東方開扉録   作:メトル

14 / 29
第十四話 稗田家

俺は今人間の里に来ているのである、何故か話すと十秒と掛からないので素直に言うがただの暇潰しである。

宴会が終わり、異変があったとは思えない程平和な幻想卿を見てまわるかと思ったのである。

というわけである。

 

あるあるうるさい?うるさいある。

 

さて、そんなこんなで人間の里を歩き回っているのだが問題が一つあった。

俺の恰好だと人間にも妖怪にも見えず、なんか距離を置かれている気がしてならないのだ。

なので人間の里にある服をとりあえず創ったんだが、はっきり言ってあんまり好みではないのでいつもの服を着る事にした。

ちなみに俺はいつもジャージのような服を着ている、いや「ような」ではないな。そのまんまジャージを着ている。

いや動きやすいから着ているんだけどね、別にそれ以外に着る服がないわけじゃないんだ。

 

…後で服屋でも覗いてみるか。

 

そういえば俺の服は霊夢の巫女服や魔理沙の魔法使いっぽい服よりも距離を置かれる服なのか?

否、断じて否。ありえないのだそんな事は。

どこが悪い、この服はなぁ…学校まで自転車で走った汗が詰まったジャージだぞ!

え? ちょっちがっ、ちゃんと洗ってあるから! キレイだから!

 

ん?あれはなんだろうか、学校に似ているような気がしないでもない。

幻想卿に学校はなかったはず、となるとあれは寺子屋か?

とりあえず中に入ってみよう。暇だから授業妨害しない程度に見学して行くか。

 

廊下を忍び足で歩きながら教室と思われる部屋に移動、授業の真っ最中のようだ。

中をこっそりと覗く、先生と思われる女性が巻物のような物を読みあげている。

奥を見ると生徒達がいた。生徒達はは凄く真剣に聞いている奴もいるが、うとうとしている奴もいる。

お、先生がうとうとしている生徒の前に立った。

生徒は急いで目を擦り、「寝てませんよ!」とアピールをするがダメだったようだ。

生徒を立ちあがらせた先生はお説教を始めた、生徒の顔が真っ青になっていく。

意外にもお説教はすぐに終わった、先生は授業を再開すると思いきや突然生徒の顔を掴み自身の顔を思いっきり仰け反らせて渾身の頭突きをってわあああああ! マジか!?

ゴチンと鈍い音が教室中に響き、生徒は額を抑えてうずくまった。

先生は平然と授業へ戻ったが、俺は見えてしまった、頭突きをされた生徒の額が赤を通り越して紫に腫れ上がっていたのを。

 

…生徒達、強く育て。

 

もし覗き見をしていたのがバレて頭突きを食らうなんて洒落にもならないので退散するとしよう…。

 

 

 

 

蕎麦屋の前に団子屋が建っていたので休憩がてら団子を食べる事にした。

久しぶりの団子は凄く美味しい、三色団子は久しぶりに食べたがやはり美味しい。

なんでこんなに美味しいのに繁盛していないのだろうか、疑問に思ったが口に出すと店員が深い悲しみに襲われてしまうので止めておいた。

 

目の前の蕎麦屋は結構繁盛しているらしい、団子屋の店員が言うには副の神が訪れたとかなんとか。

蕎麦は嫌いではないが団子の方が好きなので団子を食べながら里を歩く、やはり三色が一番美味しい。

 

 

 

 

さて、本日のメインイベントである稗田家屋敷前に到着した。

この稗田家は千年以上続く由緒正しい人間の家系だとか、通常は中に入ることも許されないお家らしい。

だがラッキーなことに鍵が掛かっていないなー、これはラッキーだなー。

さて、しっかり鍵をかけて…と、さあ探索を始めよう。

 

まずは中庭を拝見させて貰うかな。

おお、やはりちゃんとした庭師がいるのだろうな。庭は美しい緑に覆われいた。

花の匂いは嫌いではないが今は匂いを嗅いでいる時間もないので探索を続けるとする。

次は玄関だがそのまま開けると使用人とかに見つかりそうなので他の入口から入るとしよう。

裏口と思われる扉を見つけたのでとりあえず聞き耳、中には誰もいないようなのでちゃちゃっと潜入。

 

?「だ、誰d――」

 

誠「必殺睡眠薬」

 

?「むぐっ!?うぅ…」

 

ハンカチに染み込ませた睡眠作用がある薬品で使用人を眠らせておく。

あー危ない危ない、こいつに「であえー!であえー!」とかやられたら探索どころじゃないよホント。

 

?「な、何も――むぐっ!?」

 

…まさかこの屋敷使用人結構雇ってるのか? いやいや里で聞いた話だとそんなに雇ってないって聞いたんだけど?

 

?「動くn――うぐっ!?」

 

…早いところ用事を済ませて帰ろう。

 

今回の俺の目的はこの家の九代目当主にして初代から代々当主をしている稗田 阿求(ヒエダノアキュウ)だ。

九代目なのに初代当主? 何言ってんの? そう思うのが普通だがこれにはワケがある。

実は稗田家初代当主、名を稗田阿礼(ヒエダノアレ)と言うのだがこの初代当主が転生を繰り返し現在の九代目になったらしい。

にわかには信じがたいが常識に囚われては幻想郷で生きていけない(八雲 紫様談)らしいので考えないことにする。

さて、その九代目当主もとい稗田阿求に訪ねたいことがあるのでこうやって潜入したのだが使用人が多いなこの屋敷は…。

先ほどから部屋を覗いて移動して使用人眠らせての繰り返しなため時間がかかるったらありゃしない。

また次もハズレだろうと部屋を覗き落胆して隣の部屋を覗…く…。

…こ、これは…!!ま、まさか…!!そんな…!!

やはりそうだ、このすらっとしたラインに布が擦れる音…き、着替え中のようだ。

部屋が暗いため中に誰がいるのかわからないがシルエットからして女性であろうとわかる。

 

?「誰――」

 

誠「静かにしろ、そして落ち着いてこの部屋を覗いてみろ」

 

?「な、何を――」

 

誠「いいから見てみろ」

 

使用人は部屋をチラっと覗くと目を見開いた。

 

誠「どう思うあんた」

 

?「き、貴様まさかこれを覗くために…!」

 

誠「今大事なのは俺のことではない、この光景についてだ」

 

?「だ、だが私には仕事が――」

 

誠「仕事は急げばいつでも終わらせることができる、だがこれは急いでも焦っても慌てても落ち着

  いても今だけだ」

 

?「た、確かに…」

 

目の前にあるこの光景を目に焼き付けていく。

やがて中の女性が着替えを終えてこちらへと向かってきた。

 

誠「や、やっべ! 隠れるぞ!」

 

急いで隣の部屋に飛び込んで難を逃れる、部屋を出た女性は俺達の事に気づいていなかったようだ。

足音が遠ざかる、思わず溜め息が出てしまった。

 

誠「…ふぅ、行ったか?」

 

?「…そのようだな」

 

部屋から顔を出して廊下を覗く、人一人歩いていない。

 

誠「…さて、そろそろ行くか」

 

?「ああ…って待て、貴様は何者なんだ」

 

誠「阿求のお友達(仮)」

 

?「か、かっこかり?」

 

誠「そんなわけでさよならさん」

 

?「ま、待て待て! どっから入ってきたんだ貴様は!

  この屋敷は部外者が入ることはできないはず!」

 

俺の肩を後ろから掴み早口で言う使用人、そんなに俺は怪しいのだろうか。

 

誠「そっちが自己紹介したら全て言いま――」

 

ぎょっとした、なぜって使用人の顔を見たら俺の友人にそっくりだったからだ。

と言っても口調も全然違うし他人の空似って奴だろう。

 

?「俺か? 俺はこの屋敷の使用人として働いている山田 雅人(ヤマダ マサト)だ」

 

本当に自己紹介しちゃったよこの使用人…って…は?

 

誠「ちょっと待て、あんた雅人って言うのか!?」

 

雅「ああ、それがどうかしたか?」

 

…ちょ、ちょっと待て、待て待て!

山田 雅人、そんな友達がいたよ俺? 結構付き合いの長い友達で俺と同じであの『扉』の所でも会って…。

 

雅「どうした貴様、何を考え込んでいる」

 

俺が外の世界で友人だった雅人とは似ても似つかない口調、だがこの顔、声は確かに雅人に似ている。

いや似ているなんてもんじゃない、そっくりだ。本人ではないかと思えるほどに。

 

誠「あんたは外来人か?」

 

雅「そうだ、と言っても確証は持てないがな。一ヶ月くらい前に俺は記憶を無く

  して倒れていたんでな」

 

記憶が…ない…?

 

雅「そこをこの屋敷の当主様に拾ってもらったわけだ、さあ次は貴様の番だ」

 

…まさかこいつ本当に俺の友人でバトルマスターの雅人…なのか?

 

誠「…」

 

雅「どうした、早く答えろ」

 

もし、もしこいつが俺の友人の雅人ならば、記憶がなくても体が覚えているはずだ。

あの合言葉を!!

 

誠「おい雅人」

 

雅「貴様に名を呼ばれる筋合いは――」

 

誠「ぬるぽ」

 

雅「ガッ」

 

間髪を容れずに雅人の口が動いた。

 

雅「なっ!? く、口が勝手に…!」

 

誠「…やっぱりお前は俺の友人だった雅人のようだな」

 

雅「はぁ!?」

 

?「あの…」

 

誠「お前なんで記憶なくしているんだよ! アホか!? アホなのか!?」

 

雅「アホとはなんだアホとは!!」

 

誠「お前をそんな風に育てた覚えはありません! お母さん悲しいわ!」

 

雅「お前俺の母親じゃねぇだろうがッ!!」

 

誠「おま! あんまり大声出すなよ!」

 

?「えと、あの…」

 

雅「出させているのは貴様だッ!!」

 

誠「俺が見つかったらどうするんだ!」

 

雅「もう私に見つかっているだろうが!」

 

誠「お前はいいんだよ前は友達だったんだからな!」

 

雅「誰が貴様と友人関係なぞ持つかッ!!」

 

?「あ、あのぉ…」

 

誠「うるさいこっちは取り込み中なんだよ!」

 

俺は怒鳴りながら振り返った。

 

?「あの…あの…」

 

着物が似合う少女が目に涙を浮かべながら立っていた。

 

阿「け、喧嘩はやめてくださいぃ…」

 

稗田家九代目当主、稗田阿求その人だった。




涙目の阿求を想像したらかわいすぎて死にそうなんですが。






次回予告
阿求の屋敷にて阿求を発見することに成功した誠は友人を無視し用事を済ませて帰ろうとする、だがそこに八雲 紫が現れて…「話は聞かせてもらったわ! 人類は滅亡する!」「「な、なんだってー!!」」次回「じ、次回予告を書き忘れて気づいたのが木曜であったのは言うまでもない」過ちは繰り返させません!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。