捕捉ですが、"灰"=プレイヤーです。でプレイヤーの人物像を指定しないように気を配ったので、書き方が結構特殊で読みにくいかもしれません。
まあ蛇足的立ち位置だし、いいよね?(思考放棄)
9/25日 加筆しました。
どのくらい経ったのだろう
一日か、一週間か、一か月か、それ以上か。どうやら"灰"となった時点で、身体の成長は完全に止められたらしく、いつまでも痩せこけることはなかった。
自分の記憶も、感情も死の恐怖によって塗りつぶされ、鎮守府や姉妹たちの記憶がおぼろげにかすみ始めており、それが本当に自分の過去に起きたことなのか、実感が持てなくなっていた。
自分の勝手な妄想だったのかもしれない。私は元々この世界の住人で、記憶は現実逃避に見ていたただの夢だったのかもしれない。
これまでの行い全てが、虚構。
そうだったのだ。きっと、そう
ああ、全てが億劫だ。
そんな時だった。手が差し伸べられたのは。
だけど私はそれを振り払った。
何もしたくなかったから、無視した。
気に掛けられるのがうっとうしかったから、邪険に突き放した。
それでもしつこかったから、無理難題を吹っかけた。
それで終わった。手は諦めて去った。
そのはずなのに
三日月の髪留めが優しく眼前に差し出されたのが、私はしばらく信じられなかった。
震える手でそれを手中に収めれば、見覚えのある光沢が私を歓迎してくれた。
確信する。これは紛れもなく私の物だと。最期のよりどころだと。
気付けば泣いていた。子供のように泣きじゃくっていた。妄想ではなかった。嘘ではなかった。二度と無くすまいと胸にしっかり抱きかかえ、手の感触からその存在を存分に感じ取った。許された気がした。私はまだ睦月型であっていいと、そう言われている気がした。
髪留めの存在を実感した私の思考は自然と、これを持ち帰ってくれた存在への感謝に溢れた。
涙でぐしゃぐしゃの顔を上げれば、穏やかな安堵の笑顔が私を見ている。その顔に私は去来した疑問を投げかける。
「どうして? どうやってこれを……」
ただ無くしたと言っただけ。三日月の髪留めと言っただけであり、色も、大きさも、材質も何も言わなかったはずなのに。何故これだと分かったのか? それが不思議でたまらなかった。
そう問えば、"灰"は苦笑しながら答えた。なんとなくだと。踊り子を倒した時に拾って、これじゃないかと思っただけだと。
つまりなんだ? こいつは、ただの勘で、正解を当てて見せたのか?
「……呆れたものだ。もし違っていたら、私はお前を殴っていた」
これは手厳しいと苦笑する"灰"に、私もつられて笑った。自己防衛の為の狂笑ではなく、相手に感謝を伝えるための、穏やかな微笑み。
再び差しだされた手を、今度はしっかりと掴むことができた。
「……ありがとう。礼を言う」
直後、私は"灰"の気まずげな態度から自分が何も身に着けてないことを思い出した。
◆ ◆ ◆
とりあえず胸と下半身を覆えるだけのものを"灰"からもらった私は、様々なことを話し、教えてもらった。
私を助けた理由、出自、過去、この世界について、"灰"は色んなことを話してくれて、私もそれに負けじとこれまでのこと、自分のことを包み隠さず話した。流石に異世界出身であることには懐疑的だったが、そこは仕方がないと割り切って話した。
会話の中、私は"灰"にソウルの業なるものについて伝授してもらった。
原理は全く分からなかったが、物質をソウルという非物質状態に変換する技術であり、実践されたときにはそのあり得ない光景に驚きっぱなしだった。"灰"だけではなくこの世界の常識であると言われたときには声も出なかった。そして自分も実践してすんなり出来た時は真顔だった。
世界が変われば常識も変わるのは当たり前だが、これはさすがに違い過ぎないだろうか。
加えて、エスト瓶の存在。
"灰"ご用達の回復アイテムで、死んでなければどんな傷でも内封された火が使用者をたちまち癒してくれる代物。
これらを知っていれば、おそらく犬に食い殺されることは無かっただろうと、自らのずさんな情報収集能力を本気で嘆いた。
話を戻す
話が一段落したところで、沈黙が訪れる。会話の種が尽きれば当然のことだ。
だがその沈黙に、私は恐怖を感じた。
"灰"との会話は嬉しくて、楽しくて、有意義で、だからこそこの関係を終わらせたくない。そう思った。
別れたくない。一人になれば、また折れてしまう
その一心で、私は同行を申し出た。私を救ってくれた恩に報いたい。そういう建前で。
しかし、私の申し出は受け入れられることはなかった。それは無理だ、と。
合わせられた瞳の色に、私は自分の浅ましい本心を見透かされたと感じ、力なく目を逸らす。
ソウルの業も何も知らないこの私がどれほどの役に立つのか。私がやろうとしていることはただの自己保身。"灰"の足を引っ張るだけ。
当たり前の事実を、自分の愚かさを突き付けられて、私は消えいるような声で口を動かした。
「すまない。忘れてくれ」
"灰"は私の消沈ぶりに一つ息を吐き、しばらくしてあやす様に語りだした。
曰く、世界の滅亡が近いから、時間や空間にもその影響が出ていて淀んでおり、位相のずれが起きている。死んだり、篝火の転送をすると位相がずれてしまう。一緒に行動したとしても、特別なつながりが無ければすぐに離れ離れになってしまう、と。
異世界から来たというのを公言している私が言うのもなんだが、控えめに言って意味が分からなかった。
突然語られた荒唐無稽な話にひたすら首をかしげていると、"灰"もまた首を捻り、妙案とばかりに切り口を変えた。
私は祭祀場前の灰の鎧を倒した。君はどうか?
「……その鎧の武器は?」
右手に斧槍、途中から怪物に変わって爪の攻撃
私の思考を正確に汲んだ"灰"のその文言に一切の嘘は感じられなかったし、あの無残な広場の跡地から灰の鎧が怪物に変化したと推測するのは不可能だ。
それ故に先ほどの"灰"の言葉は正しいことが証明され、あり得ない、と私は呟いた。そして、その先の意味を私は恐れおののいた。
つまり、この出会いは一期一会で別れてしまえば、もう会えないのか?
思考をそのまま疑問として"灰"にぶつけた。願わくば仮説が間違っているようにと、否定してくれる未来を願って。
位相が合えば、また会える。
位相が合わなければ、もう会えない
"灰"の言葉は希望を込めた否定。だけど私には絶望が含まれた肯定に聞こえた。
「そんな! せっかく……せっかく出会えたのに……!」
また一人になってしまうのか!?
永遠の別離に危機感を覚えた、"灰"の腕に縋り付く。一人の時の孤独感を思い出せば、最早自重などできなかった。
「行かないでくれ。ずっとここにいてくれ。一人にしないでくれ」
"灰"は困った顔をして、しかし断言した。行かなければならない、と。
何故、と八つ当たりの怒りを込めた語調で問いを投げつける。だけど"灰"はひるまない。
結局、"灰"は理由を言わなかった。
どうあっても、"灰"は行ってしまう。そう悟った。
泣いた。泣きながら、力なく"灰"を叩いた。どうしようもないと分かっていても、やめられなかった。
そんな私に、"灰"は無言で何かを握らせた。涙をぬぐい手に取れば、白いろう石だと分かった。
このろう石で書かれた名前は時間の淀みを越える。名前に触れると、そのサイン主を霊体として呼び出し、共に行動できるようになる。私も常々霊体を召喚して、旅の助けにしている。これを君に譲ろう。
白いサインろう石をまじまじと見つめる私の腕に、"灰"は取り出したロングソードを被せた。
これも君に貸し出そう。もし君が立ち直って、まためぐり合う機会があったなら、その時に返してくれ。
それが"灰"の最後の言葉だった。
静寂が、私を包む。篝火がパチパチと立てる音だけが鼓膜を震わせている。
また一人になってしまったな……
ロングソードには沢山の傷があった。切り傷、こすり傷、血痕、泥、煤。色んな傷が歴史を物語るみたいについていた。かねてからの"灰"の愛用の物だと容易に想像がつく。
こんなものを託して、あいつは何がしたいんだ
私は一人になったら簡単に気が狂う程心が流されやすくて、殺されれば折れるほどもろくて、前に進むのも諦めた役立たずだ。
「その私に……」
なぜそこまでの信頼を置けるのだ?
大切なものだったのだろう。形見だったのかもしれない。相棒とも呼べるものだったのかもしれない。それをこんなにもあっさりと託して。
「あいつは、大馬鹿者だ」
名前すら言ってない相手に戸惑い無く手助けをするなんて。
そして私も大馬鹿者だ
返す相手の名前すら聞いてないのだから。
「どこの誰かは知らぬが、受けた恩をもらったままふさぎ込むなど、長月の名が廃る」
死に怯えるだろう。
無様にのたうちまわるだろう。
殺しを躊躇するだろう。
だが、髪留めを見つけてくれた恩も、この剣のも、前を向かせてくれた恩を、返してない。あの建前は別に嘘ではない。まぎれもなく本心の一つだ。
そしてあいつの心が折れないように、支えていきたい。守りたい。あいつの心折れた姿を見るのは死より怖い。
だから私は立ち上がる。
握ったままだった髪留めを髪につけようとして、やめた。
ここから先はわがままだ。これ以上、睦月型の名を地に落としたくない
これからする行為は須らく艦娘として、決して褒められたものではない。それどころか深海棲艦と同じところまで堕ちる可能性すらあるだろう。
そこまで思って、祭祀場で皆が出自を語らなかった理由がわかった。そして今度は彼女達とはもう一回ちゃんと向き合って話し合おうと誓う。
「皆のことは絶対忘れない。いつも私の中にある」
だから、今だけは睦月型を、艦娘をやめるのを許してくれ。
ソウル化した髪留めが確かにあるのを胸に感じて、私は再び前を向いた。
「"長月"、出る」
□ □ □
遂に、遂にここまで来た
最初の日の炉、その頂きに向けて"灰"は一歩一歩足を動かしていた。
流れ着いた故郷の王たちの下に行く道中で数々の強いソウルを持つ者たちを殺し、それを糧に自身を強化しまた殺しを繰り返し、全ての王を殺して、ソウルを王座に戻した。
死んだ。本当に数え切れない程殺された。そのたびに心が折れそうになった。だけど私はここにいて、火継ぎの儀式を再現した。
多くの"灰"と協力し、殺しあった。志を同じとするものと喜びを分かち合い。敵対するものを口悪く罵り、憤った。自分が霊体となって協力に行ったこともあった。
しかし、その"灰"達のサインは旅が進むにつれて徐々に減り、またよばれる頻度も減っていき、遂にサインは無くなった。
それでも私は進み続けた。"灰"達の無念を無にしないために。
頂きが見えた。剣があちこちに刺さる中で、篝火と同じような、いやそれよりも弱弱しい火を見つめて座っている何者か。
あれが、王の化身。
あれを倒せば、全てが終わる。
得物を抜き放つ。最期の試練へと挑むにあたって、今一度気持ちをリセットする。ただただ倒すと、気持ちを固める。
サインが、浮かび上がった。
一瞬、見間違いかと思った。だが違った。確かにサインがある。自分以外にここにたどり着いた者がいるのだ。
その名前を見て、そしてぼんやりと見える主を見て"灰″は思わず大声で笑ってしまった。あの日、あれだけ話していたのに、愚かにも交換し忘れたソレをまさかこんなところで知れるとは。
「いい名前だ」
サインに、触れた
長月提督なら、自分の愛用武器上げるのは当たり前だよなぁ?(lv61)
鎮守府に戻った長月が、罪に苦悩する姿をかくのもまたいいんじゃないかなと思いました。
そして睦月型総出でメンタルケアとか、あ^~たまらねぇぜ。
そういえばふと思ったんですけど高速修復材の中身ってエスt