都庁の会議室に集まった、各界のお偉いさんの目の前で、CGにより投影された蒼いドラゴン。
これは13班と10班、それに自衛官の目撃証言をもとに再現したもの。
モニターの前に出て、キリノは説明を始める。
「この未確認の個体は仮称、カリアッハ・ヴェーラと名付けました」
カリアッハ・ヴェーラとはアイルランドやスコットランドで語られる、青い顔の老婆の姿をした冬の妖精。杖を持っていて、この杖で叩かれると、植物は枯れ、水は凍り、人間は凍死すると言われている。
「13班と10班、自衛隊員の証言と『山手線天球儀』の状況からして、カリアッハ・ヴェーラは『帝竜』レベル相当と考えられます」
新たなる『帝竜』の出現は脅威だが、その『帝竜』が『帝竜』を攻撃したという謎の行動をした。
今までにない『帝竜』の行動、それが余計に不気味。
しかし、ムラクモ機関にしてみれは、ドラゴンは敵でしかない。
「カリアッハ・ヴェーラについては、追って調査をしておきますわ」
今回の会議をナツメが締めくくる。
医務室のベットで包帯だらけで寝て、本を読んでいるガトウの見舞いに訪れた刀子、ピンクハーレー、力男、アオイ、リン。
「おお、これは綺麗なネェちゃんたちのお見舞いとは、嬉しいじゃねぇか」
どうやら、心配ない様だ。
「……」
1人だけ、綺麗なネェちゃんない力男は何も言わなかった。
「調子はどうだ?」
読んでいた本を横に置き、体を起こす。
「大丈夫だよ、ガトウさんはゆっくり休んでいて」
命に別状はないが、当分の間、ガトウは安静が必要なので、しばらく、10班はアオイが仕切ることになった。
「そうか……」
安心したような顔。その後、リンの方を向く。
「『山手線天球儀』での作戦、お前たちを捨て駒にするものだったんだってな」
頷くリン。都庁へ帰ってきて、初めて刀子たちは作戦内容を自衛隊員の1人から聞かされた。
「恥ずかしい女」
思わずアオイは罵る。もしガトウが死んでいたら、きっと、ナツメを殴っていただろう。
刀子たち13班も、今回の件でナツメに不信感を持った。
しかし、だからと言って、これまでと、やることは何にも変わらない。ナツメがどんな人物しろ、13班はドラゴンから世界を守る《狩る者》なのだから。
都内にある公園。結構、大きな公園でドラゴンが来襲してくる前は、子供たちが野球やサッカー楽しみ、元気一杯の笑い声を響かせていた。
今は、その影もなく、噴水の水も止まっている。
その公園に2人のダークスーツの男を従え、ナツメはやってきた。ここへ来ることはキリノにも秘密。
ナツメには、自分に心酔しているキリノにも教えていないこと、見せていない顔はいくつもある。
「あら?」
周囲には沢山のドラゴンとモンスターが転がっていた。
お目当てのものは、この先にある。急ぐナツメ。
公園の奥には緑色に輝く、お目当てのものと、その前に立つ前にリュウと初音ミクがいた。
「話に聞いていたけど、こうして顔を合わせるのは初めてね」
少し、息を切らしているがすぐに整える。
「お互い な」
視線をぶつけ合う、リュウとナツメ。それは決して、友好的とは言えない。
「《それ》をこちらに渡してくれないかしら」
リュウとナツメのやり取りなど気にしないように、《それ》因子(ジーン)は淡い光を放ち続ける。
「こいつが何なのか、知っているのか?」
微笑むナツメ。
「それには強い力が宿っていて、それにドラゴンやモンスターが引き付けられる―、と言うことまでは私でも知っているわ」
強い力、その言葉には強い渇望が見じみ出ていた。砂漠で遭難した人が水を求めるように、ナツメは力を求めていた。
「リュウくんだったわね。あなたは《それ》について、私より詳しそうだわ。ご同行、いただけるかしら」
いつでも、襲い掛かれるようにダークスーツの男を待機させる。
「断る」
即答。手をかざすと、因子は消滅。
「!」
最初は驚き、次に怒りの表情を浮かべ、ナツメはダークスーツの男に攻撃を合図する。
1人目の男の体はダークスーツを破りながら、倍以上に膨らみ、全身を黄色を帯びた体毛に覆われる。その姿は猿のよう。
もう1人の手のひらが伸びて変形、緑色に変色。両手を大きな鎌のようになる。
ヒュノプノス。
遠い昔、高度な文明を持ちながらも、ドラゴンに滅ぼされた星の住人。
肉体は滅んでも意識、魂は残り、長い漂流の果て、故郷とよく似た地球にたどり着き『ドラゴンから、星を守りたい』という思いから、地球を安住の地とした。
ある目的から、ナツメはヒュノプノスから授かった技術を悪用、被験者にモンスターの細胞を移植。
この研究についてはキリノも知らない。
その結果が2人のダークスーツの男。マインドコントロールもしっかりしているので、ナツメの命令には必ず従う。
肩を怒らせながら、襲い掛かる猿男。
それに対してリュウは剣も抜こうともせず、自ら向かい踏み込み、鳩尾めがけ、拳を一発ねじ込む。
たったそれだけで、猿男はノックアウト。
襲い掛かってくる鎌男の鎌を初音ミクは、ひょいひょいと躱す。
大振りだったので、大きな隙が生まれ、その間に懐に飛び込み、6連発の掌打を喰らわせ、相手が蹲ったのを見計らい、思いっきり、つま先で蹴り上げた。
倒れた鎌男はピクリとも動かず。
ご自慢のモンスター兵が、あっさりすぎるほど、簡単に倒されてしまった。モンスターと戦わせたときには、上々の結果が出たのにも関わらず。
「行こう、ここでの用事は済んだ」
初音ミクとともに、狼狽えるナツメを通り過ぎようとした時、ピタッとリュウは足を止める。
「力を持つということは、その分、重いものを背負うこと。力が強ければ強いほど、背負うものも重くなっていく。それに打ち勝つためには、力以上に強いものが必要なんだ」
ぎゅ~、強くナツメは拳を握りしめる。
「あなたには力を持たないものの気持ちが解るというの。力を持ちたくても持てなかったものの気持ちが!!」
珍しく感情を爆発させる。
「解らない。でも……」
首を横に振る。
「あなたも力がもたらす、恐怖と悲しさは解らないでしょ」
かってその力が故に、家族、兄弟と言ってもいい相手と殺し合ったことのあるリュウ。
あの出来事は何年たっても忘れたことは無い。
それだけ言って、公園から出て行く。
1人残されたナツメは、リュウを追うことも、何か言うことなく、黙って公園に佇んでいた。
公園を出ると、タケハヤ、ネコ、ダイゴが待っていた。
「何か、俺に用?」
簡潔に尋ねると、タケハヤは認める。
「リュウ、君は戦闘力だけでなく、治癒力も使えるんだな、それもかなりの高レベルの」
以前、倉庫で倒れそうになった時、リュウに助けられた。
倒れる寸前だったのに、手をかざされると、何にもなかったように完治していた。
頷くリュウ。
「一緒に来てくれないか、治療薬が足りなくてな」
こんなご時世、チンピラまがいの連中とはいえ、けが人は絶えない。しかも流通もままならないから、医療品も不足してしまう。
「『ムラクモ機関』の医療物資を奪うことも考えていた」
正直にダイゴは話す。隠すことなく腹の内を見せる。
「解った、俺に出来ることならやろう」
人助けなら、当然にやる。初音ミクも自分にできることならやるつもり。
「ありがう、恩に着る」
ちゃんと頭を下げ、タケハヤは礼を述べる。
公園の方を見ながら、
「ねぇ、あのおばさん、ここでやってしまわないの?」
ネコが言う。今、公園にはナツメが1人きり。
一旦、公園の方を見るタケハヤ。
恨んでも恨みきれない思いがある。しかし、あのナツメとはいえ、今のナツメをやろうと気はどうしても湧いてこない。
復讐は、次回に回すことに。
「今日は武士の情けだ」
リュウとナツメの初顔合わせ。ダークスーツ1はアバレザル、ダークスーツ2はデスシザーズの細胞を使って改造されています。
カリアッハ・ヴェーラはスコットランドでは釣りの女神として知られてるので、老婆ですがこの名前にいたしました。