蒼白コントラスト   作:猫パン

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遂に突入。
原作六巻。

最強無敵の簪ちゃん現る!
一夏達はどうなってしまうのか!(嘘)


第六章 ーーーそして始まる
第一話


 

 

 

 

 

 

 

学園祭も終わり9月になり、IS学園も新たな行事に染まっていた。

 

『キャノンボール・ファスト』

 

 

ISを用いた妨害有りのレースである。

主に専用機持ちが競い合い、今の時期は練習が盛んとなる。それは専用機を持たない非代表候補生も同様に、参加者は全員で模擬レースなどをする。

そんな中一夏とセシリアは、通例となる生徒会室へと来ていた。

 

「あ、そうそう。2人は今回のキャノンボール・ファストだけど、裏方に回って貰うからね?」

 

「「はぁっ?」」

 

若干驚きを孕むその声に、楯無は一瞬ビクッとする。だが気を取り直して、再度口を開く。

 

 

「正直言ってね?貴方達2人の専用機のスペックから見ると、ほぼ無理ゲーなのよね。ただでさえ素のスピードが高いのに、どうせ高機動パッケージもあるんでしょう?」

 

「ええ、まあ。」

 

「専用のがあるが……」

 

その言葉に楯無は、ため息を吐いた。

一夏の専用機『ユリ』

セシリアの専用機『ブルー・ティアーズ』

どちらも元々戦場を蹂躙するため、かなりの高水準のスペックを持っている。

それは勿論スピードに関しても例外では無く、最高速度は通常のISの2倍近くを叩き出せる。

普段は学園の規定に合わせるために出力制限を掛けているが、真剣勝負となれば状況に応じて解除するだろう。

ましてレースならば尚更である。

ただでさえ速い機体に高機動パッケージを装着すれば、誰にも手に負えない速度を叩き出す事となるのだ。

 

 

「他の専用機組も…ましてや訓練機で参加する生徒も居るのよ、貴方達が出たら確実にぶっちぎるだけじゃない。」

 

そのもっともな意見に、2人は押し黙る。

実力が確かで何年も乗ってる2人は、訓練機を扱う初心者であるクラスメイト達とは技量が泥雲の差である。専用機組も訓練機組も別れて行う事になるのだが、どちらにしてもずば抜けた技量故に厳しいだろう。

一夏達が訓練機で挑んだところで、元々の技量故に封殺されてしまう。

故にこの2人が出てしまうと、ただの負け試合となってしまうのだ。

負けると確定していて本気で競う人間は居ないため、本気で争わなくなる。

それでは本人の技量は何も成長しない。

だからこそこの2人を出場させない、という措置を取ったのだ。

 

 

「あ、簪ちゃんも裏方に回るからよろしくね?色々と私の代わりに取り仕切って貰ってるし。」

 

「あら?日本代表候補生ですわよね?簪さんは。専用機は貰っていると聞いていますが…」

 

「あー、それねぇ。実を言うと簪ちゃんの専用機、まだ完成していないのよね。」

 

そう言った楯無の言う通り、日本代表候補生である更識簪の専用機は完成していない。

受け持ちは倉持技研なのだが、放置され簪の手に未完成のまま渡っている。

その原因として、一夏へと贈られた白式。

その開発元が倉持技研、と言えば分かるだろう。白式の開発に人手を割きすぎて、簪の専用機開発に人員が居なかったのである。

それを簪は自ら開発するために引き取ったのだが…

 

 

「開発中は代表候補生の仕事はしなくて良い!って、簪ちゃん本気で喜んでたのよね…」

 

「それってつまり……」

 

「そう…開発中としておけば代表候補生の仕事は来ない。しかも時間を掛けなれば完成しないんだから、自身の趣味に充てる時間を増やしても問題ない!らしいわ。実際本当に難航しているから、上も何とも言えないみたいだし。」

 

流石のセシリアも言葉が出なかった。

完成していない事から、何かしら問題があったのかと考察したのだ。

だが意図的に開発していないように聞こえたため、何とも言えなかった。

 

 

「簪ちゃんが言うには、専用機作るよりアニメ観たいそうよ…」

 

「それは代表候補生としてどうなのでしょうか……」

 

「ま、まあ。趣味趣向は人それぞれだし…」

 

流石に苦笑いを隠せない2人。

それに対し楯無も乾いた笑いを浮かべる。

代表候補生でもある実の妹が、自身の専用機開発よりも趣味を優先してしまっているのだから。何とも言えない気分になるのは当然であった。

 

 

「ま、まあ。裏方の件、よろしくね?」

 

「了解だ。」

 

「ええ、お任せください。」

 

そう言って2人は、軽く頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

IS学園第2アリーナ、地下射撃場。

 

生徒会室から出た2人は、そのままの足でここに来ていた。

 

 

「全く…(ズドンッ!)少々期待していましたのに、あんまりですわ…(ズドンッ!)」

 

「まあ仕方ないだろう?俺らは…(ズドンッ!)専用機に乗って、もう3年以上経つんだしな。」

 

カウンターより30m先に出現する的を、ライフルで撃ちながら答える。

2人共に使っているのはボルトアクションの為、手動で排莢している。

そして排莢したボルトを元に戻し、肩越しに構える。

そしてスコープが付いてない…アイアンサイトを見て、照準を合わせると引き金を引いた。

 

放たれた弾は、寸分の狂いも無く的の頭部へと命中する。

 

 

「はぁ…でも裏方と言っても、何をするのでしょうか。」

 

「審判が無難だとは思うが…準備も含まれるのか?」

 

「準備…ですか。面倒ですわねぇ。」

 

2人同時にため息を吐いた。

正直2人共、裏方などやらずにレースに参加したかったのだ。

今までやってきたイベント。

タッグマッチ、臨海学校、文化祭。

全て何かしらのイレギュラーの対処により、まともに楽しめていないのだから。

 

今までと違った方式のイベント故に、かなり楽しみにしていたのだ。

それが出れなくなったのだ、気落ち以外の何物でも無い。

 

 

「まあ、決まった事は仕方ないか…流石に覆せないし。」

 

「そうですわね…」

 

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

「はい。では皆さん、今日の授業は高速機動についてです。」

 

第六アリーナにて、真耶の声が響き渡る

 

 

「中央タワーと繋がっているこの第六アリーナは、高速機動実習が出来る事は先週言いました。ではまず、専用機持ちのこの2人に実演して貰いましょう。」

 

そう言って真耶が視線を向ける先には、既にスタンバイ状態の一夏とセシリアが居た。

 

 

「まずは高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したオルコットさん。」

 

通常時にフィン状になっている4機のBIT、そして腰部のミサイルBITも全てスラスターとして推進力に回しているのが本来の『ストライク・ガンナー』なのだ。

だがこれにも魔改造が入っている。

 

セシリアが所有している予備のBIT8機。

ミサイルBITも含めて全14機のBITを、全てスラスターとして推進力を得ている。

それぞれの砲口を全て封印し連結することで、更なるハイスピードを実現させている。

 

その様は、まるで翼のように広がった蒼だった。

 

 

「そして純白の羽根を模した『白き百合』を装備した織斑君。この2人に1周してきて貰いましょう。」

 

対する一夏の機体には、3機1対のスラスターが取り付けられていた。

主任が巫山戯て言った言葉が原因で制作が決まったこれは、元々は砲撃武器だった。

別名天使砲と呼ばれていたそれは、主任が目を付けるまでは埃を被っていたのだ。

それを見た主任は…

『どうせならこれ使おうぜ?その方が面白いよ』と言った事で開発が決定した。

 

 

『ねえアイン。何故私達は、出場しないのに練習しているのかしら。』

 

「それは俺も思っていたところだ。」

 

授業開始30分も前からスタンバイしていた2人は、その疑問に頭を悩ませる。

因みにだがこの2人、高速機動用補助バイザーなるものは装備していない。

元々がどんな場所でも活動する為の訓練をしていたため、逆にあると邪魔なのだ。

 

 

「では行きますよ!…3・2・1・Go!」

 

真耶のフラッグで、一夏とセシリアは一気に飛翔し加速した。

2人共に通常では出し得ない速度を出し、もう既にカーブに差し掛かっていた。

 

中央タワーを折り返すまでに数秒しか掛からない。その為楯無が何故出場をさせないのかがよく分かる。

速すぎるのだ。

 

タワーを折り返してから数十秒後、2人は並走しながら地表へと戻ってきた。

 

 

「はい、2人共ありがとうございました。」

 

正直速過ぎて初心者の参考にはならなかったのだが、真耶は純粋に労う。

2人が出ないことは知っていた為、そんな2人が授業前から準備してくれていた事に申し訳なさを感じた故でもある。

 

 

「いいか。今年は異例だが、1年生も参加できる。やる以上は各自手を抜かないように、そして胸を借りる気持ちで先輩達と走ってこい。キャノンボール・ファストでの経験は、必ず生きてくる。分からない事があればそこに居る2人も含めて、私達に聞くと良い。さて、では訓練機組の選出を行う。各自、割り振られた機体に乗り込め!」

 

その言葉に、ワラワラと列が出来てくる。

 

毎年の恒例行事であるキャノンボール・ファストだが、本来は2年生からのイベントだ。

だが今年は予期せぬ事態が多発したため、1年生も参加することとなった。

 

 

「よし!勝つぞ~!」

 

「お姉様に、良い所見せなきゃ。」

 

「勝ったらデザート無料…負けるわけには…」

 

例によって賞品が出るため、出場者も出場予定者も全員熱意が入っている。

それに触発され、教師2人にも指導に熱意が入っている。

 

 

「織斑君、さっきの実演ありがとうございました。ですが、バイザーは使わなくても平気なのですか?」

 

「はい。正直バイザーが無い方が楽ですね、あの鮮明に見える感覚がどうにも慣れなくて。」

 

「あ、分かります。私も最初は、バイザーの感覚が駄目でした。どれだけ速度を上げても鮮明に見えてしまって…どうしてもそれで酔ってしまうんですよね。」

 

「あの感覚がどうしても嫌で、バイザー無しで飛べるように散々訓練しましたけどね。」

 

若干笑いながら言う一夏。

だが、本来ならそれがどれ程のことか分かっていない。

音速近くまで加速する事が出来るISは、操縦者の反射神経も動体視力も何もかも追いつかない。

だからこそバイザーを使って、それを補っているのだ。

バイザー越しならば見える景色も鮮明に、更に操縦者が見やすいように少しだけ遅く映るのだ。

 

バイザーが無い方が楽と言えるほど慣れてしまったと言うことは、裸眼での動体視力や反射速度がかなり可笑しいことになっている訳でもある。

 

 

「アイン!ちょっと手伝って下さい。って、待って下さい、何でこうなったんですの?」

 

「ぼ、僕だって知らないよ!だってーーーわぁぁ!?」

 

「ちょっと待てシャルロット!こっちはーーーのわぁ!?」

 

かなりパニック状態になっているシャルロットが、慌てながら機体を元に戻そうとする。

だが奇しくもその努力は実らず、ラウラへと向かって行き…

ガッシャン!と、盛大な音が響き渡る。

その音にその場に居た全員が、音の場所へと視線を向ける。

そこには呆れているセシリアと、目を回しているシャルロット。

そしてシャルロットの下敷きになっているラウラが居た。

 

 

「何というか……まあ、有り体に言えば何時ものことだが…」

 

「あははは…どうしてああなったんでしょう。」

 

その光景を見ていた一夏も真耶も、苦笑いを隠せない。

代表候補生であるラウラとシャルロットが、何をしたらこんなことになるのか見当が付かないでいた。

 

 

「はぁ……セシル、これは一体何があったんだ?」

 

「アイン……何でも、デュノアさんの操縦ミスらしいのですが…ラウラさん目掛けて墜落致しましたわね。」

 

「はぁ。何が起きてそうなったんだか、全く。」

 

流石の一夏も、これには溜息を隠せない。

眼前には、シャルロットの下敷きとなっているラウラ。両者共にISを装備している為怪我は無いのだが、シャルロットが目を回している為ラウラは動けないでいた。

 

そこに見かねた千冬がやってくる。

 

 

「全く。何がどうなったらこうなるんだ。ボーデヴィッヒ、事情はわかるか?」

 

「は、はい。シャルロットの機体から発せられたエラーによって、パニックになったのが原因かと。恐らくは接続を急いでいた為、誤配線していると思われます。」

 

「つまり致命的なミスではなく、更に怪我も無い訳か…なら良い。織斑、オルコット。少々手伝ってやれ。」

 

そう言って千冬は、自分の持ち場に戻って行った。

千冬の傍には常に何人かの生徒が居り、代わる代わる質問の嵐が起きていた。

それを千冬は、嫌な顔せず。

むしろ嬉しそうに答えていく。

 

そんな千冬を視界の端に入れながら、一夏はまずシャルロットを機体毎起こす。

そうすることでラウラが立ち上がれるようになり、あとは目を回しているシャルロットだけである。

 

 

「ほへぇ~らうらぁ。」

 

「これはダメだな。そうそう起きないだろう。」

 

「起きてくれないと困るのだが…」

 

本当に目を回して意識が無いシャルロットを前に、3人共に溜息を漏らす。

正直何故こうなったのかなど、この際どうでも良くなっていた。

 

 

「うへへぇ~らうらぁ。」

 

「それにしても、随分とラウラさんにご執着のようですね。数ヶ月でよくぞここまで…」

 

「流石ラウラの手腕、同性にも余念が無いな。」

 

カァーっと、ラウラの頬が無言のまま染まっていく。羞恥プレイ以外の何物でも無いだろう。

そこにシャルロットが、これまた器用に体を捩らせる。

未だ意識が無い為、何か夢を見ているのだろうが…

 

 

「らうらぁ…そこは、ダメだよぉ。」

 

「…これは。」

 

「あらあら。これは何をしたのでしょうねぇ。」

 

ラウラへと、とても良い笑顔で詰め寄るセシリア。

そこでラウラが限界を迎え、その真っ赤に染まった頬で叫んだ。

 

 

「私が悪かった!だからそれ以上からかわないでくれ!!」

 

羞恥の限界を突破したラウラが、しゃがみ込みながらそう叫んだ。

 

 

 

 

 




第六章  追加設定






更識簪 

更識楯無の妹。
PCを使った技能検定をいくつも取得しており、ネットワークが絡めば割となんでも出来る。

趣味はネットサーフィンとアニメ鑑賞。
特技はクラッキング。

基本的に面倒臭がりであり、何をするにしてもいちいち理由付けする。
しなければいけない事はすぐに片づけるのだが、しなくても良い場合は本当に何もしない。
しなくても良い事をやるくらいなら、アニメを観るらしい。
だが自身の趣味が絡んだ場合は本気を出すため、専用機開発にアニメの武装等を提案してあげればやる気を出すだろう。

だが現在は専用機を早急に開発する必要性を感じていない為、割と放置気味である。





専用機
名前は『打鉄弐式』

打鉄の後継機として設計されていた、リヴァイヴの汎用性を参考にした全距離対応機。
外装は完璧に仕上がっているがシステム面と武装が未完成の為、実際に行事などに参加する事は出来ない。

搭載予定の武装は1つ
連射型荷電粒子砲《春雷》


搭載済みの武装は2つ
2門対複合装甲用超振動薙刀《夢現》
独立稼動型誘導ミサイル《山嵐》 6機×8門

山嵐に関してはマルチ・ロックオン・システムを搭載する予定なのだが、開発は難航している模様。


だが既に受け取ってから1年以上は経っているにも関わらず焦っていない事から、急いで作る気は無いらしい。





ストライク・ガンナー


魔改造が入ったセシリア専用追加パッケージ。

7機1対の全14機からなる翼のような形をしている。
外側に近付くにつれ可動域が自由度を増す為、方向転換の為にも使われる。




白き百合


未だ仮称のこの装備。

元々埃を被っていた天使砲を、主任指導の元魔改造して追加パッケージとした3機1対、6機からなるスラスターである。

元がエネルギー収束砲の為、本来なら肩に装着された状態で構える。

だがスラスターとなった今や、背中に広がるまるで天使の翼のようである。

可動域はそこまで広くない為、もっぱら加速用である。



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