この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第34話「Dance of the sword ~剣の舞・前~」

「こんの紅魔族っ子……やってくれるじゃない。だったら望み通り、好きなだけ踊らせてあげる!」

 

 ゆんゆんの挑発とも取れる言葉を受け、目元をヒクつかせたクレメアは、声を荒らげながら再びゆんゆんへ突撃する。

 先程よりも勢いの乗った槍の一突き。しかし、ゆんゆんは短剣を穂先に当ててくると、攻撃を後ろへ流す――と同時に、クレメアへ接近した。

 

「っ! しまっ――!」

「させないっ!」

 

 クレメアの首元を狙うゆんゆん。それを阻止するべく、フィオはダガーで攻撃を仕掛ける。

 が、それも予期していたのか、ゆんゆんは咄嗟に飛び上がってそれを回避。空中で体勢を整えながら、彼女の背に目を向ける。

 

「『パラライズ』!」

「あぐっ……!?」

 

 そして、空いている右手で彼女の背中に触れつつ、対象を一定時間麻痺させる魔法を放った。フィオが麻痺したのを見て、ゆんゆんは一旦後方へ跳んで距離を空ける。

 クレメアは、動けなくなったフィオを守るように彼女の前へ移動すると、槍を構えてゆんゆんと対峙する。

 

「フィオ! 大丈夫!?」

「ごめん……モロに受けたから、しばらく動けそうにない……」

「ううん、謝るのは私の方よ。まんまとあの子の挑発に乗せられちゃったせい……フィオが動けるようになるまで、しばらく私が時間を稼ぐわ――『身体強化』!」

「うん……お願い!」

 

 フィオの安否を確認した後、クレメアはスキルにより数段上がった速度で、ゆんゆんに突っ込んだ。

 対するゆんゆんは、短剣を逆手持ちから普通の持ち方に直し、先程のように受け流すことはせず、クレメアの攻撃を防ぐ。

 間合いに入らせない、槍のリーチを生かした動きでクレメアは攻撃を仕掛けていくが、ゆんゆんは魔法も使わず、短剣1本で防ぎ、避け続けている。

 

「(こちとら『身体強化』使ってんのに……どんな動体視力と反応速度してんのよ!?)」

 

 アークウィザードとは思えない目と動きの良さ。クレメアは内心焦るが、退くわけにはいかない。彼女は手を緩めず、槍を振り続ける。

 瞬きすら許されない攻防が続く中――彼女等から離れた場所で、動けずにいたフィオに変化が。

 

「(……あれ? 身体が……動く?)」

 

 あんな至近距離から『パラライズ』を受けたというのに、もう麻痺が治った。まだまだ時間はかかるものと思っていたのだが、もしかしたらゆんゆんは、上手く魔力を込められていなかったのかもしれない。

 

「クレメア! もう動けるようになったわ!」

「ホント!? じゃあいつもの作戦で!」

「OK!『潜伏』!」

 

 ともかく、これはチャンスだ。フィオはクレメアと短く言葉を交わすと、スキルを使って気配を消した。

 すると、気配を悟られなくなったフィオを警戒してか、ゆんゆんはクレメアの横薙ぎをかわしつつ、後方へ跳ぶ。

 

「自分から誘っておいて、ダンスから逃げないでよね! もういっちょ『身体強化』!」

 

 クレメアは既に切れていた『身体強化』を再び使い、逃げるゆんゆんを追いかけるように駆け出す。

 

「『泥沼魔法(ボトムレス・スワンプ)』!」

 

 詰め寄るクレメアを見たゆんゆんは、前方の地面に巨大な泥沼を発生させる魔法を仕掛けてきた。これに嵌った者は足を取られ、身動きが取れなくなる。脱出自体は可能だが、容易ではない。

 が、そろそろ魔法で仕掛けてくると踏んでいたクレメアは、泥沼の境目ギリギリで飛び上がると、空中で槍を引き――。

 

「『雷光の槍(ライトニング・スピア)』!」

「くっ……!」

 

 強力なランサーのスキルを使い、ゆんゆん目掛けて突進攻撃を繰り出した。短剣では防げないと判断したのか、ゆんゆんは横へ回避する。

 しかし、まだまだダンスは終わらない。ゆんゆんが地面に足をつけた時――どこからともなく、捕縛用のロープが彼女に向かって飛んできた。『潜伏』していたフィオのものだ。

 

「っ!『ウインドカーテン』!」

 

 が、ギリギリ視界の端に捉えていたのか、ゆんゆんは素早く風のバリアを張り、ロープの手から逃れた。

 

「嘘っ!? 反射神経良すぎない!? 貴方ホントにアークウィザード!?」

 

 確実に捕まえたと思っていたフィオはこれに驚く。その傍ら、クレメアは狼狽えることなくゆんゆんへ向かった。するとゆんゆんは――。

 

「――はぁっ!」

「ッ!」

 

 どこからともなく出現させた浅葱色の剣(幻影剣)を、クレメアへ向けて投げ飛ばしてきた。

 クレメアは咄嗟にブレーキをかけ、飛んできた剣を槍で防ぐ。その瞬間、剣はガラスが割れるような音を立てて砕け散った。

 

「アークウィザードには、そんな魔法スキルもあるのね……」

 

 クレメアが羨ましそうに呟く傍ら、ゆんゆんは上空へ跳び上がると、再び魔法で剣を作り、地上へ向かって投げてきた。何度も、1本ずつ絶え間なく出現させて。

 しかし、その剣はクレメアに一切当たらない。どれも的外れな場所へ飛ばされ、地面に突き刺さっていく。

 何をしでかすかと思えば、突然攻撃を外し出したゆんゆんを見て、クレメアは少し困惑する。が、その理由をすぐに理解することとなった。

 ゆんゆんは、何本か剣を地面に突き刺した後、重力に従って地上に降り立つ――瞬間、姿を消した。

 

「なっ!? 消え――」

「クレメア! 後ろ!」

「っ!」

 

 これに驚くクレメアだったが、彼女の耳に届いたフィオの声に従い、咄嗟に後ろを振り返る。

 そして――背後から狙ってきたゆんゆんの攻撃を、すんでのところで防いだ。ゆんゆんは攻撃が防がれたのを見て、またも姿を消す。

 クレメアはまたも驚きながら、周りを見渡す。そして、さっきとは別の場所にいたゆんゆんの姿を捕えた。彼女の傍には、地面に突き刺さる浅葱色の剣が。

 

「魔法スキルの組み合わせってヤツ? 流石、魔法に長けた紅魔族ね……変なセンス持ってるけど」

「わ、私は持ってないですっ! あんな恥ずかしいことはしません!」

「(……ガッツリやってたような気がするけど……)」

 

 2人の会話を聞いて、開幕の挑発は恥ずかしいことではないのかとフィオが思う中、クレメアはゆんゆんに向かって走り出した。

 

 

*********************************

 

 

『んんっ!? おぉっ!? み、見え……あぁクソッ! やっぱスパッツ履いてやがった! しかしそれもまたイイ!』

「……僕の目を通して、何を見てんのさ……」

 

 ゆんゆん、クレメア、フィオが戦いを続けている中、少し離れた場に立って見守るミツルギの脳内に、変な所に着目して盛り上がるベルディアの声が響く。

 普通に会話ができるようになってから、変態性が増しているベルディアに呆れながらも、ミツルギはゆんゆんの動きを見て独り唸る。

 

「しかし凄いな……あの子、見た目からして多分まだ僕より年下……おまけに遠距離主体の魔法職なのに、接近戦でクレメアに劣らないなんて……それにあの剣と瞬間移動。アークウィザードにあんなスキルがあったのか……」

『んっ? あのスキルか? いや……あれはアークウィザードのスキルではない。恐らく、バージルがあの娘に伝授したのだろう』

「えっ? 伝授したって……でも師匠はソードマスターじゃ――」

『俺と戦った時、奴はあの剣と瞬間移動を使ってきた。奴しか持っていないスキルかもしれんな。それを、あの小娘がどうやって真似してるのかは知らんが』

「(師匠しか持っていない……師匠の固有スキル? いやでも……そうか……)」

 

 人間でありながら、固有スキルを持っている者は極稀だ。自分のような、転生特典を持って異世界転生してきた者を除けば、だ。

 しかしミツルギは、ベルディアから聞いていた。バージルはベルディアと戦った時「この世界の住人ではない」と話したことを――彼もまた、自分と同じ異世界転生者だということを。

 そして――彼の正体も。それを聞いて驚きはしたが、ミツルギにとっては尊敬すべき師匠であることに変わりはない。

 

 チラリと、ミツルギはバージルに視線を向ける。相変わらず無表情だが、以前自分と対峙した時とは違い、どこか暖かみを感じられる。

 ゆっくり話せる機会があったら、彼にベルディアから聞いたことを尋ねてみよう。そう思いながら、ミツルギは再び試合に目を向ける。

 と、丁度その時――ゆんゆんの優勢だった戦況が、変わり始めた。

 

 

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「(っ……魔力が……)」

 

 クレメアの攻撃を防いでいたゆんゆんは、独り顔を歪める。

 バージルから伝授された『幻影剣』と『エアトリック』――授業の過程で使い方を学んだのと、魔力補助系スキルを習得したことで以前より魔力消費は抑えられているが、ポンポン使い続けるとあっという間に減ってしまう。

 といっても、今すぐ魔力が切れるほどではない。ここからは、魔力の減りも意識して使うべきだと考えた時、クレメアが距離を取ると共に、攻撃を一旦途切らせた。

 

「なるほど、剣の刺さってる場所に瞬間移動してるのね……でもそれって、デメリットの方が大きくないかしら!?」

 

 クレメアは不敵な笑みを浮かべると、地面を踏み込み、再度こちらに向かってきた。ゆんゆんは攻撃を避けるべく『エアトリック』で姿を消す。

 そして、幻影剣が刺さっている場所へ瞬時に移動する――が、その時。

 

「引っかかったわね! 今度こそ『バインド』!」

 

 既に、ゆんゆんを中心として渦巻いていたロープが、フィオの声と共に浮かび上がり、彼女を捕縛するべく収束してきた。

 

「(ッ! こ、ここはもう一度『ウインドカーテン』で……いや!)」

 

 再び魔法で防ぐべきか迷ったが、魔力節約を優先し、すぐさま飛び上がって『バインド』から逃れた。

 宙にいるゆんゆんは地面へ目を向け、フィオの姿を捕える。彼女は、またも捕まえれなかったことに悔し顔を見せているかと思いきや――それすらも狙い通りだったとばかりに、笑みを浮かべていた。

 

「自分は今からそこに行きますって、相手に教えてるようなもんだからね!」

「っ――!?」

 

 その瞬間、すぐ近くからクレメアの声が聞こえてきた。ゆんゆんはすぐさまそちらへ目を向ける。そこには――自分と同じく宙に飛び上がり、槍を構えるクレメアがいた。

 彼女はゆんゆん目掛けて、穂先を突き出してきた。ゆんゆんは咄嗟に短剣を当て、危なげながら攻撃を防ぐ。

 

「くぅっ! おっしいなぁ……!」

 

 攻撃を防がれたクレメアは、悔しそうに呟きながら着地する。同じく地面に足をつけたゆんゆんは、辺りを見渡す。

 先程、自分は至る所に幻影剣を突き刺していた筈なのだが――それらが無くなっていた。あるのは、先程移動した場所に刺さっている1本だけ。

 

「……私とクレメアさんが戦ってる間、フィオさんが『潜伏』して、バレないように剣を壊していましたか」

「ご名答。自分が投げた剣の本数と場所までは流石に把握してないと踏んで、こっそり数を減らさせてもらったわ」

 

 ゆんゆんの言葉を聞き、フィオは得意げに笑う。

 『潜伏』を使っている者の動向を探ることは、スキル無効になるほどのレベル差がない限り、困難を極める。そして、クレメアの言う通り突き刺した幻影剣を全て把握できていなかったゆんゆんは、それが減らされていたことに気付けなかった。

 知らぬ内に、残る本数は1本だけ。とくれば、ゆんゆんが次に移動する場所を特定するのは非常に容易い。だからこそ、あらかじめ罠を設置することができたのだった。

 

「で、あとはこれを壊して――えいっ!」

 

 そう言って、フィオはダガーを軽く振る。幻影剣には少量の魔力しか込められていないので、残る1本も簡単に壊れた。

 

「もう、あの剣と瞬間移動のコンビネーションは見切ったわ。さて……アンタの魔力が尽きるのが先か、私達に捕えられるのが先か……」

 

 クレメアは仕切り直しとばかりに槍を構え直して、ゆんゆんを睨む。フィオはゆんゆんの様子を伺っているのか、まだ『潜伏』は使っていない。既に勝つ気でいる2人を見て、ゆんゆんは思う。

 接近戦を仕掛けるにおいて、あの盗賊は厄介だ。やはり――先に仕留めておかなくては。

 

「……フゥ」

 

 短剣を構えていたゆんゆんは息を吐き、棒立ちの姿勢に移す。今まで自ら突っ込んできたクレメアだったが、様子の変わったゆんゆんを見てか動き出すことはせず、ゆんゆんの動向を観察している。

 クレメアとフィオがジッと見つめてくる中、ゆんゆんは意識を集中させ――。

 

 その場から、姿を消した。

 

「「なっ!?」」

 

 これを見て、クレメアとフィオは同時に驚く。移動先となる剣は、全て壊した筈だ。そして、彼女が剣を出した素振りも見られなかった。

 では、一体どこに消えたのか。クレメアはゆんゆんの姿を探し、フィオは警戒して『潜伏』を使おうとした時――。

 

 フィオの首に、冷たい金属が当てられた。

 『潜伏』しようとしていたフィオの思考が止まる。その傍ら、クレメアが酷く驚いた表情を見せていた。

 

 いつの間にか、フィオの背後にゆんゆんが移動していたのだから。

 

「な……なんで……」

「わ、私の瞬間移動は……剣を移動先にしているんじゃなくて、自分の魔力を移動先にしているんです。だから、剣が刺さってなくても移動は可能です」

 

 困惑するフィオに、ゆんゆんが『エアトリック』の種明かしをする。しかしそれだけでは、フィオの背後に回り込めた理由にはならない。

 

「いや……それこそなんで? 一体どこにゆんゆんちゃんの魔力が――」

「貴方の背中です。バレないように、こっそりと薄い魔力の塊を貼っておきました」

「背中に? 一体いつ――ってあっ!?」

 

 ゆんゆんの言葉を聞いて、フィオはハッと思い出す。それは、この勝負が始まったばかりの出来事。

 彼女は、自分へ『パラライズ』をかけていた――わざわざ、自分の背中に触れながら。

 

「なるほど……最初っから、ゆんゆんちゃんの手のひらで踊らされてたのね……参ったわ」

 

 ゆんゆんの思惑通りに嵌められたフィオは、ダガーから手を離し、両手を上げる。どうしようもなく追い詰められ、刃を突きつけられたら負けを認める。この勝負のルールだ。

 それを見たゆんゆんはフィオから短剣を離し、残るクレメアに視線を向ける。今も自分を睨んでいるが、先程とは違って余裕が見られない。

 

「っ……1人やったからって、調子に乗るんじゃないわよ! あの剣の対策も、もうバッチリなんだから!」

 

 クレメアは大声で、ゆんゆんにそう告げる。諦める気はないようだ。それを聞いたゆんゆんは、再び意識を集中させると――。

 

 

「では――これならどうですか?」

 

 自身の周りに、4本の幻影剣を同時に出現させた。

 

「……嘘でしょ?」

 

 これは流石に予想外だったのか、クレメアは信じられないとばかりに、ゆんゆんを中心に回っている幻影剣を見る。

 そして、4本の幻影剣は瞬時に位置と向きを変えると、その剣先をクレメアに向け、射出された。と同時に、ゆんゆんは短剣を握り締めてクレメアに向かって走り出す。

 飛んできた幻影剣を、クレメアは槍で防ぐ。そこへ、ゆんゆんは同時に攻撃を仕掛けていった。最初の幻影剣を防がせ、後手に回ったところをすかさず詰め寄り、反撃の隙も与えない怒涛の攻撃を仕掛けていく。

 

「……くっ!」

 

 ここまで距離を詰められては、槍での反撃ができず防戦一方になってしまう。そこでクレメアは、なんとか攻撃をよけて後方へ飛び退く。

 

「逃がしません!」

 

 それを見たゆんゆんは、すかさず右手をクレメアへかざし――彼女の周りに幻影剣(烈風幻影剣)を展開させた。

 剣先を自分へ向けている4本の幻影剣を見てクレメアはギョッとしたが、冒険での経験が生きたか、幻影剣が動き出した瞬間、真上へ飛んで回避した。しかし、ゆんゆんは絶え間なく追撃を仕掛けていく。

 

「『ファイヤーボール』!」

 

 右手をクレメアへかざしたまま、自身の顔ほどの大きさを持つ火の玉を作り出し、宙にいるクレメアへ飛ばす。

 だが、その程度の火の玉は脅威ではないのか、クレメアは槍を横に薙ぎ、迫る火の玉を斬った。追撃を防いだクレメアは重力に従って着地し、前方を見る。

 更に追撃をするつもりか、ゆんゆんはクレメアに向かって駆け出していた――がその途中、ゆんゆんの姿が再び消えた。

 

「ッ! また後ろから狙うつもり!?」

 

 それを見て、彼女が再び『エアトリック』で背後に移動したと読んだクレメアは、すぐさま背後を振り返りつつ槍を横に薙ぐ。

 が――背後にもゆんゆんの姿はあらず。自分が読み違えたと気付くのに、時間は掛からなかった。

 

「しまっ――!?」

 

 クレメアは再び振り返り、さっきゆんゆんがいた方向を見るが、時既に遅し。

 ゆんゆんは、いつの間にか自分の眼前に迫ってきていた。彼女は右手を伸ばしてクレメアの首を掴むと、そのまま勢いを乗せ、押さえ込むように地面へ打ち付けた。

 

「うぐっ……!」

 

 背中に衝撃を覚え、うめき声を上げるクレメア。その上に乗っかっていたゆんゆんは、槍を使わせないように足で右腕を押さえ、左手に持つ短剣をクレメアに向ける。

 レベルの差だろうか、華奢な身体のゆんゆんに抑えられて身動き1つ取れなかったクレメアは、反撃しようとせずに1つ質問をする。

 

「……さっき姿を消したのって、今までの瞬間移動じゃないわよね? もしかして『光の屈折魔法(ライト・オブ・リフレクション)』?」

「っ……はい……」

 

 魔力切れギリギリだったのか、息の上がっていたゆんゆんは唾を飲み込み、短く答える。

 

「やっぱり……そういや紅魔の里に行った時、紅魔族がやたら得意げに見せてたわね。アンタの瞬間移動に気を取られて、すっかり忘れちゃってた……参ったわ。私の負け」

 

 あっという間に勝負をつけられてしまった自分に対してか、ゆんゆんの強さを見てか、クレメアは乾いた笑い声を上げた。

 

 

*********************************

 

 

 ゆんゆん対クレメア&フィオの勝負が終わり、クレメアとフィオがミツルギのもとへ向かう傍ら、ゆんゆんはバージルのいる場所へ歩く。

 勝負が始まってから、ずっと変わらなかった無表情は今もなお保たれており、腕も組んだままだ。そんな彼へ、ゆんゆんは控えめながら評価を尋ねる。

 

「あ、あの……先生……どう……でしたか?」

「……まだ動きに甘いところがある。あのばら撒いた幻影剣もそうだ。自分で把握し切れんほど出すなど、魔力の無駄遣いにしかならん。それと、貴様が盗賊の女に仕掛けた奇襲。奴が魔力感知に長けていないと踏んでのことだろうが、もし奴にバレていたらどうしていた?」

「……考えて……ませんでした……」

「だろうな。次から奇襲を仕掛ける時は、敵にかわされた場合も考慮しておくことだ」

「……はい……」

 

 静かに、バージルが先程の勝負での欠点を告げ、ゆんゆんはそれを親身になって聞く……が、こうも酷な評価ばかり言われ続けると、どうしても心は落ち込んでしまうもの。

 それに、今回見せた幻影剣4本同時展開。こっそり練習し、今回初めてバージルに見せたのだが、それに関しては何も言ってくれないようだ。

 気付けば、自然と下を向いていたゆんゆん。すると、それを見かねてか否かバージルは彼女へこう告げた。

 

「魔力管理が疎かではあったが……最後の猛攻は評価に値する。それと、幻影剣を4本同時に展開してみせたのには、少しばかり驚かせてもらった。見ない間に、そこまで使いこなしていたとはな」

「……! あ、ありがとうございます!」

 

 散々ムチで打たれたあと、突然アメを与えられたゆんゆんは顔を上げ、パァッと顔を明るくしてバージルに頭を下げた。ほんの1回だけ褒めただけで表情を変えたゆんゆんを見て、バージルはため息を吐く。

 胸から湧き出る嬉しさをゆんゆんが噛み締めている中、バージルは彼女の横を通り過ぎると、先程までゆんゆんが立っていた場所へ向かっていった。

 

 

*********************************

 

 

「疲れたぁー。キョウヤー、抱きしめて私を癒してぇー」

「あっ!? ちょっとフィオ! 体力的には私の方が断然疲れてるんだから、それは私が先よ!」

 

 離れた場に立っていたミツルギのもとに、勝負を終えたクレメアとフィオが近寄ってくる。

 2人ともハグを要求してきたのだが、人の目があるし、何より恥ずかしかったミツルギは、2人の言葉を軽く流し、頭に手を乗せる。

 

「2人とも、よく頑張ったよ」

「「……えへへ……」」

 

 ハグではなかったが、撫でられるだけでも満足だったのか、2人は幸せそうに顔を綻ばせた。しばらく撫でてから、ミツルギは2人から手を離す。

 

「さてと……次は僕と師匠、か」

 

 チラリと、先程まで3人が戦っていた場を見る。そこには既にバージルが立っていた。待たせるわけにはいかないと思い、ミツルギもそちらへ足を運ぶ。

 相対したところで、目を閉じていたバージルはおもむろに開け、ミツルギを見る。鋭い視線を受けたミツルギは、既にあった緊張が更に高まるのを感じる。と同時に、高揚感も覚えていた。

 あの、魔剣頼りで己の力では誰も守れなかった自分から、どれだけ成長できたのか――今こそ、試す時だ。

 

「さぁ……いきますよ! 師匠!」

 




致命傷負わせないルールなのに、時々殺す気で狙っているのは戦闘場面でよくあること。
あとサブキャラ故か、時々クレメアとフィオの区別がつかなくなる。

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