ちょっと展開が遅いような気もするので、どんどん更新していきたいです。
それと、シンゴジ地上波放送の恩恵なのか、昨日久しぶりとなる日間ランキング入りを果たしました。誠にありがとうございます。
呉二号作戦。
先日の呉一号作戦*1の失敗を受け、生き残った自衛隊の幹部たちが急遽作成した対怪獣作戦である。
草案は以前より作成してあった防衛計画に基づいているものの、まともな統率を保ち動員が可能な部隊はごくわずかであり、また
それは、作戦と呼ぶことすら危ぶまれるほど脆弱な計画だった。
しかし上に立つ者や組織が壊滅してもなお動ける部隊が僅かでも存在する以上、彼らは戦わぬわけにはいかなかった。
作戦を立てる暇も戦力を整える猶予も与えぬまま、巨神ゴジラは京都府を超えて大阪府へと進入した。
巨神が見据える先は、大阪湾。
彼にとってエネルギーの宝庫である、海だった。
◆◆◆
同刻・韓国ソウル郊外。
多国籍軍司令部。
「翼竜攻撃隊第一波、全機離陸を終え東シナ海上空を航行中。間もなく日本国領空へ到達します」
兵士の報告に唐中将は頷く。
「しかし妙だな」
横に立つグリズロフ中将が呟くと、唐は彼の方に顔を向ける。
「水が欲しいのならば何故奴は琵琶湖に入らなかった? それに今現在も奴は淀川の近くを歩いている。川の水を飲めばよいのではないのか?」
通訳越しに彼の呟きを聞き取った唐は顎に手を当てて熟考した。
「海水でなければいけない理由でもあるのか、それとも…」
「しかしそんなことは科学者に考えさせればよいではありませんか」
唐の言葉にグリズロフは表情をこわばらせた。
「我々軍人の仕事は目前の敵を排除すること、そしてそれにより国家人民を守ることです」
「うむ……それは我が軍も同じこと。分かってはいるが……気になるものでね」
やがて彼らの目前のスクリーンには、偵察機が撮影するゴジラの巨大な姿が浮かび上がる。
「奴は我々の意図を見透かして、その上で……我らに淡い希望を抱かせようとしているのではないかと」
◆◆◆
【20:37】
千葉県九十九里沖の爆発からついに24時間が経った。
淀川の河川敷を突き進むゴジラ。
民家が立ち並ぶ住宅街を視界に収めると、その口内から猛烈な勢いの紅炎を吐き出した。
炎は一瞬のうちに枚方市中を駆け巡り、これらを文字通り火の海に変貌せしめた。
しかし、これまでの破壊劇に比べその勢いは強くなかった。
口から発せられるのはひたすらに赤い炎であり、青い熱線やキノコ雲を伴う核熱線を使う気配はない。
だがそれは、決してゴジラの生体エネルギーの欠乏を示す現象ではなかった。
既にほぼ全ての人間が逃げ失せたこの街に対して、エネルギーを浪費する意義をゴジラ自身が見出せぬがゆえの行動であった。
わずかに残る人間……見捨てられた高齢者、被介護者、逃げることを諦めた人々、自殺願望者……それらを虐殺するには紅炎で事足りると判断したのである。
攻撃の手は抜いていても人類の滅却に手抜かりはない。
一部分ずつ確実に焦土とし、自身が知覚できる全ての生体反応が止んでから前に進む。
【21:00】
枚方市を超え、いよいよ大阪市を視界に収めようとしていた時、ゴジラは空に異変を感じた。
雲に覆われた夜空を睨むと、それはすぐに現れた。
中国人民解放空軍、翼竜-12の大群であった。
◆◆◆
「全部隊に通達。
「目標、前方巨大生物! 目標捕捉! 攻撃開始!」
唐の怒号が飛ぶと同時に、無人機部隊は一斉に攻撃の火蓋を切った。
◆◆◆
ゴジラが敵の趨勢を見極めると同時に、翼竜から空対地ミサイルが射出された。
視界一杯に広がった無人機の群れから一斉に射出されたミサイルが突き刺さり、ゴジラの肉体は大規模な爆轟に覆われた。
無人機群はゴジラの上を通り過ぎると旋回し、第二次攻撃の態勢に移る。
その時であった。
黒煙を切り裂いて撃ちだされた青い熱線。
その切っ先が無人機の一群を一挙に消滅させた。
黒煙が晴れると、何の負傷もない巨神の姿がそこにはあった。
生き残った翼竜は次々に抱きかかえたミサイルを撃ちだしてゆく。
だがミサイルの攻撃には目もくれず、ゴジラはあくまでも無人機を精密な射撃で撃ち落していった。
瞬きをする間に無人機の群れは数を減らしていく。
◆◆◆
「第一波、全滅!」
攻撃開始より僅か63秒で第一波は全滅した。
この報に多国籍軍本部内にも動揺が走る。
だが、「うろたえるな!」という唐の言葉が彼らの表情を変える。
「この報はむしろ好都合! 我らの作戦は実を結んだのだ! 奴は迎撃にエネルギーを割いている! 回復の暇を与えるな! 第二波、攻撃開始!」
◆◆◆
ゴジラが息をつく暇もなく、すぐに次の翼竜が大挙して現れた。
ゴジラは少しずつ大阪方面へと歩みを進めながら、無人機の群れを撃墜する。
その爆炎は、はるか遠くからでも容易に観測することができた。
◆◆◆
大阪府・城北公園前。
中部方面隊第37普通科連隊の残存部隊は、都市中の街道に散開し、作戦開始の時を待っていた。
「見えるぞ……既に多国籍軍の攻撃が始まってるな……」
第二普通科中隊長・
「敵はもうすぐですか?」
という部下の問いに「ああ」と短く返す。
「全く、信じられんな‥‥。つい昨日まで普段通り職務に就いていたのに、今日になって突然”化け物から逃げ回れ”、なんてな…。悪夢すら超越した現実に放り出されると、不思議な気分になるもんだ…」
そう言うと桐島は高機動車の後部座席に座り込んだ。
「作戦開始は近いぞ。怖いだろうが、気を引き締めろよ。きちんとやれば必ず生きて帰れる」
「了解!」
◆◆◆
【21:24 ゴジラ、大阪市に到達】
「総監、ゴジラが作戦区域に進入しました!」
ゴジラが大阪市に入ると同時に、伊丹駐屯所・中部方面司令部ではそのような報告が飛んできた。
「よし……呉二号作戦を発動する! 各部隊、作戦行動開始!」
新堂は雑念を捨て、目をカッと見開き、命じた。
◆◆◆
この頃、既に翼竜第二波が全滅し、攻撃は第三波に移行していた。
空中の無人機の一掃に気を取られていたゴジラは、思わぬ方向からの攻撃に気が付く。
地上、大阪の街の建物の隙間から、軽装甲機動車や装甲車がゴジラに向けて機銃掃射を行っている。
同時に、何両もの高機動車が閃光弾を装填した軽機関銃を打ち上げ、ゴジラの視界にその存在を見せつけた。
そして、淀川の河川敷からは戦車と機動戦闘車が砲撃を開始していた。
ゴジラは地を這う敵をぐるりと一瞥した。
それと同時に、自衛隊の各車両は攻撃を中断、あるいは一部の車両は攻撃を続行したまま、全力でゴジラから遠ざかり始める。
人も車も消え失せた大阪の街を駆け巡り、ゴジラの目を欺く。
その間にも翼竜の群れは次々とゴジラに向けてミサイルを投げ出した。
陸と空の同時攻撃。
それはゴジラにとって一日ぶりに遭遇した本格的な人類の抵抗であった。
僅かな望みをかけた一撃。
エネルギー切れという、万に一つ起こるか起こらないかの事象に賭けた一か八かの作戦。
その願いは、神に届くか。
ゴジラは青い熱線を吐きだして一気に頭を振り、視界内の翼竜を一気に灰燼に帰す。
だが地上の部隊には熱線を浴びせぬまま、前に歩き出した。
その歩みは次第に早くなり、建物はその巨大な脚の一撃で粉々に粉砕されてゆく。
全ての建造物を足跡に変え、進んだ先には、閃光弾を打ち上げながら必死に後退する一両の高機動車があった。
ゴジラは地虫を潰すかの如くその巨脚を振り下ろした。
◆◆◆
『中隊長殿!! ゴジラの歩行速度大幅に上昇! 追いつかれます!!』
桐島の無線に部下からの悲痛な叫びが届く。
「石田、大通りに入って全速で離脱しろ!」
桐島は指示を出しながら後部座席からゴジラの位置を確認した。
「…!!!」
そして、短時間のうちに巨神があまりにも近くまで迫っていたことに驚愕した。
ゴジラは大股で市街地を蹴り崩しながら進撃し、数秒のうちに桐島車の背後を通り抜けていった。
『ゴジラ接近!! 逃げきれません!! 隊長!!! わあぁぁぁーーーっっ!!!!!」
「石田!! 状況を確認…」
桐島はそこまで言いかけた言葉を呑み込んだ。
状況報告など意味はない。
今の断末魔こそ、彼の置かれた
ゴジラは桐島車の後方で立ち止まっていた。
自らが踏み潰したちっぽけな命を嘲るように見下ろすと、ぐるりと次の標的を探した。
そして標的が決まるとそれに向かって駆けだしていく。
「後ろを見るな!! 前だけを見て全速で飛ばせ!!」
桐島は運転手にそう命じた。
背後から迫るゴジラの足が見えた瞬間、運転手は正気を失うだろうと判断したゆえである。
エネルギーを温存するためか、はたまた単に狩りを楽しんでいるだけなのか分からないが、奴は熱線を封じてその巨体で我々を一台ずつ圧殺しようとしている。
恐怖と絶望を与えるために、一台ずつ確実に。
このままでは、我々はゴジラに殺される前に”恐怖”に殺される。
抗わねば。
我らは絶望などに屈しない、屈してはならない。
だが、その覚悟もまた、ゴジラの慧眼の前では容易く見透かされていた。
◆◆◆
鈍重な装甲車はゴジラの追撃から逃れるには分が悪かった。
ゴジラは後方で迫撃砲を撃つ一台の装甲車を認識すると、その頭上から真っすぐに自らの尾を突き刺した。
ドズン、と轟音が響き、土埃が周囲を覆う。
ゴジラが尻尾を上げると、道路の真ん中には深く大きな穴が穿たれ、その底にはひしゃげた鉄塊と化した装甲車の残骸が横たわっていた。
続けざまにその尾を横に強く振ると、音速を超えた先端部は衝撃波を伴い、高層ビルを中段からへし折った。
ビルの先端が倒れる先には、逃げ遅れた高機動車が一台。
哀れな車両は瓦礫の山に埋もれて見えなくなった。
直後、翼竜のさらなる大群が飛来すると、ゴジラはそちらの迎撃に移行した。
青い熱線が夜空をぐるりと撫でまわす。
◆◆◆
「クソォォーーーッッ!!!!!!」
桐島は絶叫とともに車両の扉を殴った。
この作戦に何の意味があるというのか。
ただ部下が恐怖の中で虐殺されていくだけではないか。
「CP……CP!! 残存部隊数少数、作戦続行は困難!! 送れ!!」
連隊本部に怒鳴るように告げると、がっくりと前の座席にもたれかかる。
「畜生……畜生………」
「その………中隊長殿……」
横に座る射撃主が声をかけると、「なんだ」と桐島は小さく答える。
「中隊長殿……血が………」
「………?」
桐島が口元に手を当てると、その手にはべったりと血がついていた。
「……………俺は………」
この時、桐島は自らの命運を悟った。
約20分後、桐島丞二三佐は急性放射性障害により死亡した。
◆◆◆
ゴジラはなおも各部隊を追いかけ、その巨躯をもってこれを根絶やしとしていった。
腕を振りかざしてビルを崩し、尻尾を薙ぎ払ってすり潰すように地上の車両を破壊し、地面を這う隊員を足底で踏み潰す。
地面には車両や砲の残骸、糊のようにこびりついた人体の残骸が散乱した。
その熾烈な攻撃と濃厚な放射能被害は、みるみるうちに僅かな戦闘部隊の数を減少させていった。
それでも地上の戦闘員たちは諦めない。
エンジンが壊れた車両を打ち捨て、生身の身体で銃を乱射し、ゴジラの視界を誘導する。
無反動砲や対戦車砲を担ぎ出し、弾薬が残る限り撃ち続けた。
ゴジラは一人たりとも見逃さず、殲滅を続けた。
彼らがゴジラを大阪で足止めさせた時間は、40分程度だった。
【21:46 陸上戦闘部隊壊滅】
同じ頃、中国軍の翼竜航空機もついに全滅の危機に瀕していた。
すると、それと入れ替わるようにロシア空軍第257独立混成航空機連隊が北の空より現れた。
大阪の街は炎に沈み、それでも攻撃の手が緩むことはない。
◆◆◆
「総監、隷下の部隊はほぼ全て損耗しました……」
幕僚長の言葉に新堂は答えず、俯いて黙っていた。
「しかし彼らは十分にゴジラの注意を引きました。国連軍の攻撃は続いています。彼らの犠牲は無駄ではなかったはずです…」
「そのようなことが言える根拠がどこにある」
新堂は心から憔悴しきった表情でそう呟いた。
「志を共にした部下を虫のように踏み潰させるくらいならば…このような作戦は行うべきでなかった……なぜ私は……」
後悔の言葉を押し並べる新堂に慰めをかけてやれる者は誰もいなかった。
元より勝ち目などない戦だった。
エネルギーを消費しきる確信もなく、蹂躙されるだけだと分かったうえでの戦いだった。
それでも隊員は自らの意思で参加したのだ。
離散した仲間もいるというのに、最期まで国民を守る戦いに身を投じる道を選んだ。
その顛末が、あの屈辱にまみれた手法での虐殺である。
あまりにも、あまりにも報われない。
◆◆◆
「なんと……恐ろしい………」
ソウルの多国籍軍本部で戦闘映像を確認するグリズロフは、戦慄とともに呟いた。
その映像の中には、玩具のように殺される陸自隊員たちの姿がはっきりと映されていた。
「おのれ……!! もう翼竜は残っていないのか!! 米軍は!? まだ来んのか!!」
唐は顔を真っ赤に紅潮させて怒鳴る。
「このままでは大阪を突破される!! 化け物が我が国へ迫るのだぞ!! なんとしてもここで殺せ!!」
「ロシア軍機も間もなく全滅…! 防衛ラインを突破されます!!」
唐の命令も虚しく、兵士の叫びが本部中に響き渡った。
【22:25 無人攻撃機、全滅】
【同刻 G2作戦、及び呉二号作戦終了】
◆◆◆
ゴジラは大阪市街を駆け抜ける。
紅蓮の炎に包まれた大阪城天守閣が音を立てて崩れ落ちる。
目の前に広がるのは、大阪湾。
だがゴジラは、湾の直前で足を止めた。
数秒の沈黙ののち、くるりと向きを右に変え、歩み始める。
◆◆◆
「ゴジラ、進路変更! 大阪湾に入水せず、湾沿いに神戸方面へ進行!」
「なんだと!?」
本部の幹部たちは唖然とする。
「何故だ、ゴジラ……! 我々を挑発しているのか……?」
「その通りかもしれん」
グリズロフが力なく呟く。
「初めから間違っていたのだ……。奴のエネルギーは核融合……太陽にも等しい熱源だ。あれだけの攻撃をしてもなお……補給に値しない程度の力しか消費していないのだ……!!」
「………‥」
本部の人間たちに衝撃、そして沈黙が走る。
神だ。
神の武力が迫っているのだ。
ある兵士はそう思った。
「
「…!?」
グリズロフが呟いた言葉を唐は聞き逃さなかった。
「我が軍が製作した人類史上最強の爆弾………あれを使うしかない」
「中将、気は確かか?」
という唐の言葉が通訳に介される前に、グリズロフは歩き出していた。
「大統領に繋げ! 作戦を第二段階に移行する!」
「待て! 独断の核攻撃は安保理の決議に反するぞ!」
唐は部下とともにグリズロフを追うが、それをグリズロフの部下たちが止め、もみ合いになる。
やがて他の国の高官も異を唱え始め、本部は騒然となった。
再び安保理を招集する暇はない。
自国が率先して防衛行動を行うべきだ。
そう考える者達が増え始めていたのである。
巨神への恐怖は狂気に置き換わり、恐るべき世界大戦の幕を切って落とそうとしていた。