ブレス オブ セブンスドラゴン   作:マチカネ

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 今回は短めになります。次へのつなぎのような話。


第四章 持つ者 持たぬ者

 都庁の会議室に集まった、各界のお偉いさんの目の前で、CGにより投影された蒼いドラゴン。

 これは13班と10班、それに自衛官の目撃証言をもとに再現したもの。

 モニターの前に出て、キリノは説明を始める。

「この未確認の個体は仮称、カリアッハ・ヴェーラと名付けました」

 カリアッハ・ヴェーラとはアイルランドやスコットランドで語られる、青い顔の老婆の姿をした冬の妖精。杖を持っていて、この杖で叩かれると、植物は枯れ、水は凍り、人間は凍死すると言われている。

「13班と10班、自衛隊員の証言と『山手線天球儀』の状況からして、カリアッハ・ヴェーラは『帝竜』レベル相当と考えられます」

 新たなる『帝竜』の出現は脅威だが、その『帝竜』が『帝竜』を攻撃したという謎の行動をした。

 今までにない『帝竜』の行動、それが余計に不気味。

 しかし、ムラクモ機関にしてみれは、ドラゴンは敵でしかない。

「カリアッハ・ヴェーラについては、追って調査をしておきますわ」

 今回の会議をナツメが締めくくる。

 

 

 

 医務室のベットで包帯だらけで寝て、本を読んでいるガトウの見舞いに訪れた刀子、ピンクハーレー、力男、アオイ、リン。

「おお、これは綺麗なネェちゃんたちのお見舞いとは、嬉しいじゃねぇか」

 どうやら、心配ない様だ。

「……」

 1人だけ、綺麗なネェちゃんない力男は何も言わなかった。

「調子はどうだ?」

 読んでいた本を横に置き、体を起こす。

「大丈夫だよ、ガトウさんはゆっくり休んでいて」

 命に別状はないが、当分の間、ガトウは安静が必要なので、しばらく、10班はアオイが仕切ることになった。

「そうか……」

 安心したような顔。その後、リンの方を向く。

「『山手線天球儀』での作戦、お前たちを捨て駒にするものだったんだってな」

 頷くリン。都庁へ帰ってきて、初めて刀子たちは作戦内容を自衛隊員の1人から聞かされた。

「恥ずかしい女」

 思わずアオイは罵る。もしガトウが死んでいたら、きっと、ナツメを殴っていただろう。

 

 

 刀子たち13班も、今回の件でナツメに不信感を持った。

 しかし、だからと言って、これまでと、やることは何にも変わらない。ナツメがどんな人物しろ、13班はドラゴンから世界を守る《狩る者》なのだから。

 

 

 

 都内にある公園。結構、大きな公園でドラゴンが来襲してくる前は、子供たちが野球やサッカー楽しみ、元気一杯の笑い声を響かせていた。

 今は、その影もなく、噴水の水も止まっている。

 その公園に2人のダークスーツの男を従え、ナツメはやってきた。ここへ来ることはキリノにも秘密。

 ナツメには、自分に心酔しているキリノにも教えていないこと、見せていない顔はいくつもある。

「あら?」

 周囲には沢山のドラゴンとモンスターが転がっていた。

 お目当てのものは、この先にある。急ぐナツメ。

 

 公園の奥には緑色に輝く、お目当てのものと、その前に立つ前にリュウと初音ミクがいた。

「話に聞いていたけど、こうして顔を合わせるのは初めてね」

 少し、息を切らしているがすぐに整える。

「お互い な」

 視線をぶつけ合う、リュウとナツメ。それは決して、友好的とは言えない。

「《それ》をこちらに渡してくれないかしら」

 リュウとナツメのやり取りなど気にしないように、《それ》因子(ジーン)は淡い光を放ち続ける。

「こいつが何なのか、知っているのか?」

 微笑むナツメ。

「それには強い力が宿っていて、それにドラゴンやモンスターが引き付けられる―、と言うことまでは私でも知っているわ」

 強い力、その言葉には強い渇望が見じみ出ていた。砂漠で遭難した人が水を求めるように、ナツメは力を求めていた。

「リュウくんだったわね。あなたは《それ》について、私より詳しそうだわ。ご同行、いただけるかしら」

 いつでも、襲い掛かれるようにダークスーツの男を待機させる。

「断る」

 即答。手をかざすと、因子は消滅。

「!」

 最初は驚き、次に怒りの表情を浮かべ、ナツメはダークスーツの男に攻撃を合図する。

 1人目の男の体はダークスーツを破りながら、倍以上に膨らみ、全身を黄色を帯びた体毛に覆われる。その姿は猿のよう。

 もう1人の手のひらが伸びて変形、緑色に変色。両手を大きな鎌のようになる。

 

 ヒュノプノス。

 遠い昔、高度な文明を持ちながらも、ドラゴンに滅ぼされた星の住人。

 肉体は滅んでも意識、魂は残り、長い漂流の果て、故郷とよく似た地球にたどり着き『ドラゴンから、星を守りたい』という思いから、地球を安住の地とした。

 ある目的から、ナツメはヒュノプノスから授かった技術を悪用、被験者にモンスターの細胞を移植。

 この研究についてはキリノも知らない。

 

 その結果が2人のダークスーツの男。マインドコントロールもしっかりしているので、ナツメの命令には必ず従う。

 肩を怒らせながら、襲い掛かる猿男。

 それに対してリュウは剣も抜こうともせず、自ら向かい踏み込み、鳩尾めがけ、拳を一発ねじ込む。

 たったそれだけで、猿男はノックアウト。

 襲い掛かってくる鎌男の鎌を初音ミクは、ひょいひょいと躱す。

 大振りだったので、大きな隙が生まれ、その間に懐に飛び込み、6連発の掌打を喰らわせ、相手が蹲ったのを見計らい、思いっきり、つま先で蹴り上げた。

 倒れた鎌男はピクリとも動かず。

 ご自慢のモンスター兵が、あっさりすぎるほど、簡単に倒されてしまった。モンスターと戦わせたときには、上々の結果が出たのにも関わらず。

「行こう、ここでの用事は済んだ」

 初音ミクとともに、狼狽えるナツメを通り過ぎようとした時、ピタッとリュウは足を止める。

「力を持つということは、その分、重いものを背負うこと。力が強ければ強いほど、背負うものも重くなっていく。それに打ち勝つためには、力以上に強いものが必要なんだ」

 ぎゅ~、強くナツメは拳を握りしめる。

「あなたには力を持たないものの気持ちが解るというの。力を持ちたくても持てなかったものの気持ちが!!」

 珍しく感情を爆発させる。

「解らない。でも……」

 首を横に振る。

「あなたも力がもたらす、恐怖と悲しさは解らないでしょ」

 かってその力が故に、家族、兄弟と言ってもいい相手と殺し合ったことのあるリュウ。

 あの出来事は何年たっても忘れたことは無い。

 それだけ言って、公園から出て行く。

 

 

 

 1人残されたナツメは、リュウを追うことも、何か言うことなく、黙って公園に佇んでいた。

 

 

 

 公園を出ると、タケハヤ、ネコ、ダイゴが待っていた。

「何か、俺に用?」

 簡潔に尋ねると、タケハヤは認める。

「リュウ、君は戦闘力だけでなく、治癒力も使えるんだな、それもかなりの高レベルの」

 以前、倉庫で倒れそうになった時、リュウに助けられた。

 倒れる寸前だったのに、手をかざされると、何にもなかったように完治していた。

 頷くリュウ。

「一緒に来てくれないか、治療薬が足りなくてな」

 こんなご時世、チンピラまがいの連中とはいえ、けが人は絶えない。しかも流通もままならないから、医療品も不足してしまう。

「『ムラクモ機関』の医療物資を奪うことも考えていた」

 正直にダイゴは話す。隠すことなく腹の内を見せる。

「解った、俺に出来ることならやろう」

 人助けなら、当然にやる。初音ミクも自分にできることならやるつもり。

「ありがう、恩に着る」

 ちゃんと頭を下げ、タケハヤは礼を述べる。

 公園の方を見ながら、

「ねぇ、あのおばさん、ここでやってしまわないの?」

 ネコが言う。今、公園にはナツメが1人きり。

 一旦、公園の方を見るタケハヤ。

 恨んでも恨みきれない思いがある。しかし、あのナツメとはいえ、今のナツメをやろうと気はどうしても湧いてこない。

 復讐は、次回に回すことに。

「今日は武士の情けだ」

 

 

 




 リュウとナツメの初顔合わせ。ダークスーツ1はアバレザル、ダークスーツ2はデスシザーズの細胞を使って改造されています。
 カリアッハ・ヴェーラはスコットランドでは釣りの女神として知られてるので、老婆ですがこの名前にいたしました。

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