いやー、テストとか資格試験が被ったり、fateもイベントあったり大変でしたね。
新宿は邪ンヌ可愛い&おじさんかっこいいな話でしたね。ドレス姿の邪ンヌとか超ほしいです。
さて、前置きはこの辺で。
ちょっと駆け足気味になっていたり、急展開になりますが、ご了承下さい。
全部、作者の、技量不足のせいなんだ!
「うごっ!?」
綺礼の目覚めは、突然腹部に走った衝撃によるものだった。
現在が聖杯戦争中であるが故に、その衝撃が走ると同時に布団から飛び退きつつ、臨戦態勢をとる……が、敷いていた布団の近くに立っていたのは他でもないアヴェンジャーだった。
例によって、気まぐれで睡眠を妨害したのだろうかと考える綺礼。
アヴェンジャーはよく気まぐれに綺礼に嫌がらせをする。とはいっても、実に子どもじみたものなので、軽くスルーするか、お望み通りの反応を返すのだが、どうにもアヴェンジャーの様子がおかしい事に気がついた。
何時ものようなしたり顔でもなく、人を馬鹿にしたような様子もなく、真剣な表情でアヴェンジャーが綺礼を見ている。
何があったのか、綺礼が問いかけるまでもなく、アヴェンジャーは口を開いた。
「話があるんだけど」
「話?今後の動向については既にーー」
「違うわよ。聖杯戦争は関係ない。あんたの事」
アヴェンジャーは首を横に振って、綺礼の言葉を否定した。
しかし、綺礼からしてみれば、ますますわからない。
今の今まで、興味がないとばかりに綺礼の事情を殆ど無視してきた彼女が、突如手のひらを返したように意見を変えた。おまけにその様子からして、只事ではないのは誰の目にも明らかだった。
一先ず臨戦態勢を崩し、正座する綺礼。
はたからみれば説教されているように見える光景だ。問い詰めているという点においてはあながち間違いではないが。
「それで?話というのは?」
「アンタの
その一言で綺礼は驚きに目を見開いた。
サーヴァントは夢を見ない。だが、マスターと霊的なつながりがあるために、睡眠時には時折互いの記憶層に迷い込み、夢として過去を見ることがあるのだ。
綺礼はその事を完全に忘れていた。
そして、目の前にいる自身のサーヴァントは、文字通り綺礼が何者であるかを知ったのだ。
「胡散臭い上に何か考えてるとは思ってたけど……アンタ、全部知っててこの聖杯戦争に参加したってわけ?筋書きさえわかってれば、余程のことがない限り負けるわけないものね」
アヴェンジャーは初めて非難するような言葉を綺礼に向けた。
ぐうの音も出ない。憑依した直後であるが故にロクな問答も出来ずに聖杯戦争参加を余儀なくされた綺礼だが、そんな事を言っても言い訳にはならない。
何故なら綺礼が『第四次聖杯戦争を知っている』から。
全てのサーヴァントを知り、マスターを知り、流れを知った。
手持ちのサーヴァントこそ違えど、同じ道順をたどれば、自然と綺礼は最後まで残る。そして最後だけ、結末だけを変えれば、綺礼は晴れて勝利者となれるのだ。
問題があるとすれば、それは中身のみ。
「言い訳はすまい。しかし、アヴェンジャー。一つ問う。
「どこまで?殆ど全部よ」
誤魔化しようのないところまで来ていた。
ほぼ全てを知られているとなると、おそらくはこの体が己のものではない事さえも知られている。そして元の体を通して見てきた全ての物語も。
こればかりは完全に綺礼に非があったと言える。
生き残るためとはいえ、せめて必要な記憶以外には何らかの形で記憶操作を行うべきだった。
であれば、仮にばれたとしても、誤魔化しようはまだあった。
しかし、これでは誤魔化す事も出来ないどころか、知られてはならないことまで知られてしまった。
最早打ち明けるほかない。それ以外の選択肢ともなれば、それはもう令呪を用いるしかないからだ。既に物語の流れが変わっている以上、出来うる限り、令呪以外の方法で解決するしかない。
「……出来れば、話したくはなかったのだがな。見てしまったものは仕方がない。正直に話そう」
座れ、とは言わなかったが、空気を察してか、アヴェンジャーは綺礼と向かい合わせに座った。
「私がここに
「じゃあ、やっぱりーー」
「ああ、言峰綺礼とは似ても似つかぬ別人だ。中身だけだがな。本当の言峰綺礼はとても空虚な人間だ。自分の愉悦も知らぬ程にな」
「……」
「こちらに来てすぐは流石に取り乱した。目も当てられないほどにな。本来であれば、元に戻る方法を探すべきなのだろうが、そうも言ってはいられなかった。私の手にはこれが宿ってしまったからな」
そう言って、綺礼は令呪をアヴェンジャーに見せた。
令呪が宿ってしまった以上、聖杯戦争参加の是非を問われる。参加したくないというのなら早々に棄権する。早い段階であれば聖杯が他のマスターを用意してくれる。
しかし、綺礼にはその権利はなかった。
「私の父とアーチャーのマスターは古い知己でな。聖杯戦争に参加し、彼を支援しろと言われた。断ることも可能だったのだろうが、何せこちらに来て数日。別の事に手いっぱいで気づけば、承諾したことにされていたよ」
「……その結果がこれってわけ?」
「大雑把に言うとな」
アヴェンジャーの問いを綺礼は肯定する。
アヴェンジャーも、夢を通してみた過去の出来事と相違ない事が分かり、それ以上は何も言わなかった。流石に夢の中では綺礼の心情までわからなかったものの、それでも見た光景と綺礼の話を照らし合わせてみれば、答えはすぐに出た。
「私はうまく脱落したかった。師を勝利に導く事が何より最善の生存方法だと思っていた。だから、私はあの時、
「?ちょっと待ちなさい。それじゃあ、私をどうやって呼び出したわけ?」
「わからん。触媒は用意していなかった。お前はおろか、フランスのどの英霊にも所縁のある聖遺物はなかった。……夢で見なかったのか?」
「言ったでしょ。私が見たのは殆どよ」
確かにアヴェンジャーはそう言っていた。殆ど全てを見たと。
必ずしも、夢は全てを見せるわけではない。偶然にも、アヴェンジャーは自身が召喚される光景を目の当たりにしていなかったのだ。それはある意味当然といえば当然なのだが、何故自分が呼び出されたのか、肝心な部分を確認することが出来ないでいた。
しかし、綺礼の言葉が正しければ、アヴェンジャーは意図して呼び出されたのではなく偶然。そして、サーヴァントを召喚するにあたり、綺礼がアサシンクラスを狙っていたのだとしたら、よほど強い
そして、それはつまりーー。
「……アンタと私が似た者同士ってわけ?」
「……気に入らんのは分かるが睨むな。私も意図してお前を呼び出したわけではない」
「言われなくてもわかってるわよ」
綺礼が言わなくとも、アヴェンジャーにはわかっている。
自分を意図して召喚する事など不可能であることは。誰よりも知っている。
それ故にアヴェンジャーは顔を顰めた。
不快感からではなく、嫌悪感でもない。
聖杯にかける願いとは別の希望。
そもそも聖杯戦争に召喚される事さえも奇跡に等しい自分を呼び出したマスター。
他ならない綺礼こそが、この世界においてアヴェンジャーを召喚せしめる唯一にして絶対の触媒だった。
考えてみれば、何の事はない。
召喚された当初からアヴェンジャーには一つの疑念があった。
負ける事が定められていると告げられたにもかかわらず、綺礼に付き合っていたのは、どうやって自分を呼び出したか、それを知りたかったからだ。
訊けばすぐにわかることではあった。けれどもそうしなかったのは、単にアヴェンジャーが捻くれているだけだからであるが。
そして結果としては至極単純であった。
触媒など存在しない。するはずがない。
在ったのは、互いに引き合う同一の存在。
例え何もかも似ていない者同士だとしても。
「しかし、だ。以前にも言ったが、私には聖杯を求める理由がない。あるのは他のマスターに狙われる危険だけ……いや、聖杯が降臨した後の
しかし、どうあっても、決してアヴェンジャーが願いを叶えられないのも事実だった。
確かに過去は見た。この言峰綺礼の全てを、夢という形でアヴェンジャーは知った。
だから、なおのことわかる。
綺礼が一体どれ程の想いで、およそ自傷行為にも思える鍛練を重ねて来たのかが。
全てを投げ出せたにもかかわらず、投げ出さなかった。
考えうる限りの言い訳を持って、己を納得させ、聖杯戦争に臨んだ綺礼の心情が。
ただ一つ、『生きたい』という至極単純な願望の元に、言峰綺礼という存在は成り立っていた。
「……もしも、私が今ここでアンタを殺すって言ったら?」
「それは困る。私は死なないためにこの聖杯戦争に参加した。いや、せざるを得なかったというべきか。もしも、私が聖杯戦争に参加しなかったというだけで、
そんな事はあり得ない、と一蹴したかったアヴェンジャーだが、もう見てしまっている。
確かにごく僅かであるが、その可能性が無いわけではない。おそらく、綺礼が参加しなくとも、勝者は同じになるだろう。
けれども、確実にとは言い切れなかった。あくまでもアヴェンジャーが見たのは綺礼の『知識』であり、それは未来を視たわけではないからだ。
イレギュラーが現れれば、必ず結末は変わる。
それも綺礼は理解し、その上で自ら結末を決める道を選んだ。
思惑通り、遠坂に聖杯を取らせる道を。
その上で自らはキリのいいところで脱落し、教会の保護を受ける。もちろん、その後は何もしない。原作と違って、アヴェンジャーが敗退すれば、文字通り綺礼は敗北者なのだから。
「だが……そうだな。お前に殺されるなら、私……いや、俺は何も言わない。言う権利がない。寧ろ、最初に裏切らずにここまで付き合ってくれた事に感謝したいぐらいだ」
「………………はぁ?自分が何言ってるのか、わかってるの?」
アヴェンジャーは綺礼の言葉を理解するのに、数秒の時間を要した。
それもそのはず。
綺礼の目的はあくまでも『生きる事』。
その為に敗北者となる事を前提として参加した聖杯戦争であるし、先程のアヴェンジャーの言葉にも困ると答えた。
だというのに、数分と待たずして、綺礼の口から出たのは全く正反対の言葉。さしものアヴェンジャーもこれには驚きと戸惑いの入り混じった表情で綺礼を見た。
「意外か?これだけ手を尽くしているというのに、簡単に生への執着を手放す事が」
「意外っていうか、馬鹿にしてるとしか思えないわよ。あんなもの見せられた後じゃ尚更ね」
「あんなもの……か。それならば尚更わかるだろう」
「何がよ?」
「俺は確かに『この世界に殺されない為に』手を尽くした。俺の知る言峰綺礼を演じて、限りなく本人に近い立ち居振る舞いもしてきたつもりだ。多少は違えど、誰も俺を疑う事はしないだろう」
何故ならそうしてきたから。
初めは違和感があったかもしれない。
だが、成り代わった時期が時期であったために、綺礼には疑いの眼差しが向けられず、それどころか演技のレベルが高くなるにつれ、『気持ちの整理がついてきた』と父でさえ勘違いしていた。
「しかし、それだけだ。俺がしてきた事は言峰綺礼がしてきた事だ」
要領を得ない綺礼の言葉に苛立ちを募らせつつも、アヴェンジャーは思考を働かせる。
別に理解してやろうとしているわけではない。
わからなかったと思われるのが気に入らず、教えられるのが癪なのだ。
だからこそ、アヴェンジャーはガラにもなく、綺礼の言葉の意味を探った。
そして、答えはすぐに見つかった。
何故なら綺礼もまたーー。
「アンタ、もしかして」
「流石にわかるか……いや、或いはそれこそがお前と私の『縁』なのかもしれんな」
そう言って綺礼は立ち上がった。
これ以上は話しても意味はない。互いの何を知ったとしても、目的など変わりはしないのだから。
寧ろ、それ以上はこれからの行動を鈍らせかねない。
ゆえに正しい選択だ。
だからーー。
「待ちなさい。話は終わってないわよ」
アヴェンジャーは引き止める。
正しい選択など、アヴェンジャーには最も縁遠いことだ。
綺礼が話をやめたいというのなら、否が応でもやめさせない。
それがアヴェンジャーの、ジャンヌ・ダルク・オルタの流儀だ。
どこに呼び出されようとも、いかなる状況であろうとも、それだけは変わらない。
何せ、相手がかの英雄王であっても、それは変わらなかったのだから。
「聖杯に願いがないとかなんとか言ってたけど、そっちになくても私にはあるわ。いくら、私がアンタのサーヴァントで言う事を聞かざるを得ないとしても、私を呼び出したんだから、義務は果たしてもらうわよ」
「義務……?」
義務とは一体なんなのか、皆目見当もつかない綺礼は首を傾げた。
「サーヴァントが聖杯を欲してるんだから、マスターのアンタが諦める事なんて許されないわ。生き残るために負ける?はっ!笑わせないでくれる?なんでそこで
思わず、綺礼は息を呑んだ。
アヴェンジャーの言葉は世迷言でも、冗談でもない。
綺礼を通して、多くの事を知った。
聖杯が正常でない事も。降臨させてしまえば何が起こるかも。
その上でアヴェンジャーは綺礼にこう言っているのだ。
『自分の為に勝て』と。
決して、アヴェンジャーから頼むような事はしない。そんな事は絶対に。
だから、自分から手伝わせる。
望みがないなら作らせる。負けたいというのなら意地でも勝たせる。
綺礼の望む敗北など絶対にさせない。
「馬鹿みたいに鍛えまくったんでしょ。それを腐らせるぐらいなら、全部私のために使いなさい。それでもって、聖杯を取るわよ。『
綺礼をよそに話をどんどん進めていくアヴェンジャー。
それもそのはず、決してアヴェンジャーは綺礼を叱咤激励したいわけではない。
ただ、綺礼のつまらない奸計を失敗させたいだけなのだ。他ならない綺礼自身の手で。
その時の綺礼が自らの行動に後悔する様を見る。あまつさえサーヴァントが自分の願いを叶えているとあれば、鉄面皮を思わせる厚い面の皮も剥がれるに違いない。
三年もの月日をかけてまで挑んだ聖杯戦争。
その目的を達成できないとなれば、さぞ悔しいことだろう。何せ、この世界に来てから行ったこと全てを無に帰すわけなのだから。悔しくないはずがない。
それでいい。今の今まで本性を見せなかった男が、ようやくその一端を見せたのだ。これぐらいの仕返しはして当然である。
「私に……勝つための闘いをしろというのか?」
「ええ。もちろん、選択権はないわよ。アンタに勝つ気がなくても、私が全員倒せば関係ないでしょ」
「私が令呪を使ったらどうする?」
「くだらない命令なんてはね除けるわ」
(ろくな対魔力もないのにか……言ってくれるな。それにはね除けるか……)
本当に令呪を無効化したいのなら、腕を切り落とすないし、言葉を発せないようにさせればいい。それが出来ないような柔なサーヴァントではないし、本気で勝ちにいくというのなら、可能性は十分にあるだろう。
もっとも、それは綺礼も手段を選ばなければの話であるが。
何故ならば、聖杯を取りに行くということはアーチャーを、英雄王ギルガメッシュを相手にするということなのだから。
「肝に銘じておきなさい。私を召喚したということはあなたもまた、地獄の業火に身を焦がす運命なのだから」
そう言い残してアヴェンジャーは霊体化する。
言いたいことを言って姿を消した己のサーヴァントに、自然と溜め息が零れた。
こちらの事情も気持ちも御構い無し。反論も意見の余地もない。
しかし、言っていることは的外れでもない。正鵠を射ているとまでは言い難いが、言っていることは何一つ間違えてはいないのだ。それが尚のことタチが悪い。
「生き残る為に勝つか。簡単ではないのだがな」
しかし、それを初めから度外視していた自分も滑稽だ。
例え、筋書き通りに敗退したとしても、自分が絶対に助かる保証など何処にもなく、そして自分の師を勝たせる為に動くということは、筋書きを無視するということに他ならないというのに。
(勝つも負けるも同じということか……ならば)
どちらも行く先は同じだというのなら、何も成さないより何かを成す方がよほどいいだろう。
己の足跡さえも未だ残せていない自分には。
「ーー暇つぶしに立ち寄ってみれば、随分面白い話を聞かせるではないか」
「ッ……!?」
「どうした、キレイ?道化を演じるというのであれば、最後まで貫くがいい。この程度で剥がれるようではまだまだ未熟だぞ?」
以前のように突如として現れたギルガメッシュに、綺礼は目を剥いた。
否、以前のようにとは言い難い。
何せ、ギルガメッシュは今しがた霊体化を解いたのではなく、さも初めからそこに居たと言わんばかりに姿を現したのだから。
「見どころのある雑種だとは思っていたが、ここまでとはな。我を以ってしても、貴様が、いや貴様の中身が異世界の人間であるなどとは終ぞ至らなかっただろうよ。誇るがいい」
それだけではない。
ギルガメッシュの紡ぐ言葉の全てが物語っている。
先程の会話全てを、ギルガメッシュは聞いていたのだと。
ただの一人にも知られてはならないそれを、自身のサーヴァントはおろかよりにもよって師である時臣のサーヴァントに、あの英雄王に知られてしまった。一番知られてはいけない相手に。
「しかし、それだけに惜しい男よ。貴様の自己矛盾はあまりにも稚拙かつ単純過ぎる。あの贋作の小娘にさえわかってしまうほどにな。それに苦悩する様を見ても良いが……そうもいくまい。奴は贋作だが、聖女である事に変わりはない。どういう理屈で
(やはりこの男……気づいているな)
ギルガメッシュとアヴェンジャーが顔を合わせたのは数回しかなく、会話自体はほぼしていないにも関わらず、アヴェンジャーがどのような英霊であるかを見抜いているギルガメッシュに綺礼はただ息を呑んだ。
「だが、時臣などよりはよほど面白みはある。どうだ?いっそあの贋作を棄て、我の臣下となるというのは?」
「……何?」
「貴様の目的。生物の原初にして、全ての生命が持ち合わせる生存本能。つまりは死への絶対的な恐怖。それを回避する事であろう?であるならば、我が臣下となるが良い。貴様が我を愉しませるというのであれば、生きる価値はある」
あまりにも唐突なギルガメッシュの提案。
要約すると『アヴェンジャーを棄て、ギルガメッシュと再契約する』というものであった。
そして、ギルガメッシュが綺礼に価値を見出しているうちは生かすと言っているのだ。
とんでもない提案に目を丸くする綺礼。
提案自体は、綺礼の目的を達成するという点においては実に申し分なかった。
このままいけば、ギルガメッシュは少なくとも聖杯戦争が終わり、生きる意味を見失った綺礼の苦悩を見届けるまで生かす事だろう。
聖杯戦争を無事に終えるという一点において、ギルガメッシュとの契約は殆ど目的の達成だと言っても過言ではなかった。
臣下の礼を尽くしている時臣を、よもや自ら見捨てるというのは綺礼自身も想定外であったが、相手は英雄王ギルガメッシュ。凡人たる自分には理解が及ばないのは当然の事だった、
「我自らの誘いだ。本来ならば選択の余地などありはしないが、此度は貴様にくれてやろう」
そして、ギルガメッシュは選択権を綺礼に渡した。
無論、綺礼の為などではない。
時臣の口から、言峰綺礼と時臣の関係性などは聞いている。
その上で綺礼に選択を迫っている。
もちろん、猶予などはあるはずが無い。今、この瞬間に答えを出さなければならない。
だからこそ、ギルガメッシュは迫っているのだ。
「……この際、どのような方法で存在そのものを隠していたかは訊くまい。お前に知られてしまったのは自分の運がなかったと諦めよう。いや、そもそも聖杯戦争に参加せざるを得なくなってしまったこと自体、運がなかったのだろうな」
自嘲気味に綺礼は笑う。
思えば、重要な局面にあって、綺礼にとって都合の良い展開になった事などなかった。言峰綺礼に憑依したという不幸に始まり、そして今に至るまでだ。
「しかし、数奇なものだ。こうして言葉を交わしている英霊はアヴェンジャーとお前だけだが、揃いも揃って『生き残りたいなら勝て』と来たものだ」
「無論だ。我と共にある以上、敗北などは赦さぬ。敗北するということは即ち死だ。遺憾だが、それはあの贋作めも同じであろう」
「簡単に言ってくれるな」
確かに過去に名を馳せた英雄達からしてみれば、聖杯戦争は自分達が駆け抜ける戦場の一つでしかないのだろう。死への恐怖など殆ど無いだろうし、そもそも自ら望んで参加している以上、誰一人として嫌がっている者はいないはずだ。
故に綺礼のような凡人の考えは理解できるはずも無いだろう。敗北と死は殆ど同じ意味であるがために。
「さあ、どうする?我と贋作、どちらを選ぶかは貴様の自由だ。どちらを選ぼうと我は貴様を咎めぬし、手を下すことは無い。もっとも、今宵は見逃すが、我の前に『敵として』姿を現わすのであればその限りでは無いがな」
決して強制力はなく、あくまでも自分で決めろ。
そんな意図を持ったギルガメッシュの言葉に、綺礼はふっとほくそ笑んだ。
「答えか……そんなものは既に決まっているぞ、英雄王」
「そのようだな。では、述べてみよ。貴様の答えを」
「私は……いや、俺は
考えるまでもなかった。
どれほど英雄王ギルガメッシュが優れていたとしても、どれほどの敵が待ち構えていたとしても。
既に決められている運命なのだ。
アヴェンジャーを召喚したその時から、言峰綺礼の運命は彼女と共にあるのだと。
不器用ながらも彼女が言葉を紡ぎ、綺礼と共にある事を決意したように。
綺礼もまた、彼女とある事を決意した。
その言葉を聞いてなお、ギルガメッシュは口元を歪めた。
予想外というわけでも無い。否、それどころかギルガメッシュにはこの答えは予想通りであったのだろう。
しかし、どちらを選択したとしても、愉快だと言わんばかりの笑みをギルガメッシュは浮かべていた。
「あえて修羅の道を進むか。愚かな選択だが、それも悪くない。貴様とあの贋作の幕は我が手ずからーー何?」
ギルガメッシュが一瞬眉を顰め、笑みを消す。
さしずめ師から帰ってきてほしいと懇願されたのだろうとタカをくくっていた綺礼は、これを機会とばかりに帰らせようと試みる。
「退屈であるのはわかるが、我が師も先祖代々の悲願を達成せんと意気込んでおられるのだ。セイバーのマスターのこともある。可能な限り、我が師の側にーー」
「断る……と言いたいが、そもその必要は無いようだ。あの男、
「?どういうことだ?」
ギルガメッシュの言葉に首を傾げる綺礼。
それもそうだ。何故なら今のギルガメッシュの言葉ではーー。
「わからぬか?我は今しがた『はぐれ』サーヴァントになったということだ。礼に対し報いる道理はないだろうよ」
ーー遠坂時臣の死を意味するものであったからだ。