「瀧ぃー。隣、良いか?」
「構いませんよ」
三葉が家に来た数日後、俺が職場のあの休憩室で一人コーヒーを飲んできたとき、赤松先輩がやって来た。
「瀧、あの彼女はどうしたんだよ」
「はいっ?!」
この数日、仕事が忙しく、赤松先輩とも話していなかった。
そのせいか、赤松先輩は単刀直入にその話題を振ってきた。
「『たーきくん、来ちゃったよ♪』なんて登場の仕方したんだ。彼女とかだろ?」
先輩はニヤニヤしながら聞いてくる。
普段は頼れる先輩なのだが、こういう話になると、嫌というほど突きまわしてくる。
「べ、別に彼女とかじゃありませんよっ!」
「電車、いつも一緒になる区間、仲良く出勤してるくせにぃ?」
「な、なぜそのことを?!」
「相手の死角を突くことは大事だからな」
先輩はニシシと笑いながら、言った。
ピロリン♪
その時、スマホがラインの通知を知らせてきた。
画面に踊るは三葉の文字。
「噂をすれば何とやら、いとし恋しの三葉さんですね」ハハッ
「///煽らないでくださいよ!」
ロックを解除して内容を確認する。
――――――――――
三葉
ちょっと外回りで近くに来たから、一緒にお昼どうですか?
――――――――――
「おっと、お昼のお誘いだぁー。どうするたーきくん」
傍で内容を見ていた先輩は実況者の如く、こちらに手をマイクにして出してくる。
「っ!その呼び方もやめてください」
「いって来な、瀧」
「っ!岩本部長!」
赤松先輩の手を除けて、これ以上絡まれるのを避けようとしたその時、岩本部長が休憩室にやって来た。
対面式になっているソファーの正面に座った部長は缶コーヒーを開けて一杯呑む。
「女性からのお誘いは断るものじゃないぞ」
岩本部長は静かに微笑みながら言った。
静かでやさしそうな笑みだが、有無を言わさぬ威力があると、俺はそれを見るたび常図ね思う。
「あ、はい!それでは失礼します」
「何てする前に来てたりして」
「うぉい!?」
ソファーを立ち、荷物をとりに行こうとしたとき
三葉が休憩室の角からひょっこりと顔を出した。
「さっき、たまたま会ってな、そのままここまで通した」
「お邪魔してます」
三葉が先輩達に挨拶している間に
出掛ける準備を進める。
「それでは、昼食をとって来ます」
「あ、そうだ。瀧」
岩本部長は俺を呼び止めると、
二枚のチケットが入った包みを渡した。
「?」
「寝台列車のチケットだ」
そう言われたチケットの中身は
東京発の寝台特急「サンライズエクスプレス出雲」の
二人用の個室のチケットだった。
「俺の知り合いにな『嫁さんと行けよ』って言われたんだが、俺らその日、先に別のとこへの旅行するから、そのチケット使わないんだ。良ければ貰ってくれるか?」
「二人なんて、ちょうどいいな。瀧!」
岩本部長は善意で渡してくれてるのだが、赤松先輩がどうも突いてくる。
まあ、その善意を無駄には出来ないので『ありがとうございます』と言ってありがたく貰った。
「それでは、失礼します」
「おう」
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
三葉に連れ出されたわけだが、連れてこられたのは近くの公園だった。
公園のほとんどが舗装それているのだが、木々の配置がのどかな気分にさせる。
暇なときはその希少な自然を堪能しに来たい、そんな場所だった。
「外回り後にたまたまこんな公園見つけたから、そこでお昼にしようと思って、ついでに瀧くんも誘ったわけ」
「なるほど、確かに綺麗なところだね。全然気付かなかった」
三葉は公園の一角に弁当を出す。
「一緒に食べよう?」
出されたお弁当は大きめで『たまたま外回りで』と言う言葉を疑いたくなるようなボリュームだった。
『そんな事は気にしないで』と言わんばかりに、三葉はささっと食事の準備を進める。
二人の