞いたけどやるならPC版がいいなあ。

他のゲームをプレイしようと棚に手を伸ばす、その指先にあったゲームはオブリビオン。

 

…PS3って自由度の高いプレイが売りのゲーム多くないか? 自由度が高いゲームは廃人になるから好まないんだよな。

だって自由度が高いんだぞ? これはもう片っ端からクリアするしかないでしょ?

そんなことしてたら時間がなくなる、他のゲームにしておこう。

 

誠「お! ソウルキャリバーⅤか、クリエイトって単語には胸が熱くなる」

 

パッケージからディスクを取り出しPS3に挿入。

コントローラーを両手に構え、ゲームをプレイし始めた。

 

その時だった。

部屋の扉が大きな音を立てて開いた、驚きながらも扉を見るとパチュリーが部屋に入ってきた。

その表情からは切羽詰った様子が見て取れる、なにがあったかを聞く前にパチュリーの口が開いた。

 

パ「緊急事態よ! 妹様が部屋から出たわ!」

 

…お、おう。

うん、とにかく落ち着きましょう、ね? お茶でも飲みますか? 能力で創るので味は保証しかね――

 

パ「不味いお茶なんか飲んでる場合じゃないわ!! すぐに館から逃げなさい!!」

 

誠「なっ!? 不味いとはなんですか不味いとは!!

  確かに私の能力の場合味はないといっても過言では――」

 

その時だった、遠くで爆発音が響き渡り一瞬身がすくんだ。

なんの爆発だと疑問を思う前にパチュリーに胸倉を掴まれた。

 

パ「死ぬわよ!? 人間が妹様と戦ったりなんかしたら!!」

 

怒鳴るパチュリーは疲れたのか肩を上下に揺らして手を放した。

 

パ「いい? 一目散に館から出ること、いいわね?」

 

鋭い眼差しを向けられて一瞬恐怖を感じた、パチュリーは踵を返し部屋の外へ歩く。

 

誠「待ってください」

 

パチュリーを呼び止める、だいたい状況は把握したが聞きたいことはある。

 

誠「妹様とはどんな人ですか、私の能力では情報がないのですが」

 

パ「…あなたの能力は幻想郷の主要人物の把握だったわよね、妹様の情報がないのは…。

  まあありえないことじゃないわね」

 

パチュリーはこちらに向き直り扉に魔法をかけた、結界の類だろうか。

 

パ「妹様は読んで字のごとくレミィの妹よ、ただちょっと精神に異常があってね。

  普段は地下の自分の部屋で過ごしているのよ」

 

パチュリーは「お世話は咲夜が担当してるわ」と言うと溜め息をついた。

 

パ「名前は――」

 

誠「フランドール・スカーレット」

 

驚くようにこちらを見るパチュリーを尻目に話を始める。

 

誠「情報が来ました、495年も地下にいたのですか…」

 

パ「…仕方がなかったの、レミィも苦渋の決断で地下に幽閉したのよ」

 

フランドール・スカーレット、レミリアの妹で姉と同様の吸血鬼。

495年は地下に幽閉されていたらしい、食料として人間を食べる。

最初からそのことは知っていた、だがいくら能力として公言しているこの知識でもフランは表に顔を出すことなどなかったので知らないことにしていた。

 

誠「わかりました、すぐに避難します」

 

人間である俺が戦闘をして勝てないと思っている中の一人、いやその中でもぶっちぎりで一位に君臨しているのがフランドールだ。

命は大切にしたい、こんなところで死ぬのはごめんだね。

 

パ「わかったわ、外は雨が降っているから風邪をひかないように」

 

誠「魔法で降らしたのですか」

 

パ「そう、吸血鬼は流れる水に弱いのよ」

 

パチュリーはそれじゃあねと小さく手を振り、紅魔館の廊下を飛行していった。

俺もフランに見つかる前に逃げなくてはと外に出ようとした。だが置いていってはならないものがこの部屋にはたくさんある、もしもだが紅魔館が半壊したなどとなったらこのゲーム達のデータは抹消される。

つまり最初からだ。

 

誠「…『ゲームを守る』『命も守る』、両方やらなくちゃいけないってのがゲーマーの

  辛いところだな」

 

部屋に結界でも張るか? いや逆に目立ちそうだな…。

それならいっそ何もしないでおいてゲームは布とかで隠しておく? 部屋に入られたら絶対布めくるよなぁ。興味本位で破壊されたらたまったもんじゃないわ。

いっそ扉を隠すか? 部屋の扉に壁紙貼って隠す、これは…だめだな。

 

?「なにしてるの?」

 

誠「大切なものをどう守るか考えてるんだよ」

 

?「大切なものって?」

 

誠「もちろん俺の部屋にある貴重な品々さ、これは守り抜か――」

 

言葉が止まった。

考えることに夢中で反射的に受け答えしていた。

…いや、応えたことはどうでもいい。

 

この声は誰だ。

 

俺はこの声を知らない。

 

声色は少女のようだがこの声は知らない。

 

…少女?

 

確かフランドールは吸血鬼。

 

吸血鬼は百年くらいでは体は成長しない。

 

姉のレミリアがあの体だ、つまり妹のフランドールも。

 

 

部屋の扉を勢いよく閉めた、体が無意識にやっていた。

それは人間の生きるという生存本能が体を動かしたようだった。

部屋の奥へと移動して扉に結界を張る、何重にも何重にも。

フランドールは吸血鬼であるために怪力の持ち主だったはず、それでも本気で創った結界なら破れないはず。

 

このまま、部屋でじっとしていれば…。

 

希望を持ったその刹那、扉が爆発した。

轟音が俺の耳に突き刺さる、慌てて耳を抑えたがキーンと言う音が脳内でやまびこのように響いた。

扉の木片は床に散乱し、結界はガラスが割れたように床に散らばって光の粒となり消えていった。

…ああ、そうだったな。

平和ボケしてたよ、ここは幻想郷だったな、忘れていたよ。

フランドール・スカーレット、この少女の能力は―――。

 

フ「…みーつけた」

 

―――ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 博麗神社

 

レ「あれ、私んちの周りだけ雨が降ってるみたい」

 

幻想郷の空は黒い雲に覆われており、いつ雨が降ってもおかしくない。

だが神社には雨粒一つ降ってこない、雨は紅魔館にだけ降っているようだった。

 

博「ほんとだ、何か呪われた?」

 

魔「もともと呪われてるぜ」

 

冗談めいた口調で言う二人はレミリアに少しだけ恨みでもあるように言った。

 

レ「…困ったわ、あれじゃ帰れないわ」

 

博「あんたを帰さないようにしたんじゃない?」

 

魔「いよいよ追い出されたな」

 

友人とじゃれあうように言う二人を尻目にレミリアは額に手をおいた。

 

レ「あれは、私を帰さないようにしたというより…」

 

魔「実は、中から出れないようにした?」

 

博「やっぱり追い出されたのよ」

 

ニヤニヤと笑いながらレミリアを見る霊夢。

 

レ「…まあ、どっちみち帰れないわ。食事どうしようかしら」

 

「げっ!」「おっ!」と声があがる、霊夢と魔理沙はレミリアが言いたいことを読み取ったようだ。

 

博「仕方ないなぁ、様子を見に行くわよ」

 

魔「楽しそうだぜ」

 

レミリアに神社の留守を頼み、巫女と魔法使いは紅魔館へと飛んだ。

その影を見送りながらレミリアは一人の少女を思い浮かべた。

 

レ「ああ、そうか、あいつのこと忘れてたわ」

 

思わずレミリアの口から溜め息が溢れた。

 

レ「きっと、外に出ようとしてパチェが止めたのね」

 

流れる水、吸血鬼の弱点である雨が紅魔館の周りだけ降っているのはこのためだ。

 

レ「困るわー、私も、あいつも、雨は動けないわ…」

 

ごろんと神社の中で横になり、面倒臭そうに呟く。

仰向けになり天井を見上げる。

 

レ「…パチェは大丈夫ね、問題は誠だわ。下手に戦闘すると誠の場合…」

 

レミリアはそっと目を閉じた。

 

レ「…死ぬわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普段の俺は軽く飄々としたイメージでネタを第一に考えそうなタイプに見えるだろう。

やっべー死ぬわー、とか口で言っておきながら危機感は感じないタイプに見えるだろう。

確かに俺はネタを第一に考えるタイプだ、笑うのが好きだからな。

でもな、俺は臆病なんだよ。

実はゴキブリが苦手だったり幽霊信じてたりする。

命の危険に晒されたら逃げ惑うだろうと思う。

 

当たり前だ、人間の生存本能は強いんだよ。

 

さて、その臆病な俺は今守るものを二つ抱えて強大な敵の前にいる。

逃げるに逃げられない、この部屋唯一の出入り口をフランが陣取っているために逃げれないのだ。

いやどこでもドアとか創ればいけるだろうか? 創ってる間に死ぬな。

 

フ「ねぇ、あなた誠って言うんでしょ?話は聞いてたわ」

 

楽しそうに話し始めた、それは容姿相応の少女の話し方だった。

 

フ「あなた人間なんでしょ? 人間は飲み物の形でしか見たことないの」

 

誠「…人間は飲み物じゃないぞ、どちらかというと人形だ」

 

フ「人形はかんたんにこわれるけど、人間もそうなの?」

 

誠「そうだな、人間は脆い。心があるから人形より脆いかもしれない」

 

フ「そうね、私がぎゅってすればこわれちゃうもの」

 

…怖い、今は普通に話しているけど気が変わって能力で粉みじんにされたらと思うと…。

 

フ「それがゲームね、私もやりたいと思ってたの」

 

フランは俺の足元にあるゲーム機を指差した、その指をゲーム機に向けたままフランは手のひらを広げ、握った。

途端俺の足音にあったゲーム機は小さな爆発を起こして崩壊した。

それと共に、俺の中で何かが弾けた。

 

誠「…ならゲームをしよう、この幻想郷を代表するあのゲームを」

 

体は震え、歯からガタガタと音がする。

 

フ「遊んでくれるの?」

 

誠「ああ、だがこれは遊びじゃない。俺は命がかかってるっぽいからな」

 

フ「そうね、コンティニューはないわ。負ければバッドエンド」

 

誠「…覚悟はいいか? 俺はできてる」

 

弾幕を自身の周囲に創造していく、それを身に纏い突進した。

 

フ「いいわ、このゲーム(破壊)を楽しみましょう?

  アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

紅魔館に甲高い声が響く――。




殺意の波動に目覚めたフラン。






次回予告
戦いを始める二人。戦いは激しさを増し、館の中を壊しながらも戦いは終わらない。妹様を止めるために戦いに参加する咲夜さんは時を止めて捕獲しようと動く、だがフランは止まった時までも破壊して戦いを続ける。誠は恐怖を乗り越えてフランを止める事ができるのか? 次回「破壊と創造」…フランドールって聞いたらターンエーガンダムのあいつしか出てこないんですが。

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