続・君の名は。   作:鶴雪 吹急

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第四話「結びのチケット」

「瀧ぃー。隣、良いか?」

「構いませんよ」

 

 三葉が家に来た数日後、俺が職場のあの休憩室で一人コーヒーを飲んできたとき、赤松先輩がやって来た。

 

「瀧、あの彼女はどうしたんだよ」

「はいっ?!」

 

 この数日、仕事が忙しく、赤松先輩とも話していなかった。

 そのせいか、赤松先輩は単刀直入にその話題を振ってきた。

 

「『たーきくん、来ちゃったよ♪』なんて登場の仕方したんだ。彼女とかだろ?」

 

 先輩はニヤニヤしながら聞いてくる。

 普段は頼れる先輩なのだが、こういう話になると、嫌というほど突きまわしてくる。

 

「べ、別に彼女とかじゃありませんよっ!」

「電車、いつも一緒になる区間、仲良く出勤してるくせにぃ?」

「な、なぜそのことを?!」

「相手の死角を突くことは大事だからな」

 

 先輩はニシシと笑いながら、言った。

 

ピロリン♪

 

 その時、スマホがラインの通知を知らせてきた。

 画面に踊るは三葉の文字。

 

「噂をすれば何とやら、いとし恋しの三葉さんですね」ハハッ

「///煽らないでくださいよ!」

 

 ロックを解除して内容を確認する。

 

――――――――――

 

三葉

 ちょっと外回りで近くに来たから、一緒にお昼どうですか?

 

――――――――――

 

「おっと、お昼のお誘いだぁー。どうするたーきくん」

 

 傍で内容を見ていた先輩は実況者の如く、こちらに手をマイクにして出してくる。

 

「っ!その呼び方もやめてください」

「いって来な、瀧」

「っ!岩本部長!」

 

 赤松先輩の手を除けて、これ以上絡まれるのを避けようとしたその時、岩本部長が休憩室にやって来た。

 対面式になっているソファーの正面に座った部長は缶コーヒーを開けて一杯呑む。

 

「女性からのお誘いは断るものじゃないぞ」

 

 岩本部長は静かに微笑みながら言った。

 静かでやさしそうな笑みだが、有無を言わさぬ威力があると、俺はそれを見るたび常図ね思う。

 

「あ、はい!それでは失礼します」

「何てする前に来てたりして」

「うぉい!?」

 

 ソファーを立ち、荷物をとりに行こうとしたとき

 三葉が休憩室の角からひょっこりと顔を出した。

 

「さっき、たまたま会ってな、そのままここまで通した」

「お邪魔してます」

 

 三葉が先輩達に挨拶している間に

 出掛ける準備を進める。

 

「それでは、昼食をとって来ます」

「あ、そうだ。瀧」

 

 岩本部長は俺を呼び止めると、

 二枚のチケットが入った包みを渡した。

 

「?」

「寝台列車のチケットだ」

 

 そう言われたチケットの中身は

 東京発の寝台特急「サンライズエクスプレス出雲」の

 二人用の個室のチケットだった。

 

「俺の知り合いにな『嫁さんと行けよ』って言われたんだが、俺らその日、先に別のとこへの旅行するから、そのチケット使わないんだ。良ければ貰ってくれるか?」

「二人なんて、ちょうどいいな。瀧!」

 

 岩本部長は善意で渡してくれてるのだが、赤松先輩がどうも突いてくる。

 まあ、その善意を無駄には出来ないので『ありがとうございます』と言ってありがたく貰った。

 

「それでは、失礼します」

「おう」

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 三葉に連れ出されたわけだが、連れてこられたのは近くの公園だった。

 公園のほとんどが舗装それているのだが、木々の配置がのどかな気分にさせる。

 暇なときはその希少な自然を堪能しに来たい、そんな場所だった。

 

「外回り後にたまたまこんな公園見つけたから、そこでお昼にしようと思って、ついでに瀧くんも誘ったわけ」

「なるほど、確かに綺麗なところだね。全然気付かなかった」

 

 三葉は公園の一角に弁当を出す。

 

「一緒に食べよう?」

 

 出されたお弁当は大きめで『たまたま外回りで』と言う言葉を疑いたくなるようなボリュームだった。

 『そんな事は気にしないで』と言わんばかりに、三葉はささっと食事の準備を進める。

 

 二人の昼食(ピクニック)が始まった。


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