三葉の家は都内郊外のマンションの一室だった。玄関前の廊下は都心方面に開けていてそびえ立つビル群が良く見え、夜の闇とビルの光が作り出す景色はとても綺麗だった。
「ちょっと汚いかもしれないけど、ごめんね…?」
そうは言って三葉は頬をかいていたが、そんなことはない。綺麗に片付いているし、なんだかいいにおいがする。第一女性の家なんて行ったことが無いし、見たことがあるのなんて入れ替わりのときの三葉の部屋ぐらいなものだから評価のしようがないけど。
家の中は一人暮らし用のマンションより少し広い感じで、奥にはリビングがあった。リビングの中央にはローテーブルが置いてあり、肘をつきながらスマホに向かっている高校生のときの三葉によく似たツインテールの高校生ぐらいの子が座って居た。
こちらの存在に気付いたのか、顔をあげてこちらを見ると元気に挨拶してきた。
「いらっしゃい!あなたがお姉ちゃんが言ってた瀧くんって人?」
「え、あ、はい」
「はじめまして、私は三葉お姉ちゃんの妹の四葉です」
「あ、はじめまして」
違う、はじめましてじゃない。何度もあってるとは言えなかった。三葉が四葉に対してどれくらいのことを言っているのか分からないし。ここは初見のふりをするのが得策だ。
しかし、あの幼女がこうもまで都会の高校生になるとは…東京とは恐ろしいところだ。
◇ ◆ ◇
四葉がちょいちょいと呼び寄せるので近づく。
「この人がお姉ちゃんが言ってた人?!いい感じじゃん」
興奮気味にひそひそと捲し立てた。
「付き合ってるの?ねね、付き合ってるの?」
「べっべつにそういうことじゃ…」
「えーじゃあ付き合わないの?」
普段男っ気のあるような話をしないからだろうか、本当に四葉は興味津々という感じだった。
客人もとい瀧くんがいる手前、これ以上質問攻めにあうわけにもいかない。
◇ ◆ ◇
何を言っているかは聞こえなかったが、四葉の言った事に三葉が顔を赤くして反論しているように見えた。
「さてっと、姉妹でこんな内緒話しているのもあれだし、夕飯作ろっか」
そう言って、三葉は四葉が何か言おうとしたところを遮ってキッチンへ向かう。
「三葉、俺も何か手伝おうか?」
「うんうん。瀧くんは座ってて!」
俺は言われるがままに座って待っている事にした。
◇ ◆ ◇
そういえば、あの日瀧くんと再会して糸が切れたように思いが溢れて。色々試行錯誤してときに大胆なことをやってきたけど、別に付き合ってるわけじゃないんだよね。
ふと、リビングを見てみれば四葉が最近ハマってるゲームを瀧くんに見せていた。確か擬人化した女の子がいっぱい出てくるゲームだったはずだ。この前の昼食のときに試したセリフもそういえば四葉があのゲームのセリフから持ってきてたような。
「瀧くんはそのゲーム知ってるの?」
料理が出来たのでテーブルに並べながら聞いてみた。
「あぁ、会社の先輩がやってるから少しは…」
「瀧くん結構やりこんでますよねー」
「あっちょっと四葉さ」
秘密だったのかばつが悪そうな顔をする瀧くん。
「そのー先輩から進められて時間があるときに少しづつやってただけだから」
「別に気にしてないよ?」
そう別に気にしてない。
そこからは3人で夕飯を食べて、瀧くんは帰っていった。
布団で横になって考えてしまった。
私と瀧くんは別に付き合ってるわけではない。高校のときの入れ替わりを通じて、気持ちを通わせた。ただそれだけ。
本当にそれだけ?じゃあ、あの時電車のドア越しに感じた、あの階段で姿を見た時に感じだこの気持ちは何なんだろう。
気にしてないと言いながらも少し気になったのは…?
「うーうー」
「お姉ちゃん、うーうーうるさい!明日も仕事なんだから寝な!」
隣で寝ていた四葉に言われたので、これ以上いう考えることはやめて寝ることしよう。