ポケットモンスター-黒衣の先導者-   作:ウォセ

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どうやら日刊ランキングに載ったようで多くのマイリスト登録をして頂き嬉しい限りです。
皆さんの感想やマイリスト登録、高評価低評価関わらず評価は執筆の励みになっています。
これからもこの小説をよろしくお願いします。


ムロ島の暴れん坊! 恋のバトルは甘くない?

ムロ島でのポケモン修行のため新たな仲間であるクチートをゲットしたサトシ。

今日は新しい仲間であるクチートと、他の仲間達との顔合わせを行っていた。

 

「皆、新しい仲間のクチートだ。よろしくな」

 

「クートクート!」

 

サトシのクチートの挨拶から始まり、サトシ、ハルカ、ソラトの手持ちポケモン達が挨拶をする。

新しい旅の仲間に皆喜んでおり、それぞれが言葉を交わす。

そしてクチートの視線はあるポケモンに注がれる。

 

「クー…」

 

「キャモ?」

 

クチートの視線はキモリへと注がれており、どことなく視線は熱っぽいものとなっており顔を赤くしている。

そのクチートの視線にサトシ達も気がつく。

 

「クチート、キモリを見てどうかしたのか?」

 

「顔が赤いけど、熱でもあるのかな?」

 

「いや、クチートの波動には乱れは感じられないから病気とかではないな。寧ろ落ち着いてるぞ」

 

「…これってもしかして」

 

サトシとマサトとソラトはクチートの様子を不思議がっており、何が起きているのか分かっていない様子だが、ハルカは何かを察したのか真剣そうな表情になる。

 

「どうしたんだハルカ? 何か分かったのか?」

 

「クチートは…もしかして…」

 

「クートー!」

 

「キャモッ!?」

 

何が起きているのか悟ったハルカにサトシが問いかけるがその前にクチートがキモリに飛びついて腕を取った。

そしてキモリの腕と体に自分の体をくっつけておりどう見てもキモリに好意を表現していた。

マサトとソラトはああ、そういうことか…と納得しているがサトシは相変わらず首を傾げていた。

 

「え、どうしたんだクチート?」

 

「クチートはキモリの事が好きになったのよ。所謂一目惚れってやつかも!」

 

「好きに? ポケモン同士なんだから仲良くするのは当たり前だろ?」

 

「…サトシってばお子様かも」

 

そう、クチートはキモリの事が好きになってしまったのだ。

だが基本恋愛の事が全く頭に無いサトシはそんなのは当たり前という言い分を持っておりよく分かっていないらしい。

そんなサトシにやれやれと首を振って応対するハルカに、サトシは益々首を傾げていた。

 

「クー、クー!」

 

「キャモ…キャモッ」

 

しつこく付きまとうクチートに嫌気が差したのかキモリはクチートを振り払うと近くの木に登って寝転がってしまう。

振り払われたクチートは残念そうにしているが木登りは苦手なのか木の上のキモリをずっと見つめていた。

 

「ありゃりゃ、フられちゃった」

 

「クッ! クーット!」

 

「いたたたたー!? こ、これがクチートのかみつくか! 痛いけど感激だぁー!」

 

マサトのフられたというワードにムッときたのかクチートは後頭部の口を突き出してマサトのお尻に噛み付いた。

 

「うーん、ポケモン達の恋の行方も見ものかも! 頑張ってねクチート!」

 

「クー!」

 

「いたたたた! お姉ちゃん助けてよー!?」

 

一方でハルカはクチートの恋を応援しているらしく、クチートを応援して仲良くなっていた。

 

そんなサトシ達をキャンプ地の近くの海から見つめている影があった。

影は水中から飛び出すとその巨体からググッと伸びるアームを使いピカチュウとクチートを捕まえた。

 

「ピカピー!?」

 

「クート!?」

 

「ピカチュウ!? クチート!? 何なんだこれは!」

 

アームの元を辿るとそれはどこかで見たことがあるような大きなコイキング型潜水艦だった。

上部のハッチが開くと、そこから飛び出す更なる3つの影が。

 

「何なんだこれは! と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

当然いつものロケット団であり、お決まりの口上と共に参上する。

 

「ロケット団、ピカチュウとクチートを返せ!」

 

「返せと言われて返す悪党はいないのよ!」

 

「ピカチュウと、ついでにクチートもゲットしてやったぜ!」

 

「というワケでさっさと逃げるニャ!」

 

ピカチュウとクチートを捕まえたロケット団はコイキング型潜水艦の中へ入るとさっさと逃げてしまおうと海の中へと潜ろうとする。

しかし黙って捕まっているだけのピカチュウではない。

 

「逃がすか! ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピーカーチュウウウウウ!」

 

ピカチュウの電撃がコイキング型潜水型に奔るが、電撃が弾かれてしまう。

やはり何時も通り電撃対策をしているようである。

 

「へへーん、今回も電撃対策はできてるのさ!」

 

「くそ、だったら…!」

 

「キャモ! キャーッモ!」

 

サトシが次の手を考えていると、木の上にいたキモリが飛び出してきてコイキング型潜水艦に向けてエナジーボールを放つ。

エナジーボールはコイキング型潜水艦に直撃すると、プシューと音を立てて潜水艦から煙が出てくる。

 

「ちょっとニャースどうしたのよ!?」

 

「今のエナジーボールのせいで潜水艦が壊れちゃったのニャ。このままじゃ動かないニャ」

 

「ぐぬぬ! えーいこうなったらバトルでジャリボーイ達をやっつけんのよ!」

 

潜水艦が壊れてしまい、逃走手段が無くなってしまったロケット団は潜水艦から出てくるとモンスターボールを手に正面からポケモンバトルを挑んできた!

 

「行くのよハブネーク! と、ケムッソちゃん!」

 

「サボネア、お前もだ!」

 

「ハッブネーク!」

 

「ケム」

 

「サーボ、ネッ!」

 

「いだだだだ!? だからこっちじゃないって言ってるだろ!?」

 

ムサシはいつものハブネークと、サトシ達には初めてのお目見えとなるケムッソを繰り出してきた。

コジロウは何時も通りサボネアだが、やはり何時も通り抱きつかれてトゲが刺さっていた。

 

「ええっ!? ロケット団もケムッソを持ってたの?」

 

「そうよー。私の可愛いケムッソちゃん! 可愛いからバトルはさせないけどねー!」

 

「頼むぞキモリ!」

 

「キャモ!」

 

「だったら俺は! ヒョウカ、バトルの時間だ!」

 

「キュー」

 

ロケット団に対してサトシはキモリを、ソラトはヒョウカを繰り出して対抗する。

ヒョウカは陸上ではあまり素早く動けずに全力は出せないが、サボネアやケムッソに有効なこおりタイプの技が使えるから繰り出されたのだろう。

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

「サーボネ!」

 

「ヒョウカ、れいとうビーム!」

 

「クゥー!」

 

ミサイルばりをれいとうビームがカチコチに凍らせて打ち落とすと、そのままれいとうビームはサボネアに直撃した。

 

「サボネー!?」

 

「よし、そのままこおりのつぶて!」

 

「クゥー、クウ!」

 

「サボボー!?」

 

「ああっ! サボネアー!? ぶえー!?」

 

更にこおりのつぶてで追い討ちをかけると、サボネアはコジロウを巻き込みつつ吹き飛ばされていった。

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「キモリ、かわしてはたく攻撃!」

 

「ハッブネーク!」

 

「キャモッ、キャモ!」

 

「ハププッ!?」

 

「なっ!? へぶっ!」

 

「ニャニャッ!? 何でニャーまで!?」

 

ハブネークのしなる尻尾でのポイズンテールをジャンプで器用にかわしたキモリはその隙を突いて空中で体を捻ってハブネークの胴体をはたいた。

はたく攻撃により吹き飛ばされたハブネークもムサシと、ついでにニャースを巻き込みつつ吹き飛ばされていく。

吹き飛ばされたロケット団は全員壊れて動かなくなったコイキング型潜水艦に激突する。

 

「今だキモリ! あのアームにエナジーボール!」

 

「キャーモ!」

 

「ピカ!」

 

そしてエナジーボールでアームを半ばから吹き飛ばすと、そのアームに捕まっていたピカチュウを救い出した。

 

「ピカピ!」

 

「無事でよかったぜピカチュウ!」

 

「こうなったらニャース、クチートを人質に使うのよ!」

 

「了解ニャ!」

 

ニャースはコイキング型潜水艦のアームをリモコンで操作すると、クチートは頭を海面に近づけさせられてしまう。

 

「ジャリボーイ、このままバトルを続けるニャらクチートには溺れて貰う事にするニャ!」

 

「ク、クー!?」

 

「何っ!? 卑怯だぞロケット団!」

 

「卑怯は俺たちには褒め言葉だぜ!」

 

「そーいう事。さぁ、クチートに溺れてほしくなかったら攻撃しないことね!」

 

追い詰められたロケット団により、クチートは突如として人質ならぬポケ質にされてしまう。

これによりサトシ達はロケット団に手が出せなくなってしまい、逆にロケット団が反撃の体勢に入る。

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「ハッブネーク!」

 

「サボサボサボネーッ!」

 

「キャモッ!?」

 

「クゥー!?」

 

クチートのポケ質により攻撃をよけることもできないキモリとヒョウカはロケット団渾身の反撃をまともに受けてしまう。

キモリは吹き飛ばされて木に激突してしまい、ヒョウカも大きく後退してしまった。

そしてロケット団はトドメの一撃を放つ!

 

「次でトドメよー!」

 

「おう!」

 

「くそっ、クチートさえ助けられれば…! ん?」

 

次の攻撃に入ろうとしているロケット団のいるコイキング型の潜水艦の近くにユラリと小さな影が見える。

小さな影は勢いよく海面から飛び出すとその大きな鋏でアームを切り裂いた!

 

「ヘイヘーイ!」

 

「クー!」

 

海面から飛び出した赤い影の正体はごろつきポケモンのヘイガニであり、どうやらクチートを助けてくれたようだ。

 

「ああっ、クチートが!?」

 

「ちょっと何すんのよアンタ!?」

 

「ヘイ! ヘイヘイヘーイ!」

 

「卑怯な戦い方をするヤツは許さないって言ってるニャ」

 

どうやらヘイガニは近くでサトシ達の戦いを見ていたようである。

クチートをポケ質に取ったロケット団に対して怒りを抱いたのかクチートを助け出してくれた上にバトルに加わるようである。

 

「何を生意気な! ハブネーク、やっちゃいなさい!」

 

「ハブー!」

 

「ヘーイガッ!」

 

「ハププッ!?」

 

乱入者であるヘイガニを退場させようとハブネークが襲い掛かるが、ヘイガニは一歩も怯まずにクラブハンマーで反撃してハブネークを吹き飛ばす。

吹き飛んだハブネークは戦闘不能となりコイキング型潜水艦の所で倒れてしまう。

 

「よーし、クチートが無事なら遠慮なく行くぜ! キモリはエナジーボール! クチートはようせいのかぜ!」

 

「キャーモッ!」

 

「クート!」

 

「サボネーッ!?」

 

そして遠慮が要らなくなったサトシ達も攻撃を行う。

キモリとクチートによるダブル攻撃によりサボネアをハブネーク同様戦闘不能になりコイキング型潜水艦の所まで吹き飛ばされる。

 

「これでトドメだ! ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ヒョウカ、れいとうビーム!」

 

「ピーカチュゥウウウウ!」

 

「クゥーーー!」

 

「「あわわわわ!? ギャーッ!?」」

 

ピカチュウの電撃とヒョウカの氷結のビームをまともに浴びてしまったロケット団は凍りながら痺れてドカン!と爆発した。

 

「「「ヤなカンジ~!」」」

 

ヒュ~と潜水艦ごと飛んでいき水平線の彼方へと消えていったロケット団を見送り、サトシ達は漸く一息つくことができた。

 

「戻れヒョウカ。お疲れさん」

 

「ピカチュウ、クチート、大丈夫だったか?」

 

「ピィカ!」

 

「クークー!」

 

ソラトはヒョウカをボールに戻し、サトシはピカチュウとクチートの無事を確認すると助けてくれたお礼を言うためにヘイガニに近寄った。

 

「クチートを助けてくれてありがとな。えーっと…」

 

『ヘイガニ ごろつきポケモン

するどいハサミで敵を捕まえる。好き嫌いが無いので何でも食べる。汚い水でも平気で住めるポケモン。』

 

クチートを助けてくれたヘイガニにお礼を言おうとするサトシだが、ヘイガニは初めてみたため名前が分からなかったためポケモン図鑑を開いてヘイガニを検索する。

 

「ヘイガニか! ありがとなヘイガニ!」

 

「ヘイヘーイ!」

 

名前が分かったところで改めてヘイガニにお礼を言うとヘイガニも気にするなと言う様にハサミを上げて返事をする。

 

「クート」

 

「ヘイ? …ヘイヘイヘーイ!!」

 

クチートもヘイガニにお礼を言うためにヘイガニに近寄る。

そしてヘイガニはクチートを見ると、少しの間硬直すると目をハートマークにして悶え始めた。

どうやらクチートはヘイガニのストライクゾーンど真ん中だったらしい。

 

「あれ、ヘイガニどうしたの?」

 

「ふむ…波動を感じると激しく喜んでいるな。というか波動の動きが激しくてそれくらいしか読み取れないな」

 

サトシもマサトもソラトも、男3人は突然ヘイガニが騒ぎ出した理由を察する事ができなかったが、恋に敏感な乙女であるハルカはすぐにその理由を察する事ができた。

 

「もう、3人とも分からないの? ヘイガニはクチートの事が好きになっちゃったのよ」

 

「…だからそれ普通の事だろ? ポケモン同士なんだし」

 

「だから…ハァ、もういいわ。サトシには言っても分からないでしょうし」

 

「?」

 

ハルカがヘイガニの心境を教えるものの、サトシはやはり恋愛の事はサッパリらしい。

そうこうしている間にヘイガニはクチートへと熱烈なアタックを仕掛ける。

どこから持ってきたのか花束を持ってクチートに迫って差し出す、というか突き出す。

 

「ヘイヘイ! ヘイヘイヘーイヘイ!」

 

「クー…クー!」

 

「ヘイヘーイ! ヘイ?」

 

あまりにヘイガニがしつこく迫るため、恩人であるにも関わらずクチートは嫌そうな顔をして逃げ出してしまう。

押して押して押しまくるヘイガニは逃げたクチートを追いかけるも、クチートの逃げた先を見て硬直する。

クチートはヘイガニから逃げ出して自身が愛するキモリの腕を取り、その後ろに隠れたのだ。

 

「クート」

 

「キャモ?」

 

「ヘ…イ…!?」

 

惚れた相手には既に心に決めた相手が居た…といった具合にクチートとキモリを見てしまったヘイガニはショックのあまりに真っ白になって燃え尽きていた。

ショックついでにヘイガニが持っていた花の花びらはヒュゥ~と吹いた風に全て飛ばされていってしまった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そっか、クチートはキモリの事が好きになったんだよね」

 

「ヘイガニの恋は始まる前に終わってたって事か…。まぁ、ドンマイ?」

 

「ヘ…ヘイヘイヘイ! ヘイガッ!」

 

「キャモ? キャーモキャモ」

 

マサトとソラトの言葉にヘイガニの中で何かが切れたのか、ヘイガニはキモリに向けてハサミを向けると何やら早口でまくし立てている。

対してキモリは何やら戸惑っておりどうどうとヘイガニを落ち着かせようとするが、それがかえって逆効果となりヘイガニを嫉妬の炎で燃え上がらせる。

 

「何だ? どうかしたのかヘイガニ?」

 

「きっとバトルを申し込んでいるのよ。クチートを賭けて勝負しろ!みたいな感じなのよきっと」

 

「ヘイヘイ!」

 

「どうするキモリ? ヘイガニとバトルするか?」

 

「キャモ…キャーモ?」

 

「クート」

 

ハルカの予想に対してヘイガニは大きく頷いているため、どうやらその通りらしい。

だが当のキモリはバトルには消極的でありやる必要なくないか?といった困り顔でヘイガニを見ていた。

無論クチートもキモリ一筋でヘイガニはノーセンキューであるためバトルには興味無さ気である。

だがそれで収まるのであればヘイガニもごろつきポケモンなどとは呼ばれない。

 

「ヘイヘイ!」

 

「キャモッ!?」

 

「なっ!? 危ないキモリ!」

 

無理やりにでもバトルだと言わんばかりにヘイガニはハサミを開いてはさむ攻撃を繰り出す。

キモリは間一髪ではさむを回避すると、仕方が無いとばかりにバトルの構えを取った。

 

「キャモ!」

 

「お、やる気だなキモリ! それじゃ行くぞヘイガニ!」

 

「ヘイヘーイ!」

 

ヘイガニは先手必勝で両手のハサミを開くとそこから泡の弾丸、バブルこうせんを発射する。

 

「キモリ、ジャンプしてかわせ!」

 

「キャモー!」

 

「そのままはたく攻撃!」

 

「ヘイ!」

 

キモリはバブルこうせんを大きくジャンプして回避すると、落下の勢いを利用しつつ体を捻りはたく攻撃を繰り出す。

だがヘイガニは身を縮めてキラリと体を少し輝かせるとはたく攻撃を正面から受けてみせた。

 

「今のは!」

 

「ヘイガニのかたくなるだな。防御力を上げて正面から攻撃を受けきってみせたな」

 

「やるなヘイガニ! だったらスピード勝負だぜ! キモリ、でんこうせっか!」

 

「キャモキャモキャモ!」

 

「ヘイー!?」

 

ヘイガニの攻防共にバランスの取れた戦法に感心しながら観戦するマサトとソラトを横に、サトシは今度は速度で勝負を仕掛ける。

正に電光石火に相応しきスピードでヘイガニとの距離を詰めたキモリの攻撃が決まり、今度は防御することもできずにヘイガニは吹き飛んだ。

だがヘイガニは空中で体勢を整えると片方のハサミを振り上げる。

 

「ヘイヘイヘイヘイ!」

 

「キモリ、クラブハンマーが来るぞ!」

 

「キャモ!?」

 

空中からの強烈な一撃がキモリに振り落とされる瞬間、キモリは避けようとヘイガニに背中を見せてしまう。

その無防備な背中にヘイガニのクラブハンマーが叩き込まれた―

 

「ヘイッ! …ヘイ?」

 

「キャモッ!? …キャーモ?」

 

―のだが、キモリは大きく吹き飛ばされはしたものの大したダメージを受けていなかった。

このダメージの少なさはタイプ的な相性以外にも何か要因がありそうである。

 

「何!? お兄ちゃん、今何が起こったの!?」

 

「今のは…キモリの背中をクラブハンマーで攻撃したが、キモリの尻尾に当たったせいでそれがクッションになってダメージが軽減されたんだ」

 

そう、ソラトの解説通りクラブハンマーはキモリの尻尾に命中してしまいクッション…盾のような役割を果たしてダメージがより軽減されたのだ。

 

「ヘイ…ヘイヘイ!」

 

だがそれで止まるヘイガニではなく、今度はバブルこうせんを放ってキモリに攻撃を仕掛ける。

 

「キモリの尻尾…よし! キモリ、尻尾でバブルこうせんを受け止めるんだ!」

 

「キャモー!」

 

サトシの指示に従い、振り返ってキモリは尻尾を盾のようにして構えてバブルこうせんを受け止めた。

先ほどと同じようにほぼダメージは無いようである。

 

「よし! いいぞキモリ! はたく攻撃だ!」

 

「キャーモ!」

 

「ヘイガッ! ヘイヘーイ!」

 

キモリの反撃を、ヘイガニはかたくなるで受け止めると再びバブルこうせんで反撃する。

しかし先ほどと同じく尻尾で防がれて思うようにダメージを与える事ができないでいる。

流れは完璧にサトシ達が握っていた。

 

「トドメだキモリ、エナジーボール!」

 

「キャモ、キャーモッ!」

 

「ヘイ!? ヘーイー!?」

 

エナジーボールは吸い込まれるようにしてヘイガニに命中すると爆発し、ヘイガニを吹き飛ばした。

こうかはばつぐん、かつ防御してたとはいえはたく攻撃のダメージも0ではないためヘイガニは戦闘不能になってしまった。

 

「ヘイヘイ…」

 

「よし、このままゲットだぜ! 行け、モンスター―」

 

倒れたヘイガニをゲットしようとモンスターボールを構えるサトシだったが、その前に再び海面から大きな影が飛び出してくる。

大きな影は先ほどサトシ達が吹き飛ばしたロケット団のコイキング型潜水艦である。

先ほどとは違いボロボロであちこちツギハギで修繕されており、×マークでテープも張られて穴を塞がれている。

お手製修理感満載だが、どうやらあれで最低限機能しているらしい。

 

「な、何だ!?」

 

「アレはロケット団の…なんか今日はしつこいな」

 

「なんか今日はしつこいなと言われたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「以下省略なのニャ!」

 

再び現れたロケット団はコイキング型潜水艦のボロボロアームを操作すると、再びピカチュウとクチートを捕まえてしまう。

 

「ピカー!」

 

「クー!」

 

「ああっ!? ピカチュウ! クチート!」

 

「今度こそコイツらは頂いていくニャー!」

 

今度こそピカチュウとクチートを捕まえたロケット団は素早く潜水艦の中へ戻ると中でペダルを漕いで急速潜行する。

あっという間の出来事に、サトシ達は何かする前にロケット団に逃げられてしまう。

 

「ああっ!? 待てロケット団!」

 

「ど、どうしよう!? このままじゃ逃げられちゃうよ!」

 

「お兄ちゃん! 何か方法は無いの!?」

 

「よし、今度はスイゲツを―」

 

「ヘイヘーイ!」

 

海へ潜って逃げるロケット団に対して追いかけるためにソラトはスイゲツを繰り出そうとするが、その前にヘイガニが飛び出して海へと潜った。

どうやらピカチュウとクチートが連れ去られていくのは戦闘不能になりつつ見ていたようである。

愛しのクチートが攫われたと見て、急いで助けに行くつもりなのだろう。

ヘイガニは猛スピードで水中を泳ぎ、みるみるうちにコイキング型潜水艦に追いついてしまう。

 

「いやー、なんとか上手くいったな!」

 

「あいつら1度ニャー達を撃退して油断してたのニャ」

 

「それよか早く距離を離してピカチュウとクチートを回収すんのよ! 溺れられたら大事だからね」

 

コイキング型潜水艦の中では勝ちを確信したロケット団による喜びの会話がされているが、潜水艦に追いついたヘイガニは鋭いハサミを使い、再びピカチュウとクチートを捕まえているアームを切り裂いた。

そして溺れないようにピカチュウとクチートをハサミで軽く掴むと海面へと浮上した。

 

「ヘイヘーイ!」

 

「ピカッ! ピカ、ピカチュウ!」

 

「クッ! クートクート!」

 

「ヘ、ヘーーイ!!」

 

ピカチュウとクチートは助けてもらったお礼をヘイガニにすると、クチートのお礼を受けたヘイガニは目をハートにして悶え喜んでいた。

しかし悶えるのもほどほどに、ヘイガニはピカチュウとクチートを連れて少し離れてしまっていた先ほどの海岸まで戻る。

 

「ヘイガニ! またピカチュウとクチートを助けてくれたんだな! ありがとな!」

 

「ヘーイ」

 

無事にサトシ達と合流すると、再びサトシはヘイガニにお礼を言う。

今日だけでヘイガニに2回も助けられてしまい世話になってしまったのだ、お礼は1つ2つだけではサトシの方が気がすまないだろう。

 

だがそこへコイキング型潜水艦が戻ってきてしまった。

どうやらピカチュウとクチートが逃げた事に気がついたようだ。

 

「コラー! 折角捕まえたんだから逃げたらダメでしょーが!」

 

「そうだそうだ! また捕まえるから今度は逃げるなよ!」

 

まこと勝手な主張である。

だがそんな提案を受ける者はサトシ達は勿論この世では誰も居ないだろう。

 

「勝手な事言うな! 今度こそやっつけてやる! 行くぞ皆!」

 

「ピカッ!」

 

「キャモ」

 

「クー!」

 

「ヘイヘイ!」

 

「「「ゲゲッ!?」」」

 

ピカチュウ、キモリ、クチートと共にヘイガニまでもがロケット団を攻撃する姿勢になる。

先ほどのバトルでハブネークとサボネアが戦闘不能になっているロケット団に抵抗する術は無い。

 

「ピカチュウは10万ボルト! キモリはエナジーボール! クチートはようせいのかぜ! ヘイガニはバブルこうせんだ!」

 

「ピーカチュウウウ!」

 

「キャーモッ!」

 

「クートーッ!」

 

「ヘーイガッ!」

 

ポケモン達の攻撃が一斉に放たれ、最終的にはエネルギーが1つに纏まりコイキング型潜水艦に直撃すると、今度こそコイキング型潜水艦は大きな爆発音と共に四散して吹き飛んだ。

今日も今日とて空を飛ぶロケット団。今日は今日で2回目の空中飛行だロケット団。

 

「「「ヤなカンジ~!」」」

 

「ソーナンス!」

 

キラリン☆と昼間だというのに空の星となってしまったロケット団。

あれだけ吹き飛べばもう今日は安全になるだろう。

 

「今度こそやったぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「皆いいコンビネーションかも!」

 

「うん! ヘイガニもイイ感じでバトルできてたし、サトシもさっきゲットしようとしてたからこのまま仲間になってもいいんじゃない?」

 

「ヘイ?」

 

皆が無事であった喜びを分かち合っていると、マサトの言葉にヘイガニが首を傾げる。

確かに先ほど邪魔が入る直前、サトシはヘイガニをゲットしようとしていた。

それに今のバトルでの最後の合体攻撃は中々皆の息が合っていた。

 

「そうだな…ヘイガニ、どうだ? 俺達と一緒に来ないか?」

 

「ヘイ、ヘイヘイ…」

 

ヘイガニは戸惑いつつも愛しのクチートと一緒にいられるなら良いかもしれない、と考えてクチートの方を向く。

 

「クートクト!」

 

「キャモ? キャモキャモ…」

 

「ガッ!?」

 

が、クチートはキモリの腕を取って抱きついており誰がどう見てもヘイガニは眼中に無いようだった。

しかもキモリもやれやれといった態度を取りつつも今度は振り払うような事はしなかった。

無論先ほど助けてくれた事には感謝しているのだろうが、クチートからすればヘイガニは恋愛対象ではなかったらしい。

あまりのショックにヘイガニは再び真っ白になってしまい、ヒュゥと寂しい風がヘイガニの周囲を吹き抜けていった。

 

「ヘ、ヘ、ヘイヘイヘーイ! ヘイヘイ!」

 

硬直から回復したヘイガニは捲くし立てるようにしてサトシに何かを訴える。

 

「うわっ!? どうしたんだヘイガニ!?」

 

「波動が物凄く激しく燃え上がってるな。なんだか滅茶苦茶やる気に満ち溢れているぞ」

 

「もしかして、自分をゲットしてって言ってるのかも。サトシの手持ちになってクチートを振り向かせるつもりじゃないかしら」

 

「ヘイヘイ!」

 

ハルカの言葉はまたも的中していたようで、ヘイガニは勢いよく首を縦に振って肯定した。

どうやら恋愛事に関してのハルカの観察眼や勘というのは侮れない物があるようだ。

 

「よーし、そうと決まれば! 行くぜヘイガニ!」

 

「ヘーイ!」

 

サトシはモンスターボールを放ると、ヘイガニは自らハサミを当ててモンスターボールに吸い込まれてゲットされる。

こうしてキモリのライバル?であるポケモン、ヘイガニをゲットして更に仲間を増やす事ができたのだった。

 

「よーし! ヘイガニ、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

クチートに惚れ込んだヘイガニをゲットする事ができたサトシ。

新しく、賑やかな仲間を加えた彼らのポケモン修行はまだまだ続く!

 

 

 

to be continued...




オカタヌキさんより挿絵を頂きました。
ご本人の許可も頂いているので挿入させて頂きます。
ありがとうございます!

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