ポケットモンスター-黒衣の先導者-   作:ウォセ

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タイトル通り、彼女が出ます。
正直ORASは可愛い女性キャラ多すぎるんだよ!
ハルカ可愛いしカガリさん可愛いしイズミさん美しいしルチア可愛いしヒガナ可愛いしミツルも可愛いし(?)。

そういう訳です、ハイ。


造船所の再会! ソラトとルチアとアクア団!?

ムロ島から海路で進み、カイナシティに到着したサトシ達。

これから2週間後に開催されるポケモンコンテストに出場するために、ポケモンコンテスト会場でハルカのエントリー登録を済ませていた。

 

「よーし! これでエントリーは完了かも!」

 

「初出場、頑張ってねお姉ちゃん!」

 

「任せなさい!」

 

初めて憧れのコンテストへ参加できるため気分が上がりに上がっているハルカであるが、勝ち上がるためにはやらなければならない事がある。

 

「それじゃあ、早速ビーチの方へ行ってコンテストの練習しなくちゃ!」

 

そう、技の練習である。

通常のバトルとは違いポケモンを輝かせる技やアピールが必要になるポケモンコンテストではバトル以上に事前の練習や準備が重要になってくるのだ。

 

「コンテストバトルの練習相手が必要ならいつでも言ってくれよ! 相手になるぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「ありがとうサトシ、ピカチュウ! それじゃ皆でビーチに行きましょう!」

 

「っと、ちょっと待ってくれ」

 

早速練習と気合の入っているハルカに待ったをかけたのは意外な事にソラトだった。

 

「え? どうしたのお兄ちゃん?」

 

「いやほら、俺カナズミシティでツワブキ社長から頼まれてた事があっただろ」

 

「そう言えばソラト、何か届けに行くんじゃなかったっけ?」

 

「そ、潜水艦のパーツを造船所にな」

 

そう、ソラトはカナズミシティを出発する前にデボンコーポレーションの社長であるツワブキ社長からペンダントのお礼としてムロ島にいるダイゴへ手紙を、カイナにある造船所までパーツを届ける約束をしていたのだ。

 

「だから俺は先に造船所に行ってくる。後で合流しよう」

 

「分かったわ。ビーチで待ってるわね」

 

こうしてハルカ、サトシ、マサトの3人組とソラトの1人で分かれてそれぞれ別行動する事になったのであった。

 

ビーチへ向かったハルカ達は人が沢山いるカイナシティのリゾートビーチへやって来た。

右を見ても左を見ても人やポケモンが沢山おり、皆バカンスを楽しんでいる。

それを見て思わずサトシもピカチュウもテンションが上がってしまう。

 

「おっ、皆楽しそうだな!」

 

「チャア~!」

 

「ちょっとサトシ、今は遊びに来た訳じゃないのよ」

 

「分かってるって」

 

「でもお姉ちゃん、ここじゃ人が多すぎて練習に向かないんじゃない?」

 

「そうね。もう少し人が少ない所に―」

 

「キャーッ! ルチアちゃんよーっ!」

 

場所を移動して練習をしようと思い場所を探していると、浜辺に黄色い声援が響き渡る。

大勢の人々が大慌てで移動していきビーチの近くの道に集まっている。

 

「ルチアって…もしかしてあのルチアさん!? 嘘、そこにいるの!?」

 

「ルチア?」

 

「お姉ちゃん、ルチアって誰?」

 

「2人とも知らないの!? ホウエン地方のNo,1コンテストアイドルよ! 前回のホウエン地方のグランドフェスティバルで優勝した、トップコーディネーターなの!」

 

グランドフェスティバル。

それはポケモンコンテストに優勝して得る事ができるコンテストリボンを5つ集めた者だけが参加する事のできるコーディネーターの憧れ。

これに優勝できれば名実共にトップコーディネーターと言えるのだ。

つまり、今来ているルチアという人物はハルカの言うとおりホウエン地方でもトップクラスのコーディネーターなのである。

 

「私も一目見て見たいかも!」

 

「俺達も行ってみようぜ!」

 

ハルカたっての希望でルチアを一目見ようとサトシ達も人だかりの元へと行ってみると、人だかりの中心にいる青い女性を見つけた。

エメラルドグリーン色の髪をポニーテールにしており、青を基調としたヘソ出しの可愛らしい服装をしている。更に服の首元、腰、手首にはフワフワの白い綿が付いていた。

 

「キラキラ~! くるくる~?」

 

「「「くるくる~!」」」

 

ルチアがクルリと回ると、周囲にいた彼女のファン達も大勢が同じようにクルリと回転する。

突然周囲の人々の多くがクルリと回ったためサトシ達も困惑してしまい、その熱量に若干引いてしまう。

 

「突然のファンサービス! ミラクル☆アイドルステージ って感じだね!」

 

「「「うぉーっ!」」」

 

「「「キャーッ!」」」

 

そしてビシッとルチアがポージングすると、周囲のボルテージは最高潮に。

唯の道端が、本当にアイドルのライブステージになってしまったようだ。

 

「す、凄い人気だな…!」

 

「なんだか僕、人酔いしちゃいそう…」

 

「あーん! ステキーッ!」

 

周囲の熱量に押されるサトシとマサトを他所に、ハルカは他の人々と一緒に盛り上がっていた。

 

「はいはーい、皆さんどいて下さいねー!」

 

「それじゃあマリさん、ルチアさん、スタンバイお願いします」

 

と、周囲のファンを掻き分けて大きなカメラを担いだ男性とマイクを持った女性が現れた。他にも大きなマイクを持った人やスケッチブックを持った人々がやって来る。

見た目からして、何かのテレビ番組のスタッフだろうか。

男性がカメラを構えると、ルチアの邪魔をしてはいけないと周囲のファン達も少しだけ離れて声を抑える。

 

「あれは…テレビか?」

 

「テレビキンセツだよ。キンセツシティにあるテレビ局で、ホウエンでは人気の番組を幾つも放送してるんだ」

 

「へー」

 

ホウエン地方では有名なテレビ局であり、今回もルチアと共に番組の撮影をするようである。

 

「はいそれじゃ行きます。3、2、1…!」

 

カメラマンの男性が合図を出すと撮影を開始する。

カメラの先にはマリと呼ばれた女性とルチアが並んでいた。

 

「どうも皆さんこんにちは! 今回はカイナシティが誇るクスノキ造船所が開発した最新の潜水艦の特別取材を行いたいと思います! そして、今回の撮影には特別ゲストが来ています!」

 

「キラキラ~! くるくる~? 突然の登場! サプライズ☆ゲストアイドルって感じだね!」

 

先ほどと同じようにルチアが回転してからのポーズをカメラに向かって決めた。

再び控えめながらも野次馬から声援が上がる。

 

「はい! ゲストは今話題沸騰中のトップコーディネーターにしてアイドルのルチアさんです! 今日はよろしくお願いしますね」

 

「此方こそよろしくお願いしま~す」

 

「現在私達はカイナシティのリゾートビーチに居ます。早速カイナシティの誇るクスノキ造船所へ向かいましょう!」

 

マリとルチアはカイナシティに関するトークを行いながらテレビスタッフと共に造船所のある方向へと足を進めていった。

 

「行ったな…どうするハルカ? 練習できる場所を探しに行くか?」

 

「…いいえ! ルチアさんを追いかけるわ!」

 

「追いかけるって…追いかけてどうするんだよ?」

 

「ルチアさんを見ていれば、コーディネーターとして何か学べるかもしれないわ。あのテレビ撮影を追いかけるのよ!」

 

「わぁっ!? 待ってよお姉ちゃん!」

 

ルチアの追っかけと化してしまったハルカはルチアが向かっていった造船所方面へと駆け出していってしまった。

それをサトシとマサトも慌てて追いかけていくのだった…。

 

一方、ハルカ達と別れて造船所へ辿り着いたソラトはフードを目深に被って正面入り口から造船所へと入っていた。

 

「ここがカイナのクスノキ造船所か…さて」

 

受付に向かい荷物の中からツワブキ社長に託された潜水艦のパーツを取り出すと、受付にいる男性へと声をかけた。

 

「あの、すいません」

 

「はい、カイナ造船所にようこそ。何か御用でしょうか?」

 

「実は、デボンコーポレーションのツワブキ社長から届け物がありまして」

 

「届け物…あぁ、伺っています。クスノキ館長はこちらにいらっしゃいます。どうぞ」

 

どうやら事前にツワブキ社長から連絡がありソラトは荷物を届けに来る事は伝わっていたらしく、あっさりとソラトは奥へと通された。

造船のドックにはソラトが見たこと無い最新鋭の大きな潜水艦が開発されていた。

 

「凄い…」

 

人の技術の集大成を間近で見たソラトは思わずそう呟いた。

 

「ハハハ! 単純な褒め言葉ほど嬉しいものはないね!」

 

潜水艦を見ていたソラトの元へ初老の男性がやって来た。

胸に着けている名札を見れば、彼がここの造船所の責任者であるクスノキ館長で間違いなかった。

 

「ようこそソラト君。ツワブキ社長から話は伺っているよ」

 

「どうも、クスノキさん。早速ですが、これがツワブキ社長からお預かりしていた潜水艦のパーツです」

 

ソラトは用意していた潜水艦のパーツを間違いなくクスノキに手渡す。

クスノキも荷物に異常が無い事、間違いなく潜水艦のパーツである事を確認すると大切そうに仕舞いこんだ。

 

「ありがとうソラト君。これで古代の海底洞窟の調査に向かえるという物だよ」

 

「海底洞窟?」

 

「あぁ、今まで人の身では行くことのできなかった深海にある伝説のポケモンが眠ると言われている場所さ。そこを調査する事ができれば、古代のポケモンの事がより詳しく分かるかもしれないんだ」

 

「それは凄いですね。自分もいつか、そういった場所に行ってみたいものですね」

 

そこまで言ってソラトは頭に何かが引っかかった。

まさか自分の探すアラシはそういった海底洞窟にまで行っていないだろうな、と。

ポケモン冒険家として様々な場所へ行くアラシであるが、流石に前人未到の伝説の海底洞窟までは行っていないだろうと思いつつも、あの型破りで非常識な男ならやりかねないと嫌な予感もしていた。

そこへ造船所の職員がクスノキの元へとやって来る。

 

「クスノキ館長、テレビキンセツの取材の方がもうすぐ到着します」

 

「そうか、分かった。それではソラト君にはお礼にこれを渡しておこう」

 

クスノキは懐から小さなチケットを取り出すとそれをソラトにお礼として渡した。

チケットにはむげん島行き往復券と書かれている。

 

「…これは?」

 

「カイナの南にある小さな島へ渡れる乗船券さ。そのむげん島には珍しいポケモンがいると言われていてね…中々手に入らないレア物チケットなんだが、どうかな?」

 

「ありがとうございます。近い内に行ってみようと思います」

 

「それは良かった。それでは失礼するよ」

 

「はい」

 

こうしてむげん島行きのチケット、むげんチケットを手に入れたソラトは造船所から出ようと出口へと足を進めた。

が、建物から出る前に荷物を届けた事を報告しておこうと思いロビーにあったテレビ電話を使う事にした。

数コールもするとツワブキ社長の部屋へテレビ電話が繋がる。

 

「やぁソラト君」

 

「どうも、ツワブキ社長。先ほどカイナの造船所にお預かりしたパーツを届け終わりました。ムロ島でもダイゴさんにお手紙を渡しておきました」

 

「いやぁ、本当にありがとう。ダイゴからもあの後連絡が来たよ。ソラト君とバトルをして、久々に熱くなったと言っていたよ」

 

「いえ、ペンダントのお礼もありますしお安い御用ですよ。ダイゴさんとのバトルは自分にとっても良い経験に―」

 

そうして話をしているソラトとツワブキ社長を他所に、テレビキンセツの取材班であるマリやテレビスタッフと、ゲストであるルチアが造船所に到着する。

ツワブキ社長とダイゴとのバトルの事を話しているソラトはそれに気がついておらず、取材班のテレビスタッフもロビーの隅で電話をしている黒いコートを着た青年になど目もくれていなかった。

 

「さぁ、クスノキ造船所に到着しました! ここには人類では未だに到着できなかった深海へ潜る事のできる最新の潜水艦があると言われています!」

 

「とっても楽しみですね! 未知の探索! ワクワク☆深海アドベンチャーって感じだね!」

 

「それでは早速造船ドックへ向かってみましょう!」

 

スタッフ達とルチアは造船ドックへ向かうために奥へと向かうが、その途中でルチアの視界の端に黒い人影が写った。

ロビーの隅にある電話で誰かと話をする黒いコートを着た青年。

どこか既視感のあるその背中を見てルチアは動きを止めてしまう。

 

「ルチアさん、どうかしましたか?」

 

「え? あっ、何でも無いです!」

 

突然動きを止めてしまったルチアを心配してカメラマンの男、ダイが問いかけるとルチアはハッとなって奥の部屋を目指した。

ダイは先ほどルチアが視線を向けていた方を見るが、黒いコートを着た人物がテレビ電話をしているだけで他に何か目立った事は無い。

本当に何も無かったのだろうとダイもカメラを担ぎ直しルチア達の後を追った。

 

 

 

その頃、クスノキ造船所の外では青い装束を来た人影が外にある配線盤の元へやって来ると配線盤を操作していた。

電力を操作すると、裏口にあるあまり使われていない荷物搬入用の扉を開ける。

すると待機していた他の青い装束の男達が一斉にその扉から造船所へと侵入していた。

 

 

 

「それではツワブキ社長、またいずれ」

 

「ああ、アラシについて何か分かったら連絡するよ」

 

「ありがとうございます」

 

ツワブキ社長との電話を終えたソラトは電話を切るとビーチでコンテストに向けて練習をしているであろうハルカの所へ向かうために造船所の出口へ向かう。

だが突然出口のシャッターが勢いよく閉まってしまい出られなくなってしまう。

 

「あれ、どうしたんだ?」

 

突然閉まってしまったシャッターを見て何かの手違いか事故かと思ったソラトは受付の男性へと再び声をかける。

 

「あの、シャッターが突然閉まってしまったんですが、開けられますか?」

 

「シャッターが? 変だな、何か誤操作があったのかもしれませんね…見てくるので少し待っていて下さい」

 

「はい」

 

ソラトはそのまま受付の近くで壁にもたれて受付の職員が戻るまで待つ事になってしまう。

職員の男性はその場を離れてシャッターを制御できる配電盤を見るため、ドックを通って造船所の裏へと向かった。

そのドックではテレビキンセツの取材班とルチアがクスノキ館長に最新の潜水艦に関するインタビューを行っていた。

 

「クスノキ館長、これが最新型の潜水艦なんですね?」

 

「はい。この最新の潜水艦に、ここにある革新的なパーツを組み込む事で今まで潜ることができなかった深海にまで潜る事ができるようになったのです」

 

「それは凄いですね! もし潜水艦が完成したらどんな調査をするんですか?」

 

「伝説のポケモンに関係する海底洞窟の調査を行いたいと思っています」

 

「わぁ! それってとっても素敵ですね! 本当に未知の大冒険って感じです」

 

「ハハハ、いやまったくです。後はこのパーツを取り付ければその大冒険に向かう事ができるようになっているんですよ」

 

マリとルチアのインタビューに答えているクスノキ館長。

そんな彼らの邪魔をしないよう離れた場所を通り配電盤のある裏へと向かう受付の男性職員だったが…。

 

「ええと…配電盤は確か向こうの―うわっ!?」

 

配電盤のある裏の入り口へ向かおうと足を進めていた所、突然扉が開いて大勢の青い装束を着た者達―アクア団が突入してきた。

 

「大人しくしろっ! この造船所は我々アクア団が乗っ取った!」

 

「抵抗するヤツはタダじゃおかないよ!」

 

アクア団はポチエナやグラエナ、ペリッパー等のポケモンを連れており造船所の作業員の人々を威圧する。

 

「な、何だお前たちは!? 今すぐ出て行―」

 

「ペリッパー!」

 

「ペパーッ!」

 

「うわぁああああああっ!?」

 

反抗しようとした作業員の1人がペリッパーのハイドロポンプで吹き飛ばされてしまい、壁に激突すると崩れ落ちた。

それを見た他の作業員やスタッフはすっかり萎縮してしまう。

 

「な、何なのアナタ達は!?」

 

「我々は―」

 

「俺達は世界の形を在るべき形に戻すための組織、アクア団だ!」

 

突然やって来てポケモンを使い危害を加える集団に対し、マリは表情を厳しくしながらもそう問いかける。

マリの目の前に居たしたっぱがそれに答える前に、奥から一段と体格の良い男がやって来て自己紹介だとばかりにそう宣言した。

 

「アナタは…?」

 

「おう、俺はアクア団のリーダーのアオギリってモンだ。クスノキってのはどいつだ?」

 

「わ、私だ…」

 

「アンタか。俺達がここに来たのはこの最新型の潜水艦が欲しいからなんだよ。大人しく譲ってくれりゃ悪いようにはしねぇ」

 

「こ、断る…! 私の作った潜水艦が君たちのような者達に悪用されるのは我慢ならん!」

 

「ほう? 思ったより根性があるな。なら…ウシオ!」

 

「オウ! アオギリのアニィ!」

 

アオギリが後ろに声をかけると体格の良いアオギリよりも更に巨体の浅黒い肌の大男がやって来る。

ウシオと呼ばれた巨漢はモンスターボールを構えているが、彼の体が大きすぎるせいでかモンスターボールが小さく見える。

 

「館長さんの体にちょいと教えてやりな」

 

「ワかったゼ、アニィ!」

 

「野郎共! 潜水艦のシステムを奪え! 外部の邪魔が入らない内にズラかるぞ!」

 

「「「はっ!」」」

 

ウシオが持っていたモンスターボールを投げて繰り出したポケモンはサメハダー。

潜水艦を着水させるためにドックには水が溜められているため、その水場にサメハダーは繰り出される。

凶悪な牙を覗かせ威嚇するサメハダーを見てクスノキは冷や汗を流してしまう。

しかもその間にもアクア団のしたっぱ達が潜水艦を乗っ取る準備を行うために次々と潜水艦内へ乗り込んでいく。

 

「サメーッ!」

 

「くっ…!」

 

「クスノキ館長、さがっていて下さい! お願い、チルル!」

 

「チルーッ!」

 

クスノキを庇うように前に出たのはなんとルチアだった。

彼女はトップコーディネーターというだけありコンテストバトルの経験も豊富であるため、バトルも得意としているのだ。

繰り出したのはチルタリス。ニックネームはチルルである。

 

「ほウ! オレッチとヤる気だナ?」

 

「悪い人達の好きなようにはさせないよ!」

 

「ハッ! 面白イ! サメハダー、アクアジェット!」

 

「サメーッ!」

 

「チルッ!?」

 

先手必勝とばかりに先制攻撃のできるアクアジェットを繰り出したサメハダーは水を纏い、凄まじい勢いで水面から飛び出してチルルに技を決めた。

ドラゴン/ひこうタイプのチルタリスに対してみずタイプの技はこうかはいまひとつだが、ウシオのサメハダーはかなりのレベルらしく中々のダメージを与えていた。

 

「負けないでチルル! りゅうのいぶき!」

 

「チールーッ!」

 

攻撃を受けつつもチルルはアクアジェットで空中に浮かぶサメハダーに向けてりゅうのいぶきを放った。

サメハダーの軌道を読んで空中でりゅうのいぶきが命中するとサメハダーは撃ち落とされる。

 

「ぬおっ!? やりやガるナ! ナラもういっちょアクアジェットだ!」

 

「サメッ!」

 

サメハダーは撃ち落とされながらも水場に着水すると、再びアクアジェットを発動してチルルに向かって突進する。

 

「チルル、コットンガード!」

 

「チルルルッ!」

 

サメハダーの攻撃が決まる前にチルルは体に纏っている綿を膨らませると鎧のようにして防御力をぐーんと高めた。

アクアジェットとコットンガードがぶつかり合うが、柔らかな鎧を打ち崩せずにチルルはサメハダーを弾き返すことに成功する。

 

「チャンス! チルル、みだれづき!」

 

「チルチルチルチル!」

 

空中に弾いたサメハダーは無防備であり隙だらけであるため、それを逃さずみだれづきによって追撃を行う。

 

「サメメメッ!?」

 

「チィッ! 飛ビ上がれサメハダー!」

 

「サメェッ!」

 

飛行能力を持たないサメハダーは空中では身動きが取れないが、サメハダーは背面から勢いよく水を噴射するとチルルの上を取った。

 

「サメハダーが飛んだ!?」

 

「ハッ! サメハダーは背面カラ水を噴射して加速すンだヨっ! そラっ、こおりのキバだ!」

 

「サーメーッ!」

 

「チルーッ!?」

 

背面から水を噴射して泳ぐスピードを加速させる能力を利用して空中での移動手段にしたのだろう、予想外の動きにルチアとチルルは反応が遅れてしまう。

冷気を纏った牙がチルルを捉える。

こおりタイプの技であるこおりのキバはチルルに大して効果絶大であり、まともに受けてしまったチルルは翼が凍ったまま倒れてしまった。

 

「チルル! そんな…!」

 

「チ…チル…!」

 

「勝負アリだナ。それジャ、トドメといくカ!」

 

「ダメッ! これ以上チルルを傷つけさせないよ!」

 

戦う事ができなくなってしまったチルルへトドメを刺そうとサメハダーの凶悪な牙が剥き出しになり喰らい付こうとする。

だがパートナーであるチルルを庇いルチアが前に出てそれを遮ろうとする。

 

「ホう? なラまずお前カラ痛い目見せてヤル! 行け、サメハダー!」

 

「サメーッ!」

 

「っ!」

 

ルチアに迫るサメハダーの牙。

周囲もルチアに危機が迫るのは分かっているが動く事ができない。

このままではルチアが―

 

「ハイパーボイス!」

 

「サーナーッ!」

 

「サメッ!? サメェエエッ!?」

 

―誰もがサメハダーがルチアに襲い掛かるだろうと思い目を背けた瞬間、強烈な音波がサメハダーを水場まで吹き飛ばした。

 

「ンナッ!? 誰だァ!?」

 

音波の発生源を見れば、そこに居たのは黒いロングコートがトレードマーク。今はフードを目深に被っているソラトと傍に並び立つサーナイトのレイである。

 

「テメェ、何者だ!?」

 

「通りすがりさ。お前らは外部から邪魔が入らないように正面入り口のシャッターを降ろしたんだろうが…そのお陰で出られなくなっちまってな」

 

ソラトはルチアとチルルを庇うように前に出、ルチアの傍を通る際にポンと頭を軽く撫でてやり小さく呟いた。

 

「よく頑張ったな。後は任せとけ」

 

「ソラト…くん…?」

 

「ハッ! どこノ馬の骨とも知れネェヤツが邪魔すんじゃネェッ! サメハダー、アクアジェット!」

 

「サメーッ!」

 

会話をする暇もなく、ウシオはサメハダーに指示を出すと水場から飛び出したサメハダーが猛烈な速度でレイに迫る。

だがソラトとレイに焦りは無い。

 

「レイ、ハイパーボイス!」

 

「サァ、ナァアアアアアッ!」

 

「サ、サメーッ!?」

 

先ほどより更に力が込められたハイパーボイスがサメハダーのアクアジェットごと押し返して吹き飛ばすしてしまうと、ウシオのサメハダーは戦闘不能になってしまった。

先ほどからダメージは蓄積していたが、まだ戦えると思っていた矢先に戦闘不能になってしまいウシオは驚きを隠せなかった。

 

「ンナ馬鹿ナ…!? なんて威力シてやがル…!?」

 

「なに、ほんの挨拶代わりさ」

 

「グッ…!」

 

手持ちを失いうろたえるウシオだが、その後ろからアオギリがウシオの肩に手を置くとソラトに声をかける。

 

「アオギリのアニィ…!」

 

「おいお前、中々やるじゃねぇか。名前は?」

 

「…ソラト。お前は?」

 

「俺はアオギリってんだ。ソラト、俺達と一緒に来ねぇか? お前ほどの力なら幹部として歓迎するぜ」

 

「寝言は寝て言え」

 

「はっ、ナマ言いやがる」

 

前に出てきたアオギリがモンスターボールを構えて一触即発の雰囲気が漂うが、そんな中でアクア団のしたっぱが声を上げた。

 

「リーダー! 潜水艦のシステム奪取に成功しました!」

 

「おっと…つー訳でここにはもう用はねぇ。トンズラこかせてもらうぜ」

 

「逃がすか! レイ、サイコ―」

 

「ベトベトン、ダストシュート!」

 

潜水艦に乗り込み脱出しようとするアクア団を逃がすまいと、ソラトはレイに指示を出そうとするがアオギリもモンスターボールからベトベトンを繰り出して技を指示する。

 

「ベトベーッ!」

 

「サナッ!?」

 

ベトベトンの放ったダストシュートはレイを素通りする。まるで最初から当てる気が無かったかのように。

そして気がついた。このコースはレイでもソラトでもなく、後ろにいるルチアとチルルを狙った物だと。

 

「きゃあああっ!?」

 

「チルッ!?」

 

その事にルチア達も気がついたのか、悲鳴を上げて蹲った。

 

「くっ…!」

 

今からレイに指示をしても防御が間に合わないと判断したソラトは、自分の体をダストシュートの軌道上に割り込ませ、体で攻撃を受け止めた。

汚いヘドロの弾丸がソラトに直撃すると、とてつもない衝撃が体を襲うと共に思わず顔を背けたくなるほどの悪臭が広がった。

 

「ぐぅっ…!」

 

「サナ!? サナサナ!」

 

「っ!? 私達を庇って…!」

 

体を貫くような痛みを感じたソラトは思わず片膝を着いてしまい、今の衝撃で被っていたフードが取れて素顔が露になる。

攻撃を受けてしまったソラトを心配したレイが駆け寄ってくると最大限の敵意を込めた瞳でアオギリとベトベトンを睨んだ。

 

「今日はここまでだ。決着はまたその内つけるとしようぜ。ズラかるぞ野郎共!」

 

「「「はっ!」」」

 

「くそっ…!」

 

目の前から逃げていくアオギリとウシオ、そしてアクア団のしたっぱ達を見送る事しかできない。

今再びアオギリ達を止めようとすればルチアやチルルを狙って攻撃を仕掛けてくるだろう。それだけならばソラトとレイで防げるかもしれないが、他の作業員やテレビキンセツのスタッフまで狙われてしまえば、ソラトだけでは対処できない。

ここは彼らを見逃すしかなかった。

潜水艦に乗り込んだアクア団は遠隔操作でドックの大きな扉を開け、潜水艦を発進させて海へと逃亡していった。

 

「逃がしちまったか…仕方が無いか」

 

「サナ、サーナ?」

 

「俺は大丈夫だよ、レイ」

 

「皆、すぐにシステムを復旧してジュンサーさんに連絡を!」

 

「「「は、はい!」」」

 

アクア団が完全に去った事を確認したクスノキ館長は作業員に指示を出して素早くジュンサーさんに連絡する事にした。

作業員はすぐさま裏の配電盤やコントロールパネルを操作してシステムを元に戻した。

 

「システムの復旧、完了です! 封鎖されていた扉やシャッターも解除しました!」

 

「分かった。テレビキンセツの皆さん、申し訳ありませんが本日の取材は中止という事で…」

 

「ええ、こうなっては仕方ないですね。でも、逆にこの事件を徹底的に取材させてもらいますよ!」

 

「ははは、マリさんは逞しいですね」

 

「付き合わされるこっちの身にもなって欲しいですけどね…」

 

潜水艦の取材は中止になってしまったが、逆にこのアクア団の襲撃を取材すればスクープは間違いなしとばかりにマリは燃え上がっていた。

だが彼女の相棒であるカメラマンのダイはやれやれといった様子で溜息を吐いていた。

と、ルチアは傷ついたチルルをボールに戻すと周囲をキョロキョロを見渡していた。

 

「あの、ソラトくんを知りませんか?」

 

「ソラトくん…? あぁ、さっき助けてくれたあの黒い服の…ダイ、見なかった?」

 

「アレ? そういえば居ませんね…いつの間に…?」

 

「もしかして…また…!」

 

嫌な予感がしたルチアは正面入り口のある方へと駆け出した。

また自分を置いていってしまうのかと、ちゃんと想いを伝えたいのに、酷い事を言ってしまったことを謝りたいのに、5年前と同じでそれもできないのかと。

不安が胸中を渦巻いており、それを振り払うようにルチアは走った。

 

皆にバレないようにこっそりクスノキ造船所の正面口から外へ出たソラトはダストシュートを受けて痛む体を半ば強引に動かして歩いていた。

 

「サナ…」

 

「大丈夫…ポケモンセンターに行ったらちゃんと手当てするよ」

 

「―ソラトくんっ!!」

 

自分を呼ぶ声にソラトは振り返らずに立ち止まった。ソラトからすれば、できれば会いたくなかった相手である。

だがこうして顔を突き合わせてしまった以上、逃げる事はできないだろう。

意を決して、ソラトは振り返った。

最後に会った5年前よりも成長して大きくなっていたルチアだったが、不安そうに揺れる瞳は5年前と同じだった。

 

「…ルチア」

 

「…ソラトくんっ!」

 

夕暮れが照らす中、ルチアはソラトに駆け寄って抱き着いた。

そしてルチアは搾り出すように言葉を紡いだ。

 

「あの時は、ごめんなさい…! 酷い事言っちゃった…! ソラトくんに遠くに行ってほしくなくて…! 私、私…!」

 

「…俺の方こそ、悪かった。…あの後、何も言わずにホウエンを出て行った」

 

「ううん…! ソラトくんは悪くないよ。ただアナタの道を進んでいっただけだったんだから…」

 

ルチアの揺れる瞳からは、搾り出すように紡ぐ言葉共に涙が溢れていた。

夕暮れの赤い光が涙に反射して美しく輝いている。

 

「ルチア、俺は…まだオヤジを見つけられてないんだ。あの時お前に一丁前に啖呵を切ったのに、情けないよな」

 

「そんな事ないよ。だってソラトくんの旅はまだ終わってないんでしょ? なら、アラシさんを見つけるのもまだまだこれからなんだよ」

 

「…ありがとな」

 

「えへへ…。私、ソラトくんの旅を応援してるよ。だって、私はソラトくんの事が―」

 

そう言うルチアの表情は涙を流しながらも笑っていた。泣きながら、笑っていた。

そしてルチアの顔がソラトに近づいて―

 

「あーっ!? お兄ちゃん!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

聞きなれた声が周囲に響き渡ったため、ギクリと体を硬くしたソラトはルチアに押し倒されるような形で倒れこんでしまった。

勿論、聞き慣れた声の主はハルカである。どうやらルチアを追ってここまでやって来たようだ。

 

「な、何でお兄ちゃんがルチアさんとくっついてるのーっ!?」

 

「ハ、ハルカ…!? 何でここに…!?」

 

「いいから、この状況を説明してお兄ちゃん!」

 

「ソラトー! ってあれ、どうしたんだこの状況?」

 

「…よく分からないけど、何だか面倒な事になりそうな気がするよ」

 

ハルカに続いてサトシとマサトもやって来てこの場は収拾がつきそうにないほど混迷してきた。

そんなやいのやいのと騒ぐソラト達を、造船所の方から見ている2人の人物が居た。

 

「いや~、まさかあのトップコーディネーターにして超売れっ子アイドルのルチアちゃんに好きな男の子が居たとは…これはスクープですよ!」

 

その人物とは、テレビキンセツのスタッフであるマリとダイである。

明言はしていないが、今の言動を見てルチアがソラトに対してどんな想いを抱いているのかを察したマリとダイはカメラにその映像を収めていた。

確かにトップコーディネーターにしてアイドルのルチアに片想いの相手がいたと知られれば特ダネになるのは間違いないだろう。

思わぬスクープにダイは満足そうにしているが、反対にマリはどこか不満そうな表情をしていた。

 

「ちょっとダイ、カメラ貸して」

 

「へ? はぁ、どうしたんすか?」

 

マリは不満顔のままダイからカメラを受け取るとピッピッと操作して今しがた録画したソラトとルチアの映像を削除した。

 

「あーっ!? ちょ、何してるんすか!? これスクープっすよ!?」

 

「何言ってるの! 女の子の恋心を見世物にするようなマネは喩えスクープだって許さないわよ! ほら、それより造船所の方の取材内容考えるわよ!」

 

「…へーい」

 

こうしてカイナシティでの造船所におけるアクア団との攻防は一旦の決着を見せた。

だがソラトとルチアの関係を含めたポケモンコンテストの舞台は、まだまだこれからである!

 

 

 

to be continued...




ルチア登場回でした!
次回はソラトとルチアの詳しい関係についてと、ソラトのコンテストに関する事が語られますので、また近い内に更新します。

それと、マリとダイさん。
レベリングとお金稼ぎに御世話になりました。マジで。
何度ボコった事か…w

活動報告に自分の近況とかを雑談形式で垂れ流しています。
暇つぶしにもなりませんが息抜きにどうぞ。

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