この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第4章 アクセルの英雄
第29話「この幽霊屋敷で幽霊退治を!」


 夜空に浮かんでいた月が山に隠れつつも、まだ太陽は出ていない頃。

 日本と呼ばれる国では、この時間帯でも寝ている人は多く、起きているとすれば早寝早起きなご老人や、新聞配達をするバイト君ぐらいのもの。

 そんな朝方――アクセルの街の郊外に住む男、バージルも目を覚ましていた。

 

 いや、覚ましてしまったと言ったほうが正しいか。

 

「……」

 

 バージルは仰向けでベッドに寝転がったまま、声を出さずに両目を開く。

 視界に映るのは、ベッドの側に立ってバージルの顔を覗き込んでいる、複数人の女性。

 彼女達の肌は人間と思えないほど白く、足元は透けている。

 

 そう――幽霊だ。

 いつからか覚えていないが、この家に幽霊が現れるようになり、起床時にこうしてベッドのもとに寄ってきていた。

 幽霊が放つ魔力と視線、気配に気付き目を開けるも、彼女等はバージルに金縛りをかけて動きを封じ、襲うわけでもなくただただジッとバージルを見つめている。

 

 勿論、ただの一般幽霊による金縛りで、彼の動きを封じられる筈がない。

 バージルはベッド周りにいる幽霊達を眺め回すと、自身の魔力をほんの少しばかり出力し、幽霊達を強く睨みつけた。

 彼の睨みと魔力による脅しを目にした幽霊達は、逃げるようにしてその場から飛び去っていく。その時の顔が、何故か悦んだ時のダクネス(HENTAI)の顔と同じように見えた。

 

「チッ……」

 

 再び寝ようとするも、眠気も失せてしまい寝付けそうになかったバージルは、舌打ちをしながら上体を起こす。

 先も言ったように、彼女等はバージルに寝起きドッキリを仕掛けてくる。自分の生活リズムを崩されるのを嫌うバージルにとっては、酷くフラストレーションが溜まるものだった。

 

 当然、やられっぱなしでは済ませない。キッチリ報復もしていた。部屋の中に幽霊が潜んでいたのを発見した時、彼は素早く近づいて、家を傷つけないように刀を振るった。

 するとどうだろうか、斬られた幽霊はたちまち消えた。閻魔刀で斬ったのなら特に疑問も抱かないのだが、今の彼が持っているのは、特別指定モンスターを素材にしているものの、それ以外はただの刀。なのに実態の無い幽霊を斬れたのは、自分の魔力のせいか、はたまた『奴』のせいか。

 が、どちらにせよ幽霊を斬れると理解したバージルは、いつ来てもいいように幽霊を待ち構えたいたのだが……そういう時に限って奴等は来ない。そして忘れた頃にやってくる。なんともはた迷惑な話だ。

 

 一体彼女等はどこから来ているのか。その見当もついている。隣の屋敷だ。

 小さな魔力だが、隣の無人屋敷からそれを数多く感じ取っていた。十中八九、そこからこっちに来ているのだろう。

 この街のプリーストが屋敷の浄化を行っている様は見ていたが、ほんの一時しのぎにしかならず、時が経てばまた幽霊が増えていた。

 いっそ自分が乗り込んで、片っ端から斬るべきかと考えながら、バージルはベッドから足を下ろし、青いコートを手に取って1階へ降りる。

 

「(……そろそろ、アレが仕上がる頃合いか)」

 

 ふと、バージルは階段を降りながら思い出す。

 彼は知人に、ある物を依頼していた。もしかしたらそれが完成しているかもしれない。

 今日は早めに店を閉め、そこに向かうとしよう。今日の予定を決めた彼は、日課の朝風呂へ入るために浴室へ向かった。

 

 

*********************************

 

 

 夕暮れ一歩手前の時間、バージルは予定通り通常よりも早く店を閉め、目的の場所に向かっていた。

 ギルド近くにある店の合間を通り、その先にある川を沿って進んだ先。

 

「ゲイリー、いるか」

「おぅ……って、おめぇさんか」

 

 彼がこの地で得た新たな刀、アマノムラクモを作ってくれた鍛冶屋ゲイリーだ。

 鍛冶場に顔を出してきたバージルを見て、椅子に座っていたゲイリーはよっこらせと腰を上げる。

 

「例の物はできたか」

「おうよ。ちょっと待ってろい……えーっと確か……」

 

 バージルが確認を取ると、ゲイリーはそう言って鍛冶屋の奥に姿を隠す。

 鍛冶屋の内装を見ながら少し待っていると、ゲイリーが彼の言う例の物を両手に持って出てきた。

 

「ほれっ! おめぇさんが頼んだブツだ! 今回もかなり良いモンができたぜぃ!」

 

 ゲイリーの手にあるのは、この世界でも一般的な武器と認知されている両刃剣。刃の長さは、バージルが一時だけ使っていた『フォースエッジ』とほぼ同じもの。

 そして――刃は雪のように白く、僅かながら冷気を帯びていた。

 白き両刃剣を見たバージルは、剣の柄を右手で持ち、品定めするように刃の輝き、柄の長さ、重さを確認する。

 

「しっかしまぁ……特別指定モンスターが元になった武器を2つも持つ冒険者なんざ、この街じゃおめぇさんぐらいだろうよ」

 

 そう、これは以前バージルが狩った特別指定モンスター『冬将軍』の素材を使った武器だ。

 両刃剣を握る手からは、ベオウルフやアマノムラクモのように、冬将軍の魔力を感じ取れる。

 バージルは剣に少し魔力を送ると、刃は更に白く輝き、纏っている冷気も増した。アマノムラクモと同じく、自身の魔力を注ぐことで力を発揮するタイプだろう。

 

「……フム」

 

 バージルは剣を手に持ったまま、鍛冶屋から外に出る。それを見たゲイリーは、この後の展開を何となく察しながらも彼の後を追った。

 ゲイリーが外に出ると、彼は既に隣の庭に立っており、両刃剣を両手で持っている。どういう原理か知らないが、刀は腰元に固定させていた。

 

「フンッ!」

 

 すると彼は、右足を一歩出すと同時に剣を縦に振り、すぐさま右へ振った。

 そこから左足を出しつつ、自身の身体の周りをグルリと一周するように両手で軽く剣を振り回す。

 

「ハァッ!」

 

 そして最後に右足を出しつつ、前方に力を込めて剣を突き出した。剣を引いてから突くまでの速度が尋常じゃなく早いせいか、バージルから前方へと向かう風圧が起こる。

 バージルは突き出した剣を引っ込めると、ありもしない鞘へ入れるように背負った。腰元にある刀と同じく、どうやって背負っているかなどと突っ込んではいけない。

 

「……これも悪くない。礼を言う、ゲイリー」

 

 剣の出来には満足したのか、バージルは小さく笑ってゲイリーにそう告げた。

 珍しく彼が礼を言ったのにゲイリーは少し驚いたが、それよりも物申したいことが1つ。

 

「別に、試し斬りすんのは構わねぇけどよ……ウチじゃないとこでやって欲しかったぜぃ」

「……ムッ……」

 

 バージルが先程剣を突き出した方向――そこにあった薪の山が、剣の魔力のせいで氷漬けになったのを見て、ゲイリーはジト目でバージルを睨んだ。

 

 

*********************************

 

 

 その後、鍛冶屋を後にしたバージルは、真っ直ぐ自宅へと足を進めていた。

 左手には刀を、背中には先程ゲイリーに作ってもらった両刃剣を。生前、ダンテと魔界で戦った時のスタイルだ。

 そして、彼が背負う剣の柄には、アマノムラクモと同じく、剣の名が刻まれている。

 

 『魔氷剣ジェネラルフロスト』――文字通り『General Frost(冬将軍)』の名を冠したものだ。

 新たな武器を得たことで、朝のイライラも無くなったバージルは、何事もなく家へ向かう。

 

 

 ――ことはできなかった。

 

 

「好きな物はぬいぐるみや人形。そして冒険者達の冒険話! どんな小さな冒険でもいいそうよ! どうやらこの子は私達に危害を加えない良い霊のようね。だから他の霊と一緒に浄化しないよう気をつけなきゃね。あと、子供ながらにちょっと大人ぶったことが好きで、こっそり甘い酒を飲んでいたそうよ。という訳で、お供えにはお酒を用意しておいてね!」

「……」

 

 バージルの家の隣、大きな無人屋敷の門の前で両手をかざし、誰かに説明するように独り言を呟くアクアを見てしまったがために。

 またも偶然出会ってしまった彼女を、バージルはただただ無言で見つめる。おかしなことを口にしながら屋敷の前で立っているその姿は、まさに不審者。警察に見つかれば即刻職質をかけられるだろう。もっとも、彼女が手から力を発しているのを見る限り、女神の力を行使しているのは間違いない。

 

 幸い、彼女は両目を閉じており、まだバージルに気付いていない様子。ここは何も言わず、通り過ぎるのがベストだろう。

 そう考えたバージルは、未だブツブツ呟いているアクアの背後を通り過ぎ、隣にある自宅へ向かう。

 

「ムッ! 何やら動きがあったわね。隠しても無駄よ。私には貴女達の一挙一動さえ見えるんだから。貴女達はアイドルを見るような目で、門の前で調べている私の後ろを通り過ぎていくお兄ちゃんを見つめて――ってお兄ちゃん!?」

「……Damn it!」

 

 が、こういう時に余計なことをするのがアクア。通り過ぎようとしたバージルに気付くと、手をかざすのをやめて彼に駆け寄ってきた。

 バージルは仕方なく振り返り、アクアに顔を向ける。

 

「どうしたのお兄ちゃん? こんなところで……」

「どうしたも何も、この屋敷の隣が俺の家だ。貴様こそ、誰もいない屋敷の前で何をしている」

 

 理由はわからないが、屋敷に住み着く幽霊関連だろう。そう予想しながらもバージルは尋ねる。

 するとアクアは、自信満々に胸を張って答えた。

 

「実は、この屋敷にいる幽霊の浄化を頼まれちゃってね。本当はウィズがやる予定だったけど、今日は調子が悪いみたいだから、私が代わりにやってあげようって話になったのよ!」

 

 本当は、カズマがウィズ魔道具店へ行くのに同行し、そこでいつものようにウィズへ絡み、アクア自身が彼女を弱らせてしまったのが原因で、アクアは罪悪感に見舞われて引き受けたのだが。

 誤魔化すように「リッチーのくせに世話がやけるんだから」と、ため息混じりに呟くアクアは、バージルから屋敷の方へ視線を移す。

 

「さっき、この屋敷にどのくらい幽霊がいるのか調べてたんだけど、中々の数がいるみたいね。前に行った共同墓地と同じぐらいかしら」

 

 その話を聞きながら、バージルも屋敷へ目を向ける。

 もし、彼女が屋敷に住まう幽霊を追っ払ってくれたのなら、最近朝の目覚まし代わりに現れる幽霊も来なくなるだろう。

 そこらのプリーストなら苦労するだろうが、彼女はアークプリースト。そして力だけは無駄に高い女神だ。何も問題がなければ、明日には幽霊もいなくなっている筈。

 

「そうだ! お兄ちゃんも一緒にゴーストバスターしない!?」

「……何っ?」

 

 とその時、アクアはバージルに幽霊退治の誘いをかけてきた。バージルは、再度アクアへ目を向けて聞き返す。

 

「確かお兄ちゃんの刀には、私のありがたーい加護が付いていた筈よ! その刀で幽霊を斬れば、即浄化できること間違い無しだわ! なんてったって私の力だもん!」

 

 刀についた、女神アクアの加護。そう、以前バージルがカズマと生活を入れ替えた時、アクアが刀を抱きしめていた時に付けられたものだ。

 その加護のせいで元々の威力が少しばかり減ったものの、アンデッド相手ならば効果抜群の威力を引き出すことができるようになった。この間幽霊を斬れたのもそのためだろう。また、試したことはないが、女神とは相反する悪魔相手にも同様の効果は期待できる筈。

 事実、バージルにもその効果が出ており、刀を使う度に手がピリピリしていた。今はもう慣れてしまったが。

 アクアが自信たっぷりに断言する前で、バージルは少し黙り込むと――。

 

 

*********************************

 

 

「というわけで、お兄ちゃんもゴーストバスターズに入ったから」

「いやなんでだよ」

 

 アクアと共に屋敷へ入ると、リビングで寛いでいたカズマに早速ツッこまれた。

 

「あの、ホントに参加するんですか? これは俺達が受けた依頼で、バージルさんには何の報酬も無いですけど……」

「最近、ここの幽霊共には迷惑していた。この手でやり返さなければ気が済まん」

「(……結構根に持つタイプなんだなぁ)」

 

 毎日毎日幽霊に起こされ、そろそろ屋敷にカチコミを仕掛けようかと彼は考えていた。

 そこへ、正当な理由で屋敷に住む幽霊へ好きなだけ報復できると聞けば、乗らないわけにはいかない。溜まっていた鬱憤を存分に晴らせるからか、彼は独り不敵な笑みを浮かべる。

 

「じゃ、私は部屋に荷物を置いてくるわねー」

「私もまだ、部屋の掃除でやり残していた所があるからな。部屋に戻らせてもらう」

 

 その傍ら、まだ荷物を部屋に置いてきていなかったアクアは、すたこらと駆け足でリビングから去った。

 同じくこの場にいたダクネスは、カズマにそれだけ言ってリビングから自分の部屋に戻る。

 

「バージル、まだ夜までに時間があります……その間、私とこのボードゲームで勝負しましょう!」

 

 とその時、彼のもとにめぐみんがそう言いながら近寄ってきた。その手には、チェス盤が折りたたまれた物と小さな箱がある。以前、バージルがゆんゆんと勝負をした、この世界でチェスに代わるボードゲームだ。

 

「このボードゲームでも、アークウィザードこそが最強……そして、爆裂魔法こそが究極にして至高だと思い知らせてあげましょう!」

「いいだろう。ならばこのゲームでも爆裂魔法がいかに無力か、貴様に思い知らせてやる」

 

 意外にもこのゲームを気に入っていたバージルは、めぐみんの売った喧嘩を自ら買った。

 その傍ら、以前めぐみんと対戦した時に自分の駒をテレポートで盤外へ飛ばされてから、二度とこんなゲームするかと思っていたカズマは、バージルがどんなプレイングをするのか気になり、ソファーに座って勝負の行く末を見守った。

 

 

*********************************

 

 

「ソードマスターを移動。さぁ、貴様のターンだ」

「フフフ……追い詰めたつもりのようですが、言った筈です。このゲームで貴方に、爆裂魔法の力を思い知らせると! 今がその時です! エクスプロージョ――!」

「ルールを無視するな。爆裂魔法は、アークウィザードがいなければ発動することはできん」

「……ハッ!? い、いつの間に私のアークウィザードをっ!?」

「盗賊の潜伏を使い、狩らせてもらった。さて、貴様の大好きな爆裂魔法は撃てなくなったわけだが……どうする?」

「ぐっ……我が完璧な守りを掻い潜り、私の目を盗んでアークウィザードを屠るとは……しかし、まだこちらにはアークプリーストがいます! アークプリーストを移動させ、リザレクション! フフフ……次ターンには今度こそエクスプロージョンを――」

「礼を言う。そこにいたアークプリーストが目障りだったからな。ソードマスターを再び移動。チェックだ」

「はうっ……!? こ、ここは我がキングを守らねば! ク、クルセイダーをキングの前に移動!」

「王の後ろがガラ空きだ。それで守っているつもりか? 盗賊を動かし……再びチェックだ」

「ぐぬぬっ……! わ、我が最強の陣営が、ソードマスターと盗賊の2体だけで、ここまで……!」

「(……全っ然わからん)」

 

 

*********************************

 

 

「……ふーっ……」

 

 日は落ち、三日月の上がる夜。部屋の掃除を終わらせ、風呂に入って身を綺麗にしたカズマは、自室のベッドで横になる。

 今のところ、幽霊らしき者は一切現れていない。アクアが叫んだので何事かと思ってきてみれば、高級な酒がいつの間にかなくなっていたと泣いていたぐらいだ。

 その後アクアは部屋を飛び出し、いち早くゴーストバスターへ向かった。めぐみんとダクネスは自室に、バージルは1階のリビングにいるだろう。

 以前、共同墓地にいた幽霊を(ついでではあるが)アクアは浄化していた。その時は然程時間も掛からなかったため、この屋敷の浄化も早く終わるだろう。

 自分のやれることはなさそうだなと思いながら、カズマは疲れた身体を癒すように目を閉じる。

 

 

「(……トイレ行きたい……)」

 

 しかし、寝る前に行うトイレをうっかり忘れていたカズマは、今し方感じた尿意で目を開けた。

 一度気になってしまえば、どうしてもトイレに行きたくなってしまう。カズマはベッドから降りようと、仰向けの状態から身体を起こし、横を見る。

 

 

 その先にある鏡の前に置かれていた、見慣れない西洋人形と目が合った。

 

「(こっっっっっわっ!?)」

 

 カズマは思わず人形から目を背けると、起こしていた身体を再び倒し、人形から背を向けるように寝転んだ。

 あんなホラーチック満載な人形、寝る前には無かった筈だ。ホラーモノにありがち過ぎる展開を前にして、カズマは目を閉じて現実逃避しようとする。

 

 とその時――背後から、何かが近付いてくる気配がした。

 敵感知スキルは発動していない。にも関わらず、何かが背後に忍び寄る感覚があった。

 身体中から変な汗が出てくる。いやまさか。そんなわけがない。カズマは自分に言い聞かせ、必死に眠りへ落ちようとする。

 しかし、こういう時に限って中々寝付くことはできず。一方、その気配がすぐ後ろまで来たように感じると――。

 

 

 背中から、何かが覆いかぶさるような感覚を覚えた。何かが背負われるような、そんな感覚。

 

「――ッ!?」

 

 それを受けて、カズマは悲鳴を上げようとする――が、声は出ない。それどころか口さえ開かない。身体も動かない。

 金縛りを受けていると気付くのに、さほど時間は掛からなかった。

 カズマの耳元では笑い声がこだまする。カズマより小さい、幼子の無邪気な笑い声。

 聞きたくなくても耳を塞げず、嫌でも笑い声が耳に入る。カズマは全身に鳥肌が立つのを感じながら、その恐怖に耐え続ける。

 

 ――しばらくして、その笑い声は聞こえなくなった。

 背中についていた何かも、どこかへ行ったような気がした。身体も問題なく動くし、呼吸もできる。

 が、目を開けたくはない。嫌な予感が満々だからだ。

 しかし、目を瞑ったままではトイレにも行けない。カズマは数少ない勇気を振り絞って、その両目を開ける。

 

 

 

 後ろにいた筈の西洋人形が、眼前で笑みを浮かべていた。

 

「ひぃいいいいいいいいやぁああああああああああああああああっ!? アクア様っ! アクア様ぁああああああああああああああああっ!」

 

 カズマは飛び起きて部屋から抜け出し、同じ階にあるアクアの部屋へ全力疾走した。

 

 

*********************************

 

 

「(……上が騒々しいな)」

 

 その頃一方、一階の廊下にて。2階から聞こえる物音を耳にし、バージルは鞘に刀を納めながら天井を見る。

 彼は既に1階の浄化を始めており、何故か女性ばかりの、喜々として迫って来た幾多の幽霊を斬り倒していた。

 現れる幽霊も少なくなり、そろそろ佳境かと思っていたのだが、もしかしたら2階に幽霊が集まっているのかもしれない。

 事実、アクアはまだ2階にはびこる幽霊を浄化しており、1階に降りてくる様子はない。

 そこまで考えたバージルは、自分も2階に上がるべく足を進めた。

 

「……ムッ」

 

 とその時、前方から何やら気配が。バージルは左手に持っていた刀を握り直し、前を睨む。

 長く続く廊下の先。その奥にあった曲がり角から――1人の少女が飛び出し、こちらに駆け寄ってきた。

 遅れて曲がり角から現れたのは、3体の西洋人形。しかしそのすぐ後ろにはうっすらと、足元が透けている3人のおっさんが宙に浮かんでいるのが見え、廊下を走る幼女を追いかけている。心なしか息も荒い。

 

 それを見たバージルは、右手で刀の柄を持つ。こちらに走ってきた少女は、そんなバージルを見て驚きつつ足を止める。

 今こそチャンスと見てか、追いかけていた幽霊達は目を光らせ、足を止めている少女に襲いかかった。

 

「消えろ」

 

 その瞬間、バージルは即座に刀を抜き、少女が襲われる寸前に幽霊3体を一閃した。

 斬られた西洋人形は首を落とされ、背後にいた幽霊は瞬時にこの場から消え去る。感じていた人形の持つ微量の魔力も無くなっていた。軽く振り抜いた刀を、バージルは鞘に戻す。

 廊下に立っていた少女は、驚きながら背後を振り返り、追いかけていた幽霊がいなくなったのを確認すると、再びバージルへ顔を向ける。

 戸惑いと恐怖が含まれた視線。それを受けたバージルは、特に反応することもぜず、少女に向かって歩き出す。

 少女はビクッと驚き、その場に尻餅をつく。迫り来るバージルを見て、彼女は怯えるように頭を抱え、両目を閉じる。

 

「成程……貴様が……」

 

 しかし、バージルはそれだけ言うと彼女の横を通り過ぎ、そのまま廊下の奥へ向かっていった。

 

 

*********************************

 

 

 屋敷の2階にあるバルコニー。階段を上がって2階に来たバージルは、そこに腕を組んで立ち、月を見上げていた。

 

「(うむ……月を嗜むには悪くない場所だ)」

 

 独り、黒の夜空に映える月を鑑賞するバージル。幽霊退治の最中でなければ、ここで星や月を見て寛ぐのもよかったかもしれない。

 天体観測を終えた彼は、中断していた幽霊退治に戻ろうと後ろを振り返る。

 

「……まだいたのか」

 

 そして、バルコニーの扉から顔を覗かせて様子を伺っている、先程出会った少女と目があった。

 少女は目を合わせるやいなや扉の陰に隠れるが、そっと控えめに顔を出す。

 あの時出会ってから、彼女は距離を置きながらもバージルについてきていた。それにバージルは気付いていたのだが、特に彼女へ手を出すこともなく足を進めていた。

 それが疑問に思ったのか、少女はバージルに視線を合わせながら口を開く。

 

「……どうして、私を斬らないの?」

「貴様のことは、今頃幽霊を殴り倒しているだろう女から聞いていた。そいつは浄化しないようにしなければ、とな。奴に黙って貴様を浄化してしまえば、泣き喚かれて面倒な事になる」

「……それだけ?」

「それだけだ。何の理由も無しに颯爽と危機から救ってくれる白馬の王子様や勇者様を期待していたのなら、残念だったな」

 

 バージルは少女と言葉を交わすと、彼女の横を通り過ぎてバルコニーから出る。

 そのままこの場を去る……と思いきや、バージルは再び少女に顔を向けた。

 

「もっとも、貴様が浄化されるのを望んでいるのなら、今ここで斬ってやってもいいが? あの女が喧しくなるだろうが、本人たっての希望だったと言えば、奴も黙ってくれるだろう」

 

 刀の柄を右手で持ち、僅かに鞘から刀身を見せて少女に尋ねる。

 少女は闇夜に光る刀身を見ると、バージルの問いかけに答えることはせず、疑問を口にした。

 

「浄化されたら……どうなっちゃうのかな?」

「……死後の世界については諸説ある。が、1番有力なのは、女神の導きによって天国か地獄に送られるか、同じ世界で生まれ変わるというものだ」

「女神様?」

「そうだ。以前、蘇生魔法を受けてこの世に還った男が、死後の世界と思わしき場所で女神を見た、と言っていた」

 

 冬将軍を倒した翌日に聞いた、カズマの話。彼は冬将軍に殺された後、元の世界で死んだ時に来たのと同じ場所で美しい女神と出会った、と言っていた。

 バージルが幾つか伏せて話した内容を聞き、少女は「天国……地獄……生まれ変わり……」と呟き、自分がどこに行くのかを予想している。

 そんな少女を見て、バージルは一旦鞘に刀から右手を離し、言葉を続けた。

 

「……それか、こことは違う別の世界に行けるかもしれんな」

「別の……世界? それって楽しいところ?」

「さぁな。平穏に暮らせる平和な世界か、悪魔が蔓延る修羅の世界かもしれん」

「えぇ……悪魔がいっぱいいる場所は嫌だなぁ……」

「上の連中は、悪魔以上に何を考えているのかわからん。たとえ貴様が生前に善行を積んでいても、気まぐれに悪魔の世界へ飛ばす可能性もあるだろう」

 

 第3の選択肢、異世界転生だった場合を考え、不安を抱える少女をもっと不安にさせるように、バージルは話す。

 案の定、不安を抱えるどころか異世界転生に恐怖を覚えている少女を見ると、バージルは少女から部屋の天井へ視線を移し、こう付け加えた。

 

「だが――もし貴様を導く者が女神エリスならば、争いのない平和な世界へ、そして幸せに生きられるよう取り計らうだろう」

「……なんで?」

「女神エリスは、慈愛の女神とも呼ばれている。貴様が転生を選んだ場合、お節介な奴はそうする筈だ……俺は、そう思っている」

 

 首を傾げて尋ねる少女に、バージルは首にかけたアミュレットを手に持ち、そこから流れる暖かな力を感じながら、そう言い切った。

 まるで、女神エリスを直接知っている風に話すバージル。しかし少女は、そのことについて言及することはせず、先程の問いに答えた。

 

「そっか……なら、浄化されるのも悪くないかも……でもまだいいや。だって、これから楽しくなりそうだし」

「……? それはどういう――」

 

 バージルは少女の言葉が気になり尋ねようとしたが、近くに魔力を感じ、少女から顔を背ける。

 廊下の先にある小さな魔力。この屋敷に潜む幽霊達だ。アクアの浄化も上手く行っているのか、それら以外に幽霊の微量な魔力は感じない。

 

「話が過ぎたな。もう存分に恨みは晴らせた。さっさと幕引きにするとしよう」

 

 バージルはそう言うと、その場から離れて魔力を感じた廊下の先へ歩いて行った。

 

 

*********************************

 

 

「馬鹿ですか!? カズマは馬鹿なんですか!? ここまで非常識だと思いませんでしたよ! 済ませ終えたとしても、パンツも履かせないまま連れ去るとか馬鹿ですか!?」

「しょうがねぇだろ!? あとちょっと遅れてたら幽霊共に襲われてジ・エンドだったんだ! 股がスースーするのぐらい我慢しろ!」

「この男! 女の羞恥というものを知らないのですか!?」

 

 屋敷の2階、カズマは必死に廊下を走りながら、手を繋いで引っ張っているめぐみんにそう言い聞かせていた。

 そのめぐみんはというと、ピンク色のパジャマ姿ではあるが、下はズボンどころかパンツさえ履いていないという、青少年にはよろしくない格好。

 

 本当にあった怖い話を体験したカズマは、あの後すぐさまアクアの部屋に駆け込んだが、そこにいたのは同じくアクアに助けてもらおうと来ていためぐみんだった。

 アクアは未だ浄化の真っ最中で、いくら待っても帰ってくる様子がない。その時、カズマとめぐみん両者共に尿意を覚え、ひと悶着ありながらも2階のトイレへ。

 先にめぐみんが用を足している時、そこへ西洋人形に取り憑いた大量の霊が急接近。このままでは呪い殺されると危惧したカズマは、慌ててめぐみんとその場を去ったのだ。

 

 背後から宙に浮かんで奇妙な笑い声を上げながら飛んでくる中、カズマは走った先に見つけた物置部屋を見つけ、そこへ逃げ込む。

 カズマとめぐみんは、息を殺して幽霊が立ち去るのを待つ。しかし、今相手にしているのは幽霊だけではない。

 

「ヤバイ……もう限界だ……このまま漏れる……」

 

 尿意だ。めぐみんは済ませたものの、カズマは幽霊に追われっぱなしで済ませず。

 もういっそ本当にこれで済ませようかと、めぐみんがアクアの部屋から持ってきた小瓶を見る。

 

 その時、扉の向こうから大きな物音が響き出した。カズマとめぐみんは同時に小さな悲鳴を上げる。

 

「わ、わわわ我が魔力を以て、有象無象の迷える魂を滅ぼささささ……!」

「おおお落ち着け!? ここで幽霊だけでなく屋敷を吹っ飛ばしたらどうする!?」

 

 恐怖のあまり爆裂魔法の詠唱を口にするめぐみんだったが、カズマは慌ててそれを止める。

 しかし、このまま何もしなければ逆に危険なのも明らか。あと何より自分の膀胱がマストダイだ。

 

「よ、よし……めぐみん、取り敢えずその小瓶を武器として持っとけ。俺が先行して、さっきのトイレに行く。効くかどうかわかんないけど、幽霊が来たらドレインタッチかましてやる!」

 

 意を決したカズマは、立ち上がって右手をワキワキと動かす。後ろにいためぐみんは、片手で露になっている下半身を服で隠しながら、もう1つの手で小瓶を持つ。

 ゴクリと息を飲むと、カズマは勢いよく扉を開け――。

 

「おらぁああああっ! かかってこいやぁ! この悪霊共! ウチの狂犬女神けしかけてやっ――!」

 

 虚勢を張るように大声を出す――が、すぐさまその声を止めた。

 彼の首には、月の光に照らされて青く光る刀が当てられ――冷たい目で自分を睨むバージルが、そこにいたのだから。

 

「――あっ」

 

 カズマは、下半身が生温かくなるのを感じた。

 

「……貴様だったか」

 

 扉が開かれ飛び出てきたのが幽霊ではなくカズマだったと気付いてか、バージルは刀をカズマから離し、鞘に納める。

 彼の足元には、幽霊が宿っていたと思われる西洋人形が転がり、1つとして漏れることなく首を斬られている。よくもまぁ人の顔をした人形を首チョンパできるものだ。

 一方、カズマは固まったまま。扉を開ければ転がっている人形のように首チョンパされかけたのだ。無理もないだろう。

 

「悪霊退散! 悪霊退さ……あら? カズマじゃない。それにお兄ちゃんも」

「カズマ、めぐみんを見なかったか? 部屋に行ったが姿は見えなかったので、浄化ついでに探していたのだが……」

 

 とその時、カズマの耳に聞き慣れた声が入ってきた。そこでようやく我に返ったカズマは、声が聞こえた方へ顔を向ける。

 駆け寄ってきたのは、多くの悪霊を浄化できてスッキリしたのかご機嫌よさそうなアクアと、それについてきていたダクネス。

 

「お、おう、アクアにダクネス……めぐみんならこの部屋にいるぞ。色々あって幽霊に追われる羽目になって、2人でここに逃げ込んでいたんだ」

「幽霊に!? それは大変だったな……」

 

 カズマが簡単に答えると、ダクネスはねぎらいの言葉を掛けながら倉庫に顔を覗かせる。隣にいたアクアも倉庫の中を見た。

 

 そこにいた――ズボンもパンツも履いていないめぐみんを。

 

「カカカカズマ! お前はこの状況下で、めぐみんにナニをしようとしていたんだ!?」

「待て!? 俺は幽霊に追われながらそんなことをする男じゃねぇよ!? めぐみんがあんな格好なのは仕方なく――!」

「ねぇちょっと待って……今気付いたんですけど、アンタのズボン濡れてない? そう、まるで……ププッ……16にもなって……おもらししたかのような――ブハッ!」

「わぁああああああああっ!? 触れて欲しくなかったのにぃいいいいいいいいっ!?」

「ま、まさか……おいっ!? お前はまさか、めぐみんにアレをしようとしていたのか!? ににに人間べべべべん――!?」

 

 案の定勘違いされてダクネスが食いつき、アクアがおもらししたカズマを見て笑い転げる中、カズマは恥ずかしさのあまり泣き出した。

 現在進行形で恥ずかしいのは自分なのにと、めぐみんはモジモジしながら呟くが、騒がしい3人には届かず。

 

「……ムッ」

 

 一方、騒がしい彼等の近くにいたバージルは、あの少女がいつの間にかいなくなっていたことに気付き、辺りを見渡していた。

 

 

*********************************

 

 

 ドタバタとした夜が明け――翌日。

 幽霊は昨日の内に浄化させ、更にアクアがこの屋敷に悪い霊を寄せ付けない結界を張ったことで、幽霊屋敷の問題は解決した。

 その後、カズマ達は屋敷に泊まり、バージルは隣にあった家に戻って安眠。気持ちのいい朝を迎えた彼は、いつも通り業務を開始。

 しかし、今日はあまり客が来なさそうだと思った彼は、昼を迎えた辺りでギルドに顔を出してみようかと考え、店を閉めて外に出た。

 そして屋敷の前を通り過ぎる時、そこに知り合いの姿を見た。バージルは、屋敷の庭に入ってそこに近付く。

 

「あっ、バージルさん。こんちわっす」

 

 もう昼だというのに、まだ寝癖がついている髪で木の下にある墓石を掃除するカズマ。少し苔が生えている墓石には、お供え物をするように青い服を着た金髪の人形と、酒の入った小瓶が置いてあった。

 バージルは彼のもとに近づくと、掃除をしているカズマを見下ろす。

 

「知ってますか? このお墓、元々この屋敷に住んでいた子の物だそうですよ」

 

 カズマは桶に入った水で白い布を濡らし、しっかり絞ってから墓石を丁寧に磨く。

 バージルが墓石に刻まれている名前を見る前で、カズマはアクアから聞いた、1人の少女の話を始めた。

 

 『アンナ・フィランテ・エステロイド』

 この屋敷に住んでいた貴族の男が、遊び半分で手を出したメイドの間に生まれた少女。

 昔から貴族は貴族と結ばれることが常識とされており、平民、庶民とは勿論のこと、従者と身体を交わし子を授かるなど以ての外。

 もしこの子のことが世間や他貴族に知られれば、貴族としての地位が落とされるのは明白。それを危惧してか、少女は屋敷に幽閉された。

 しばらくして、身体の弱かった貴族の男は病死。母のメイドも行方知れずとなり、主を失った屋敷に住むのはアンナ1人だけとなった。

 しかし、父の遺伝子を受け継いだ彼女もまた身体が弱く、父と同じ病に伏して、両親の顔を知らないまま、若くしてこの世を去った。

 

 亡くなった者の魂は天へ導かれるのだが、彼女はこの世に未練があったのか、屋敷に住む地縛霊と化してこの世に留まった。

 まだ純粋な子供で、自身の生まれる経緯も何も知らなかったからか、恨みつらみを持って現れる悪霊にならなかったのは幸いと言うべきか。

 

「アクアはくもりなきまなことやらで、屋敷に入る時から知ってたみたいで……胡散臭い設定だと思って聞き流してたけど、まさか本当だったなんてなぁ。悪い霊じゃないから大丈夫らしいけど……頼むから、あの悪霊達がやったような心臓に悪いイタズラはしないでくれよー?」

 

 何度か布を濡らしては絞り、墓石を綺麗に磨き終えたカズマは、墓の前で手を合わせる。

 日本の風習を感じさせるカズマをバージルが見ていると、彼等の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「こんにちわ、カズマさん。それにお隣のバージルさん。お墓掃除ですか?」

 

 バージルとカズマは後ろを振り返る。そこには、この街に住む貧乏店主ことウィズがいた。

 

「ウィズ、もう身体の方は大丈夫なのか?」

「はい。今回は私の代わりに浄化を行ってくださって、ありがとうございました」

 

 カズマは立ち上がってウィズに身体の調子を尋ねる。リッチーのため顔色はいつも青白いのだが、彼女がそう言うのなら大丈夫なのだろう。

 ウィズはペコリと頭を下げると、隣にいたバージルについては特に何も言わず近付き、墓の前に屈み込んで墓石を撫でる。

 

「きっとこの子も、もう寂しくないでしょう」

「……?」

 

 屋敷の浄化が終われば、ここは再び無人屋敷となる。まだ浄化されていない幽霊少女1人を残して。なのに、もう寂しくないというのはどういうことなのか?

 そういえば、昨日出会った少女も意味深な言葉を口にしていた。それを思い出し、バージルが独り疑問を抱える。

 

 が、その疑問はすぐに晴れることとなった。

 

「カズマさん、この子も満足できるような冒険話を、よろしくお願いしますね」

「まだロクにモンスターも倒せない駆け出しだし、大それた話もできないだろうけど、まぁ色々盛って話してみるよ。ここに住めるならそれぐらいの条件、安いもんさ」

「……待て。ここに住むだと?」

 

 カズマが話した内容に1つ、聞き逃してはならない言葉が聞こえたバージルは、二人の間に入ってカズマへ尋ねる。

 それを聞いたカズマとウィズは、首を傾げてバージルを見るが、カズマは思い出したように手を当てる、バージルに話した。

 

「あぁ、そういえば言い忘れてた。俺達、この屋敷の評判が上がるまでここに住んでいいって不動屋さんに言われたんですよ。この墓を掃除するのと、屋敷にいる時に冒険者話をするって条件付きで」

「あら、そうだったのですか? 私てっきり、バージルさんには既に話していて、お隣さんになるカズマさんへご挨拶をしにきていたのかと思っていたのですが……」

 

 カズマの言葉を聞き、勘違いしていたウィズは少し驚く。カズマもすっかり忘れていたと笑ってウィズへ言葉を返す。

 その2人の前――バージルは、ノックアウトしそうな程の衝撃を覚えていた。

 カズマ達が、この屋敷に住む。それはつまり――例の問題児三人組が、常に隣の屋敷に住んでいるということ。

 

 ――バージルはカズマに背を向けると、屋敷を見た。

 

「あれ? どうしたんすか?」

 

 様子が変わったバージルを不思議に思い、カズマは尋ねる。

 バージルは屋敷の方へ歩くと、両手両足に『ベオウルフ』を装備しながら答えた。

 

「屋敷を潰す」

「バージルさん!? それはちょっと待って!? お願いしますやめてください! ホントやめっ……やめろコラァッ!」

 

 屋敷を潰さんと歩き出すバージル。しかし折角手に入れた住居を壊されたくなかったカズマは、慌ててバージルの足へしがみつき、必死に止めようとした。

 しかしそれでもバージルは屋敷へ歩き続ける。急なことにウィズはオロオロしていたが、バージルを止めるべく彼のもとへ駆け寄った。

 

 その様子を、2階にある部屋の窓から見ていた少女は、楽しそうに笑っていた。

 




アンナちゃん、漫画版のみ後ろ姿だけビジュアルはあるものの、言葉遣いは不明だったので想像で作りました。パティより大人しい?
原作にない話を作るよりも、原作にある話、所謂原作沿いを作る方が難しいと実感しました。

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