この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第8話「このダンジョンでお宝探しを!」

 ダストとのコボルト狩りを終え、ダンジョンへ向かって再出発したバージルとクリス。

 バージルとしてはコボルト狩りで無駄な時間を過ごしたので、少しでも早くダンジョンに着きたいところだったのだが……。

 

「おうおうテメェ等っ! 生きてここを通りたけりゃあ、金目のモンは置いていきな!」

 

 幸か不幸か、モンスターが蔓延るこの世界では貴重な存在とされている山賊に、道中で絡まれてしまった。

 バージルより高身長でガタイのいい三人の男は、バージル達を脅すようにナイフを見せつける。が、バージルは勿論のことクリスさえも畏怖する様子を見せない。

 

「抵抗するなら俺のナイフでズタズタに……おぉ? こりゃあいい姉ちゃん引き連れてるじゃねぇか」

「確かにイイ女だ。真っ平らなのがちと不満だが、最近溜まってっからな。この際文句は言うまい」

 

 山賊達はクリスを舐めまわすように見ながら、距離を詰め始める。

 一方で、聞き捨てならないフレーズでもあったのか、クリスはムッとした表情で腰元からナイフを抜き、いつ襲われてもいいよう戦闘態勢を取る。

 

 見た目はか細い女の子だが、実態は世界の各地を見て回ってきた冒険者。たかが山賊に遅れを取るほど脆弱ではない。

 助けはいらないだろう。バージルはそう思っていたのだが……自分で片付けた方が早い。効率を考えた結果、彼は自らクリスの前に出た。

 

「バ、バージル?」

「あぁん!? テメェに用はねぇんだよスカシ野郎! 邪魔するってんならテメェもっ──!?」

 

 怒りを覚えた山賊が、彼に近付きながらがなり立てる──が、彼の言葉は途中で止まってしまった。

 彼の鳩尾には、バージルの拳が。山賊は苦しむ様子も無くうつ伏せで倒れる。体格差だけを見て自分達が上だと思っていた残る山賊は、怯んだような目でバージルを見る。

 

「失せろ」

「「ヒ、ヒィィィィィッ!?」」

 

 放たれたバージルからの警告。背筋が凍るような感覚を抱いた山賊は、のびていた仲間を引き摺り立ち去った。

 

「無駄な時間を食った。さっさと行くぞ」

「あっ……うん」

 

 バージルはクリスに短く告げて、再び歩き出す。クリスは戸惑いながらも応じ、黙ってバージルの後を追いかける。

 クリスが物珍しそうにバージルの背中を見つめている傍ら、彼は右拳に目を落としていた。

 

 

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 山道を歩き、空に浮かぶ太陽が頂点から西へ落ち始めた頃。

 

「ここか」

 

 バージルとクリスの眼前にあったのは、今や古くなり苔や草の生えた石で構成された遺跡。今回の目的地である、フーガダンジョンの入口だ。

 

「準備はいい? って、聞くまでもないね」

 

 駆け出し冒険者ならば初ダンジョンを前にゴクリと息を呑む場面だが、この男は既に修羅の洞窟──俗に言うEXダンジョンをソロで攻略した身。

 違いがあるとすれば、モンスターのみでほぼ一本道な洞窟と正反対に、内装は入り組んでおり、罠も仕掛けられているのだが、それも『生前で』経験済だった彼には緊張も何もなかった。

 

「じゃあ早速行こうか。ひとまずバージルはアタシの後をついてきて」

 

 少し緊張感のないダンジョン潜入だが、クリスはバージルにそう指示を出して先頭を歩く。バージルは黙ってついていき、フーガダンジョンへ足を踏み入れた。

 

 

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「道中のモンスターは君がいるから問題ないだろうけど、罠は別だよ。予想外な所から飛び出してくるからね」

 

 壁に手を当てつつ階段を降りながら、クリスは後ろで松明を持っているバージルへ忠告する。

 バージルは強い。が、強さだけで冒険者は務まらない。こういったダンジョンにある罠を察知し、掻い潜れるようにならなければと、クリスは先輩風を吹かせていた。

 話している内に、目前へ扉が迫った。クリスは扉を開き、先にあった部屋を進みながら自信満々に言葉を続けた。

 

「でも、このアタシがいれば大丈夫! どんな罠だろうと華麗に回避しにゃわっ!?」

 

 瞬間、バージルの前からクリスの姿が消えた。バージルは無言のまま視線を下ろす。

 

「こ、こんな最序盤から罠を仕掛けるなんて、やるじゃないか」

 

 危うく落とし穴に落ちそうになりながらも、何とか両手で崖を掴んでいるクリスの姿があった。堂々と言ってのけた直後にこれである。

 流石に恥ずかしかったのか、クリスは顔を真っ赤にしながらもよじ登る。一方でバージルは、未だ視線を落とし穴へ向けたまま。

 

「さ、最初はちょーっと油断してたけど、ここからは大丈夫! アタシの『罠発見』スキルで……バージル? どうしたの?」

「松明を持っていろ」

 

 クリスは不思議に思いながらも、バージルから松明を預かる。

 刀のみを手にしていたバージルは、そのまま足を進め──何も言わず、自ら落とし穴へと飛び込んだ。

 

「うえぇ!? ババババババージル!?」

 

 クリスは慌てて手を伸ばすも届かず。バージルは穴の底へ落ちていく。穴の底からは音が聞こえない。かなり深い穴なのだろう。

 何故いきなりこんな真似をと疑問を抱いたが、考えなしに行動を起こすような男とも思えない。クリスは落とし穴に顔を覗かせ、心配しながらも彼を待つ。

 

「んっ? 何か近付いて来て──うわぁっ!?」

 

 しばらく待つと、穴の底から何かが湧き上がるように接近し、勢いよく飛び出してきた。危うく顔面に受けそうになりながらも、クリスは尻餅をついて顔を上げる。

 彼女の前に立っていたのは、先程落とし穴に自ら飛び込んだ筈のバージル。

 

「モンスターの気配を感じて降りてみたが、ただの雑魚ばかりだった」

「そ、そっか……ねぇ、どうやって戻ってきたの? 戻る用のジャンプ台でもあったの?」

「あるわけないだろう。跳んで戻っただけだ」

 

 とてつもない深さであろう穴に飛び込み、そこからジャンプして戻ってきたと平然に語るバージル。クリスは呆れて物も言えなかった。

 とその時、バージルは思い出したかのように懐へ手を入れ、クリスに差し出してきた。

 

「ひとつ、底で気になる物を見つけた。宝かどうかわからんが、一応貴様に預けておく」

「えっ?」

 

 手のひらには、彼の服とは対照的に赤い光を放つ、うっかり落とせば見失いそうな程小さい宝石。クリスは口に手を当て、四方八方から宝石を観察する。

 

「『宝感知』に反応しないってことは、お宝じゃない……けど、もしかしたらダンジョンで使えるアイテムかもしれないね。オーケー、アタシが預かっておくよ」

 

 クリスはバージルから宝石を預かると、腰元に下げていたポーチに宝石を入れる。

 初っ端の落とし穴に少々時間を取られてしまったが、クリスとバージルはダンジョンの探索を再開させた。

 

 

*********************************

 

 

 フーガダンジョンには、住み着いているモンスターだけに飽き足らず、進路を阻むように罠が仕掛けられている。

 そこそこレベルを上げ、初心者から脱した中級冒険者でも容易には進めないダンジョンであったが、片やダンジョン探索は慣れっこの盗賊、片や敵なしの剣士。

 モンスターが立ち塞がればバージルが容易く屠り、罠はクリスが察知し『罠解除』で難なく回避。

 

 偶然にもダンジョン攻略にもってこいのコンビだった二人はペース良く探索を進め──気付けば、フーガダンジョンの最奥と思わしき部屋に辿り着いていた。

 

「うーん……ないなぁ」

 

 全ての引き出しを開け終えたクリスは、残念そうに呟く。

 彼女等がいるエリアは、かつてここに住んでいた冒険者が生活していたと思われる場所で、錆びたキッチンにボロボロの食卓、蜘蛛の巣だらけの本棚等があった。

 ここが最奥なら、どこかにお宝が隠されている筈。思い当たる所は探したが、未だ何も見つかっていなかった。

 

「どっかに隠しスイッチとかないかなぁ……バージルは何か見つけた?」

 

 クリスは振り返りつつバージルに声を掛ける。しかし彼は言葉を返さず、黙って別の部屋に入った。

 寡黙な冒険者は何人も見てきたクリスだが、ここまで無駄な会話をしない者は初めてであった。呆れてため息を吐きながらも、傍にあった扉を開け、バージルとは別の部屋に入る。

 

 冒険者達の食事所か会議室か、大きな円卓が部屋の真ん中に置かれていた。

 まだ調べていないのは、この部屋と先程バージルが入った部屋のみ。扉を閉めたクリスは、部屋の探索を始める。机の裏、花瓶の底、絵画の裏など、隠されていそうな場所は見逃さず。

 どちらにも無ければ、一度戻って見落としがないか探そう。そう考えながら、円卓の周りに置かれていた椅子を調べていた時──。

 

「……んっ?」

 

 一つの椅子にクリスは違和感を覚え、足を止めた。目を細めて椅子を注視する。

 一見ただの椅子であったが──背もたれの裏に、小さな丸い凹みがあることに気付いた。まるで何かをはめるかのように作られた凹みが。

 

「そう言えば……」

 

 とそこで、クリスは下げていたポーチに手を入れて、脳裏に浮かんだ物を取り出す。

 それは、赤く光る小さな宝石。途中で、バージルが落とし穴の底で見つけたものであった。

 もしやと、クリスは宝石を摘んで椅子の凹みへ。大きさも形もピッタリとはまった。

 

 刹那──扉からカチャリと音が立った。

 

「えっ!?」

 

 音を聞いたクリスは、慌てて扉へ駆け寄りドアノブに手をかける。だが、押しても引いても扉は開かない。

 罠だったのではと頭に過ぎったが、この部屋へ入る直前に『罠発見』スキルを使った時は、何も反応が無かった。今使ってみても反応を示さない。

 とすればこれは──そう考えた時、クリスの立っている場がグラリと揺れた。

 

「うわっ!?」

 

 突然の揺れに対応できず、クリスはバランスを崩して床に尻餅をつく。

 円卓の部屋はそのまま揺れ続け、壁に飾ってある絵画や棚の花瓶がいくつか床に落ちる。

 

「(これって……降りてる?)」

 

 扉がロックされたのを見るに、恐らくこの部屋ごと移動している。フーガダンジョンの最奥、お宝が眠る部屋へと。

 そしてお宝の前では、必ず待ち構えているであろう。ダンジョンではお決まりとも言える存在──お宝を守りし番人(ボス)が。

 

 しばらくして、部屋の揺れが収まった。そして施錠された扉から、再びカチャリと音が立つ。ロックが外れたのだろう。

 戻れるだろうかと宝石を取って再度はめるが、何も起こらない。一方通行のエレベーターだったことに不親切だなと不満を呟きながらも、クリスは扉へ目を向ける。

 

 できればバージルを連れてきたかったが、来てしまったものはしょうがない。一人で番人を倒し、お宝を頂戴する。

 そう意気込んだクリスは腰元からダガーを抜く。『潜伏』も使用し、扉に近寄る。

 どんな敵が待ち構えているのか。ゴクリと息を呑みながら、クリスはドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開いた。

 

 

 案の定、部屋の外はガラリと変わっていた。

 壁には永遠に光を放つとされる鉱石が灯りとしてつけられており、部屋中を明るく照らしている。

 灰色のレンガで作られた床と壁に覆われた部屋──そこには当然の如く番人(ボス)がいた。

 

 クリスが入ってきた扉から、真っ直ぐ進んだ先にある扉を守るように立ち塞がっていたのは、鋼鉄の守護者(アイアンゴーレム)。そして──。

 

「(バ、バージル!?)」

 

 アイアンゴーレムの前に、ここにはいない筈のバージルが立っていた。彼の倍近くは高いアイアンゴーレムを、バージルは黙って見上げている。

 一体どれほど睨み合っていたのか。赤い目を光らせたアイアンゴーレムは、手に持っていた巨大な斧をバージル目掛けて振り下ろす。

 

Get out of my way(そこを退け)

 

 が、斧が下ろされるよりも早くバージルは刀を抜いた。

 気付いた時にはもう刀は鞘から抜かれており、刃先を上に向けた刀に小さく雷が走る。

 バージルの前で、斧を持ったまま静止するアイアンゴーレム。彼が刀を鞘に納めると、それを合図にアイアンゴーレムの身体は分かれ、床に倒れた。番人すらも、彼の前ではガラクタ同然であったようだ。

 脅威が去ったのを確認したクリスは『潜伏』を解いてバージルに歩み寄る。

 

「貴様も来ていたか」

「こっちの台詞だよ。どうやってここに来たの? 私は、調べてた部屋の中にバージルが拾ってくれた赤い宝石をはめ込むスイッチがあったから、それを使って部屋ごと降りてきたんだけど……」

「調べていた部屋に、何らかの方法で結界が張られている鏡を見つけた。それを破ると鏡は消え、奥に螺旋階段が続いていた」

 

 クリスの質問にバージルは簡潔に答えて、横に目を向ける。そこには壁とカムフラージュしていたであろう扉が、開けっ放しになっていた。

 剣士でありながら結界を自力で破ったことにクリスは驚いたが、そんなことより。

 

「隠し通路が見つかったなら、教えてくれてもいいじゃん……」

 

 恐らくバージルは、クリスがスイッチを探している傍らで鏡を見つけ、先に進んでいたのだろう。勝手に動いていたバージルに不満を覚え、頬を膨らませるクリス。自分も人のことは言えないのだが、どうにも彼からは反省の色が見られない。

 モンスターをものともしない戦闘力に、高い知力。協力者としてはこれ以上にない存在だが、自分勝手に行動する、融通が効かない等の扱いづらさがたまにキズだなと、クリスはしみじみと感じていた。

 

 

*********************************

 

 

「──見つけた」

 

 重い扉を開けた先、門番が守っていた部屋に入ると、目的の物はすぐに見つかった。

 台座に置かれていた、黄金色に輝く丸い宝珠。暖かな印象を覚える光を前に、クリスも思わず見とれそうになる。

 

「これが宝か」

「うん、間違いなくじん……お宝だね。超がつくほどの」

 

 クリスは台座に近寄り、まじまじと鉱石を見つめながらバージルと話す。

 

「(魔力を放出しているが、一定の量から減っていない……興味深い宝珠だ)」

 

 この世界には、高密度に魔力が込められた『マナタイト』と呼ばれる宝珠があるとバージルは聞いていた。

 魔法を得意とする者の中には、そのマナタイトから魔力を引き出し、魔力を肩代わりさせて魔法を使う者もいる。

 となれば、この宝珠はマナタイトの上位互換──いや、完成形と呼べるだろう。

 

 とそこで、バージルに一つの疑問が過ぎった。

 フーガダンジョンは、元々冒険者が住処として使っていた場所。この宝珠も、恐らく過去に住んでいた冒険者の所有物だろう。

 なら、当時の冒険者は何を思って宝珠をここに置いたのか?

 少人数では到底開けられそうにない扉に、部屋を守る番人。その中には魔力を放つ宝珠があり、今もどこかへ魔力を送っている。

 まるで、家主が不在の時でも常に送られている電気のように。

 

「待て、それは──」

「んっ?」

 

 咄嗟に、バージルは止めるようクリスへ声をかける。しかしその宝珠は、既にクリスの両手に納められ、台座から離れていた。

 

 瞬間、バージル達のいる場が酷く揺れ始めた。

 

「うわっと!?」

「Damn it……!」

 

 強い揺れを受けて危うく宝珠を落としそうになるも、なんとか手のひらに納めてクリスは安心するように一息つく。その横で、バージルは予想通りの展開を前に顔をしかめていた。

 

 宝珠は、ダンジョン全体に魔力を送っていた。罠は勿論のこと、クリスが乗ったエレベーターやバージルが突破した鏡の結界、そしてダンジョンの維持の為に。

 倒れそうな建物を、下から支えていたのがこの宝珠。ではそれが、突然ポンと消えたらどうなるか? 当然、支えは無くなり程なくして建物は崩れ去る。

 崩れかけていたダンジョンは時を越え──今、再び崩壊しようとしていた。

 

「やっぱり、こうなっちゃうよね……!」

「貴様……知っていながら取ったのか?」

「いや、知らなかったよ。でも何となくわかってた。伊達にダンジョン探索やってないからね」

 

 ダンジョン崩壊が始まっているというのに、冷静な様子のクリス。何か策でもあるのだろうか。そう考えたバージルは、思い当たる物を口にした。

 

「前に持っていたワープ結晶でもあるのか?」

「無いよ。あれ結構値段張るから、そこまで深くないダンジョンには使わないの」

「ならば何故?」

 

 バージルが疑問に思っていると、クリスはニッと笑い、親指を立ててこう口にした。

 

 

「さぁ! ダンジョン探索のトリを飾る脱出劇、いってみよう!」

 

 答えは簡単。慣れっこだからである。

 崩壊の危機を前に慌てないどころか、むしろ楽しんでいる様子のクリスを見て、バージルは呆れるようにため息を吐いた。

 

 

*********************************

 

 

 宝珠をポーチにしまい、最奥の部屋から出た二人は螺旋階段を上り、急いで出口を目指す。

 道中に仕掛けられていた罠は動力源の魔力を失ったことで機能しなくなり、道中で邪魔をするモンスターはバージルが一瞬で斬り倒す。

 二人は少しもスピードを緩めることなく、ダンジョンを駆け上がり──。

 

「バージル! 出口が見えたよ!」

 

 二人が上る階段の先には、外の景色が。今もまだ揺れ続けており、時間が経つ度に揺れが強くなっている。刻一刻と迫る崩壊を前に、クリスとバージルは急いで階段を駆け上る。

 入口が塞がれる前に脱出したい。前を走るバージルを追い越そうと思い、クリスは速度を上げようとした、その時。

 

「ッ!?」

 

 クリスの走っている階段が、突如として崩れ落ちた。

 が、こんなピンチは幾度となく体験してきた。クリスは腰元に据えていたロープへ咄嗟に片手を伸ばす。

 

 ──よりも早く、彼女の落下は止まった。何故かと思い、クリスは顔を上げる。

 

「……えっ?」

 

 ロープを取ろうとしたのとは逆の手を、バージルが無言で掴んでいた。

 彼は即座に彼女を引き上げると、悠長に話している場合じゃないと言いたいのか、何も言わず出口へ向かって走る。その背中を、クリスは慌てて追いかけた。

 

 

*********************************

 

 

 ダンジョンから飛び出し、木々に囲まれた場に出たクリスとバージル。

 その瞬間、揺れはより一層強さを増し、背後にあったフーガダンジョンは大きな音を立てて崩壊した。

 入口は瓦礫で完全に塞がれ、入ることも不可能に。入れたとしても、中はまともに探索できる状態じゃないだろう。

 

「……ふぅっ」

 

 バージルの後ろで、クリスは安堵の息を吐いてその場に座り込む。一方でバージルは、自分の右手を見つめて、これまでの情景を思い返していた。

 

 番人であったアイアンゴーレムは、何の躊躇もなく刀を抜き、斬ることができた。その理由は一つ。相手が自分の行く道を塞いでいたからだ。

 

 では何故、同じく道を塞いだ山賊には刀を抜かなかったのか。

 以前なら、自分の邪魔をする者は悪魔だろうと人間だろうと容赦なく殺してきたというのに、どうしてあの時は刀を抜くことができなかったのか。

 普段なら「殺す価値もなかったから」「刀を抜く気さえ起きなかったから」と、バージルは結論付けただろう。しかし今は、どうにもそう思うことができない。

 

 先程彼は、落ちそうになっていたクリスを見て、咄嗟に手を伸ばしていたのだから。

 

「……ッ」

 

 バージルは開いていた右手を強く閉じ、顔をしかめる。

 

 その一方──彼の後ろ姿を見ていたクリスは、助けてくれたバージルを男として気になり始めるわけでもなければ、仲間意識を持つこともなく。

 

「(……何故?)」

 

 信じられないと、バージルの行動に疑問を抱いていた。

 




DMCのダンジョンでは、テメンニグル崩壊後の謎の回転ブロックエリアが印象に残ってます。バージル操作だと地味にキツイ。

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