この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第63話「この王都に銀髪集団を!」

「──盗賊団?」

 

 聞き返すバージルの前には、協力者かつ依頼人として訪れていたクリス。机越しに立っていた彼女はバージルに背を向け、ゆっくり歩きながら言葉を続けた。

 

「冒険の最中で命を落とし、持ち主を失った神器が高値で市場に出回っていることがあります。その多くは、貴族の方に買い取られているんです」

「値の張る珍しい物に目がないのは、この世界の貴族も同じか」

「なので私は、よく貴族の邸宅にお邪魔して神器を探していました。ついでに、悪い事をして溜め込んだ金銀財宝もいただかせてもらってます」

 

 クリスは足を止めると、再度バージルへと向き直る。

 

「義賊としてね」

 

 いつの間にかくすねていた、机上に飾っていた筈の赤と青の宝石二つを自慢気に見せながら。

 デキる盗賊アピールが鼻についたバージルであったが、彼女から宝石を奪うことはせず言葉を返す。

 

「国教として名の知れた女神の実態が、悪事を働く賊とはな」

「今の私は盗賊クリスですよ。それに、奪うのはあくまで悪い噂を聞く貴族から。お金も全額エリス教の孤児院に寄付していますし。で……どうでしょうか?」

 

 あくまで善行だと譲らないクリス。彼女は返答を求めてきたが、バージルは乗り気ではない表情を見せる。

 

「バージルさんはまだ王都に行かれたことがなさそうでしたから、この機会にと思ったんですが……気が進みませんか?」

「カズマが王都にさえいなければ良かったのだが」

「えっ?」

 

 

*********************************

 

 バージルはクリスに、彼女が不在の間に起こっていた出来事を話した。

 王侯貴族直々の来訪と、王女様によるカズマ誘拐事件。そして、カズマはまだアクセルの街に帰ってきていないことを。

 

「アハハ……カズマさんは本当によく巻き込まれる人ですね」

「不思議と人を引きつける男だと思っていたが、王女まで手にかけるとはな」

 

 話を聞いたクリスは、巻き込まれ体質のカズマに同情を見せる。

 

「王女直々の招待だ。今も城で悠々自適な生活を送っていることだろう」

「運がいいのか悪いのか……でもそのうち、アクセルの街が恋しくなって帰ってくるんじゃないですか?」

「俺も最初はそう思っていた。しかし未だ帰郷する気配もなく手紙の一つも寄越さん辺り、問題児共から開放された不自由のない城での暮らしに満足し、移住するつもりでいる可能性は大いにある」

 

 芯があるかと思えば流されやすく、怠惰に身を委ねたがる。それが佐藤和真という男。

 クリスはバージルの言葉を否定できず、ただただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

「今王都に行けば、もれなく奴の厄介事に巻き込まれる危険性がある。悪いが今回はパスだ」

「うーん……私としては、バージルさんも来てほしいんですけど」

「貴様にしては食い下がるな。余程の大物が相手か?」

 

 食い下がってくるクリスを珍しく思ったバージルは、ターゲットが気になり彼女に尋ねる。クリスは一歩前に出ると、真剣味を帯びた表情で答えた。

 

「潜入先のひとつは、王都に建てられたアルダープさんの別荘です」

 

 ターゲット名は、バージルの興味を引かせるには十分なものであった。彼はクリスの言葉に耳を傾ける。

 

「アルダープさんの住んでいた屋敷が、木っ端微塵に吹き飛んでしまった事件は覚えていますか?」

「機動要塞の動力となっていたコロナタイトをウィズが『ランダムテレポート』で飛ばしたが、転移先は奴の屋敷だった。で、指示をしたカズマが国家転覆罪の容疑をかけられた一連の騒動だろう?」

「はい。屋敷を失ってしまったアルダープさんは、王都の別荘に今も住んでいます」

「そこに、貴様が目星をつけている神器が隠されていると」

 

 バージルの言葉に、クリスは静かに頷く。

 

「他の貴族の屋敷も探りましたが、目的の神器は見つかりませんでした。残るはアルダープさんの別荘ともうひとつ……それに、カズマさんの裁判であった違和感の原因も見つけられそうだと思いませんか?」

 

 アルダープによってカズマが国家転覆罪の容疑をかけられた裁判。終盤でカズマの罪を軽くする流れになっていたが、アルダープの一声で唐突に裁判官は判決を死刑にした。

 その際にアクアも感じていた、邪悪な気配。バージルには見当がついていたものの、果たして『どっち側』なのかまではわからずにいた。

 

「……いいだろう。カズマが気がかりだが付き合ってやる」

 

 面倒事に巻き込まれる危険性とアルダープの謎解明を天秤にかけた末、バージルは結論を出した。望んでいた回答だったのか、クリスの表情がパッと明るくなる。

 

「決まりですね。では早速詳しい話を──」

「したい所だろうが、その前に来客だ」

 

 話を進めようとしたクリスだったが、それを遮りバージルは正面扉に目を向ける。

 音も立てず静かに閉ざされていた扉であったが、向こう側から駆ける足音が聞こえた後、勢いよく開かれた。

 

「剣士! 剣士のダンナはいるか!?」

 

 なだれ込むように入ってきたのは、にるにるであった。彼女の背後にはゆんゆん、タナリスの姿も。

 

「あっ、クリスさん! お久しぶりです!」

「しばらく顔を見なかったけど、何をやっていたんだい?」

 

 にるにるが真っ先にバージルのもとへ詰め寄る傍ら、ゆんゆんとタナリスはクリスに話しかけてくる。

 だがクリスは言葉を返せず、口をあんぐりと開けたままであった。何事もないように振る舞う、銀髪少女と化したゆんゆんを見て。

 

「え、えっと、クリスさ──」

「どうしちゃったのゆんゆんちゃん!?」

「ひゃあっ!? な、何ですか!?」

「何ですかじゃなくて、その髪と服! アタシの知らない所でゆんゆんちゃんの身に何が起こったの!?」

 

 ここで初めてゆんゆんの銀髪姿を見たクリスは、彼女の両肩に手を置いて詰め寄る。まるで先生と瓜二つのカラーリング。真っ先にクリスはバージルに疑いを掛けた。

 

「ちょっとバージル! まさかゆんゆんちゃんに色変えを強要なんてしてないよね!?」

「ち、違いますよ! 私が自分から染めたんです!」

「本当に? そう言えって命令されたりしてない? 服はまだしも、髪は女の子にとって命の次に大事だって言われてるんだから、こういうのは正直に言うんだよ?」

 

 母親のように詰め寄るクリス。ゆんゆんはどうしていいかわからずタナリスに助けを求めたが、タナリスはただただ愉快そうに笑って傍観していた。

 来店早々に喧しい彼女達を尻目に、バージルは残る来客のにるにるへ目を向ける。

 

「で、何の用だ」

「そうそう! タナリスから聞いたんだけど、アンタ結構セレブなんだって!? ならさ、高純度のマナタイトを大量に買ってやってくれないか!?」

 

 声を掛けられたにるにるは、机に乗り出さんとばかりにバージルへ詰め寄り、そう依頼してきた。

 

「ジュウをゆんゆん専用に改良してるんだが、魔弾を撃つ度に魔力を込めていたら消費が激しいし、いざって時に魔法を使う魔力が残ってなかったら本末転倒だ。そこで私は考えた。ジュウに使う分をマナタイトで補えるように設計すればいいんじゃないかって!」

 

 本来、銃には弾薬を必要とする。弾の種類は銃によって様々だが、魔弾となれば種類を考える必要はない。

 恐らくにるにるは、魔力石をマガジンのように交換式で取り付ける考えなのであろう。故に、大量のマナタイトが必要になると。

 

「理想を言えば永遠に魔力を引き出せる魔石だけど、そんな夢みたいなアイテムありゃしない。つーわけで剣士のダンナ! 可愛い生徒の為を思ってさ! 頼むよ!」

「も、もういいよにるにるさん。あまり連射はしないよう使うから……」

「アンタが良くても私がダメなんだよ! あの武器の可能性は無限大だ! その道を閉ざすわけにはいかない!」

 

 迷惑になるからと促すゆんゆんを退け、にるにるはバージルに頼み込む。

 事実、稼ぎのあるバージルならばマナタイトを大量購入するのは訳ないことであった。マナタイトを発注ミスで大量入荷してしまった店にも心当たりがある。

 だがバージルはしばし考えた後、クリスの方へ顔を向けて口を開いた。

 

「以前ダンジョン探索した時に、一定量の魔力を引き出せる魔石があっただろう。あれを使わせてやれ」

「えぇっ!?」

 

 まさかの発案にクリスは声を出して驚く。ダンジョン崩壊を招きながらも回収した、あの神器である。クリスはバージルの隣へ移動すると、彼に耳打ちで言葉を返した。

 

「確かにあったけど、神器だから渡すわけには──」

「一個使われたところで問題ないだろう」

「あるからアタシがせっせと回収してるんでしょ!」

 

 持ち主がいない神器は弱まっているとはいえ、元々が世界のバランスを崩壊しかねない能力を持つ物もある。放置はできない。人間に与えるなんてのは以ての外だ。

 女神として、この提案だけは通すわけにいかないのだが──。

 

「なら俺が使っている獣の面はどう説明するつもりだ?」

「うぐっ……あれはバージルなら悪用しないだろうって……ていうか、君が勝手にくすねて使ったのがそもそもの発端だからね!?」

 

 既に神器を人間に与え、回収せずにいる事例がクリスにはあったため、強く反対することができずにいた。

 そんな時、クリスを端から観察していたタナリスが自ら歩み寄ってクリスに話しかけてきた。

 

「売り飛ばすならまだしも、知人に渡すぐらい構わないじゃないか。それとも君には、ゆんゆんが悪い子に見えるのかい?」

 

 話題に上がっていた魔石が神器だと察しての追い打ち。これにもクリスは言い返せずに口籠る。

 やがて、諦めたようにため息を吐くと、にるにるの方へ顔を向けて答えを出した。

 

「わかったよ。ただ今すぐは用意できないから、また今度ね」

「マジかよ! 助かるぜ銀髪のダンナ! これで私の子はもっと高みを目指せる!」

「ねぇ、銀髪のダンナってバージルのことだよね? アタシじゃないよね?」

 

 期待していた返答を聞き、飛び跳ねて喜ぶにるにる。クリスの声も今の彼女には届かない。

 

「そうと決まれば早速構想を練らなきゃな! 魔力を無限に引き出せるとなったら、魔力不足問題の解消だけじゃない! あれやこれも、色んな機能が実装できるぞ! くふぅー!」

 

 興奮状態のにるにるは、扉を突き破る勢いでバージルの家から出ていった。扉はキイキイと音を立てながら、反動で開閉を繰り返す。

 残された四人はしばし呆然としていたが、タナリスがクリスの方へと顔を向けて口を開いた。

 

「ところで、クリスはバージルと何を話してたんだい?」

「せ、先輩にはあまり関係のない話かと」

「なんだいつれないなぁ。教えてよ。ゆんゆんも気になるよね?」

「あっ、いえ……お邪魔になるなら私は帰りますから」

「友達を邪魔だなんて思うわけないさ。そうだろうクリス?」

 

 友達という言葉を強調して、タナリスは問いかけてくる。その一方でゆんゆんは申し訳無さ半分、期待半分でクリスを見つめている。

 子供にはまだ早い依頼内容なので聞かれたくはないが、かといって邪魔になると言ってしまえばゆんゆんが傷付くのは明白。心優しい性格のクリスにはとても追い出すことはできなかった。

 

「わかりました。ただし、この事は誰にも言わないでくださいね?」

 

 

*********************************

 

 

「盗賊団か。中々楽しそうじゃないか」

「貴族のお屋敷に……でも、世のため人のためならいいのかな」

 

 話を聞き終え、タナリスは興味を惹かれた様子を見せる。ゆんゆんも全肯定ではないが、気になっているようだ。

 

「アタシとバージルで事足りるとは思いますけど、先輩のスキルは使えそうですし、一緒にどうですか?」

 

 状態異常スキルを多く持つダークプリーストならば、敵との対峙や逃走時に役立つ筈。そう思いクリスは誘ったが──。

 

「可愛い後輩の為に一肌脱いであげたいところだけど、夜は酒場のバイトが入ってるからなぁ」

「なんとなくそんな気はしてました。というか、先輩いっつもバイト入れてますよね」

「お金集めならクエストよりバイトが効率いいからね」

「冒険者として口にしたらいけない発言だと思うんですけど」

 

 案の定タナリスにはシフトが入っていた為、勧誘は叶わなかった。予想していたクリスは特に残念がることもなく、すんなりと諦める。

 

「おまけに、今は武器をおじいちゃんの所に預けてるからね。にるにるも手を加えてくれるみたいだし、完成するまではクエストにも行けなさそうだよ」

「なら仕方ないですね。予定通りアタシとバージルで──」

「だからゆんゆん、僕の代役よろしく」

「へっ!?」

 

 が、タナリスは自然な流れとばかりに、突っ立っていたゆんゆんの肩へ手を置いてそう告げた。

 まさか自分に話を振られるとは思っておらず、ゆんゆんはその場でアワアワと慌て出す。

 

「む、むむむ無理だよ! 盗賊なんて私には──」

「友達の君にしか頼めないんだ。不甲斐ない僕の代わりに、クリスを手伝ってやってくれないかい?」

 

 断ろうとするゆんゆんの両肩に手を置き、タナリスは目を合わせて頼み込む。

 友達にしか頼めない。押し文句としては弱いように思えるが、友達を渇望するゆんゆんにとっては大金やレアアイテムを積まれるよりも、強烈なお願いの仕方であった。

 

「私にできることなら何でもやります! 不束者ですが、よろしくお願いします!」

「流石は僕の友達だ。というわけでクリス、ダークプリーストよりも優秀なアークウィザード一名盗賊団に加入で」

「……先輩には良心がないんですか?」

「信じられる友に頼ることも、生きていく上では大切なことさ」

 

 

*********************************

 

 

 バージルを盗賊団に誘ってから数日。クリスはバージルの自宅に通い詰め、依頼に関する打ち合わせを行った。当然のようにゆんゆんも加わって。

 本当に一緒に来るのかとクリスは会う度に確認したのだが、ゆんゆんは「友達の為に頑張ります!」と元気に返してきた。そんな彼女をあしらう厳しさを持っていなかったクリスは何も言えず。

 

 そして依頼から一週間後。いよいよクリス達は王都へと向かうことになった。

 

「……ねぇ、本当にゆんゆんちゃんも連れていっていいのかな? こういう犯罪まがいのことはさせたくないんだけど」

 

 アクセルの街のメインストリートを進みながら、クリスは隣で歩くバージルへひっそりと尋ねる。

 二人の五歩後ろからは、多くの旅行グッズが入っているであろうリュックを背負って、常に距離を保ってついてきている。

 

「義賊活動を善行面で話していたのはどこの誰だ?」

「そういう問題じゃなくて、ゆんゆんちゃんはまだ子供だから、こういう大人の世界には関わらせたくないというか……」

「だったら良い機会だ。社会勉強代わりにもなる」

 

 バージルはゆんゆんを連れて行くことに賛成、というよりどちらでもいいのだろうが、反対はしていない様子。

 

「前々から思ってたんだけど、もっと先生としてあの子の面倒見たほうがいいよ」

「子守の依頼を受けた覚えはない。そこまで目にかけているのなら、貴様がやればいいだろう」

「アタシは神器回収や天界の仕事で留守にすることが多いから……君、依頼受けてない時は寝てるか本読んでるかだし、余裕はあると思うんだけど。アタシもちょくちょく顔出すからさ」

 

 放任主義な教育に、心配性なクリスは苦言を呈する。しかし、バージルは一考する素振りも見せない。

 話を聞いてくれない彼に、思わずため息が出てしまうクリス。と、背後から視線が。振り返ると、そこには静かについてくるゆんゆんがいるのだが……太陽の光に照らされる銀髪に負けないほど、赤い両目をキラキラと光らせ二人を見つめていた。

 

「……えっと、どうしたの?」

「い、いえ! お構いなく! 私のことはついてくる野良猫だと思って続けてください!」

 

 声を掛けられたゆんゆんは、ブンブンと手を振りながら言葉を返す。クリスは不思議に思い首を傾げるだけで、特に掘り下げることはしなかった。

 

 時折会話を交えながら、街中を進む三人。向かった先は街のテレポート屋。駆け出し冒険者の街なのだが、そこでは王都への往復便が用意されていた。

 昔は無かったそうだが、王都からアクセルの街へ行き来できるようにして欲しいと、王都在住の男性冒険者からの要望が多かったため、王都で活動するのに適したレベルという条件付きで始めたとのこと。

 料金でいえば馬車の方が安上がりだが、バージルがいるので金銭面の問題はなし。レベル条件も三人とも達成できていた。

 街中では珍しい銀髪三人衆を、住民は珍しげに見てくる。その視線を感じながらもテレポート屋へ足を運び、三人は王都へと転送させてもらった。

 

 

*********************************

 

 

 テレポートの光に包まれ、目の前の景色が白く染まる。やがて光は薄まっていき──三人は王都に足を踏み入れた。

 数多くの冒険者や礼服を着こなした住民が道を歩き、高い建物がズラリと並んでいる。アクセルの街と比べ遥かに発展した街並み。

 

「ここが王都だよ。ベテラン冒険者が集まる街でもあり、魔王軍と最前線で戦っている場所」

「流石に栄えているな。冒険者が多いのを考えると、治安までは判断しきれんが」

「確かに冒険者が多い分荒くれ者もいるけど、それを取り締まる騎士もいるからどっちとも言えないね。アタシ的にはアクセルの街が人が少ない分のどかで好きかな」

 

 テレポート位置に被らないよう横にはけながら、バージルは王都についてクリスと言葉をかわす。

 

「さて、潜入は明日の夜だから今日はゆっくりできるけど、どうしようか。アタシが案内するから、軽く観光してみる?」

 

 王都を見渡す二人へ、クリスは観光を提案する。今日の予定は、宿を取ること以外は特に決められていない。

 どういった街なのか。純粋に興味を示していたバージルは「そうだな」と同意の声を返す。そんな時だった。

 

「ゆんゆん? もしかしてゆんゆんか? おーい!」

 

 遠方からゆんゆんを呼ぶ声が。バージル等がそちらに顔を向けると、駆け寄ってくる二人の冒険者を捉えた。

 一人は顔にバツ印の傷を負った男性。一人は妖麗な印象を受ける女性。男はゆんゆんの傍に寄ると気さくに話しかけてきた。

 

「よう! 悪魔討伐以来だな!」

「レックスさんにソフィさん! お、お久しぶりです! テリーさんはいないんですか?」

「クエストでヘマしちゃったから宿で療養中よ。貴方、私達とは二、三回しかパーティー組んだことないのに覚えてくれてるなんて、お姉さん嬉しいわ」

「はい! 今みたいにバッタリお知り合いと会った時に名前を忘れて嫌われないように、一回パーティーを組んだ人や仲良くなった人の名前は絶対に忘れないよう手帳にメモして毎日音読して覚えてますから!」

「お、おう……頑張ってんだな」

 

 ゆんゆんは頭を下げて挨拶する。レックスと呼ばれた男性はゆんゆんの必死過ぎる努力に苦笑いを浮かべて言葉を返す。

 会話のやり取りを聞くにゆんゆんとの関係性は良好だと判断したクリスは、警戒を解いて会話に交ざった。

 

「知り合い?」

「以前、アクセルの街付近で上位悪魔が出没した時にご一緒させてもらったんです!」

「あー、あの悪魔ね。ゆんゆんちゃんも戦ってたんだ」

 

 思い当たりのある敵だったようで、クリスは手をポンとつく。上位悪魔という単語を耳にしてバージルが顔をしかめたが、すぐさまクリスが耳打ちで「こっちの世界の悪魔だから」と伝えた。

 

「服も髪もガラッと色を変えちまって、どうしたんだ?」

「ま、まぁ色々と……レックスさんは王都で活動されてるんですね」

「バリバリ前線で戦ってるぜ。つっても、大きな手柄はほとんど『勝利の剣』に持ってかれてるけどな」

「『勝利の剣』?」

 

 聞き馴染みのない言葉について、静かに耳を傾けていたバージルが聞き返す。

 

「知らねぇのか? 今王都で大活躍中の三人さ。息ピッタリなコンビプレーを見せる槍使いと盗賊。そして魔剣の勇者で構成されたパーティー。どんなに苦しい戦況でも三人が来れば必ず勝利をもたらしてくれることから、そう言われてるんだ」

「特に魔剣の勇者。彼の圧倒的な強さと洗練された剣技の前では、数多の魔王軍も敵じゃない。おまけに非の打ち所がない性格なうえ超イケメン。王都ではブッチギリで人気の冒険者よ」 

 

 レックス達が話した『勝利の剣』と呼ばれる三人。バージルの脳裏には、思い当たる人物達の顔が浮かんでいた。王女お付きの騎士も彼の話をしていたのを考えると、想像以上の活躍を見せているようだ。

 

「『勝利の剣』を知らねぇってことは、王都は初めてっぽいな。知り合いのよしみだ。案内してやろうか?」

「お誘いはありがたいけど、アタシが何度か王都を歩いてるから大丈夫だよ」

 

 親切にもガイドを名乗り出てきたレックスであったが、今回は盗賊団として王都に来た身。夜には屋敷の下見もあるため、クリスはやんわりと断る。

 そのまま二人と別れて……と思われたその時、ゆんゆんが何かを思いついた表情を見せると、珍しく声を張って提案してきた。

 

「クリスさん! 私はレックスさんと街を回ってきますので、先生のご案内をお任せします! 私のことは気にせず観光してください!」

「へっ?」

 

 自ら別行動を取ると言ってきたゆんゆん。クリスは困惑した様子だが、彼女はお構いなく続ける。

 

「ではレックスさんお願いします!」

「ど、どうしたんだ急に。三人ならまだしもお前だけって──」

「いいから早く行きましょう! クリスさん! また夕暮れ時にここで!」

「……そういうことね。いいじゃないレックス。あの二人はゆっくりさせてあげましょう」

「お、おう? よくわかんねぇけど、まぁいいか」

「いやいやいや!? ちょっと待ってゆんゆんちゃ──!」

 

 ゆんゆんに背中を押され、レックスはクリスのもとから離れていく。クリスが慌てて呼び止めようとするも、瞬く間に住民の中へと紛れていく。

 取り残されたのはクリスとバージルのみ。まさかゆんゆんがここまで突飛な行動をしてくるとは考えておらず、クリスは困ったように頬の傷を掻きながらバージルへと振り返る。

 

「えーっと……どうしよっか?」

「貴様の神器回収に協力する代わりに、この世界について聞かせてもらう。それが条件だった筈だ。案内は貴様に任せる」

「そ、そっか。そうだよね。ただゆんゆんちゃんが心配だけど……」

「奴自身が選んだことだ。好きにさせればいい。それに、貴様が思うほど奴も子供ではない。自衛の術も持ち合わせている」

「うーん……まぁ二人ともいい人そうだったし、任せても大丈夫なのかな」

 

 ガラの悪い男に絡まれても、腕っぷしの立ちそうな男冒険者がいる。ゆんゆんを狙うその手の輩に迫られても、女冒険者が上手くあしらってくれるだろう。

 自分が心配性過ぎるのかと思う反面、独り行ってしまったゆんゆんに後ろ髪を引かれながらも、クリスはバージルと二人で王都の街を歩き出した。

 

 




レックスって誰? という方は、原作このすばのめぐみんスピンオフを最後の方まで読んでいただけたらと(ダイマ)
あとアイリス様の本名を知って、誠に勝手ながら運命を感じました。

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