東方短篇集   作:紅山車

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霊夢・ルーミア短篇

かじかじかじ。

「………………」

かじかじかじ。

「………………ねぇ」

かじ。

「楽しい?」

かじかじかじかじかじかじ!

「楽しいんだ」

かじ。

「それなら良いや」

……かじかじ♪

 

 

 

「というわけで、連れて帰って来ました」

「何が『というわけで』なのか、原稿用紙一枚分程度に、まとめて述べよ」

「ある日道を歩いていたら、突然少女が頭に噛み付いてきた。一体何事かと思ったが、噛まれても別段痛いところはないし、少女自身も楽しそうだったので咎めるようなことはしなかった。するとその少女がこう言った。『がじ、がじがじがじ』。僕は聞き取ることは出来なかったが、インスピレーションでその内容はわかった。彼女は『私、お腹減った』と言っているのだ、と。しかしながら、某国民的アンパンヒーローのように、『それじゃあ僕の顔をお食べよ』と言う訳にはいかない。というか、現在進行形で食べられている。一喰い(イーティングワン)されている。仕方がないから、家で何か食べさせてやろう、と思ったは良いが、実は僕の家はつい先日に売り払ったばかりだった(ババーン!)。まあそういう訳だから、家に帰ろうにも帰れない。どうしたもんかと思っていたら、ふと『そういえば、現在住んでる神社があったじゃないか』と思い出した。そうと決まれば、ということで、頭に素敵な少女を被りながら、不肖このワタクシ、帰還いたしました。ああ素晴らしき大日本帝国万歳。欲しがりませんカツまでは。卵丼で十分でございます。あ、ミツバは載せてね」

「大幅オーバーの487字も力説ありがとう死ね」

「Oh……」

何故か血管がブチ切れた霊夢から特大の陰明玉をぶち当てられたのでそのうち僕は考えるのを止めた。ちなみに件の少女は未だ僕の頭にかじりついていた。これを機に脳細胞が活性化して、天才になったりしないだろうか。CVは浜田雅功で。おうじゃのしるしが無いと無理かな。

 

 

 

「♪〜」

少女は楽しそうに鼻歌を歌いながら、ぱくぱくとカレーを平らげていく。食べるというよりも、飲むといった感じだ。カレーは飲み物です。

「それ食ったら、とっとと帰りなさいよ。ルーミア」

「おいしーなー」

霊夢の忠告もどこ吹く風で、手を止めずに食べつづける少女。そうか、ルーミアと言うのか。

いや、それにしても良い食べっぷりではなかろうか。霊夢も欝陶しそうにはしているが、中々どうして、ルーミアの食欲には心なしか嬉しそうに見える。やはり料理というものは、食べてくれる相手がいて、初めて価値を持つ。

「おかわりー」

「はいはい、ちょっと待っててね……って、帰れって言ったでしょ!?何さりげなく、おかわり要求してんの!?ルーミア、恐ろしい子!」

うーん。ナイスツッコミだが、ボケが本気(天然、とも言う)なのが惜しい。

「まあ、いいじゃない。昨日のカレー、まだ残ってんでしょ?夜までもつか解らないしさ、捨てる位だったら食べてもらおうよ」

「……作ったあんたが言うんならいいんだけどね……」

そう言いながら(やっぱりどこか嬉しそうだった)空いた皿を持っていそいそと台所に向かう霊夢。

「ルーミアにはさ」

「んー?」

スプーンをにぎりしめて、よだれを垂らしながら待ち切れない様子のルーミア。僕は、ふきんでよだれを拭いてあげながら、聞く。

「家ってあるの?」

「……家って−?」

「うーんと、ここみたいな所……帰るべき場所、かな?」

「無いよー。いつもぶらぶらしてるから」

「それじゃあさ、今日からここをルーミアの家にしようか」

「何勝手に決めてんの!」

ターン、と開け広げられた襖から霊夢が姿を現す。手にはカレーが二皿。と、スプーンが一本。どうやら自分の分らしい。可愛いなあもう。

「博麗神社に妖怪を住まわせて、良いわけ無いでしょ!?あんた何考えてんの!?」

「いいじゃない。どうせ毎週のように、人間妖怪妖精、はたまた鬼に幽霊に天人に、神様まで交えて宴会してるんだから」

「それとこれとは別よ!だって、その、あ、あんたと……!」

かあぁっ、と霊夢の顔が赤く染まっていく。可愛いなあもう(二回目)。

「あんたと過ごす時間が、少なくなっちゃうじゃないの!」

「………………おぉう」

直球過ぎる。しかもど真ん中。ピンポイントにズドン、ズドンと。こっちも思わず赤面。嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

「おかわりまだー?」

ああ、長いこと放っておいたせいかルーミアがぐずりだした。ちょっとだけ待っててね−、すぐにご飯にするからね−。

「…………ふんっ!」

不機嫌そうに、音を立ててカレーの皿を机に置く霊夢。その拍子にルーミアが少し驚いた。ルーミアに罪は無いだろうに、もう。

「駄目でしょ、霊夢。子供に当たっちゃ」

「うるしゃいわね!」

注意も聞かず、ただひたすらにカレーを口に運ぶ霊夢。何だろう、やけ食いのようにも見えた。

「いつまでもそんなんじゃ、将来困るよ?」

「はあ?何よ、将来って」

「何って……」

 

 

 

「将来子供が出来た時」

 

 

 

「こどっ…………!?」

突如、げほげほとむせ返る霊夢。何か変なこと言ったかな。

「水、飲む?」

「…………!…………っ!」

無言でこくこく、と頷く。今顔が真っ赤なのは、間違いなくさっきまでとは別な理由だろう。ああ、でもやっぱり可愛いなあ。かっこ三回目かっこ閉じる。

「……ん、きゅ……んきゅ……ぷ、はぁー……」

コップに入れた水を一息に飲み干し、落ち着く。やれやれ、ようやく静かになった──と思いきや、霊夢がこちらをきっ、と睨んでいた。

「いきなり何言い出すのよ!」

「ごちそーさまー!」

「お。ちゃんとごちそうさま、って言えたなー。偉いぞルーミア」

「えへへー」

「よーし、今日の晩はパパ牛丼の大盛り作っちゃうぞー」

「おー、やったー」

「はははー」

「わははー」

 

「あんたらいい加減にしなさいよォォォォォォーッ!」

 

 

 

「申し訳ありませんでした」

「ごめんなさい」

二人揃って土下座。なんてカカア天下な家庭だろう、全く。

「いいかしら、ルーミアはもう帰りなさい!あんたも、早く洗濯なり掃除なりしなさい!まだ落ち葉が残ってるわよ!」

「「はぁ〜い……」」

うなだれる。全く、いくら職業上ルーミアが妖怪で、あまり仲良く出来ないっていっても、ここまですることはないだろうに。非は全て僕にあるのだから、霊夢の怒りは本来、全て僕が受けるべきものなのだ。

「……じゃあ、ねー」

元気なさ気に、境内を後にするルーミア。腹は膨れていようとも、心はすきっ腹に違いない。

「……はぁ」

一つ溜息をついてから、落ち葉をかき集めようと箒を振るう。モチベーションは低いが、博麗神社の専業主夫をやっている以上、手を抜くことは神に背くことだ。しっかり気を入れてやらねば。

と。

 

 

 

「ルーミア!」

 

 

 

もう姿の見えなくなった少女の名──いつの間にか、外に出ていた霊夢が、それを呼んでいた。

確実にルーミアに聞こえているであろう、その言葉に、霊夢は続けてこう言う。

 

 

 

「……また、来なさいよ!」

 

 

 

「……あっはっは」

「う、うるさいわね!早く掃除しなさいよ、もう!」

「うん、わかってた。僕は最初からわかってたよ」

「う……うなーーーー!」

顔を真っ赤にして、怒る霊夢を尻目に、触らぬ神に祟り無しとばかりにさっさと箒を動かす僕。早いとこ掃除を終わらせてしまおう。そして買い物に行かなければ。

 

 

 

遠くの方で、ルーミアの声が聞こえてきた気がした。

今夜の献立は、おなかいっぱいになる牛丼だ。


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