ブレス オブ セブンスドラゴン   作:マチカネ

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 『四ツ谷 常夜の丘』の話になります。


第四章 終わらない月夜

「……本当に夜だ」

 とりあえず、自分の腕時計で時間を確かめてみる刀子。時間はおやつの時間の午後3時。昼間にもかかわらず、周囲は暗く、大きな満月が出ていて、まるで夜。

 ここは四谷、朝になっても夜が明けない。その現象を調査するために13班とキリノ、アオイがやって来た。

 以前、倒した『帝竜』ウォークライも都庁を上下逆さまに歪めていた。

 なら今回も『帝竜』が関わっている可能性は大。

 おまけに電波状況が悪く、思うように通信ができないので、ミロク、ミイナの都庁からのサポートに不備が出ていた。

 このまま、攻略するのは危険。

 そこで13班は、この時間の歪んだダンジョン『四ツ谷 常夜の丘』を進みながら、探査機4台を設置して、不備を解消。

 キリノはチューニングのために入口に残り、アオイは、その護衛。

 

 

 

 モンスターを倒し、探査機を設置しながら『四ツ谷 常夜の丘』を進む、13班。

「まるでお化け屋敷だな」

 ボソッと言いながら、力男は周囲を見渡す。心なしか妙にそわそわ。

 確かに、四谷は和風のお化け屋敷の様になっているし、人魂も飛んでいる。

 ツンと、背中を叩かれた力男は飛び上がって、驚く。

 突いたのはピンクハーレー。クスクス、笑っている。

「何だ、お化けが怖いのか?」

 刀子に問われても答えなかったが、普段、寡黙な力男が顔を真っ赤にして恥ずかしがっているところ見ると、当たりだろう。

 素手でドラゴンを殴るデストロイヤー、力男にも苦手なものはあった。

「気にするな、私もカマドウマは苦手だ」

 刀子の言葉には嘘は無し。誰にも苦手なものはある。

「あたしが苦手なのは、饅頭よ~」

 

 

 

 4台全部、探査機を設置し終えた後も、ここに潜んでいるだろう『帝竜』の探索を続けている13班。

 ふと、目の前に自衛隊たちが現れた。

「あら~、今回、自衛隊のサポートはあったかしら~」

 首を傾げるピンクハレー。今回の任務には自衛隊のサポートはなかっったはず。

 何かが変。近づいてくる自衛隊の顔は青白い。

 サムライの刀子は、咄嗟に相手の危険さ、異様さに気が付き、すぐに刀を抜ける体制。

『今、チューニングが終わった。これで通信が可能だ』

  キリノから連絡が入り、

『こちら、ミイナ。周囲に13班以外に生体反応はありません』

 早速、都庁からミイナの連絡が来た。

 周囲には13班以外に生体反応はないとの連絡。しかし、現に目の前には自衛隊たちがいて、近づいてきている。幻覚でないのはモニターを通じて、キリノやアオイにも見えていること。

 自衛隊が襲い掛かってきて来た時には、すでに刀子は抜刀していた。

 幽霊の類ではない、動く死体、ゾンビ。

 1人だけではない、映画よろしく、群れで襲ってくる。

 続いてピンクハーレーと力男も動く。

 お化けは怖いが、肉体のあるゾンビなら、力男は平気。

 

 

 

 ゾンビを片付けた13班は『帝竜』の潜んでいる頂上を目指す。

 今回の『帝竜』は死者を操る。故人を冒涜する相手。しかも、あの自衛隊員たちは市民を守るために命を落としたものだろう。

 その死さえも愚弄する相手に刀子は怒りを覚えていた。許せない。

 ピンクハーレーと力男も、刀子ほどにないにしろ、今回の『帝竜』に対して不快感を持っている。

 

 『四ツ谷 常夜の丘』の頂上にたどり着いたが、辺りには何もいない。ただ大きな満月が浮かんでいるだけ。

『コール、13班! あの月から『帝竜』を検知しました』

 ミイナからの通信。

 敵は月に擬態していた。知られたと理解した相手は正体を現す。

 巨大な怪鳥の姿をした『帝竜』ロア=ア=ルア。

「焼き鳥は好物なんでね」

 『帝竜』ロア=ア=ルアに居合いに構え、トンボ斬りを放つ。

 

 

 

 13班が『帝竜』ロア=ア=ルアと戦っている頃、入り口で待機していたアオイも戦っていた。

 いきなり、ゾンビ、自衛隊ではなく、大半が一般市民のゾンビとモンスターが襲い掛かってきたのだ。

 群れで襲い掛かってくるゾンビとモンスター。アオイは両手のトンファーを巧みに使い、敵を凪ぎ倒していく。決して背後にいるキリノに近づけさせないように。

 次々と敵を片付けていくアオイ。結構、強い。実のところ、彼女もS級の能力者で、本来なら《狩る者》になっていてもおかしくはなかった。

 ただ選抜試験の時、迷子の子供を案内していたら、誤って回送電車に乗ってしまい、結果、試験をすっぽかしてしまう。

 その後、ガトウに拾われ、10班所属になった。

 ズズゥゥゥン、腹に響き渡るように地響きがした。天空より、一匹の巨大きな漆黒のドラゴンが飛来。

「ははっ、これは随分、可愛い小鳥さんで」

 引きつった笑みを浮かべるが、

「キリノさん、逃げてください」

 すぐにトンファーを構え直す。

「しかし、君を置いては……」

 現れたドラゴンは大きさと風格からして、ザコドラゴンではない。『帝竜』でないにしろ、相当レベルの高いドラゴン。

 どう見ても、アオイ1人では手に余る。救援を呼ぼうとも13班は『帝竜』ロア=ア=ルアと戦闘中。

 逃げることを戸惑っているキリノ。

「ここに残って、キリノさんにできることありますか?」

 痛いところを付かれる。キリノは頭脳戦が専門で、実戦は不得手。

「それにキリノさんはムラクモ機関に必要な人です」

 にっこりと笑顔を見せる。とっても優しく明るい笑顔。

「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 気合を込めて、大きな漆黒のドラゴンに向かう。

 自分の何倍もあるドラゴンと果敢に戦うも、相手の鱗は固く、大したダメージは与えられず。

 見るからに強力な鉤爪が振り下ろされる。

「ああ、最後にチョコバー、もう一本、食べたかったな……」

 後ろでキリノの叫ぶ声が聞こえる。

(逃げろって言ったのにな)

 覚悟を決めた、その時、強い力で抱きしめられ、宙を飛ぶ。

 宙を飛びながら、アオイの視界には鉤爪で砕かれるコンクリートが映る。飛んでいなかったら、今頃、自分がああなっていた。

 

 青い髪の小柄な少年、リュウがアオイを抱きしめ、跳躍。キリノの前に着地。

 優しくアオイを降ろす。

「君がリュウくんだね」

 キリノにもリュウの情報は入って来ている。

「話は後です」

 剣を抜き、漆黒のドラゴンの元へ。

 

「逃げろって言ったのに」

 立ち上がるアオイ。

「ごめん、でも、どうしても君を置いてはいけなかった」

 仲間を見捨てては逃げることはできなかった。

「でも、嬉しいよ」

 さっき見せた笑顔とは種類の違う、明るい笑顔を見せる。

 

 

 

 繰り出される漆黒のドラゴンの攻撃を難なく躱し、攻撃を与えるリュウ。

 アオイのトンファーでは傷つけることの出来なかった硬い鱗を振られる剣が切り裂いていき、ダメージを与える。

 見ているキリノ、アオイの感想は凄いの一言。リュウの戦闘は初めて見るが、間違いなく《狩る者》級の実力。

 鉤爪を避けろと同時に、ドラゴンの腕を斬り飛ばす。

 絶叫をあげ、リュウを睨み付け、報復にブレスを吐こうとする。

 危険、いくら《狩る者》級の実力者でも、あの至近距離でブレスの直撃すれば命はない。

 しかしリュウは逃げようとはしない。逆に踏み込み、ブレスが吐かれるよりも早く、心臓目がけ、深々と剣を突き立て、横に捻る。

 ブレスを吐こうとした体制のまま、漆黒のドラゴンは絶命、倒れる。

 

 

 同時刻、13班も『帝竜』ロア=ア=ルアを討伐に成功。

 

 

 

「お疲れ様」

 戦いを終えたリュウの元に、初音ミクが寄ってきた。

 キリノとアオイも傍へ行く。

「ありがとう、助かっちゃった。これお礼」

 とチョコバーを差し出す。受け取るリュウ。疲れた時は甘いものが一番。

「僕はキリノ、ムラクモ機関総長の日暈ナツメさんの補佐をやっているんだ。是非とも君にムラクモ機関に来てもらいたい」

 一気に話す。

 キリノはナツメを慕っているが、彼女の裏を見たことがあるリュウ。

 以前、タケハヤの言ったように、キリノやアオイ、13班たち、ムラクモ機関自体は信頼に値するが……。

「私が行ってみる」

 難色を示すリュウに、初音ミクが提案。

「私が行ってみて、判断する」

 

 

 

 物陰から『帝竜』ロア=ア=ルアを倒した13班を見ていたタケハヤ、ネコ、ダイゴ。

 一歩、前に出るタケハヤ。

「俺の体も、長くは持たねぇ。そろそろハッキリさせる時かもな」

 

 

 




 アオイちゃんにトンファーを使わせたのは似合いそうだったから。

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