ガールズ&パンツァー 隻腕の操縦士 《本編》 作:砂岩改(やや復活)
大変遅くなりました。
本当に申し訳ありませんでした!
「各車、出来れば伏せている細かい位置を教えてください。ヘルキャットがカバーにまわります」
「Bチーム、タワーパーキングで陽動中」
「Cチーム、ドラックストア脇に布陣中だ」
「Aチームは伏せずに迎撃します」
何とか聖グロリアーナを撒いた大洗チームは各々に散らばり迎撃態勢を整えていた。
「こっから一番近いのは?」
「Bチームのタワーパーキングですね。姉貴」
ヘルキャットの車内では大洗の街の地図を広げて各々にマーキングする。市街地における指定区域は既に赤いラインで書き込んである。
「イオちゃん、どうするの?」
「敵が来たのを見計らってタワーパーキング経由でCチームの元に向かって援護。後は皆と歩調を合わせてやっていくしかないですね」
「分かった、取りあえずBチームのカバーが出来るように向かおう」
「姉貴、お願いします」
取りあえずの方針を決めるとヘルキャットを向かわせる優依だった。
ーー
「どこに伏せているのかしら…」
優雅に紅茶を飲みながらも周囲の警戒を疎かにしないダージリンは敵の気配がしない街に一層の警戒心を抱く。
「すいません、ダージリン様。ルクリリ、戦線に復帰します」
「復帰致しましたわ!」
「2人とも、街の索敵に当たりなさい」
「了解いたしましたわ!」
「了解しました!」
敵と会敵する前にこちらの二両が合流した。こちらとしては喜ばしいことだだがどうにも腑に落ちない。
「簡単に行きすぎているわ」
「そうでしょうか、向こうがこちらを警戒しているだけでは?」
ダージリンの言葉にオレンジペコはさも、当然のように返事をする。車両も練度もこちら側が有利なら当然の思考だろう。
「せっかく2つに分けられた敵戦力を放っておく、なにか意図があるのかしら」
「考えすぎとは言えませんね。相手には優依さんがいますから」
ダージリンの考えに賛成したのはアッサム、そんな2人の考えに少しだけついて行けなかったのはペコと操縦手のルフナだった。
ーー
ダージリンの疑問は同じ経験者であったイオも疑問に思っていたことだ。彼女は優依にそれについての質問をしていた。
「そこら辺、どうなんですか姉貴?」
「簡単なことだ、この試合は勝つためにするんじゃない。勝つことを目指すのは大前提だがな」
「深淵は深まるばかり…」
「言いたいことがちょっと分からないんだけど」
優依の答えに疑問を深めるばかり、それに対して美優と香奈恵はその事を思わず口に出す。
「これは
彼女の言葉に3人は思わず感心する。本当に優依と言う人物は先の先まで見据えている、それを改めて実感させられたのだ。
ーー
「ん?」
そんな時、駆けつけたルクリリはタワーパーキングが稼働しているのに気づきマチルダⅡをその入り口につける。
「ふっ…バカ?」
そして同じ時、三突が伏せているドラックストア脇にもマチルダⅡが1両、ゆっくりと近づいていた。
「来たぜよ、来たぜよ」
「慌てるな、時を待て」
興奮するおりょうをたしためるエルヴィンは黙って姿を現すマチルダⅡを待つ。
ーー
「こちらCチーム1両撃破!」
「こちらBチーム1両撃破!」
しばらくの時間を置いてCチーム、Bチームの朗報が耳に届いた。
「姉貴、やりましたね!」
「あぁ、Bチームの様子を見てCチームの元に行くぞ」
「了解!」
皆が知恵を絞ればある程度の実力も経験も覆せる。そんな思いが大洗チームの中で生まれてきた時、Bチームの車長、磯辺典子は撃破したはずの車両から白旗の立っていない事を見てしまった。
「わぁ、生きてた」
「どうしよ、どうしよ」
「それ!」
「サーブ権取られた」
予想外の事態に混乱するBチーム、試しに主砲を撃ってみるが悲しい音を立てて弾かれる。
もう駄目だと涙目になっていた佐々木は横から飛来した砲弾に撃破され白旗を上げるマチルダⅡを目撃した。
「大丈夫ですか、Bチーム!」
援護に駆けつけたのはヘルキャット、優依たちのFチームだ。
「助かったよ!」
「これからCチームの援護にまわります。着いてきてください」
撃破されたマチルダⅡの横を通りタワーパーキングの敷地から出てくる八九式中戦車。
「分かった、そっちに着いて…」
「見つけましたわよぉ!」
そこに猛スピードで迫ってきたのはローズヒップのクルセイダー。クルセイダーの放った砲弾は八九式中戦車に直撃し撃破される。
「急速後退、舌噛むなよ!」
撃破されたBチームを楯にしつつ器用に後退しながら路地に逃げ込む優依。
「逃がしませんわよ!」
それを猛追するローズヒップは速度を緩めることなくヘルキャットに迫る。
「追いつかれる!」
「迎撃!」
最初からスピードが乗っているクルセイダーと動き始めのヘルキャット、速度では上回るとは言え若干不利、それを悟った香奈恵はローズヒップの機先を制するように砲撃。
「停止ですわ!」
逃げ場のない狭い路地、流石の彼女も車両を停止させて回避する。その際にローズヒップの紅茶が前に居た操縦手の頭にぶっかけられた事など彼女本人は知るよしはない。
「ナイスだ香奈恵!」
優依はそう言うと路地の十字路で器用に車体を反転させ逃げる。
「聖グロ、一の俊足からは逃げられませんわよ!」
「しつこい!」
ーー
優依とローズヒップが追いかけっこを開始した頃、みほはCチームとBチームが撃破されたことを知る。
「残っているのは我々と優依さんのチームだけです」
「優依さん、今は敵車両と交戦中でこっちには向かえそうにないって」
「残りは何両ですか?」
「優依さんが交戦中なのを含めて4両です」
「こっちに向かってくるのは3両…」
優依が交戦中だと言う事は相手はチャーチルかクルセイダーのどちらか、マチルダⅡ2両は確実にこちらに向かってくる。
そして運の悪いことに目の前にはマチルダⅡ2両が目の前に来ていた。
「囲まれたらまずい」
「どうする?」
「とにかく振り切って」
「ほい」
みほの指示通り、加速しマチルダⅡを振り切るために複雑な街にⅣ号を進める冷泉。
ーー
その頃、ヘルキャットとクルセイダーはお互い川を挟み並行しながら撃ち合っていた。
「負けていますわよ、もっと速度をお出しなさい!」
「元のスペックが違いますよ!」
クルセイダーMK-Ⅱの最高速度は60㎞、これはリミッターを解除した場合でリミッター状態では約44㎞。
対してヘルキャットはリミッター云々抜きで最高速度80㎞、現時点では倍近くの差がある。
「聖グロ、一の俊足の名を穢すわけにはいきませんわ。勝負はあの橋ですわよ」
ーー
「勝負はあの橋だ」
ローズヒップと優依、2人が重要視している橋は500m先にある大きな橋、そこを先に取ればこの勝負は勝ちも同然だ。
「速度も緩めずに曲がれますか?」
「向こうもリミッターを外して来るはずだ、100mきったら更に加速する」
加速と言う事はヘルキャットの最高速度である80㎞を出し切るつもりだ。それを悟ったイオは身を乗り出して橋を見つめる。
橋自体の幅はとても広い、あの幅なら車両を横にしても問題が無いだろう。
「まさか、ドリフトするつもりですか姉貴!」
「当然」
「ヤメテ優依、死んじゃうよぉ!」
まさかの回答に美優は絶望を覚え頭を抱えながら叫ぶ。
「行くぞ!」
「やめでぇぇ!」
「リミッターを外しますわよぉ!」
橋まで100mをきった瞬間、両車は一気に加速する。前に出たのはヘルキャット、だがそれを黙って見ているローズヒップではない。
「砲塔を3時に固定したままそのまま直進、橋で曲がるM18を撃破しますわ!」
足自慢のヘルキャットでも曲がる際には減速しなければ横転してしまう、なら橋の上で渡っている車両を迎撃すれば良い。
「認めますわ、そちらの方が速いことを…ですが私が勝ちますわ!」
橋は目の前、だがヘルキャットは速度を緩めるどころか更に加速する。橋を使わないのか、そんな考えを巡らしていたローズヒップはハッと気付く。
「ドリフト!?もっと速度を上げれませんの?」
「無理です!」
「砲塔旋回にしなさい、12時の方向!」
「目標正面、てぇぇ!」
ローズヒップの予想通りヘルキャットはドリフトをしつつ橋を通過、彼女の指示も虚しく前に出現したヘルキャットはクルセイダーに砲撃するのだった。
ヘルキャット対クルセイダー対決、集結。
次回は聖グロリアーナ戦、集結。