蒼白コントラスト   作:猫パン

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テスト3日前に私は何をしているのでしょうか…



あ、そうそう。
昨日何気なく10連を2回引いたらキングハサンが出ました。
素材集めが大変です。


第五話

 

 

 

 

 

 

『昔々。あるところに一国の姫君である王女セシルと、たった1人で全てを取り仕切る執事…アインの2人が居ました。彼らは唯一この国に残る王族とその召使い、故に持っている情報もまた唯一無二の希少価値のあるものでした。それを知った各国のお偉いさんは、舞踏会と称して女スパイを多数送り込みました。さぁて絶体絶命の大ピンチ!背中を合わせ息を呑む2人は、今宵の武闘会を生き残れるのか!』

 

もの凄くノリノリで読み上げる楯無の声に、舞台中央に立つ一夏とセシリアはため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

「ごめんね2人共、台本用意出来なかったから、全部アドリブで良いかしら?」

 

「用意しなかったの間違いではなくて?」

 

開演目前に迫り、台本すら存在しない点を疑問に思うセシリア。そのセシリアに対して確信犯的な笑顔を浮かべる楯無に、セシリアは白い目を向ける。

確実に台本を用意しない方が面白そう、と言う目である。故に一夏も弁護するつもりは無く。

 

 

「たくっ。台本無しでどうやってやれっていうんだよ…」

 

「あー大丈夫大丈夫。基本的にこちらからアナウンスするから、2人はその通りにアドリブでお話を進めていけば良いから。」

 

「そうは言ってもだな…」

 

いまいち納得出来ない一夏は、不満を漏らしながらも最終確認をする。身嗜みを整え、左手の白手袋をスッと上げる。そして随所に忍ばせた銀のナイフを確認し、銀トレーを左手に持つ。

 

そして一方のセシリアも、蒼いドレスを身に纏い太股にホルスターを装着する。そしてホルスターに付いているポーチ2つにマガジンを仕舞うと、手に持っていた最後のマガジンを反対の手に持つS&WM39へと填め込んだ。

 

 

「全てゴム弾、故に当たっても問題ないですわね。もの凄く痛いですが…」

 

「まあ、良いじゃねぇか。」

 

準備を終え舞台袖へと歩く2人。

その後ろ姿はかなり様になっている、お嬢様と執事。素材が良いと本物と見間違うのだ。

 

 

「さあ、幕開けよ!」

 

そう楯無が言い、舞台に幕が上がっていく。

 

 

 

       ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

「はあぁぁ!!!貰ったぁ!!!!」

 

「残念ですが、当たる訳にはいきませんので。失礼。」

 

青龍刀を片手に突っ込んで来る鈴を、勢いそのままに首を掴んで自身の後ろへと流す。

流された鈴は足を詰まらせ、そのまま倒れ込む。

そして倒れた鈴へと、一夏はナイフを投げる。

その数10本。

それは全て正確に鈴の服と床を縫い付け、その場から動けなくなる。

 

 

「な!?」

 

「その場しのぎかと思いますが、少々そこで大人しくしていてください。では。」

 

驚愕で固まる鈴を尻目に、一夏は歩き出す。

と、何かを感じてトレーを構える。

その刹那…ガキンッとトレーに強烈な振動を与えながら跳ね返る金属音が響く。

 

 

「あ、外した。」

 

その正体は、両手でアサルトライフルを構え、背中に別のアサルトライフルを持つシャルロットが放った銃弾だった。

 

弾かれた事を冷静に判断したシャルロットは、次弾を装填された銃口を更に一夏へと向ける。

そして躊躇無くその引き金を引いた。

最初とは違いその射撃は、1マガジン撃ちきるまで続いた。だが…

 

 

「ふっ。何処を狙っているのです?」

 

「ッ!?」

 

マズルフラッシュによって若干焼き付き、視界が狭まっていたシャルロットだが、それでも対象は見失う事無く見続けていた。その筈なのにどうして…

 

 

「ど、どうして隣に…」

 

「私の動きを封じたいのでしたら、面で攻撃して頂かないと。アサルトライフル如きの制圧射撃では、精々が点攻撃の範囲が広がっただけですので。」

 

シャルロットの隣。50㎝程隙間を空けて立っていた一夏はそう答える。点で1カ所しか狙わない銃撃等、簡単に避けられると。

実際はそんな事無いのだが、一夏は射撃が始まった直後はまだ射線上に居た。だが当たる直前に走り、トレーを置き去りにしてシャルロットの隣まで来ていた。事実、トレーには数多くの凹みが見られた。

 

 

「クッ!!」

 

振り向きざまに銃口を一夏へと再度向けようとするシャルロットだが、一夏がそう何度も攻撃を許すはずが無い。

飛んできたナイフが銃口へと刺さるのを見て手を止めた。

 

 

「抵抗は無駄ですよ?ここからならナイフの方が早いです。それに…」

 

「残念だけど、僕には話を聴いている余裕は無いんだよね!」

 

銃を一夏へと投げ捨て、走り出すシャルロット。ただ走るだけではなく、ある物を置き土産にすることを忘れない。

丸く円筒状のそれは、床を転がりながら強烈な光と音を放つ。

 

 

「クッ、閃光弾とは厄介な。」

 

両目を腕で隠し、瞑りながらもシャルロットの気配を追おうと試みるが大音響の中集中出来るはずも無く見失ってしまう。

 

 

「逃しましたか……なかなかどうして、骨がありますね。」

 

チラリと横を見るとシャルロットだけで無く、縫い付けた筈の鈴も共に何処かへと行っていた。

 

 

「全く…骨が折れる。」

 

ため息を吐きながらも、一夏は歩き出した。

 

 

 

 

         ーー△ーー

 

 

ガウンッ

大口径ライフルの銃声がその場に轟き、セシリアが隠れている柱の一部を削り取る。

様子を見ようと身を乗り出す寸前だったセシリアは、即座に身を屈める。

 

 

「ッチ。銃声からしてへカートⅡ…全く、こんな物を用意するなんて何を考えているのですか…」

 

へカートⅡ。

明らかに対人には威力があり過ぎるそれは、分類上は対物ライフルに分類される。

装甲すらもぶち抜ける弾薬を発射する程の火薬量だ、いくらゴム弾とは言え容易にコンクリートを穿つ程の火力が出る。

それを人に向ける等、安全に配慮している筈の学園祭でぶっ放す物では無いのだ。

 

 

「全く…誰ですの?用意したのは…」

 

愚痴を溢しながらも出る機会を伺うセシリアだった。

 

 

 

 

         ーー△ーー

 

 

「ッチ、外したか。」

 

ラウラはコッキングレバーを動かし排莢して、レバーを戻す。

スコープから目を離さずに、次弾を装填されたその銃口をセシリアへと向ける。その刹那…

バキッと銃から異音が響き、慌ててその場所を覗き込む。

そこにはスコープの鏡面、そこに突き刺さるゴム弾があった。

 

 

「なっ!?この距離で正確に…それもハンドガンで狙撃を行うとは…流石セシリアだ。」

 

スコープを潰されたへカートⅡをその場に置き、セシリアから距離を取るべく走り出す。

ラウラにはライフル以外に狙撃をする術が無い、対してセシリアは種別を選ばず1㎞の狙撃が可能である。圧倒的不利な状況な為、そそくさと逃げることを選択した。

 

 

「ラウラ!」

 

「シャルロットか。その様子だと失敗のようだな。」

 

「そっちもね。」

 

アサルトライフルを片手に走ってきたシャルロットに、ラウラは手を挙げて答える。

2人は失敗したら合流する作戦を立て、今合流したと言うことは失敗だ。しかも2人共主武装を失った状態で。

そこに銃声が1発分響きわたる。

その発生源はセシリアが隠れて居る柱、そして狙いはシャルロットである。

素早く隠れようとしたシャルロットだが軽い金属音がしたため、ふと視線を下に落とす。

そこにあったのは手榴弾のピン。

それが指し示すのは…

 

 

「…ッ!?しまった!!ラウラ!」

 

逃げてと言う暇も無く、シャルロットの懐で閃光弾が炸裂。

近くに居たラウラ諸共至近距離で喰らうこととなった。

 

 

「ふふ、2人撃破ですわね。」

 

そう言うセシリアの声が、響いていた。

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

『さあ、ただいまからフリーエントリー組の参加を開始します。2人が持つ国家機密、もとい銀時計を見事奪い取った方には!何と何と、豪華賞品が待ってます!皆さん!賞品目指して頑張ってね!』

 

「クソ!フリーエントリーってこう言うことかよ!」

 

執事になりきっていた一夏も、流石の状況転換に素に戻って悪態を付く。

ドレスを着た生徒、制服のままの生徒等。

たくさんの生徒が文字通り群れをなして一夏へと殺到する。

 

 

「織斑君!時計を渡して!」

 

「豪華賞品は私の物よ!」

 

若干殺気を纏った少女たちに、さしもの一夏も逃げる選択肢を取る。

 

 

「どうぞこちらへ。」

 

「あ、はい。」

 

突然手を引かれて舞台裏へと連れて行かれる一夏。その顔は、困惑では無かった。

 

 

 

 

         ーー△ーー

 

 

 

 

一夏が誘導されるがままセットの下をくぐり抜け、男子更衣室へとやってきていた。

 

 

「着きました、ここなら誰も来ないでしょう。」

 

「まあ、誰も来ないでしょうね。ここは男子更衣室ですし。ところで、貴女は何の用で?巻紙礼子さん?」

 

そこに居たのはニコニコと笑みを浮かべる女性、一夏が昼間出会った巻紙礼子だった。

 

 

「ええ、良い機会ですし貴方の専用機…白式を頂こうかと思いまして。」

 

ニコニコした顔とは裏腹に、ゾッとするような低い声でそう告げる。

だが彼女は1つ誤算があった。

一夏は確かに企業から白式を貰っており、表向きは専用機として登録されている。

だが実際にはかなり前に白式は一夏の手を離れており、この場所には存在しないのだ。

 

だからこそその勘違いを、一夏は利用しようとした。

したのだが…

 

 

「ほう…これは先回りしていた甲斐があったな。」

 

そこに響く声に、2人とも動きを止め警戒をする。

コツコツとヒールの音を響かせながら、暗がりから出て来たのは……

 

 

「なっ!?ブリュンヒルデ!」

 

二振りの抜き身の刀を持った織斑千冬がそこに居た。

 

 

「この学園で私の弟が、私の生徒が。不貞の輩によって害されそうになっているのを、この私が見逃すと思ったか?残念だがありえない、私は教師であるが故。1人の人間として、1人の姉として。ここに居る故に…っな!!」

 

両手に持った刀を振りかぶり、常人では追えない速度で走り出す。

それを見て礼子は専用機…『アラクネ』を展開し、蜘蛛にも似たその爪で迎撃する。

だが…

 

 

「遅い!」

 

スパッと千冬が振るった刀により、2本切り落とされる。そしてそのまま流れるように、喉へとその刀の切っ先を突き刺す。

絶対防御に守られているとは言え、その衝撃はダイレクトに喉へ殺到する。

 

 

「ゲホッゲホッ!!ッテメぇ…!」

 

「絶対防御があるから大丈夫等と過信しているからそうなる。衝撃までは殺せないのだ、鎧通しなど使われたら死ぬぞ?」

 

かなり軽く言う千冬に、礼子は咽せながら睨むしか無い。人体の急所である喉を、世界最強の力で突き刺されたのだ。その衝撃は凄まじい。

 

 

「ッチ。よりにもよってブリュンヒルデかよ……たかだか餓鬼1人だって言うから気楽に来たのに、とんだ災難だぜ全く。」

 

「ふっ。なら、今この場に居る自分を恨むことだな!」

 

そう言いながら、千冬は礼子に向けて最速で突っ込む。

その振るわれた刀が礼子の纏う専用機の装甲に当たる直前、その装甲と肩の間に2本程爪を滑り込ませて距離を取る礼子。

だが滑り込ませた爪はその僅かな間に両断されており、第2関節より下が欠損していた。

これで4本。

半分の爪を失い、一気に劣勢となった礼子。

目の前にはIS操縦者が束になっても勝てないであろう世界最強の存在、ブリュンヒルデ。

生身とはいえその強さの前では1対1ではまず勝ち目は無い。故に…

 

 

「ッチ!クソが!!こんなとこで捕まって堪るかよ!!」

 

パシュっと圧縮空気の音をを響かせながら、機体から離れる。

その刹那、機体が光を上げて大爆発を起こした。

 

 

「ッチ、逃がしたか。危機管理能力と逃げ足だけは無駄に良い奴だ。」

 

「せっかく計画通り追い詰めたのだが?横から割り込んできて、逃がした言い訳は何を言うつもりだ?」

 

「あ、いや……そのだな一夏。えっと………ごめんなさい。」

 

はぁっとため息を吐いた一夏。

手を頭に当て、本当に呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

「クソ!クソ!クソ!!何が簡単な仕事だ!ふざけやがってあの餓鬼!」

 

IS学園から少し離れた場所。

現在人が居ないモノレール駅傍の公園にて、全ての仮面を落とした礼子…否、オータムは毒付いてていた。

オータムの頭に浮かび上がるのは、何時でも他人を見下すような目をしている少女。

それはオータムと同じ組織に所属し、今回の作戦を立案した張本人でもある。

気が立っており、帰ったらどうしてやろうと考え出すが……

 

 

「初めましてになりますね、こんにちは。亡国企業(ファントム・タスク)の実働隊員の1人、オータムさん?」

 

突然後ろから聞こえてきたその声に、オータムはすぐさま距離を取ってその存在を確認する。

そこに居たのは蒼いドレスを身に纏い、優雅に佇むセシリアだった。

 

 

「ッテメェ……何者だ?」

 

「私が何者かなどは、貴女にはどうでも良いことです。貴女はどうせ、ここで脱落ですから。」

 

そうセシリアが言い切った途端、大爆発が起きたと錯覚するほどの爆音が周囲に響き渡った。

咄嗟に耳を守るように塞いだオータムだが、突然前へと倒れた事により状況把握が出来なくなった。

そして何が起きたか認識するより早く、それはやって来る。

 

 

「ッ!!っがぁぁあぁぁあ!!」

 

想像を絶する痛みにのたうち回り、血を撒き散らしながら転がる。

そう。

オータムの膝から下が、両足共に無くなっていたのだ。

 

 

「はあ…煩いですわね、それに汚れますし。こんなゴミ…早く廃棄したいですわ…」

 

『それはわかるけどダメだよ?セシリン。アインから言われた通りにしてるんだし。殺さなければ何しても良いって言われたから足を吹き飛ばすまでに留めたんだしさ。ギャハハハ。』

 

そんなセシリアの独り言に答えたのは、無線越しに嗤いながら話す主任だった。

オータムの足が無いのは、主任が行った砲撃とも言える狙撃によるものだったのだ。

相手は重要な情報源。戦闘によって逃げられては、それを失うことになる。

だからこそ、セシリアへと注意を向けさせているうちに、足を奪うと言う作戦を実行したのだ。

 

 

「まあ、そうですけど…」

 

そう言いながら、セシリアは未だ出血してるその足に、部分展開したBITのレーザーを容赦なくぶち込んだ。

 

 

「ぐっぎゃぁぁ!!!」

 

レーザーの特性はその熱量。

一瞬で通過したとは言え、その温度は数千度にも昇る。そんな高温であれば、一瞬で傷口が焼き塞がるのは当然である。

まあ、その際に激痛を伴うのだが。

 

 

「さて。無力化致しましたし、戻りましょうか。私達も報告がありますし。」

 

『ギャハハハ、了解隊長。』

 

「直属の上司が何を言ってるのですか……」

 

そんな軽口を叩きながらも、縛り上げられたオータムをゴミを扱うかの如く引きずりながらセシリアは学園へと歩いて行った。

 

 

 

 

公園の陰から見ている、かなり怯えた少女を置き去りにして。

 

 

 

 

 

 

 




劇の台本が手抜きだって?
仕方ないでしょ!良いの浮かばなかったんだよ!


第五章  追加設定2





織斑千冬



名前の通り一夏の姉。
IS乗りの中で最強の称号であるブリュンヒルデと呼ばれ、銃やミサイル等を搭載した他の機体を操る国家代表を刀1本で全員下した世界最強の人。
生身でもその戦闘力はほぼ変わらず、1対1であれば真正面からISと互角以上に戦える。



第1回モンド・グロッソで全ての試合を完勝し、名実共に最強となり優勝した。
第2回大会にも出場者名簿に名前が載っていたが、会場に姿を現さず、それ以降千冬の姿は誰も見ていない。
第2回大会から数年後にIS学園で教師になっている事が発覚する、その時まで何処に居たのかは不明。

因みに一夏には弱い。




セシリア・オルコット


一夏、そして自身と関わりが深い人間に手を出されるとブチ切れて手を出した人間にはかなり冷酷になる。

何が何でも排除しに掛かるが、今回は貴重な情報源であった為事前に一夏から言われていたのでこの程度で済んでいる。


因みに狙撃技術が飛び抜けている。
シャルロットが持っていた手榴弾のピンを正確に狙って、撃ったそのゴム弾でピンを抜く程に。


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