都内某所にある倉庫。ドラゴン襲来前はとある彫刻家がアトリエに使っていた場所。
その倉庫に、お世辞でも柄のいいとは言えない集団『SKY』が来ていた。
すらりとした体格の整った顔立ちの青年が『SKY』の前に出る。この青年がリーダー。
「タケハヤ」
青年の隣にいる青い髪の少女、アイテルが彼の名前を呼ぶ。アイテルの指さす先には、石を彫って作られた仏像のような、わりと大きい石像がある。
ここをアトリエに使っていた彫刻家が作ったもの。悪い出来ではない。
「これがそうか……」
少し睨むように、石像に近づく。
「ところで、これ何なの?」
ネコミミ付きのパーカを来た眼鏡の女性、ネコがペロペロキャンディーを片手に聞く。隣には浅黒い肌の大男、ダイゴ。丸太のような腕には入れ墨がある。
「さぁな、だがあのババアが欲しがっていた」
タケハヤはポケットから、一枚の写真を取り出す。
そこには目の前の石像が写っている。
《あの施設》逃げ出すとき、一緒に持ち出した写真。あのババアに一泡ふかしたくって。
「―内に何かある」
アイテルが言うと、ここはオレの出番だとダイゴが進み出て、石像を掴む。
両手に力を込めると、いとも簡単に石像は砕け散った。
内にあったのは、クリーム色の水晶のような塊。石の殻から、解放されたことを喜ぶように、不思議な輝きを放つ。
「何だろう」
ネコが近づこうとした時、塊を見たアイテルが、急に怯えだす。
「どうした、アイテル!」
一体、何があったんだとタケハヤがアイテルをかばう。
「この石のオーラはドラゴンのもの……」
と呟いた時、倉庫の外を見張っていた『SKY』のメンバーが飛び込んできた。
「ドラゴンが来た! モンスターも大挙して押し寄せてきている」
瞬時にして『SKY』の顔付きが戦闘モードに変わった。
「みんな、戦いの用意はいいか」
タケハヤの鼓舞に全員『おおー』と拳を触れあげる。
『SKY』は『ムラクモ機関』とは別にドラゴンと戦う集団。中には市民にカツアゲするようなチンピラもいる。『ムラクモ機関』との関係は悪い。
「この石がドラゴンを招き寄せた……」
クリーム色の輝きを放つ石を見つめるアイテル。
金色の大剣を握りしめ、ことごとくモンスターとドラゴンを斬り倒していくタケハヤ。その戦闘力は人間の域を超えたもの。
大半の『SKY』のメンバー動きは、訓練が積まれていて常人よりも高い戦闘力だが、人間の領域は越えてはいない。
ただダイゴとネコの戦闘力は、タケハヤほどではないにしろ、人間離れしている。
わらわらと襲い掛かってくるドラゴンとモンスターを倒していく『SKY』たち。
その最中、突然、攻撃を受けたわけでもないのにタケハヤが表情を苦痛に歪め、その場に蹲ってしまう。
タケハヤに、赤い体色の巨大なドラゴンが襲い掛かった。
「タケハヤ!」
アイテルが助けようとしたが、距離が離れていて間に合いそうにない。
ネコとダイゴも同じ。他の『SKY』のメンバーも目の前のドラゴンとモンスターを倒すのが精一杯で、助けに行く余裕はなし。
ここまでか……。タケハヤが覚悟を決めた時、今にも襲い掛かろうとしていたドラゴンが倒れた。その背中に突き刺さるのは一本の剣。
剣を投げたのは、いつの間にかに現れたリュウ。その横には初音ミク。
誰にも、お前は誰だと質問をさせる間など与えられないスピードでタケハヤに接近、手をかざす。
「トプリフ」
一言唱えると、タケハヤの体調が回復。
もう何ともない、先ほどの苦痛が嘘のように消えている。
「話は後で聞く」
立ち上がり、金色の大剣を構えなおす。
無言でリュウはドラゴンの背中に刺さっている剣を抜く。
戦闘は終わり、負傷者は出たものの、死者は出すことなく、ドラゴンとモンスターを片付けることができた。
これも、いきなり参戦してくれたリュウと初音ミクのおかげ。リュウの戦闘力は《狩る者》に匹敵するほどのもの。見かけによらず初音ミクの戦闘力も高かい。
ネコがお礼を言おうとしたら。
ガラの悪い『SKY』のメンバーがリュウと初音ミクを取り囲む。
「テメーらは何者だ!」
「ムラクモ機関か?」
「何の目的でここへ来た!」
「た、タバコと酒は持ってなさそうだから、食い物は持ってない?」
お世辞にも友好的とは言えない態度。みんな戦闘の余韻が残って、興奮状態のまま。
付け加えれば、こんな世界で生き延びてきた弊害。
「この人たち、礼儀知らず」
ズバッと初音ミクはど真ん中直撃の発言。
まさしく、正論である、正論中の正論。しかし、この手の連中は正論を言われれば言われるほど、逆上してしまう。
さらに興奮の度合いを増し、みんな殺伐とした雰囲気。一触即発の状況に。
「やめろ!」
タケハヤの一括。一気に興奮は収まり、『SKY』のメンバーは冷却化。
流石にこのメンバーを纏めていることだけはある。
「お前のおかげで助かった。出来れば名前を教えて欲しい。俺はタケハヤ」
自分から名前を名乗った。リーダーだけに礼儀を知っている。
「リュウ」
「初音ミク」
それぞれ名乗り、差し出したタケハヤの手を握って握手。
この握手でリュウも初音ミクも悪党ではないと知れた。
「こいつらのリーダーとして、無礼を謝らしてくれ」
頭を下げる。ここまでされたら、誰も文句は言えなくなる。
「いきなりで悪いが、2つほど質問させてくれないか」
断る理由もないので、了承。
「君たちはムラクモ機関なのか?」
違うので首を横に振るリュウ。
タケハヤの隣にダイゴが来て、
「何人かのムラクモ機関の《狩る者》は見たが、この2人は見たことは無い」
リュウと初音ミクの人となりと、ダイゴのこの情報で2人がムラクモ機関ではないと判断。
「では2つ目の質問だ。何の目的でここへ来た。まさか、都合よく、俺たちを助けに来たって、わけではないだろ」
その質問に対して、リュウは初音ミクを伴い、倉庫の奥へ。
リュウは倉庫の奥にあったクリーム色の石の前へ。
「俺はこいつを回収しに来た」
そう言って、リュウが手をかざすと、クリーム色の塊は霧散して、消滅、リュウの体の中に吸い込まれたようにも見える。
「そいつは何なんだ?」
皆の疑問を代表して、ダイゴが聞く。
「こいつは因子(ジーン)。このまま、ここに置いていたら、ドラゴンを招き寄せてしまう。モンスターのおまけつきで」
嘘偽りでないのは石像を割った途端、ドラゴンとモンスターが来たことで証明されている。
「これでここに、大挙してドラゴンやモンスターが押し寄せてくる心配は無い」
完全に安心と言えないが、先ほどのように大挙して押し寄せてくることはない。
まだ『SKY』のメンバーには聞きたいことがあった。それは質問『お前は何者か』である。
とても高い戦闘力もさることながら、クリーム色の石、ジーンのこと、それを消滅させたことなど、沢山、聞きたいことがあった。
1人がそれを口に出すより早く、わんっとメンバーの飼っている犬が鳴いた。
途端、驚き、飛び上がるリュウ。慌てて周囲を見回し、犬を見つけた。まだ子犬たが、リュウの顔色は良くなし。
そんなリュウの様子を見たネコ。
「もしかして、犬が苦手?」
その問いかけには答えていなかったが、泳いでいる目がそうだよと教えていた。本当に目は口ほどにものを言う。
獅子奮迅の戦いを見せたのに犬が怖いというところが、微笑ましくて可愛くて、ついネコは笑ってしまう。
恥ずかしそうにしているリュウの様子に、沢山の質問は、どっかへ吹っ飛んでしまう。
つい先ほどの険悪なムードはどこへやら、リュウと初音ミクが去るときには打ち解けていた。
去り際、タケハヤはリュウを呼び止める。
「恐らくムラクモ機関は、いずれ、お前たちをスカウトに来るだろう。組織自体は良いか悪いかで区切れば、良い方になる。だがあのババァは違う、あのババァを信用するな」
警告する。
2日後。
都内の某有名釣具店。大型の店内には誰もいない。慌ててて逃げ出したので、商品がそのまま放置してあった。
訪れたリュウと初音ミク。一つ一つリュウは釣り糸を見て、吟味している。
ルアーや錘などを買い物かごに入れ、店員がいないと言っても、このまま持って帰ったら、泥棒になるのでお金をレジの横に置いていく。
まー、幼少時、森の小屋で一緒に暮らしていた、レイ、ティーポの3人で、こそ泥していたから、今更なんだけど。
店から出ると、ただっ拾い駐車場に、刀子、ピンクハーレー、力男、13班が待ち構えていた。
「あら~、可愛い子じゃない」
初音ミクのことも入っているが、ピンクハーレーの目はリュウを映していた。
「……」
無言の力男。
「お初にお目にかかります、私たちはドラゴンと戦っております、ムラクモ機関の13班。私はその1人、御堂刀子と申します」
丁寧な挨拶ののち、
「あなた様の力、試させて頂きます」
刀子は日本刀を抜く。
「俺の名前はリュウ」
リュウも剣を抜く。
話し合いで分かり合えるような相手では苦労はしない、剣と刀で語り合うべし。
リュウ、刀子ともにコンクリートを蹴り上げ、一気に間合いを詰める。
打ち合う剣と刀、火花が飛び散る。
たった一撃の打ち合いだったが、お互いがお互いを手練れと知るには十分。
リュウも刀子も剣と刀の打ち合いを続ける。
鍛錬と実戦で鍛え上げられた、剣技と剣技がぶつかり合い、両者、一歩も引くことなし。
戦っているうちにリュウの顔は楽しそう、刀子の顔も楽しそう。2人とも剣術の達人、達人同士の戦いに武人の血が騒ぎだす。
当初の目的はリュウの実力試しだが、その目的が外れ始めていることを仲間のピンクハーレーと力男が気が付いた。
初音ミクもリュウが楽しんでいることに気が付く。
止めないとやばい。そう思った時、周囲を揺るがすほどの衝撃が走った。
鍛え上げていたからこそ、リュウも初音ミクも13班も、転ばず耐えることができ、倒れずに済む。
この衝撃は地震ではない、だとすれば原因は一つしかない。
刀子たち13班の携帯端末から、緊急通信が入る。
『ミロクです。みなさんも、すでにお気づきでしょうが、今の衝撃はドラゴンの攻撃が原因です。今の攻撃で高田馬場が消滅しました。直ちに13班は都庁に戻ってきてください』
初音ミクの戦闘力は、動画で凶器を持った泥棒を叩きのめしたり、ガン=カタをやったりしていて、かなり高いものと思いました。
ジーンがクリーム色なのは『セブンスドラゴン』のタケハヤの髪の色から来ています。