東方開扉録   作:メトル

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今回長めですね。


第十三話 続宴会

宴会とは良いものだ、人々が集まって酒や食事をしながらバカ騒ぎして。

 

だが、幻想卿の宴会は違う。

ただ酒を飲んで祝って、誰かが芸をして盛り上げて・・・そんなものではない。

酒を飲んでしまったら避けられない事。

 

そう、喧嘩だ。

一度喧嘩が始まると妖怪の中でも血の気が多い連中が揃って参加し、宴会はさながら闘技場のように大乱闘が始まる。

それを監視、抑制をするのも強き者の務めである。

 

 

誠「・・・やっぱり来てるわけか」

 

?「もちろん、私がいなくちゃ宴会が始まらないでしょう?」

 

そう言いながら酒を呑むこの人は、幻想卿の賢者と呼ばれる力を持つ妖怪。

名は八雲 紫(ヤクモ ユカリ)、スキマ妖怪とも言われており、文字通りスキマを操る事が出来る能力の持ち主だ。

スキマと言っても溝や穴などを操るわけではない、スキマ・・・すなわち「境界」を操る能力である。

境界を操る程度の能力、それが幻想卿の賢者である八雲 紫が所有している能力。

「境界」とつくもの全てを支配下に置く事が出来ると言う、応用を利かせれば最強にもなれる能力だろう。

 

・・・チートですねわかります。

 

紫「・・・どうかしたのかしら?私の顔をそんなに見て」

 

誠「・・・バ――」

 

俺の言葉が空気を震わすよりも速く賢者は空間の境界を操り、道路標識のような物を俺の首に向けた。

 

紫「・・・何か、言ったかしら」

 

ニコっと笑う賢者は表面上笑っているが、そこには怒りと言う感情があった。

俺はあまりの速さと威圧感に呼吸すらできず、その場に正座する。

 

誠「なんでもありませんすみません許してください」

 

紫「・・・解ればいいわ」

 

スっと空間を裂いていたスキマが消え、標識はスキマの中へと沈んで行った。

 

誠「さすが幻想卿の賢者様ですね。

  霊夢もそうですが幻想卿防衛隊は強過ぎやしませんかね」

 

紫「当然よ、簡単に負けては困るもの」

 

賢者はどこからか取り出した扇子で口元を覆い、ふふっと笑って見せた。

 

紫「そう言えば貴方の能力は便利でいいわね」

 

誠「私の知恵が浅い事が欠点ですがね」

 

俺の能力は自分の頭で理解しなければ発動出来ない。

それさえなければ何でも創れる便利な能力だと言うのに。

 

誠「ところで、何をお食べになっているのですか?」

 

紫「見たまんまよ、焼き鳥」

 

幻想卿に焼き鳥屋なんて・・・いや、確か一人やっていると自称していた人がいたな。

という事は出店しに来ているのかな?

 

紫「残念だけど焼き鳥は売り切れよ」

 

・・・残念だ。

 

紫「そこに買い占めておいたから食べてもいいわ」

 

誠「買い占めたの貴方かよっ!!」

 

紫「いいえ、買い占めたのは別、私はその半分を貰っただけよ」

 

半分で重箱に埋まる程あるって事は、買い占めたのは店の焼き鳥が売り始める前に買ったって事だな。

・・・その買い占めた奴は、はたして食い切る事ができるのだろうか。

 

紫「それで、食べるのかしら?」

 

誠「ねぎま頂きますね」

 

重箱へと手を伸ばし、ネギと肉が刺さった焼き鳥を掴む。

季節が夏ということもあってか、焼き鳥はまだ温かかった。

 

誠「季節は夏ですが今日は涼しいですね」

 

紫「誰かさんの霧のせいでね、まあ暑いよりはいいわね」

 

焼き鳥を口にしながら返答してくれた賢者。

隣に座って焼き鳥を食べながら話をした、幻想卿のルールなどの細かな事も聞かせて貰う。

それと、アレについてもだ。

 

紫「扉?」

 

誠「ええ、幻想卿に繋がっていたあの扉はなんだったのか。

  そして扉は今どこにあるのか、調べてはいるのですが・・・」

 

賢者は少し考えるそぶりをしたが、思い当たる物はないようだ。

・・・仕方がない、またコツコツ調べてみるか。

三本目の焼き鳥を食べ終え、ふと空を見ると太陽が結構傾いていた。

もう少しで夕方になるのか、それなら挨拶巡りを済ませないとな。

 

誠「それでは用事があるので失礼します」

 

紫「・・・敬語で話さなくても最初の口調でいいわよ」

 

誠「そこに自分より上、まして幻想卿の賢者様となっては敬語が普通です。

  最初は力が見たいと言う好奇心で茶目っ気を出しましたがね」

 

紫「勇気と無謀は違うわよ」

 

誠「慎重と臆病もまた違います、試さなければ何も見えませんから」

 

紫「それを見抜くのも力よ」

 

誠「・・・さすがですね」

 

俺は賢者に背を向け小さく手を振り歩き出した。

歩きながら周りを見てみると微妙に人数が増えている、夜に近付いたからだろうか。

 

 

 

ん?

博麗神社の賽銭箱の前に屋台のようなのが出ている、屋台からは煙がモクモクと上がっている。

この匂い・・・焼き鳥か?満腹ではないがとりあえず寄ってみよう。

 

誠「すいません冷やかしです」

 

?「いらっしゃ――冷やかしは帰って貰うよ」

 

顔を上げた少女の白い髪がなびいた、が、冷やかしと解るとすぐに焼き鳥を焼く作業に戻ってしまった。

この少女の名は藤原 妹紅(フジワラノモコウ)、確か不老不死の人間だ。

 

誠「嘘です、ねぎまください」

 

妹「あいよ、料金はそこね」

 

あ、俺お金持ってないんだった。

・・・仕方がない創ろう、これは非常事態だからな、うん。

 

誠「おっと、財布を置いてきてしまいました。

  直ぐ戻りますのでねぎま売らないでくださいね」

 

妹「いいけど速く取ってこないと売り切れるぞ?」

 

誠「売る気満々ですか、それでは行ってきます!」

 

全速力で走り、レミリアの所へ行って一円札を見せて貰った。

とりあえず十枚程度創り、ガマ口財布を創って突っ込む。

途中酔った妖怪に絡まれそうになったが、スキマから小さなお墓が妖怪の頭に落ちて気絶した。

賢者がこちらを見てウインク、歳を考――背筋に突如悪寒が走ったので考えるのを止める。

屋台に到着し、一円札をカウンターに叩きつける。

 

誠「お金、持って、きまし、た・・・ゼェ、ゼェ・・・」

 

妹「お疲れさん。ねぎま五本ね、これお釣り」

 

坦々と会計を済まし、ねぎまとお釣りを渡される。

お釣りをガマ口に突っ込みねぎまを食べながら屋台の隣に座り込む。

 

妹「・・・」

 

誠「・・・」

 

会話が全くない、妹紅は黙々と焼き鳥を焼く。

周りの妖怪達のバカ騒ぎと焼き鳥を焼く音、焼き鳥の匂いが辺りを漂う。

ねぎまを一本食べ終わり、串を地面に刺して二本目を食べ始める。

 

妹「・・・何でお前はずっとそこにいるんだ」

 

ようやく妹紅が口を開いた、商売の邪魔と思われてるのだろうか。

まあ人間が屋台の横で焼き鳥食うだけでは商売の邪魔にはならないだろう。

 

誠「いや貴女が声をかけてくるのを待ってたので」

 

妹「・・・そう言えばお前、里の人間じゃないだろ」

 

誠「この頃幻想卿にオープンザドアして来た者なので」

 

妹「・・・意味がわからん」

 

ですよね~。

二本目を食べ終え、串を地面に刺して立ち上がる。

サラっと自己紹介、ついでにねぎまを追加注文しておく。

 

妹「って事は紅魔館に住んでいるのか?」

 

誠「ハイ、お部屋を一つお借りして住まわせて貰っておりますです」

 

妹「人間があの館にねぇ・・・」

 

呟いた妹紅は焼き鳥を連続でひっくり返した。

 

誠「手慣れてますね、焼き鳥屋始めて五年以内と見ましたが?」

 

妹「よ、よくわかったな・・・。

  友人に『人付き合いが苦手ならお店でも開いてみたら?』って言われて

  焼き鳥屋を始めてみたんだが、売れ行きが結構良くてな」

 

誠「焼き鳥屋は火の妖術が得意な貴女向きですからね」

 

妹「・・・そこまで知っているのか、お前何者?」

 

妹紅から鋭い視線を向けられた、と同時に三本目のねぎまを食べ終える。

串を地面に刺し、四本目を食べながら答えた。

 

誠「幻想卿の主要人物は全て把握しています、能力で」

 

妹「能力?」

 

焼き鳥を一通り焼き終わり、ひと段落した妹紅が体をこちらへと向けた。

 

誠「私は二つの能力を持ってます、『幻想卿の主要人物を把握する程度の能力』

  それと『想像を具現化する程度の能力』です」

 

嘘です、一つ目はオタク知識を生かしているだけです。

二つ目はどうなんだろうか、『想像を創造する』だと「物」しか創造出来ないのだろうけど、俺の場合火も水も光も闇も創れる。

となると「具現化」が一番しっくりくるんだよな・・・。

 

妹「・・・人の頭の中を見られた感じだな」

 

誠「大丈夫です、今何処で何をして何を考えてとかそんなのは解りませんし

  過去未来全てを把握したわけではありませんよ。

  あくまで現状を把握しただけです」

 

妹「お前本当に人間か? 妖怪なんじゃないかと思えてきたぞ」

 

誠「人間を妖怪と呼ぶなら妖怪ですよ!」

 

妹「それじゃ、お前は妖怪だな」

 

誠「えぇっ!? イヤイヤイヤイヤそれは酷くないですか!?」

 

普通にビックリして四本目のネギがぽろっと落ちた。

も、もったいない・・・。

 

誠「てかそれじゃ里の人達も妖怪になっちゃいますよ!?」

 

妹「『里の人間』と言う種族以外はもう妖怪だろ?」

 

誠「な・・・た、確かに! い、いや咲夜さんは人間・・・ま、待てよ! 吸血鬼に

  仕えている時点で人間辞めていると考えるのが普通なんだろうかイヤ

  イヤあの姿は完全に人間・・・だ、だが霊夢は強さとか考えるともう妖

  怪の域を完全に超えているなアレは・・・い、いやそれでも魔理沙はま

  だ人間だろうただ魔法が使える魔法使いっぽいだけだから魔理沙は人

  間・・・いやそういえば魔理沙はもう回復力が人間を超えて―――――」

 

妹「いらっしゃい、もも と かわ十本ずつね。料金はそこだよ」

 

誠「つ、つまり俺は誰を信じればいいんだ人間なんて幻想卿の主要人物に

  一握りしかいないわけでその中で最も人間らしいと思っていた咲夜さ

  んも吸血鬼に仕えて飯作ってるわけだからもう人間とは言えな、いや

  待てよ? 家事をするのは人間だってするわけだ、そして家事をしてい

  る場所が紅魔館だと言うだけなのだから人間だろう、別に人間食べて

  最高にハイッ!!って奴になってるわけではないのだから大丈夫―――」

 

妹「あ~誠、商売の邪魔だからどけ」

 

誠「そうだ霊夢だって強さやらそこらへんを覗けば立派な人間の女の子で

  はないか、性格とかそこらへんもちょっとツンツンしているだけだし

  全然問題ない人間であるだろう。魔理沙も多分魔力で自然回復力を高

  めているだけであり、魔法を使わなければ普通の人間ではないかそう

  だそうだ何も問題はないのだ。あれ、待てよ妹紅は不老不死になって

  しまった人間だがこれは完全に妖怪じゃないのか妖術使って焼き鳥―」

 

妹「商売の邪魔だぁぁッ!!」

 

誠「あべしっ!!」

 

綺麗な弧を描いて放たれた上段回し蹴りによって俺は頭から地面へと落ちた。

・・・まさかファーストキス相手が地面とは恐れ入る、いや流石にノーカウントでしょうこれは。

 

妹「ハイこれね、ありがとうございました~」

 

こんな暴力的な事をしておいて接客は優しいとは妹紅・・・おそろしい子!

 

誠「・・・そ、それではそろそろ日も暮れてきたので帰りますね」

 

妹「日も暮れてきたってとっくに日は暮れたぞ?」

 

誠「・・・もう八時くらいですかね、それでは失礼します!」

 

妹「ありがとうございました~」

 

 

 

 

 

レミリアのところに行くといまだにぶどうジュース(笑)を呑んでいた。

 

レ「誠お帰り、結構時間かけて――どうしたのそのコブ」

 

誠「回し蹴りの時に舞い上がる白髪に美しさを感じました」

 

レ「・・・?」

 

誠「そうそう、これどうぞ霊夢さん」

 

魔理沙に渡した物と同じように包装された箱を霊夢に渡した。

 

博「何よコレ? プレゼント?」

 

誠「宴会の片づけに疲れたら開けてみてください、きっと癒されますよ」

 

グッ! と親指を上げて腕を突きだす。

 

博「? まあ貰える物は貰っておくわ」

 

誠「ところで宴会終了の時間はいつになりますかね?」

 

咲「まだ時間はあるわ。

  これから博麗神社の中で宴会をして明日の朝までね」

 

誠「そうですか、それならまだ ねぎま 食べれますね」

 

博「さあ移動よ、あ、誠は地面に刺した焼き鳥の串持ってきなさいよ?

  自分で刺したんだから当たり前よ」

 

み、見られていただと・・・? やはり博麗の巫女は人間ではなかった。

 

博「誰が人間じゃないですって?」

 

誠「ど、読心術ですと!?」

 

博「あんたの考えがダダ漏れなのよ!!」

 

誠「し、しまった! 串拾ってきますっ!!」

 

博「ちょっと待ちなさいこらっ!」

 

全速力で逃げるように焼き鳥屋の前まで走る、屋台の前で振り返ると霊夢はついてきていないようで安心した。

 

 

 

 

串を拾って博麗神社の中に入る、神社の中が広いと思ったら咲夜さんが広くしているのか。

 

博「それじゃあ始めるわよ、朝まで呑むのも勝手だけど羽目を外したら

  追い出すからそのつもりでよろしくね」

 

・・・そういえば酒好きとして有名な鬼が一人もいないんだな。

まあ鬼がいたらそれこそ大乱闘だろうが。

 

レ「誠ー!さあ今日こそ呑みなさい!」

 

誠「午前中も言いましたが酒は呑みませんよ!」

 

レ「咲夜ー!誠にお酒の素晴らしさを教えてあげなさい!」

 

咲「残念ですが私はそこまでお酒が好きではありませんので」

 

誠「咲夜さんマジ天使、そこに痺れる憧れるぅ!」

 

咲「勘違いしないで、私は正直に言っただけよ」

 

ツンデレ発言とは萌えポイントを抑えていますね流石です咲夜さん!

きゃー咲夜さん可愛い!赤い顔して可愛い!よく見たらどこも赤くなかった悲しい!

 

レ「かくなるうえは!八雲!出番よ!」

 

紫「何かしら?」

 

スキマからヌゥっと出てきた賢者、いきなりだとビックリするから止めて欲しいです。

 

レ「誠にお酒を呑めるようにして!」

 

紫「いいわよ」

 

誠「承諾速すぎるっ! もう少し躊躇ってっ!!」

 

紫「お酒は呑まなきゃダメよ、とりあえず成人男性くらい呑めるようにしたわ」

 

レ「速い!仕事が速くて助かるわ!」

 

紫「いいのよ、宴会ができたのも異変のお陰だから。

  ただし人間の血は吸っちゃダメよ?」

 

レ「私は血を吸わないから大丈夫よ!さあ誠!呑みなさい!」

 

ダメだこの人達・・・早くなんとかしないと・・・。

 

レ「イッキ!イッキ!」

 

イッキコールはいつの間に幻想入りしたんだろうか。

とりあえずせっかくなので呑んでみる。

 

誠「・・・美味しい・・・だと・・・!?」

 

レ「でしょー!? さあジャンジャン呑みなさい!!」

 

こ、これはその後の頭痛なんて気にしない程美味しい・・・

 

誠「う、美味い! 美味すぎる!!酒うめえ! 賢者様の能力すげぇ!!」

 

レ「さあ今夜は呑み明かすわよー!!」

 




その後、誠はやっぱり二日酔いを起こしました。

が、そこまで酷くなかったそうです。







次回予告
おはようございます、葉隠 誠です。今回は宴会後の寝起きドッキリとしてレミリアお嬢様の寝顔を撮影したいと思います! それではお邪魔させて貰いま――え? ちょちょちょ、なぜに咲夜さんが中で待ち構えているのでしょうか!? す、ストップ! ストップ! ナイフはしまってくださいお願いしま――ってあっぶないッ!! いやいやこれ本物のナイフだから! 死んじゃうから! 俺人間ですから! ちょっ! ぎゃああああああああああっつつつつ!! 次回「Wiiを久しぶりに遊ぶとリモコンの電池が真っ赤」で、電池のストックがねぇッ!!

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