蒼白コントラスト   作:猫パン

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お久しぶりです。


今回は、見る人によっては少々不快感を覚えるかもしれません


第二話

 

 

 

 

 

遂にキャノンボール・ファスト当日。

 

会場となっているアリーナでは、割れんばかりの歓声が響いている。

 

ほぼ全ての生徒もアリーナへと移動し、寮内は閑散としている。

 

そんな中、一夏とセシリアは未だ終わらぬ事前準備を一夏の自室で半ば焦りながら行っていた。

生徒会長である楯無から言われた裏方の仕事であるが、正直な話がアリーナの警備であった。

ISを持ってただ歩き回るのが警備ではなく、怪しい者が居た場合の捕縛など。

様々にやることはある。

捕縛に使用する道具等も必要なため、現在はしまった場所を探して四苦八苦していた。

 

捕縛の為殺す装備ではいけない。

非殺傷装備でなければならないため、普段使わないその装備を探すので手間取っていた。

 

 

「結束バンド60本…えーっと無線の感度は良好…あとは…あ、そうですわ!アイン!テーザーガンとカートリッジ、何処に仕舞ったか知りません?」

 

「テーザーーーテーザー…あーっと、右の戸棚。上から3番目だ。それとスタンロッドは何処にあるか知らないか?」

 

「それならお風呂場ですわ。」

 

そんなような会話が飛び交い、準備が進められていく。随分と物騒な部屋であるが、基本的に隠されているのは非殺傷装備である。

そんななか…

 

コンコンっと、ノックの音が響き渡る。

 

 

「…はい。」

 

若干警戒しながら開けると、そこには一夏が知らぬ女生徒が立っていた。

 

 

「あ、あの…お、織斑君!こ、これ!ぎょ、業者の人が織斑君に渡してくれって。そ、それじゃあ、私はこれで!」

 

「あ、ああ。」

 

謎の女生徒は小さい小包を一夏に押し付けるように手渡すと、小走りで去って行った。

 

「アイン、誰でしたの?」

 

「いや、俺も知らないが。なんでもこれを渡すように頼まれたと……待て、この音…」

 

耳を澄ませると聞こえてくる、カチカチッという音。

それは時計の音のような…

 

だがここは日本が莫大な資金をかけて作り上げた人工島、ISに関する教育を施す最新の設備がここには集約されている。

衛星監視で学園内の様子は確認できる、その衛星を経由して時刻を調整する事も可能。時間を無駄なく正確に把握するため時刻については、常に最新の物に更新されて誤差をコンマ単位にまで絞っている。

また、最近の若者は円盤型時計の時刻確認に時間をかける、つまり読めない事があるので学生寮の時計は基本全てデジタル時計に統一されている。

最初からアナログ時計など存在しないのだ。

 

そんな場所に業者がアナログ時計などを届ける筈も無い。

何より四角い長方形のアナログ時計など、今時存在していない。

 

つまりこの爆弾のカウントダウンのような音は…

 

 

「ッ!!セシル!爆破防御姿勢!」

 

被害を少しでも少なくするためドアへと投げたそれは、容赦の無い爆発を起こし……

 

 

 

 

2人を、その爆風で包み込んだ。

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

 

轟音と共に建物が揺れ、爆風と爆音が周囲に響き渡った。

幸いなことは大半の生徒がアリーナに集合していたことだろう。

だが、中には例外も居る。

 

この学園の長を自称し、実際権限をもつその人。

 

 

「…な!?」

 

生徒会長である更識楯無が、その例外であった。

警備担当でもあった楯無は、一夏とセシリアと共に警備に付く。

そのために2人を待っていたところで、この爆発音である。

 

楯無は直ぐに、自身の居た生徒会室を飛び出す。

そこには…

視界の端、廊下の先。

 

黒煙が上がり、勢いを増す炎。

至る所が焦げた部屋が見えた。

 

その部屋は、楯無が2人にと報酬で与えた部屋。

やたらと機密が多い2人が気兼ねなく会議、また上官を呼べるように配慮された。

生徒会室に限りなく近い位置にある。

 

その部屋が、ドアは吹き飛び…周囲の壁をもぶち抜いていた。

 

左右の壁2枚。

物置として使っていたその部屋すらも、もはや繋がった大部屋となっていた。

 

 

「そんな…2人共…」

 

目の前の光景に絶句する楯無。

気を抜いていた訳では無いのに、爆発するまで気が付かなかったからだ。

自身が居た生徒会室から、30m程度しか離れていないというのに。

 

 

『ーーーーお嬢様!!急いでアリーナに!緊急事態です!』

 

突然オープンチャンネルが回線を拾う。

宛先はどうやらそのまま自分だったが、この目の前の光景が…

 

 

『急いでください!亡国企業(ファントムタスク)です!!』

 

「…ッ!?わかったわ!」

 

虚がそう言った途端、その重要度を理解した楯無は走り出した。

後ろ指引かれる思いで、その場を後にする。

 

 

「2人共、無事で居て!」

 

 

 

 

 

 

       ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

 

少し時は戻り。

 

 

現在会場は1年生のレースが始まろうとしていた。まず最初に行われるのは、異例中の異例である専用機、訓練機混合レースである。

現在第一レースである。

 

スタート地点に並んでいるのは、無理を言って専用チューンされた打鉄を装備した箒。

武装がそもそも完成していない故に、全エネルギー配分をスラスターへと回している打鉄弐式を装備した簪。

高速機動用パッケージを装備した甲龍を纏った鈴。

3機の増設スラスターを装備したラウラとシャルロットの5人が第一走者であった。

 

 

「一夏とセシリアが出ないから、優勝はあたしが貰うわ!」

 

「ふん、それはこちらも同じ事だ。訓練機だとはいえ、負けるつもりは毛頭無い。」

 

偶然ながら隣同士となった箒と鈴は、互いに睨み合って火花を散らしている。

 

 

「私も、負けない!」

 

「ああ、戦いとは全体の流れを征した者が勝つ。この戦い、私が勝つ!」

 

「まあ、みんな全力で頑張ろうね。」

 

面倒くさがりで負けず嫌いの簪は、目に炎を浮かばせて拳を握る。

ラウラは闘志を滾らせつつもいつも通りで、シャルロットは普段と変わらなかった。

ただ自信はあるようで、2人共活き活きとしている。

 

 

「みなさーん、準備は良いですか?スタート地点に移動しますよー」

 

真耶の若干間延びした声が響き、各々誘導マーカーに従って位置につく。

 

 

『それでは皆さん、1年生の部。混合レースを開催します。』

 

各自準備を終え、位置についてスラスターを点火した。

全員がバイザーを降ろしたのを確認したと同時に、スタートのブザーが鳴り響いた。

 

急激な加速により周囲にソニックムーブを展開、砂埃が舞いエネルギーを全振りした簪がトップに躍り出た。

次いで鈴と箒。シャルロットとラウラが走る。

 

 

「クッ速いわね、でもあんたには負けないわよ!」

 

「それは私の台詞だ!」

 

早々に鈴と箒が睨み合いながら、互いを牽制する。

その後ろに居るシャルロットとラウラは、期を窺うようにしていた。

 

その期が訪れるとすれば、それは…

 

 

「ふふん、お先!」

 

「ふっ、甘い!」

 

鈴の加速の真後ろをピッタリと、スリップストリームを利用していたラウラが鈴を抜き去る。

慌てて衝撃砲を向けるものの、飛んできた銃弾をその砲口へと喰らいその衝撃でコースを外してしまう。

何とか持ち直しながらラウラを見ると、その背に乗っているシャルロットが見えた。

 

 

「な!?」

 

「ごめんね鈴。先に行かせてもらうよ。」

 

「すまんな、これも戦いだ。」

 

最初からシャルロットが乗ることを前提にしたスラスター位置。

最初から合同で、走ることを決めていたのだ。

 

ラウラとシャルロットの機体を繋ぐジョイントが軋む音を立てながらも、その機体同士を強固に繋ぐ。

そしてラウラのスラスターとシャルロットのスラスターが同時に火を噴く。

たった3機のスラスターでも、機体を充分に加速させる。

例え動かす機体が増えようと、少しスピードが落ちる程度である。

それが6機のスラスターがあるのだ、加速力は通常とは段違いだ。

 

専用チューンしたとは言え訓練機の箒では、流石に加速力が違いすぎた。

容易に抜き去り、シャルロットとラウラは簪の後ろについた。

 

 

そこで、上空から飛来した機体がトップを走っていたシャルロット、ラウラ、そして簪を撃ち抜く。

なんとかぎりぎりで避け、それを見る。

 

そこには藍色の機体…

 

 

「サイレント……ゼフィルス…」

 

突然の乱入者は、ニヤリと口を歪めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

         ーーーー△ーーーー

 

 

 

「3人共大丈夫!」

 

「ああ、問題は無い。問題は無いが…」

 

「流石にこの状況は厳しいよ…」

 

「死ぬかと思った…」

 

普段とあまり変わらないラウラとシャルロットとは違い、武装の類いを何一つ積んでいない簪は、避けることが出来てホッとしていた。

 

そしてすぐさま後ろから追いつき、駆け寄った鈴。

その後ろから箒も追いつき、侵入者を睨み付ける。

 

「あれは…」

 

「あれはサイレント・ゼフィルス、林間学校の時に現れた亡国企業よ。」

 

「あれがそうなのか!」

 

次の瞬間、BTライフルの攻撃が降り注いだ。

その攻撃に反応したシャルロットが、盾を構え防ぐ。

最初からラウラとの並走を想定していたため、降ろした武装は何も無い。

そもそもがラウラの背に乗る事が前提の為、スラスターの増設時に負担は一切無い。

降ろす必要のある武装は、何一つ無いのだ。

 

 

「…くっ!キツい!」

 

だがシャルロットの盾は、実弾を防ぐことを想定している。

実弾防御用の盾では、完全に…安全にレーザーを防ぐことは厳しいのだ。

大盾の為なんとか防げているが、徐々に抉られていっている。

貫通するのも時間の問題である。

 

 

「一夏もセシリアも居ない今、これを凌ぎきる自信は僕にはないよ!」

 

「もう少しだけ耐えてくれシャルロット、この騒ぎだ、必ず2人が応援に来る。」

 

シャルロットの盾に手を重ね、自身の武装である『AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)』を盾の表面上に展開する。

だがAICは、そもそもが実弾防御用の非実体フィールドなのだ。

エネルギー体であるレーザーを止める為には出来ていない。

かなり防御力は落ちるが、完全に無いよりはましだ。

 

 

「シャルロット、ラウラ!あたしが突っ込むわ!援護は任せた!」

 

「ああ、任せろ!今日の私は…一味違うぞ!」

 

そう言ってシャルロットの盾から少し外れたラウラは、その両肩に2つの装備を展開する。

普段ならその肩に展開されるのは大口径の砲撃武器、大型レールカノンだ。

 

だが今回展開されたのは、2門の大型のガトリングだった。

 

 

「我がM61バルカンは、今日は血に飢えているぞ!!」

 

回転するその砲身から、20ミリの弾丸が高速発射される。

M61バルカン。

毎分6000発を誇るその銃は、対空機関砲としても有用性がある20×102ミリ弾を使用する。

そしてその弾丸を高速発射すると言うことは、その威力は桁違いだ。

 

 

「くっ!少しはやるようだが、無駄だ!」

 

直撃する瞬間ビームの傘が開き、その攻撃を溶かした。

ビームの持つその熱量により、金属であるその銃弾は容易に溶かされる。

 

「ッチ!やはりシールドビット、凰!」

 

「おーけ!」

 

鈴が連結した青龍刀を投げ、残った1門の衝撃砲をぶちかました。

 

「ふっ、茶番だな。」

 

飛来するその全ての攻撃が、シールドビットにより弾かれた。

 

 

「亡国企業!貴様、何が目的だ!」

 

「言っただろう、茶番だと。だが貴様達もよくやる。」

 

「……何?」

 

サイレントゼフィルスの操縦者、Mは口を開いた。

そして信じがたい事を…彼女達5人には到底信じる事が出来ない事を口に出した。

 

 

「今頃、お前らが期待しているやつらは肉片になっているだろうな。」

 

「……え?」

 

Mが口にした言葉に、5人共に唖然とする。

人間は、認識したくない事を認識するのは脳の思考回路が少し遅れる。

 

 

「分からないか?織斑一夏とセシリアオルコットは今頃、届けさせた爆弾で肉片になっているだろうさ。」

 

「嘘だ。嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!」

 

「シャルロット!落ち着け、信じるんじゃない!!」

 

Mの語る事が真実だろうと偽りだろうと、その言葉はシャルロットの心の拠り所を抉り取った。

 

「シャルロット!」

 

「嘘だぁぁあぁぁぁ!!!!!」

 

 

そこに響いたのは、シャルロットの悲痛な叫びだけだった。

 

 

 

 

 

 








今更だけど各キャラの呼び方について。


自分自身で分からなくなってきたので。




『織斑一夏』

セシル(セシリア)

ラウラ

シャルル(シャルロット)



篠ノ之

山田先生

織斑先生。プライベート時は姉さん(千冬)

会長さん(楯無)




『セシリア・オルコット』

アイン(一夏)

デュノアさん(シャルロット)

ラウラさん

凰さん

篠ノ之さん

山田先生

織斑先生

先輩(楯無)



『シャルロット・デュノア』

一夏

セシリア

ラウラ



篠ノ之さん

山田先生

織斑先生

まだ面と向かって会っていない為無し(楯無)



『ラウラ・ボーデヴィッヒ』

一夏・時々アインザック

セシリア



シャルロット

篠ノ之

山田先生

織斑先生

同上(楯無)


『凰鈴音』

一夏

セシリア

シャルロット

ラウラ



山田先生

織斑先生

同上(楯無)


『篠ノ之箒』

一夏

セシリア



デュノア

ボーデヴィッヒ

山田先生

織斑先生

同上(楯無)


『更識楯無』

一夏君

セシリアちゃん

織斑先生




第六章 追加設定





シャルロットデュノア


データを盗み出そうとした1件以降、一夏とセシリアが心の拠り所となっていた。
それはラウラと仲良くなり、やや百合気味になっても変わることはなかった。

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