この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第88話「この戦場に悪魔の集いを!」

 アクセルの街、街の噴水広場にて。

 

「どうだアイリス、これが庶民の料理代表格の唐揚げだ。城では溶けるほど柔らかい肉ばかりだから、硬い肉は新鮮だろ?」

「はい、とっても美味しいです! 歯ごたえのあるお肉にサクサクの衣、お城では食べたことのない味です!」

 

 カズマ達は、カエルの唐揚げを嗜んでいた。

 普段は城で過ごしているアイリスには、街にあるもの全てが新鮮に映り、目を輝かせて色々と聞いてきた。カズマも可愛い妹の為ならと次々と紹介。あっという間に時は過ぎて、気付けば昼になっていた。

 ひとしきりアクセルの街を案内したので、カズマは昼食として商店街にある唐揚げを購入。人が多い商店街では身バレの危険がある為、場所を移動して昼食を取っていた。

 ベンチに座り、幸せそうに唐揚げを口に含ませるアイリスを見て、カズマも自然と笑みが溢れる。が──アイリスとは対照的に、どんどん不機嫌になっていく人物が一人。

 

「カズマ……腹ごしらえも済ませて、街も充分案内しましたよね? ならば、そろそろクエストに出かけてもいいのでは?」

 

 爆裂欲を発散できず、イライラが顔に出ているめぐみん。眉間にシワを寄せてこちらを睨んできている。

 しかし、今はアイリスの笑顔をもっと見ていたい。カズマはめぐみんに顔を合わせないようにしながらアイリスを見つめる。

 すると視線の端で、めぐみんは紫のギターを両手に持って大きく振りかぶり──。

 

「って待て待て待て!? 無視したのは謝るから! それで殴るのはやめろ!」

 

 生命の危機を感じたカズマは慌ててめぐみんを宥める。彼女の我慢は限界のようだ。

 アイリスに城へ帰るよう伝えなければ。まだ一緒にいたい自分の気持ちをぐっと抑えて、カズマが切り出そうとした時。

 

「ずっと気になっていたのですが……お兄様方が持っている武器はどこで手に入れたのですか?」

 

 アイリスは、カズマ達が手に入れた新武器について触れてきた。カズマは両手に持っていた双剣を見せながら説明する。

 

「変わり者の店員に変わった商品しか置いてない、この街の魔道具店からだよ」

「どれも強い魔力を感じます。もしかしたら、私の聖剣なんとかカリバーと似た神器なのかもしれませんね」

「マジで? アイツどこからこんなもの仕入れて……えっ? なんとかカリバー?」

「はい、なんとかカリバーです」

 

 鞘に納められた剣を指差して聞き返したが、アイリスは当然のように答えた。

 詳しく聞くと、先祖代々受け継がれてきたもので、所有者をあらゆる状態異常や呪いから守ってくれるという。

 カズマのように大海原を航海(ネットサーフィン)していた者なら誰もが知る名前。間違いなく日本人の転生特典であろう。

 そんな神器に近い物を三つも、バニルはどうやって入手し、何故自分達にプレゼントしたのか。何か裏があるとしか思えず、今からでも返しにいった方がいいのではとカズマは不安を抱く。

 

「ほほう、やはり相当な代物のようですね。あー、早く試したいですねー。いつになったらクエストに行かせてくれるのでしょうか?」

 

 と、話を聞いていためぐみんがわざとらしく声を上げて、顔を覗き込んできた。対応に困るカズマだったが、傍にいたダクネスが言い聞かすようにめぐみんへ伝えた。

 

「めぐみん、気持ちはわかるがアイリス様の御前だ。今は我慢して──」

「なんなんですかダクネスまで! 最初はあんなに乗り気だったと言うのに! 貴方もこの杖で叩かれたいのですか!?」

「それなら望む所──って違う!」

 

 危うくダクネスの素が出そうになったが、アイリスの前では見せられないと彼女は慌てて訂正する。

 ダクネスでも止めることはできない。もはやめぐみんは、今ここで爆裂魔法をぶっ放しそうな勢いだ。

 すると、これを見兼ねたアイリスが唐揚げを飲み込んだ後、ベンチから立ち上がってカズマに進言してきた。

 

「お兄様、この街は充分堪能させていただきました。今度は、私も冒険者のようにクエストへ出かけてみたいです」

「えっ!?」

 

 ゴネるめぐみんを気遣っての発言であろう。よくできた妹だと思うカズマだが、今は静かに待っていて欲しかった。

 

「いや、それはちょっと……」

「ダメ……ですか?」

 

 即決できず言い淀むカズマに、アイリスが上目遣いでおねだりしてくる。あまりの可愛さに「はい喜んで」と言い出しそうになったが、頑張って喉の奥にしまい込んだ。

 アイリスの援護射撃を聞いためぐみんも、紅い瞳をかっ開いて睨んでくる。ダクネスはどっちつかずの状態で、アワアワと二人を交互に見ている。

 アイリスとまだ遊んでいたいが、クエストについて行かせるわけにはいかない。かといって城に戻れと言ってアイリスを泣かせたくない。しかしクエストに行かないと、めぐみんの堪忍袋の緒が切れて大爆裂を起こしてしまう。

 どうにか穏便に済ませられる手はないか。カズマが頭をフル回転させて考えていた時──。

 

「アイリス様ぁああああっ!」

 

 救いの手を差し伸べるように、第三者の声が響いた。カズマ達は声の主へ顔を向けると、こちらに全力疾走で迫る女性がひとり。

 群青色を基調とした鎧を纏った、金髪に青いメッシュがかかった女性。王女側近の騎士、クレアである。彼女は駆け寄るないなやアイリスに飛びつき、大事そうに抱きしめた。

 

「クレア!? どうしてここに!?」

「どうしたもこうしたもありませんよ! アイリス様が城から抜け出したと知って、きっとこの街にいるのではと思い駆けつけたのです!」

 

 お怪我はありませんかとアイリスの様子を確かめるクレア。顔の様子から足先まで、隅々見て無事を確認して彼女は安堵の息を吐く。

 そして、近くに立っていたカズマを怒りと嫉妬に塗れた目で強く睨んできた。

 

「サトウカズマ、貴様がアイリス様に悪影響を与えたことでこのような事態が起きたのだ。どう責任を取るつもりだ!」

「八つ当たりが酷すぎるだろ! 俺だってアイリスが城を抜け出してまで街に来るなんて思いもしなかったよ」

「しかし、よく私達の場所がわかりましたね。王都ほど広くはないですが、頻繁に移動していたというのに」

「アイリス様直属の騎士を舐めるな。ここが王都であろうが、私ならアイリス様の匂いを辿って探し出せる」

 

 サラッととんでもない能力(変態発言)を告げたクレアに、流石のカズマもドン引きする。

 しかし、クレアが来てくれて助かった。自分が言い出さなくとも、このまま彼女はアイリスを城に連れ戻してくれるであろう。

 

「さぁアイリス様、城へ戻りましょう。従者も守衛も皆心配しております」

 

 予想通りアイリスへ城に戻るよう促したクレア。このまま事が進むのかと思われたが──。

 

「ごめんなさいクレア。ですが城へ戻る前に一度だけ……お兄様とクエストに行ってみたいのです!」

 

 アイリスの好奇心は、そう簡単には収まらなかった。アイリスは声を大にして我儘をぶつける。

 

「なりません、アイリス様。早く城に戻って座学の続きを──」

「クレア、どうしても……ダメですか?」

「はうあっ……!?」

 

 本日二度目の上目遣い。カズマよりも体験しているであろうに、クレアはアイリスの潤んだ目を見て狼狽え、悶える。

 騎士としての責務か、王女様のおねだりか。優先すべき事をクレアは悩みに悩んだ末、押し出すような声で答えた。

 

「わかりました……一度だけなら許可します。しかし、まずは城に戻って従者達を安心させましょう。それから私も同伴でクエストに向かいます」

「本当ですか! ありがとうクレア! 大好きです!」

「ぐふぅあっ……! だ、だいす……き……!」

 

 クレアから直々にOKを出され、アイリスは心の底から喜んだ。一方でクレアはアイリスの直球な好意を受け、悶え死にそうになっていた。

 口を挟まず事の成り行きを見守っていたカズマだったが、結局クエストへ行く羽目になってしまい、どうしたものかと独り悩む。

 だが、クレアの許可を得た上に彼女も同行するので、勝手に出かけて死刑される未来は消えた。それなら大丈夫かとカズマは結論づける。

 

「なら、俺達はアクセルの街で待ってるから」

「何を言っている。貴様も王都に来い。王都近辺なら、めぐみん殿やダスティネス殿にも相応しいレベルのモンスターがいるだろう」

「えっ」

 

 クレアは表情を瞬時に切り替え、そう告げてきた。まさかの展開にカズマは脳が追いつかず固まる。

 

「それはいいですね。この時期、街の近辺では歯ごたえのあるモンスターが少ないですから」

「クレア殿がそうおっしゃるのであれば、お言葉に甘えて王都に向かわせていただこう」

「ちょっ」

 

 さらには仲間の二人も賛成してきた。もはや逃げ場はない。おまけにアイリスが見てる前で、自分は嫌だと言い出せるわけがなく。

 嫌な理由はそれだけではない。現在王都では、銀髪仮面盗賊団の捜索を行っていると聞いていた。クーロンズヒュドラで騎士団の要請できず自分達で狩る羽目になったのもその為である。

 下手に王都を歩けば即お縄になりかねない。が、ここで自分から正体を明かせば牢屋直通便だ。どう切り出すべきかと、カズマは再び頭を回転させる。

 そんなカズマの様子を見ていたクレアは、ツカツカとカズマへ歩み寄ると、彼の耳元でこう囁いた。

 

「今は捜索網も薄くなっている。万が一を考えるなら、王都の外で待っているといい。私に屈辱を与えた黒装束の仮面よ」

「行きます」

 

 完全にバレていた。もはや脅しに近い彼女の囁きを聞いて、カズマは即決する。

 街近辺の手頃なモンスターで済ませる筈が、何故か王都の危険なモンスターを相手しなければならなくなった。アイリスが喜んでいる前で、カズマはやっぱり部屋に引きこもっていればよかったと酷く後悔していた。

 

 

*********************************

 

 

 その後、カズマ達はまずギルドへ向かうことに。クレア曰く、もう一人の側近であるレインをそこで待たせているという。

 アイリスとめぐみんが上機嫌で歩く中、わかりやすく肩を落としながらついていくカズマ。程なくしてギルドに到着して中に入る。

 ギルド内では変わらず職員と冒険者が行き来しているが、カズマは普段と様子が違うことに気付いた。

 席についているのは、女冒険者のみ。むさ苦しい男達がいないのだ。ギルドに来たらいつも座っているモヒカン男の姿もない。

 

 そんな中、ひと際目立つ人物が一人。アイリス達と同じ金髪に群青色の帽子を被った女性。アイリスの付き人である魔法使い、レインだった。

 レインはギルドに入ってきたアイリスに気付くと、すぐさまこちらに駆け寄ってきた。

 

「アイリス様! ご無事でしたか?」

「はい……それとごめんなさい、レイン」

「構いませんよ。アイリス様も年頃の女の子ですからね。我儘のひとつやふたつ、可愛いものです」

「おいレイン、あまりアイリス様を甘やかすな。また勝手に城を抜け出してしまうだろう」

 

 釘を刺すクレアの後ろで、どの口が言ってんだとカズマは思う。レインも同じことを思ったのか、注意されているにも関わらずクスクスと笑っている。

 アイリス達が話している中、カズマは独り離れてギルドの受付へ。カウンターの向こうにいた受付嬢のルナに話しかけた。

 

「今日は男冒険者が全然いないけど、何かあったのか?」

「男性の冒険者は、現在森でモンスター討伐をされてますよ。カズマさん達にもお願いしようと思っていましたが、丁度バージルさんとミツルギさんが来ていたので、お二人に協力を依頼しました。もうそろそろ帰ってくると思うのですが……」

 

 どうやら男総出で森に出ていたようだ。おまけにバージルと魔剣の人まで駆り出されているという。男として自分だけハブられたことに寂しくなったが、面倒事に巻き込まれなくてラッキーだったと思うことにした。

 王都でのクエストにバージルも連れて行こうかと考えたが、魔剣の人もセットでついてくるであろう。彼にアイリスとの時間を邪魔されるのは嫌だったので、ギルドで待たずにテレポートしようとカズマは決めた。

 

「ところでカズマさん……あそこにいらっしゃるのって、本物の王女様なのですか? どうしてカズマさん達と一緒に……?」

「あ、えーっと……ダクネスに用事があって来たらしくて、俺とめぐみんはその付き添い的な?」

 

 王女様が自分に会うためだけにお忍びでやってきた、なんてちょっと口に出したくなったが、カズマは適当な理由で誤魔化した。

 これ以上話してボロが出てしまわないよう、カズマはすぐさま受付嬢から離れる。それから彼等はギルドを後にして、テレポートで王都に向かうこととした。

 

 

*********************************

 

 

 クレアのテレポートと、街のテレポート屋で王都に移動したカズマ達一行。

 彼を包む光が収まり、視界が一変する。眼前には、アクセルの街よりも荘厳な王都の門。

 王都内で待つか外で待つか、仲間と相談しようと思ったのだが──。

 

「なんか、慌ただしくね?」

 

 正門前の平原では、冒険者や騎士団がひっきりなしにいた。門は閉ざされ、空気もピリついているように感じる。

 平原の先をよく見れば、戦火が上がっていた。もしかしてとカズマが悪い予感を抱く中、クレアのもとに騎士がひとり駆け寄ってきた。クレアは真剣な面持ちで騎士に尋ねる。

 

「報告を」

「はっ! 現在、王都近辺の平原地帯にて魔王軍と交戦中! 更に敵軍の中心部には未確認の巨大なモンスター、悪魔と思わしき存在を確認!」

「やっぱり魔王軍と悪魔絡みだチクショウ!」

 

 予感は的中。騎士の報告を聞いたカズマは頭を抱える。自分が遠出した時はいつもこうだ。もはや呪いに掛けられているのではとカズマは疑う。

 一方で、報告を聞いたクレアは恐れる素振りも見せず、レインに指示を出した。

 

「レイン! 今すぐアクセルの街に戻ってバージル殿とミツルギ殿を探せ!」

「承知しました!」

 

 指示を受けたレインはすぐさまテレポートを唱えてこの場を去る。二人はまだ街に戻ってないと伝えようとしたが間に合わなかった。

 

「アイリス様、ここは我らにお任せを。危険ですので城にお戻りください」

「いえ、私も戦います。先陣で戦い、民を守ることが王族の務めです。丁度、装備も万全ですから」

「ですが……いえ、わかりました。なればこのクレア、全力でお守りします」

「えぇ、頼りにしていますよ。クレア」

 

 アイリスを城に戻そうとしたが、彼女もやる気満タンのようで。クレアも止めることはせず、共に戦うと決意。

 王女様を前線で戦わせるのはマズイんじゃないかと思ったが、王族は総じてステータスが高いとめぐみんは言っていた。むしろ王族こそ前線に出ることが、この国では普通なのかもしれない。

 

「良いタイミングですね。我が爆裂魔法で、悪魔もろとも魔王軍を塵にしてみせましょう!」

「魔獣の一撃は受け損ねたが、今回はいっぱい攻撃を受け止めて……いや! クルセイダーとして、皆の盾になるのが私の務めだ!」

 

 めぐみん、ダクネスも当然やる気になっていた。王女様の前でダクネスの本音が漏れかけたが、敵を前にしたら本能の赴くままに突撃するであろう。

 高らかに宣言した後、二人がこちらを見てきた。カズマはどうするのかと目で訴えられたが、アイリスの前で逃げ出すような真似はしたくない。選択肢などありはしなかった。

 

「あーもう! しょうがねぇなぁっ!」

 

 結局、カズマは再び戦いへ巻き込まれることとなった。

 

 

*********************************

 

 

 少し時間は戻って、王都から離れた敵の中心部。

 独断専行で敵地に自ら突っ込んだゆんゆんとタナリス。友達とのお出かけを再開すべく速やかに片付けようと思っていたが、誤算が起きた。

 辺りにいた敵は全て焼き尽くされ、代わりに現れたのは炎の悪魔。一筋縄ではいかない敵だと、誰が見てもわかる図体と威圧感。

 ゆんゆんは敵の迫力に圧倒されたが、戦意は失っていない。これまでの冒険や厳しい授業を経て、彼女は戦いの術だけでなく勇気も得ていた。

 

 距離を離していても感じる相手の熱。敵の身体に触れればたちまち焼き殺されてしまいそうだ。

 どのみち、自分の短剣では刃が通らないであろう。鞭による攻撃も期待はできない。そこまで考え、ゆんゆんは右手に魔銃を、左手に短い杖を持った。

 隣にいるタナリスも鎌を構えて臨戦態勢を取る。やがて前方に立つ炎の悪魔は周囲を確認すると──。

 

「……フム、あれが王都とやらか。人間風情の駒になるのは誠に遺憾だが、仕方あるまい」

 

 ゆんゆん達に一切気付くことなく、王都の方角を向いて歩き出した。

 敵とすら認識されていなかったのか、単に気付いていないのか。口ぶりからして王都を狙っているのは間違いないので、止めるべきなのであろう。

 しかし、この場にいるのに気付かれなかったことで、かつて学生時代に二人組みを作るように言われて自分だけ余ってしまった過去を掘り起こされ、ゆんゆんは胸に痛みを覚える。

 その一方で、無視されるのは心外だったタナリスが駆け出し、悪魔と並列するように移動しながら大声で話しかけた。

 

「ちょっとー? ここに冒険者が二人もいるんだけどー? わざと無視するのはやめてほしいなー」

 

 タナリスは何度も声を掛けているが、悪魔からの反応はない。彼女は不満げに頬を膨らませると、力任せに鎌を振って斬撃を飛ばした。

 斬撃は見事に悪魔の顔面へ命中。流石に気付いたようで、悪魔はおもむろにタナリスの方へ顔を向けた。

 

「おっ、やっと見てくれた」

「なんだ貴様は? 人間の、それも小娘如きが我と戦うつもりか?」

「ここの人間は案外侮れないよ? あそこにいるゆんゆんだってそうさ」

「ほう、我を前にしても臆さぬとは。ならば少しだけ相手をしてやろう!」

 

 タナリスの挑発を受け、悪魔はその手にある大剣を振り下ろしてきた。タナリスは咄嗟に避けた後、ゆんゆんの隣に戻ってきた。

 

「口ではああ言ったけど、僕だけじゃ難しい。ゆんゆん、準備はいいかい?」

「う、うん! 任せて!」

 

 タナリスからの言葉を受け、ゆんゆんは武器を握る手に力を入れる。それを確認してから、タナリスは再び悪魔に向かっていった。

 悪魔は大剣を横に薙ぐ。これをタナリスは軽々と飛び上がって回避し、再び斬撃を悪魔の顔面に飛ばす。悪魔は再び剣を振るも、タナリスはしゃがんで避けて悪魔の側面へ移動する。

 

「ほらほら、ちゃんと見ないと当たらないよ? それともこの距離すら見えないほど目が悪いのかな?」

「羽虫如きがちょこまかとッ!」

 

 苛立った様子で悪魔はタナリスを狙う。しかしどれも空振り、タナリスは時折斬撃と挑発を交えて立ち回っていた。彼女が注意を引いている間、ゆんゆんは悪魔を観察する。

 

「(炎系の相手なら、有利な属性は水か風……私の魔法がどこまで通用するか)」

 

 かつてアクセルの街付近で戦った上位悪魔には、上級魔法でも敵わなかった。めぐみんの爆裂魔法でようやく倒せたほど。

 今回の悪魔はあの時以上の強さかもしれない。だが、自分もあの頃より強くなった。悪魔の力を宿した魔王軍幹部とも渡り合った。今ならきっと──。

 

「『ハイドロクラッシュ』!」

 

 ゆんゆんは杖を悪魔に向けて唱えると、水の波動が放たれた。凄まじい勢いで飛び出した魔法は、タナリスに気を取られていた悪魔の背中へと直撃した。

 モンスター相手ならダメージは必須。だが、水の波動が当たった悪魔の背中は蒸気を発するだけ。ゆんゆんは同じ魔法を続けて放つが、手応えはない。

 

「貴様も、我が剣の贄となりたいと見える」

 

 とそこで、悪魔の注意がゆんゆんに向けられた。悪魔はタナリスの攻撃を無視し、こちらを見る。

 ゆんゆんはすぐさま『幻影剣』を四本出現させて放った。その内三本は悪魔の身体に刺さり、一本は身体を掠めて悪魔の後方へ。やはりダメージが通ったようには見えない。

 悪魔はその手にあった大剣を、ゆんゆん目掛けて強く振り下ろした。しかしゆんゆんは動じることもなく、大剣が迫るのを待ち──。

 

「今っ!」

 

 ギリギリのタイミングで『テレポート』した。悪魔の剣は空振り、平原を熱く焦がす。

 ゆんゆんの姿は悪魔の背後へ。そして彼女の隣では、ゆんゆんが飛ばして外れた一本の幻影剣を握っていたタナリスが。

 見失っている今が好機。ゆんゆんは右手の魔銃を悪魔に向け、既に溜まっていた魔力と自身の魔力を放つべく、唱えた。

 

「『カースド・ライトニング』!」

 

 ゆんゆんがトリガーを引いた次の瞬間、けたたましい轟音と共に銃口から魔弾が飛び出した。

 魔弾は雷のように速く飛び、一筋の閃光となって──悪魔の脳天を貫いた。

 今度は手応えのある一撃。ゆんゆんは息を呑んで様子を見守る。

 

 貫かれた悪魔の傷は、瞬く間に塞がった。

 

「くっ……!」

 

 ゆんゆんは咄嗟に悪魔から距離を取る。タナリスも同じく後方に飛ぶと、彼女等の予見通り、悪魔は剣を振りながら跳び、ゆんゆん等の方へ向き直った。

 

「その程度で我と渡り合えると思っていたか?」

 

 身体から放たれる炎は今も燃え盛り、悪魔はゆんゆん達を睨みつける。

 今の自分でも、上位悪魔には届かない。その現実を突きつけられたように感じ、ゆんゆんは無力な自分に怒りを抱く。

 

「ゆんゆん、今の良い一撃だったよ。僕が続けてアイツを引き付けるから、次もお願い」

 

 そんな自分の心情を察したのか、タナリスは親指を立てながら小声で褒めてくれた。そのまま彼女は返答も待たず、悪魔へと突撃する。

 

「ホントは強がってるんじゃないの? 痛いなら素直に言いなよ」

「口の減らん奴だ。やはり貴様から殺してやろう!」

 

 再び悪魔の視線がタナリスに向けられる。タナリスは物怖じせず悪魔の付近を動き回り、鎌で肉体を斬りつける。が、傷は浅い。

 タナリスが使える魔法は状態異常か呪い系のみ。大きなダメージを与えるには、やはりゆんゆんの魔法が必要となる。

 しかし、回復能力の高い悪魔に重い一撃を加えるとなれば退魔魔法か、爆裂魔法のような威力でなければ届かない。そして、ゆんゆんにその手札はなかった。

 

 が、だからといって諦めるわけにはいかない。戦いはどちらかが倒れるまで終わらないのだから。

 一撃でダメなら、何度も撃ち込むまで。ゆんゆんは杖を空に掲げ、魔法を唱えた。

 

「『ライトニング・ストライク』!」

 

 彼女の声に応え、悪魔の頭上から白い雷が轟き落ちた。悪魔の身体に雷光が走る中、ゆんゆんは続けて魔法を放つ。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 杖を剣に見立てて横に薙ぐ。杖から雷の斬撃が飛び出し、悪魔の身体を薙いだ。その時、悪魔の身体が僅かに揺らいだ。

 確かにダメージは通っている。その実感をタナリスも得たのか、好機とばかりに悪魔の真正面へ飛び上がり、その手の鎌を強く振り下ろす。

 

 ──が、それを狙っていたかのように悪魔は左手を伸ばし、彼女を掴んだ。

 

「うぐっ!」

「タナリスちゃん!」

「ようやく捕まえたぞ小娘。このまま捻り潰してやろう!」

 

 悪魔に握り締められ。タナリスが苦しむ声を上げる。ゆんゆんはたまらず叫ぶが、それで悪魔が手を止めてくれるわけもない。

 今すぐ助けなくては。悪魔の左手首を狙い、再び『ライト・オブ・セイバー』を唱えようとした──その時。

 

「『エクステリオン』!」

 

 刹那、眩い光の斬撃が飛んできた。それは悪魔の左手首へ正確に当たり、悪魔は苦悶の表情を浮かべる。と、握られていたタナリスが開放された。

 ゆんゆんは斬撃が飛んできた方向を見る。そこに立っていたのは、自分と変わらない小柄な金髪の女性。

 

「炎の悪魔! ここからは私、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスが相手です!」

 

 この国を治める王族の第一王女、アイリスであった。

 

 

*********************************

 

 

 再び魔王軍と悪魔騒動に巻き込まれたカズマは、仲間と共に戦場を駆けた。

 アイリスとクレアが先導し、魔王軍のモンスターを容易く蹴散らしていく。王族はステータスが高いという話は本当だったようだ。剣術のレベルも同様。

 カズマ等は『潜伏』を使いながら後をついていくだけで、難なく戦場を通り抜けられた。雑兵は騎士達に任せ、彼等は巨大な悪魔がいる場所へ。そして、既に交戦中であったゆんゆんとタナリスを発見した。

 タナリスが悪魔に握り潰されようとしていたのを見て、アイリスは一気に速度を上げて駆け出し、悪魔に一撃を浴びせてタナリスを救ったのだった。

 

「アイリス様!」

 

 追いついたクレアがアイリスに駆け寄る。ゆんゆんもタナリスに近寄って安否を確かめるが、本人は痛そうに身体を擦るのみで、大事には至らなかったようだ。

 カズマは悪魔に目を向ける。悪魔は一撃を浴びせたアイリスを睨んでおり、カズマ達には気付いていない。

 ここまで走りながら、カズマは『千里眼』で悪魔の姿を先に観測していた。その時点でカズマはある気持ちを抱いていたが、目視で確認できるほど近付いたことで更に強く思った。

 

「(早く帰りたい!)」

 

 どこぞの白黒仮面タキシード悪魔と違い、その姿は生前にファンタジー作品で見てきたような、悪魔らしい風貌。ゲームなら終盤に出てくるような敵だ。

 魔力の強さはてんでわからないが、心臓はバクバクと危険信号を鳴らしていた。かつて、冬将軍を相手にバージルが悪魔の姿を見せた時と同じ感覚。

 こんなの敵うわけがない。今すぐここから離れて街に帰りたい。カズマはそう思っているのだが──。

 

「か……かっこいいです! まさに炎獄から生まれし悪魔! 紅魔族のイメージにもピッタリです! カズマカズマ! あの悪魔を紅魔の里に連れていきましょう!」

「なんと巨大な敵だ。あの大剣から浴びせられる一振りは、どれほど重い一撃になるだろうか……!」

 

 案の定、仲間達は悪魔に一目惚れであった。ここから逃げる気など微塵もないであろう。かといって自分だけ逃げたら、二人が何をしでかすかわかったものではない。

 それに、ここには自分達だけでなくアイリスにクレア、ゆんゆん、タナリスもいる。四人を中心に戦えば、なんとかなるかもしれない。

 カズマは腹を括り、相対する悪魔を見上げる。と、カズマは何かに気が付いた。

 

「……なんだアレ? 火の玉?」

 

 悪魔越しに見る上空にあった、赤い火球。太陽と見紛うソレは徐々に巨大になっていき──否、地上に落ちようとしていた。

 火球はカズマ達や悪魔がいる場所から少し離れた場所に着弾。轟音を上げて落ちたソレは平原を燃やし、盛る火の中に何かがいた。

 黒い影は火の中から現れ、その姿を見せる。外見は蜘蛛だったが、白い外殻は大理石のようで、その節々にはマグマのような赤い肉。

 炎の悪魔と同じく、自然の理から外れた異形──悪魔だと、誰もが確信した。

 

「ふざけんなチクショォオオオオッ!」

 

 無理ゲーにもほどがある。カズマはたまらず叫んだ。

 

「馬鹿な! 悪魔が二体も同時に出現するなど……いや、そもそも魔王軍にこのような敵がいたという情報も聞いていない!」

 

 クレアも驚愕を隠せないようで、隣のアイリスも顔色から焦りが伺える。

 

「か、カズマ! 私はどちらに爆裂魔法を撃ち込めばいいのでしょうか!? 私としては四本脚の悪魔を生け捕りにしたいのですが!」

「あちらの悪魔も良い一撃を浴びせてくれそうだな……カズマ! 私はどちらに向かえばいいのだ!?」

 

 一方でめぐみんとダクネスは相変わらず。めぐみんには少し焦りの色が見えたが、悪魔を生け捕りにしたいと思える余裕はあるようだ。

 仲間から指示を求められ、カズマは二体の悪魔を交互に見て、どちらを優先して狙うべきか思案する。二体とも一筋縄ではいかない相手だ。

 騎士団も魔王軍の手下に手こずっていて増援は来ない。戦況を左右する場に立たされ、決断できずカズマが悩み続けていた、そんな時だった。

 

「──小僧。おい、小僧」

「えっ?」

 

 不意に、誰かの呼ぶ声がすぐ傍で聞こえた。声質は男性だったが、周囲にはカズマ以外に男はいない。

 

「こっちだ小僧。下を見よ」

 

 再び声が聞こえた。まさかと思い、カズマは手に持っていた双剣の柄、そこに施されていた顔を見る。

 

「約束の時は来たれり」

「今こそ魂を解き放つ時」

「ひぃいいいいやぁああああっ!?」

 

 喋りだした双剣にカズマは悲鳴を上げ、思わず放り投げた。双剣は宙を舞うと、顔がこちらを向くようにして地面に突き刺さった。

 

「我が名はアグニ」

「我が名はルドラ」

「雷を司る者の名はネヴァン」

「氷を司る者の名はケルベロス」

「さぁ、我らの名を」

「さすれば我らが力を示そう」

 

 双剣──アグニとルドラはカズマ達へ告げる。話を聞くに、ダクネスが持っている氷属性っぽいヌンチャクの名がケルベロスで、残るめぐみんのギターがネヴァンなのであろう。

 正体はわからないが、察することはできる。きっとコイツ等も悪魔だ。やっぱりロクな代物じゃなかったと、渡してきたバニルを恨む。

 しかし、今はキャベツの手も借りたい状況。カズマは意を決し、めぐみん達に告げた。

 

「聞いたか!? 名前を呼んだら助けてくれるんだとよ! コイツ等にも手伝わせるぞ!」

「あ、あぁっ!」

「いいでしょう! 紅魔族として一度は召喚をやってみたかったのです!」

 

 ダクネスは困惑しながらも、めぐみんはノリノリで承諾する。かくいうカズマも悪魔の召喚には、不安を抱く一方でワクワクもしていた。

 カズマは突き刺さった双剣に手のひらを向け、ちょっと声を作って彼等の名を呼んだ。

 

「現れろ! アグニ&ルドラ!」

「た、頼んだぞ! ケルベロス!」

「雷を司りし魔の者よ。我が真紅の導きに従い、深淵より顕現せよ! 雷光纏いし悪魔、ネヴァン!」

 

 ダクネスはヌンチャクを、めぐみんはしっかり召喚の言葉を謳ってからギターを空へ放った。

 瞬間、地面に刺さった双剣から炎と風が発生し、剣を包むように吹き荒れる。宙に放たれたヌンチャクとギターは、放物線を描きながら光に包まれる。

 二つの光が地面に落ちた時には炎風も静まり──カズマ達の前に、その姿を現した。

 

 ギターだったものは、黒いドレスを纏った妖艶の魔女。

 ──ではなく、めぐみんよりも小さい赤毛の黒ドレス少女へ。

 

 ヌンチャクだったものは、氷を纏いし巨大な地獄の番犬。

 ──ではなく、三つ首ではあるものの氷は纏っていない青き中型犬へ。

 

 双剣の前には、番人を彷彿とさせる首なしの巨人。

 ──ではなく、剣身と同じかそれ以下の肉体を持つ、どちらも首のない赤鬼と青鬼。

 

 二体の巨大な悪魔を見た後では、なんというか──。

 

「……ちっさ」

 

 とてもスケールの小さい悪魔達であった。

 

「ちょっと何よアンタ達。随分と可愛らしくなっちゃって」

「そういう貴様もだ。魔力もかなり落ちているぞ」

「あらホントだわ。網目を通って人間界に来た影響かしら?」

 

 どうやら彼等も想定外だったようで、ロリ少女は自分の姿を見て驚いている。二体の敵が上位悪魔なら、彼等は下位悪魔と呼べるほどの差だ。

 

「ま、なってしまったものは仕方ないわね。それで、私達はどっちを狙えばいいのかしら?」

「えっ? えーっと……」

 

 彼女がネヴァンというのだろう。舌っ足らずな口調でカズマに指示を聞いてくる。

 カズマは奥の敵悪魔に目を向けると、既に四本脚の悪魔はアイリスと戦っていた。一方で蜘蛛の悪魔は、クレアが足止めをしているもののかなり苦戦している様子。

 

「蜘蛛だ! 蜘蛛の方を頼む!」

 

 カズマは慌てて悪魔達に指示を出した。するとケルベロスという中型犬が、何も言わず真っ先に蜘蛛のもとへ駆け出した。

 遅れてネヴァンも後を追う。アグニとルドラはどうにか突き刺さった剣を抜き、重たそうに持ちながら走っていった。

 

「ホントに大丈夫なのだろうか?」

「知らねぇよ! とにかく今はアイツ等に任せよう。俺達はアイリスの加勢に行くぞ!」

「むぅ……紅魔の里に封印して新たな観光名所にと思っていましたが、仕方ありませんね。我が爆裂魔法でその炎すら消し飛ばしてみせましょう!」

「お前マジで捕まえるつもりだったのか?」

 

 馬鹿なことを考えていためぐみんに突っ込みつつ、カズマ達はアイリスを助けるべく四本脚の悪魔のもとへ向かった。

 

 

*********************************

 

 

 ケルベロス達が人間界へ移動する前、バニルはこう告げた。

 

「貴様等の新たな主が行く先に、二体の悪魔が現れるであろう。その時こそ、貴様等が力を振るう時である。新たな主に名を呼んでもらうがいい」

 

 悪魔にとっては力こそが正義。故に、自分達よりも遥か格上であるバニルの命令は無視できなかった。

 その為、彼等は大人しく魔具となって人間界に移動。が、そこで網目に引っ掛かった。魔具となって移動すれば問題ないかと思われたが、見逃してくれなかったようだ。

 元の世界では人間界に出現したテメンニグルから網目を通らず外に、魔具としてダンテに持ち出されたので力もそのままだったが、今回は網目を通ることで従来より魔力は削がれることとなった。この姿もそのせいであろう。

 

 人間界へ来た後、エンツォの店といい勝負の汚い店に移動。そこで彼等は新たな主に出会った。

 紅目の少女は見込みアリだが、他二人は魔力も大したことのない人間。主には相応しくない。金髪の女が自分を手に取ったので、ケルベロスは反抗的に魔力を放ったのだが──。

 

「(我が冷気を味わって喜ぶとは……あの笑みには狂気すら感じた。あの女はいったい何者だ? まさか人間ではないのか?)」

 

 いくら魔力が落ちているといえど、人間程度では触れられない冷気は発していた。しかしどうだ。金髪の女は離すどころか、息巻いて逆に強く握り締めてきた。

 その後も一切離すことはなかった。魔力は少ないが、あの女も只者ではないとケルベロスは感じていた。

 

 そしてバニルの予言通り、彼等の前に二体の悪魔が立ち塞がった。人間界へ来る前にアグニとルドラへ名を伝えていたので、無事に名を呼ばれてケルベロス達は解放された。あのアホ兄弟に任せるのは些か不安だったが、ちゃんと覚えてくれていたようだ。

 しばらく走って、ケルベロスはようやく敵の眼前へと辿り着く、先に戦っていた女の騎士が、ケルベロスの姿を見て大層驚いた。

 

「な、何者だ!? 魔王軍の新たな手先か!」

「脆弱な人間は退いていろ。主の命に従い、この蜘蛛は我が引き受ける」

 

 ケルベロスは騎士にそう吐き捨てると、蜘蛛の悪魔に向かって突撃した。相手は巨大なハサミの手で胴を狙わんとしたが、ケルベロスは途中でブレーキを掛け、攻撃を避けつつ蜘蛛の真横へ。

 地面を蹴り、前足で蜘蛛の横腹を引っ掻いた。が、金属音が鳴るのみで外殻には傷ひとつ付かない。ケルベロスは咄嗟に飛び退くと、口に魔力を溜めて氷弾を放った。

 氷弾は蜘蛛の外殻に直撃したが、ダメージが通ったようには見えない。蜘蛛の悪魔はおもむろに身体の向きを変えると、六つの青い眼でこちらを見た。

 

「なんだこのチビは? お前のような犬ッコロが、この俺に敵うとでも?」

 

 蜘蛛の悪魔は低い笑い声を響かせる。元の姿であれば一瞬で氷漬けにしてやれたのにと、ケルベロスは弱体化した自分を恨む。

 敵がジワリジワリとにじり寄ってくるのを、いつでも飛び退けるよう構えて待っていると、突然敵の上空から雷が落ちた。蜘蛛の動きは止まったが、やはり効いたようには思えない。

 気付けば追いついたネヴァンが隣に立っていた。遅れてアグニとルドラも来たが、着いたタイミングでアグニが転けていた。もはや戦えるのかどうかも怪しく感じる。

 

「全然堪えてないわ、あの蜘蛛。どうやら私達、想像以上に力が落ちてるみたいね」

「その上、奴の外殻は物理にも魔力にも強いようだ。生半可な攻撃では傷一つ付かんだろうな」

「情けない話だけど、ここは力を合わせてってヤツかしら」

「我等の力、今こそ示してやろう!」

「炎と風が織り成す地獄を思い知れ!」

「雷と氷も忘れないでね」

 

 ケルベロスとネヴァンは共同戦線を張ると言葉を交わし、アグニとルドラも剣を構えて蜘蛛の悪魔と対峙する。

 眼前に並ぶ四体の悪魔を見てもなお、蜘蛛の悪魔は焦りを見せることなく言い放った。

 

「虫ケラ共がゾロゾロと沸きおって。いいだろう! このファントムが、地獄の業火で焼き殺してやる!」

 

 

*********************************

 

 

「ゆんゆん! タナリス!」

 

 悪魔達と別れたカズマは、ゆんゆん達のもとへ駆け寄る。こちらに気付いたタナリスは、地べたに座ったまま無事を伝えるように手を挙げた。

 

「やぁカズマ、奇遇だね。君もあの悪魔退治に加勢してくれるのかい? なんだか悪魔に縁があるねぇ」

「こっちは勝手に縁を結ばれていい迷惑だよ」

 

 彼女は痛そうに脇腹を擦っていたが、見た目よりも大丈夫そうだ。カズマはひとまず安堵する。

 そして、会話を交えている間もたった一人で悪魔と戦っている少女に目を向けた。

 

「『エクステリオン』!」

 

 悪魔の一振りを避けた後、アイリスは剣を斬り上げる。またも剣から斬撃が飛び、悪魔の肉体に再び傷を負わせた。

 しかし、相手の回復力も侮れない。少し経てば傷も塞がり、悪魔の炎も燃え盛り続けている。

 

「死ねぇっ!」

 

 悪魔は大剣を引くと、アイリス目がけて突きを繰り出す。それをアイリスは避けようとせず──。

 

「やぁっ!」

 

 悪魔のモノと比べて実に小さい剣を突き出し、剣先をぶつけ合った。お互いに退かず、やがて力の反発で二人は同時に離れた。

 

「やるな、小娘。二千年前の人間界には、貴様のような人間はおらなんだ」

「まだまだこれからです! 王国の剣として、一歩も退く気はありませんよ!」

 

 相手の悪魔も認めるほどの技量。アイリスは剣を構え直し、再び悪魔へと突撃した。勇敢に戦う妹の姿を間近で見て、カズマは思わず呟いた。

 

「……もうアイリス一人でいいんじゃないかな」

「何を言っているのだ馬鹿者! 王女様にだけ戦いを任せるなど見過ごせない! 私は先に行くぞ!」

「あっ、おい!」

 

 アイリスを助けたい一心か、早く悪魔の一撃を浴びたいのか。チラッと見えた顔が恍惚に歪んでいたので両方であろう。ダクネスは一足先に飛び出した。

 もはや悠長に話している時間はない。カズマは頭の中で状況を整理し、めぐみん達に指示を出した。

 

「ゆんゆんは俺の隣で待機していてくれ! タナリスはいけそうならアイリスの加勢を頼む! で、めぐみんは爆裂魔法の準備!」

「久々の相手が上位悪魔とは実に燃える展開です! 我が爆裂魔法で灰燼に帰して、悪魔を屠りし者(デビルハンター)の名を轟かせてやりましょう!」

 

 めぐみんはマントを翻し、杖を構えて高らかに宣言する。その満ち溢れる自信を表すように、彼女の眼は紅く輝いていた。

 同じく指示を聞いてタナリスは腰を上げるが、彼女を遮るようにゆんゆんが慌てて進言した。

 

「待ってください! タナリスちゃんはまだダメージが残って──!」

「ゆんゆん、心配ありがとう。でも大丈夫、女神は頑丈なんだ。おっと、今は堕女神か」

「で、でも……」

「それに、やられっぱなしじゃあ気が済まない。せめて一発は浴びせてやらないとね」

 

 心配をかけまいと、タナリスは軽い口調で応える。その後、身体を捻ったり筋を伸ばしたりと準備運動をしてから、彼女は悪魔に向かって駆け出した。

 サラリと自分が女神であることを明かしたが、ゆんゆんは驚いていない様子。タナリスから既に聞いたのであろう。

 ゆんゆんは不安げにタナリスを見つめている。そんな彼女にカズマはお願いするよう優しめに告げた。

 

「ゆんゆんは、めぐみんが爆裂魔法を撃つまで護衛を頼む。ダクネスが勝手に行っちゃった今、俺だけじゃ流石に心許ないからさ」

「……わ、わかりました」

 

 ゆんゆんは何か言いたげだったが、素直に指示を受けた。タナリスが心配で、自分も加勢に行きたいのであろう。しかし彼女まで行ったらこちらが手薄になる。

 あとは爆裂魔法が準備できるまで、アイリス達が耐えてくれたら──と考えていた時。

 

「行きたいのならさっさと行けばいいでしょう! こんな時まで自分の意見を出さずにいて、それでも紅魔族の長を継ぐ者ですか!?」

「えぇっ!?」

 

 痺れを切らしたように、めぐみんがゆんゆんへ言い放った。カズマも、そして言われたゆんゆんもビクリと驚く。

 

「私の護衛はカズマだけで構いません。ライバルに守ってもらうなど、こちらから願い下げです! なので貴方は早くアイリス達の所に行って、私の前座として少しでも場を盛り上げておくがいい!」

「ぜ、前座って何よ失礼ね! そんなこと言うんだったら、めぐみんが爆裂魔法を撃つ前に私達で倒してやるんだから!」

 

 めぐみんの発破を受けたゆんゆんはいつもの調子で、めぐみんに宣言してから悪魔のもとへ向かった。

 カズマは呼び止めようと声を掛けたが、彼女の耳には届かず。離れていくゆんゆんを尻目に、めぐみんへ文句をぶつける。

 

「お前、勝手に──」

「今のゆんゆんに、私の護衛をさせるのは酷ですよ。あの子はああ見えて負けず嫌いですから」

 

 めぐみんはゆんゆんの背中を見送りながら語る。タナリス達が心配だから自分も加勢したいと思っているのかとカズマは捉えていたが、どうやらそれだけではなかったようで。幼馴染だからこそ感じ取ったのか。

 お前も素直じゃないなと思いながらも、カズマはぶつけようとしていた文句を飲み込み、めぐみんの肩に手を置く。

 

「一応『潜伏』は使っておくぞ。魔力までは隠し切れないかもしれないけど」

 

 どうか悪魔がこちらに気付きませんように。そう願いながら『潜伏』を使用。めぐみんはクスリと微笑んで、引き続き魔力を集中させた。

 

 ……彼女が気にするので口にはしなかったが、爆裂魔法で仕留めきれない可能性もある。

 その時はアイリス達が仕留めるか、機動要塞の時と同じく、もう一度爆裂魔法を撃たせるために『ドレインタッチ』で誰かの魔力をめぐみんに分けるか。

 もしくは──アクセルの街へ向かった彼女が、彼を連れて来さえすれば。

 

 

*********************************

 

 

「そこっ!」

 

 アイリスは聖剣を突き出し、悪魔の肉体に深く刺す。悪魔が空いた手で捕まえようとしたが、すぐさま剣を引き抜いて後ろへ下がる。

 傷口から血が流れるも、次第に再生して傷口を塞ぐ。悪魔は大剣を横に薙いできたので、アイリスは剣で弾こうと構えたが──。

 

「アイリス様!」

 

 突如、横から入ってきた者が一人。聖騎士であり同じ貴族のララティーナ、もといダクネスだ。彼女は自分の前に出ると、悪魔の一振りを一身に受けた。

 

「ぐぁああっ!」

「ララティーナ!」

 

 たまらずアイリスは叫ぶ。しかし、ダクネスの身体が分断されることはなく。鎧が一部砕けた程度で、今もなおアイリスの盾として立っていた。

 

「やはり、とても重い一撃だ……! さぁどうした悪魔! もっと私に攻撃してみろ! 何度でも受け止めてやろう!」

「我の一振りをまともに受けて、立っていられるとは……加えてその笑み。さては貴様、人間ではないな?」

「何を言っている! 私はれっきとした人間だ!」

 

 悪魔から人間かどうか疑われるほどの防御力。これほど強力な盾はないであろう。アイリスは剣を構え直し、悪魔と対峙する。と、遅れてもう一人の参戦者が。

 

「やぁ、さっきはよくも痛めつけてくれたね」

「なんだ、先程の小娘か。性懲りもなく我に殺されに来るとは命知らずめ」

「今度はそう簡単に捕まらないよ。王女様に最強の盾がついてるんだからね」

「タナリス!? 身体は大丈夫なのか!?」

「問題なし。でももう一回握られたくはないから、その時はカバーよろしくね」

 

 タナリスと呼ばれた黒髪の少女は、刃が魔力で形成された鎌を構えて隣に立った。先程、銀髪の少女と一緒に戦っていた者だ。

 ダクネスとは知った仲のようで、彼女は「望むところだ!」と何故か喜びながら言葉を返す。

 

「タナリスちゃん!」

 

 と、再び後方から追加で現れたのは、タナリスと戦っていた銀髪の少女。彼女のことはアイリスも知っていた。ミツルギと共に魔王軍と最前線で戦ってくれた紅魔族。名はゆんゆん。

 彼女もまた戦ってくれるようで、杖と見慣れない武器を持って構える。そこでカズマ達の様子が気になったアイリスは、後方を確認した。

 姿が見当たらず、どこに行ったか見失ったように思えたが、よく目を凝らすとカズマとめぐみんが並んでいるのに気付いた。めぐみんは魔力を集中させており、その魔力量からして大技を放つつもりであろう。

 自分も負けてはいられない。アイリスは再び悪魔へ目を向けると、聖剣に魔力を集中させ始めた。

 

「皆さん! 私が魔力を溜めている間に注意を惹きつけてください! 合図を出したらすぐに離れて!」

 

 悪魔にダメージを与えるには、一撃で──かつ特大の攻撃を浴びせる必要がある。

 アイリスの指示を聞いて、ダクネス達は頷く。前衛にタナリスとダクネスが飛び出し、二人と自分の間にはゆんゆんが立った。

 

「そうらっ!」

 

 先程まで握り潰されそうになっていたにも関わらず、タナリスは軽やかな身のこなしで悪魔の攻撃をよけ、鎌で斬りつける。

 悪魔はタナリスに目を向けると、彼女を再び掴まんと手を伸ばした。その時、誰よりも早くダクネスが動いてタナリスの前に出た。

 

「ぐぁああっ!」

 

 悪魔に握り締められたダクネスは悲鳴を上げる。若干声が上ずっているように聞こえたが。

 その隙にタナリスは素早く悪魔の眼前へ飛び上がると、鎌で悪魔の片目を斬った。

 

「ヌゥッ! 小娘の分際で……!」

 

 悪魔はたまらずダクネスを離し、手で片目を抑える。乱暴に剣を振ったがタナリスには当たらない。

 タナリスとダクネスが充分に敵の注意を引き付けてくれたおかげで──今、聖剣に魔力が溜まった。

 

「お待たせしました!」

 

 アイリスは仲間に伝え、聖剣を構える。聖剣に宿る魔力を危険に思ったのか、悪魔がこちらに向かって飛びかかろうとしたが──。

 

「『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 その瞬間に、ゆんゆんが悪魔の足元へ泥沼魔法を放った。地面が突如泥沼に変わったことで踏ん張りが効かず、悪魔は体勢を崩す。

 タナリスとダクネスが退避したのを確認すると、アイリスは一直線に駆け出して悪魔の足元へ。眩い光を放つ聖剣を強く握り締め、振り上げた。

 

「『セイクリッド・エクスプロード』!」

 

 彼女の全身全霊を込めた一振りが、悪魔の肉体を深く斬りつけた。飛び上がったアイリスはそのまま着地し、すぐに悪魔の傍から離れる。

 

「おーい! こっちも準備完了だ! 今すぐそこから離れてくれー!」

 

 と、後方からカズマの声が。アイリスは振り返ると、めぐみんから膨大な魔力が溢れ出ているのを見た。

 彼の声を聞き、ダクネス達は急いで悪魔から離れ始めた。アイリスも彼女等を追いかけるように走る。

 王都でめぐみんから何度も聞かされた例の魔法──史上最強の魔法を放つべくめぐみんは唱えた。

 

「我が真紅の瞳が輝く時、炎獄より顕現せし爆焔が地を燃やし、悪魔は恐れ慄き泣き叫ぶ! 唱えたるは起源にして頂点の禁呪! 穿て!『エクスプロージョン』!」

 

 悪魔を捉えた魔法陣が、めぐみんの詠唱に呼応し──悪魔を爆焔に包み込んだ。

 耳をつんざく轟音が響き、アイリスは突風に耐えながら耳を塞ぐ。視界を覆っていた黒い煙は、やがて晴れて地面を映し出す。

 平原には巨大なクレーターが作り出され、その中心には悪魔が横たわっていた。身体から吹き出していた炎は消え、身体の節々はまだ熱を持っているのか僅かに赤い。

 

「久々の爆裂……大満足……でぇす」

 

 爆裂魔法を唱えためぐみんは、満たされたようにその場で倒れた。カズマはやれやれと息を吐くと、慣れたようにめぐみんを背負った。

 彼の近くまで移動していたアイリス達は、倒れている悪魔を見る。動き出す気配はない。目を細めて見ていたタナリスは、安堵したように零した。

 

「……やったかな?」

「アクアがいないから大丈夫と思ってたらこんの馬鹿! 元女神はフラグ発言をしないと気が済まないのか!?」

 

 タナリスの言葉にカズマが過剰に反応する。ダクネスは首を傾げていたが、ゆんゆん、そしてアイリスはまだ警戒を解いていなかった。

 悪魔から、燻る魔力を感じていた為に。

 

「グォオオオオッ!」

 

 次の瞬間、倒れていた悪魔は雄叫びを上げ──彼を中心に巨大な爆発が起きた。

 爆裂魔法を思わせる爆風がアイリス達を襲う。やがて爆風が収まった時、悪魔は既に起き上がっており、クレーターから地上に這い出た。

 悪魔の肉体からは、再び炎が吹き出ている。アイリスが負わせた傷は残っていたが、瀕死にまでは追い込めなかったようだ。

 アイリスはすぐさま飛び出して悪魔と対峙する。めぐみんはもう動けない様子で、ダクネスとタナリス、ゆんゆんにはこれ以上無理をさせられない。戦えるのは自分だけだ。

 

「今のは流石に驚いたぞ。褒美に我の名を聞かせてやろう」

 

 悪魔は大剣をこちらに差し向ける。アイリスが聖剣を再び握る中、悪魔は言葉を続けた。

 

「我は炎獄の覇者、ベリアル! 人間でありながら、ここまで傷を負わせたのは貴様等が初めてだ。我が剣の糧となることを誇りに思うがいい!」

 

 ベリアルと名乗った悪魔は、アイリスの命を狙うべく大剣を振り下ろした。それに立ち向かうべく、アイリスは剣を振り抜こうとした──その時だった。

 

 アイリスの視界を、青い影が覆った。間を置いて、金属のぶつかる音が響く。

 その者は、悪魔の大剣を一本の剣で受け止めていた。それだけではない。彼は剣に力を入れると、いとも容易く悪魔の大剣を押しのけた。

 やがて、視界に入っていた青い影が布だと気付く。それを見たアイリスは、無意識に声を零した。

 

「兄上……?」

 

 カズマと等しく尊敬する、実の兄でありこの国の王子。しかし目の前にいる男の髪は、白銀に染まっていた。

 マントに見えた布は、その者が纏う青いコート。右手には氷のように白い剣。左手には鞘に納められた剣。

 カズマ達と共に数多の強敵を退けたという、蒼白のソードマスター。

 

「貴方は……」

「コイツは俺が狩る。貴様は下がっていろ」

 

 アクセルの街の冒険者、バージルであった。彼は振り返ることもせず、アイリスに吐き捨てる。

 

「アイリス様! ご無事ですか!?」

 

 と、背後からまた別の男の声が。振り返ると、こちらに駆け寄ってきた男がいた。

 アイリスもよく知る、勝利の剣にして魔剣の勇者。ミツルギであった。彼はバージルの隣に立って魔剣を構える。

 

「レインさんに呼ばれて、遅れながら参上しました。後は僕等に任せてください」

 

 どうやらアクセルの街に向かったレインが、無事彼等を探し出してくれたようだ。ミツルギも同様に、この場から下がるようアイリスへ促す。

 しかし、彼女もまた王都を守る剣。自分はまだ戦えると、二人の隣に立つべく前に出ようとした時──ポンと、彼女の肩に手を置く者が。

 

「ここはお言葉に甘えて、二人に任せてあげよう」

 

 振り返ると、いつの間にかタナリスが傍にいた。彼女の言葉を受けてアイリスは思い悩む。

 確かに彼等は強い。王都で剣を奮っていたミツルギは勿論、その上を行くというバージルも。

 しかし相手は上位悪魔。一筋縄では行かない相手だ。戦力は多い方がいい。アイリスはそう伝えようとしたが、先にタナリスは言葉を続けた。

 

「魔剣君はよく知らないけど、バージルなら心配ないさ。なんてったって、悪魔退治のプロだから」

「ぷ、ぷろ?」

「とにかく大丈夫。ほら、早く行こう」

 

 首を傾げるアイリスの手を、タナリスは無理矢理引いて悪魔から離れ始めた。

 アイリスは戸惑っていたが、手を振り払おうとはせず。彼女がそこまで言うなら信じてみよう。アイリスは遠ざかっていくバージルとミツルギを見て、彼等の無事を祈った。

 

 

*********************************

 

 

 顔には一切出ていないが、バージルは困惑していた。

 

 無駄に数が多かった森での害虫駆除を終わらせた後、報告をすべくバージルとミツルギがギルドへ向かうと、そこには王女様側近の魔術師であるレインが、何故か待ち構えていた。

 顔を合わせることも多かったミツルギが話を聞くと、現在王都にて魔王軍が襲来し、更には悪魔まで現れたという。それで二人の力を借りるべく、急いでアクセルの街に来たと。

 王都の危機を受け、ミツルギも力になると即断。一方でバージルは『ある条件』をレインに吹っかけ、レインもそれを承諾したので同行することに。

 

 レインの『テレポート』で移動し、戦場を駆けて悪魔のもとへ。そこで見たのは、バージルも思わず固まる光景だった。

 大剣を持つ悪魔は知らないが、もう一体の蜘蛛は記憶にあった。魔帝の部下だったファントムという悪魔。

 更にファントムと争っていたのは、かつてテメンニグルにいてダンテの魔具となっていた悪魔達。姿がかなり変わっているが、間違いない。クレアの姿もあったが、悪魔同士の激しい戦いについていけずにいた。

 そして案の定、カズマ達もこの場にいた。よく巻き込まれる男だと感心すら覚える。アクアだけ不在なのは意外であったが。

 

 ファントムの方はひとまず置いておき、バージルは自身の名を高らかに名乗っていたベリアルという悪魔へ。アイリスを下がらせ、彼はベリアルを睨みつける。

 一方でベリアルもバージルの顔を凝視すると、怒りを表すように身体の炎が勢いを増した。

 

「このニオイ、この力……忘れはせん! 逆賊スパーダの血!」

「……スパーダ?」

 

 隣にいたミツルギは首を傾げているが、バージルにとっては忘れることのない悪魔の名。どうやら父を知る者のようだ。バージルはベリアルを睨んだまま、ミツルギへ指示を出す。

 

「どうやらコイツは俺がお望みらしい。貴様は蜘蛛がいる方へ行け。倒すべき敵はクレアに聞けばわかるだろう」

「……わかりました」

 

 ミツルギは構えを解くと、すぐさまファントムがいる方角へ走り出す。それをベリアルは止めることもせず、バージルに熱視線を送っていた。

 

「我が同胞の仇! 今こそ晴らしてくれようぞ!」

「異世界でも親父の尻拭いをさせられるとはな。だが……羽虫だけでは物足りんところだった」

 

 カズマに色々と聞きたいが、今は眼前の悪魔が最優先。バージルは魔氷剣を、炎獄の覇者へと差し向けた。

 

Come on(来るがいい)

 

 




現在ネヴァンさんの身長はこめっこちゃんと同程度です。ロリb(ry

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