OVER LORD外伝~ワニの大冒険~   作:豚煮込みうどん

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11巻相変わらず面白かった。まだ買って無い人は書店に急ぐんだ!!(ステマ)


あれ?こいつってもしかしてエビルスピリッツじゃね?

「クロコダイン、覚悟っ~~!!!」

 

張り上げられた声と共にリザードマンの影が湿原をまるで放たれた矢の如く疾走する。

 

「ぬぅっ!?」

 

クロコダインの巨体の右足に衝撃が走り、思わずといった様子で踏鞴を踏むと苦悶とも困惑ともとれる声がクロコダインから漏れる。

 

続いてその衝撃が二度、三度、四度、そして五度…その度にクロコダインの巨体が揺れる。

そう、クロコダインが相対している相手は一人では無い。五人のリザードマンの全てを乗せた愚直とも言える特攻がクロコダインの右足一本に全て殺到しているのだ!!

 

「ぐっ、ぬぅ…これしきで…ぐわぁぁぁ~~~!!」

 

そして遂にクロコダインの巨体がバランスを崩し、その背が泥まみれの地面へと勢いよく叩き付けられた。当然自慢のマントも泥まみれである。

 

「ぐっこの獣王…ぬかったわ!しかしこの俺に土を付けるとは流石はグリーンクロー族の未来の戦士だ、侮りがたし!!」

 

敗北を喫したにも関わらず快活に言って笑うクロコダインの周りにはクロコダインを打ち倒した5人の小さな戦士がわらわら寄り集まってきた。

その大金星に浮かれる様な表情は皆底抜けに明るくシューシューと嬉しそうに音を鳴らす口は開きっぱなしだ。

 

「当たり前だよ、オイラが大きくなったら族長になるんだ!」

 

「何言ってんだよ族長には俺がなるんだ!だよね、クロコダイン!」

 

言い争いになりかけた小さな戦士の頭に手の平を乗せてクロコダインはグイと無理矢理自分の方へと視線を向けさせる。

 

「喧嘩をするなとは言わん。族長の座もいつか正々堂々の闘いで決着を付けるといい。だがお前達はさっきこの俺を倒したときのように、皆の力を一つにすることを大切にしろ。仲間を大切に出来る者こそが族長に相応しい。俺はそう思う。」

 

集落に旅人としての知識の提供をシャースーリューに求められたクロコダインは取り敢えず極めて簡易的な土俵を作るとリザードマン達に相撲を教えた。

 

元々強さと祖霊を信奉する彼等にとって元来神に捧げる儀式という側面を持つ相撲は凄まじい反響を持って受け入れられた。グリーンクローの集落に訪れた相撲ブームである。

 

 

勿論、クロコダインは挑んできた全ての雄達を打ち倒し終身名誉横綱となったのだが、先程の一幕は集落の子供達を相手にした変則的なルールでのお遊びだ。勿論本気では無い、わざと負けてあげたのだ。

 

 

そんなクロコダインの背中に突き刺さる多数の熱い視線…

 

その正体はクロコダインを尊敬する雄のリザードマン達…では無く、強く、子供に優しく、その上苦み走った渋いイケメン(リザードマン基準)に夢中の雌リザードマン達のものであった。

だがクロコダインは努めてそちらを気にしない様にしていた。未だ美的感覚は人間であった頃の部分が強く、リザードマンにモテてもと言うのが正直な所である。(不意に雌の尻尾にドキリとした時は苦悩した。)

 

 

「クロコダイン、遂にお前が敗れる日が来ようとは思いもしなかったぞ。」

 

かけられた言葉と裏腹にザリュースの声は軽い。それは先程までの光景が非常に微笑ましいものだったからだ

 

「ザリュースか。俺とて勝てぬ相手というものはいる。」

 

「クハハハ!それが雌と子供達か?…っと、グハァッ!!」

 

からかう様に笑うザリュースに照れ隠しと表するべきかちょっとイラッと来たクロコダインの鋭い大外刈りがザリュースを襲う。

受け身もまともにとれない程の早業に背を強かに打ち付けたザリュースは目を丸くする。

 

「冗談は相手を選べよザリュース。」

 

「…十分に選んでいるさ。」

 

そんな倒れたザリュースの手を取り、助け起こしてやりながら互いに軽口を叩く。そうして他愛無いやり取りを交えつつ二人は寝床であるザリュースの自宅へと今日も揃って戻っていく。

 

余談だが、幸いなのは彼等を見送るリザードマンの雌達には腐った趣味というか文化が無い事だろう…

ザリュースは強い上に細マッチョの二枚目系イケメン(リザードマン基準)対するクロコダインは言わずもがな…

 

このままではいつかそんな業の深い文化が目覚めかねない…

 

 

 

 

「で、上の湖に狩りに行くと?」

 

「あぁ、チビ共に俺に勝てたら見た事も無い様な大きさの魚を捕まえてきてやると約束したしな。」

 

自宅にて魚の干物をあてに酒を飲み交わす二人、その内容はクロコダインが数日間集落を離れて大湖上流に狩りに向かいたいという内容だった。

 

「俺の持つ魔法の道具袋ならば生かしたままは不可能だが完全に仕留めた魚は収納して持ち帰れる、何よりこの数日ではっきり判ったが俺に普通の狩りは難しすぎる。それに大物狙いの方が俺の性に合っている。」

 

クロコダインの巨体とその存在感からとにかく獲物に逃げられる上、投げ槍で仕留めた際には槍諸共に獲物は粉みじんになっていた。

 

「だが上流は危険だぞ。」そう言おうとしてザリュースは言葉を飲み込んだ。とてもでは無いが自分達にとっての危険が目の前の不思議な友人に通用するとは思えなかったからである。

通常のリザードマンにとって大型のモンスターの生息地である上流の大湖は危険地帯だ。

かつての食糧難の時でさえあそこには殆ど手を出すことは無かった。まぁ移動距離と持ち帰れる量と危険度を考えると割に合わないというのが表するに正確な所ではあるが。

 

「明日の朝には出立するつもりだ。徒歩で向かうから往復を考えて3日程ここを離れる事になるだろうな。」

 

「案内は必要か?」

 

「不要だ、上流の流れを遡れば良いだけだからな。最悪ガルーダを呼べばそれで解決だ。」

 

言って豪快に笑いながらクロコダインは酒をグイと飲み干した。

 

 

リザードマンの集落に凶報を告げる為ナザリックからの使者が現れたのはその翌日であった。

________________

 

 

クロコダインが狩りへと出立したその日、太陽が燦々と照りつける陽気の中ザリュースはシャースーリューと生け簀の様子を見にやって来ていた。

生け簀を見つめて穏やかに兄弟で語りあうのは養殖技術の事であったり所帯を持つことの大変さであったりクロコダインの事であったり…

 

しかしそんな穏やかな時間は突然自分達の集落の上空に現れた禍禍しい気配を放つ暗雲によって吹き飛ばされた。

真っ白な布にどす黒いインクでも垂らしたかの様に青空を犯すそれは明らかに異常な光景である。

 

その光景に不吉な胸騒ぎに二人が集落に湿地を全速力で駆け抜けて戻ってみれば、集落の中央の広場ではおぞましい存在が中空からグリーンクローの集落を俯瞰していた。

 

揺らめく様な黒い霞、その中から浮かんでは消えを繰り返すおぞましき無数の人面は苦しみと絶望に彩られたまさに怨念の形相、その集合体…

それから発せられるのは苦痛に喘ぐ声であり、悔恨と絶望に嘆く声であり、狂っているとしか表することが出来ない嘲笑…

 

しかし重要なのはモンスターの外見や特徴などでは無い。

ザリュースはこのアンデッドを知っていた。かつてのトラウマに背中からは嫌な汗が流れ、思わずブルリと身体を震わせる。見れば隣に立つ自分の兄も同様であった。

 

本当に重要なのは目の前に現れたアンデッドはザリュースとシャースーリューの二人ですら怖じ気づく程に危険な存在だと言う事だ。

事実、少なくともコントロールクラウド等という第四位階の魔法はその力を如実に表していた。

 

(このままでは不味い…魔法の武具以外に効果を与えられない以上闘うならば俺と兄者のみで挑むべきだろう…)

 

そうザリュースが思考を走らせているとアンデッドの様子に変化が訪れた。今まで無秩序にあげられていた怨嗟の声が突如ピタリと止まったのだ。

 

『聞け、我は偉大なる御方に使えしもの。この地に先触れとして来た。』

 

それは幾つもの声が一つとなった意味ある言葉だったが同時に下手な怨嗟の声よりも恐ろしい声だった。

混乱しざわめくリザードマン達を他所にアンデッドの言葉は続く。

 

『汝等に死を宣告する。偉大なる御方は汝等を滅ぼすべく軍を動かされた。これより8日後、この地のリザードマンの中で汝等が2番目の死の供物。必死の…無駄な抵抗をせよ、精々足掻き偉大なる方を楽しませよ。』

 

それだけ言うとアンデッドは誰阻む事も無い中空へと移動する。それを見ていることしか出来ないリザードマン達は各々表情を歪める。

 

『ゆめゆめ忘れるな。8日後を…』

 

そして今度こそアンデッドは黒雲を纏う様にしてそれを駆けて行く…もしかすれば別の部族の元に向かったのかも知れない。

 

 

 

________________

 

 

 

アンデッドの襲来に直ぐさま集落の権力者と有識者が集会場に集められた。

 

まず祭司頭が予想されるあのアンデッドの強さを語り、戦士頭が徹底抗戦を訴え、闘うか逃げるかで議場は荒れる。

しかしそれ等の意見も最終的に決断するのは族長たるシャースーリューだ。難しい決断である。

 

そこで一つの意見が上がる。それは狩猟頭からだった。

 

「…クロコダイン、彼の御仁の力を借りればあるいは何とかならんだろうか?」

 

それは実は誰もが考えていた意見であった。クロコダインの常軌を逸した強さ、その片鱗しか知らぬ彼等でも断言出来る。あのアンデッド程度クロコダインならば容易く屠れると…

 

「それはならん…」

 

断言したのは意外にもシャースーリューだった。

 

「彼は旅人、客人を我等の問題に巻き込む訳にはいかん。」

 

「しかしこの苦難の時において彼がこの地に訪れている事こそ祖霊の導きかもしれんのぉ。」

さりげなく発せられた長老の言葉は狩猟頭の意見を援護するものだった。

 

「…その様な都合の良い考えは捨てるべきだ、それよりも兄者一つ良いか。」

 

議場の末端に座していたザリュースが意見を出そうとする。

ザリュースとてクロコダインの全面的な協力を求められたらと思うが暫く戻ってこないであろう彼をあてになど出来ないしザリュース自身この地のリザードマンの問題にあの気の良い友人を巻き込むことは嫌だった。無論其処にはグリーンクローの戦士としての意地も多分に含まれている。

 

「あのアンデッドは俺達を2番目の供物と言った。つまりは他の部族にも同じ様な宣告を行っているはずだ。そして恐らくだが奴の言う偉大なる御方とやらはこちらの戦力を知った上で実際に俺達を滅ぼせるだけの力があるとみて間違いないだろう。そうで無ければわざわざあの様な真似はするまい。」

 

ザリュースの発言を受けて議場に水を打った様な静けさが訪れる。

 

「その上で断言する、それでも闘う以外に道は無い!そして我等が勝つ為には奴らの想定を上回る必要がある。」

 

「ほう…しかしどうやってだ?」

 

強く断言したザリュースを鋭く睨み付けながらシャースーリューが問う。

 

「かつての戦争と同じだ。俺は同盟を提案する!それもかつて牙を交えた"ドラゴンタスク""レッドアイ"を含めたこの地に生きる全てのリザードマン達による大同盟だ!!」

 

 

 

結局、ザリュースの案はシャースーリューの決定により採用される。

その結果ザリュースはかつて敵対し互いに血を流し合った二つの部族の説得という危険な任務を遂行することになるのだった。

 

 

 

 

こうしてリザードマン達にとっての存亡をかけた闘いが始まろうとしていた…

 

 




鰐「ちょっと出掛けてくる。」
蜥蜴「いってら~^^」

悪魂「やっぱ特に強そうなのおらへんわ!!報告は…ま、ええやろ!」


次話、ボジョレーヌーヴォー解禁されたら。

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