第62話「この駆け出しの街に王侯貴族を!」
──ふと気付けば、見慣れた天井があった。
霞んだ視界が開けるように、ぼんやりとした思考が明瞭になる。カーテンの隙間から、朝日が溢れているのを確認する。
特別早くもなければ、お隣のぐーたら冒険者が起きる時間ほど遅くもない、良い目覚めをするには丁度いい時間帯。
だが、彼にとっては気持ちのいい朝ではなかったようだ。
「……チッ」
バージル──悪魔と人間の間に生まれた半人半魔。
悪魔のように睡眠を必要とせず活動することも可能だが、人間のように深い眠りにつき、夢を見ることもある。
良い夢も、悪い夢も。
ここ最近、彼は目覚めの悪い夢を見ることが多くなった。しかし、どんな内容であったかはおぼろげにしか覚えていない。
鋭い何かで突き刺されたような夢、黒い何かに覆われる夢、何者かに追われ続ける夢。
夢魔に目星をつけて喫茶店へカチコミしにも行ったが、誰一人としてバージルに手出しはしてないと供述。
内容を教えてくれれば何か原因を掴めるかもしれないと店員に尋ねられたが、おぼろげにしか覚えておらず、そもそも夢魔に夢診断してもらうつもりなどなかった彼は答えずに喫茶店を後にした。勿論スイーツは食べていった。
夢見心地が良くなる魔道具なんてものがあれば買うのだがと思いながら、バージルは腰を上げる。
こんな時は朝風呂に限る。少しでも気分を良くするべく、彼は寝室から出ていった。
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いつもより長めに入り、心も身体もサッパリした彼は、いつもの青いコートと銀色のアミュレット、聖雷刀を身に着けて家を出た。
背負う筈の魔氷剣は無い。鍛冶屋に修繕を依頼していたからだ。そして今日、受け取りに行く予定であった。
知り合い──主に問題児と出くわさないようバージルは人通りを避け、かつ最短の道を歩く。道中誰かとバッタリ遭遇することはなく、彼は無事鍛冶屋に辿り着いた。
「……おっ、来たか」
「進捗は?」
「昨日の晩にゃあとっくに終わってたぜぃ」
パイプをふかし一服していたゲイリーは、顎を使って机上を指す。そこにはバージルが預けていた魔氷剣が。
彼は剣を手に取ると鍛冶場の外に出て、刀身をチェックする。そして軽く剣を振り、修繕に問題ないことを確認した。
「しっかし、その剣もカタナも限りなく頑丈にしていて、おめぇさんも下手な剣の振り方をするわけでもねぇのに、よくもまぁそんなに傷付けられるもんだなぁ」
剣の調子を確かめていたバージルに、ゲイリーは呆れ半分で話す。
実のところ、魔氷剣の前に聖雷刀の修繕を彼は頼んでいた。悪魔の力を得たシルビアとの戦いで、刀身が欠けていたからだ。
モンスターを相手にするだけなら問題ない。しかし悪魔となると、今の強度では心もとない状態。聖雷刀にかけられていた女神アクアの加護も、当初よりは薄まっている。
アクアもそれに気付き加護を付け足そうとしてきたのだが、その度に彼は拳骨で防いでいた。
「なぁじーさん! 私の使ってるハンマーどこにいったか知らないかー!?」
とその時、鍛冶場内から女性の声が。バージルと、そしてゲイリーは面倒臭そうに息を吐いて振り返る。
「聞いてんのかじーさん! そんなに耳が遠くなったか……って、誰かと思えばゆんゆんの先生じゃないか」
鍛冶場から姿を現したのは、服や頬に黒ずみがついた、そばかすの似合う黒髪赤目の少女、にるにるであった。
紅魔の里での騒動後、彼女はアクセルの街に越してきた。ゆんゆんの武器サポートに本腰を入れたほうが、自身のスキルアップや武器開発に役立ちそうだからとのこと。
それを聞いたゆんゆんは、バージルの剣を作ったゲイリーの鍛冶場を薦めた。結果、ゲイリーの腕は彼女のお眼鏡にかない、こうして新たな開発拠点としていた。
「ハンマーならそこの机に放りっぱなしだったろうが! おめぇこそ、そのトシでもうボケが来ちまったか!?」
「そうだ! 今カタナ持ってるか!? 持ってるよな! ちょっと見せてくれよ! 武器開発の参考にしたいんだ!」
怒鳴るゲイリーを完全に無視して、にるにるはバージルへと詰め寄る。
彼女の圧に押されたバージルは少し思案したが、その手にあった刀を鞘ごと彼女に手渡した。
「満足したなら返せ」
「やっぱりアンタはノリがいいね! 助かるよ!」
にるにるは刀を両手でしっかりと受け取り、うきうきと鍛冶場の方へ戻っていく。
騒がしい奴だと感想を抱くバージル。そこで蚊帳の外であったゲイリーに顔を向けると、彼は物珍しそうにバージルを見つめていた。
「こりゃあおでれぇた。おめぇさんの性格ならバッサリ断ると思っとったんだが」
「この手の輩は諦めが悪い。妥協して折れた方が、穏便に事を進められる」
「……苦労してんだな」
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「『エクスプロージョン』!」
と、元気ハツラツな眼帯少女の詠唱が空耳で聞こえてきそうな爆音が、街の外でこだまする。
これが他所の街であったなら、魔王軍の襲撃と勘違いを起こして警報が鳴り響くのは必至。しかしこの街では『一日一爆裂』を欠かさない『頭のイカれた爆裂魔』がその名を轟かせている。
迷惑がられていた爆裂魔法は、いつしかこの街の名物となり、住民にとっては派手めな朝の知らせにもなっていた。
「いいねぇ。嬢ちゃんの魔法が今日も骨身にしみるぜぃ」
「飽きん奴だ」
古参鍛冶屋のゲイリーは勿論、新参者であるバージルも慣れた側であった。
無粋な魔法の音を朝から聞かされて、神経質であったバージルは当初不快に思っていたが、慣れというのは恐ろしいもの。
気付いた頃には、朝の紅茶を飲みながら爆裂魔法の音を聞くのが日課となっていた。
正確に言えば、一々腹を立てることすら面倒になり、気付けば何も思わなくなっただけで、爆裂魔法が無粋なことに変わりはないのだが。
「随分と賑やかになったもんだ」
鍛冶場外にある木材置き場。木を切り落としただけの簡素な椅子に座っていたゲイリーは、爆裂魔法の余韻に浸った後に語り始めた。
「ふらっとおめぇさんが現れて、おめぇさんの紹介で色んなヤツが来て……しまいにゃ変わり者の紅魔族が住み着きやがった」
味わうようにバイプを吸い、口から白い煙をほうと吐き出す。
「ひとりで自由気ままに暮らしていたっつうのに、鬱陶しいったらありゃしねぇ」
「俺が紹介したのはミツルギとタナリスだけだ。後の奴等は知らん」
「おめぇさんがワシに依頼をしたのが発端だ。あれがなきゃあ、今頃独りでのんびりと寛いでいただろうよ」
迷惑そうに愚痴を溢すゲイリー。その言葉とは裏腹に、彼の表情はどことなく愉しげであった。
「おーい! 剣士のダンナ!」
と、鍛冶場の方からにるにるの声が。振り返ると、彼女は刀を持ってバージルのもとへ歩み寄ってきた。
「サンキュー! いい勉強になったよ! おかげでまた色々アイディアが浮かんできた!」
「そうか」
短く言葉を返し、バージルは刀を受け取る。念の為刀身等をチェックするが、特に弄られている痕跡はなかった。
「そりゃあそうさ。そのカタナは、ワシが今まで作った中でも最高傑作といってもいい出来。この街は勿論、王都の連中にも負けねぇ世界一の武器だ」
「ってことは、私が作り上げる武器はもれなく世界一になるわけだな」
「ハッ! おめぇみたいなひよっ子がそう簡単にワシを超えられるわけねぇよ!」
「私は最高の武器職人になる予定の者! じーさんの作る古クセェ武器なんかあっという間に超えてやるさ!」
「おめぇ、ワシの作る武器を古臭いって言ったか!? さっきカタナを見て勉強になったつっただろうが!」
バージルがいることも忘れ、口喧嘩を始めるゲイリーとにるにる。どうにもしばらく止まる様子はない。
鍛冶場での用は済んだ。バージルは踵を返すと、二人には何も言わずその場を去った。
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チラホラと街の住人が顔を出し始めたのを横目に、バージルは行きと同様に最短ルートで帰路へ着く。
久々にクエストへ行くのもいいかと思いながら家に足を運んでいると、ふと視線の先にある物を見て足を止めた。
入り口の前に立つ、黒い正装に身を包んだ老人が一人。扉の前に立ち、姿勢を崩すことなく待機している。
不法侵入する素振りは見られない。依頼人とみたバージルは、自ら男のもとへ。
足音に気付いた男は、振り返ってバージルと顔を見合わせる。男は、少なくともバージルはこの街で見かけたことがない顔であった。
「運が良いな。今開けるところだ」
「貴方が蒼白のソードマスター、バージル様ですか?」
「そういう貴様は依頼人だろう? 話なら中で聞く」
「いえ、手短に済む話ですので」
老人は扉の前から退けようとせず、バージルと対面したまま話を進める。バージルが口をつむいだのを確認すると、彼は懐から一枚の紙を取り出した。
「こちらをバージル様にと、仰せつかっております」
赤い封蝋で留められた手紙。バージルは黙って老人からそれを受け取る。裏面を確認するが、差出人の名は書かれていない。
「中身を見ていただければ、わかっていただけるかと。明日、またここへお伺い致しますので、御返事はその時に。では私はこれにて」
老人は頭を下げて、バージルのもとから去る。遠ざかっていく後ろ姿を見届けたバージルは、ドアノブにかけてある『閉店中』と書かれた札を返さずに家の中へ。
いつのも椅子に座り、封筒を開ける。中には一枚の手紙。封筒を机上に放り捨てて広げた紙を片手で持ち、もう一方の手で頬杖をつきつつ手紙に目を通した。
『熟達した剣技で、偉大なる冒険者と共に数多の魔王軍幹部を倒し、この国に多大なる貢献を行った蒼白のソードマスター、バージル殿。貴殿の華々しいご活躍を耳にし、是非その腕をひと目見たく。つきましてはダスティネス邸にて、お食事などをご一緒出来ればと思います』
紙一枚で事足りる文量。その締めには、差出人の名前が記されていた。
『ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス』──ベルゼルグ王国、第一王女の名が。
「……すっかり忘れていたな」
以前、バージルは王都から誘いを受けた事があった。アクセルの街から拠点を移し、王都でその剣を振ってくれないかと。
しかし彼はその誘いを断り、更には「飼い慣らしたければ力づくでやってみろ」と、挑発にも取れる返答をした。
あれから時が経ち、バージル自身もその一件を忘れていたが、おそらくこの手紙が王都からの返事であろう。
断るつもりはない。しかしバージルには一つ疑問が。
「(何故、わざわざダスティネス邸に?)」
力を示すだけであれば、バージルを王都へ呼びつければ済む話。なのにどうして王女自ら足を運び、ダスティネス家──ダスティネス・フォード・ララティーナもといダクネスの所に来るのか。
高慢な態度では断られる可能性を考えて、なのかもしれない。もしくはダスティネス家に用があり、バージルの件はあくまで『ついで』か。
単純に考えればダスティネス家と貴族間での話をしに、となるだろう。しかしバージルは手紙に記された『偉大なる冒険者と共に』という文が、どうにも引っかかっていた。
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翌日、約束通り現れた老人に承諾の返事を伝えたバージル。数日後に第一王女が付き人を連れてやってくるとの手紙も届き、彼は王族に関連する書籍に目を通しながら時間を過ごしていた。
そして、約束の日。彼は普段の青コートと聖雷刀を一本携えてダスティネス邸へ。
「やはり本命は貴様か」
「ついに俺達がいることに対してツッコまなくなりましたね」
そこでは、既にカズマとその仲間達が正装に身を包んで待機していた。
予想通り、カズマにも第一王女からのお誘いが届いていた。バージルとは違い、彼の様々な冒険話を聞きたいとのこと。
「ぐぬぁああああ……! バージルだけは巻き込まないようにとアクア達へ箝口令を敷いていたのに、まさか直接手紙が届いていたとは……!」
「ほら、私の言った通りではないですか。バージルにも招待状が届いていそうですし、いっそのこと誘ってみてはと」
切羽詰まった表情で頭を抱えるダクネス。普段はカズマが仲間の行動に悩んでいるのだが、今回はダクネスがその役割のようである。
「つーか、なんでバージルさんが来ることを頑なに拒んでたんだよ。話のネタにはもってこいなのに」
「ならカズマ! この男が、国の王女様に頭を下げて敬う姿が想像できるか!?」
「いや全く」
「むしろ見下しそうですね」
「敬語なんて使った日にはキャラ崩壊って言われそうだわ」
「ということだバージル! 態度はどうにかしてフォローするが、言動まではどうにもならん! だから今回お前は何も喋るな!」
「俺の目的は別だ。それが済み次第帰らせてもらう」
ダクネスは指を差し、念を押してバージルに忠告する。対するバージルはというと、端から取り繕う気など見せずに言葉を返した。
王女の前で勝手に席を立つのも礼儀に反するとダクネスは思ったが、早く帰ってもらった方が肩の荷も降りる。仕事があるとの理由をつければどうにかなりそうだという結論に至り、彼女は言葉を呑んだ。
「それよりも、カズマのオマケ扱いであることが癪に障る」
「まったくよ。数多の魔王軍幹部を倒したとか言われちゃってるけど、アルカンレティアにいた幹部を倒したのは私だからね?」
「私だって、紅魔の里を襲った幹部に爆裂魔法でトドメを刺してやりましたよ」
「ちょっと待てよ。お前のがまかり通るんだったら、俺だって魔王軍幹部だった頃のバニルにトドメを刺したぞ」
凄腕冒険者の仲間達扱いされていることに不服な三人に対し、カズマも内容は置いといて実績はあると返す。とそこで、同時にはたと気づく。
彼等は、唯一話題に出なかったダクネスを見た。
「お、おい! なんだその言いたげな目は! 私だって活躍はしているんだぞ!? デストロイヤー迎撃戦では戦線に立ち、悪魔からウィズを守ったんだ!」
「私は二度の爆裂魔法をもってデストロイヤーを木っ端微塵にしました。因みにアクアは結界の破壊と悪魔の討伐。バージルも同様。カズマは作戦の指揮を執っていました」
「ば、バニルが作っていた爆発する防衛人形は、私が先頭に出て倒していったぞ!」
「あれは助かったけど、お前その後バニルに身体乗っ取られたよな?」
「あ……アルカンレティアでは、ハンスの毒に苦しめられていたアクアを助けて、紅魔の里では……森で迷子になってたアクアを……」
「貴様は女神の子守か?」
「四人の中で誰が一番お荷物かって話題がちょくちょく出るけど、やっぱり──」
「やめろぉ! それ以上言うなぁ!」
活躍自体はあるが、この場にいる中では一番目立った場面がない。その現実を聞こうとせず、ダクネスは涙目で耳をふさぎ、仲間に背を向けてしゃがみ込んだ。
「大丈夫よ! ダクネスはいっぱい頑張ってるわ! 私をスライムの毒から身を挺して助けてくれたじゃない! 毒を浴びたダクネスは私が回復してあげたし、あれくらいの毒なら自力でどうにかなったけど、その助けたいという気持ちだけは誰にも負けてないと思うの!」
仲間思いのアクアはすかさず彼女に駆け寄り言葉をかける。フォローになっているのかなっていないのか微妙なところであったが、少しは効果があったようで、ダクネスは立ち上がる。
「とにかく! アイリス様には決して無礼を働かないように! わかったな!?」
「散々人のこと注意してるけど、お前こそ急に剣を抜いて王女様に勝負を挑んだり、我慢できなくなって俺やバージルさんに変態プレイを求めたりすんなよ」
「お前は私を何だと思っているんだ! 私だって時と場所は選ぶと言っただろう!」
「そういえば、バージルは着替えないんですね」
「言っただろう。奴等へ力を示しに来たと。カズマのような服装では動きが鈍る」
「まぁでも、お兄ちゃんがおめかししちゃったら、頑張って着こなしたカズマさんの立場がなくなっちゃうものね」
「おい聞こえてんぞダサ女神。お前だって猿に衣装着せた程度の華やかさしかないからな」
「芋ジャージで外を歩くような、ファッションセンスの欠片もないヒキニート風情が言ってくれるじゃない。女神のきらびやかな衣装を馬鹿にしたこと、今すぐ懺悔させてあげるわ!」
「あぁああああもうっ! こんな時に喧嘩を始めようとするな! アイリス様をこれ以上待たせるつもりか!?」
互いに噛みつきそうなカズマとアクアを、ダクネスは引き離す。
この調子ではあっという間にボロが出そうだなと、バージルは静観しながら彼等と共に廊下を進んだ。
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道中、めぐみんが隠し持っていた様々なアイテムをダクネスが没収しながらも、邸内を歩く。
一つの扉の前に辿り着くと、ダクネスは再度カズマ達に釘を刺してから扉を開けた。
広く、高級感のある晩餐会用の広間。赤い絨毯が敷かれ、広間の両側には料理を運ぶため待機している使用人が数名。
中心には白いクロスで飾られた長いテーブル。庶民にはお目にかかかることすら叶わない、豪華な馳走が机上に並べられている。
そして広間の奥、上座の席に座っているのは小さな金髪碧眼の少女。彼女から見て右側には、白いスーツを纏い腰元に剣を据えている、金髪に青紫のメッシュが入った騎士らしき女性。左側には杖を持った魔法職と思われる金髪の女性。どちらも碧眼のため貴族であろう。
「(おおっ! 期待を裏切らない正統派のお姫様だ!)」
アイリスの姿をひと目見たカズマは、珍しく期待が外れなかったことに内心喜ぶ。
聞くところによると、彼女の年齢は十二。カズマにとっては妹にあたりそうな年頃。
仲良くなったあかつきには、お兄ちゃんとかお兄様とか言ってもらえるのでは。今日この日まで、彼はそんな妄想を膨らませていた。
「お待たせしました、アイリス様」
ダクネスが数歩前に出て、アイリスへと頭を下げる。そしてカズマ等を手で指して紹介した。
「こちらが、我が友人であり冒険仲間でもありますサトウカズマとその一行です」
「俺を勝手に貴様らのパーティーに加えるな。心外だ」
「ン゛ン゛ッ!」
黙っていろと指示されていた筈のバージルが一番に口を開いた。ダクネスは紛らわすように大きく咳き込む。
だがそこで、次鋒とばかりに自称妹のアクアが前に出た。
「お初にお目にかかります、王女様。アークプリーストを務めているアクアと申します。早速ですが挨拶代わりの一芸披露を──」
「アイリス様! ちょっと失礼致します! 仲間に話がありますので! アクア! バージル! ついでにめぐみんも来い!」
「ちょっと待ってください! 私はまだ何もやっていないではありませんか!」
危うくアクアが何かをしでかそうとしたところをダクネスが止め、三人を連れて後方に移動する。
後ろでダクネスが三人に小声で注意しているのを耳にしながら、残されたカズマはアイリスを見つめる。と、アイリスは彼の視線に気付いて目を合わせる。
しばし見つめ合っていた二人だったが、やがてアイリスが顔を逸らすと、隣の騎士に耳打ちをする。騎士は耳を離すと、カズマと向き合って彼に告げた。
「下賤の者、王族をあまりそのような目で不躾に見るものではありません。本来ならば身分の違いから同じテーブルで食事をすることも、直接姿を見ることも叶わないのです。頭を低く下げ、目線を合わせずに。では早速挨拶と冒険譚を……と仰せだ」
貴族らしい、庶民を見下した発言。とても可愛らしく大人しめな印象を受けるあの少女が言ったとは思えないが、少女に騎士の言葉を否定する様子は見られない。
抱いていた期待から大きく外れた発言を受けたカズマは、アイリスから目を逸らさず言葉を返した。
「チェンジで」
「申し訳ございませんアイリス様! 今すぐこの無礼者を叩き出しますので!」
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開始早々ボロが出てしまったカズマ達であったが、ダクネスが慌てふためく珍しい姿を見れたからとの理由で、アイリスから許しを得た。
貴族なんてのは皆こういうもんかと、口に出していれば首が飛びそうなことを思いながら、カズマは言われるがままに王女の近くの席へ座る。
カズマの対面にはダクネスが、そこから並んでアクア、めぐみんが座り、バージルはカズマから一席空けて腰を下ろした。
カズマは仰せのままに、アイリスへこれまでの冒険譚を、飽きさせないようにと多少盛りつつ語った。
街での平和な暮らしや、これまでに出会った様々なモンスター、悪魔、魔王軍幹部。そして街が脅威に晒される度に立ち上がった、勇気ある冒険者とその仲間達。
「──とまぁ、シルビアの勧誘に敢えて乗ることで油断を誘ったのですよ。思惑通り、奴は俺への警戒心を少し解いてくれました。しかしそれが命取り。俺は一瞬の隙を突いて奴を閉じ込めました。それでも奴は力技で封印を解いてきましたが、俺は里に隠された兵器を探し出し、最後は仲間との連携をもってシルビア討伐を成し得たのです」
「素晴らしいわ! 貴方のように聞いているだけでハラハラする冒険譚は初めて! 鍛え上げた力をもってモンスターを一方的に退治する他の冒険者と違って、貴方は知略をめぐらして強大なモンスターと立ち向かうのですね! ……と仰せだ」
「彼等は身の丈にあった戦いしか好まないのですよ。俺は常に格上の敵と戦い、日々上を目指しているのです」
「貴方は冒険者としても人間としても誠実な方なのですね。冒険者になる前は一体どのような仕事をなさっていたのですか? ……と仰せだ」
「そうですね……あまり多くを語ることはできませんが、三ヶ月でいいからと契約を迫る相手や、財産を狙う下劣な輩を撃退したり……家族の帰る場所を守る仕事、とでも言いましょうか」
目を輝かせて話に聞き入るアイリス。カズマも興が乗ったようで、ワインを片手に生前の
話の途中で、アクア達三人だけでなくバージルも仲間に纏めている部分があり、彼がまた声を上げないかと思われたが──。
「次だ。デザートの追加を頼む」
「一体何個食べるつもりですかバージル! 私の分は残してくださいよ!?」
「まさかお兄ちゃんが甘党だったとはねー」
デザートを食すのに忙しく、カズマの話は聞いていなかったようだ。めぐみんとアクアも、滅多にありつけない豪勢な食事を楽しむことに意識を向けている。
唯一話を聞いていた対面のダクネスは、胃がキリキリと痛んでいそうな苦悶の表情でカズマを見守っている。食事の手も進んでいないようで、皿に盛られた料理は未だ綺麗な姿を保っていた。
さて次はどんな話がお望みだろうか。ワインに口をつけつつ言葉を待っていると、アイリスは隣の騎士へ耳打ちし、彼女に代わって騎士が口を開いた。
「あの魔剣の勇者ミツルギ殿に勝ったという話を聞いたのですが、本当ですか? ……と仰せだ」
「ミツルギ? あぁ魔剣の人か。確かに俺はアイツに勝ったことがあります。でもどこで聞いたんですか? まだその話はしてないんですけど」
「今、ミツルギ殿は王都にて剣をふるっておりまして。彼にも冒険譚をお聞きした際に、勝てなかった相手がいると。その相手が貴方と、そこにいるバージル殿なのです……と仰せだ」
話を聞き、カズマはチラリと横を見る。名前を呼ばれて反応したのか、イチゴを一口食べたところでバージルはアイリス達へ目を向けていた。
アイリスが疑っている目でカズマを見つめる中、隣の騎士が続けて話す。
「ミツルギ殿は、勇者の名に恥じない実力を持っている。私も一戦交えたが、勝つことは叶わなかった。正直、お二方があの魔剣の勇者に勝った事実がにわかに信じられない……無礼だとは思いますが、冒険者カードを拝見させてはもらえないでしょうか? お二方のスキル振りを後学のため参考にさせて頂ければ……」
「えっ!? そ、それはちょっと……」
思わぬ方向に話が転がってしまい、カズマは焦りを見せる。
彼が得ているスキルには、リッチーであるウィズから教わった『ドレインタッチ』がある。それを見られてしまうと、どうやってそのスキルを得たのか詳細を聞いてくるのは間違いない。
最悪、ウィズが魔王軍幹部であることがバレてしまい、自身も魔王軍の手先だと疑われる可能性もある。どうにかしてやり過ごす手段を考えていると、静観していたバージルがフォークを置き、おもむろに立ち上がった。
「実際に見せた方が手っ取り早いだろう。そうすれば俺の用事も片付く」
そう口に出し、アイリス達を睨むバージル。彼の意図を汲み取ったのか、アイリスは承諾するように頷くと、隣の騎士へ耳打ちする。
「いいでしょう。しかしここでは場所が悪い。ララティーナ、修練場を貸していただけますか? ……と仰せだ」
「えっ!? は、はい! すぐにご案内致します!」
声を掛けられたダクネスは慌てて立ち上がる。アイリス達も席を立ち、ダクネスについて行った。
冒険者カードを見せずに済み、カズマはホッと息を吐く。と、バージルがカズマの後ろへ歩み寄り、彼にだけ聞こえる声量で伝えた。
「今回は貸しだ。それと何度も言うが、勝手に貴様等の仲間に俺を加えるな」
ちゃんと話は聞いていたようだ。
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「そういえば、まだ名前を教えていなかったな。私はクレア。シンフォニア家の出身だ。レイン、アイリス様は任せたぞ」
ダスティネス邸にある修練場。アイリスの傍を片時も離れなかったクレアは、アイリスをもうひとりの護衛である魔法使い、レインに任せて自分は部屋の中央へ。
対面には蒼白のソードマスター、バージル。壁際には椅子に腰を下ろしたアイリスと傍に立つレイン、そして他の冒険者達。
クレアは目線を下に落とすと、彼が左手に携えている武器について尋ねた。
「バージル殿が持っている武器は……もしやカタナか?」
「知っているのか?」
「王都を拠点とした、主に黒髪の冒険者が使用しているのを見かけたことがある。私も城の武器庫にあった物を試してみたが、扱いが難しくて断念したよ」
彼の仲間であるサトウカズマのように、少し変わった名前を持つ冒険者のほとんどが、カタナと呼ばれる武器を知っていた。
戦闘員でない者もカタナを渡すと、扱い方を知っている風に構えを取れる。何故知っているのだと尋ねると「マンガやアニメで見た」「ドラマや時代劇で知った」と不思議な言葉を口々に言っていたため、クレアには理解できなかった。
「バージル殿がどのようにカタナを振るうのか、参考にさせていただこう」
「前置きはいい。さっさと始めるぞ」
友好的に接していったが、相手はつっけんどんな態度を取る。これにはカチンときたクレアであったが、怒りをぐっと堪える。壁際ではダスティネスがバージルを嗜める動きを見せているものの、気付いていないようだ。
性格と言動に難ありだが、サトウカズマの話を聞く限り実力は確か。異形の姿となるスキルを所持していることも、クレアは耳にしている。
しかしそれでも、あのミツルギキョウヤを上回っていることが信じられない。確かめる方法はただ一つ。
クレアは腰元のレイピアを抜き、切っ先を相手に向ける。対するバージルはおもむろに柄を右手で握り、いつでもカタナを抜ける構えを取る。
向こうから動く気配は見られない。こちらから動いて誘い出すべきかと、クレアは一歩相手へ歩み寄る。
──瞬間、氷のように冷たい戦慄が彼女の全身を走った。
「ッ!」
クレアは咄嗟に後ろへ飛び退き、バージルから距離を空ける。相手は未だカタナの柄を握ったまま。
「……クレア? どうしたのですか?」
勝負を見守っていたアイリスが、心配そうに声を掛けてくる。様子がおかしいクレアの身を案じてのことであろう。
事実、今のクレアは平静を保っていない。瞬く間に吹き出した汗を流し、心臓も警報のように大音量を鳴らしていた。
剣の間合いは、剣身だけで計れるものではない。
相手の踏み込み、剣を振る速さ、正確さ……様々な判断材料を見た上で感じ取る。熟練した者であれば、相手の間合いを計るまで時間はかからない。
バージルが持つカタナの長さは目測で把握できるが、他の要因は未だ未知。しかしクレアは、戦場での経験も活きてか彼の間合いを感じ取った。感じ取らされた、と言うべきか。
ここが戦場だとして、もう一歩踏み込んでいたら──とっくに命を落としていた。
「間合いを把握するだけの能はあったか」
感心か小馬鹿にしてるのか、バージルは独りごちる。しかしクレアには彼の言葉に反応していられる余裕もなかった。
彼の剣が届く範囲からは大きく離れているが、彼女の中で響く警鐘は未だ鳴り止まない。
息を整え、再度レイピアを構える。こちらから仕掛けるのは愚策と考え、相手の挙動に全神経を集中させる。
クレアが仕掛けてこないのを感じ取ったのか、バージルは静かに腰を据える。
バージルは一瞬で間合いを詰め、抜く手も見せずに刃を振った。
「ッ!」
神経を研ぎ澄ましていたクレアは寸でのところで避け、バージルと交差するように跳び退ける。
床を転がりつつバージルの後方へ回った彼女は、すかさず起き上がるとレイピアを構え、バージルへと振りかざす。
が、バージルは咄嗟に刀を後ろへ振り、クレアの攻撃を弾いた。
「まだだ!」
一回弾かれただけで攻撃の手は緩まず。クレアは弾かれた勢いを流しつつ素早い攻撃を続ける。
高レベルの冒険者でも捌くことは難しい猛攻。しかしバージルはこれをいとも簡単に避け、いなしていた。
「無様だな。闇雲に向かってくるだけか」
「何だと!?」
挑発をするほどの余裕を見せるバージルに対し、クレアは更に速度を上げてレイピアを振り続ける。
一瞬でも手を緩めれば反撃がくる。そう考えての猛攻であったが、相手には届かず。
クレア自身も気付かないほんの僅かな隙を突き、バージルは攻撃を強く弾いた。一度目と違い、クレアは大きく体勢を崩す。
バージルは咄嗟にカタナを逆手に持ち帰ると一歩踏み出し、柄頭をクレアの鳩尾へと押し込んだ。
「ぐっ……!?」
息が止まるほどの鈍痛を受け、クレアは後方へと吹き飛ばされる。あまりにも勢いが強かったため、彼女はそのまま壁へと背中を打ち付けられた。
力なく床へと突っ伏すクレア。気を失いかけたが、どうにか保った彼女は床に手をつけ、急いで顔を上げる。
だが──その時にはもう、首筋に冷たい感触を覚えていた。
「まだ立つつもりか?」
目の前には、冷酷な目で見下ろすバージルがいた。動いたら斬ると、カタナを彼女の首筋へと当てて。
どちらが勝ったかは、一目瞭然であった。
「……クッ」
悔しさに耐えるように唇を噛み、クレアは武器から手を離す。カランと床に落ちる金属音が虚しく響く。
彼女が負けを認めた意思を確認したバージルは、カタナを離して鞘に納める。クレアは未だ、床に膝を付けたまま。
「飼い慣らすには、鎖が脆すぎたな」
項垂れるクレアへと放つように告げると、バージルはそのまま修練場の出口へと向かう。
「ちょっと、どこに行かれるんですか!?」
「用は済んだ。先に帰らせてもらう」
レインの呼び止めにも応えようとせず、バージルは王女達の前から姿を消した。
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「本日はご足労いただきありがとうございました。そして仲間の度重なる非礼、申し訳ございません! 特にあの、貴族を前にしても相手を愚弄し、あまつさえ刃を向け、更には勝手に帰ってしまう男には、私からキツく言っておきますので……!」
「い、いえ。もともと手合わせを頼んだのは私です。ダスティネス卿がお気になさることはありません」
バージルが去った後、そのままお開きとなった今回の会食。ダクネスとクレアが話す傍ら、アイリスは横に立つレインへ耳打ちする。
「剣の腕は、噂に違わぬ見事なものでした。貴族に対し傲慢の極みを貫く姿勢には感心しませんが……と仰せです」
「本当に! 本当に申し訳ありません!」
顔には出さずとも、王女様はご立腹だったようだ。レイン経由のお怒りの言葉を聞き、ダクネスは必死に頭を下げ続ける。
普段は欲望のままに絡んでバージルに意図せずストレスを与えていたダクネスであったが、どうやら今回は立場が逆転したようだ。最後まで傲慢スタイルを徹底していた彼を独り恨む。
「私は、アイリス様お付きの騎士として恥じないよう、日々鍛錬を続けていました。しかし……あれほど実力差を見せつけられたのは、ミツルギ殿と剣を交えた時以来です」
初めて会った時と比べ、明らかに覇気のないクレア。バージルに完敗したのが余程堪えたようだ。
「是非とも王都でその力を振るっていただきたい。バージル殿も、手合わせをして力を示せば検討するとの意思を手紙で返してくださったので、今回勧誘できたらと考えていましたが……」
「そうだったんですか。まぁでも、引き入れなくて正解だったと思いますよ。あの人、誰かの下に付くのは死んでも嫌だってタイプの人間ですから」
「あの男は狂犬です。我が爆裂魔法ですら砕けぬ頑丈な鎖に繋げるか檻に閉じ込めでもしなければ、飼い慣らすのは不可能でしょう」
「しかし、貴方がたはバージル殿を仲間だとおっしゃっていた。一体どうやって勧誘したのですか?」
「あー……実はちょっと語弊がありまして。俺達は仲間だと思ってるんですけど、バージルさんにとってはあくまで協力関係なんです。どんな契約を交わしたかは機密事項なんで言えませんけど」
全てはそこの、本性を隠して貴族を全うしている女のせいだと言ったら、王女様はどんな顔を見せるのだろうか。気になりはしたがバージルとダクネスの尊厳を守るべく、全ては明かさずにカズマは語る。クレアもそれ以上詮索することはしなかった。
「カズマ殿も、この度はアイリス様に数多くの素敵な御話を語ってくださり、感謝致します。あそこまで目を輝かせて熱心に耳を傾けているアイリス様の姿は、初めてお目にかかりました」
「いえいえ、気に入ってもらえたのなら光栄ですよ」
「事故とはいえ、最後にレインの下着を剥ぎ取ったのはあれですが……」
「その件に関しては本当に申し訳ございません」
カズマは姿勢を正し、ダクネスよりも綺麗なお辞儀で謝罪する。
バージルとクレアの手合わせが終わった後、カズマの実力も見せてほしいとアイリスからお願いされた。意気消沈しているクレアに代わり、レインがカズマの相手をすることに。
ミツルギにどのように勝ったのか、という証明だったので、カズマはすかさず『スティール』を披露。相手が女性である以上、結末は見通す悪魔でなくとも予想がつくものであった。
「では、我々はこれで城に帰るとします。皆様方、大変ご迷惑をおかけしました」
「こちらこそ、あまりお構いもできませんでしたが……アイリス様、また城に参じた時にでもお話しましょう」
別れの言葉を交わすクレアとダクネス。その横で、アイリスはじっとカズマを見つめている。
カズマとしてはもっと仲良くなりたいところであったが、本来ならお目にかかることすら叶わない身分。後ろ髪を引かれる思いで別れを受け入れ、アイリスに声を掛けた。
「王女様、またいつの日か俺の冒険話をお聞かせに参りますので」
レインが杖を床へ軽く突き、アイリス達の足元に魔法陣が浮かぶ。詠唱を唱える内に光は増していき──。
「なら、もっと私に冒険話を聞かせて」
「へっ?」
瞬間、アイリスは自らカズマを引っ張り魔法陣の中へ。突然のことに困惑するカズマであったが、その時にはもう光は最高潮まで達していた。
「『テレポート』!」
「ちょ、ちょっと待っ──!」
「カズマ!?」
仲間三人を残し、カズマはアイリス達と共に姿を消した。
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王女様来訪から数日後。バージルは今日ものんびりと詩集に読み耽っていた。
カズマが王女に攫われたらしく、めぐみんとダクネスは慌てていたが、そのうちホームシックになってひょっこり帰ってくるとアクアは楽観的な考えを示していた。
めぐみんからその件で相談を持ち帰られたが、バージルもアクアと同意見を出した。結果、めぐみん達は大人しく屋敷でカズマの帰りを待っている。
「(一度、王都に足を運ぶのも悪くはないが……奴等が絡むと観光もままならん)」
アルカンレティア、紅魔の里での経験をもとに王都行きを見送ったバージル。王都絡みの依頼が無ければいいがと思いながら、ページを捲る。
とその時、店の扉が開かれる。だがバージルは来客に顔を合わせずとも、誰が来たのかを理解していた。
「久しぶりだな。独りで神器回収に勤しんでいたか」
「というよりは、その為の情報収集に専念してたところですね」
女神エリス、もとい盗賊クリス。入店してきた彼女は、そのまま歩を進めてバージルの前に立つ。
バージルが紅魔の里から帰ってきてから三日後辺り、彼女は単独でアクセルの街を出ていった。バージルを誘わなかったのは、彼女一人でも行えるものだったのだろう。
「つまり、貴様が今目的としている神器はまだ回収できていないと?」
「はい。で、察しのいいバージルさんならもうお分かりかもしれませんが……」
「……場所はどこだ?」
明確に言葉を交わさずとも察したバージルは、目的地を尋ねる。クリスは目を合わせ、おもむろに口を開いた。
「王都にある、貴族の屋敷です」
王都行きの便は、否が応でもバージルを乗せたいようだ。
クレアさんとレインさんも、今後このファンで使えるようになれたらいいなって。