ミヤコワスレ ドロップ   作:霜降

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初めましての方は初めまして。既にお知り合いの方はお待たせしました。
ひと先ずはプロローグを再掲載です。初見の方は混乱するかもしれませんが、主人公は今回の方々ではありません。主役は遅れてやってくる。


-プロローグ-

 

 

 

 

 

【原作:艦隊これくしょん】

 

 

 

 

 夜の闇が支配する大海原に騒がしい乾杯の音頭が上がる。品の無い明りに照らされたその白い小型クルーザーでは、若い大学生の男女が大声で騒いでいた。首から金のネックレスを下げた金髪ロングヘアーの男が、隣の座席に座っているクルーカットの男と仲良く肩を汲みながら缶チューハイを開ける。まるで何時間も前から飲み明かしているかの様に、場の空気だけで出来上がった様子で陽気に騒いでいた。

 このご時世、許可なく船を出す事は違法行為であり、何よりも非常に危険(・・・・・)だ。にも拘らず、寧ろ彼らはそれを承知で海原のど真ん中に居る。退屈に憑りつかれた彼らは、危険なスリルを求めていたのだ。

 

「ちぇっ、こんだけ騒いでるのに化け物の一匹出やしねーぜ」

「ちょっとやめてよ! 本当に出たらどうすんのよ」

「何だよビビっちまいやがってよぉ……大体、そんなんで海に出れるかよ」

「そうそう。下手すりゃ俺ら、一生大海原を見れずに死ぬんだぜ? やってられっか!!」

「そりゃそうだけどさ」

「んなもん気にせずほら、食おうぜ!!」

 

 男二人の向かいの座席に座っていた同い年くらいの女性が不満の声を漏らす。髪を茶色に染め煽情的な露出の多い服装の彼女もまた男二人と同類の人間で、ここに来たのは紛れもなく自身の意思によるものだが、化け物を引き合いに出された事で怖気づいていた様子だ。

 

 ――海には化け物が居る。それは決して、老人が若者を戒めるために生み出したホラ話ではない。我々の住む世界ならともかく、少なくともこの物語の舞台においてソレらは確かに現実のものとして存在していた。

 そんな事すら知った事かと、享楽主義者の若者達は大皿に積まれたチーズ乗せクラッカーを二つほど掴んでは口へと運ぶ。本当の恐怖とは、目の前に現れない限り理解できないものとも知らずに。

 

 金髪ロングヘアーの男が海面に投げ棄てたチューハイ缶の周辺の波が、不自然なウネリを起こした。

 

「……ねぇ、何か変な臭いしない?」

「あん? 誰か屁でもこいた?」

「ちょっとやめてよ汚い! そうじゃなくて、何か海から異臭が」

「そういや確かに……何だこの、ガソリンに腐った魚を突っ込んだみたいな臭い」

 

 異臭に気付いた3人は食べかけていたクラッカーを皿の上に戻し、暗闇の海へと近づく。クルーザーが照らす明りすら容易く吸い込む闇は、それ自体が巨大な怪物の様に思えた。やがて、クルーカットの男が海面に半身を乗り出して深淵を覗こうとした時。

 

 海中から伸びてきたロープの様な物が、男をあっという間に海へと引きずり込んだ。慌てた残りの二人が男の名前を叫ぶ。そして……。

 

「ぶはっ! たっ、助け……!」

 

 男が海面に顔を出し、しかし直ぐに物凄い力で再び海中に引っ張られる。やがて少しの沈黙の後、男が履いていたと思われる靴の片方が、赤黒い液体に押し上げられるように浮かび上がってきた。

 

「きゃあああっ!!?」

 

 女が悲鳴を上げ、隣に居たロングヘア―の男は数秒狼狽えた後即座に操縦席へと向かい、クルーザーを急発進させる。遠心力により机の上の菓子や酒類が右へ左に零れ、女も立っていられなくなり床に必死でへばり付いていた。が、クルーザーは何かに突き上げられる形でエンジンが破損した後に急停止。突然の事態に必死で再始動を試みる男だったが、やがて彼にも謎のロープが絡みつく。操縦席にしがみつき必死で生に執着する男だったが、やがて海面が盛り上がり彼らを襲った化け物がその姿を現した。

 

 それは、中型の鯨程はある巨大な魚だった。その皮膚は肉や鱗と言った生物的なものではなく、強いて言えば軍艦の様な黒く強固な甲殻で構成されており、その隙間に灰色の――どこか人間に近い質感の皮膚が見え隠れする。前方部分の甲殻には恐らく眼と思われる器官が存在し、それは冷たい緑色に不気味な光を放っていた。

 やがて魚の化け物はロープ――器官としては舌だろうか――に力を籠め、男をついに引きずり込む。

 

「嫌だあああ!!」

 

 死への恐怖の言葉を最後に、男は怪魚の大口に引き込まれ咀嚼される。彼の唯一の幸福は、生きている内に望んでいた大海原を拝めた事だろう。その最後は見るに堪えず、血しぶきは床で震えていた女の下にまで届いた。女が再び絶叫を上げたのは言うまでもない。

 

 

 

 

【脚本:霜降】

 

 

 

 

 【深海棲艦(しんかいせいかん)】。この魚の化け物を含めた怪物達は人々からそう呼ばれた。今から五十年と少し前だっただろうか。それらは突然、大海原を我が物顔で航行する人類の前に姿を現した。起源や目的は一切不明、しかし一つだけ確実な事が分かっている。

 ――こいつ等は人間を襲う。人類への敵意か、或いは生物としての習性かは分からないが人を襲い、その血肉を喰らうのだ。やがて一定量人間を喰った個体は脱皮(・・)を行い、驚く事にヒトに酷似した姿へと成長する。そうなった個体は人間を喰わなくなるが今度はこの魚の化け物達の為に、まるで親が子に与えるかのように狩りを行う……つまり、人間を生け捕りにし始める。どこまで行っても相互理解不可能な怪物だった。

 

「い、嫌っ。助けて!!」

 

 立て続けに女を捕縛し、引きずり込もうとする怪魚。先の二人よりも非力な彼女は、抵抗も空しくクルーザーの床を滑り落ち、どんどん怪魚の口元へと運ばれていく。

 

 深海棲艦の襲撃により、人類は一年も経たず海から遠ざけられた。それだけに留まらず、連中には飛行可能な武装を持つ者や上陸が可能な者までいて、幾つかの島国は既に掌握されてしまったと言う噂もある。

 当然人類もただ黙っている訳ではなく、連中に果敢に戦いを挑む者も居た。だが深海棲艦の体には特殊なフィールドが張られているらしく、あらゆる攻撃を受けても傷一つ付かなかった。核を持ち込んだ国もあったが、人類が誇る最強の暴力ですら有効打を与えられなかったのだ。

 もはや人類に許された事は、大切な人と共に寄り添い、いる筈のないカミサマに祈りを捧げる事だけだった。

 

「嫌あああ!!」

 

 もはや如何する事も出来ず、迫りくる死に対し腹の底から絶望の声を上げる女。彼女の眼前にて、唾液まみれの怪魚の口が大きく開かれた。

 

 だが今まさに女を喰い殺そうとしていた化け物は、側面に強い爆炎を伴う衝撃を受け、拘束していた女を放り投げ大きく転倒した。

 

「……え?」

 

 突然の出来事にただ呆然とするしか無い女。一体何が起こったと言うのだろうと周囲を見渡す。やがて、視界の端に海面に立つ人影を確認する。

 人が、陸から遥か遠く離れた大海原のド真ん中で直立している。死を目前にして、昔話に語られる船幽霊でも見たのだろうか? いや違う。手に持った主砲から煙を立ち昇らせたその少女(・・)は、確かにそこに居た。

 

 人類の祈りがカミサマに届いたのだろうか。深海棲艦の出現から一年と少し経ったある日、一人の娘が現れた。その娘は人間と全く同じ姿をしていたが、自分の事を在りし日の海戦で海を掛けた軍艦の名で表現した。

 その娘は虚空から船の艤装を思わせる装甲を出現させそれを纏い、直立したまま海面に降り立つと言う不思議な力を人類に披露した。それから一年も経たない内に、次々と彼女と同様の性質を持った娘が現れた。

 

 彼女達は人類の前に立ち、彼らの為に深海棲艦へと立ち向かった。あらゆる攻撃に効果のなかった深海棲艦に明確なダメージを与える事の出来た彼女達は、人類の希望の象徴となるのに十分すぎる存在となっていく。やがて艦の艤装を纏い戦う娘達は、人類からこう呼ばれた。

 

「――【艦娘(かんむす)】……!」

 

 

 

 

【キャラクター参考資料:駆逐艦曙便り他】

 

 

 

 

「報告にあったクルーザーを発見。二十歳前後と思われる女性を一人保護したよ」

"一人? 違法に出航したのは三人だって話だ。他の二人はどうした"

「……残念だけど」

 

 全体的に黒で統一された学生服の様な衣装に身を包んだ、見た目が中学〜高校低学年位の艦娘が周囲の状況を見渡した後に、通信機越しの男の声に対して静かに語った。服と同じく黒い髪に反した、サファイア色の瞳が辛そうに伏せられる。

 その言葉を聴いた後、通信機からは軽い舌打ちが聴こえた気がした。

 

"……あんた。友人の事は気の毒だったけどな、これに懲りたら二度と面白半分で海に出るな"

 

 通信機越しの声が女に対しぶっきらぼうに告げる。怒りと憐みの入り混じった、重々しい声だった。その声を聴いた女は、恐怖や後悔、そして助かったと言う安堵からその場で泣き崩れる。その様子を黒髪の艦娘は、ただ黙って見つめていた。自業自得とは言え、このような悲惨な目に遭った犠牲者を憐れんでいるのだろうか。

 やがて、遠方より新たに近づいてくる三つの影。それを見計らい、先に居た黒髪の艦娘が口を開く。

 

「みんな、この人を頼めるかな」

 

 黒髪の艦娘は唯一の生存者である女を仲間の艦娘に任せ、怪魚へと向き直る。儚げな印象を与える蒼い瞳を戦士のソレへと変え、標的を鋭く見据えた。

 三人の艦娘も彼女への信頼からか、一人が女をおぶさり残りの二人がそれを護衛する陣形を組みながら海域を離脱。それを横目に見届けた後、黒髪の艦娘は主砲の艤装を持ち直し、今まさに体制を立て直したばかりの怪魚に向けて戦闘態勢をとった。

 

 

 

 

【制作:可香谷鎮守府】

 

 

 

 

 獲物を奪われた事で激昂する怪魚は口内より砲門を出現させ、弾丸を発射しようとする。だが艦娘はそれよりも早く両手に持った艤装より主砲を発射し、怪魚の右目に命中させた。想定外の反撃による驚きと痛みから悲鳴を上げる怪魚。艦娘は間髪入れず砲撃を連続で叩き込んだ。

 何発か砲撃を喰らう怪魚だが、やがて之字運動をしながら艦娘に迫り、噛みつこうとする。艦娘は2,3回バックジャンプを行いながら噛みつき攻撃を回避。5度目の噛みつきの後、回避とほぼ同時に怪魚の口の中に砲撃。怪魚の体は中破し、あちこちから煙が上がった。

 

 苦悶の唸り声を上げながら怪魚は、先ほど男達を捕食する際に使用したロープ状の舌を艦娘の左腕に伸ばし巻きつける。一瞬驚きの表情を見せた艦娘にしめたと思ったのか、怪魚は艦娘を引っ張ろうと力を込めた。にじりにじりと距離を縮められていく艦娘。片方の腕で踏ん張ろうとするも、パワーはあちらの方が上の様だった。

 身動きの取れなくなった艦娘に対し、射程範囲に入った怪魚は側面の艤装に禍々しい形をした魚雷を出現させ、艦娘に狙いを定める。

 

 だが艦娘は、片腕で持っていた二門の主砲型艤装を一度背中に戻した後に右手で怪魚の舌を掴み、力いっぱい引っ張り上げた。ブチィと言う嫌な音が鳴った後に小さな爆発を起こし引きちぎられる怪魚の舌。口から火花と重油をまき散らしながら大ダメージを受けた怪魚はその場でのたうち回った。

 

「残念だったね」

 

 満身創痍の怪魚に対して冷酷な一言を告げ、左腕に巻き付いていたロープを投げ棄てた艦娘は膝を少し屈める姿勢を取る。彼女の脚部に付いた艤装が斜め向けに変形し、そこから2本の魚雷が発射され一直線に怪魚へと向かっていく。成すすべもなくその直撃を喰らった怪魚は断末魔の叫びと共に大爆発を引き起こした。

 衝撃により海面が激しく波打ち、爆風により艦娘の頭上に海水が激しく降り注ぐ。まるで通り雨の様だ。

 

"お疲れさん、【時雨(しぐれ)】。他には連中の仲間は居そうか?"

 

 敵をせん滅し、残心を維持していた艦娘・時雨に対し通信機越しの男の声が問う。すぐさま時雨は艤装に備わった電探を使い、周囲の敵正反応を探知する。結果は、反応無しだった。

 

「電探に感無し。あの一匹がはぐれ者だったみたいだ……それから、生存者の反応も無いよ」

"おし、じゃあそのまま戻ってこい……犠牲者の遺品の一つでもありそうなら、持って帰ってやりな"

「うん、分かったよ【提督(ていとく)】」

 

 そう言って時雨と呼ばれた艦娘は通信を終え、沈みつつあるクルーザーの周囲を暫く旋回した後に、静かにそこから立ち去っていく。かくして、悪夢の様な真夜中の戦いが終わり夜の海は再び静寂を取り戻した。もう何年も幾度となく繰り返されてきた光景。此度の戦いもまた、その一ページに過ぎない。

 これより始まる物語もまたその一つ、数奇な運命の末に艦娘を指揮する者――提督となった一人の若者と、ヒトに対し心を閉ざした艦娘。そして彼女の周りに集う、それぞれの問題を抱えた艦娘達が織りなす成長の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

【艦隊これくしょん二次創作 ミヤコワスレ ドロップ】




 大幅な変更点として旧版だとここで出てくるのは主力艦隊の艦娘達でしたが、たかだか駆逐級一匹に対して最高戦力がリンチするのはおかしくない?と言う疑問が浮かんだので、後に登場する時雨さんに先行登場してもらいました。
 また、深海棲艦の描写もインパクトを残すべく、結構ショッキングなものへと変更。怪物の怖さを表現するには一般人を襲わせればいいってそれいちry

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