†ボンゴレ雲の守護者†雲雀さん(憑依)   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。メッチャ雲雀さんの勝ち確ムードになっている状態でのレシア戦が今回、描かれます。はたして、雲雀さんとレシアさんとの戦いの行く末やいかに。



風紀43.†憧れへの第一歩で風紀を守ろう†

 

 

「――遊びは終わりだよ、レシア・アルノル。君はここで、咬み殺す」

 

 ミルフィオーレの日本支部ことメローネ基地。その格納庫にて。

 意識を取り戻した僕は足元のトンファーを拾い上げ、何やら動揺冷めやらぬ様子のレシアをジッと見据えつつ、不敵に笑う。今まで僕の前で終始余裕を見せていたレシアの焦りようから察するにきっと、さっき胸に深い斬撃を浴びせたはずの僕がまだ生きていて、さも当然のように立ち上がったことがレシアにとって相当に想定外なのだろう。

 

 

「……」

 

 僕はトンファーを握った右手を持ち上げ、右手の中指を見つめる。そこには、雲のボンゴレリングが嵌められていて。僕の体を軽く超えるほどに膨大なサイズの雲の炎が湧き出している。10年後の世界に行く前の僕が散々出そうと頑張って、でもまるで出せなかった覚悟の炎。何だかとても、感慨深い。

 

 この雲の炎は、僕がこの世界の当事者になった証だ。僕がこの世界で、雲雀恭華として、最期の最期まで生き抜く覚悟を決めた証だ。

 雲雀さんが僕を認めてくれたから。僕がこの世界で生きることを承認してくれたから。僕は今、これほどの覚悟の炎を生み出せている。

 

 

(雲雀さん……)

 

 生と死の狭間にいた間の記憶を覚えている人はほんの一握りしかいない。そう雲雀さんは言っていたけれど。大丈夫、僕は忘れてない。あの生と死の狭間で雲雀さんが僕に言ってくれたこと、僕に残してくれた言葉、全部覚えてる。

 

 

(覚えていることができて、本当によかった。そこだけがどうしても不安だったんだ。……雲雀さんがくれた言葉は一言一句、忘れやしない。全部胸に刻み込んで、僕の人生を歩んでいこう)

 

 ――精々僕の体を賢く使って生きあがくことだね、井伊春白虎。その様を、これからも見ているよ。

 

(うん、見ていてよ。雲雀さん。憧れの雲雀さんに至るための、僕の第一歩を!)

 

 僕はゆったりとした動作でトンファーを構え、レシアの出方を静観する。さっきまではレシアの攻撃方法がまるでわからずに焦って、守勢に打って出たりしたけど、そんな戦い方は雲雀さんらしくない。この場面、雲雀さんなら堂々と構えている。そして相手の一挙手一投足を注視し、草食動物たる敵の小賢しい知恵を看破して、圧倒的な力でぶち破ってこその雲雀さんだ。だからこそ、僕も雲雀さんを模倣する。雲雀さんらしく、泰然とした様子でレシアに鋭い眼光を送りつける。

 

 

「……ね、ねぇ、もう一度聞くけどさ。あんたって本当に、雲雀恭弥なの? 嘘ついてない?」

「僕は僕だよ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 僕の威圧がある程度の効果を発しているのか、レシアは半ば震え声で僕に問いかける。さっきはレシアのこの問いに随分と心を揺さぶられて、僕はあくまで自分は本物の雲雀恭弥だと言い張った。僕という凡人が憑依しているせいで、雲雀さんまでもが貶められていることに悔しさを感じたからだ。でも、今は。特にどうとも感じない。誰に何と言われようと、自分の思うがままに、好きなように生きる。そんな雲雀さんの生き様を再び希求し始めた今の僕にとって、僕を貶める言葉なんてほんの欠片も気にならない。そよ風にしか感じない。

 

 

「起きなよ、君たち」

「ヴァッ!?」

「キュッ!?」

 

 未だに狼狽したまま、僕に攻撃を仕掛けてこないレシアをよそに、僕は足元でぐっすりと眠る雲カバと雲ハリネズミを、軽く靴先で蹴る。たったそれだけの刺激を与えただけで案外すぐに目覚めた雲ハリネズミと雲カバを一旦、匣の中に仕舞う。

 

 

「君はいつまでそこで突っ立っているんだい? 待つのにはもう飽きたから、僕から行くよ」

「ッ! え、待って、タンマ。待ってってばぁ!?」

 

 僕はトンファーに雲の炎を纏わせながら、レシアとの距離を一息に詰めてトンファーを振るう。対するレシアは右手に持つ日本刀で僕に反撃する気配をまるで見せず、しゃがんだり、後方に跳躍したりといった形でひたすら僕の攻撃の回避に徹する。

 

 

(やっぱり雲雀さんボディは凄いな。雲雀さんの体だから、この大怪我でも普通に戦えてるんだろうけど……)

 

 僕がレシアへ攻撃を仕掛けている間も、僕の腹部から、胸部からは途切れることなく血があふれ出ている。悠長に時間を使って戦うわけにはいかないし、もうこれ以上、一撃だってレシアの攻撃を喰らうわけにはいかない。だからこそ。僕はレシアの見えない斬撃を警戒する。レシアが技名らしき演奏記号を口にする瞬間を警戒しながら、レシアを狩るべくトンファーを振るい続ける。

 

 

TRAQUILLO(トランクィッロ)(静かに)」

「――ぅ!?」

 

 と、ここで。レシアが一言呟いた瞬間、唐突に眠気が膨れ上がり、僕を襲う。睡魔の不意打ちに僕の意識は為すすべもなく闇へと閉ざされ――

 

 

「ッ!」

 

 ――そうになる寸前、僕はとっさに匣に雲の炎を注入し、雲ケムリを噴出させた。僕の膨大な雲の炎により開匣させられた雲ケムリはあっという間に格納庫中を白一色に染めていく。直後、あれだけ強烈に感じていた眠気が一瞬にして吹き飛んだ。

 

 

(なるほどね。レシアは演奏記号を呟いたタイミングで僕に睡眠ガスの類いを使ってきたのか)

 

 だからこそ。ついさっき僕は唐突に眠りたくなってしまった。雲ケムリを僕を起点に充満させることで睡眠ガスを僕の元から押し出した結果、僕の眠気が解除された。さっき雲ハリネズミや雲カバが眠ってしまったのも、この睡眠ガスのせいだろう。

 

 

「うー、惜しいなぁ。あと少しだったのにぃ」

「随分と小賢しい真似をするんだね」

「いや、だってぇ。楽して勝てるならそれに越したことはないでしょ? だからさ、あんたもそんなダラダラ血を流したまま、いつまでも無理して戦ってないでさ、そろそろ倒れてくれないかなぁ? あたしが精神的ストレスで健康を害してニゲラ隊長みたいにハゲちゃわない内にさ」

「嫌だね。思い上がった草食動物を野放しにする趣味はないんだ。それに、もう健康を気にする必要はないよ」

「?」

「君には、僕に咬み殺される未来しか残されていない」

 

 雲ケムリによる濃密な白煙で塞がれていた視界が徐々に晴れゆく中。僕との戦闘が再開されたことで狼狽状態から平静を取り戻したらしいレシアのため息混じりの発言に、僕は軽く言葉を返しながら、右手に持っていたトンファーを床に投げ捨て、空いた右手に10年前から持ち込んだ方のトンファーを1本構え、銃弾を放つ。

 

 不用意にレシアに近づいては、再びレシアに睡眠ガスを放たれてしまう。さっきはどうにか睡魔に抵抗できたが、今のズタボロな雲雀さんボディで次も睡魔に抗えるかはわからない。ならば、レシアに近づかない形で攻撃するべきだ。そのような考えに基づいた、僕の銃撃である。ちなみに、もう1本のトンファーは幻騎士との戦いの中で蹴り飛ばして以降、行方不明だったりする。

 

 

「ちょッ!? そんな攻撃聞いてないってぇ!」

 

 僕のトンファーから銃弾が飛び出したことにレシアは盛大に驚愕しつつもとっさに真横に跳び、銃弾を間一髪で回避する。

 

 

(そうだ。そういえば、レシアは僕の戦い方を入江くんから聞いたって言っていた。入江くんが見ていたのは、僕と幻騎士との戦いだ。でも、入江くんが観戦できたのは、あくまで僕と幻騎士の戦場が裏・球針態という名の密閉空間に変わるまでの話。だから、僕のトンファーに銃機能があることをレシアは知らないわけか)

「このッ! ALLEGRO(アレグロ)(快速に)!」

 

 レシア目がけてトンファーから銃弾をばらまきつつ、僕はレシアが僕の戦い方をどこまで把握しているかの情報収集に取りかかる。一方のレシアは銃の標的にされている現状を打破するために、技名な演奏記号を叫んだ。

 

 レシアの見えない斬撃が来る。未だ、レシアの攻撃手段はわからない。だけど、対策方法には1つ、当てがある。それをさっき、本物の雲雀さんとの対話を通して、僕は思い出した。

 

 

「もうその攻撃は通じないよ」

「えぇッ!? ウソ、見えないはずのあたしの攻撃を!? ENERGICO(エネルジコ)(力強く)!」

「何度やっても同じことだよ」

「マジ、で……!?」

 

 僕はレシアへの銃撃を一旦やめて、左手の雲の炎を纏ったトンファーで眼前の一見何もない空間を殴りつける。刹那、ガキンとの金属の衝突音が響き渡り、僕の足元に斬撃痕が刻まれる。本来僕の体を斬るはずの見えない斬撃をあっさり防がれたことに、レシアは驚きながらも偶然だと思い込み、再度見えない斬撃を放つ。が、これも僕が軽くトンファーを振るって見えない斬撃を払いのけると、レシアは今度こそ愕然とした表情を浮かべた。

 

 

(よし、やっぱりこの方法ならレシアの見えない斬撃を攻略できる)

 

 僕がどうやって迫りくる見えない斬撃を攻略したのか。答えは簡単だ。原作の10年後雲雀さんのように、雲のボンゴレリングに灯した雲の炎を周囲一帯に薄く照射し、レーダー代わりにしたのだ。その結果、周囲に放射された雲の炎の揺らぎから、見えない斬撃がどこから来るのかを把握したのだ。見えない斬撃の仕組みを暴こうと躍起にならないで、見えない斬撃の回避手段を見つけて対処する。それだけで良かったのだ。レシアの見えない斬撃は、たったそれだけのことで攻略できる程度の攻撃でしかなかったのだ。

 

 

(こんな簡単なことに気づけなかったなんて、僕はいつの間にか、†幻想殺し†(イマジンブレイカー)に頼りすぎてたようだね。後で反省しないと。まぁそれはさておき、レシアの攻撃のタネが見えてきた。もしも演奏記号を呟くだけで見えない斬撃を放てるのなら、演奏記号を連呼すればいいはずだ。演奏記号をひたすら言いまくって、見えない斬撃を生み出して、それで銃弾を防げばよかったはずだ。だけどレシアはわざわざ体を動かして回避した。さっきも、僕の振るうトンファーを必死に躱すだけで、見えない斬撃を放とうとはしなかった。……ここから察するに、レシアは見えない斬撃をそう立て続けには放てないんだ。それと、あの見えない斬撃はレシア自身が生み出していない可能性が高い。きっと、レシアの匣兵器だろうね。この10年後の世界で、匣兵器を一切使わずに戦うミルフィオーレ兵なんて少数派も少数派だ。レシアが匣兵器を使う素振りを見せないことに、まずはそこに疑問を持つべきだったんだ。あぁもう反省点が多いなぁ、僕って奴は!)

「そろそろ君の匣兵器にご登場願おうか」

「……ん? 何のことかなぁ? あたしは匣兵器なんて持ってないけど?」

 

 僕は自然と笑みを浮かべながら、レシアの発言内容を無視して匣に膨大な雲の炎を注ぎ込む。どこかに隠れ潜んでいるレシアの匣兵器を見つけ出すために、僕の匣兵器を暴走状態で召喚して全力で暴れてもらおうとの魂胆である。

 

 選んだのは、雲カバだ。少なくとも、雲ハリネズミだけは暴走状態で呼び出してはならないからだ。この場所は入江くんの研究室と近いはず。雲ハリネズミの暴走の結果、研究室の白くて丸い装置を万が一にも壊してしまったら大惨事だからね。雲アリも、暴走状態にさせたらこの格納庫を埋め尽くす勢いで増殖しかねない。そんなトラウマ不可避な光景を見たくはない以上、選ぶは雲カバ一択だ。それに雲カバなら例え暴走したとしてもそう広範囲にメローネ基地を破壊する結果にはならないだろうしね。

 

 

「ヴォォォォオオオオオオ!!」

 

 僕の生み出した膨大な雲の炎を受け取って、匣の外に飛び出してきた灰褐色の雲カバ。僕の目の前で咆哮を轟かせる雲カバは、テキトーに見積もっても体長20メートル級の、いつもの雲カバの軽く5倍以上の巨体になっていた。

 

 デカァァァァァいッ! 説明不要!!

 というか、メルカバさんデカすぎぃぃぃいいいいいいいいいいい!!

 こ、これが僕の膨大な雲の炎を取り込んで、暴走したメルカバかぁ。なんか、アイリスの死茎隊みたいになってるじゃんか。その内、『プハァ!』とか『プルァ!』とか叫んだりしないよね? 信じてるからね、メルカバ。僕の期待を裏切らないでね?

 

 

「な、なななななななにこれ!? 何なのこれ!? なんであのカバがあんなにでかくなって!? さっきと全然サイズが違――」

「ヴァァアアアアアアアアアアア!!」

「ひぃいいいいい!?」

 

 あまりに巨大な雲カバを目の当たりにして激しく動揺しているレシアへと、雲カバは容赦なく突進する。雲カバの攻撃を喰らってしまえば明らかに即死するため、レシアは悲鳴とともに、雲カバの突進先から全力で逃げ始める。対する雲カバはレシアの逃げ先へと方向転換することなくまっすぐ突進を続け、格納庫の壁へと体当たりをかまし、格納庫の壁を思いっきりぶち壊した。

 

 

「あ。やっば……!」

 

 壊された格納庫の壁へと視線を移し、青ざめた顔でレシアがポツリと焦燥の声色で呟く。一方の雲カバは攻撃対象のレシアを見失ってもなお、暴れることをやめない。格納庫付近の壁を、天井を、床を次々と破壊し続けていく。

 

 

「――ッ!?」

 

 と、その時。僕の両眼が捉えていた光景は一瞬にして様変わりした。『漫画やアニメには登場していなかった』と僕が判断できるほどに顔を晒していたはずのレシアがガスマスクを装備して顔を隠している光景に変化した。格納庫の片隅の何もない空間に雲の炎を纏うラフレシアらしき巨大な花がどっしりと鎮座する光景に変貌した。僕の前方と背後の空間に、雲の炎を纏った刃の尻尾を持つカマイタチらしき動物が存在する光景に切り替わった。その全てが、刹那にも満たない一瞬で発生した変化だった。

 

 

「そういう、ことか」

 

 僕は理解した。僕の頭の中で、全てが繋がった。

 

 

(なるほど、ね。レシアは僕が格納庫に来る前に、毒ガスの類いをあらかじめこの格納庫に充満させていたんだ。その毒ガスのせいで、僕の五感が、認識が狂わされていたんだ。この格納庫に入った時点で、僕はレシアの罠にかかっていたんだ)

 

 僕には†幻想殺し†(イマジンブレイカー)があるから幻術は通じない。でも、毒は普通に通じる。ポイズンクッキングを毎朝食することで毒への抵抗力をつけてきたけれど、デスヒーターにだって普通に苦しめられた。だから、レシアの毒ガスだって僕には通じてしまうのだ。

 

 今ならわかる。格納庫に毒ガスを散布したのは、あのラフレシアっぽい匣兵器だろう。ついでに、僕や僕の匣兵器に睡眠ガスを散布したのもあのラフレシアの匣兵器だろう。一方で、僕に見えない斬撃を飛ばしていたのは、あのカマイタチっぽい匣兵器2匹だろう。きっと、あの斬撃は見えないわけじゃなくて、僕の視覚が毒で狂わされていて、本当なら見えるはずの斬撃を見えないものと思い込まされていたんだ。それと、ロールの球針態の中に隠れたはずなのに斬撃を喰らったのは、僕が球針態の中に入ったと勘違いしていて、実際は球針態の中に逃げ込んでいなかったからだ。そして今、僕を蝕み認識を狂わせていた毒が解除されたのは、雲カバの破壊活動により格納庫と他の部屋とが繋がった影響で、格納庫内の毒ガスの濃度が弱まったからだ。

 

 

(レシアの匣兵器を炙り出すつもりで雲カバを暴れさせたことが、レシアの戦い方の種明かしになるとは意外だったけど、わかってしまえばもう、レシアは脅威じゃない)

「ヴァァアアアアアッ!」

「ねぇ、どこに行くつもりだい?」

 

 大暴れ中の雲カバが格納庫の隅の雲ラフレシアを意図せずブチャリと踏み潰す中。さりげなく雲カバが壊した壁の向こうへと去ろうとしていたレシアを僕はギンと睨みつけ、ドスの利いた声を放つ。レシアは「ぴぃ!?」との情けない悲鳴とともに肩をビクリと震わせる。きっと今頃、まるでこの世の終わりでも目の当たりにしたかのような絶望に満ち満ちた表情を、ガスマスクの内側で浮かべているのだろう。

 

 

「こ、こここ来ないでぇ! APRESSADO(アプレサド)(急いで)!」

 

 レシアの叫びに呼応して2匹の雲カマイタチが僕に立ち塞がり、尻尾に雲の炎を溜め込んだ後に斬撃として飛ばす。今や僕を蝕み、認識を狂わせる毒ガスがないため、紫色&三日月の形状をした雲カマイタチの斬撃が僕へと迫ってくる。僕は雲の炎を纏ったトンファーで斬撃を殴りつけ、雲カマイタチ2匹に向けて斬撃を弾き飛ばす。すると、まさか己の飛ばした斬撃に逆襲されるだなんて欠片も考えていなかった雲カマイタチ2匹は斬撃をまともに喰らい、力なく床に倒れ伏した。

 

 

「そんな!? タッちゃんとチッちゃんが一瞬で!?」

「逃がさないよ?」

「ひに゛ゃッ!?」

 

 雲カマイタチに逃げる時間を稼いでもらうつもりだったらしいレシアは、僕に雲カマイタチを瞬殺された光景が視界に入ってしまったがために、ついその場に立ち止まる。その隙にレシアの元へと一息に距離を詰めた僕はレシアの顔面をトンファーで殴った。結果、レシアのガスマスクが粉々に砕け、鼻血を流すレシアの素顔が露わになる。

 

 

「うぁああああああ!」

 

 レシアは涙目で、破れかぶれの状態で、装備している日本刀で僕に反撃の横薙ぎを振るうも、僕は軽くジャンプしてレシアの日本刀を回避しつつ、レシアの手に蹴りを放った。その衝撃で、レシアの手から日本刀が離れ、あらぬ方向へとふっ飛んでいく。

 

 

「あぁ!?」

「さて。さっきの君の質問に真面目に答えようか」

「へ?」

「僕は偽物だよ。雲雀恭弥じゃない、これは事実だ。……でも、いつか。いつか、僕は本物になる。雲雀さんに誇れる人間になってみせる。だから、レシア・アルノル。――君には、僕の踏み台になってもらう」

「いいいいいいやぁああああああああッ!」

 

 匣兵器と武器を失い万事休すなレシアの前に着地した僕は、先ほどのレシアの『あんたって本当に、雲雀恭弥なの? 嘘ついてない?』との問いに改めて返答する。その上で、僕はレシアの腹部にトンファーの強烈な殴打を叩き込んだ。僕の攻撃で遥か後方へと吹っ飛ばされたレシアの体は勢いよく格納庫の床を転がり、そして、雲カバがぶち抜いていた床の穴の中へと落ちていった。

 

 

 かくして。生と死の狭間での本物の雲雀さんとの邂逅を通して。

 覚悟を決めて新生した僕の初陣は、勝利で飾られるのだった。

 

 




雲雀恭弥→本作の主人公、かつボンゴレ雲の守護者。本名は雲雀恭華。今は凡人の井伊春白虎が憑依している。この度、瀕死レベルの重傷を追っていてもなお普通に動ける雲雀さんボディと、適度に原作知識を活用する柔軟性を生かして、レシアに逆転勝利した。
レシア・アルノル→第9ジラソーレ隊のCランク戦士のネームドオリキャラ。ゆるふわパーマな紫髪を背中まで伸ばしている、20代後半くらいの女性。お手製の毒や雲ラフレシアの力(※下記のおまけ参照)で人の認識を狂わせる術に長けている。本人自身の戦闘能力は大したことがない。なお、演奏記号を呟いていたのは、雲カマイタチや雲ラフレシアに攻撃の種類や攻撃のタイミングなどの指示を飛ばすため&認識が狂っている最中の雲雀さんに、演奏記号を呟くだけで攻撃できる手段を持っていると誤認させるため。雲雀さんに己の手口を完全に察知されたタイミングで逃亡しようとしたが、失敗して倒された。生死不明。ちなみに、レシアの名前の由来は植物の『ラフレシア・アルノルディイ』から。

 というわけで、43話は終了です。3話もかけて長々と執筆されたレシアさん戦もこれにておしまいです。その内1話が実質本物の雲雀さんとの会話回だったとはいえ、3話も話数を使って描写されるなんて、レシアさんは割かし好待遇になりましたね。どこかの幻騎士との戦闘は1話で速攻終了させられたというのに。

幻騎士「……」

 閑話休題。未来編前半のメローネ基地突入編もそろそろ終盤です。正直、未来編はこの辺が一番盛り上がり所な感じがしている今日この頃ですが、今後も鋭意執筆していきますので、今後ともよろしくお願いします。


 〜おまけ(オリジナル匣兵器・解説)〜

 No.6 雲ラフレシア

 匣タイプ:アニマル 属性:雲 設計者:ケーニッヒ
 大きさ:1メートル パワー:F スピード:F スタミナ:D 賢さ:B
 性格:怠け者 技:どくのこな、ねむりごな、フラフラダンス、アロマセラピー

 増殖能力を持つ雲の匣兵器。自分は特に移動せずに、匣の持ち主の指示に応じて、無色透明の『どくのこな』『ねむりごな』を増殖させながら放つ。『アニマル』タイプかつ虫型の匣兵器を捕食することもあるが、それで別にパワーアップするわけではない。怠け者な性格なので持ち主が指示をしても滅多に『フラフラダンス』『アロマセラピー』は行わない。レシアは雲ラフレシアを『シアたん』と命名した。


 〜おまけ(レシアさんの心境の変化)〜

 ――雲雀さんがトンファーでレシアさんを攻撃し始めた頃――
レシア(マズい。この感じ、明らかに流れが雲雀恭弥に味方している。こういう時って大概負け確なんだよねぇ。……っと、ダメダメ。ネガティブ方向に考えるなよぉ、あたし。雲雀恭弥が瀕死なのは変わらない。あと一撃でも加えられたら、雲雀恭弥は終わる、はず。状況は何も変わらないんだからぁ、さっさとトドメを刺して、この戦いを終わりにするべき。そして寝よう、そうしよう)

 ――雲雀さんがレシアの見えない斬撃を攻略した頃――
レシア(一撃、あと一撃で雲雀恭弥を倒せるはずなのにぃ、その一撃が遠すぎるんだけど!? シアたんの毒は今もしっかり効いているはずなのにぃ、雲雀恭弥に攻撃をヒットさせる光景を全然想像できないんだけど!? うぅぅ、どうしてこんなことにぃ。こんなことなら、あの時さっさと雲雀恭弥の首を落としとけばよかったぁ!)

 ――雲雀さんがレシアの罠に完全に気づいた頃――
レシア(あぁああああー! バレた、絶対バレたぁ! 最悪だぁあああああああ!! ……ふぇぇ、これもうどう頑張っても絶対勝てないよぉ。もうやだぁ、泣きたい……お家帰るぅ! 帰っていっぱいスヤスヤするぅ!)

 この後、雲雀さんの「ねぇ、どこに行くつもりだい?」発言でレシアさんは絶望のどん底に叩き落とされた模様。

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