†ボンゴレ雲の守護者†雲雀さん(憑依)   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。最近、ストレス発散や発想力・集中力アップなどに効果的だとの話を聞き、マインドフルネス瞑想に挑戦している今日この頃ですが、この瞑想、中々侮れませんよ。過去の失敗や未来の不安にあまり囚われにくくなるおかげで、私みたいなネガティブ気質な人でも今現在を割と生きやすくなりますし。……ただし、現時点ではこの小説の文章構成の発想力には効果を発揮していない模様(´・ω・`)



風紀35.†先は長くても風紀を守ろう†

 

 

 ディーノさんから死ぬ気の炎とリングの話を聞いてから、10日後。

 自室にて。僕は今、正座をしている。キュッと目を瞑り、精神を集中させている。

 

 脳裏には、雲雀さんの体に憑依してから、知り合った面々の顔を次々と浮かべる。

 原作で既に大体の性格を知っている知り合いから、原作ではモブか、そもそも登場してなかったが、こうしてリボーンの世界に僕が入り込んだことで初めて知り合った面々の姿を思い浮かべる。

 そして、僕が力を持つ者として。彼らを。彼らとの日々を守りたい。そう、強く念じる。

 雲雀さんを取り巻く、並盛町を舞台とした、波瀾万丈とした時間を守りたい。守り抜きたい。

 強く、強く、念じる。心の中で想いをどんどん増幅させていく。

 

 

「……」

 

 頃合いを見計らい、僕は徐々に目を開け、右手を持ち上げる。僕の右手の中指に装着した雲のボンゴレリングからは紫の、透き通った綺麗な雲の炎がボウッと揺らめいていた。

 

 

「ふぅ」

(んー、今日もダメか。全然上手くいかないなぁ……)

 

 僕は無意識にため息を零す。無理もない。これほどまでに精神を研ぎ澄ませているのに。強い信念を、並々ならぬ覚悟を実装しているつもりなのに。それでも。原作の雲雀さんみたく、己の体の軽く2倍以上のサイズの膨大な雲の炎を、一向にボンゴレリングから生み出せないからだ。

 

 

(やっぱり原作のようにムカツキでボンゴレリングに死ぬ気の炎を灯さないと、雲雀さんボディはあれだけ大きな死ぬ気の炎を生み出せないのかなぁ? でも、僕がムカついたことなんて全然ないし……)

 

 そう。ディーノさんからリングに死ぬ気の炎を灯せるとの話を聞いた当初、僕はディーノさんのアドバイスを無視してムカツキで死ぬ気の炎を灯そうとした。しかし、僕の目論見は失敗した。原作雲雀さんと違い、僕が日常生活を送る中でムカつく機会がまるでないからだ。

 

 原作雲雀さんなら、群れること、草食動物に助けられること、快適な眠りを妨げられることなどで心底ムカつくのだろうが、僕はその程度では全然ムカつかない。加えて、原作の出来事や、主要人物のキャラを知っているがゆえに、ツナくんたちを取り巻くハチャメチャな流れに巻き込まれても、僕は全然ムカムカしない。僕がどんなことにムカつくのか、僕のムカツキポイントはどこなのか。その答えがわからないために、ムカツキで死ぬ気の炎を灯せないのだ。

 

 となると、僕は普通の覚悟でボンゴレリングから膨大な雲の炎を放出させないといけない。でないと、僕は未来編前半のラスボスポジションの幻騎士を真正面から撃退しないといけなくなる。幸い、僕には†幻想殺し†(イマジンブレイカー)があるから幻騎士の幻術は通じないけど、両手足に剣を装備する幻騎士の奥義・四剣との真っ向勝負とか勝ち目がなさすぎるし、もし万が一、幻騎士の四剣を攻略できたとしても、その先に待つのは大戦装備により大幅にパワーアップした幻騎士第二形態に、ヘルリングに己の精神を喰わせてさらに強大な力を得た幻騎士第三形態だ。雲雀さんの眼光がユニちゃんと似てるとか、んなことあり得ないだろうから、幻騎士が本来の実力を出し切れなくなるなんて展開は望めない。僕がフルボッコだドン!な目に遭うルートは避けられないだろう。だからこそ。どうにかして、膨大なサイズの死ぬ気の炎を生み出す手段を見出さなければならないのだけど――。

 

 まぁ、簡単にはいかないよね。そりゃそうだよね。だって、ボンゴレ10代目の右腕としてツナくんの役に立ちたいとの獄寺くんの意思でも、皆を守りたいとのツナくんの意思でも、創出された死ぬ気の炎のサイズは普通だったんだ。そう簡単に、膨大な炎は灯せない。並大抵の覚悟では、雲雀さんのようにバカでかい死ぬ気の炎を生み出せないのだ。うん、先は長そうだ。

 

 

 というわけで、今日も膨大な死ぬ気の炎を召喚できなかった僕は気分転換と行方不明者をちゃんと探しているというアリバイ作りを兼ねて、男装の上で並盛町を巡回している。不幸にも僕とエンカウントしてしまったひったくり犯や暴走族をトンファーで軽くボコりつつ、並盛町の見回りを続けていると、公園のブランコに寂しげに座る少年:フゥ太の姿が目に入った。

 

 

「あ、お兄さん」

「……貸すよ」

「いいの!? ありがとう!」

 

 フゥ太もまた僕の存在に気づき、パタパタと近寄ってくる。そういえば、フゥ太と再会した時、ヒバードとフゥ太とを遊ばせる約束をしていたことを思い出し、僕の頭の上を安住の地としていたヒバードを右手の甲に乗せてフゥ太に差し出すと、フゥ太はさっきまでの寂しそうな雰囲気はどこへやら、パァァと晴れやかな表情を浮かべて僕に感謝した。

 

 僕の手の甲からフゥ太の手のひらへと飛び乗ったヒバードを、最初こそフゥ太は慎重に触っていた。だが、ヒバードがフゥ太を拒絶せずに、フゥ太の指に体を擦りつけてくる様子を前に、フゥ太もまた積極的にヒバードを指で撫でるようになった。

 

 

「こんなに楽しい気分になったの、久しぶり」

「?」

「……ツナ兄たちがいなくなったんだ。急に姿を消して、もう2週間も経っちゃった。ママンは、パパンが社会見学のために皆をイタリアに連れて行ったから大丈夫だって言葉を信じてるみたいだけど……ツナ兄たちが僕に何も言わずに並盛からずっといなくなるなんて思えない。きっと、前に黒曜中の人たちと戦ったみたいに、何かマフィア絡みの事件に巻き込まれたのかもしれないし、心配だよ。皆、どこにいるんだろう。僕、寂しいよ……」

 

 内心ではフゥ太とヒバードとが戯れるという癒し風景を存分に楽しみつつ、表では表情一つ変えないように心掛けていると、フゥ太がポツリポツリと胸の内を打ち明け始める。そっか。未来編に入ったことで、沢田家から一気にツナくん、リボーン、ランボ、イーピンがいなくなったんだもんね。ムードメーカーが一気に姿を消したんだ、そりゃあさすがに寂しいよね。

 

 

「そういえば僕、お兄さんの名前を知らない。僕はフータ・デッレ・ステッレ。皆はフゥ太って呼んでるよ。お兄さんは?」

「僕は――」

「フゥ太! 今すぐその男から離れなさい!」

 

 フゥ太のふとした言葉から互いに自己紹介をする流れになったため、僕が名乗ろうとした時。険しい女性の声が公園に響いた。声の元に目を向けると、ビアンキがフゥ太と僕との間に入り、両手にポイズンクッキングを装備し、臨戦態勢を構築していた。ビアンキは、明らかにやる気だ。あっるぇー(・3・)? 僕、そこまでビアンキに敵視されるようなこと、したかな?

 

 

「え、ビアンキ姉?」

「フゥ太。今すぐ逃げなさい。時間は稼ぐから」

「え、どうして怖い顔してるの、ビアンキ姉? お兄さんは、いい人だよ?」

「そんなわけないわ。彼は雲雀恭弥。この並盛町を統べる、底知れない男よ。そして、マフィアのことにも造詣が深い。ボンゴレの雲の守護者ではあるけれど、彼は危険だわ」

「で、でも、お兄さんは悪い人じゃないよ? この小鳥も救ってくれたし……」

「騙されてるだけだわ。きっと六道骸みたいに、フゥ太をいいように利用するつもりなのよ」

 

 緊迫した雰囲気を醸成するビアンキ。ビアンキの放つシリアスな雰囲気についていけないフゥ太。そんな2名を前にして、ビアンキの僕に対する心証が悪い理由に思い至った。そういえば、ビアンキとの初邂逅は、ビアンキを脅してポイズンクッキングを毎日配達してもらう契約を取りつけた一件だったね。そりゃあこれだけビアンキに警戒されるのも当たり前だね。うむ。

 

 

「誰かと思えば、毒サソリか。僕の目の前で、これ見よがしに群れないでよね。僕は群れる草食動物を見るのが大嫌いなんだ」

「……!」

「けど、僕は今、君に構っているほど暇じゃない。失踪者を見つけ出さないといけないからね。だから、今回は特別に、君の目障りな行為に目を瞑ってあげるよ。……あ、そうそう。もう目的は果たしたから、ポイズンクッキングの配達はもうしなくていいよ」

 

 僕としては当然、ビアンキと戦闘するつもりはない。そのため、雲雀恭弥ロールの範疇で違和感のないであろう言葉を選びつつ、臨戦態勢のビアンキの側を通り抜ける形で公園を後にしようとする。ついでに、ビアンキにポイズンクッキング配達の任務から解放する旨を伝える。もうヴァリアー編は終わって、毒耐性を高める必要性がなくなったからね。1年以上も僕にポイズンクッキングを配達してくれて、本当にありがとね。ビアンキ。

 

 

「あ、あの雲雀兄! この子、忘れてるよ?」

 

 公園の外へと一直線に歩いていると、フゥ太が僕の前に回り込んで、両手で優しく抱えていたヒバードを差し出してくる。もっとヒバードと戯れたいだろうに、それでも僕のことを考えてヒバードを返しに来るとか、フゥ太ってホントに良い子だなぁ。

 

 

「別に、返さなくていいよ」

「え――」

「僕はヒバードを放し飼いにしているからね。ヒバードは帰りたくなった時に勝手に僕の元に戻ってくる。だから、今は君がヒバードと交流するといい」

 

 僕は困惑するフゥ太に言葉を畳みかけると、足早に公園を後にする。僕の背後に「ありがとう! 雲雀兄!」とのフゥ太の元気いっぱいな声が響いたからか、僕の足取りは幾分か軽やかなものになっていた。さすがはチワワのような癒しオーラを常時放出することに定評のあるフゥ太だね。今後、精神的に疲れて、癒されたくなった時はフゥ太の元を訪れようかな?

 

 

 ◇◇◇

 

 

 はろはろ。ツナくんたち目線での、10年後の大人な雲雀さんだよ。

 結局、この世界線では雲雀さんの精神が終ぞ戻ってこなかったので、今も凡人憑依者な僕の精神は雲雀さんのハイスペックボディの中でのびのびしてるよ。

 ちなみに、僕はボンゴレ雲の守護者として生きた10年の間に男装事情を皆にバラしたよ。さすがにずっと隠したまま墓場まで持ち込むのは無理ゲーだったからね。だから、10年前と入れ替わっていないボンゴレ関係者は大体、『雲雀恭弥は雲雀恭華が男装した姿』だってことを知ってたりする。それでも、ボンゴレに敵対するマフィアへの抑止力として効果の高い『ボンゴレ最強の守護者:雲雀恭弥』のブランドを守るため、対外的には男装&雲雀恭弥ロールを続けてるけど。

 

 そして。ツナくんたちに未来のツナくんたちの写真を見せた一件から10日後。

 この10日間で主に京子ちゃんとハルに料理スキルを仕込みまくっていた僕は、別の風紀財団支部へと赴くとの名目でツナくんたちと別れを済ませた後、雲雀恭弥に変装してすぐにボンゴレアジトへと舞い戻った。本日から開催される、強襲用個別強化プログラムに関わるよう、リボーンに打診されたからだ。このプログラムでは、ツナくん、獄寺くん、山本くんの3人に、1人ずつ家庭教師をつけた上での修行が実施される。僕の担当は、ツナくんだ。

 

 というわけで、ボンゴレアジト地下8階にて。僕は原作同様、『気を抜けば死ぬよ。君の才能をこじあける』イベントを盛大に実施した。雲ハリネズミのロールに球針態を作ってもらい、その密閉球体の中にツナくんを閉じ込めて酸欠状態にするというものだ。

 

 今までの出来事から、この世界が原作と全く同じ展開を辿るとは限らないと証明されている。そのため、下手したらツナくんは酸欠の果てに死にかねない。でも、ここで妥協は許されない。ツナくんを死の淵にまで、極限状態にまで追い込んで初めて、ボンゴレの試練が開催され、ツナくんの本当の覚悟がボンゴレリングに試されるからだ。

 

 ツナくんの覚悟がボンゴレリングに認められなければ、ツナくんは新兵器を入手できない。そうなれば、ツナくんは確実にメローネ基地突入時に死ぬ。ツナくんが新兵器を活用した必殺技:(イクス)バーナーを使えないと、幻騎士やアイリス率いる死茎隊に勝てないのはもちろん、キング・モスカを操りツナくんを戦闘不能に追いやるスパナがツナくんのXバーナーに興味を持たずにツナくんを殺してしまうからだ。ツナくんを精神的、肉体的に痛めつけまくるのは胸が締め付けられる思いだけど、ここは心を鬼にしないと。そんな心持ちで、僕はツナくんにボンゴレの試練を課した。

 

 結果、ツナくんはボンゴレリングに認められ、ボンゴレの証を、(イクス)グローブVer.(バージョン)V.(ボンゴレ)R.(リング)という名の新兵器(※通称、剛の炎)を継承した。しっかし、生で見るとますますカッコいいね、その新グローブ。そりゃそうだよね。何せ、大空のボンゴレリングの模様をそのままグローブの手の甲に映してるんだもんね。

 

 とはいえ、ツナくんの修行はこれで終わりではない。むしろここからが始まりだ。そのため、僕は相変わらずツナくんを殺す気で、ツナくんとの戦闘を開始した。僕に勝つか、それとも死ぬか。その2つの選択肢のみを僕から突きつけられたツナくんは応戦するも、今まで使用していたノーマルな柔の炎と違い、爆発力や推進力が凄まじいがじゃじゃ馬な性能を抱える剛の炎を上手く使いこなせず、僕に傷1つつけられずにどんどんボロボロになっていく。

 

 そんなツナくんが起死回生の一手として選択したのは、剛の炎を存分に吹かせて僕に急接近し、僕から匣を1つかすめ取って、匣兵器を反撃に使用するというもの。だが、ここで事故が発生した。僕は普通に、雲ハリネズミや雲カバ辺りをツナくんに掴ませるつもりだったのだが。ツナくんが僕から奪取した匣は、何の装飾もされていない水色の匣。

 

 「あッ」と僕が素の声を漏らす中。超直感で何となく嫌な予感がしたのか、ツナくんもわずかに眉を寄せながらも、当初の作戦通り、僕から奪った匣に大空のリングの炎を注入する。すると、匣から出てきたのは、雨金魚だった。

 

 

「コイコイコイコイコイコイ……」

 

 コイキングみたく、おっさんのような声質で、ツナくんの目の前の床の上でビタンビタン跳ねている雨金魚。僕が『しゃちほこ』と命名しているコイキング似の雨金魚が、苦しそうに上下に跳ねている様子を見下ろすツナくんの目の絶望っぷりというか、死にっぷりが非常にシュールだった。僕とツナくんとの戦いを観戦していたラル・ミルチ、フゥ太、草壁さん、そしてリボーンまでもが目が点になっていたのが場のシュールさに間違いなく拍車をかけていた。

 

 うん。ごめんね、ツナくん。それ、一時期風紀財団で試作した匣兵器の失敗作なんだ。風紀財団でも匣兵器を量産できたら未来編の難易度が下がるかなと思って、匣兵器の研究の傍らで匣兵器の試作もやってたんだ。でも、生み出せた匣兵器はどれも『しゃちほこ』みたいに戦闘能力に期待できないものばっかりだったから、いかに匣兵器が偶然のラッシュの果てに生まれた奇跡的な産物なのかを再認識する形で匣兵器の試作への取り組みは断念したんだ。けど、『しゃちほこ』が健気に跳ねている様はたまに見たくなるから、観賞用として携帯してたんだよ、僕。でも、まさかここでツナくんがよりにもよって『しゃちほこ』の匣を盗み取るとは。他にも匣はたくさんあったのに、ツナくんご愁傷さま。

 

 さすがにこの流れで容赦なくツナくんをボコるのは哀れすぎたので、僕は「興が削がれた、帰る」と言葉を残してトレーニングルームを去り。それからは毎日、僕はツナくんの修行に付き合うこととなった。もちろん、ツナくんとの修行の際に、『しゃちほこ』の匣は持ち込んでいない。また場の空気が何とも表現しがたい微妙なものになっちゃうからね。

 

 ツナくんは僕と修行。獄寺くんはビアンキと修行。山本くんはリボーンと修行。そんな日々を続けていると、まだ過去の己と入れ替わっていない了平くんが、タイムトラベルのことを知らない10年前のクロームを抱えてボンゴレアジトに推参してきた。ボンゴレと同盟ファミリーが打ち出した、5日後にミルフィオーレ日本支部の主要施設を破壊せよとの指示とともに。

 

 了平くんのボンゴレアジトへの来訪。その情報を草壁さんを介して聞きつけた僕は、早速ボンゴレアジトの医療室へと赴いた。なぜなら、今日は骸くんが白蘭に殺されかける影響で、骸くんが幻覚で形成しているクロームの内臓が消失しちゃう日だからね。クロームが生き残る術を知る僕がクロームの病室を訪れないと、クロームの死は避けられないからね。

 

 そんなわけで。僕は医療室に入る。そして、草壁さんの力を借りて、クロームの容態の悪化にうろたえているツナくんや、クロームの容態を回復させる手段を必死に考えているビアンキを、医療室から退出させた後。僕はその場にしゃがみ込み、ベッド上で苦しむクロームと視線を合わせる。

 

 

「あ、なたは……雲の人……?」

「六道骸が君に与えていた臓器の感覚を、温かさを。君はよく知っているはずだ。六道骸の生み出した臓器は君の体の中で休むことなく機能していたのだから」

「……ぇ?」

「再現するんだ。六道骸の、沢田綱吉の力になりたいのなら。ボンゴレリングの力を借りて、君の内臓を幻術で再構築するんだ。できるね?」

「は、ぃ……」

 

 僕の話した内容から、自力で自分の内臓を形成する以外に生き残る道はないと悟ったクロームは、いつ死んでもおかしくない容態の中で、それでも己の心の中に明確な覚悟を宿して霧のボンゴレリングに炎を宿し、自分の内臓を作り出す。骸くんの作った内臓と比べれば、はるかに稚拙な幻術の内臓だが。それでもクロームが生命維持を果たすには十分だった。

 

 

「何とか一命を取り留めたみたいだね」

「あり、がとう。雲の人……」

「僕は何もしてないよ。君が勝手に自力で救われただけだ」

 

 クロームの感謝の言葉を背中に受けつつ、僕は医療室を後にする。もうクロームに命の危険はないとわかっているからだ。その後、主作戦室にて。ツナくんは予定通り、5日後にミルフィオーレ日本支部への強襲することを決意し、皆に己の心境を表明した。確かに、ツナくんたちの修行の成果は芳しくなく、5日後までにミルフィオーレ日本支部を壊滅させられるほどの戦力が整う見込みには期待できない。でも、それでも。無駄に強襲時期を遅らせれば、何もかもが手遅れになる可能性を危惧したがゆえのツナくんの決断なのだろう。

 

 あと5日、ね。クロームのカバンから、グロ・キシニアが何気に忍ばせていた発信器をちゃっかり回収したことだし、僕の方も少し用意をしようかな。何せ、秋田くんがキャッチしてくれた情報から察するに。これから先に待ち受けるメローネ基地突入編は、原作よりも少々難易度が上がってるっぽいからね。ただ漫然と5日後を待つわけにはいかないのさ。

 

 さーて。10年前の僕。しっかり備えていてよね。

 じゃないと。大した活躍もできずにうっかり死んじゃうかもよ?

 

 




雲雀恭弥→本作の主人公、かつボンゴレ雲の守護者。本名は雲雀恭華。今は凡人が憑依している。原作雲雀さん並みの巨大なリングの炎を生み出すのに苦悩している模様。何気にフゥ太と2人きりの時はあんまり雲雀恭弥ロールに徹していないような気がする。
ビアンキ→リボーンをこよなく愛するフリーの殺し屋。毒サソリの名の違わず、ポイズンクッキングによる毒殺を得意としている。初邂逅で思いっきり脅されたがゆえに、雲雀恭弥への警戒度はすこぶる高い。
フゥ太→本名はフータ・デッレ・ステッレ。9歳にして優秀な情報屋。雲雀恭弥のことを強くて優しいお兄さんとして純粋に慕っている貴重な存在である。
10年後雲雀→並盛中学風紀委員を母体とした秘密地下財団:風紀財団のトップに就いている。あまりツナくんをいじめたくないのが本音だったが、長期的なツナくんの生存を視野に入れた結果、心を鬼にしてツナくんをボコりまくった。
沢田綱吉→原作の主人公。ボンゴレの試練を歴代最年少で突破し、剛の炎を会得した。戦いを避ける性格なのにそれでも物事を大局的に判断して、ミルフィオーレ日本支部への強襲を決断する辺り、ボスの器である。ちなみに。10年後雲雀との戦闘中、雲雀から何とか奪い取った匣の中身が雨金魚だと発覚した時、逃れようのない死を本気で覚悟したらしい。
クローム髑髏→ボンゴレ霧の守護者。本来は愛情のない家庭で育ち、己の存在価値を見出せずにいたただの少女だったが、事故で右目と内臓を失い、死を待つのみだった所で、骸により幻覚の内臓を与えられ、さらに己の存在を必要とされたことで、骸を信奉し、クローム髑髏として生きることを決意した経緯を持つ。ある程度幻術も使えるため、今回はなくなった内臓を自分で生み出して命を繋いだ。

 というわけで、35話は終了です。今回は10年後雲雀さんの思考回路が公開されました。10年経っても、雲雀さんの中身の凡人憑依者は通常運行の模様です。


 ~おまけ(オリジナル匣兵器・解説)~

 No.4 雨金魚

 匣タイプ:アニマル 属性:雨 設計者:風紀財団
 大きさ:90センチ パワー:F スピード:E スタミナ:A 賢さ:F
 性格:健気 技:はねる、たいあたり、じたばた、わるあがき

 沈静能力を持つ雨の匣兵器。雨の炎を体に纏っているため、陸上だろうとすいすいと空中を泳げるはずなのに、なぜか陸上では床でビタンビタンと跳ねることしかしない。延々とその場で跳ね続けられるだけのスタミナや、匣に注入した死ぬ気の炎の消費量が少ないために少量の死ぬ気の炎でも長いこと匣の外で活動できるといった長所があるものの、その優れた特色を戦闘に活用せずにひたすらその場で跳ねるのみなため、せっかくの長所が無用の長物と化している。恭華は雨金魚を『しゃちほこ』と命名した。

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