OVER LORD外伝~ワニの大冒険~   作:豚煮込みうどん

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今回、ナザリック勢のやりとりの大部分を短縮する為「説明してやれデミウルゴス。」→「かしこまり^^」の流れが無くなってます。




リザードマン祝勝会とナザリック反省会

 

リザードマン達の戦勝の宴が行われている光景をクロコダインは集落の外れで一人、泥壁に背を預け、腰を落としたまま一人眺めていた。

 

先程まで代表としてシャースーリューが敵の残党などが居ないかなどを調べさせ、負傷したリザードマン達をクルシュをはじめとした司祭達が治療を施し終えている。

多くのリザードマンが勇敢に戦い、そして死んでいった。

それを悼みながらも全てのリザードマン達には歓喜が見て取れる。

 

それは、全ての部族が一つになる事で成し遂げる事が出来た偉業の大きさを表していた。

 

その様子を眺めながら、クロコダインはヤシの実を半分に切っただけの様な簡素な器で酒を静かにチビリチビリと味わっていた。

 

 

 

「おぉ、こんな所に居たのかよ。」

 

そんなクロコダインに野太く、粗野な印象の声が掛かった。それが誰のものなのかクロコダインには直ぐに判った。

ノシノシと此方に歩いてくるゼンベルの後ろには恐らくドラゴンタスク出身の戦士だろう雄のリザードマンが二人程いる。

 

「ゼンベルか。」

 

「おいおい、探したぜ!何でこんな所でチビチビやってんだ?」

 

そう言って笑うゼンベルの顔には両頬に思いっきりぶん殴られた跡がついている。ザリュースとクルシュの逢い引きを邪魔した挙げ句、下世話にからかって台無しにした制裁の痕だった。

 

「フッ…余所者のオレが一緒に飲む訳にもいくまい…?」

 

そのクロコダインの言葉にゼンベルは心底、「何言ってんだこいつ?」という表情を浮かべる。

 

「そんな訳あるかよ…お前が後ろに控えてくれたから、俺達は何も考えずにあのアンデッド共に向かって行けたんだぞ!?ザリュースの奴だってその通りだ、ガハハハって言うだろうぜ!」

 

因みに、本当に何も考えていなかったのはあの面子ではゼンベル位のものである。

 

「それに、お前から借りた武器がなけりゃ、多分俺達の誰かが死んでたかもしれねぇ…誰がなんと言おうとよ、クロコダイン、お前さんも間違いなくこの闘いの勝利の立役者だぜ。旅人だとか余所者だとかは関係ねぇ、とにかく乾杯だ!!」

 

「ゼンベル…」

 

そして、屈強なゼンベルの部下にズイと差し出されたのは『酒の大壷』だった。

決して尽きる事の無い酒が壺の中に満たされている、それこそザリュースのフロストペインに匹敵するリザードマンの秘宝である。

本来なら酒で満たされたそれから自分の器で酒を汲み上げるのが習わしであるが、クロコダインは屈強なリザードマンが二人がかりで何とか持ち運んでいる大壷をヒョイと軽く取り上げると大口を開き、大壷を豪快に傾ける。

 

『オォーー!!』

 

どくどくどくっ…!!っと音を立てながらの凄まじい勢いのクロコダインの飲みっぷりにそれを見ていた三人から驚嘆の声が上がる。

 

「旨い…」

 

フゥッ…っと酒精の香る吐息と共に、唯一言をクロコダインは溢す…そこには一言では言い表せぬ万感の思いがあった。

 

「こんなに旨い酒は、初めてだよ…」

 

だからこそ、酒を飲んだ時に出す言葉はその一言しかあり得なかった。

そのクロコダインの姿にゼンベルと連れが笑う、豪快に大口を開けて笑う。

 

「ガハハハハ…いいねぇ、その飲みっぷり!いっちょ飲み比べと行こうぜクロコダイン!!」

 

闘いじゃあ絶対に敵わないだろうが、ドワーフに鍛えられた肝臓を持つゼンベルは酒の飲み比べなら負けんぞとクロコダインから酒の大壷を受け取ると同じく、勝利の美酒を豪快に飲み下すのだった。

 

 

闘いが続く可能性を考えて、飲み過ぎない様に忠告を受けていたゼンベルがべろんべろんに酔いつぶれ、激怒したクルシュによってボコボコにされた後で回復魔法を受ける姿が確認されたのは翌日の朝だった。

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

「アインズ様、ナザリック各階層守護者、御身の前に集まりました。何なりとご命令をどうぞ。」

 

アルベドの言葉通り、アインズの目の前には今、ヴィクティムとガルガンチュアを除いた各階層守護者が集結し、傅いていた。

 

「うむ、ご苦労。早速だが、リザードマンとの戦闘見させてもらったぞ、コキュートス。」

 

「ハッ」

アインズの静かな言葉に対し、傅いたまま、コキュートスは顔を上げる事が出来なかった。

 

「敗北で終わったな。」

 

「ハッ、コノタビハ、私ノ失態、真ニ申シ訳アリマセン。」

 

アインズに会わせる顔が無い…そんなコキュートスはアルベドから、顔を伏せたままである事が不敬であると叱責を受ける。

 

「コキュートスよ、まず先に言っておくが、私は今回の敗戦、強く責めるつもりは無い。それよりも敗軍の将として聞かせてもらいたいのだ。今回、先頭に立つのでは無く、指揮官として闘い、何を感じ取れた?」

 

アインズの問い掛けに戸惑いを浮かべるコキュートスと各守護者達、平静なのはアルベドとデミウルゴスのみである。

 

「失敗は誰にでもある、それは無論、私でもそうだ。しかし、大切なのはその失敗から何を学び取るかだと私は考える。もう一度問おう、コキュートスお前はこの闘いで何故、敗北した?どうすれば勝てた?」

 

アインズ様が失敗などする訳が無いだろうと守護者達が思う中、再び投げかけられた問い掛けにしばしコキュートスは熟考する。

今ならば判る、自らの至らなかった部分が。ここで何も答えられなかったら、それこそ先の敗北の比では無い失望を主に与えてしまう事になる。

 

「先ズハ、リザードマンヲ侮ッテオリマシタ。ソシテ情報ノ不足、モット慎重ニ彼等ノ情報ヲ集メテイレバ、結果ハモウ少シ違ッテイタカト。」

 

「ふむふむ、敵を侮るのはやはり良くないな。そして、闘いにおいて情報は命だ。他にはあるか?」

 

「指揮官ノ不在、低位ノアンデッドヲ動カスニアタッテ臨機応変ナ動キガトレヌ事、ソレ等ヲ踏マエレバ当然、全テノアンデッドノ足並ナミヲ揃エルベキデシタ。」

 

自分で口にして、コキュートスは単純な力押しで良いとしか思いつかなかった己を深く恥じた。

 

「それ以外には?」

 

続きを促すアインズの言葉に、コキュートスはもう一つの見逃せない要因に思い当たった。

それは指揮官たるエルダーリッチを容易く葬った一人のリザードマン…より正確に言えば彼が所持していた武器だ。

 

「ソレトモウ一点、彼等ヲ侮ッテイタトイウ内容ト、些カ似テオリマスガ、エルダーリッチヲ討チ取ッタリザードマンノ所持シテイタ武具ノ一ツガ、想定ヲ遙カニ上回ル業物デアリマシタ。当然、我ガ『斬神刀皇』、『断頭牙』等ニハ及バズトモ比肩シウルノモ確カカト…」

 

そのコキュートスの評価にアインズの反応が大きく変化する。

 

「何だとっ!?…いや、確かにあの斧は凄まじい攻撃力だった。だがそれ程とは…」

 

「私モ映像ヲ介シテシカ見テオリマセヌ故、アクマデモ恐ラクハ…ト、ナリマスガ。」

 

「いや、コキュートスよ、こと武具においてお前の慧眼を私は信頼しよう。しかしそうなるともしや漆黒の剣の様な他のプレイヤーの縁の品という線もあるな…調査部隊の報告からプレイヤー自体は居ない事が判っている、しかし、それだけの武器が報告に上がらなかった事も、ギルド武器の様にリザードマン達の事情があって厳重に保管されていた為だとすれば説明もつく。」

 

後半はアインズの独り言の様であったが、その推察は中々理にかなった考えであった。

 

但し、大前提の部分で食い違いがあるという事を除けばであるが…

 

「コキュートスよ、今回の事で様々な事を得たようだな。私はそれを嬉しく思う、そして聞け!他の守護者達もだ、今回の事で解っただろうが相手が弱者であろうと決して油断はするな。そして万が一失敗を犯した時はその失敗から学ぶのだ。そうであればそれは意味ある失敗となるだろう。」

 

『ハッ!!』

 

微かに微笑みながらアインズの語るソレは、会社員であった自分の欲した理想の上司をロールしたものであった。

 

「とは言え…コキュートスよ。失態は失態、故にお前には罰を与える。」

 

主人のその言葉にコキュートスの身体が強張る。

 

「コキュートスよ、此度の敗北をお前自身の手で拭え。リザードマン共の心を完全に挫き、我がナザリックの力を見せつけ制圧するのだ。今度こそ、誰の手も借りずにお前だけでな。…本当ならば奴等を全て殲滅せよと命じたい所だが、プレイヤーの痕跡が少々気になる。」

 

アインズのその命令にコキュートスは歓喜に身を震わし、凍てつく吐息を無意識に漏らす。

己の失態を拭わせる罰の為にという名目で与えられたソレは武人たるコキュートスにとっては褒美以外の何物でも無かった。

 

「ハハァッ!!」

 

「ふむ、プレイヤーの情報を集め終われば…生き残り共は折角だ、コキュートスよ、お前に預けよう。リザードマンの村を支配し、恐怖等に拠らない統治、そこでナザリックへの忠誠心をリザードマン達に植え付けよ。そのテストケースとして奴らを利用するのも悪くない。」

 

「それは大変素晴らしいお考えかと、このデミウルゴス、アインズ様の深慮智謀に驚かされます。」

 

「流石アインズ様!!」

 

「何と慈悲深い!!」

 

他の階層守護者からの称賛の声を受け、謙虚にいやいや、と答えながら他にも幾つかの深い話を諭す様に語る主を仰ぎ見ながらコキュートスはアインズに対して驚嘆と羨望、憧憬を抱かずにはいられなかった。いや、元々抱いてはいるのだがそれでもである。

 

コキュートスは、結果的に結局口にする事は無かったがリザードマンを皆殺しにせよと言われた時、彼等に慈悲を与える様にアインズに嘆願しようと考えていた。

 

その理由は唯一つ、絶望に立ち向かう彼等の勇猛な姿に戦士の輝きを見たからだ。

それぞれ、一人一人を見ればコキュートスにとって彼等はまさに羽虫に等しい弱者だろう、それでも勝てぬであろう敵に己の守る物の為、全てを投げ打って挑む…それはかつて自分もナザリックに大勢のプレイヤーが攻め込んできた時にした選択と同じであった。

 

故に、彼等にはある種の感銘を受けたのだ。

 

 

それ等を全て見透かし、今回の様な機会を与えて下さった偉大なる主の為にも、これ以上の無様はさらせない…

 

 

だからこそ、コキュートスは片手間でも可能な、多くのリザードマン達を殺す事に全力を出す事を固く誓うのだった。

 

 




『食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。
牙を持たぬ者は生きて行かれぬ暴力の世界。あらゆる悪徳が武装する、ナザリック地下大墳墓。
ここはユグドラシルが産み出したアインズ・ウール・ゴウンのギルド拠点。

クロコダインの体に染みついた強者の臭いに引かれて危険な奴らが集まってくる。

次回、「出会い」。

クロコダインが飲む、リザードマンの酒は旨い。』



うん、最後の一文が書きたかっただけなんだ…許して欲しい。

次話、ジャングルの王者ターちゃんを読み終えたら。



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