ポケットモンスター-黒衣の先導者-   作:ウォセ

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ポケッターリ
モンスターリ


むげん島の冒険

ポケモンコンテストカイナ大会を終え、ルチアと別れたサトシ達。

そろそろ次のジムがあるキンセツシティを目指すために出発の準備を整える事になったのだが…。

 

「「「むげん島?」」」

 

「ああ、カイナシティの南にある小さな島なんだが…その島には珍しいポケモンが住んでいるらしいんだ。ツワブキ社長から預かった荷物を造船所に届けた時、お礼にむげん島行きのチケットを貰ったんだ。折角だしカイナを出発する前に行ってみないか?」

 

ソラトの手には小さなチケットが握られている。以前造船所のクスノキ館長から譲り受けたむげん島行きのチケット、むげんチケットだ。

今日明日にもカイナを出発する予定だったのだが、朝食の最中にソラトに提案されたサトシ達は目を輝かせていた。

 

「ピッカー!」

 

「僕行きたーい!」

 

「俺も構わないぜ!」

 

「私も! 次のポケモンコンテストに備えて、可愛いポケモンをゲットしたいかも!」

 

珍しいポケモンがいる、と聞いたマサトは大賛成のようだ。

サトシとハルカも乗り気のようなので、満場一致である。

 

「それじゃ、飯を食い終わったらむげん島行きの船のある港に行ってみるか」

 

「「「おーっ!」」」

 

テンションが上がるサトシ達だが、そんな彼らの会話に聞き耳を立てるポケモンセンターの清掃員が3人居た。

ツナギを身につけておりモップや雑巾で床や窓を磨く人物達は一見すればただの清掃員だが、その正体はいつものロケット団である。

今日もピカチュウゲットのためにサトシ達の隙を伺いつつ動向をチェックしているのだ。

むげん島へ行くという事を聞いたムサシ、コジロウ、ニャースは目立たない場所で集合すると作戦会議に入る。

 

「ほーう…珍しいポケモンがいるむげん島ね」

 

「フン、分かり易いじゃない。ジャリボーイ達の後をつけてその島に行き…」

 

「その珍しいポケモンをゲットすれば、幹部昇進支部長就任イイカンジは間違いナシニャ…!」

 

本来は一般人の立ち入りができない秘境であるむげん島だが、サトシ達の後をつければ発見と進入も容易い事だろう。

つまり島に入ってしまえばピカチュウも、その珍しいポケモンもゲットのチャンスがあるという事だ。

今日こそロケット団の野望のために、ムサシ、コジロウ、ニャースの3人は食事を終えてポケモンセンターから出て行くサトシ達の後を追いかける事にしたのだった…。

 

無論、清掃のバイト代はおじゃんとなった。

 

 

 

 

 

港にたどり着いたサトシ達はむげんチケットに書かれている船のある場所にまでやって来る。

だが大きな豪華客船のような物は見当たらない、普通の漁船のような船が多くある小さな港だった。

 

「ソラト、むげん島行きの船はどれなんだ?」

 

「んー…出発はこの港って事しか書かれてないな」

 

「あそこに人がいるよ。ちょっと聞いてみようよ」

 

チケットには場所しか書かれておらず、詳しい事が分からなかったため港にいる人物に声をかけて何か知っていないか聞き込みをしてみる事にした。

一先ずはマサトが見つけた桟橋の先で座っている青年に声を掛けてみる。

 

「あの、すいません」

 

「ん、なんだい?」

 

「この辺りからむげん島に行くための船が出てるみたいなんですけど、何か知りませんか?」

 

マサトの言葉に青年は表情を固くした。

 

「むげんチケットは持っているかい?」

 

「あ、はい。これです」

 

ソラトが持っていたむげんチケットを渡すと、青年はそれをまじまじと見つめる。

そしてソラトに目を向けると少しだけ威圧するような視線でソラトを射抜く。

何故そんな目で見られるのかソラト達も理解できないで戸惑うが、皆がその意図を問う前に青年が口を開いた。

 

「このチケットはどこで手に入れたんだい?」

 

「造船所のクスノキ館長から頂いたんです」

 

「…クスノキ館長か。なるほど彼が渡したのなら信用できる人なんだろうな」

 

問われた内容にソラトが正直に答えると、青年は納得したような表情になり威圧するような視線を収め、頭を下げた。

 

「変に威圧して悪かった。俺の名はヨウキ…むげん島の番人だ」

 

「「「「番人?」」」」

 

むげん島の番人というイマイチ把握しきれない事情に、サトシ達は揃って首を傾げてしまう。

しかし何か事情があるというのは何となく察することができたサトシ達は、ひとまず挨拶をしておく事にした。

 

「あ、俺サトシです」

 

「ピカ、ピカチュウ」

 

「私ハルカです」

 

「マサトです」

 

「ソラトです。ところでヨウキさん、むげん島の番人とはいったい…?」

 

それぞれが自己紹介を終えるとソラトが代表して疑問を問う。

 

「むげん島には珍しいポケモンが沢山いるというのは知っていると思うけれど、そのポケモンを密猟者達から守るために俺が島に入る者を制限しているんだ」

 

なるほど、とサトシ達も納得した。

普段ロケット団からポケモン達を狙われているサトシ達ならではの納得である。

 

「それに…まぁ、むげん島には珍しいというよりも、特別なポケモンがいるんだ」

 

「特別?」

 

「ああ、とりあえずむげん島へ向かうとしよう。運が良ければそいつにも出会えるさ」

 

ヨウキはそう言うと桟橋の先にあった漁船に乗り込むとサトシ達にも乗り込むよう促す。

そしてサトシ達が漁船に乗り込むとヨウキは船を出してむげん島へと向かい発進した。

発進した船の後を追うように空をフワフワと漂いながら海に出たロケット団のニャース型気球もそれを追いかけた。

 

「ジャリボーイ達が海に出たぞ」

 

「ニャース、もっとスピード出せないの!?」

 

「んニャこと言われても、気球だから限界はあるニャ。見失わないように双眼鏡でジャリボーイ達を監視するのニャ」

 

「ソーナンス!」

 

気球のフワフワとした速度では漁船と言えども船には置いていかれてしまっている。

幸い海には身を隠す障害物はないため双眼鏡を使ってサトシ達を見張りながら追いかける事にした。

そうしてサトシ達が海を進み、ロケット団が空を進む事数十分。

 

「あれ、霧が出てきたよ」

 

マサトの言うとおり、突如として白い霧が出てきて視界が悪くなってしまう。

10メートルほど先ならば問題ないのだが、それ以上はほとんど先が見えなくなってしまった。

 

「むげん島は周囲に霧が掛かる特別な環境になっているんだ。そして、周囲の岩礁が生み出す特殊な海流もあって普通の船ではまず近づく事すらできない」

 

「ええっ!? じゃあどうやってむげん島に行くんですか!?」

 

「はは、大丈夫さ。むげん島の番人をやっている俺なら、海流のルートは把握しているしこの霧もむげん島が近いという目印でしかないからね」

 

近づくことすら難しい特殊な環境の事を聞いてハルカが慌てるが、ヨウキはこれっぽっちも取り乱す事無く船を操って海流に乗る。

海流に逆らわず、流れに身を任せつつ進路を取る。

 

「この環境のお陰でむげん島には独特の生態系が築かれていて、珍しいポケモンが住み着くようになったんだよ。外部からはむげんチケットを持った人を俺が時折案内するくらいしかないからね」

 

「つまり、ヨウキさんが認めた者以外は立ち入れない。その名の通り番人って事なんですね」

 

「あぁ…ただこの前、俺が案内した覚えの無い男がむげん島にいたんだ」

 

「と言うと…?」

 

「さっき言っていた特別なポケモンの様子を見るために、時々むげん島に足を運ぶんだが…その時ある男が島にいたんだ。そしてその特別なポケモンの片割れを連れて行ってしまったんだ」

 

「まさか密猟者が?」

 

内容だけ聞けば密猟者やポケモンハンターが何らかの手段を使って島に侵入して特別なポケモンを無理やり連れて行ってしまったという風にも取れる。

だがヨウキは首を横に振った。

 

「いや、話してみたけど悪い人じゃなかったよ。そのポケモンも自分の意思で彼についていくと決めたようだったしね。…でもどうやってやって来て、どうやって去っていったのかまるで分からないんだ」

 

「うーん、飛行機や飛べるポケモンに乗って空から来たとか?」

 

マサトがそう言うと、ヨウキはまたしても首を横に振った。

 

「この霧と海流の他にも、上空も強い気流があってね。並のひこうポケモンは近寄れないし、飛行機でも島に着く前に墜落してしまうんだ」

 

空も海も、ヨウキ以外の人間ではまともに近づけないむげん島にどうやってかやって来た人物。

それが誰なのか、どうやってやって来たのかをサトシ、ハルカ、マサトはうーんと唸りながら考えていたのだが…ソラトは何だか嫌な予感がしていた。

そこで荷物の中から写真を取り出し、ヨウキに差し出してみる。

 

「その、ヨウキさん…もしかして何ですがその男ってこんな風貌じゃなかったですか?」

 

差し出したのはソラトがアラシを探すのに使っている家族写真。

方法はソラトにも考え付かないが、神出鬼没のアラシならばむげん島にやって来ているのではないかという予感がしたため尋ねてみたのだ。

そしてその予想は当たっていた。

 

「ああ! この人だよ! もしかしてソラト君の知り合いなのかい?」

 

どうやってむげん島にやって来たのか、そしてそこにいる特別なポケモンを身勝手に連れて行ったアラシに対してソラトは呆れ、思わず右手で顔を覆ってしまった。

 

「やっぱりか…その男は俺の父親なんです。いつ頃来てましたか? 次にどこに行くとか言ってませんでしたか?」

 

「親父さんだったのか…見かけたのは確か3週間ほど前だったかな。どこへ行くかは言っていなかったけれど、ポケモンを連れて行ったのも何か特別な理由があったからだと思うよ」

 

「…そうですか。ありがとうございます」

 

時間的に考えて恐らくシーキンセツから直接むげん島に向かい、その特別なポケモンを連れて去っていったという所か。

ヨウキはアラシの事を悪く思っていないようなのでフォローしていたが、ソラトからすればソヨカの墓参りにも来れないほどの特別な理由とやらを問い質したい所であった。

 

「ともかく、もうすぐむげん島だ。到着したら俺から離れない所でなら自由に探検してくれて構わないからね」

 

「「「はーい!」」」

 

むげん島に到着するまでもう数分のところまで来ていたため、サトシ達は上陸の準備を整えて心を躍らせる。

 

 

 

 

 

そしてここはむげん島近海、その上空。

ニャース型の気球をどうにか操作してサトシ達を追っていたロケット団3人組だったが、霧の中にサトシ達が消えてしまってから追跡できないでいた。

 

「どう、コジロウ?」

 

「駄目だな。霧の中に入ってから完全に見失っちまった」

 

「どうすんのよニャース、何かこう、巨大扇風機とか作ってあの霧吹き飛ばせないの!?」

 

「んニャ無茶言われてもニャ…」

 

「こうなったら、あの霧の中にアタシ達も突入するわよ!」

 

せっかちで基本的に待つのが苦手なムサシからすればやる事のない現状は我慢ならない所があった。

そのため気球を操作して霧の中へ入っていく事になってしまう。

やはり霧の中は先が見通せず、これではサトシ達を発見しようにもかなり接近しなければ見つけられないだろう。

 

「んー、10メートルくらいなら先は見えるが…こりゃ見つけるのは難しいぞ」

 

「でもこのまま浮いてればその内むげん島にたどり着けるかもしれないニャ」

 

「それもそうだな」

 

「そこにはジャリボーイ達もいる筈よ。そこでピカチュウとむげん島の珍しいポケモンを一網打尽に―」

 

作戦を練っているロケット団の所へ、突如としてゴウッと吹き荒れる暴風がやってくる。

霧と共に気球をも吹き飛ばすその風に煽られたロケット団は思わず気球にしがみ付く。

 

「うわわわわっ!? ちょっと、どうなってんのよ!?」

 

「妙な気流の中に入っちゃったんじゃないか!?」

 

「うニャー!? ニャんにしてもこのままじゃマズいニャー!」

 

「ソーナンス!」

 

右へ左へ、上へ下へと風に煽られて気球ごと縦横無尽に吹き飛ばされていくロケット団。

しばらくは持ちこたえていたものの、気球の方に限界が来てしまい風に負けてバリっと破れてしまい急速落下していく。

 

「「「ぎゃああああああっ!? ウッソだぁああああああっ!?」」」

 

浮力を失い、風に煽られつつ海へドボンッ!と墜落してしまったロケット団。

勿論むげん島付近の特殊な海流に流されてしまう彼らの運命はどっちだ。

 

 

 

 

 

一方のサトシ達はむげん島に無事到着していた。

 

「よし、着いたぞ」

 

「わぁ…! これがむげん島なのね!」

 

むげん島自体には霧がかかっておらず、島を十分に視認できるようになっている。

美しい青々とした草原と森、島の中心にある見事な山、浜辺付近の海はほとんど流れもなく静かに美しく波を立てていた。

 

「よーし、上陸だぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

サトシとピカチュウは天然の桟橋になっている岩に飛び移り上陸し、それに続いてハルカとマサト、ソラトも上陸していく。

最後にヨウキも船を岩に繋ぎサトシ達の元へとやって来た。

 

「よし、それでどうするんだい? よければ森の奥にあるポケモン達の住処まで案内しようかい?」

 

「「「お願いします!」」」

 

珍しいポケモン達の住処と聞いてサトシ達は喜んでヨウキの案内をお願いした…のであるが、ソラトは是非ともヨウキに頼みたい事があった。

 

「ヨウキさん、俺はオヤジが連れて行ったっていう特別なポケモンの片割れに会ってみたいんですが…」

 

アラシが連れて行ったポケモンの片割れ、つまり仲間であるのならアラシの旅の目的が何か分かるかもしれないという思惑からソラトはそのポケモンに会ってみたかった。

 

「あぁ…そのポケモンは普段から島のあちこちを飛び回っているから出会えるかどうかは運なんだ」

 

「そう、ですか…」

 

折角むげん島にたどり着いたと言うのに、ソラトのテンションは低めだった。

予想外にアラシの手がかりを掴めるかもしれないと思ったが、その手がかりが手に入るかどうか分からないとなっては落ち込みもするだろう。

 

「お兄ちゃん…ほら、お兄ちゃん! しっかりして! そのポケモンを見つけれるように探してみましょう!」

 

「そうだよソラト! ほら、行ってみようぜ!」

 

「見つけたポケモンでソラトが知っているのがいたら教えて欲しいし!」

 

そんなソラトを元気付けるように、ハルカが背中を押し、サトシとマサトで両手を引く。

 

「うわっ!? ちょ…!」

 

自分を元気付けようと明るく振舞い、手を引っ張り背中を押してくれる。

そんな仲間達の絆を感じたソラトは困ったように笑顔を浮かべると、今度はサトシ達を引っ張るように駆け出した。

 

「皆、ありがとな!」

 

「あわわっ!?」

 

「うわっとっと!?」

 

「わぁっ!? ソ、ソラト早いよぉー!」

 

こうしてソラトを先頭にしてサトシ達は少々騒がしく森へ入って行った。

そんな様子を見て、ヨウキはきっと彼らにならあのポケモンも姿を見せてくれるだろうと空を見上げつつ、サトシ達を追いかけた。

 

 

 

森へ入ったソラト達はヨウキの案内の元ポケモン達の住処を目指していた。

この森も鬱蒼としたような雰囲気ではなく、木漏れ日の光が眩しい穏やかな森で、時折目にするポケモン達も遠巻きから物珍しそうにサトシ達に視線を向けていた。

見かけるポケモンも本来ホウエン地方では見かけないようなポケモンが多い。

コロボーシやコリンク、ヨーテリーやフシデにメェークルといったポケモン達だ。

 

「本当に珍しいポケモンが多いんですね。ヨウキさん、このポケモン達は昔からここにいるんですか?」

 

「昔からこの島に生息しているポケモン達もいるけど、時と共に流れ着いて住み着いていくポケモン達もいるんだよ。…着いた、此処だよ」

 

ヨウキの案内でやって来たのは森の中にある大き目な池。

池には小島があったり、池の底から生えている木などがあるためそこを巣として生活する、正にポケモン達にとって最高の住処であった。

日の光が水面を照らして輝き、優しいそよ風が木々と葉を揺らしている幻想的な風景がそこにあった。

 

「キレーな場所ね…」

 

「あぁ…おっ、あのポケモンは…!」

 

池に浮かぶ見たことのない白く美しい鳥ポケモンを見つけたサトシは図鑑を広げてデータを検索してみるが、No Dateと表示されてしまう。

ムロジムでソラトのモウキンを検索しようとした時と同じ、ホウエン版のポケモン図鑑にはデータが無いのだ。

 

「あれ、データが無いみたいだ」

 

「ほらサトシ、これ使え」

 

「サンキュー、ソラト」

 

サトシとハルカの持つポケモン図鑑はこの島ではあまり使えないため、ソラトの持つ全国版ポケモン図鑑の出番である。

ソラトは図鑑をサトシに手渡すと、改めてサトシはその鳥ポケモンを検索した。

 

『スワンナ しらとりポケモン

コアルヒーの進化系。クチバシの攻撃は強烈。長い首をしならせて連続で突きを繰り出す。』

 

「スワンナ…綺麗なポケモンね」

 

「本来イッシュ地方なんかに住んでいるポケモンだな。サトシ、あっちにもポケモンがいるぞ」

 

「おっ、どれどれ?」

 

スワンナとは少し離れた場所に木々で巣を作っている茶色いポケモンを見つけたソラトはサトシに声をかけると再び図鑑で検索する。

 

『ビーダル ビーバーポケモン

ビッパの進化系。川を木の幹や泥でダムを作ってせき止めて住処を作る。働き者として知られている。』

 

「へぇ、ビーダルっていうのか」

 

「あいつは本来シンオウ地方に住んでいるポケモンだな。ホウエンじゃ中々見られないポケモンばっかりだ」

 

聞いていた話の通り、このむげん島では長い月日をかけて独自の生態系が作られているため本来ホウエン地方では見られない珍しいポケモンを見る事ができるようである。

そんな初めて見るポケモン達に目を奪われたサトシ達はゲットしたくてたまらない様子だった。

 

「あの、ヨウキさん。ここのポケモンってゲットしちゃ駄目ですか?」

 

「うーん…俺は番人ってだけで彼らを保護している訳じゃないんだが…できるだけ止めて欲しい」

 

「え、何でですか?」

 

「ホウエンでも珍しいスワンナやビーダルをゲットしたら、君達もバトルやコンテストで使うだろう? 君達がむげん島でそういったポケモンをゲットしたと知ったら、密猟者達がやって来るかもしれないからね」

 

「そうか…そうですね。この島の平和のためにも我慢します!」

 

「ありがとう」

 

そう、情報を漏らさないためには最初から外へ持ち出さないのが1番なのだ。

むげん島へはそう簡単に侵入できるものではないが、もしかしたら何かの抜け道だったり間違いだったりで悪い人間がここへ辿り着いてしまう可能性もゼロではないのだから。

そういった事情を汲み取り、サトシも残念そうだが笑ってゲットを諦めた。

 

「それじゃあ、今度は別のポケモン達の住処へ行ってみようか。こっちだよ」

 

そして再びヨウキに先導されてサトシ達は移動を開始する。

最後尾にいたソラトも後に続こうとしたのだが…ヒュンッと空気を裂くような音が自分のいた場所の上を何かが通り過ぎるのを感じたソラトは立ち止まる。

 

「今のは…?」

 

ハッキリと姿は見えなかったが、赤と白の色をしたポケモンに見えた。

根拠は無かったが、その不思議な気配に導かれるようにソラトはそのポケモンを追いかけた。

 

 

 

 

 

そしてむげん島のある場所にて…溺れかけていたムサシ、コジロウ、ニャースの3人は息も絶え絶えながら辿り着いた。

 

「はぁ、はぁ…た、助かった…」

 

「で…ここはいったいどこなのよ?」

 

「わかんニャいけどどっかの島みたいだニャ」

 

「ソーナンス!」

 

どうやらロケット団が流れ着いたこの場所はむげん島の綺麗な森の中にある水場に囲まれた広場のような場所にやって来てしまったらしい。

海を流されている内にむげん島の川へ入り、そのまま内陸部まで流れてきたのだろう。

まさかむげん島に辿り着いたとは思っていないロケット団はここがどこなのか確認しようとすが、とある物資以外は全部海の底に沈んでしまい位置は確認できないでいた。

 

「はぁ、どうするんだよ。こんな所に漂着して物資は半分以上沈んじまったんだぞ」

 

「うっさいわね。生きてりゃなんとかなるわよ。…何よこれ」

 

ぶつぶつ言っているコジロウを尻目にムサシは広場の先にある石で組み立てられた祭壇のようなものを発見する。

 

「ニャニャ? なんだか綺麗な石があるニャ」

 

「虹色に光ってるなんて中々ゴージャスじゃない? これ頂いちゃいましょ!」

 

「石よりも今は船が欲しいぜまったく…」

 

「ニャニャ? 2人とも隠れるニャ! 何か飛んでくるニャ!」

 

何か分からないが祭壇にある虹色の丸い石をムサシが取って懐に収めてしまうと、森の上空を何かが飛行してくるのを確認したニャースの警告を受けてムサシとコジロウ、ソーナンスも共に近くの茂みの中へ飛び込んで隠れた。

そのまま様子を伺っていると、空からあるポケモンがやって来た。

何とそのポケモンは幻のポケモンとも言われる、むげんポケモンラティアスだった。

 

「クゥ…クウゥ!?」

 

広場にやって来るや否や、ラティアスは祭壇に置かれていた虹色の石が無いのに気がついて慌てふためいていた。

どこかに転がり落ちてしまったのではないかと周囲を飛び回って探してみるものの見つからない。

それも当然。先ほどの石はムサシのポケットの中にあるのだから。

 

「…あれってもしかして」

 

「幻のポケモン、ラティアスだニャ」

 

「それで、何やってんのアレ」

 

「多分だけど、さっきムサシが拾った石を探しているんじゃないか?」

 

「そうだニャ! ここまで来たし、その石を餌にラティアスを捕まえるニャ!」

 

「よーし、コジロウ、残ってたアレの準備しなさい」

 

「ラジャ!」

 

ラティアスを捕まえるために、ロケット団は手元に残っていた物資を開けて準備を開始した。

そして準備を整えると、ムサシはラティアスの注意を引き付けるために茂みをガサガサと揺らす。

 

「ラクゥ?」

 

突然近くの茂みが揺れたため、そちらを見るラティアス。

そしてその茂みからコロコロと出てきたのは彼女が探していた虹色の石。

 

「クゥ! …クゥー?」

 

探していた大切な虹色の石が見つかり、安心して大いに喜ぶラティアスだったが、虹色の石を拾おうと近づくものの石に近づききる前に止まってしまう。

辺りを見渡し、周囲を警戒しているような仕草をしている。

 

「ちょっと…! 何でこっちに来ないのよ…!」

 

「もうちょいこっちに来てくて…! 石のとこまで来てくれれば射程範囲内だ…!」

 

茂みに隠れてある物でラティアスを狙いつつ、小声でそう言うロケット団だがラティアスは中々動かない。

ラティアスは周囲の人の感情を感じ取れる能力が備わっているため、ロケット団の持つ悪意をどことなく察して警戒しているのだ。

だが…

 

「クゥ…」

 

ラティアスにとって目の前の虹色の石はとても大切な物であり、いくら周囲に怪しい気配があると言っても少しずつ近寄っていってしまう。

 

「よーしよーし、あと少しだニャ…」

 

3メートル、2メートル、1メートル……そして射程範囲内に入ると同時にラティアスが虹色の石を手に取った。

 

「今よ!」

 

「クキュッ!?」

 

ムサシの合図と共にコジロウが担いでいたランチャーの引き金を引くとネットが発射されてラティアスを捕らえる。

ランチャーから放たれたのは鋼鉄製の網。捕らえられたラティアスは逃れようと暴れるものの、鋼鉄の網に押さえ込まれてしまい逃げられなかった。

 

「クゥー!」

 

「よっしゃ! ラティアスゲットだぜ!」

 

「ニャハハハハハ! これで幹部昇進支部長就任イイカンジだニャ!」

 

邪道ではあるがラティアスの捕獲に成功したロケット団はもうお祭り騒ぎで大喜びである。

だがそこへソラトがやって来る。先ほどソラトが追いかけたポケモンの正体はラティアスだったのだ。

 

「ん? ラティアス!? それにお前らは!」

 

「ん? ラティアス!? それにお前らは!と言われたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

ラティアスを捕まえて上機嫌のロケット団はやって来た相手がソラトだと言うのに余裕で口上を言い切った。

 

「ロケット団、ラティアスを放せ」

 

「フン! お断りよ!」

 

「ラティアスを本部に連れ帰ればこれまでの失敗も全部チャラだぜ!」

 

確かに幻のポケモンであるラティアスならば戦闘能力も高く、ロケット団の野望に大いに役立つだろう。ロケット団ボスのサカキも3人を見直すかもしれない。

しかしそれを見逃すほどソラトも甘くは無い。

 

「だったら力ずくでも置いていって貰おうか。ザンゲツ、バトルの時間だ!」

 

「ハッサム!」

 

ソラトが繰り出したのは先日ゲットしたハッサムである。

ザンゲツというニックネームを与えられた、左目に傷のあるハッサムは鋏を開いて構えを取った。

 

「あれはこの間のハッサムだニャ!」

 

「ヒーローボーイにゲットされてたのか」

 

「フン! ヒーローボーイ相手だからって引き下がる訳にはいかないのよ! 行くのよドクケイル!」

 

「行けっ、サボネア!」

 

「ケーイル!」

 

「サーボ…ネッ!」

 

「いだだだだだだ! こっちじゃなくてあっちだろうがー!」

 

ソラトに対抗するためにムサシはドクケイルを、コジロウはサボネアを繰り出した。

コジロウはいつも通り抱きついてくるサボネアに痛がっているものの、バトルが始まる。

 

「ドクケイル、どくばり!」

 

「ケケーイル!」

 

「突っ込め、ザンゲツ!」

 

「サム!」

 

ドクケイルのどくばりが放たれるものの、はがねタイプを持つザンゲツにとっては効果の無い攻撃に過ぎない。

真正面から突っ込んでどくばりを弾き返す。勿論ザンゲツの体には傷一つついていない。

 

「ダブルアタック!」

 

「ハサハッサ!」

 

「ケーイル!?」

 

両手の鋏で殴るようにして2階連続攻撃を繰り出し、攻撃を命中させる。

ザンゲツの特性はテクニシャン。威力が低めの技の威力を上昇させる特性であり、ダブルアタックも効果範囲内である。

強烈な攻撃を受け、ドクケイルは大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「サーボサボサボ!」

 

「受け止めろ! れんぞくぎり!」

 

「ッサム!」

 

サボネアの針のある腕と、ザンゲツの鋭い鋏がぶつかり合いお互いに弾き合う。

両者の間に距離が生まれたため、この隙にソラトはザンゲツに指示を出した。

 

「ザンゲツ、つるぎのまい!」

 

「ハーッサ!」

 

まるで舞うように踊ったザンゲツは攻撃力がぐーんと上がり、それを具現化するようにザンゲツの背中側に半透明の剣が2本浮遊し始めた。

 

「今の内に同時攻撃よ! ドクケイル、サイケこうせん!」

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

つるぎのまいを行って動きが止まっているザンゲツに向けてドクケイルとサボネアの同時攻撃が決まり、ドカン!と大きな音と共に衝撃が奔る。

 

その大きな音と衝撃は、離れた所にいたサトシ達にも届いていた。

 

「あれ、何だ今の?」

 

「向こうの方から音がしたわね」

 

「あっちの方角は…祭壇のある広場だ!」

 

「祭壇?」

 

「この島にいる特別なポケモンを祀る祭壇のある広場があるんだ! あそこで何かあったのかもしれない!」

 

「あっ、ヨウキさん!」

 

ヨウキは広場に向けて駆け出した。

サトシ達もヨウキを追いかけて走り出すが、そこでようやくソラトが居なくなっている事に気がついた。

 

「あれ、そういえばソラトはどこだ?」

 

「そういえばいつの間にかいなくなっちゃってるかも!」

 

「もしかしたら、広場にいるのかもしれないよ」

 

「とにかく急いでヨウキさんを追いかけよう!」

 

サトシ達がソラトとロケット団のバトルの音を聞きつけて向かっている最中、ドクケイルとサボネアの同時攻撃が命中したザンゲツとソラトの姿は土埃に隠れてしまっていた。

その様子をラティアスは網に捕らえられていながらも心配そうに見つめていた。

 

「クゥ…」

 

「へっ! どうだ、流石にこれは効いただろ!」

 

コンビネーションも悪くない同時攻撃のクリーンヒットならばかなりのダメージを与えられただろうと思っていたロケット団だったが、土煙が晴れるとザンゲツはピンピンしていた。

 

「な、なんですって!?」

 

「むし/はがねタイプのハッサムにはサイケこうせんもミサイルばりもこうかはいまひとつだ。避けなくても大したダメージにゃならないさ! ザンゲツ、ダブルアタック!」

 

「ハサハッサ!」

 

「ケーイル!?」

 

「サボネーッ!?」

 

ロケット団の同時攻撃を見事に耐えたザンゲツによる反撃のダブルアタックを受けたドクケイルとサボネアは戦闘不能になって倒れてしまった。

つるぎのまいを使い攻撃力がぐーんと上がっているザンゲツの攻撃は強力無比と言えるだろう。

 

「ど、どうするムサシ!?」

 

「ぐぬぬ…! こうなったらアタシが時間稼ぎするからその間にアンタ達はラティアスを連れて逃げるのよ! 行けハブネーク!」

 

「ハッププー!」

 

「よし、俺達は逃げるぞニャース!」

 

「了解ニャ!」

 

「クゥッ!? クキューッ!」

 

手持ちのポケモンがサボネアしかいないコジロウは大慌てだが、まだ手持ちのポケモンが残っているムサシが殿としてソラトの相手をする覚悟を決めたようである。

新たにハブネークを繰り出すムサシに代わり、コジロウとニャースは網で包まれているラティアスを抱えると森の奥へと走り去ろうとする。

 

「逃がすなザンゲツ! れんぞくぎり!」

 

「ハブネーク、ポイズンテールで受け止めるのよ!」

 

「ハッサム!」

 

「ハブネー!」

 

鋭い鋏と尻尾がぶつかり合い鍔迫り合いになる。

ギギギと擦れる鋏と尻尾だが、パワーと土台ではザンゲツの方が有利である。

 

「ハブネークを振り回してやれ!」

 

「ハッサイヤ!」

 

「ハププププププ!?」

 

尻尾を引っ張るようにしてジャイアントスリングでハブネークを振り回す。

 

「そのまま奴らに向けて放り投げろ!」

 

「ハッサ!」

 

「ハプーッ!?」

 

「んなっ!? んぎゃあああああっ!?」

 

「ぐええっ!?」

 

「ぐニャッ!?」

 

そのままムサシに向けて投げ飛ばすと、ハブネークはムサシを巻き込みそのまま後方へ飛んでいく。

更にはラティアスを抱えて逃げているコジロウとニャースを巻き込みその場でクラッシュする。

その衝撃でコジロウはラティアスを取り落としてしまい、ソラトはその隙にラティアスに駆け寄って網を解いて解放してやる。

 

「ラティアス、大丈夫だったか?」

 

「クゥー!」

 

自由になったラティアスはお礼のつもりなのだろう、助けてくれたソラトに顔を擦り付けていた。

 

「いたた…ムサシ、何やってるんだよ!」

 

「全然時間稼ぎになってないニャ!」

 

「う、うっさいわね! ほらハブネーク、もっかいラティアスを捕まえるのよ!」

 

「ハプッ!」

 

この状況になってもまだロケット団は諦めていないらしく、再びハブネークでザンゲツと対面した。

ソラトはラティアスを守るためにラティアスを背中に隠す。

 

「どうやらまだやられ足りないらしいな」

 

「ハッサ!」

 

「うるさいわね! ハブネーク、かみつく!」

 

「ハッブネーク!」

 

大きな顎を開いてザンゲツに噛み付こうと襲い掛かるハブネークだったが―

 

「チュゥウウウウウッ!」

 

「ハププブブブッ!?」

 

―その牙が届く前に森を切り裂く電撃が放たれ、ハブネークを撃ち落とす。

今の声と電撃で、ソラトは誰が来たのかすぐに分かった。

 

「ソラト!」

 

「ピッカ!」

 

「サトシ、ピカチュウ。ありがとな」

 

当然、やって来たのはサトシとピカチュウを筆頭にハルカとマサトとヨウキだ。

唯でさえソラト1人に苦戦しているというのに敵の援軍がやって来てしまったロケット団は顔を青ざめさせる。

 

「げげっ、ジャリボーイ…!」

 

「ロケット団、こんな所まで追いかけてきたのか!」

 

「お前ら、どうやってこのむげん島まで辿り着いたんだ!」

 

ヨウキがむげん島の番人としてどうやってやって来たのか問い質すと、ロケット団はピンときていないように首を傾げていた。

 

「むげん島? ここがむげん島だったのか!」

 

「あーら、なら珍しいポケモンが沢山いる島に運よく流れ着いたって事だったのね!」

 

「ニャーたち運がいいかもニャ!」

 

「もしかして、海を漂流してる内に偶然流れ着いたの?」

 

「ロケット団って意外と悪運強いかも」

 

会話の内容からロケット団がここへ着いたのも全て偶然だったと悟ったマサトがそう言い、ハルカが続ける。

確かに今まで散々な目に会っているもののちゃっかり無事でいる辺り悪運だけはかなりのものである。

しかし…

 

「強いのは悪運だけだな。ザンゲツ、バレットパンチ!」

 

「ッサム!」

 

「ハプァッ!?」

 

高速の拳をハブネークに御見舞いしてやると、ムサシ達の元へとハブネークは吹き飛んで戦闘不能になった。

これでロケット団には戦力はほぼ残されていない。

 

「よーし! トドメだピカチュウ! 10万ボルト!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウウウッ!」

 

「「「あわわわわわわわっ!? ギャアアアアアアアッ!?」」」

 

そして締めの電撃が放たれてロケット団に命中する。

バチバチバチ!と痺れに痺れてドカンと爆発すると、ロケット団はいつもの如く勢いよく吹き飛んでいき―

 

「「「ヤなカンジ~!」」」

 

「ソーナンス!」

 

―キラッと輝く星になって消えていったのだった。

 

 

 

 

 

ロケット団を撃退し、船を停めている海岸までやって来たサトシ達。

改めてラティアスを連れ去ろうとしていたロケット団を追い払ってくれたソラトに対してヨウキが頭を下げていた。

 

「ソラト君、ラティアスを助けてくれて本当にありがとう」

 

「いえ、当たり前の事をしただけですよ。それでヨウキさん、言っていた特別なポケモンと言うのは…」

 

「ああ、このラティアスの事だ」

 

「クゥ」

 

ソラトもラティアスを一目見た時から何となく察していたが、ヨウキが言っていたむげん島に住む特別なポケモンの片割れというのはこのラティアスの事だった。

ラティアスは助けてくれたソラトの事を気に入ったらしく、頬ずりをして甘えていた。

 

「これがラティアスね。可愛いかも!」

 

可愛らしい見た目のラティアスをハルカも気に入ったらしく図鑑を開いて検索する。

 

『ラティアス むげんポケモン

知能が高く、人の言葉を理解する。ガラスのような羽毛で体を包み込み、光を屈折させて姿を変える。』

 

そこでサトシがピンときた。

以前ジョウト地方を旅していた頃に立ち寄った水の都アルトマーレにおいて、サトシも別固体のラティアスと出会っているのだ。

そしてそのラティアスにも片割れが居たことを思い出したのだ。

 

「ヨウキさん、もしかしてアラシさんが連れて行ったラティアスの片割れって…」

 

「ああ、ラティオスだ。2匹は兄妹で、昔からむげん島に住む守り神のような存在だったんだ。でもどうやってかソラト君のオヤジさんがラティオスを説得したみたいでね。今まで島の外に出た事は無かったんだが納得したようについていってしまったんだ」

 

やはり片割れは同じくむげんポケモンのラティオスだったようだ。

ソラトも納得したようで、ラティアスに語りかける。

 

「ラティアス、俺のオヤジがお前の兄さんを連れて行った理由や行き先は分かるか?」

 

「クゥ? クゥゥ」

 

だがラティアスは悲しそうに目を伏せると首を横に振るだけ。

ヨウキもラティアスを慰めるように頭を撫でてやると補足する。

 

「ラティオスはラティアスには何も伝えなかったみたいなんだ。行き先や目的も分からず、ラティアスはここで待つ事になってしまったんだ」

 

「そうですか…」

 

「クゥ…」

 

兄に置いていかれた悲しみか、兄の身を案じてか、ラティアスは落ち込んでしまい瞳が潤んでしまう。

その様子を見たソラトは、ある記憶がフラッシュバックする。

かつて父に置いていかれてしまった自分と、その父を追いかけて旅立った自分に置いていかれたハルカの姿が。

 

置いていかれたくなかった。

連れて行って欲しかった。

 

置いていきたくなかった。

本当はもっと一緒に居たかった。

 

父を求め、父を探す自分の気持ちと母との約束。

そして本当の家族に等しい妹分の涙。

 

置いていかれる気持ちも、置いていく気持ちも知るソラトだからこそ…ラティアスの気持ちもラティオスの気持ちも分かるような気がした。

そして気がつけば、ソラトはラティアスに手を差し出していた。

 

「一緒に行かないか、ラティアス」

 

「クゥ?」

 

「お前の兄さんは、俺のオヤジと一緒にいる。どうして行ってしまったのかは分からないけれど、もしお前がジッとしていられないのなら…一緒に俺のオヤジと、お前の兄さんを探しに行こう」

 

少しだけ躊躇するような仕草を見せるラティアスだったが、兄の顔を想ったのだろう。ラティアスはソラトの手を取った。

 

「クゥ!」

 

「よろしくな、ラティアス。すいませんヨウキさん、ラティアスも島の守り神なのに…勝手に連れて行く事になってしまって…」

 

「いいや、ラティアスが決めた事なら俺が口を挟む事じゃないさ。ソラト君、ラティアスを頼んだよ」

 

「はい!」

 

どうやらラティアスがソラトについていく事はヨウキも反対はしないようだ。

あくまでもラティアスは野生のポケモンであり、彼女が誰についていくかはラティアス自身に任せるという事だろう。

 

「ソラト凄いや! 幻のポケモンを仲間にしちゃった!」

 

「それにとっても可愛いかも! よろしくねラティアス!」

 

「それじゃあ、新しい仲間も加わったし…キンセツシティを目指すために戻るとするか」

 

「よーし、次のジムはキンセツジムだ! 燃えてきたぜーっ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「クゥーッ!」

 

幻のポケモン、ラティアスを仲間に加えたソラト。

カイナシティでの様々出来事を経て、サトシ達はいよいよキンセツシティに向けて出発する事になるのだった。

 

 

 

to be continued...




ラティアス可愛いよラティアス。
次回から七夜の願い星、大幅アレンジ版が始まります。
全2,3話構成の予定です。
劇場版については以前の活動報告でお知らせした通り大幅にアレンジしてお送りします。
今絶賛執筆中なんですがもう全く別物になっています。ご了承下さい。

それと、劇場版についてまた考えている事があるため考えが纏まったらまた活動報告でお知らせしますね。

次回の更新ですが、また1週間ほど間が開きます。
ちょっとパソコンに触りにくい環境にありまして。申し訳ありません。

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