ガールズ&パンツァー 隻腕の操縦士 《本編》   作:砂岩改(やや復活)

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半年ぶりの投稿。
かなり遅くなってしまいました。申し訳ありません。
言い訳を言うと私は書くときに計画をたてれない人物なので一度引っ掛かるとかなり引きずってしまいます。完結までは絶対に持っていくので気長に待って頂けると幸いです。




第十二両 お茶会

《聖グロリアーナ女学院、クルセイダー。大洗女子学園、ヘルキャット行動不能》

 

 大音量のアナウンスが鳴り響きその映像を見ていたもの全てが唖然とする。先程の一騎打ちは明らかに優衣たち大洗女子学園側だったが結果は相討ち。

 

「まさかこうなるとは」

 

「だから危ないっていったのよ!」

 

「ここがエデンか…」

 

 ヘルキャット車内では置いてあった物品がこれでもかというほど散らかり操縦席に座っていた優衣以外のイオ、美優、香奈恵は物凄い体勢で転がっていた。

 

「いや、みんな。すまない」

 

 一体、何が起きたのか。順を追って説明しよう。グロリアーナの俊足ことクルセイダーを倒すために優衣が行った大ドリフト作戦は功を奏しクルセイダー撃破に至った。

 だが場所が悪かった、場所は戦車一台が何とか通れる住宅密集地。ほぼ最高速度でドリフトを行ったヘルキャットがピタリと止まれる訳もなく民家の塀を粉砕し敷地内に突入。それでも止まれずに家に衝突し壁を粉砕、頭を家に埋めて止まったのだ。

 

「行けると思ったんだが…。今までティーガーとかの重戦車にしか乗らなかったもので、はしゃいでしまった」

 

 もしかしたら優衣はエンジンが掛かるとローズヒップ以上のスピード狂になるのかもしれない。

 

 その後、みほを主軸としたAチームがマチルダⅡを殲滅する活躍を見せたもののダージリンのチャーチルに撃破され勝負は聖グロリアーナの勝利となった。

 

ーー

 

 その後、半生き埋め状態となった優衣たちは自動車部が救出。家主は建て替えを考えていたようで大喜びだったそうだ。

 

「みほ」

 

「優衣さん、大丈夫でしたか?」

 

「なんとかな、ヘルキャットは速攻ICU行きだったがな」

 

 体中が汚れている優衣たちを見て心配するみほだったがなんとか無事だったようだ。

 

「あら優衣さん、中々の無茶をなさいましたわね」

 

「ダージリン。久しぶりの試合で興奮してしまってな」

 

「それは何より、やはり試合前とは顔付きが違いますわ。前のように戻りましたわね」

 

 勝利を求める餓狼のような鋭い目。現役時代の彼女を思い出してゾクゾクするダージリンもまた戦車狂なのだろう。

 

「貴方が隊長さん?」

 

「あ、はい」

 

「お名前は?」

 

「西住みほです」

 

「もしかして西住流の…随分とまほさんと違うのね」

 

 ダージリンの言葉には侮蔑や嘲笑など一切含まれていない。心の底からの感想、ある種の賞賛も含まれているような言葉だった。

 

「優衣さん、お時間はお有り?」

 

「あぁ…」

 

 そう言うと彼女の傍に控えていたオレンジペコが優衣に綺麗に折り畳まれた紙を渡す。中身は茶会への招待状。

 

「積もる話は茶会で話しましょう」

 

「そうだな、ありがたく行かせて貰うよ」

 

 招待状をしまうと優衣は笑いながらその招待に応じる。

 

ーー

 

 聖グロリアーナ女学院学園艦、英国海軍空母《アークロイヤル》に酷似している学園艦の規模は大洗女子学園のものに比べても破格の大きさを誇る。

 

 その中枢と言うべき《紅茶の園》、基幹メンバーが集う場所に招待された彼女の扱いはVIP対応と言える。全員分の紅茶を用意するオレンジペコはその対応に少々の疑念を抱いていた。

 黒森峰やプラウダの隊長格と同じ扱い、確かに彼女は異例の過去を持っているようだが同じ対応というのはやはり違和感が残る。

 

「私も正直、ここまでの扱いは身の丈に合わないと思っている所だよ…えっと、オレンジペコさん」

 

「え?」

 

 心情など顔に出していない。それどころか彼女は優衣とまだ顔をしっかり合わせていないというのに心を見透かされた。

 

「まぁ、貴方の武勇を知っているのは今となっては私たちごく一部の三年生のみ。仕方ないと言えば仕方ないのですが…貴方は人の心を良く読み取りますね」

 

「それが役目だったからな」

 

 こんな鑑識眼を持っているせいで継続の風変わりとも仲が良いのだがそれはまた別の話。

 

「失礼いたしました」

 

「なに、気にしない方がいい。当然の反応だ、私とてこの扱いは破格だと思っている」

 

「しかし惜しいことをしました。黒森峰を去ると知っていたらこちらから出向きましたのに」

 

「少し戦車から離れたくてな。世話になった身としては申し訳ないことをしたと思ってる」

 

 そう言うと互いに用意された紅茶を飲む。

 

「やはり、練習中に負傷されたと言うのは本当なのですね」

 

「あぁ、流れ弾でな」

 

 肩から先が無くなった左腕をさすり黙る優衣。悲しい表情を見せない彼女だが言葉にはほんの少しだけ無念の思いが滲み出でいた。

 

 ダージリンが高校戦車道に入って初めて交流を持ったのが優衣であった。故に今接しているのは共に戦車道を行う同志以上に友人としての側面が強い。

 

「しかしよく調べたな。黒森峰でも現場に居合わせた奴しか知らないというのに」

 

「大切な友人がなにも前触れなく消えてしまえば調べたくなるのは当然でしょう?」

 

「確かに、その事については悪かったと思ってる。向こうでもいざこざがあってな。全部捨て去りたい気分だったんだ」

 

 いざこざがあったというのは気になるワードだが彼女はなにも言わない。親しき仲にも礼儀ありという諺もある通りそう言った線引きも大切だ。

 

「しかし、良く戻る決心をしましたわね。連絡があったときはかなり驚きましたが」

 

「自分なりのケジメを付けたと言ったところかな」

 

 優衣の言葉を聞くとダージリンは満足そうに紅茶を飲むと言葉を放つ。

 

「私の人生観は単純だ。すなわち目をそむけることなく人生と折り合っていくということだ」

 

「イギリスの看護師、フローレンスナイチンゲールの言葉ですね」

 

「人生と折り合っていくというのはとても難しい事でしょう。それが大きな出来事なら、なおさら」

 

「私は現実から逃げ出した臆病者だ。お前の思うような人間じゃない」

 

「でも貴方は立ち直った。過程がどうであれそれは揺るぎない事実なのでは?」

 

「ありがとう…」

 

「いえ…」

 

優衣の心からの感謝。彼女の昔を知るダージリンだからこそ言えた言葉。気品ある紅茶の香りに包まれながら静かに茶会を進めるのだった。

 

「ダージリン様、間もなく出航のお時間ですわ!」

 

「ローズヒップ…御客人の前よ、静かになさい」

 

「あら、それは失礼いたしましたわ」

 

 静かな紅茶の園に響き渡る大声量。それとともに現れたのは赤髪の少女。確か、試合前の顔合わせの時にもいた顔だ。

 

「もしかしてクルセイダーの」

 

「あら、それではヘルキャットの乗員ですのね。とても楽しい試合でしたわ!ですが私は聖グロ1の駿足、今度は遅れを取りませんわ!」

 

「あぁ、私も楽しみにしているよ」

 

 片腕をなくした状態の優衣に臆せず手を差し出すローズヒップを見て笑いが込み上げてくる。随分と気持ちの良い人間らしい。

 

 聖グロリアーナの学園艦が出航の時間となり出口まで案内される。

 

「それではご機嫌よう優衣さん」

 

「あぁ、随分とお邪魔してしまったな」

 

 優衣が立ち去ろうとするとオレンジペコから手提げ袋を渡される。その中にはティーセットが二つ入っていた。

 

「一つは我ら聖グロリアーナから、もう一つはローズヒップからですわ」

 

「ありがとう、会長に渡しておく。そしてローズヒップには再戦を願うと伝えておいてくれ、今度は完膚無きまでに叩き潰すとな」

 

「えぇ…」

 

「またな」

 

 そう言うと優衣は笑って学園艦を後にした。それを見届けたダージリンは手にしていた紅茶を飲む。

 

「全国大会が楽しみね、アッサム」

 

「そうですね」

 

「大洗女子学園は必ず台風の目になるわ」

 

 確信は無い…だがそうなってしまうだろうと思えてしまう。本当に愉快なチームだったが他の学園には無いものを感じたような気がした。

 

「impossible(不可能)なことなど何もない。この言葉自体がそう言っている。I’m possible(私にはできる)と」

 

 右も左も分からない彼女たちは飽くなき挑戦心がどこまで舞い上がれるのか心の底から楽しそうにダージリンは笑うのだった。

 

 


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