ポケットモンスター-黒衣の先導者-   作:ウォセ

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タイトルコールはサトシの声をイメージしてるので、皆さん個々で脳内再生してみて下さい。
今回凄く長くなりましたが、どうぞお楽しみ下さい。


トウカシティ! ポケモンゲットだぜ!

ホウエンリーグ出場を目指し旅を続けるサトシ達。

お腹を空かせながら、とうとう1つ目のジムがあるトウカシティに到着したのだった。

 

「やっと着いたぜトウカシティ。5年ぶりか、懐かしいな」

 

トウカシティは森を開拓して作られた街で、大きなビル等もそこそこ建っているホウエン地方ではどちらかと言えば都会と言える街である。

そんなトウカシティのメインストリートを張り切って進むソラト。

そしてソラトの5メートルほど後ろで項垂れながらトボトボと歩くサトシとハルカがいた…。

 

「あぁ、疲れて足が棒みたいかも…」

 

「お腹減った~、もうこれ以上動けないよ…」

 

「ピィカチュ…」

 

「何言ってるんだ。サトシはこれからジム戦だろ? ハルカだって折角トウカシティに戻ったんだしアチャモ見せに家行くんだろ?」

 

ロケット団に食料を奪われてしまった日の翌日にはトウカシティに到着できたが、食べていたのは木の実だけだったのでお腹が満たされたかというと微妙であった。

サトシもハルカも空腹と疲れでヨタヨタと歩くことしかできないのだ。

 

「んじゃ、とりあえずトウカジムに行くか」

 

「ちょ、ちょっとその前にメシにしようぜ…腹が減っては戦はできないし…」

 

「チャ~」

 

「大丈夫よサトシ、ピカチュウ。トウカジムでとーっても美味しいご飯が食べれるかも」

 

「え? トウカジムで?」

 

「さ、行こうぜ」

 

トウカシティをしばらく進んでいくと、少し古そうな道場といった雰囲気の建物が見えてくる。

その建物こそがトウカシティのトウカジムである。

 

「ここがトウカジムだ。久しぶりだ…やっぱ前よりボロくなってるな」

 

「もー! お兄ちゃん人の家に対してその言い方はないでしょ!」

 

「久しぶりって…それに人の家ってどういう事だよソラト、ハルカ」

 

「ピィカ? ピカチュ?」

 

「それは―」

 

話の内容がよく分からず、頭の上に?を浮かべながらピカチュウと一緒に首を傾げるサトシ。

話について来れず置いてきぼりになっているサトシに説明しようとソラトが口を開こうとすると、突然ジムの入り口の戸が開き、サトシ達より年下だろう眼鏡をかけた少年が出てきた。

 

「あれ? お姉ちゃん! もう帰ってきたんだね!」

 

「ただいま、マサト」

 

「お姉ちゃん!? それにただいまって、まさか!?」

 

少年とハルカのやりとりで大体の事情を察したサトシは驚愕に顔を染める。

 

「このトウカジムはハルカの実家なんだ。つまり、ハルカのお父さんはジムリーダーって事だ」

 

「えぇー!? ハルカがジムリーダーの子供!?」

 

「ピィカー!?」

 

サトシとピカチュウは驚きのあまり両手を挙げて片足立ちでビックリしたと全身で表現する。

コテコテのビックリポーズだが、思わず条件反射でやってしまったのだろう。

そんなサトシとピカチュウを見た眼鏡の少年は何かを思い出して驚いたのか、目を見開く。

 

「あー! アンタは!」

 

「え!? 俺の事知ってるのか!」

 

「シロガネ大会2回戦で負けた人!」

 

「だー!?」

 

自分が知られているのかと思って期待したサトシだったが、予想外の覚えられ方にズッこけてしまう。

因みにシロガネ大会とはジョウト地方で開催されたポケモンリーグの事である。

サトシはその大会の決勝トーナメントの2回戦でバシャーモ使いのハヅキに敗北してしまったのだ。

そんな不名誉な覚えられ方にサトシはちょっとムッっとしてしまう。

 

「ま、負けたって言っても決勝トーナメントなんだよ!」

 

「へぇ、サトシはシロガネ大会に出てたのか」

 

「そう、その人、サトルは2回戦で負けたんだよ」

 

「だーからー! 決勝トーナメントだったんだってば! それに俺の名前はサトルじゃなくてサトシ!」

 

ソラトが感心していると眼鏡の少年が横槍を入れてサトシがプライドを傷つけられて大騒ぎしてしまう。

ハルカとソラトがそれを見て苦笑いして眼鏡の少年が何故か得意げに胸を張っている。

そうしてジムの玄関先で騒いでいると、玄関から大人の男性と女性が現れる。

 

「マサト、玄関で何をしてるんだ?」

 

「誰かお客さん?」

 

「パパ! ママ! ただいま!」

 

「おぉ、帰ってきたのかハルカ」

 

「あらまぁ、おかえりハルカ」

 

ジムから出てきた男性と女性はどうやらハルカと少年の父親と母親のようだ。

つまり…

 

「あっちの人がセンリさん、トウカジムのジムリーダーでハルカのお父さんだ。そっちの人がミツコさん、ハルカのお母さんだ」

 

「おや…君はもしかしてソラト君!? ソラト君じゃないか!」

 

ソラトを見たハルカの父にしてジムリーダーのセンリは珍しく声を大きくしてその名を呼んだ。

ソラトもセンリを見ると懐かしさから自然と笑顔になりセンリに深いお辞儀をする。

 

「お久しぶりですセンリさん、ミツコさん。5年ぶりにホウエンに戻ってきました」

 

「あらソラト君! ホント久しぶりね~」

 

「顔を上げなさい。元気にしてたかね」

 

「はい、ポケモン達と一緒にずっと旅してました」

 

「そっか、そういえばソラトとハルカは幼馴染で家族ぐるみの付き合いなんだっけか」

 

「それだけじゃないのよ。パパはお兄ちゃんのポケモンバトルの先生なのよ!」

 

手をポンと叩いてソラトとセンリが仲良くしているのを思い出すサトシ。

しかし家族ぐるみの付き合いと言うにはソラトの態度がいやにピシっとしていると思ったサトシを察したのかハルカが捕捉をする。

 

「なるほど、ソラトのバトルの師匠なのか」

 

「ピィカ」

 

そうして納得した所でサトシとハルカのお腹がグゥ~と鳴る。

 

「あぁ、そういえば私達お腹ペコペコだったかも…」

 

「なら、今からウチでお昼にしましょう」

 

「わーい! ママのご飯!」

 

「ご馳走になります!」

 

こうして家の中へ案内されたサトシ達はリビングのテーブルに着いてご飯を待つ事になった。

ミツコは料理をするためにキッチンで作業をし、サトシ、ハルカ、ソラト、センリと眼鏡の少年はテーブルに座っている。

 

「では改めて。私がトウカジムのジムリーダー、センリだ」

 

「私はミツコ、よろしくね」

 

「僕はマサト! お姉ちゃんの弟だよ!」

 

「しっかし大きくなったなマサト」

 

「お兄さん…誰?」

 

ソラトはマサトの事を知っているようだが、マサトはソラトの事を知らないようである。

正確には覚えていないということなのだが。

 

「まぁ、俺が旅立った頃マサトはまだまだガキんちょだったからな。記憶にないのも当たり前だな」

 

「ほらマサト! 私がいっつもビデオ見てたでしょ! 写真も見せたし!」

 

「あぁ、お姉ちゃんがいっつも大好きって言っ――」

 

「あぁあああああ! ちょっとマサト黙ってて!!」

 

マサトが何かを言いかけるも、ハルカが大慌てでマサトの口を塞ぐ。

当のソラトや話が見えないサトシは首を傾げている。

だがサトシはやる事があるのを思い出し、早速センリにジム戦を申し込む事にした。

 

「俺はマサラタウンのサトシです。センリさん、ジム戦をお願いします!」

 

ハルカの家族の自己紹介が終わり、サトシはようやくジム戦を申し込む。

ジム戦はジムリーダーの都合が悪い時やチャレンジャーがルールに合わせられない場合は行う事ができないので、本人に直接申し込むのが礼儀となっている。

 

「勿論いいとも。ジムバッジは今幾つ持っているんだい?」

 

「ここが始めてです! トウカジムのルールはどうなんですか?」

 

「3対3の勝ち抜き戦だよ、サトル」

 

「サトルじゃなくてサトシだって! …あれ? そういやマサトは何で俺の事知ってたんだ?」

 

「そりゃあ僕はシロガネ大会のビデオ持ってるからね!」

 

最初から自分の事を知っていたマサトの事を思い出し、その事を聞いてみるとそう返事が帰ってきた。

ポケモンリーグはテレビで全国に中継されるため、録画しておけばビデオやDVDを作る事もできるのだ。

 

「私も5年前のお兄ちゃんのビデオまだ持ってるのよ!」

 

「あぁ、5年前のホウエンリーグの…まだ持ってたのか」

 

「ホウエンリーグ!? ソラトはホウエンリーグの出場経験があるのか!」

 

「ああ、ベスト4まではいけたんだがな。まぁ5年も前の話だ」

 

「その時のビデオがあるのか! 俺も見て見たいぜ!」

 

「まっかせて! お兄ちゃんが旅立った5年前に挑戦したホウエンリーグのビデオ! ちょっと最近見てなかったかもだから、今から見ちゃおうっと!」

 

「や、やめろって恥ずかしい! ハルカ!」

 

ウキウキと嬉しそうにハルカは部屋から出て行くと、目的のビデオを取りに行ったのだろう。

逆に、自分の昔のビデオとなって恥ずかしそうにソラトは止めようとするも、その前にハルカはビデオを持ってきてしまった。正にでんこうせっかである。

持ってきたビデオをさっさとビデオデッキに入れるハルカを止めようとするソラトだが、それを逆にセンリに止められてしまう。

 

「まぁいいじゃないか、ソラト君。料理ができるまで見ていよう」

 

「セ、センリさん…はぁ、分かりました」

 

ビデオが始まるとポケモンバトルのフィールドと黒いコートを着た少年、そして対戦相手の男性が映し出された。

 

「お、あれが5年前のソラトか」

 

「あぁ、何だか恥ずかしい…」

 

『さあホウエンリーグサイユウ大会、決勝トーナメント1回戦も大詰めです! ホウエンはトウカシティ出身のソラト選手のポケモンは残り1体! 対するユウマ選手も残り1体で互角の勝負! さぁこのバトルの決着はどうなるのでしょうか!?』

 

『レイ、バトルの時間だ!』

 

ビデオの中のソラトはボールを投げると出てきたのはレイと呼ばれたサーナイトだった。

 

『さぁサーナイト対マッスグマのバトルが始まります!』

 

『マッスグマ、とっしんだ!』

 

ソラトの対戦相手のポケモンのマッスグマは勢いをつけて走り出し、レイに向かってとっしんする。

 

『レイ、チャームボイスだ!』

 

とっしんしてきたマッスグマに向かってレイは可愛らしい声で波動を生み出して攻撃する。

素早い波動はマッスグマがとっしんを繰り出す前に当たり吹き飛ばした。

 

『おーっと、これはチャームボイスが決まった‼︎』

 

『くそ! マッスグマ、きりさく攻撃だ!』

 

今度はマッスグマがきりさくで反撃し、レイは避けれずに攻撃をまともに受けて後ずさる。

だがレイはすぐさま反撃の準備に入る。

 

『負けるなレイ! もう1度チャームボイスだ!』

 

『かわせ!』

 

テレビの中で激しい攻防を繰り広げるレイとマッスグマ。

そしてその攻防戦にもついに終止符が打たれる。

 

『マッスグマ、とっしん!』

 

『おーっと! マッスグマのとっしんがクリーンヒットした! これは勝負を決める一撃か!?』

 

マッスグマのとっしんがレイに命中するが、レイの目にはまだ闘志が宿っていた。

 

『レイ! ムーンフォースだ!』

 

『サーナー!!』

 

とっしんをして反動のダメージを受けているマッスグマに、レイは月の力を集めた球体を生み出して撃ちこんだ。

まともにムーンフォースを受けたマッスグマは吹き飛ばされて地面に転がり、戦闘不能となった。

 

『マッスグマ戦闘不能! サーナイトの勝ち! よって勝者、トウカシティのソラト選手!』

 

『決まったー! とっしんを受けてからのムーンフォース! ソラト選手逆転勝利です!』

 

「あーん! お兄ちゃんカッコイイかもー!!」

 

そんなビデオを見ていたハルカは目をハートにして大声で歓声をあげる。

 

「もう、お姉ちゃんこのビデオ何回も見てるくせにいっつもこうなんだから」

 

「別にいいでしょ! だってお兄ちゃんホントにカッコイイんだもの!」

 

「あー、やっぱ昔の自分のバトルって恥ずかしいな…」

 

「何だよ、いいバトルだったじゃないか」

 

マサトの突っ込みにハルカは目をハートにしたままテレビをずっと見続け、ソラトは顔を手で覆って隠して顔を赤くするが、サトシがフォローを入れていた。

そうこうしている内に料理が出来上がったようでミツコが料理を机に並べていく。

 

「はーい、おまちどおさま」

 

「「「うわぁ! いただきまーす!」」」

 

「「いただきます」」

 

沢山の料理を次から次へと口に放り込んでいくサトシ、ハルカ、マサトに対してソラトとセンリは落ち着いた様子で料理を食べ進めていく。

と、食事が一段落するとサトシはジム戦の件を思い出した。

 

「あっ、そうだ。結局ジム戦は3対3なんですよね」

 

「そうだよ。シロガネ大会に出るほどなんだ、ポケモンは沢山持っているんだろう?」

 

「はい…でも皆マサラタウンに置いてきたんです。今回の旅は新たな気持ちで始めようと思ったので、ホウエン地方でゲットしたポケモンでバトルしようと思ってるんです」

 

「中々良い心がけだね。ではまた新しいポケモンをゲットしたら来るといい。その時は喜んで相手をさせてもらうよ」

 

「はい! その時はまた挑戦しに来ます!」

 

サトシとセンリはバトルを次の機会にする約束を交わすと、男同士の堅い握手を交わした。

そうして食事を終えた頃、玄関から誰かの声が聞こえてくる。

 

「あれ、またお客さんかも?」

 

「多分、彼だな」

 

センリが玄関に向かうと、サトシ達もセンリに着いて行く。

そしてセンリが玄関の戸を開けると、そこにいたのは緑色の髪をした気弱そうな少年だった。

 

「やはりミツル君、君だったか」

 

「こ、こんにちはセンリさん…あの、その…」

 

「あ、ミツル君。こんにちは!」

 

「こんにちは」

 

「ハ、ハルカさん、マサト君。 ここ、こんにちは…」

 

ミツルと呼ばれた少年はセンリ達にとても小さな声で挨拶をするが、センリの厳しい視線から逃げるように顔を逸らす。

ハルカとマサトへの挨拶もどんどん声が小さくなっていき、何故か涙目になっていく。

 

「誰だ?」

 

「ご近所のミツル君よ。昔からあんな風に気弱な子なの」

 

初対面のサトシは見知らぬミツルを見て疑問を浮かべるが、どうやらハルカ達の友達のようだ。

 

「そ、その…センリさん。今日は、僕のポケモンを捕まえるお手伝いを…」

 

「確かに今日は君の初めてのポケモンを捕まえる約束をしたね。だがミツル君、君は隠し事をしていたね」

 

「そ、それは…!」

 

「君は病弱な体だというのに、私にその事を隠していたね。君の体を思えばこそ、そして隠し事をしていた君との約束を、私は果たす事はできない」

 

厳しい言葉により、ミツルの初めてのポケモンゲットに付き合う約束を断るセンリ。

だがそれはミツルの事を思えばこその言葉だった。

センリの拒絶の言葉を聞き、気弱なミツルは俯いて何も言えなくなってしまう。

 

「センリさん、そんな…」

 

センリに抗議しようとするサトシだが、ソラトに肩を掴まれて止められてしまう。

 

「ミツル、久しぶりだな」

 

「ア、アナタはソラトさん…! お、お久しぶりですっ…!」

 

先ほどまでの暗い顔から一転、ミツルはソラトの顔を見ると顔を真っ赤にして勢いよく頭を下げてソラトへ挨拶をした。

 

「うぇ? なんかソラトにだけ全然態度が違うぞ」

 

「ミツル君、昔からお兄ちゃんにすっごく憧れてるのよ」

 

「へぇー、流石ソラト。俺はサトシ、ホウエンリーグ目指してるんだ! よろしくなミツル!」

 

「は、はぃ…」

 

サトシが挨拶をすると先ほどと同じように気弱な対応になってしまう。

どうやらミツルにとってソラトは本当に特別に憧れの存在のようだ。

ソラトはミツルの前に来ると、ミツルは顔を更に赤くし、汗もダラダラと流れている。

 

「デカくなったな。体は大丈夫なのか?」

 

「あ…はは、ハイ! 何とか―ゲホッゲホッ!」

 

「大丈夫か? ゆっくり呼吸するんだ」

 

大声で答えようとしたせいなのか、ミツルは苦しそうに咳き込み膝を着いてしまう。

ソラトはミツルの傍によると背中をゆっくりと撫でて落ち着かせる。

 

「すいません、ありがとうございます」

 

「センリさんが行かないなら、俺がポケモンのゲットに付き合ってやるよ」

 

「ええっ!? いいんですか!?」

 

ミツルを見かねたソラトがセンリの変わりに一緒に行くことを提案するが、ミツルの体を心配するセンリは止めようとする。

 

「ソラト君、ミツル君の体は…」

 

「大丈夫です。ミツル、体を楽にしろ」

 

「は、はい………あ、あれ? 体が…!?」

 

ソラトがミツルの背に手をかざし、少し時間が経つとミツルは体の調子が今までに無いほど良くなっていた。

普段なら少し運動したり興奮するだけで咳が出てしまうが、今は体が軽く喉もとてもすっきりしていた。

 

「今のは…!」

 

その様子を見ていたサトシはミシロタウンでソラトの父親であるアラシがピカチュウにしていた事を思い出した。

あの時も帯電状態に陥っていたピカチュウを手をかざしただけで治療したのだ。

今ソラトが行ったのは、あの時のアラシと同じ事に見えたのだ。

 

「ソラト君、その力の多用はあまり良くないぞ」

 

「分かっています。ご心配ありがとうございますセンリさん。さぁ行けるなミツル?」

 

「は、はい! よよよ、よろしくお願いします!」

 

センリは今の事を何か知っているようでソラトに忠告をする。

ソラトは申し訳無さそうにセンリにお礼を言うとミツルに手を貸して立ち上がらせる。

立ち上がったミツルはまた顔を赤くしながら勢いよく頭を下げた。

 

「そうだ、ハルカとマサトも一緒に行くといい。ポケモンのゲットをソラト君から教わるといい」

 

「行く行く! 絶対行くよ! 僕ポケモンをゲットするとこまだ見たことないもん!」

 

「ミツル君の初めてのポケモンも気になるかも!」

 

「よーし、それなら俺も一緒に行くぜ!」

 

「ソラト君、サトシ君、ハルカとマサトとミツル君をよろしく頼むよ」

 

「「はい!」」

 

センリの勧めもありハルカとマサトの同行も決まり、サトシも勢いに任せて一緒に来ることが決まった。

こうしてサトシ達はトウカシティの近くにある野生のポケモンが出るポイントへと向かう事になった…そしてそんなサトシ達を見つめる3つの視線…。

 

「ジャリボーイ達発見ニャ」

 

「でも何だかジャリボーイ増えてるわね」

 

「さしずめ小ジャリボーイと弱ジャリボーイだな」

 

安心と信頼のムサシ、コジロウ、ニャースのロケット団の3人組であった。

ビルの屋上から双眼鏡と事前に仕掛けておいた集音機によりサトシ達の様子を伺っていた。

そしてロケット団の言う小ジャリボーイはマサトを指し、弱ジャリボーイはミツルの事を指しているのだろう。

 

「察するに、ポケモンをゲットしに行くみたいだな」

 

「じゃあ、ジャリボーイ達がポケモンをゲットしたところを…」

 

「横取りしてボスに届ければ…」

 

「「「幹部昇進! 支部長就任! イイカンジー!」」」

 

「早速後をつけるニャ!」

 

こうしてソラト達の背後をロケット団も着いていくのだった。

 

 

 

サトシ達はミツルを連れてトウカシティの外れにある森の中へやって来ていた。

この辺りは野生のポケモンの生息地であり、よく野生のポケモンが飛び出してくるのだ。

 

「さて、この辺りだな。ミツル、このポケモンを貸しておくよ」

 

ソラトはミツルにスイゲツの入ったモンスターボールを渡した。

 

「ポケモンをゲットするには、まずポケモンバトルで相手を弱らせてからボールを投げるんだよね!」

 

「その通りだマサト。もっと言うと麻痺や眠り、毒なんかの状態異常にしてやるともっと捕まえやすくなるな」

 

「流石ソラトさん。勉強になります」

 

マサトとミツルはソラトに教えて貰った事を漏れなくメモに書き込んでいく。

努力家でマメな2人の性格が出ていた。

 

「俺も強そうなポケモンがいたらゲットだぜ!」

 

「ピッカチュ!」

 

「私も何か可愛いポケモンがいたらゲットかも! お願いアチャモ!」

 

「アチャ、チャモモー!」

 

「あ、お姉ちゃんは最初のポケモンはアチャモにしたんだね」

 

「そうよ、可愛いでしょ!」

 

「でもキモリとかのが強そうだよ」

 

「チャモー!!」

 

「うわー! これがアチャモのつつくか…痛いけど感激だー!」

 

サトシとハルカも何かポケモンゲットを狙い、ピカチュウとアチャモをスタンバイさせておく。

だがアチャモのこととなりハルカとマサトの間でマサトがアチャモにつつかれドタバタしているが、サトシ達はあえてスルーする事にした。

そしてしばらく周囲を探っていると、草むらがガサガザと揺れてポケモンが飛び出してきた!

茶色と白い毛がギザギザに生えているのが特徴的なポケモン、ジグザグマだ。

 

「あー! ジグザグマだよ!」

 

「あれがジグザグマなのね」

 

『ジグザグマ まめだぬきポケモン

いつもあっちこっちへジグザグ歩くのは好奇心がとても強くて目に映るもの色んなものに興味を持つからである。』

 

ハルカが図鑑を開いてジグザグマを検索していると、ジグザグマはすぐにどこかへ行ってしまいそうになる。

 

「ミツル、逃げられるぞ」

 

「あっ、ど、どうしたらいいんですか!?」

 

「さっき貸したモンスターボールを投げるんだ」

 

「は、はい! えいっ!」

 

「ラグァ!」

 

ミツルはモンスターボールを投げるとボールからスイゲツが飛び出してくる。

スイゲツはすぐに戦闘態勢に入りジグザグマと向かい合う。

 

「凄い…! これがソラトさんのポケモンなんだ…!」

 

「ラグラージ、名前はスイゲツだ。ほら、これがスイゲツの使える技だ」

 

「頑張れよ! ミツル!」

 

「ジグザグマはノーマルタイプだよ!」

 

「頑張ってゲットかも!」

 

ソラトがミツルにポケモン図鑑を渡すと、そこにはスイゲツのデータや使える技が表示されていた。

サトシ達の声援を受け、ミツルは気合を入れなおす。

 

「ラグ!」

 

「ほら、スイゲツが指示を待っているぞ」

 

「え、えーっと…じゃあスイゲツ、まもる!」

 

「ラグラ!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「ザグ? ザグザグ!」

 

スイゲツはミツルの指示通りに緑色のバリアが張られ、守りの姿勢に入る。

が、守るだけのスイゲツをジグザグマは少し見ただけで逃げていってしまった。

 

「あーあ、逃げられちゃった」

 

「あう…すいませんソラトさん…」

 

ゲットに失敗して何故かマサトも残念そうだ。恐らくポケモンゲットの瞬間を見たかったのだろう。

ジグザグマに逃げられてしまいミツルは申し訳無さそうに謝るが、誰もが最初から上手くできる訳ではないと知っているソラトは微笑んでミツルの頭を撫でてやる。

 

「そんなガッカリするな。次は攻撃技を使ってダメージを与えるんだぞ」

 

「は、はい…! 戻って、スイゲツ」

 

「よーし、私も負けてられないわ! えーっと、可愛いポケモンいないかな」

 

ミツルに影響されたのかハルカもアチャモと共に森を進んでいくと、木の上から小さなポケモンの影が飛び出した!

 

「キャモー!」

 

「あっ、お姉ちゃんあそこにキャモメがいるよ!」

 

「あれがキャモメ!?」

 

『キャモメ うみねこポケモン

エサや大事な物を嘴に挟んで色んな場所に隠す習性を持つ。風に乗って滑るように空を飛ぶ。』

 

図鑑に表示されたまん丸で白いキャモメの姿を見てハルカは中々キャモメの事を気に入ったらしい。

 

「へぇー、可愛いかも! よし、行くのよアチャモ!」

 

「チャモチャモ!」

 

「あー! 待ってよお姉ちゃん!」

 

「俺達もキャモメを追いかけるぞ!」

 

飛んでいくキャモメを追いかけていくハルカとアチャモ。

森の奥へ走っていくハルカとアチャモを追いかけてサトシ達も走り出す。

しばらく走り続けていると体が弱く、普段から運動をしないミツルはすぐに息があがってしまい、フラフラになってしまう。

 

「はっ、はっ…!」

 

「頑張れミツル!」

 

「も、もうダメです…」

 

「仕方ないか…! あんまり動くなよミツル!」

 

「うわっ!? ソ、ソラトさん!?」

 

どんどんと走るスピードが落ちていくミツルの所まで戻ったソラトは、ミツルを肩に担ぎ上げると再び走り出した。

 

「ソ、ソラトさん僕はいいから降ろして下さい!」

 

「そんな事言ってたらポケモンは追いかけられないぞ! ハルカ、このままじゃ逃げられる! ひのこでキャモメを地上に引き摺り下ろすんだ!」

 

「分かったわ! アチャモ、ひのこ!」

 

「チャーモー!!」

 

「キャモ!?」

 

流石にミツルを担いでいるせいかソラトの走る速度は皆より遅く、どんどん遅れてしまう。

大声でハルカにアドバイスを出すとハルカはその通りにアチャモにひのこでキャモメに攻撃させる。

ひのこを受けて体制を崩してしまったキャモメは滑空の姿勢が崩れて高度を下げて地上に降りてきた。

 

「いいわよアチャモ! そのままつつく攻撃!」

 

「チャモー!」

 

「キャモモー!?」

 

つつくが届く距離まで近づいたアチャモは素早く近づいて嘴で攻撃を繰り出すと、キャモメは避けることもできずにまともにつつくを受けてしまう。

少し離れた場所に倒れたキャモメはそれなりのダメージを受けているようだ。

 

「今だハルカ! モンスターボールを!」

 

「そうね! お願い、モンスタボール!」

 

サトシの合図で、ハルカは腰の鞄から空のモンスターボールを取り出してキャモメ目掛けて投げた。

だがボールはキャモメの頭上を通り越し、木に当たって地面に落ちた。

 

「あれ…?」

 

「何してるのさお姉ちゃん!」

 

「もっとよく狙うんだ!」

 

「わ、分かってるわよ! もう1度、モンスターボール!」

 

再度ボールを投げると今度はキャモメに吸い込まれるように飛んでいき命中した。

キャモメがボールに入るとカタカタとボールが動いてキャモメの抵抗を示している。これが収まれば見事ゲットとなるが、ボールはパカンッと開いて中からキャモメが出てきてしまった。

 

「ああっ! ゲット失敗かも!」

 

「ダメージが足りなかったんだ。ハルカ、もっと攻撃するんだ!」

 

「えっと、えっと…アチャモ、ひのこよ!」

 

「チャモ! チャーモー!」

 

「キャーモー!」

 

アチャモがひのこを放つが、今度はキャモメもみずでっぽうで反撃をする。

ぶつかり合ったひのことみずでっぽうは、みずでっぽうがひのこを蒸発させて掻き消してしまった。

そのままみずでっぽうはアチャモに命中してしまう。

 

「チャモモー!」

 

「ああっ、アチャモ!?」

 

「まずいよ、みずタイプの技はアチャモに効果抜群なんだ!」

 

「キャモモッ!」

 

みずでっぽうを受けて動けなくなってしまったアチャモの隙を狙ってキャモメは翼を使って軽く飛び上がると、低空飛行のままアチャモに突進する。

そしてキャモメの翼が輝き、翼がアチャモに命中した。

 

「アチャー!」

 

「あれはキャモメのつばさでうつだよ!」

 

「アチャモ、大丈夫!?」

 

「チャモ~…」

 

ハルカはアチャモを抱き起こすが、アチャモの目はグルグル回っておりどう見ても戦闘不能だった。

その隙にキャモメは軽く羽ばたいて空へ飛び立つと滑空して逃げていってしまった。

 

「はぁ、はぁ…ダメだったか。はぁー、ちょっと休憩」

 

「す、すいませんソラトさん…」

 

「はぁ、はぁ…気にするなって。俺が勝手にやった事だからな…ふぅ」

 

そこへようやくミツルを担いだソラトが追いついてきた。

流石のソラトも人を1人担いで走っていたせいか息を切らしており、担いでいたミツルを地面に降ろすと地面に座り込んでしまう。

 

「あーあ、ゲット失敗かも」

 

「お姉ちゃんゲットへたっぴだね。僕ならゲットできてたよ!」

 

「うるさいわね! マサトだって実際やってみたらできっこないわよ!」

 

マサトの言葉にハルカはムキになって反論するが、マサトはゲット経験のあるサトシにゲットのお願いをすることにした。

 

「ねぇサトシ! サトシはゲットの経験沢山あるんでしょ? 僕にゲットする所見せてよ!」

 

「ぼ、僕にも是非お手本をお願いします…」

 

「よし、任せとけ。やってやろうぜピカチュウ」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ピカチュウを連れて今度はサトシが野生のポケモンを探していくと、先ほどのキャモメより小さいが、とてつもなく素早い影が空を飛んだ。

 

「あれは何だ!?」

 

「ありゃスバメだな。この辺のポケモンの中じゃバトル向けでオススメだぞ」

 

「そりゃいいや! よし、俺はあのスバメをゲットするぞ! ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ! ピカチュゥウウウウウウ!」

 

ピカチュウの電撃が空を切り裂き、飛行していたスバメに向かって一直線に向かっていく。

だが直前で電撃を察知したスバメは素早く電撃を避けてサトシ達に向かってくる。

 

「スバー!」

 

「あのスバメすっごく速いかも!」

 

「あれはでんこうせっかだよ!」

 

「来るぞピカチュウ! もう1度10万ボルトだ!」

 

「ピカ~チュゥウウウウウウウウ!」

 

「スバ~!!」

 

真っ直ぐに物凄いスピードででんこうせっかを放つスバメだが、ピカチュウが放った10万ボルトを今度は避けることができず、まともに受けてしまう。

だがスバメは大声を出すと、なんと10万ボルトを振り払ってしまった。

 

「何!?」

 

「そんな! ひこうタイプのスバメに電気技はこうかはばつぐんなのに!?」

 

 

スバメが突っ込んでくるのに対し、サトシとピカチュウは、改めてスバメと向かい合った。

 

「来るぞピカチュウ! かわしてでんこうせっかだ!」

 

「ピカ! ピィッカ!」

 

「スバ!? スバババッ!?」

 

スバメのでんこうせっかを紙一重でかわしたピカチュウは、逆にでんこうせっかを放ちスバメを吹き飛ばした。

だがスバメは地面に落ちる前に翼を羽ばたかせて体勢を立て直して空へ舞い上がる。

 

「逃がすか! ピカチュウ、かみなり!」

 

「ピィカ~、ヂュウウウウウウウウウウ!!」

 

「スババッ! スバ~!?」

 

ピカチュウから巨大な雷が放たれてスバメに直撃すると、流石に弱ったのかスバメは空から落ちてくる。

だが再びこんじょうで体勢を立て直したスバメはスピードを上げて落下し、ピカチュウに肉薄してつつく攻撃を繰り出した。

 

「スバッ!」

 

「ピィカ~!」

 

「ピカチュウ、大丈夫か!?」

 

「ピィ…ピカ!」

 

「特性がこんじょうとは言え、あのスバメ本当にスゲェ根性だな。かみなりを受けても戦闘ができるとは」

 

「何だかサトシに似てるかも!」

 

電気技の中でもトップクラスの威力を誇るかみなりを受けても戦闘を続けるスバメを見て、ソラトは素直に賞賛する。

ハルカはスバメの根性にどこかサトシと同じような気配を感じたようだ。

 

「負けるなピカチュウ! もう1度かみなりだ!」

 

「ヂュウウウウウウウウウウ!!」

 

「スババ~!」

 

再度かみなりが命中し、スバメは今度こそ地面に落ちた。

流石にもう体力はほとんど残ってはいないだろう。

 

「よーし、行け! モンスターボール!」

 

地面に倒れたスバメに向けてサトシはモンスターボールを投げつける。

ハルカとは違い、1発でスバメに命中するとスバメがボールの中へ入っていき、モンスターボールが揺れ始める。

 

「どうだ!?」

 

「ピィカ!?」

 

そのまま5回ほど揺れたボールはそれを最後に動かなくなり、ポン。とゲット完了の音が当たりに響き渡った。

 

「おっしゃぁ! スバメ、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「やったわねサトシ!」

 

「わぁ! 僕ポケモンのゲットするところ初めて見たよ!」

 

「これがゲット…凄い…凄い…!」

 

スバメをゲットしたことでサトシはビシっとキメるとハルカとマサトが初ゲットを見て興奮し、ミツルも感銘を受けていた。

そんなミツルを見たソラトは、そういえばと思い気になった事をミツルに尋ねてみる。

 

「さ、今度はミツルの番だな。そういやミツルは何か狙ってるポケモンはいるのか?」

 

「あ…はい。実は僕、ラルトスが欲しいんです。5年前のソラトさんのホウエンリーグなバトルを見て、サーナイトに憧れて…」

 

「そっか。そういやソラト、さっきのビデオでサーナイト使ってたな」

 

「なるほどな。俺のサーナイトのレイも、昔ラルトスの頃にこの辺りでゲットしたんだ。探せばすぐに見つかるさ」

 

「はい…って、アレ? あのポケモンって」

 

「「「「え?」」」」

 

木の陰からサトシ達のことをこっそりと見ていた小さな白い体、緑の頭に赤いツノを持つポケモンは、間違いなくかんじょうポケモンのラルトスだった。

 

「あれがラルトスか!?」

 

『ラルトス かんじょうポケモン

人やポケモンの感情を頭のツノでキャッチする。敵意を感じると隠れてしまう。』

 

「よ、よし、今度こそ! お願いします、スイゲツ!」

 

「ラグ!」

 

「ラル…ラルル」

 

再びスイゲツを呼び出すと、スイゲツはラルトスの隠れている木に向かって構えを取る。

構えを見て少し怯えるように反応をしたラルトスだったが、すぐに木陰から出てくるとスイゲツと向かい合った。

 

「あれ、何でラルトスの方から出てきたの?」

 

「ラルトスはあのツノで人の感情を感じれるんだ。前向きな感情を察知すると出てくるって言われてるから、きっとミツルの気持ちに反応したんだろう」

 

「そっかー! 頑張ってー、ミツル君!」

 

「は、はい! 今度こそ攻撃技を…スイゲツ、たきのぼり!」

 

「ラグ! ラッガァアアアアアアア!」

 

「ラルー! ラ…ラルル!」

 

水を纏い、まるで滝を昇るかのような勢いでスイゲツはラルトスへ突っ込んでいく。

たきのぼりを避ける事もできず、ラルトスはまともに攻撃を受けてしまう。

だが攻撃を受けても何とか立ち上がったラルトスは反撃のためにサイコパワーを発生させてねんりきを使う。

ねんりきにより周囲にあった大きめの石がスイゲツに向かって放たれる。

 

「ミツル、こういう時こそ防御技だ!」

 

「はい! スイゲツ、まもる!」

 

スイゲツが再び緑のバリアを展開して守りの姿勢に入ると、飛んできた石はバリアに阻まれてスイゲツまで届くことは無かった。

 

「よ、よし! スイゲツ、グロウパンチ!」

 

「ラグラ!」

 

「ラールー!?」

 

ラルトスの攻撃を防御し、闘気を纏ったパンチを繰り出して反撃をする。

グロウパンチは見事にラルトスに当たると、ラルトスは地面に倒れてしまう。

戦闘不能ではないが、かなりのダメージになっているようだ。

 

「今だ!」

 

「は、はい! お願いします、モンスターボール!」

 

ラルトス目掛けて投げられたモンスターボールは見事命中し、ボールの中にラルトスが入っていく。

そしてボールが揺れる。ゲットの為の最後の関門だ。

 

「お願い…お願い…!」

 

ミツルは手を前で組んで祈るように言葉を呟いている。

5年前から憧れたソラトに追いつくための第一歩として、ここで失敗する訳にはいかないという想いがミツルの中を渦巻いていた。

そして、十秒ほどボールが揺れると…

 

ポン。という音と共にゲットが完了した。

 

「あ…わぁ! やったぁ!」

 

「ゲット成功かも!」

 

「やったなミツル!」

 

「は、はい! ソラトさん、ありがとうございます! サトシさんもありがとうございます!」

 

「え? 俺は別に何もしてないぞ?」

 

「いえ、さっきのスバメのゲットがとても参考になりました! ありがとうございます!」

 

どうやらミツルは先ほどのサトシのゲットを見てそこから色々とヒントを得ていたようだ。

それがラルトスのゲットに繋がったのだろう。

 

「よし、出てきてラルトス」

 

「ラルラル」

 

「僕はミツル。これからよろしくねラルトス」

 

「ラール」

 

ミツルはゲットしたラルトスを早速ボールから出すとラルトスを抱きかかえてお互いに挨拶を交わした。

ラルトスも嬉しそうにミツルに抱きついている。

 

「なんだかラルトスも嬉しそうだよ? さっきまでバトルしてたのに」

 

「ラルトスもミツルにゲットされたかったんじゃないか? 俺も今までの旅でポケモンの方から仲間になってくれた事もあったぜ」

 

「へぇー、そうなんだ。バトルしてゲットするだけじゃないんだね!」

 

サトシのポケモン達の中にはバトルではなくそれまでの出来事を乗り越えて絆を結び、ポケモン達の方からゲットを望んだ事もあった。

その体験談を聞いたマサトは驚いたような、それでいて嬉しそうにしていた。

 

だがそこへ突然長く伸びてきたアームがピカチュウとラルトス、アチャモとスイゲツを捕まえるとそのまま空へ連れ去っていってしまった。

 

「ああっ、ラルトス!?」

 

「スイゲツ!」

 

「ああっ、私のアチャモ!?」

 

「ピカチュウ! いったい何なんだ!?」

 

ポケモン達が連れ去られた方を見れば、そこには空に浮かぶニャースの気球。

勿論それに乗っているのは―

 

「いったい何なんだ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

―ズッコケ悪の組織、ロケット団の3人組だった。

アームに掴まれたピカチュウ達は気球の下に吊るされている頑丈そうな檻に放り込まれてしまう。

 

「ロケット団! ピカチュウ達を返せ!」

 

「お姉ちゃん、あの人達なんなの?」

 

「ロケット団っていう、悪の漫才トリオよ!」

 

「「「ちがーう!!!」」」

 

あながち間違いでもないのだが…ハルカにとってロケット団はそういった認識だったらしい。

 

「ニャー達は人のポケモンを奪い世界征服を企む悪の組織ニャ!」

 

「手始めにお前達のゲットしたポケモンを奪ってやったのだ!」

 

「そして作戦成功したからには長居は無用よ!」

 

「「「帰る!」」」

 

ロケット団を乗せたニャースの気球はすぐにUターンして去っていってしまう。

それを逃がすまいと、サトシ達も走って気球を追いかける。

 

「待てー! ロケット団!」

 

「ラルトスを返して下さい! 僕の初めてのポケモンなんです!」

 

「アチャモを返しなさーい!」

 

「返せと言われて返す悪党はいないのよ!」

 

「スイゲツ、檻を壊すんだ!」

 

「ラグ!」

 

ソラトの指示により、檻に入れられたスイゲツはグロウパンチで檻を殴って脱出を試みる。

スイゲツだけではなくピカチュウとアチャモも檻に向かってでんこうせっかとつつく攻撃で檻を破壊しようとする。

 

「無駄だ無駄だ! この檻はそう簡単には壊れないんだ!」

 

「だったら…頼むぞスバメ! あの気球につつく攻撃!」

 

「スバッ! スバーッ!」

 

サトシは先ほどゲットしたばかりのスバメを出すと、スバメは一直線に気球に向かいつつくで気球を割った。

 

「「「げげげっ!? ギャーッ!!」」」

 

気球は浮力を失い森の中へ墜落してしまう。

だが墜落のショックでも檻は壊れず、ピカチュウ達は中に閉じ込められたままだった。

 

「もう逃がさないぞ、ロケット団!」

 

「ぐぬぬ~、こうなったらポケモンバトルよ! 行くのよアーボック!」

 

「マタドガス、お前もだ!」

 

「シャーボック!」

 

「マータドガース」

 

墜落したロケット団に追いついたサトシ達だが、ロケット団も腹をくくったのかポケモンを繰り出してきた。

対するサトシはスバメで迎え撃ち、ソラトもフウジンのボールを投げる。

 

「頼むぜスバメ! でんこうせっかだ!」

 

「スバ!」

 

「フウジン、リーフブレードだ!」

 

「ダーテン!」

 

先手を取ったスバメとフウジンはアーボックとマタドガスを吹き飛ばす。

 

「負けんじゃないわよアーボック、どくばり!」

 

「マタドガス、ヘドロ攻撃だ!」

 

「スバメ、かわすんだ!」

 

「フウジン、かげぶんしん!」

 

スバメは飛び上がってヘドロ攻撃を避け、フウジンはかげぶんしんでどくばりを避けた。

 

「アーボック、ずつきよ!」

 

「マタドガス、たいあたり!」

 

「かわしてつつく攻撃!」

 

「フウジン、じんつうりきだ!」

 

アーボックのずつきを避けてスバメはその頭に嘴でつつく攻撃を繰り出す。

フウジンはマタドガスのたいあたりが決まる前にじんつりきでマタドガスを宙に浮かべ、地面に叩きつけた。

 

「やったわ! スバメのつつく、効いてるかも!」

 

「じんつうりきはエスパータイプの技だし、どくタイプのマタドガスにこうかはばつぐんだよ!」

 

「ソラトさん、サトシさん…2人とも凄い…」

 

つつくとじんつうりきによって吹き飛ばされたアーボックとマタドガスはその場に倒れこんで戦闘不能になってしまう。

その隙はソラトは見逃さなかった。

 

「今だフウジン! あの檻にリーフブレード!」

 

「ダーッテン!」

 

「ピカッ!」

 

「チャチャモー!」

 

「ラグラ!」

 

フウジンの草の刃は檻の格子を真っ二つにして破壊し、その格子の間からピカチュウ、アチャモ、スイゲツが脱出した。

ラルトスも逃げ出そうとするが、その前にニャースに捕まってしまう。

 

「ラルトス!」

 

「逃がさないわよ!」

 

「こうなったらラルトスだけでもゲットしてやるぜ!」

 

「ラル! ラルル…!」

 

「ぼ、僕のラルトス…ゲホッ、ゲホッ!」

 

ラルトスを捕まえたロケット団はすぐにその場から走って逃げ出そうとする。

ミツルも追いかけようとするが、体の調子が悪くなってきたのか咳き込んでその場に蹲ってしまう。

 

「ミツル君、大丈夫!?」

 

「くそ! ラルトスが一緒じゃ攻撃できないし…!」

 

「ラルトス…僕の、初めての…!」

 

ミツルは諦めきれないのか、苦しい体を引きずるようにフラフラと走り出した。

だが心臓の辺りを押さえながらすぐに倒れこんでしまった。

 

「ミツル! 無茶するな!」

 

「僕の、始めての…とも、だち…!」

 

倒れたミツルをソラトが肩を貸して立ち上がらせると、ミツルはラルトスに向かって手を伸ばした。

だがロケット団はどんどん遠ざかっていってしまう。

 

「ラルトス…ラルトスー!」

 

苦しい心臓を押さえながら、ミツルはありったけの想いを込めて叫んだ。

 

「ラル…ラールー!」

 

そのミツルの想いに応えたのか、突然ニャースの手の中からラルトスの姿が消え、すぐにミツルの傍へと現れた。

 

「ニャニャ!? ラルトスが消えたニャ!?」

 

「「えー!?」」

 

「ラルトス!」

 

「ラル!」

 

ミツルの傍へ瞬間移動したラルトスは手を広げて迎えるミツルの腕の中へ飛び込んだ。

 

「今の技はなに!?」

 

「テレポートだよ! ラルトスはテレポートを覚えたんだ!」

 

「よし、今だピカチュウ! かみなりだ!」

 

「ピィカー…ヂュウウウウウウウウ!!」

 

「「「ぎゃぁああああああああ!?」」」

 

ラルトスが居なくなった事によりロケット団へ攻撃できるようになったため、すぐにサトシとピカチュウはかみなりを放つ。

かみなりを受けたロケット団はドカン!と爆発して吹き飛んだ。

 

「「「ヤなカンジー!!」」」

 

「ソーナンス!」

 

「やったぜピカチュウ!」

 

「ラルトス、無事で良かった!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「ラルル」

 

キラン☆と空の星となったロケット団達を見送り、無事ポケモン達を取り返したサトシ達はトウカシティに戻ることになった。

 

 

 

日が暮れてきた頃、サトシ達は次のジムがある街を目指して旅立つ事にした。

トウカジムの前でサトシとハルカ、それに向かい合うようにセンリとミツコ、マサトとミツルが赤い夕日に照らされていた。

 

「サトシ君、ハルカの事をよろしく頼むよ」

 

「色々迷惑かけると思うけど、サトシ君とソラト君が一緒なら安心だわ」

 

「はい、任せて下さい!」

 

「もう、パパもママも心配性かも」

 

ハルカの事を心配してサトシにハルカの事を頼むセンリとミツコにサトシは力強く頷いた。

そしてリュックを背負ったマサトがサトシ達の方へとやって来る。

 

「ふふん、お姉ちゃんだけじゃ心配だから僕も一緒に旅に着いていくよ!」

 

「えぇ~!?」

 

「それはいい。ポケモンの事を色々知っているマサトがついていけば何かと役に立つだろう」

 

「うぅ…最初はお兄ちゃんと2人旅の筈だったのに…」

 

なにやらマサトが着いてくると決まり更にガックリしているハルカは置いておき、ミツルが前に出てくる。

 

「サトシさん、僕…もう少ししたらラルトスと一緒に旅に出ます! そして、今期のホウエンリーグに出場してみせます!」

 

「そっか、じゃあ俺達はライバルだな! 頑張れよ、ミツル!」

 

「はい! サトシさんにも、ソラトさんにも負けないように頑張ります!」

 

どうやらサトシにはホウエン地方で新しいライバルが出来たようだ。

サトシは新しいライバルとの未来のバトルに思いを馳せ改めてジムバッジゲットとホウエンリーグへの出場を誓った。

 

「あれ? そう言えばソラトさんは?」

 

「え? そういえば居ないな」

 

「恐らくソラト君はあそこだろう。着いて来なさい」

 

センリはソラトの行き先に心当たりがあるのか、街の外れに方へ向かって歩き出し、ハルカも迷いなくセンリについていく。

サトシやミツル、マサトは首を傾げながらもセンリについて行く事にした。

 

そしてソラトは、トウカシティの外れにある大きな丘の上に居た。

何かを懐かしむような、悲しいような、何かを決意したような、様々な感情が混ぜこぜになったような瞳をしたソラトは、墓の前に屈んだ。

 

「5年も1人にしてごめんな、オフクロ…」

 

丘の上でソラトが向かい合っているのは1つのお墓。

墓にはソヨカ、ここに眠る。と書かれており、無くなった日付が刻まれていた。

 

「オヤジはまだ見つからないけど…絶対にここに連れてくるから。約束はきっと果たすよ」

 

「おーい! ソラトー!」

 

「ピカピカー!」

 

「サトシ…皆」

 

センリを先頭にしてやって来た皆を見て、ソラトは立ち上がって振り返った。

 

「ソラト、こんな所で何やってるんだ?」

 

「あれ? それってお墓?」

 

「ああ…俺のオフクロのな」

 

「ソラトのお母さん!?」

 

ソラトは自分で思い出すかのように夕日で赤く染まった空を見上げながら語りだした。

 

「……俺のオヤジはポケモン冒険家でな。世界中の遺跡やら大自然やらを巡っているんだ。だがある時から行方が分からなくなってな」

 

「そっか、それでソラトはアラシさんを探してるんだな」

 

「そういう事じゃないんだ。5年前、オフクロが不治の病で倒れちまった。オフクロはすぐに衰弱して動けなくなった…そして最後に言ったんだ…『あの人に会いたい』ってな」

 

「あの人って言うのは…」

 

「アラシさんの事よ。お兄ちゃんは、お母さんのソヨカさんが亡くなってからすぐに旅に出たの。アラシさんをここに連れてくるって墓前に約束をしてね」

 

「…だから俺は必ずあのクソオヤジをとっ捕まえてここでオフクロに謝らせるんだ。絶対にな」

 

「そうだったのか……旅の途中で俺も手伝うよ、アラシさん探すの!」

 

「私もお兄ちゃんの為に手伝うかも! その為の旅なんだし!」

 

「僕もー!」

 

「サトシ、ハルカ、マサト…ありがとな」

 

ソラトはサトシ達の言葉が嬉しかったのか顔を赤くし、そしてそれを隠すようにフードを目深に被った。

センリとミツコはそれを微笑ましそうに眺めていた。

 

「ソラトさん…」

 

「ミツル、どうかしたか?」

 

「ぼ、僕ももう少ししたら旅に出て、ホウエンリーグの出場を目指そうと思うんです! 僕も旅先で、アラシさんの事探してみます!」

 

「そっか…ありがとな。それなら俺も今期のホウエンリーグの出場を目指してみるかな」

 

「「え…?」」

 

ソラトの思いがけない言葉に、ミツルだけではなくサトシも思わず声を出す。

 

「3人でホウエンリーグを目指して、誰が優勝できるか勝負だ」

 

「は、はい! 僕、お二人に負けないように頑張ります!」

 

「よーしピカチュウ! 俺達も優勝目指して頑張るぞ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ソラトの冒険の理由を知り、そして2人の新たなライバルを得たサトシ。

ホウエンリーグ出場のための彼らの旅は、まだまだ続く!

 

 

 

to be continued...




新ライバルとしてミツル君登場です。
サトシとソラトとミツルの3人のホウエンリーグでの決戦を楽しみにしていてください。まぁ当分先ですが…。
え? マサムネ君?

…次回もお楽しみに。

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