続・君の名は。   作:鶴雪 吹急

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第一話「紐はまた結ばれる」

はぁはぁはぁ

 

 俺は今、走っている。

 息が切れているのも無視して走っている。

 俺は彼女の姿を見つけるために走っている。

 

「おい、あんた」

「へ...何ですか」

 

 俺は焦る気持ちを抑え、この男に少し感じた苛立ちも抑えこみ反応する。

 

「誰か探してんのか?」

「...たぶん」

 

 彼女も俺を探しているという確信はあった。

 しかし、果たしてそれは本当か?っと言う不安も残っている。

 そんな気持ちなので、自然とそういう言葉が出た。

 

「んー。何なら。ここを真っ直ぐ進んで、右に曲がりな。そしたら何かあるかも知れないよ」

「あ、え、ありがとうございます」

 

 この男の言う事に何か、神様のお告げみたいな事を感じた俺は、言われたとおりにする事にした。

 道を真っ直ぐ進み右に曲がる。

 すると、左手に()()()()が目には入った。

 

はぁはぁはぁ

 

 私は今、走って坂を下っている。

 何故だろう。見に覚えは無いのに身体は導くように細い路地を抜け、()()()()()まで導いた。

 

(階段だ)

 

 俺は、階段の下から彼女を見上げる。

 

 私は、階段の上から彼を見上げる。

 

 俺は、階段を俯いたまま上がる。

 彼女とすれ違う。

 

 私は、階段を俯いたまま下る。

 彼とすれ違う。

 

 俺(私)はすれ違った時にピタッっと動きを止める。

 このまま、彼女(彼)と見知らぬ他人でいいのか!?

 ((いや、絶対ダメだ!))

 その思いと共に二人は一緒に振り返る。

 

 『あのっ!』

 

 ここは日本の大都市東京。

 その何処かの階段。

 一度は離れた紐が相手に結びつこうとする。

 二人は一緒に口を開く。

 

 「「君の名は!」」

 

 

 

 一度は止まったテープがまた動き出した。

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 カランカラン

 

 二人は互いに会社に休むと伝え、あるカフェに来ていた。

 

 直前の事が関係したのだろうか彼――瀧の何処かにでもっと言う言葉に同意した彼女――三葉の二人は自然な流れでこのカフェまでやってきたのだった。

 

「・・・」

「・・・」

 

 カフェについて早々、二人は黙ったまま、席について俯いている。

 別にメニューを眺めているわけでも、店の内装デザインに感心しているわけでもない。

 周囲からは『リア充か...』とか『いいわね...』などの視線が刺さり、店員からは心配した目で見られている(注文まだですか~30分経ってますよ...)。

 

「「あ、あのっ!」」

「「!?」」カアァァァ

 

 勢い良く顔を上げ、同時に喋った二人は、

 驚き、そのまままた顔を伏せてしまった。

 周囲からは苦笑い。店員からはガクッというのが聞こえる。

 

「あの、俺の名前は...」

 

 それに怯まず、先陣を切ったのは瀧だった。

 

「立花瀧。です」

「私は」

 

 それでやっと顔を上げた三葉も自己紹介をする。

 

「宮水三葉。です」

「「あ!」」

 

 二人は互いの名前を聞いたとたん、双方を指差し大きな声で言っていた。

 

 俺(私)の頭の中に今まで忘れてしまった。抜けてしまっていた様々な出来事が入ってくる。

 宮水三葉。糸守に住んでいた女性。そして、俺にとって一番大事な、忘れたくない人。

 立花瀧。東京に住む男性。そして、私にとって一番大切な、忘れたくない人。

 

 

「何が食べたい?」

「私、このパンケーキがいいな~」

 

 俺と三葉はとたんに前から知り合ってたかのように、話し出した。

 周りの人はきっと、昔の漫才みたいに盛大にこけたいはずだ。

 そんな事を考えていると、三葉にこやかに高めのパンケーキを指差す。

 

「瀧くんのおごりね♪」

 

 奢れのおまけつきで。

 

「え~」

「いいじゃない。折角再開したんだから」

 

 俺はため息を一つ吐き、店員を呼ぶ。

 

「すみませーん!」

「はーい。ご注文は?」

「このパンケーキとコーヒーを一つ。後、オレンジジュースも」

「かしこまりました」

 

 店員は注文を聞くと奥へ消えていった。入れ替わりに三葉がよってくる。

 

「パンケーキ奢ってくれるのはありがたいけど、何?オレンジジュースって」

 

 その言葉に俺はいやみな笑みを浮かべながら。

 

「お・ま・け」

 

 っと言った。

 三葉は『何を~』と言いながら俺の頬を両手でつまむ。

 

「私は瀧くんより、三つは上なんだぞ!それ何に~」

 

 そう言いながら頬を上下させる。とっても痛い。

 

「あの、ご注文のパンケーキと...」

『あ、はい、どうぞ!』

 

 その、頬つねりも店員によって終わり、その後は二人で思い出話に花を咲かせ始めた。

 

ー歩道橋ー

 

 気付けばカタワレ時が近づき、人々は帰宅ラッシュの波を作る。

 俺と三葉はその波の根元になっている歩道橋に居た。

 

「もうすぐ帰らないとね...」

「ああ...」

 

 三葉はそうだ!っという感じでスマホを取り出した。

 

「折角会えたんだし、どうせならね」

 

 そう言って、スマホを見せる。

 

「...そうだな」

 

 俺達は番号を交換し、そこで別れた。


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