ポケットモンスター-黒衣の先導者-   作:ウォセ

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ちょっと遅くなって申し訳ありません。
今回はタイトル通りメガバトルです。


激突メガバトル! ラグラージVSメタグロス

ホウエン地方2番目のジムがあるムロ島に到着したサトシとソラトは、早速ムロジムジムリーダーのトウキにバトルを申し込む。

ソラトはウォーグルのモウキンとサーナイトのレイを使い、見事力と力のぶつかり合いを制した。

続くサトシもキモリとスバメで挑戦するが、攻撃を受け流す戦法に苦戦を強いられてしまう。

これにより自分を見失ったサトシは無理をしてバトルを続行するも、進化したハリテヤマに惨敗。

更にキモリも大ダメージを負ってしまう。

だがサトシはソラトの導きにより自分を取り戻し、ムロ島で修行をする事を決意するのだった。

 

朝、日が昇り始めた頃。

カーテンの隙間から射す光に刺激され、ハルカは目を覚まして大きな欠伸をする。

 

「ふぁぁ…おはよう…あれ、サトシとピカチュウは?」

 

ポケモンセンターで借りている部屋には2つの2段ベッドがあり、昨夜はここで全員寝ていた筈だったが、サトシの姿だけ見えなくなっていた。

 

「ふわぁ、昨日の夜はいたのにね」

 

「…ん、何となく予想はつくな。とりあえず朝メシ食べに行くか」

 

3人で部屋を出てポケモンセンターの中を歩いていると、キモリが治療を受けている病室の前のベンチで毛布だけかぶってサトシとピカチュウが眠っていた。

こんな場所ではよく眠れないのにも関わらず寝ているとは、余程キモリの傍に居たかったのだろう。

 

「「「サトシ」」」

 

皆で声をかけると、眠そうにしながらも起きたサトシは目を擦って周りを確認した。

 

「…ん、ああ皆」

 

「こんな所で寝てたら風邪ひくわよ」

 

「あぁ、でもキモリの事が心配だったんだ」

 

「ピィカチュウ」

 

目が覚めたサトシは治療を受けているキモリがよく見えるガラス張りの壁へ近寄り中の様子を見る。

治療器の中で眠るキモリの体の傷はほとんど治っており、今はもうゆっくり眠っているように見える。

 

「キモリ、大丈夫かな」

 

「ピーカ」

 

「大丈夫だ。キモリから感じられる波動は安定してるから、体の調子は元に戻ってるさ」

 

「そっか! なら良かった!」

 

と、そこへキモリの病室からジョーイさんが出てくる。

どうやら治療が終わったようだ。

 

「ジョーイさん、おはようございます」

 

「「「おはようございます」」」

 

「おはよう」

 

「あの、キモリの様子はどうですか?」

 

朝の挨拶を軽く済ませると、サトシはすぐにキモリの容態について聞く。

今ソラトに大丈夫だと言われたが、治療を担当してくれたジョーイさんからも大丈夫だという事をちゃんと聞いておきたいのだろう。

するとジョーイさんは笑顔で答えてくれた。

 

「安心して。もう大丈夫よ」

 

「ホントですか! 良かった!」

 

その後サトシ達はすぐにポケモンセンターのロビーに移動するとボールに納められたキモリとスバメを受け取った。

 

「はい、サトシ君」

 

「ありがとうございます! キモリ、スバメ、出て来い!」

 

「キャモ」

 

「スバスバ!」

 

様子を確認するために2つのボールを開けると、キモリもスバメも元気な様子で朝の挨拶を交わした。

もう2体とも傷は完全に癒え、万全の調子を取り戻したようである。

 

「すっかり元気になったみたいだね!」

 

「2人ともゴメンな。昨日は俺が悪かったよ」

 

「スバスバ~」

 

「キャ~モ」

 

昨日無理をさせ過ぎた事を反省しているサトシはキモリとスバメにそう謝るが、2体とも気にするなと言うように首を横に振った。

サトシも反省し、キモリとスバメも根に持つように思ってはいない。

こうなれば、後は次のために頑張るだけである!

 

「ありがとな! また一緒に頑張ろうぜ!」

 

「ピィッカチュウ!」

 

こうしていつもの調子を取り戻したサトシ達はとりあえず体力をつけるためにポケモンセンターの朝食を食べることにした。

ポケモン達にもそれぞれポケモンフーズを食べさせて今日も1日頑張るのである。

中でもハルカのケムッソはトレーナーに似て凄い勢いで食べていく。

 

「ケムケムケムケム!」

 

「ケムッソ、沢山食べて大きくなるのよ」

 

「ケム!」

 

「よーし、俺も今日からポケモン修行開始だぜ! でも、どこでどうやって修行しようかな」

 

「修行って、やっぱ滝に打たれるとかかな?」

 

「うーん…」

 

サトシ達が修行について話し合っていると、ササッとサンドイッチを食べ終わったソラトは一息ついて立ち上がりリュックを背負った。

 

「さて、俺はちょっと用事済ませてくるわ」

 

「用事? 何するのお兄ちゃん?」

 

「ツワブキ社長から預かったこの手紙を渡しに行くのさ。ムロ島の石の洞窟にいるって言ってただろ」

 

カナズミシティで出会ったデボンコーポレーション社長のツワブキ社長から、ムロ島に行くならついでに石の洞窟にいる息子のダイゴに手紙届けてほしいと言われたソラトはそれを預かっている。

その手紙を届けるのと、ソラトの勘が間違っていなければ更なる貴重な経験ができる筈である。

 

「サトシ達も来るか? きっと、いいものが見れると思うぜ」

 

「「「いいもの?」」」

 

「あぁ。俺にとっても貴重な経験だし、来て損は無いと思うが」

 

「んー、まだ何も決まってないし、ソラトがそう言うなら行ってみるか!」

 

「「うん!」」

 

こうしてサトシ達はソラトの用事を済ませるために石の洞窟へと向こう事にした。

石の洞窟はムロ島にある大きな岩山の内部に入れる洞窟であり、山の内部はとても大きな空間になっている。

そこには洞窟に住む習性を持つポケモンや、いわタイプやじめんタイプを始めとする多くのポケモンの住処となっていた。

そんな石の洞窟にやってきたサトシ達。

こういった本格的な洞窟を初めて見たハルカとマサトは驚きに目を見開いていた。

 

「わぁ~、ホントに洞窟ってカンジかも!」

 

「というか洞窟だよお姉ちゃん」

 

「ここにダイゴさんがいるんだな」

 

「ああ、ツワブキ社長から聞いた話だと、ダイゴさんは珍しい石を集めるのが趣味らしいんだ。石の洞窟でもそんな珍しい石を探してるんじゃないかって言ってたよ」

 

「珍しい石?」

 

「多分進化の石や綺麗な石とかそういうモンだろ。ダイゴさんを探す上で注意する事は2つだ。石の洞窟は入り組んでるからはぐれないようにする事と、野生のポケモンを無闇に刺激しない事だ」

 

洞窟での探検経験もあり、進化の石の採掘も行うソラトからすればこういった洞窟はお手の物である。

そのため初めての洞窟探検となるハルカとマサトに向けて注意事項を説明する。

洞窟に住むポケモンは刺激しなければ大人しいのだが、下手に騒いだりして刺激してしまうと縄張りを守るために攻撃してくるポケモンも少なくない。

一部例外の習性を持つポケモンもいるが、とりあえずソラトの言うとおりにしておけば安全である。

 

「それじゃ、ダイゴさんを探しに行くとするか」

 

「「「おー!」」」

 

こうして石の洞窟の奥へと進んでいくサトシ達であった。

しかしサトシ達行く先にロケット団あり!とでも言わんばかりにロケット団の3人組はサトシ達を先回りして落とし穴を掘っていた。

石の洞窟の上層部にある吹き抜けになっているエリアは、必ずサトシ達が通ると睨んでそこをスコップを使い、汗水流して穴を掘る。

 

「「「えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ」」」

 

穴を掘ってサトシ達を落とした後でピカチュウだけ掻っ攫う作戦なのだが、コジロウは何時も通り失敗しそうな予感がしており不満顔であった。

 

「なぁ、やっぱし落とし穴作戦はやめて直接バトルした方がいいんじゃないか?」

 

「何言ってんのよ! 口より手を動かす! 手を!」

 

「でも、これって何時ものダメなパターンじゃないか…?」

 

いつもいつも落とし穴を掘り、サトシ達を嵌めては脱出されてバトルで吹き飛ばされてヤなカンジーであるため、コジロウはもう先の展開が読めているのかげんなりしていた。

だがムサシは聞き入れずコジロウに怒鳴り散らす。

そんな2人を尻目にせっせと穴を掘っているニャースだったが、やれやれといった様子で仲裁に入る事にする。

 

「おミャーらサボってニャいでさっさと掘るニャ」

 

「ゴォド」

 

「ほら、コイツもそう言ってるニャ」

 

「ゴド、ゴドゴド」

 

「俺のナワバリで勝手に穴を掘るニャーって…ニャ!?」

 

ニャースが何気に訳していたポケモンの言葉は、いつの間にか穴を掘っているロケット団の横に現れた野生のボスゴドラの言葉だった。

どうやら石の洞窟のこの辺りはこのボスゴドラのテリトリーだったらしく、見回り中にロケット団を見つけてしまったらしい。

因みに言うと先ほどチラリと出てきた刺激をしなくても襲ってくる、例外の習性を持つポケモンの一種でもある。

 

「「「ボ、ボスゴドラー!?」」」

 

無論、自分のナワバリを荒らす不埒者をボスゴドラが許すはずも無い。

 

「ゴォオオオッド!」

 

「「「ウッソだぁ~!?」」」

 

「ソーナンス!」

 

口に鋼のエネルギーを凝縮し、ラスターカノンを発射してロケット団を吹き飛ばす。

ドカーン!と大きな音を立てて吹き飛ばされたロケット団は、吹き抜けになっていた所から大空の彼方へと飛んでいってしまったのだった。

 

一方石の洞窟を進むサトシ達は、ボスゴドラがロケット団を吹き飛ばした音と振動を感じ取っていた。

 

「あれ、何だ今の?」

 

「何か音がしたかも。あとちょっと揺れたかしら」

 

「野生のポケモンがナワバリ争いでもしてるのかもしれないな。いや、もしかしたらダイゴさんが野生のポケモンを相手にバトルしてるのかもしれないな。何か手がかりになるかもしれないし行ってみるか」

 

今の音と振動にサトシとハルカが反応すると、ソラトが思いつく限りの予想をする。

もしかしたら野生のポケモンとカチ合うかもしれないが、もしかしたらダイゴと早々に出会えるかもしれない。

しかしソラトも超能力者ではないため行ってみなければ何が起きているのかなど分からない。

サトシ達はとりあえず音がした方向へ向かう事にしてみた。

 

「あ、光が見えるわ!」

 

「もしかして外に出ちゃうの?」

 

「いや、何かしらの要因で洞窟内に光が入ってるのかもしれない。とにかく行ってみよう」

 

「うん! なんだか洞窟探検ってワクワクするね!」

 

「ピッカ!」

 

石の洞窟を歩いて冒険心に火が着いてきたのかマサトとピカチュウはニコニコしながら先頭を突き進んでいく。

そして光が差す道を進み、大きな広間に出る。

そこは天井が吹き抜けになっており空が見えるような大きな空間だった。

何故か一部分にはスコップと、それで掘ったであろう大きな穴があった。

 

「成る程、吹き抜けになってたから光が見えたんだな」

 

「なぁソラト、こっちの穴は何かな?」

 

「スコップがあるし、ダイゴさんが石を探してたのかもしれないな。案外近くにいるかもな」

 

「それじゃこの近くを探してみるか」

 

一先ずはこの吹き抜けの広間を中心に周囲を探索する方向で話を纏めるサトシとソラト。

ハルカは吹き抜けを見上げており、マサトとピカチュウは広間のあちこちをウロチョロして色々探索してみている。

 

「何か面白そうな物やポケモンはいないかな~」

 

「ピィカチュ」

 

「ゴド」

 

「あれ? ピカチュウ何か言った?」

 

「ピカ?」

 

広間の隅で何か無いかを探していたマサトだが、何か聞き慣れないような声を聞いて思わずピカチュウに問いかけるも、ピカチュウは首を横に振る。

 

「じゃあ今の声は…」

 

「ピカ…」

 

2人は恐る恐る、といった様子でゆっくりと後ろを振り返るとそこには…

 

「ゴォオオオド!」

 

先ほどロケット団を吹き飛ばしたボスゴドラが立っていた。

ロケット団を追い払った後、ナワバリの他の場所の見回りに向かったのだがサトシ達の気配を感じたのか戻ってきたのだろう。

 

「うわぁあああー!?」

 

「ピィカー!?」

 

マサトとピカチュウはボスゴドラに驚くと大声をあげて大慌てで逃げ出し、姉であるハルカの元まで駆け寄りその陰に隠れる。

 

「きゃっ!? どうしたのよマサト!?」

 

「ボ、ボスゴドラだよ!」

 

「ええっ!?」

 

幸いボスゴドラはすばやさが低く、動きはあまり機敏ではないがズンズンと地面を揺らしてゆっくりとマサトを追いかけてきている。

 

「ハルカ! マサト!」

 

「ピカチュウ、アイアンテールだ!」

 

「ピカピッカ!」

 

離れていたサトシとソラトも今の声を聞きつけると、ソラトはハルカとマサトを庇うようにボスゴドラの前に立ちはだかり、サトシはピカチュウに迎撃の指示を出す。

ピカチュウは体を大きく捻り、アイアンテールをボスゴドラに叩きつける!

だがガキィン!と耳障りに音を立ててアイアンテールは弾かれてしまう。

はがねタイプの技であるアイアンテールは、同じはがねタイプを持つボスゴドラに対しては効果はあまり期待できない。

 

「ゴォオオオッド!」

 

ピカチュウのアイアンテールを凌いだボスゴドラは再び口に鋼のエネルギーを収束、発射体勢に入る。

 

「気をつけろサトシ! ラスターカノンが来るぞ!」

 

「ラスターカノン?」

 

「ゴォド!」

 

聞き慣れない技の名前を聞いて疑問符を頭に浮かべるサトシだが、そうしている間にボスゴドラは口からラスターカノンを発射する。

はがねのエネルギーはピカチュウを捉えると直撃し、ピカチュウは吹き飛ばされてしまう。

 

「ピカー!?」

 

「しまった! 大丈夫かピカチュウ!?」

 

「ピィ…カ!」

 

ある程度ダメージを受けたようだが、戦闘自体はまだ問題なく続けられそうであるピカチュウは元気をアピールすると再びボスゴドラへと跳びかかる。

 

「よし、次は10万ボルトだ!」

 

「ピーカー、チュゥウウウウウ!」

 

渾身の電撃を放つと、鈍足のボスゴドラはそれを避ける事もできずにまともに受けてしまう。

 

「グォオオオオッ!? ゴグァ!」

 

電撃を受けて一瞬怯んだボスゴドラだったが、ピカチュウの反撃に怒ったのか全身を鋼のパワーで包んでピカチュウに突進する。

 

「今度はアイアンヘッドだ! 真正面から受けるのはマズいぞ!」

 

「だったらピカチュウ、かみなりだ!」

 

「ピーカー、ヂュウウウウウウ!」

 

ピカチュウのより強力な電撃とボスゴドラのアイアンヘッドがぶつかり合い、大きな音と地響きを立てて石の洞窟全体を大きく揺らした。

ぶつかり合った衝撃で舞い上がった粉塵が晴れると、ボスゴドラは目を回して倒れていた。

 

「やったぜピカチュウ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

見事野生のボスゴドラを倒したサトシとピカチュウはハイタッチして喜びを分かち合っていた。

 

「でも急に襲ってきたわね。マサト怪我はない?」

 

「うん、ボクは大丈夫だよ」

 

「ボスゴドラは山や洞窟を丸ごと1つナワバリにするんだ。見回りしてる時にかち合ったんだろうな」

 

このようにナワバリを見回りするタイプのポケモンは下手に刺激しなくとも襲ってくるので、先ほどのソラトの忠告を守らなくてもバトルになってしまう。

こういった場合は逃げてナワバリの外に出るか、バトルで倒してしまうかするかで場を収めるしかない。

 

「しかしこうなってくるとダイゴさんが心配だね。野生のポケモンに襲われてるかもしれないし」

 

「いや、それは大丈夫だと思うぞ」

 

「え、何で?」

 

「何でってそりゃ―」

 

石の洞窟のどこかにいるダイゴを心配するマサトだが、それをソラトはすぐに否定した。

そしてその訳を言おうとした瞬間、倒れていた野性のボスゴドラがゆっくりと起き上がる。

 

「グォド!」

 

「何!? もう目が覚めたのか!?」

 

完全に不意を突かれた形となり、無防備な状態なサトシ達に怒りのボスゴドラが攻撃を繰り出す!

 

「コメットパンチ!」

 

「メッタ!」

 

「ゴドッ!?」

 

ボスゴドラの攻撃が放たれるまさにその瞬間に、洞窟の奥から白く大きな鉄塊が流星のように飛び出してボスゴドラを弾き飛ばした。

白い鉄塊は空中で速度を緩めて止まると、折り畳んでいた4つの足を伸ばしてその姿を露にした。

 

「あのポケモンは…!?」

 

『メタグロス てつあしポケモン

ダンバルの最終進化系。4つの脳はスーパーコンピューターよりも早く難しい計算の答えを出す。4本足を折り畳み空中に浮かぶ。』

 

サトシはポケモン図鑑で現れたポケモン、メタグロスを検索する。

しかし図鑑の写真の姿は青い色をしているのに対して目の前のメタグロスは真っ白な色をしている。

 

「図鑑と色が違う…色違いのメタグロスか!」

 

「メタグロス、バレットパンチだ!」

 

「メタッ!」

 

「グォッ!? ゴドッ! ゴォド!」

 

その巨体に見合わぬほどのスピードでバレットパンチを繰り出したメタグロスは、ボスゴドラを軽々と吹き飛ばす。

吹き飛ばされて壁に叩き付けられたボスゴドラは実力差を感じたのか、慌てて起き上がり洞窟の奥へと逃げていった。

そして色違いのメタグロスのトレーナーらしき灰色の髪をしたリュックを背負った美青年が現れる。

 

「戻れメタグロス。君達、大丈夫かい?」

 

「「「「はい、ありがとうございます」」」」

 

「助けてくれてありがとうございます! 俺サトシっていいます」

 

「ピッピカチュウ」

 

「ハルカです」

 

「ボク、マサトです」

 

「ソラトです。あの、貴方のお名前はツワブキ ダイゴさんでお間違いないですか?」

 

「ん? そうだよ、僕がダイゴだ」

 

この色違いのメタグロスのトレーナーであるリュックを背負った美青年が、デボンコーポレーションの御曹司であるツワブキ ダイゴのようだ。

意図せずともダイゴと出会うことができたソラトは、ツワブキ社長からの頼まれごとを果たす事にする。

 

「ダイゴさん、貴方の父親のツワブキ社長からお手紙を預かっているんです」

 

「親父から?」

 

ソラトはリュックから預かっていた手紙を取り出すと、確かにダイゴに手渡した。

 

「確かに親父の字だ。ありがとうソラト君」

 

「いいえ。それよりも個人的にダイゴさんにお願いがあるんですが、聞いて頂けないですか?」

 

「お願い?」

 

「はい…俺と、ポケモンバトルをして欲しいんです」

 

「「「えっ!?」」」

 

ダイゴに対してポケモンバトルを申し込んだソラトに対して、サトシ達は驚きの声をあげる。

まさかほぼ初対面であるダイゴに対してソラトがバトルを挑むのは予想外だったのだ。

 

「ちょっとお兄ちゃん、どうしてダイゴさんとバトルをするの?」

 

「そりゃ強さを求めるトレーナーからすればあの人とバトルするのは1つの目標だからな。ですよね、ホウエン地方チャンピオン、ダイゴさん」

 

「「チャンピオン!?」」

 

ソラトの言葉を聞いて、サトシとマサトは思わずオウム返しのようにその言葉を繰り返してしまう。

しかしハルカはその言葉の意味を知らなかったようで首を傾げていた。

 

「ねぇマサト、チャンピオンって何?」

 

「お姉ちゃん知らないの!? ポケモンリーグにいる4人の四天王とその頂点に立つ最強のチャンピオン! つまりダイゴさんはホウエン地方で1番強いポケモントレーナーなんだよ!」

 

「ホウエン地方で1番!?」

 

それぞれの地方に存在するポケモンリーグ公認のジムから8つのジムバッジを集め、ポケモンリーグトーナメントを制覇して優勝するとチャンピオンリーグへの挑戦権を得ることができる。

そしてチャンピオンリーグで4人の四天王を破る事により、その地方で最強の存在であるチャンピオンとのバトルを行う事ができる。

そのバトルに勝利するとそのトレーナーとポケモン達を永遠に記録する殿堂入りが行われ、新たなるチャンピオンになる権利が与えられるのだ。

 

まさか目の前の人物がそのチャンピオンだとは思わなかったハルカは口元を手で押さえて驚いている。

そう、今まさにソラトはホウエン地方最強のポケモントレーナーにバトルを申し込んだのだ。

 

「この場所でやると非公式試合になってしまうけど、それでもいいかな?」

 

「はい。公式戦はホウエンリーグに挑戦してるので…今は俺の実力がチャンピオンであるダイゴさんにどこまで通じるかを試したいんです」

 

「…分かった。親父からの手紙ではソラト君にお世話になったと書いてあるし、そのお礼として申し出を受けるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

こうしてこの吹き抜けの広場をバトルフィールドとして向かい合い、バトルを行う事となった。

それぞれ1つモンスターボールを手に持っており、既にバトルの準備を整えていた。

 

「それじゃあ使用ポケモンは1体。どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点でバトルは終了だ」

 

「はい、よろしくお願いします! 頼むぞスイゲツ、バトルの時間だ!」

 

「ラグラ!」

 

「行け、メタグロス!」

 

「メッタ!」

 

ソラトは自身の相棒であるラグラージのスイゲツ、ダイゴは先ほどの白い色違いのメタグロスを繰り出した。

だがスイゲツは何時もとは違い右前足に腕輪を装着しており、その腕輪には蒼く輝く石が取り付けられていた。

互いにポケモンを繰り出した所でサトシが合図を出す事になっていた。

 

「それじゃ、バトル開始!」

 

「まずは小手調べだ。メタグロス、サイコキネシス!」

 

「メタ」

 

はがね/エスパータイプであるメタグロスはサイコエネルギーを発生させると周囲に落ちていた岩をサイコキネシスで持ち上げるとスイゲツに向けて撃ち出した。

ダイゴは小手調べと言ったが、その速度と威力はそこらのポケモンには決して出せない出力だった。

 

「打ち落とせスイゲツ! マッドショット!」

 

「ラグラッ!」

 

だがスイゲツもマッドショットを放ち飛んでくる岩を打ち砕いた。

 

「中々やるねソラト君。それじゃあこれはどうかな? メタグロス、バレットパンチ!」

 

「メタッ!」

 

「スイゲツ、まもる!」

 

「ラグ!」

 

先制攻撃ができる鋼のパンチ、バレットパンチを放つメタグロスに対してソラトはまもるでバリアを発生させてそれを防いだ。

先ほどからダイゴはソラトの対応を試すように先手を取ってくるが、ソラトも守ってばかりではいない。

 

「今度はこっちからいきます! スイゲツ、グロウパンチ!」

 

「ラッグァ!」

 

「避けろメタグロス」

 

闘気を纏ったパンチを繰り出すスイゲツだが、メタグロスは4本の脚を折り畳んで空中に浮かぶと空を飛んで回避した。

 

「逃がすか! たきのぼり!」

 

「ラグァ!」

 

「メタッ!?」

 

空中に浮かんでスイゲツの上を取ったメタグロスだったが、スイゲツは水の力を纏い跳び上がると頭上のメタグロスにたきのぼりを決めた。

 

「バレットパンチだ!」

 

「メタッ!」

 

「ラグゥ!?」

 

だがダイゴも空中に跳び上がったスイゲツの隙を突いてバレットパンチを直撃させると、叩き落されたスイゲツは体勢を整えて着地する。

メタグロスもゆっくりと地面に降りると再び4本足を伸ばして地面に立った。

 

「ソラトもダイゴさんも凄い攻防だ!」

 

「流石はチャンピオン…どの技も凄いパワーだったよ」

 

「でもお兄ちゃんだって負けてないわ! 頑張ってお兄ちゃーん!」

 

一旦仕切り直しのつもりなのか、スイゲツもメタグロスも距離を取ったまま睨み合い、次の指示を待っている。

 

「うん、ソラト君のラグラージはとてもよく育てられているね。並みのポケモンじゃ、メタグロスの攻撃を掻い潜って反撃する事はできないよ」

 

「ありがとうございます。でもダイゴさん、お互い探りあいはここまでにしましょう」

 

「「「えっ!?」」」

 

その言葉に観戦していたサトシ達は驚きの声を隠せない。

ソラトの言った探りあいはここまで、という言葉が本当ならば今の息もつかせぬ攻防はまだ全力のバトルではなかったという事である。

 

「それじゃあ、コレを使うという事でいいのかな?」

 

そう言ったダイゴは、服に着けているラベルピンに手を添える。

そのラベルピンには虹色に輝く不思議な石が取り付けられている。

ソラトも手に着けているバングルを構える。

バングルにもダイゴのラベルピンに付いている物と同じ虹色に輝く石が装着されていた。

 

「はい…ここから先は、全力本気でいかせて貰います! 行くぞスイゲツ!」

 

「ラグァ!」

 

「今までの俺達を越えろ! 力は想いに、想いは力に! スイゲツ、メガシンカ!」

 

ソラトの口上と共に、ソラトのバングルに装着された石とスイゲツが右腕に装着された石が同時に輝きを強める。

 

「な、何だ!?」

 

「メガシンカ!? 何それ!?」

 

ポケモンに関する様々な知識を持つマサトでさえ、目の前で起こっている事は分からないらしい。

光に包まれたスイゲツの体は徐々に変化していき、光が弾けると同時にその姿を現した。

元の姿よりも上半身が太く大きくなっており、見た目からして先ほどよりもパワーが増しているように見える。

またレーダーとなる背ビレも巨大になっており先ほどよりも全体的に丸く、力強くなっていた。

 

「ラグァアアアアアアアア!!」

 

「スイゲツの姿が変わった!?」

 

「さっきより明らかにパワーアップしてるよ!」

 

「凄いかも!」

 

メガシンカと呼ばれる現象によりパワーアップしたスイゲツを見て、ダイゴはフッと笑うとラベルピンの石の輝きを強める。

それに呼応するようにメタグロスの右前脚に装着されていた石が輝きを増す。

 

「メタグロス、メガシンカ!」

 

「メッタァ!!」

 

メタグロスも光に包まれて徐々に姿が変化し、光が弾けると4本脚が背面側から生えるように変化しており、先ほどとは違い常に浮遊するようになっていた。

 

「メタグロスも姿が変わったわ!」

 

「ここからが本番だ! スイゲツ、マッドショット!」

 

「ラ…グラッ!」

 

スイゲツは大きく息を吸い込んでマッドショットを放つ。その威力は先ほどの比ではない。

するとメタグロスも先ほどよりも圧倒的に素早く動きマッドショットを避けた。

どちらも見掛け倒しではなく、実際に能力が上昇しているのが見て取れた。

 

「メタグロス、しねんのずつき!」

 

「迎え撃てスイゲツ! グロウパンチ!」

 

「メタ!」

 

「ラグラァ!」

 

「「「わぁああああっ!?」」」

 

思念の力を集めたずつきと、闘気を纏ったパンチがぶつかり合いその場に大きな衝撃が生まれる。

広場の隅で座ってみていたサトシ達も、その衝撃を受けてひっくり返ってしまう。

技のぶつかり合いはタイプの相性もあってかメタグロスのしねんのずつきが僅かに押すと、スイゲツを弾き飛ばした。

 

「ラグゥ!」

 

「スイゲツ、マッドショット!」

 

「ラグ!」

 

弾き飛ばされて後ずさりしたスイゲツだが、あまりダメージを受けた様子は見せずにすぐさまマッドショットを放ち反撃する。

 

「サイコキネシスで撃ち返すんだ!」

 

「メッタ!」

 

だがメタグロスはサイコキネシスでマッドショットを受け止めると、逆にスイゲツに向けて撥ね返した。

撥ね返されたマッドショットを受けるスイゲツだが、大きなダメージを受けた様子は無かった。

どうやら防御力も上昇しているようである。

 

「メタグロス、コメットパンチ!」

 

「メッタァ!」

 

「ラグッ!?」

 

メタグロスは4つ脚を顔の前に集結させると、再び流星のようなスピードでスイゲツに向けてコメットパンチを繰り出した。

ソラトの指示とスイゲツの能力を持ってしても攻撃を避けきれずにコメットパンチを受けてしまう。

こうかはいまひとつではあるが、強烈な攻撃を前に確実にダメージを受けてしまっている。

 

「負けるなスイゲツ! たきのぼりだ!」

 

「ラッガァ!」

 

「メタッ!?」

 

だが黙ってやられているソラト達ではない。

自分たちを攻撃してきた隙を突いてたきのぼりで反撃してメタグロスを吹き飛ばした。

大きく吹き飛ばされたメタグロスだったが、空中でクルクル回って体勢を整えてダイゴの傍へと戻っていく。

 

「マッドショット!」

 

「サイコキネシス!」

 

「ラグッ! ラッ!?」

 

「メタ~! メタタッ!?」

 

スイゲツはマッドショットを放つとメタグロスへと命中させるが、メタグロスのサイコキネシスがスイゲツを捕らえて壁に叩きつける。

互いにダメージが蓄積しており、そろそろバトルも佳境となってきている。

その事を察した2人はトドメの一撃を放つ!

 

「スイゲツ! フルパワーでたきのぼりだ!」

 

「メタグロス、全身全霊のコメットパンチ!」

 

水の力を纏い全身を使った体当たりをするスイゲツと、流星の如く速度と重さを持ってパンチを繰り出すメタグロスが互いに跳び上がり激突する。

 

「ラグァアアアアアアアアアアアア!!」

 

「メタァアアアアアアアアアアアア!!」

 

再び最大パワーでぶつかり合う2体により、今度はこの広場だけではなく石の洞窟全体を揺るがすほどの衝撃と振動を生み出した。

振動と衝撃によって粉塵が舞い上がりスイゲツ達の姿を隠してしまう。

 

「「……」」

 

徐々に粉塵が晴れていくと、そこにはお互いに睨み合いつつ向かい合うスイゲツとメタグロスの姿があった。

今の強烈な一撃でぶつかり合ってもお互いに決着がつかないのか―そう思った時、スイゲツの体から剥がれるように光が散り、元の姿に戻ってしまう。

そしてスイゲツは膝を着いて倒れてしまった。

 

「スイゲツ!」

 

「ラ、グ…」

 

「ここまでだ。今回は僕の勝ちだね」

 

「はい…戻れスイゲツ、お疲れ様」

 

残念そうだが、どこか満足そうな表情でソラトはスイゲツをボールに戻した。

ダイゴもどこか嬉しそうな顔でメタグロスをボールに戻すとソラトに近づいた。

 

「ソラト君、とてもいいバトルだったよ。久しぶりに緊張感のあるバトルができて僕も満足だ」

 

「そう言って頂けると嬉しいです。今期のホウエンリーグでリーグを制覇して、いずれチャンピオンリーグに行きますので、その時はリベンジさせて頂きます!」

 

「ああ、その時を楽しみに待っているよ!」

 

 

 

こうしてソラト達はダイゴと別れ、石の洞窟を後にした。

石の洞窟の探検やダイゴとのバトルをしている内に思いのほか時間が経っていたらしく、日は大分傾いていた。

 

「ねぇお兄ちゃん、あのメガシンカっていうのは何だったの?」

 

サトシ達が抱えている疑問をハルカが代表として聞いてみると、ソラトは腕に着けているバングルを見せた。

 

「これはメガバングル。このバングルに付いている石はキーストーンって言ってな。ポケモンに対応するメガストーンと呼ばれる石に反応してポケモンを更に1段階進化させるんだ」

 

「ポケモンをもう1段階進化!? そんな事ができるの!?」

 

「ああ、バトルの間だけな。俺のこのキーストーンと、スイゲツに持たせておいたラグラージナイトというメガストーンが反応してスイゲツはメガラグラージにメガシンカしたんだ」

 

「そんな事ができるなんて、ボクちっとも知らなかったよ」

 

「メガシンカは昔からあったんだが、研究目的で注目されたのはごく最近なんだ。今はカロス地方で熱心に研究されてるんだぜ」

 

「……」

 

新しい知識を知って楽しそうにするマサトとハルカに、それを教えているソラトだが、サトシは黙ったままソラトを見つめていた。

それに気がついたソラトは首を傾げてサトシに問いかける。

 

「どうしたサトシ、俺の顔に何かついてるか?」

 

「…なぁ、どうしてソラトはそんなに強いんだ?」

 

「強い? 俺さっきダイゴさんに負けたじゃないか。俺より強い人なんて幾らでも…」

 

「でも、ソラトはチャンピオンのダイゴさんに1歩も引かずにバトルしてただろ! それにトウキさんにだって正面から勝ってた! どうしてそこまで強くなる事ができたんだ!?」

 

サトシは真剣な眼差しでソラトに問いかけていた。

ソラトには5年の年月で得た経験があると言ってしまえばそれまでだが、サトシはもっと具体的な方法が知りたいのだろう。

ソラトは自分が強くなった過程を順番に思い出すと、やはり最初の想いから話す事にした。

 

「…俺のオヤジはバトルがスゲー強かったんだ。それこそ負けた所なんて見たことが無かった」

 

「……」

 

徐々に日が傾き赤い夕日が周囲を照らす中で、サトシ達はソラトの話に聞き入っていた。

 

「それからいつからか、俺の目標は決まってた。オヤジより強くなっていつか勝つんだって、そう思うようになってたんだ。それから俺のライバルはいつだってオヤジだったんだ」

 

「アラシさんがライバル…」

 

「ああ、いつかオヤジより強くなってオヤジを連れて帰る。それが今の俺の全てだからな。きっとサトシに必要なのは、身近にいる人を明確な目標としてそれに近づく事なんじゃないかな」

 

「……」

 

ソラトの話を聞き終えたサトシは嬉しそうな笑みを浮かべており、何かを決意したような顔つきになっていた。

その様子にソラト達は皆不思議そうな表情をしていた。

 

「へへっ、そっか! なら俺の目標はソラトだ!」

 

「え?」

 

「俺より強くて、経験も豊富だし身近にいる! 俺にとってこれ以上ないくらいの目標だぜ! だからソラト、これからも色々教えてくれよ!」

 

どうやらサトシの中で身近にいる目標としてソラトが指定されたようだ。

何だかとても嬉しそうな顔をしているサトシを見て、何だか実感が沸かないようだがやがて嬉しそうに笑みを浮かべつつため息を吐いた。

 

「さっきも言ったが、俺より強い人なんて幾らでもいる。だが俺の目標はその人達を超えるほどのオヤジを超える事だ。全員超えるならキツくなるぞ?」

 

「望む所だぜ! そうしなくちゃ、ポケモンマスターになんてなれないからな! やってやろうぜピカチュウ!」

 

「ピカチュウ!」

 

「サトシ、お兄ちゃんを超えるのはすっごく大変かもよ?」

 

「なーに! いつか必ず追いついて見せるさ!」

 

「頑張ってねサトシ!」

 

更なるバトルの可能性、メガシンカ。

そしてバトルの頂点であるチャンピオンの戦いを目の当たりにしたサトシ達。

新たなる目標と可能性を見たサトシのムロ島でのポケモン修行は、まだまだこれからである!

 

 

 

to be continued...




やはりまだまだこれからなのでソラトには負けて貰いました。
しかしイマイチバトルの臨場感というか緊張感が醸し出せないのが悩みです…。
ここら辺も少しずつ成長しながら執筆していきたいので、皆様お付き合いをお願いします。

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