この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第80話「この脇役達に再招集を!」

 エイミーの手料理を食べ終えたバージルとタナリス。

 野菜騒動も終わり、無事メリッサとも合流できたので、そろそろ街へ戻る旨を彼女に伝えた。

 

「いいわよ。想定より早くダンジョンを回れたし、モフモフも満喫できたから」

 

 すると彼女は、バージルの進言をあっさり承諾した。相手も頃合いだと思っていたのであろう。

 メリッサの了承も得られたので、バージルは宿屋から出ていく。一方でタナリスは獣人の二人にも別れの挨拶を告げていた。

 

「野菜、美味しかったよ。アクセルの街で売ったら人気出るんじゃないかな」

「あら、それじゃあ今度はその街にお邪魔してみようかしら」

「歓迎するよ。僕とバージルは勿論、街の愉快な仲間達がね」

「アクセルの街にも美味いもんあるのか!?」

「僕の親友のパーティーメンバーに、ここらじゃ珍しいニホン料理というのを作れる人がいるから、楽しみにしてるといいよ」

「おぉっ! 行く行く! ミーア絶対にその街行くぞ!」

 

 美味しい料理の話に目を輝かせるミーア。きっと今頃、とある男のくしゃみが屋敷に響いたであろう。

 

「ところでエイミー。私との約束、忘れてないわよね?」

 

 そんな中、ミーアのものとは違った期待の眼差しをエイミーに向けた。エイミーは怯えた声を上げたが、すぐに覚悟を決めた表情に。

 

「ミーアちゃん、私はちょっとメリッサさんとお話をしてくるから、ここで待っててね」

 

 エイミーはそれだけ伝えると、メリッサと共に宿屋の階段を上がっていった。ミーアは不思議そうに見つめていたが、すぐにタナリスの方へと振り返る。

 

「じゃあなタナリス! アクセルの街に来た時はよろしくな!」

「うん、それじゃあね」

 

 タナリスは微笑みながら手を振り返し、宿屋から出た。宿屋の前には、既にテレポート水晶を手に持っていたバージルが。タナリスは彼のもとへと歩み寄る。

 

「さっき、メリッサさんとエイミーさんがお部屋に戻っていったよ。気にならないかい?」

「興味がない。さっさと帰るぞ」

「堅物だなぁ」

 

 彼なら気配を消して聞き耳を立てそうなのにと、タナリスは零しながらバージルの服を掴む。

 しかしバージルは一切聞く耳を持たず、テレポート水晶を掲げて村を後にした。

 

 その一時間後に宿屋の部屋から、顔が艶々になったメリッサと、息の荒れたエイミーが出てきたのだが、部屋の中ではいったいどのようなお話を交えたのであろうか。

 

 

*********************************

 

 

 アクセルの街、バージルの家。その玄関前に突如として光が出現する。

 薄れゆく光の中から現れたのは、テレポートで自宅前に帰ってきたバージルとタナリスであった。

 

「さてさて、街はお祭りで盛り上がってるかな?」

 

 バニルの話では、バージル達が街を離れている間にイベントが起こった筈。ここは街の中でも郊外に位置するので、賑わいは感じられない。

 ひとまず街の様子を見に行くべく、二人は家に背を向けるようにして踵を返す。

 

「おや?」

 

 そこで二人は、前方から家に近づいてくる人物がいたのを発見した。小柄な少女で、髪は銀色。どことなくバージルと似た配色の服。彼女はバージル達の姿に気付いたのか、顔を明るくして駆け寄ってきた。

 

「先生! タナリスちゃん!」

「やぁゆんゆん、三週間ぶりだね。イベントは楽しめたかい?」

 

 訪ねてきたのはゆんゆんであった。久々の再会であったが、ゆんゆんに変わった様子は見られない。

 

「街にいる冒険者全員駆り出されて大変だったのよ! あ、でも皆で一緒にクエストできたから、私としては楽しかった……かな」

「冒険者総出で? それは大規模なイベントだったねぇ」

「魔王軍の襲撃か?」

「いえ、大型モンスターの討伐で……と、とりあえずクリスさんとミツルギさんを呼んできますね!」

「仕事が早くて助かるよ。ちょうどいいタイミングで来てくれたし」

「えへへ……ギルドにいても、トランプタワーか一人ボードゲームしかやることがなかったから、いつ二人が帰ってきてもいいように、先生の家の前を彷徨っていたの」

「……そうか」

 

 サラッと出てきたぼっちエピソードに、バージルは少し困惑しながらも短く言葉を返す。しかし彼女は悲しい表情を見せることなく、嬉々としてクリス達を呼びに向かった。

 

 

*********************************

 

 

 ゆんゆんに呼び出され、バージルの家へ来たクリスとミツルギ。

 ひとまずバージルとタナリスがいない間に何が起こったかを、三人は話した。

 

「クーロンズヒュドラの討伐かぁ。そっちはそっちで強そうなモンスターと戦ってたんだね」

 

 大物賞金首、クーロンズヒュドラ。アクセル付近の山に棲んでいたモンスターで、魔力を蓄積するために湖の中で眠っていた。

 魔力蓄積には十年の歳月がかかる。そして前回眠りについたのがおよそ十年前だったため、討伐クエストが貼り出された。

 バージルも最近はギルドに足を運んでおらず、貼り出されたのも街を離れてからのことだったので、彼もクエストの存在を知らなかった。

 

「私達が街の様子を伺っていたら、カズマさんが冒険者の皆に声を掛けてたんです。クーロンズヒュドラの討伐を手伝って欲しいって」

「聞けば、ダクネスが頑なに討伐を諦めようとしなかったんだって」

「いつもの奇行だろう。カズマなら放っておきそうなものだが」

「カズマ君も最初はそう考えてたらしいけど、どうも自分で倒すことに執着してたみたいでさ。ホントにこのまま続けたら危ないと思ったから、協力を仰いだんだって」

 

 どうやら、ダクネスの趣味に巻き込まれたという話ではないようで。バージルは頬杖をついて耳を傾ける。

 

「騎士団の派遣も依頼したようですが、王都を騒がせた盗賊団事件の後始末で忙しいと断られたみたいで……」

「誰かさんが必要以上に暴れまわったからね」

 

 忘れたとは言わせないよと、クリスが強めの口調で告げる。しかしバージルは顔を背けるだけで謝りはしない。クリスは諦めるようにため息を吐く。

 

「アタシもカズマ君から声をかけられたけど、街の様子を伺いたかったから待機してたよ」

「僕も街に残りました。街から冒険者がほとんどいなくなったタイミングで、魔王軍が襲来する危険もあったので」

「だから、この中で参加したのは私だけでした。強いモンスターで大変だったけど、カズマさんの的確な指示もあって無事討伐できました」

 

 ここは駆け出し冒険者の街だが、何故かレベルの高い男冒険者が多い。そして能力だけは優秀な問題児達。

 そこにカズマのリーダーシップが加われば、賞金首モンスターですら討伐可能であったようだ。

 

「街の方も、特に動きはありませんでした」

「そっちはどうだった? メリッサさん、頼りになるトレジャーハンターだったでしょ?」

「能力は申し分ないが、あの女と組まされるのは二度と御免だ」

「あとは野菜と鮭の抗争を止めたよ」

「そうでしたか……えっ? 鮭?」

 

 やはり転生者には信じがたい出来事なのだろう。ミツルギは思わず聞き返す。

 旅先で何があったのかを語り始めるタナリス。クリス達が興味深そうに聞いている中、バージルは会話に入らず腕を組む。

 それ故か、再び足を運んできた来客に気づけたのは、バージルだけであった。

 

「脚本家気取りの悪魔が来たようだ」

「えっ?」

 

 腕を組みながらバージルは呟く。その声を聞いたクリス達は振り返ると、扉がおもむろに開かれた。

 

「これはこれは、ちゃんと言いつけを守って再集結してくれたようであるな。忠実に演じられるのは役者として上々であるぞ、脇役諸君」

 

 ノックの音も立てず扉を開けて入ってきたのは、仮面の悪魔バニル。彼の白黒仮面を見た途端、クリスは嫌悪感を露わにする。

 

「面白い話大会なら我輩にも自信があるぞ。ポンコツ店主のポンコツ冒険者時代によるポンコツ話はいかがかな?」

「悪魔の語りに興味はない。さっさと本題に移れ」

「せっかちな男であるな。ではご要望にお答えして早速、と話し始めるその前に」

 

 バニルは彼等に背を見せると、閉めた扉のそばに移動する。そして扉に手を当てた時、隙間から僅かに光が漏れた。

 

「バニルさん、今のは?」

「外部からの干渉を遮断する結界を張った。防音は勿論、外部から結界の中を見れないので覗き対策もバッチリ。ポンコツ店主のポンコツセレクションから唯一まともなのを選んだ、我輩セレクションの魔道具である」

 

 ゆんゆんの問いにバニルは手を離しつつ答える。刹那、クリスが皆を守るように前へ出て、バニルにダガーを差し向けた。

 

「ようやく本性現したね! この結界の中でアタシ達を皆殺しにするつもりなんでしょ! 残虐非道な悪魔の考えそうなことだよ!」

「ほほう、そのような使用法があったとは微塵も思いつかんかったわ。暗殺業に向いてるやもしれぬぞ、猛々しいプッツン盗賊娘よ」

 

 小馬鹿にした笑みを浮かべるバニル。が、確かにクリスの早とちりであったため、クリスは言い返すことができず、唸ってバニルを睨みつける。

 

「落ち着きなって。ほら、バージルも話が進まないからイライラしてるよ?」

 

 そこへタナリスが言葉を掛けてきた。振り返って見てみると、バージルは腕を組んだ姿勢を崩していないが、トントンと動いている指が苛立ちを表していた。

 彼の気を害したくはないので、クリスは怒りと共にダガーを納めると、バージルの隣へ移動する。そして、彼と同様に腕を組んでバニルを睨み続けた。

 自分の勝ちだと告げるように鼻を鳴らしたバニルは、壁際にあったソファーに我が物顔で座り、用件を話し始めた。

 

「脇役諸君、まずは第一幕ご苦労であった。演目は滞り無く進み、無事第二幕へと進んだようである」

 

 わざとらしく拍手を贈り、バージル達を労う。主に二人からの視線が強くなる中、バニルは足を組みつつ言葉を続ける。

 

「続く第二幕であるが、程なくしてこの街にめでたいニュースが舞い込む。その吉報は、脇役諸君もよく知る人物に関するものである」

「私達が知ってる人の?」

「手放しで祝福できるかどうかは、人によるであろう。なんなら、それを快く思わない人物が貴様へ協力を求めに訪れる」

「その依頼を引き受けろと?」

「真逆である。第三幕が始まるまで、貴様は断り続けるのだ。大根役者でもできる簡単な役であろう?」

 

 バージルを指差しつつ、バニルは演目内容を告げた。近い未来に起こるイベント。それを妨害せんとする者の依頼を断ること。

 仮面の悪魔による未来予知なので確実であろうが、肝心な部分が抜けている。

 

「僕達の知る人物とは誰なんだい? そして、それを快く思わない誰かというのは?」

「じきに判明する事実である故、ここでは省略させていただく。初めから何もかも知っていてはつまらんであろう」

 

 イベントの中心人物は誰なのか。ミツルギが尋ねるも、バニルははぐらかして答えようとしない。

 

「部外者コンビ以外も、イベントの当日である第三幕が始まるまで大人しく待機が吉である。当日は好きなように動いて構わんがな」

「その第三幕がいつ始まるのかぐらい、教えてくれてもいいと思うんだけど?」

「それもいずれ分かることよ。ただし、お願いしますバニル様と泣いて懇願すれば教えてやらんこともないぞ、偽りの胸を持つと噂の女神を崇拝する貧しい女よ」

 

 さらにクリス、ミツルギ、ゆんゆんの三人も遠回しに行動を制限された。そのついでに煽られたクリスは耐えきれずにバニルへ飛びかかるが、華麗に避けられソファーにダイブする。

 

「では脇役諸君、素晴らしき演技を期待しておるぞ」

 

 無様なクリスの姿を再び鼻で笑った後、バニルはバージル等に背を向けて扉に向かう。

 が、彼は扉に手をかけようとせず出ていかない。どうしたのかと周りが伺っていると、バニルは思い出したように彼等へ告げた。

 

「そうそう、我輩が魔道具で張った結界だが、ちと欠点があってな。結界が解除されるまで、約一ヶ月ほどかかる」

「はぁっ!? 一ヶ月!?」

 

 まさかの欠点を聞いて、クリスが驚嘆しつつ顔を上げる。つまりそれは、一ヶ月もここに閉じ込められたということ。

 ゆんゆん達とだけならまだしも、仮面の悪魔と一ヶ月共同生活を送るなど地獄である。それはバージルも同じ。

 

「しかし何も問題はない。裏技ではあるが、結界を解く方法がひとつある」

 

 そんな彼等の思考を読んでか、バニルは安心させるようにそう告げた。クリスが懐疑の目を向ける中、バニルは扉から三歩下がる。

 彼は右腕を垂直に、左腕を水平にした構えを取ると、仮面の目を光らせて唱えた。

 

「『バニル式破壊光線』!」

 

 瞬間、構えた手から光線が飛び出した。光線はそのまま扉に直行し、ぶつかった瞬間爆発が起こる。

 部屋に煙が充満し、思わず煙たがるクリス達。煙が晴れた時、そこにあった筈の扉はなく、ポッカリと空いた穴からは外の庭がよく見えていた。

 

「このように、無理矢理穴を開けさえすれば結界は消滅する。少々硬いが、魔力を込めれば問題ない。もっとも、結界は建物を覆うようにピッチリ張られる故、必然的に建物の破壊は避けられん」

 

 バニルは服を軽く払った後、空いた穴から外に出る。そしてバージル等に振り返り、悪意満点のピースを決めた。

 

「在庫はたっぷりあるので、お気に召したら是非ともウィズ魔道具店へ。ではさらば!」

 

 風のように走り去るバニルを、バージルとクリスは殺意をもって追いかけた。

 

 

*********************************

 

 

 逃げ足だけは速く、結局バニルを捕まえることはできなかったバージルとクリス。二人は消化できない苛立ちを抱えながら家に戻る。

 当然、家の玄関はポッカリと空いたまま。風通しが良くて夏には快適だが、あまりにも不格好なので、建築業者に依頼して扉を直すことに。

 非常用として裏口にも扉があったので、クリス達はそこから帰って行った。修理の音が響く中では寝ていられないので、バージルは一晩宿へ泊まることにした。

 

 そして三日後の朝、バージルは家へ帰ってみると、扉はたちまち元通りになっていた。流石はこの街で長年働いている建築家と言うべきか。

 業者に依頼料を支払った後、バージルはいつもの席で紅茶を嗜みながら新聞に目を通す。ざっと目を通したが、バニルの言うめでたいニュースらしきものは見当たらない。

 もっと詳しい話を聞くついでに、扉のお礼として残機を減らしにいってやろうかと考えていた時、新調した扉からノックの音が。

 

「バージルさん、クリスです。入ってもいいですか?」

 

 来客はクリスであった。構わんとバージルは短く言葉を返し、それを聞いたクリスが扉を開けて中に入る。

 彼女の顔には真剣味が帯びており、談笑しに来たわけではないようだ。バージルは新聞を机に置き、クリスと向き合う。

 

「仮面の悪魔が話していたニュースが何なのか、私なりに街を歩いて調べてみたんです」

 

 クリスは真面目な表情のまま話し始める。その様子から察するに、彼女はニュースのネタを何か掴んだのであろう。

 

「例の悪徳貴族、アルダープを覚えていますか?」

「あの下賤な豚か。奴がどうした?」

「近々、彼は貴族の人と結婚をするそうで、その結婚式がアクセルの街で行われるそうです」

「奴と結婚する物好きがいたとは驚きだな」

 

 アレクセイ・バーネス・アルダープ。この街を含む領地の領主で、かつてバージルにも請求書をふっかけた男。

 結婚となれば確かにめでたいニュースであるが、彼が自分達にとってよく知る人物かと言われたら、首を横に振るしかない。

 

「で、その物好きの名前は?」

 

 となれば、相手が自分達の知る人物なのではないか。バージルはクリスに尋ねる。

 クリスは気持ちを整理するように息を呑んだ後、おもむろに口を開いた。

 

「ダスティネス・フォード・ララティーナ」

 

 大貴族ダスティネス家の娘であり、バージルもよく知る聖騎士の冒険者──ダクネスの名が告げられた。




ちなみに建築業者は、転生直後にカズマ達がお世話になった親方達です。
詳しくはアニメ版第一話を見てね。

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