――夕刻、今日も騒がしいギルド内の酒場にて。
「ヒッグ……グスッ……」
「もー、いつまで泣いてんのよー」
「まさかここまで効果有りだとは思いませんでしたね」
冒険者達が夕食を食べに集う中、アクア達はいつもの席に座り、夕食タイムに入っていた。
ギルドから少し歩くが、この街には大浴場があり、アクア達は粘液まみれだった身体をそこで洗い流していた。
因みに服は魔法で洗濯、乾燥してもらった。魔法とは便利なものである。
お風呂で温まった後はあったかいご飯。勿論、お供にはシュワシュワを侍らせている。めぐみんはまたジュースだったが。
アクアは、シュワシュワを飲んでほんのり赤くなった顔を、反対側の席に座っていたダクネスに向ける。ダクネスの隣に座っているめぐみんは、少しやり過ぎてしまっただろうかと心配しながらダクネスを見る。
そしてダクネスは――道中でのドS認定が余程効いたのだろう。机に突っ伏し、顔を隠して泣き続けていた。
そんな、全てを快感と昇華させるダクネスに、一切の興奮を覚えさせず、泣かせる程のオシオキをした男は――。
「あっ、お兄ちゃんやっと来たー」
「……早いな」
「バージルが遅いんですよ。長風呂派なんですね」
今しがた、風呂から上がって酒場に戻ってきた。
生前、国の風習故にずっとシャワーを浴びて身体を洗い流してきたバージルは、湯船に浸かって疲れを癒す、風呂という風習をとても気に入っていた。
お陰で今は、朝起きたら自宅の浴室で。夜は大浴場で。1日に必ず2回は風呂に入っている。
大浴場でベトベトだった身体を洗い流し、服も綺麗にしてもらい、心身共に洗われたバージルは、空いていたアクアの隣に座る。
既にバージルの料理も用意されており、彼は料理に手を付けるためナイフとフォークを持つ。
「……ムググッ……」
と――そこで恨めしそうにバージルを見ているダクネスと目が合った。
彼女は目に涙を浮かべており、ぐぬぬ顔でバージルを睨んでいる。
「……フッ」
その顔を見て、心地よい優越感を覚えたバージルは、ダクネスを煽るように笑った。
いつもはバージルがダクネスに振り回されていたが、今回は彼女に性的な興奮を覚えさせず、彼女を痛い目に遭わせることができた。立場逆転である。
バージルは慣れた手つきで肉をナイフで切り、フォークで刺して口に運ぶ。ダクネスに勝った喜びもあってか、今日の飯は中々に美味だと感じる。
彼がダクネスの泣き顔をオカズに食事を進めている時、対面に座っていためぐみんが口を開いた。
「そういえば、ジャイアントトードを討伐した時に、バージルは見慣れない武器を使ってましたが……あれは何なのでしょうか? 使い終わったら消えていましたが……」
彼女の言う初めて見た武器――閃光装具ベオウルフについて、めぐみんは興味深そうに尋ねてきた。
力を溜めての連続攻撃だったが、ほとんどの物理攻撃を吸収するジャイアントトードの腹を攻撃してダメージを与えるなど、よほどのパワーがない限り不可能だ。
しかし、あの武器にはそれを可能にする力がある。それに、めぐみんは武器自体にも魔力があることを感じていた。と同時に、一体何を元に作られているのか気になっていたのだ。
ダクネスも同じだったのか、涙を拭うと恨めし度マシマシな目をやめてバージルを見る。
「ふぇっ? ふぁひふぁひっ? ふぁんほははひ?」
そしてアクアは、まるでハムスターのように食べ物を頬いっぱいに入れたまま話を聞いてきた。とても女神を自称する者とは思えない、汚い食べ方である。
潔癖症の一面もあるバージルは、隣のアクアに引きながらも、そういえばまだ見せたことなかったなと思い、一旦食事の手を止めて答えた。
「あれは、ベオウルフという『魔具』だ」
「まぐ?」
「簡単にいえば、悪魔の魂を宿した武器だ」
「なっ!? あくっ……!?」
まさかの素材元を知り、ダクネスは大声を上げそうになったが、すかさず両手で口を覆う。
『悪魔』――ファンタジーではよく上級モンスターとして扱われるが、この世界も例に漏れず、悪魔は一流冒険者でも苦戦する存在となっている。
そんな悪魔の魂を宿した武器が存在するなど知れ渡れば、たちまちパニックに陥るだろう。
当然、バージルも悪魔だという事実も、まだアクア達4人とクリスにしか知られていない。
慌てて口を閉じたダクネスを見て、バージルは悪魔という単語を避けながら、自分の国に存在していた武器ということにして、魔具のことを3人に説明した。
『魔具』――悪魔の魂が宿った武器。その形は様々で、悪魔が作りし物、悪魔自身が姿を変えた物に該当する。
そして、悪魔が姿を変えた場合では、主に二通りのパターンに別れる。
1つは、悪魔自身が相手を認め、自ら武器となるか。1つは、相手に殺され、魂を呪縛するかのように姿を変えさせられたか。
この場合、ベオウルフは後者に該当する。その為、魂はバージルが所有しているも同然であり、力関係もバージルの方が上。
故に、ベオウルフが自力で動き出し、バージルの呪縛から逃れることは不可能なのだ。
そしてその性能、力は千差万別だが――どれも元を辿れば悪魔。秘めたる力はそんじょそこらの武器とは一線を画す。
ベオウルフは、元々上級悪魔だった。それに加え、ベオウルフ自身も物理攻撃を主とする者。
そんな悪魔の力を宿した魔具――閃光装具ベオウルフ。加えて、バージル自身の力。
2つが合わさることによって生まれる破壊力に、低級モンスターであるジャイアントトードの物理吸収が、敵う筈もなかったのだ。
「ふーん……つまり、お兄ちゃんが持ってる間は、ひとりでに歩き出すことはないのね……それならいいのだけれど……」
バージルの説明を聞いたアクアは、女神として思うところがあるのか、少し不安そうに呟く。
アクア曰く『わたしのくもりなきまなこ』によると、バージルからは彼自身が持つ悪魔の力だけでなく、もう一つの悪魔――ベオウルフの力も見えていた。
立場上、悪魔の魂が宿った武器を見逃すことはできず、本音を言えば今すぐベオウルフに『
普段なら有無を言わさず先手必勝とばかりに手を出しただろうに。バージルがお兄ちゃん(仮)であるが故だろうか。
「通常、倒されたモンスターの魂は倒した者に吸収され、成長の糧になると聞くが……バージルは一体どんな国から来たんだ?」
「……少なくとも、この国よりは物騒な場所だ」
「物騒……是非とも、バージルの住んでいた国に行ってみたいものだな」
「やめておけ。貴様では3日と経たん内に野垂れ死ぬ。それに、ここからはかなり遠い」
毎度驚かされているというクリスの話を思い出しながら、ダクネスは素直にバージルの出身国が気になり尋ねた。
半人半魔であることは明かしているが、転生者ということはまだ明かしていない。カズマも秘密にしているのを見る限り、あまり大っぴらにはできないことなのだろう。
そう考えたバージルは、異世界ということをはぐらかしつつ、ダクネスの質問に答えた。更に興味を持たれたが、ここから行くのは困難だということも添えておく。
「大丈夫ですよ、ダクネス。この私の爆裂魔法さえあれば、どんな敵も恐るるに足らず!」
その横で話を聞いていためぐみんは、自分の爆裂魔法さえあれば問題ないと豪語した。余程、自分の爆裂魔法に自信を持っているのだろう。
彼女の言葉を聞いたバージルは、そこで今日、初めてめぐみんの爆裂魔法を生で見させてもらったことを思い出す。
「そういえば貴様の爆裂魔法、初めて見させてもらったが……」
「おぉっ! そうでした! どうでしたかバージル? 今日の爆裂は、中々に良い出来だったと自負しておりますが」
そう言われてめぐみんも思い出したのか、顔をズイっと近付けてバージルに感想を求める。
今日のは我ながら良い爆裂だったと、無い胸を張って自信たっぷりに話すめぐみん。
そんな彼女へ、バージルは正直に感想を告げた。
「愚の骨頂だな」
「はぐぁっ!?」
開口一番からどストレートな批判を告げられ、めぐみんはピシッと固まった。
「威力だけ見れば、確かに最強魔法と言える。しかしそれだけだ。発動するまでの時間が長い上に燃費も悪い。これなら、初級魔法のほうがまだマシだろう」
バージルは呆れるようにため息を吐きながら、感想の続きを話す。
詠唱から発動までに時間がかかるのは、めぐみんがわざとやっているからなのだが……燃費が悪いのは紛れもない事実。
とはいえ――自身の愛する爆裂魔法を初級魔法以下だと貶されて、めぐみんが黙ってる筈もなかった。
「い……今っ! 私の前で言ってはならないことを口にしましたね!? 初級魔法!? 爆裂魔法がそんな物より劣ると言いますか!?」
「無粋の極みと言える魔法を好んで使う、貴様の気が本当に知れん。イカレているのか?」
「誰がイカレ集団のアクシズ教徒ですか! くっ……貴方ならば……我が同志である貴方ならばっ! 爆裂魔法の良さをわかってもらえると信じていたのに!」
「ちょっと待ってめぐみん。何か今、私的に聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするのだけれど?」
バンッと机を叩くと、めぐみんは声を荒らげてバージルに言い返す。が、バージルは言葉を撤回せず、更に爆裂魔法を侮辱してきた。
(一方的だが)バージルとは波長が合うと思っていためぐみんは、今までの同志を見る目から一変、目の敵のようにバージルを見た。
彼と正反対の弟ならば、めぐみんの爆裂魔法も大層気に入ってくれたことだろうに。
「めぐみん、少し落ち着いて――」
「いいえダクネス! ここばかりは譲れません! 紅魔族の名にかけて!」
怒りで興奮しているめぐみんを宥めようと、ダクネスは声を掛けるが、今の彼女はどうにも静まりそうにない。
めぐみんはキッとバージルを睨むと、宣戦布告するように指差して告げた。
「今に見ていてください! いつかバージルに、爆裂魔法の偉大さをわからせてやります! 覚悟していてください!」
「フンッ」
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しばらくして、慌ただしくも食事を終えたバージル達。
未だ興奮しているめぐみんを拘束しながらも、ダクネスは酒場を去っていった。
二人を見送ったバージルは、そこでフゥと息を吐く。
「(ようやく解放される……)」
カズマから受けた依頼。それがやっと終わった今、バージルはドッと疲れを感じた。
今日は帰ってすぐに寝よう。そう思いながら、バージルは自分の家へ足を進める。
――が、それを残っていたアクアが呼び止めてきた。
「どこ行くのお兄ちゃん? 私達の家はこっちよ?」
「……?」
そう言われ、バージルは振り返ってアクアを見る。彼女は、不思議そうにバージルを見つめていた。
むしろお前がどうしたのかと疑問に思ったバージルは、アクアへ先程の発言について尋ねる。
「何を言っている?」
「何って……お兄ちゃん、1日カズマと交代するんでしょ? なら、寝る場所もカズマと変わらなきゃじゃない」
「馬鹿が……俺は生活まで入れ替えるなど言ってな――」
アクアの言葉を聞き、バージルはそんなこと言っていないと言い返そうとした――が、そこでカズマの話した依頼内容を思い出す。
彼は、確かに言った。鉱石を見せた時――「依頼内容は、1日だけ俺とバージルさんの生活を入れ替える」と。
「(カズマの奴め……抜け目のない……)」
ちゃっかりカズマが、生活の入れ替えを依頼内容としていたことを思い出し、バージルは小さく舌打ちをする。
恐らくカズマも、依頼内容は覚えているだろう。もし、ここで勝手に自宅へ戻ってしまえば、依頼未達成ということで報酬の鉱石を受け取れない可能性もある。
報酬も得られず踏んだり蹴ったり。それだけは絶対に避けたいところだ。
ならばここは、依頼通り生活を入れ替える――カズマの住んでいた場で寝泊りし、翌日の昼までアクア達と付き合わざるを得ない。
今回の依頼を、カズマの代わりに1回だけアクア達とクエストに同行することだと勘違いしていた自分を恥じ、バージルはため息を吐く。
「……さっさと案内しろ」
依頼ならば従わざるをえない。バージルはそう自分に言い聞かせ、アクアに案内を頼む。
それを聞いたアクアは、嬉しそうに笑いながらバージルの先を歩いて行った。
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アクセルの街にある、野原が広がる平原地帯。
居住区から離れて平原に出た時は少し疑問に思ったが、郊外に家でも建てたのだろうと納得し、バージルは黙ってついていった。
そして、しばらく歩き――2人はアクアとカズマが住んでいる家に辿り着く。
――それは、どう見ても馬小屋だった。
「……」
「んっ? どうしたのお兄ちゃん?」
馬小屋を前に固まっているバージルに、アクアは首を傾げながら声をかける。
金が無い冒険者は宿に住めず、馬小屋を宿代わりにしているという話は聞いたことがある。
そういえば、アクアがミツルギとアクセルの街で出会った時、カズマと馬小屋で住んでいると言っていた。
最初はまさか、と思っていたが……本当に住んでいたとは、バージルも予想していなかったのだ。
「……貴様は、ずっとここに住んでいるのか?」
「そうよ? 本音を言えば、そろそろ屋根のある家で住みたいんだけど……お金がねぇ……」
「魔王軍幹部を撃退した時の報酬があっただろう。あれはどこへ行った?」
お金がない故に馬小屋に住んでいるとアクアは話したが、その筈はない。
バージルは確かに見ていた。バージルならびにめぐみん、ダクネス、そしてアクアも、魔王軍幹部――ベルディアが街に襲来した日、彼を追い払った功績として、報酬の1000万エリスを渡すと約束されたのを。
そしてバージルは、既にそのお金を受け取っている。ならば、アクアも受け取っている筈なのだ。
1000万エリスは5人で分配されたが、それでも大金なのに変わりはない。あの金があれば、宿に泊まることなど容易な筈。
一体それはどこへ消えたのか。まさか一夜にして酒へ変わったわけではあるまいと思いながら、バージルは尋ねる。
するとアクアは――突如怒りを顕にして、バージルへ愚痴るように理由を話した。
「それが聞いてよお兄ちゃん! お金をもらおうとしたら受付嬢が、領主のアルなんとかから『あのデュラハンが住んでた古城は、元々私のものだったけど、爆裂魔法でかなり傷を付けられたと街の冒険者から聞いた。だからその分の弁償代を関連者に請求させてもらう』と言われたので、私とめぐみんとダクネスの報酬から差し引きましたって! お陰で報酬半減どころかマイナスよ!? 借金増し増しなのよ!? 酷いと思わない!?」
「(アルなんとか……アルダープのことか……)」
アレクセイ・バーネス・アルダープ――ベルゼルグ王国の内、アクセルの街周辺の領土と管理する領主であり貴族。
その姿は、まさしく悪徳貴族を絵に書いたような人物で、貴族のくせに自分の金を使うことを渋るセコイ男だと、街の住人から囁かれており、そう記述されている本もあった。
元いた世界でバージルは、貴族というのは基本私腹を肥やす豚というイメージを持っていたが、どうやらこの世界も同じらしい。
また風の噂で、アルダープは古城奪還のために数多くの冒険者を雇った金が無駄になったからと、デュラハンを倒した謎の冒険者――バージルを恨んでいると、彼は耳にしていた。
今のところ、バージルがデュラハンを倒したことを知っているのは、エリス、カズマ、アクア、めぐみん、ダクネス、受付嬢ことルナの6人のみ。
もし、このことがアルダープの耳に入れば、彼がバージルへ金を請求する可能性はなきにしもあらず。
時間の問題かもしれないが、ひとまず今は、自分がデュラハンを倒した事実を広めさせないよう釘を刺しておくかと、バージルは考えた。
「そりゃま確かに、私もめぐみんに指示させて爆裂魔法打ち込ませてたけど! それは、あのデュラハンがムカついたからやっただけで、古城を壊すつもりはなかったの! しかも、あの古城がアルなんとかってヤツのだって知らなかったし! そもそもアンタの物だったら、あんな脳無し騎士なんかに占拠されないよう、ちゃんと管理しときなさいよっ!」
余程アルダープに金を奪われたことがご立腹なのか、アクアは愚痴を話しながら、やつ当たりで近くに置いてあった木のバケツを蹴る。
「るっせーぞゴラァッ! 今何時だと思ってんだ! ド
「ヒッ!? す、すみません!」
が、どうやらここの馬小屋は共同の宿屋だったようで。先に就寝していただろう男からドスの効いた声で怒られ、アクアはすぐさま謝った。
女神の威厳もクソもないアクアを見て、バージルはため息を吐く。そして馬小屋の入口には入らず、横へ足を進めた。
「あれ? お兄ちゃんどこ行くの?」
「こんな寝床では目覚めが悪い。俺は外で寝る」
馬がいないとはいえ、馬小屋で寝るのはバージルとして抵抗があった。それならば、まだ外で夜空を眺めながら寝たほうがマシというもの。
バージルはそう言って、馬小屋の側面へ移動する。焚き火用に置かれた薪があるのを見ながら、バージルは馬小屋の壁にもたれ、片膝を立てて座る。
そしてバージルは腕を組み、両目を閉じて眠りについた。
――が、程なくしてバージルは目を開ける。
その視線は、バージルの左側へ。
「……何故貴様も来る」
「折角お兄ちゃんがいるんだから、一緒に寝ようと思って」
そこには、可愛らしく後ろで手を組んでバージルを見下ろしてくるアクアがいた。
ブルータルアリゲーターから(仕方なく)助けてやって以降、彼女はバージルに懐きっぱなしだ。
バージルは、時間が経てば元に戻るだろうと楽観視していたが、この様子だとしばらくは戻らないだろう。下手すれば、ずっとこのままかもしれない。
やはり、あそこは我慢して浄化が終わるのを待つべきだったと、バージルは過去を嘆く。
「……好きにしろ」
冷たく突っぱねず、なんだかんだで付き合っているバージルにも原因はあるのだが。
バージルにそう言われたアクアは微笑み、バージルの横に膝を抱えて座る。並んで座るその様は、まさしく兄妹のよう。
また、アクアのお兄ちゃん呼びにバージルは突っ込まなくなっていたが、決して認めたわけではない。突っ込むのも面倒になったからだ。
「……綺麗な星……」
「ほう、貴様に星を鑑賞できるほどの感性があったとはな」
「ちょっ!? 私だって、女神である以前に、れっきとしたレディーなのよ!? 綺麗な物を見て感動することぐらいあるわよ!」
天体観測をするアクアの姿が珍しく、思わずそう口にしたバージルへアクアが突っかかる。
「……んっ?」
とその時、突然アクアが怪訝に思う顔を浮かべると、スンスンとバージルの匂いを嗅ぎ始めた。
妙な行動をしてきたアクアを、バージルは不思議に思いながらも見つめる。
しかしアクアは続けて匂いを嗅ぐと――バッと立ち上がり、酷く驚いた様子で、そして信じられないと言うかのような顔で口を開いた。
「どうして……どうしてお兄ちゃんから、エリスの力が!? まさかお兄ちゃん、エリス教徒だったの!?」
「……? 何を言っている?」
「惚けても無駄よ! 私の曇り無き眼と鼻がそう言ってるわ!」
「惚けてなどいない。俺が神に仕えるなど――」
エリス教徒だと疑ってかかるアクアに、バージルは反論しようとする。
が――そこで彼は言葉を止める。アクアは、バージルからエリスの力を感じると言った。
では何が原因か。バージルは服の襟口に手を入れ、原因として思い当たる物を取り出した。
「……貴様が言っているのは、恐らくこれが――」
「スティール!」
バージルが、エリスから渡されたアミュレットを見せた途端、アクアは即座にバージルの首元から無理矢理引き離し、それを奪い取った。
そして数歩駆け出すと、アクアは前方を見て大きく振りかぶる。
「悪っ! 即っ! 斬っ! 滅ぶべしエリス教! ゴッド投ほぉおおおお――うきゅっ!?」
メジャーリーガーも顔負けの気迫に満ち溢れた投球フォームで、アクアはアミュレットを投げ捨てようとする――が、それをバージルが軽く頭を小突いて止めた。
前方に投げられず、アクアの手から離れるアミュレット。それをバージルは拾い上げる。
「俺の私物を勝手に放り投げようとするな」
「私物! 今私物って言った!? やっぱりエリス教徒なのね! ダメよお兄ちゃん! エリスは胸をパッドで盛るような詐欺師なのよ!?」
「誰もエリス教徒になったなどと言っていないだろう。これはただ……街にいる奴から貰ったものだ」
「くっ! お兄ちゃんまでも牙にかけようとするとは……やはりエリス教徒は悪だわ! 待っててお兄ちゃん! 代わりに私特製のアミュレットを――!」
「いらん。貴様の加護がついた物など、不幸が訪れる」
「なんで!? なんでエリス教はよくてアクシズ教じゃダメなの!?」
このアミュレットは、エリスから贖罪人の証として受け取ったもの。それを捨てることはできない。バージルはエリスから貰ったことを隠して話す。
が、その裏事情を知らないアクアにとっては、自分の兄が後輩に取られたようにしか思えなかった。
バージルがエリスの加護付きアミュレットを身に付けるのは嫌だと、アクアは必死に食い下がるが――。
「うるせぇっつってんだろォーがボケナスッ! 何度言えばわかるんだ! このスッタコがッ!」
「ヒィィッ!?」
その時、馬小屋の方から大きな音が立つと同時に、先程のドスの効いた男の声が聞こえてきた。
またも男に怒られ、アクアは涙目になって怯える。それを見て、バージルは再びため息を吐いた。
「……だそうだ。さっさと寝るぞ」
「……むぅううううー……」
早く寝るよう促すと、バージルはアミュレットを再び首にかけてから、先に壁際へ戻って座る。
アミュレットを手放す気がないと知ってか、アクアは不満げに頬を膨らましてバージルを睨む。
「――いいもんっ!」
「ムッ?」
すると、アクアはそう言いながらバージルのもとへ寄ってきた。
何がいいのかと疑問に思い、バージルは彼女の動向を見ていると、アクアは壁にかけてあったバージルの武器、雷刀アマノムラクモを手に取る。
そして、そのまま壁にもたれて座ると――刀がへし折れるんじゃないかってぐらいにギューっと刀を抱き締めた。
「お兄ちゃんの刀に、私の加護を絶対落とせないぐらい付けるからいいもんっ!」
「……」
まるで自身の匂いをこびり付けるかのように、しっかりと刀を抱き締めたままアクアは話す。
アクアがギュッと抱いているアマノムラクモを見て、あのドラゴンが嫌そうにもがいてアクアの束縛から逃れようとする様が頭に過ぎる。明日には抜けなくなっているんじゃないだろうか。
しかし、今の彼女には何を言っても聞かなそうだ。そう思ったバージルは、特に何も言わずアクアから目を背ける。
念のため、明日は刀の調子を見ておこう。そう考えながら、バージルは目を閉じた。
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――翌日、太陽が空の真上に浮かび上がった頃。
「ほいよ、コカトリスの唐揚げだ。いつもあんがとよ」
「いえいえ、ここの唐揚げは世辞抜きで美味いっすから。そんじゃ!」
アクセルの街、多くの奥様方が買い物に勤しんでいる商業区にて、カズマは行きつけの店で一口サイズの唐揚げを買っていた。
店主に別れを告げたカズマは、揚げたてホカホカの唐揚げを美味しそうに頬張りながら道を歩く。
「おうカズマ! 今日はあの嬢ちゃん達と一緒じゃねぇのかい?」
「おっす。今日は俺だけ休養日だ。アイツ等は仲良くクエストに行ってるだろうよ」
「おっ、カズマの旦那! この時間にここへ来るとは珍しいな。どうだい? ちょっくらウチの商品見てくか?」
「よう。今はあんまり手持ちがないから遠慮しとくよ。また今度、ゆっくり見させてもらうから」
まだ駆け出しも駆け出し、中級冒険者にはほど遠いカズマだが、この街では中々に顔が広かった。
「パンツ脱がせ魔」だの「ヌルヌルプレイのスペシャリスト」だの「鬼畜カズマ」だのと、知らない内に散々な異名を付けられているが、それが男性陣からは逆に好評なのか、この街に住む男達との仲は良い。女性陣との仲はゼロどころかマイナスに落ちていたが。
また、例の問題児3人組とパーティーを組んでいる上に、有名人なバージルとよく行動しているのも、カズマの知名度が高い理由に入っているだろう。
すれ違う冒険者や店主と声を交わしながら、カズマは商業区を出て行く。
程よく雲のかかった晴れ模様。冷たくも心地よい秋の風。
自然の色を残す街の空気を、カズマは気持ちよさそうに深呼吸をして味わう。
「(あぁ……っ! アイツ等のいない休日が、こんなにも素晴らしいだなんて……!)」
そして、問題児達のいない平和な生活を、これ以上ない幸せを、カズマはひしひしと感じていた。
バージル達と別れた後、カズマは与えられた休暇を有意義に使おうと思い、クエストには行かず街を散策していた。
店番を頼むと言われていたが、依頼は受けなくていいとのことだったので、この世界の文字で「
昼は街をぶらつき、夜は美味い物を食い美味い酒に酔い、ゆっくりと大浴場に浸かって、日頃溜まっていた疲れを癒す。
生活を入れ替えていたので、その後はバージルの家へ。暖炉に火を点け、その前で机上に置いてあった本をそれっぽく読んでみたり。クソ難しい内容だったが。
藁の敷布団などではなく、ちゃんとしたベッドで寝転がり、窓から見える夜空を嗜みながら眠りに落ちる。この世界に来てから、あの時ほど熟睡できたことはないだろう。
気持ちのいい朝を向かえたら、また街へ散策に。カズマは、1日の休暇をじっくりと楽しんでいた。
――が、それもあと数分で終わり。
「もう昼……か。ギルドにいるかもしれないけど、ひとまず荷物を取りに帰るか」
休みが終わってしまう悲しみを胸に抱き、カズマは寂しそうに呟く。元の世界で社畜と呼ばれていた人達も、休みが終わる時はこんな気持ちだったのだろうか。
そんなことを思いながらも、カズマは置きっぱなしだった荷物を取りに、バージルの家へ向かった。
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商業区からバージルの家までそう遠くなかったため、程なくしてカズマはバージルの家があるエリアに入った。
休みが終わる瞬間を噛み締めるように、カズマはゆっくりと帰路を歩き、バージルの家へ向かう。
そして、視線の先に目的地を捉えると――家の扉にもたれている、1人の男を発見した。
「……」
この家の持ち主、バージルである。
彼は腕を組んで両目を閉じ、誰かを待つようにジッとそこに佇んでいる。
もっとも、誰を待っているかは明白だったが。
「……バージルさん」
「……」
カズマは家の前に移動し、バージルと向かい合うように立つと、自ら彼に声を掛ける。
その声を耳にしたバージルは、両目を開けてカズマを見る。
向かい合った2人。バージルと目を合わせたカズマは、ビッとその場で背筋を真っ直ぐ伸ばし――バージルへ敬礼をした。
「――お疲れ様でした」
「……あぁ」
カズマの労いの言葉に、バージルは酷く疲れた声で返事をした。
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「約束通り、報酬の鉱石は貰うぞ」
「そりゃ勿論……バージルさん、今回は本当にありがとうございました」
「……もう二度と、この依頼は受けん」
室内へ場所を移動した2人。椅子に座ったバージルの前で、カズマはこの家に置いていた、鉱石の入った袋を机上に置く。
話を聞くと、どうやらバージルは午前中にも問題児達とクエストに行っていたらしく、案の定3人に振り回されたのだとか。
また、アクアがバージルの刀に加護を与えたせいで、刀には女神の聖なる力が宿ったが、その代わり威力が少しばかり減ったらしい。
その話を聞いたカズマは、後で駄女神の羽衣を焚き火で炙ってやろうと決心した。
もっとも、雷刀アマノムラクモの素材元は特別指定モンスター。今まではその最強武器にバージルの魔力というチートを加えていたので、少しばかり減っても何の問題もないだろうが。
「で、誰か依頼に来ることはあったか?」
「いや、俺がいる間は誰も来なかったですね。まぁまだ開店して三日目ですし、そんなもんですよ」
本当はほとんど家におらず街へ出歩いていたが、そこは伏せてバージルに報告する。
バージルもまだ客はこないと思っていたのか、そうだろうなと言葉を返した。
しかしカズマは、ただただ散策していたわけではない。
「でも大丈夫っすよ! バージルさんが留守の間、俺がしっかりと宣伝しておきましたから!」
「……そうか」
カズマは街を散策する傍ら、街の住人にバージルが経営するデビルメイクライのことを紹介していた。
自分に安らぎをくれたバージルへ、少しでも力になるために。鉱石だけでは足りないと感じ、カズマは自ら動いていた。
彼は、この街で意外と顔が広い。そのことを知っていたバージルは、彼が紹介したのなら大丈夫だろうと、安心するように呟く。
――とその時、二人の会話を中断させるように、扉をノックする音が聞こえた。
「おっ! 早速来たみたいですよ! はいはーい!」
早くも自分の宣伝効果が現れたことに、カズマは喜びを覚えながら扉へ駆け寄る。
バージルが無言で見つめる中、カズマは自ら扉を開け、来客と向き合った。
「……ムッ、失礼。ここデビルメイクライの店主は貴殿であるか?」
入口前にいたのは、赤いマントに白い甲冑に黒い服という、いかにも騎士風な男性が1人。
彼は、店内から現れたカズマにそう尋ねてきた。
「あ、いや……ここの店主は俺じゃなくて、今椅子に座ってるバージルさんですよ」
カズマは身を退きながら、店内にいたバージルを指して来客に伝える。
騎士風の来客は店内に入り扉を閉めると、甲冑の下から見える目で、バージルをまじまじと見つめながら口を開いた。
「そうか……貴殿があの、魔王軍幹部のデュラハンを倒した……」
「……待て。貴様、何故それを知っている?」
バージルが魔王軍幹部の1人を倒したことは、まだカズマ達協力者と受付嬢しか知らない筈。
なのに何故、この男は知っているのか。バージルは理由を尋ねる。
すると来客は正直に、バージルが魔王軍幹部を倒したことを知った理由を話した。
「それは昨日、この街で『魔王軍幹部を倒した蒼白のソードマスターが営む便利屋がある』という噂を聞きまして……」
「(噂……まさか……)」
昨日。それも、バージルが魔王軍幹部を倒した、という噂ではなく、魔王軍幹部を倒したバージルが経営する便利屋がこの街にある、という噂。
それに心当たりがあったバージルは、来客から視線を外し――来客の横で申し訳なさそうな顔をしているカズマに向けた。
「あー……すみません。客寄せ文句には持って来いの情報だったんで……つい……」
噂をばら撒いた張本人のカズマは、そう口にしながら謝る。
だが、魔王軍幹部を倒した情報は、いつかバレるだろうとバージルは思っていた。それが早まっただけに過ぎない。
騎士の様子を見る限り、流石にバージルが悪魔だという情報は流していないようだったので、バージルは特に気にしなかった。
呆れてため息を吐きはしたが、カズマに怒りは向けず、再び来客に視線を戻す。
「で……その俺に何の用だ?」
十中八九依頼だとわかっているが、バージルは来客にそう尋ねる。
すると来客は、数歩前に出てバージルの前に立つと――懐から丸めた紙を取り出し、それを広げ、バージルに見せながらこう告げた。
「アルダープ様より、貴殿に多額の請求を求められています。迅速なお支払いを、とのことです」
「……何っ?」
それは――バージルでさえも思わず目を疑うほどの金額が記された、請求書だった。
備考には「魔王軍幹部討伐目的で雇用した兵士の費用」と書かれている。
その文章を見て、バージルは思い出す。
金にうるさいアルダープは、魔王軍幹部を勝手に討伐されて、兵士を雇った金が無駄になったと、魔王軍幹部を倒した者に恨みを持っていた。
もし、そんなアルダープの耳に、バージルが魔王軍幹部を倒した情報が入れば――まず間違いなく、バージルにけしかけるだろう。お前のせいで金が無駄になった。だから弁償しろと。
そういった意味が込められたのが、この――バージルが払うべきではない請求書なのだ。
昨日、噂を広めないようにと釘を刺そうと思っていたが、どうやらその暇さえ与えてくれなかったようだ。
「えっ!? えっ!? どういうこと!? っていうかアルダープって、俺達に超理不尽な借金負わせた奴じゃん!」
アルダープのことは知っていても、バージルのことを恨んでいるという噂は知らなかったのか、横で聞いていたカズマは酷く慌て出す。
超理不尽な借金というのは、アクア達がおっかぶった物と同じく、爆裂魔法で城を攻撃した者とその関連者に、城の修繕費として請求されたものだ。おまけにカズマはアクア達と違って、報酬の差し引きが無いため、その額もとんでもない物となっている。
そんなカズマの言葉を聞いた来客はそちらへ顔を向けると、彼に話しかけた。
「借金……? すると、貴殿はカズマ殿で?」
「あぁそうだよ! いいか? アンタ等のせいで俺は今でも馬小屋生活で――!」
「アルダープ様よりお言葉を預かっております。この噂を流してくれた者にはとても感謝している。その者には何でも1つ褒美をやろう、と。もしかしたら、カズマ殿の借金もチャラにしていただけるかと……」
「マジで!? ありがとうございま――いやいやそうじゃなくて!? 俺そんなつもりで噂流したわけじゃないから!? 良かれと思って! 良かれと思ってやったんだから!?」
彼だけ借金をなかったことにしてくれると持ちかけられ、カズマはグラッと落ちかけるが、その為にやったわけではないと主張する。
その様子を見ながら、バージルは深くため息を吐いた。
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アルダープから吹っ掛けられた、理不尽な請求書。
兵士雇用にしては金額が多過ぎるし、そもそもバージルが払うべきではない物だ。裁判にかければ、バージル側が勝つことも可能だろう。
だがバージルは――後日、請求された金額をキッチリと支払った。
莫大な金額だったが、バージルには特別指定モンスターと魔王軍幹部ベルディアの討伐報酬がある。3分の2は減ったが、払えない金額ではなかった。
また、その話を聞いたカズマは、もう何度頭を振ったかわからないぐらいに謝ってきたが、「貴様の気にすることではない」とだけバージルは伝え、カズマを帰させた。
因みに、カズマの借金は結局チャラになったらしい。なんだかんだでちゃっかりしている男である。
それよりも、普段ならバージルは絶対に支払おうとしないだろうに、何故今回は支払うことを決めたのか。
それは――彼が現在読んでいる本に、理由が書かれていた。
彼1人しかいない静かなデビルメイクライ店内。彼は無言のまま、手に持っていた本を読み進める。
それには、様々な出来事や物、人について記されていた。ベルゼルグ王国、第一王女、ダスティネス家などについての解説と、それらについての著者による見解も書かれている。
しかしこの本は、巷では頭のおかしいイカれた集団として恐れられている『アクシズ教徒』が書いたらしく、見解では「エリス教徒滅ぶべし。慈悲はない」「第一王女ペロペロ」などと、個性が溢れに溢れていた。
そんな、若干カオスな本の中で、今彼が目にしているのは――アレクセイ家の現頭首、アレクセイ・バーネス・アルダープについてだった。
アルダープの性格は、著者も快く思っていなかったようで、よくもまぁこれを出版できたものだと思う程に、所々アウトじゃないかってぐらいの暴言が書かれている。
その文中で著者は――。
「彼のような者が、あそこまでの地位に昇ってこられたのはおかしい。何か必ず、悪事を働いている筈だ。そんな顔と図体をしている」
――と、陰謀論を唱えている。
しかしその文章から続くように、著者はこうも記述していた。
「色々調べてはいるが、悪事を働いたという情報と証拠を一切得られない。その様子も見られない。何なんだあの豚。焼いてやろうか」
一般人が読んだら、頭のおかしいアクシズ教徒の単なる被害妄想だろうと思い、気にも止めないだろう。
だがその文章に――バージルは注目していた。
あの請求書も、普通なら請求することすら叶わないほどに横暴な物だ。しかしそれが現に通り、バージルに渡ってきた。
果たして、領主という権力を振りかざすだけで、ここまで理不尽な要求が通せるものだろうか?
確証はない。しかしバージルは微かに――アルダープから『臭い』を感じ取っていた。
「(アルダープ……今回は貴様に『貸し』てやる)」
独り、バージルは不敵な笑みを浮かべる。
いずれアルダープとは会うことになりそうだ。その時には、今回『敢えて』支払ってやった金を、倍にして返してもらおう。
そう思いながら、バージルは手に取っていた本をパンッと閉じ、机に置く。
時刻はまだ朝。開店はしているが、まだ依頼人は来ていない。
しかしバージルは――本を読むのをやめて、ジッと扉を見つめていた。
と、その時――扉の方から、コンコンッとノックする音が聞こえる。
「すみませーん……いらっしゃいますかー?」
扉の奥からは、エリスでもダクネスでもない、聞き慣れない女性の声が聞こえてきた。
だがバージルは返事をすることなく、黙って様子を伺う。
「あっ、空いてる……失礼しまー……ってえぇっ!? わ、私凄い睨まれてる!?」
鍵が空いているのを確認した来客は、扉を開けて中に入る。
しかし、ジッと睨みつけていたバージルと目が合い、相手は怯えた様子を見せた。
長く茶色い髪に、紫色の大きめなローブを身に纏った、白い肌を持つ女性。髪で片方隠れた目は、余程バージルの睨みが怖かったのか、少し涙で潤んでいる。
「……何者だ?」
が、バージルは睨むのをやめず、現れた女性に問いかける。
女性は未だに睨まれて怯えながらも、店内を歩いてバージルの前に立つと、彼の質問に答えた。
「えっと……私は、アクセルの街で魔法具店を経営しているウィズと言います。最近、街に便利屋さんが開いたと聞いたので、ご挨拶に来ました」
アルダープの請求に無理があるかもしれませんが、彼にはそれほどの権力と『力』があると思っていただけたらと。流石にそれが何なのかを言ったら、アニメ視聴原作未読の方へのネタバレになってしまうので。ほとんどバラしてる気もするけど。