今日も今日とて天気はどんより雲の雨模様。
水溜まりを避け、時に踏んで、四糸乃は歩き走っていく。
何処へ行くでもなく、
『いやー、よかったよかった。今日も何事もなく
「……ぅん。よ、よろしく、ね。よしのん」
『四ー糸乃ー、もっとテンションアゲてこーよー。せっかく誰にも邪魔されないで静かに過ごせるんだからさぁー。……って、あ! 静かに過ごすんならテンションアゲちゃダメじゃん!? みすていく、よしのん痛恨のみすていく!』
「ふふふ」
全然知らない街並みはときめくものがあり、いじけてしまう恐れもある。
その理由はやはり人間だ。これは四糸乃の人見知りな性格が起因しているが、一番はASTの存在故だった。容姿年齢も関係なく精霊を排除する魔術師。目覚めと共に殺意を持って襲いかかられればそうもなるが、四糸乃の元々の性分が人間に対する恐怖をより助長させ、より臆病にさせるのが最も大きかった。相手に傷つけられる恐怖と、
本来なら四糸乃に街を、世界を探検するだけの胆力は無い。四糸乃は、弱い自分は、一人では何もできないと思っている。
『まーそれはおいといてぇー、今日はどうする四糸乃? このままこの街を歩いていくかーい? それとも自由気ままにどっか遠くの地までよしのんと愛の逃避行をするかぁーい?』
「ふぇ?! あ、愛……?!」
『にゅわっはっはっは、ジョーダンだよー。四糸乃とよしのんの間に愛の逃避行なんて必要ないくらい固く結ばれてるのは周知の事実だからねぇー』
「よ、よしのん……っ」
でも、四糸乃にはよしのんが居る。ずっと傍に居てくれる
臆病な自分と違って強くて、うじうじしている自分と違ってカッコイイ憧れの存在。
よしのんと居れば、四糸乃は何も怖くない。どんなに苦しくても辛くても大丈夫になるのだ。
……まあ、よしのんのからかいには大丈夫じゃないのは見ての通り……
『そ・れ・に~、四糸乃がしたい愛の逃避行の相手はよしのんじゃなくて〝あのおにーさん〟だしねぇー』
「…………っ」
『ふっふっふ、よしのんの目は誤魔化せませんよー?
「……………………………うん………そう、だね」
『……およ?』
通り、だが―――、今回四糸乃はよしのんの指摘に恥じらい無く首肯した。
いつもだったら顔を真っ赤にしてしどろもどろになるのに、四糸乃は気弱ながらもそれを認めたのだった。
『おおぉ! やっと自分の気持ちに素直になったんだね四糸乃! よしのん嬉しくてテンションMAX! これで目的は一本道に定まりましたよー、さっそく〝あのおにーさん〟を探しに行こう!』
よしのんは不思議に首を傾げるも、引っ込み思案な親友の成長に喜びながら四糸乃へ催促を掛ける。これを機に積極性を身に付けて貰えればきっと四糸乃の為になる。そう願いを込めていたのだが、四糸乃はなにも言わず、すぅっと空を見上げるだけだった。
「……………………………」
『アレ、四糸乃? …………四ー糸乃ー?』
「っ……あっ、ご、ごめんね、よしのん……なに?」
『……どうかしたの、四糸乃? なにかあるなら、よしのんに話して欲しいな。じゃないとよしのんも泣いちゃいそうだよー』
羞恥で無視を決め込み聞こえないフリを、なんて四糸乃は絶対しないが、こうも反応を返さないのはよしのんにとって初めてだった。ついこの間までは、ちょっと茫っとしていただけだったのに。
「……………ねえ、よしのん」
敢えて普段通り軽弾みでのたまうよしのんに、いつもとは違い自分の話だけを切り出すのもまた初めてだ。
四糸乃は顔を真上に向けて雨に濡れるのも構わず見上げている。しっとりた髪とその貌が雨に濡れるのはいつもの儚い柔らかさを持っていたが、どこか違う。
「…………
『……? どういう意味だい?』
「ぇぇっと、……ね」
質問の意味と意図が不明瞭で聞き返すよしのんだが、四糸乃もまた言いたいことが何なのか纏められていないらしく、
「……いつも、
『ちがう?』
「…………うん。その、……うまく言えないけど、……、なんだが―――」
なんだか―――誰かが涙を流して、悲しんでるみたいだと、四糸乃は言った。
四糸乃とよしのんが
泣いている……雨を涙と例えるならば、なるほど確かにそうなるだろうが、今更言うことではないし、そんな詩的な比喩表現ではないのは明らかだ。
「……ごめんね、よしのん。……なにか、…………わたし……へん、なん、だけど……」
『えっ………四糸乃!?』
四糸乃の眼から、雨とは違う水分が零れる。
臆病でいつも泣き出しそうな顔を、真に涙目になって雫を垂らす。
四糸乃が泣いている訳がよしのんには分からず、珍しくあたふたとして四糸乃を慰めようとするが、効果は見られない。四糸乃本人もなぜ泣いてしまうのかの疑問に満ちていたからだ。
この気持ちが何なのか、四糸乃にはわからなかった。
灰色の空が、いつもより深く曇っていて、降り落ちる雨のシャワーが、いつもより強く冷たく感じて、心の奥底まで暗く鎖されていく。
語彙の少ない四糸乃にはコレが〝悲しい〟という感情に近いということしか知り得ない。
見慣れている筈の世界が、酷く虚しく、儚く見えて仕方なかった。
「ぅ、ぅぇ、ぇぇぇ…………」
『よ、四糸乃、どうしちゃったの?! ダメだよ、泣かないでっ。ほら、特別によしのんの隠し芸をみせてあげよう! あちこちにある水溜まりを~~~~~。
あ~ら不思議、よしのんがこーんなに増えちゃいました!』
よしのんが腕を右へ左へと動かすと雨の水溜まり達が流麗に隆起し渦を巻き、パキパキと音を鳴らしながらよしのんの氷像が幾つも出来上がった。透き通った透明の氷に刻まれた彫刻は穢れに染まってない正に純粋な美しさがあった。出来上がりのみならずその魔法のような作り方も氷像の幻想的センスを醸し出していた。
「………………わぁ」
『どうだい四糸乃、中々の出来栄えじゃないかな? デザイン、デフォルメ、ポージングにも拘ったからねぇー、カッコいいっしょ? めっさカッコいいっしょ? ごっさカッコいいっしょ?』
「うん……カッコいい。……よしのん、すごい」
『ふっふっふ、喜んでもらえてなによりだよー』
まだ涙に濡れた目が赤くなっている四糸乃だが、その顔には感嘆から喜びと変化していた。〝悲しみ〟が消えたわけではないが、この気持ちが僅かでも晴れてきたのは事実で、「明日天気にな~れ」と慈愛をくれた存在が、四糸乃を癒していった。
「でもまだまだこれからさ~、よしのんの本領を発揮すればこの街中を芸術の都とすることが可能なのだ! そいじゃーまず……―――」
四糸乃の〝悲しみ〟を拭い去る為に、よしのんは奮闘する。友達の泣き顔なんて見たくない。ゼンブ笑顔に変えてやると頑張るよしのんはまごうこと無き友達の鏡だった。
とても幸せなことだ。友情で結ばれた四糸乃との絆は固く結ばれ、解かれはしないし、緩みだってしない。どこぞの高校で開催されるかもしれない『仲が良い友達ランキング』を競うなら1位だって楽々でぶっちぎりに取れるだろう。
……こうやって四糸乃との関係を確かめる度によしのんは思う。
もし、
――――
……よしのんは自嘲する。
親友であるのなら分かっている、そんなことは。都合の悪いことだけ友達が分からないだなんて、〝逃げ〟に奔っている自分が情けなくて泣けてくる。
四糸乃は悲しむ、四糸乃は苦しむ、そしていつか、四糸乃を嫌っている人間に殺される。孤独の裡に、死んでいく。
四糸乃は逃げはしても抵抗はしない。自分がされて嫌なことは相手にもしない。たとえ相手がそのことを理解していなくても、相手が執拗にやってこようが、絶対に四糸乃は相手を傷つけない。
分かっているからこそ、どうしようもなかった。
四糸乃には誰もいない、誰も傍に居てくれない。よしのんしか居ないのだ。それ故によしのんの存在そのものが、四糸乃を独りたらしめていると言ってもいい。よしのんは、四糸乃の自立への足枷となっているのだ。
こんな考えは四糸乃への裏切りだというのは重々承知していた。
でも事実なのだ。どんなにお互いを想っていても、四糸乃とよしのんは、どうしようもなく〝自分自身〟でもあるのだ。
くやしかった。よしのんでは四糸乃の寂しさの半分しか埋めてあげられない。別人格でしかないよしのんでは、完全に埋めるのは無理だった。何より四糸乃が満足しているのだ。よしのんだけでお腹一杯だと、これ以上は贅沢なのだと。
四糸乃がよしのんを望んだように、よしのんは四糸乃の傍に居てくれるヒトを、よしのんと違い、ちゃんと四糸乃を抱きしめて、寄り添ってくれるヒトを。
四糸乃が初めて寄り添おうとした、あの……………
『………………………………………………』
「……よしのん?」
あれだけ賑やかに、面白おかしく四糸乃を慰めていたよしのんの突然の制止に、四糸乃は疑問符を浮かべて貌を向ける。
快活に動く左手は鳴りを潜めカクンと糸が切れたみたいに頭が下がって沈黙している。まるで
親友のあるまじき動態の変化に、四糸乃は言い知れぬ不安に駆られた。
「よしのん」と声を掛けようとするも、喉が動かない、唇が開かない……呼んでも、何も起きないのではないかと怖がっているのだ。
それでも、よしのんの安否の方が遥かに重要な四糸乃は自身を奮立たせて声を紡ごうとする。自分と同じようになにか言葉にできない感情を持て余しているのかもしれない。なら今度は自分がよしのんを慰めなければと思うと……よしのんの方が先に喋った。
『――――と――――あ』
「え?」
極小の、呟きですらないうわ言がよしのんの口から洩れた。
よしのんのものとは思えない、掠れた声だった。
『――――ぉ――――か』
「……な、に……よしのん? どうしたの? きこえないよっ」
耳を寄せて必死で聞き取ろうとする四糸乃。言い知れぬ不安に、底知れぬ恐怖が加わり彼女に飛来する。四糸乃を構成する身体の全部が震えて止まらない。
「よし―――うッ、ぅっ?!」
よしのんの声が聞きたくて再び唇を開いたが、声が突っ掛って喉が躓いてしまった。
「あぁ…っ、ん、…ぐ、ぅ……はっ、んっぁ、っ!」
頬が上気した赤い貌から出たのは友の名ではなかった。幼い少女が出すものとは思えない、艶のある瑞瑞しいまでの喘ぎ声だった。清楚で温和な少女が、卑猥で背徳的な醜態を晒している。四糸乃にいか程の異変が起こったのか、迸る刺激に耐えきれず、路地に倒れ込む。雨で濡れた固く冷たいアスファルトの地面に面しているにも拘らず、四糸乃の身体は灼熱の如く熱かった。
思考する余裕が四糸乃にはなかった。交通事故のような突発的不幸にあってしまったように、自分の状況が理解できず、身体が巡りめく衝撃に襲われるしかなかった。しかし、それは苦痛ではなかった。四糸乃の感じているのは、快楽……もっと言えば、快感であった。
「う…う゛、ぅう゛ぁあ、んん……んあぁぁ…っ、ひっ、ぅうぅ……、ぁ、あ、やああ、ぁ」
入ってきた。〝ナニカ〟が四糸乃の裡に入ってくる。奥へ奥へと入っていき、四糸乃という存在に
全てが未知であった。蓄え、溢れ、噴出していく。千切れるような痛みに何処からか血が流れているんじゃないかと誤認するほどの体の弾けぶり。
抵抗することなど出来ない。そも苦痛ではなく快感を拒絶するなど生物の本能が許さない。身も心も蕩ける興奮しか受け入れてはくれない。
強すぎる刺激に、とうとう痙攣までしだす四糸乃。これ以上は耐えられないと、本能で死すら悟るも、それで止まれるものでもなく、自我を保つのも精一杯で、そして―――
「う゛うう、うああ、ぁあ゛あ゛ああぁぁぁああああああああああああああああああ――――――――――――――――――ッ!!!」
ここ一番の響き渡る絶頂の絶叫を叫びながら、四糸乃は満身創痍となって気絶した。
その意識の闇へと堕ちる最中……よしのんの口から覚えのない単語を四糸乃は聞いた。
『……………とぉ、か』
○ ○ ○
深呼吸を一回、二回、三回、四回。目をゴシゴシと擦り、頬っぺたをギュっと抓る……ちゃんと痛かった。
心を落ち着かせ、目に塵が無いか、これが夢ではないのかを確認。
結果、夢ではないと断定した。
「これが……オレ?」
改めて見る自分の顔に、未だそうだと認められずにまじまじ見つめるしかできない。
可愛い。すっごく可愛い。思わず抱きしめたくなるフランス人形みたいにめちゃめちゃ可愛い。この場合自画自賛となってしまうのだろうが、可愛いものは可愛い。例え自分の顔であろうとも、この顔は、本当に可愛いのだ。
「いやいや、いやいやいや。なんだよこれ……………違う、これは……こんなの、俺の顔じゃない」
魔女にドレスアップされたシンデレラのような心境に埋め尽くされるが、パーティに行く予定は無く、〇時に魔法が解けて元の姿に戻れるかもわからない。
あべこべな状況の中でも分かる確たる本能が、自分の顔がこんなに可愛いわけがないと全否定している。でも現状としてこの可愛い顔は自分になっている。
どういうことか――――五回目の深呼吸をし、自己分析を開始する。
まず、自分は男である。
自分をオレと呼称しているから特殊な事情がない限り間違いない。顔よりも女であるのに違和感があるのだからそうだろう。女装が趣味、なんてない。おそらく、たぶん。
強く否定できないが、それでもわかる自分じゃない顔が水の鏡に映っていて、何がどうなっているのが、本格的に混乱しだす。巨大秘密結社の陰謀か、益体のない妄想すらしてしまう。
「オレは、男で。名前は、…………………………――――」
はたと、記憶内の重大な欠陥に声を洩らす。
「なまえ……。オレの……。えっと、あれ……いや、え、あれ」
自分の名前が、出ない、浮かばない、わからない。
称号で呼称たる証明が、見当たらない。
顔云々どころじゃない。
俺は、
「お、れは―――。おれは、―――。なまえは―――。……おれ、は―――」
それに答えられる者も、誰一人いなかった。人通りが少ない路地だから、答えられるだろう人がいないから、答えてくれる人がわからなかったから。
「オレは、………………………ダレ?」
小刻みに、震えが大きくなる。
〝自分が何者なのかわからない〟……それが、恐ろしかった。
大きな損壊と忘失が押し寄せてくる。
統合失調症、離人感を越えて、自我崩壊の音が立ち、砕け薄れていく。
「――――だれ、か」
錆びれた声が、路地に反響することなく堕ちていく。
誰を呼ぶことすら念頭せず、手当たり次第で喉を震わせる。
「だれか、いないのか? だれか、誰でもいい、だれか、……返事をしてくれっ!」
自己の証明を、他者の存在で確立させようとガムシャラに叫ぶ。
だれか、たすけてと、救いの手を求める。
「だれか、だれか、だれかッ!!
……た、す……け―――」
「―――ぁあ、ぅぁ、あ」
「っ?!」
頭の中で、声が聞こえた。
耳元で囁かれたのではない。鼓膜からではなく、直接脳に注入されたみたいに声が内側から出て来たのだ。
それと並行して意識が身体から遠退く。目は変らず視界は良好なのに、手足の感覚が乖離していく。まるで、誰かに自分自身を乗っ取られるような、薄ら寒いブレが来たのだ。
そして、
○ ○ ○
「――ぅ、ぅうん」
微睡みに彷徨う呻きを洩らしながら四糸乃は目を覚ました。
「はぁ……ぅ、ぁ、……はぁ、ぁ」
まだ淫靡な息を吐かせる余韻が残っているのか、口から漏れる熱い吐息が四糸乃を火照らせる。疲労感に億劫な重みが付いてまわるが、固い地面に寝そべるわけにもいかず、四糸乃は何とか身体を起こす。
「ぁ、は、ぁ………いま、のは……?」
今も残り続ける異常な体温の高さが、あの天を突き抜けるような激しい刺激が現実であったことを語っている。
自分に
「よ……しのん、だいじょう、ぶ?」
息も絶え絶えに、親友の無事を確かめようと左手のパペットを見やると、よしのんは未だに俯いたまま何も言わない。
「……よし、のん……」
『………………』
もしかすると、よしのんは四糸乃よりも先にあの衝撃を味わっていたのかもしれない。だから喋る事も出来ずにいるのか。
『……………………ぅ』
「ッ! よしのんっ」
覚醒の呻きがよしのんから漏れ、目が開いていく感触を味わいながらよかったと安堵の念が四糸乃に広がる。
一時はどうなってしまうのか、不安で不安でしょうがなかった。
このままよしのんが居なくなってしまうんじゃないかと、二度と会えないんじゃないかと耐えがたい痛みに傷つけられるんじゃないかと思っていた。でもよしのんはこうして動いて喋っている。ちゃんと生きているのだ。
『………ああ、気持ち……わりぃ……なんだ? ……身体が、軽すぎるような……?』
「…………え?」
だから聞き違い、空耳だ。
『ん? ……は? なっ、なんだコレ? ……は、……な、どうなってんだっ?』
よく聞こえなかったし、よく聞こうとしなかったから
よしのんの声が、
「よし、のん?」
『へ……? ……えッ!? さっきの、オレっ?! いや、えっ?! ちょっとまて……………、…………オレ……人形になってんのか!?』
左手に異物が混入して違和感が浸食していく。第六感が警告を発信し、その倍以上ある緊張と恐怖に、四糸乃は爆発してしまいそうな心情をさらに膨張させていた。
「ァ………ああ、あああ」
『うッ!? つめたっ! なんだっ!?』
時が経つ度に異物が際立ち、認識させられる。
この左手に居るのは、親友のよしのんなのではなく、誰とも知らないドコカノタニンなのだと。
「ぅ、あぁぁああぁぁああ………」
『なっ、痛って、雨が、地面が凍って……っ?』
空気が急速に冷えていき、雨が激しく地面を撃つ。アマゾンよりも強い豪雨はやがて雹と成り、狭い路地ばかりか辺り構わず冷気を発散させ、氷の世界へと造り変える。
四糸乃の狼狽と一緒に冷たく荒れ狂う天候に危険を感じたよしのん(?)だったが、聞く耳持たずに霊力の波動が次第に冷気のみならず振動を伴うようになり―――空間震へと変わっていった。
『オイちょっと!? まて落ち着けっ、どうしたん―――』
「ぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁああああああ―――――――――っ!!?」
吹き荒れる雨と氷、そして耳障りな高音の警報と空間震を引き起こした四糸乃は意識も理性も吹き飛んでいき、精霊の力を徒に暴走させている。
―――だがそれは、最後に残っていた自己防衛本能によるものだった。
何故だか分からないが、何かをしなければ絶望に
意識と理性が飛び、そして四糸乃自身も路地を跳んでいった。ウサギのような跳躍で破壊痕が生まれたソレは飛行に等しくなり、二人はいずこか遠くへと行ってしまった。
第二部 四糸乃ヒーロー START