年明けましたねぇ。
今年も残すところあと362日ですよ。
「一夏…今まですまなかった!」
「えっと…何事?」
一夏が会議を終え、部屋へと戻って来て数分後。ドアをノックする音が聞こえた為開けてみれば、そこには短髪になった箒が見事なDOGEZAをしていた。
「私のせいで今まで色々と迷惑をかけた!許してくれなんて虫が良い事は今更言わない。ただ謝りたいのだ!」
未だ廊下でおでこを叩き付けんばかりの土下座をかます箒に、一夏はどうしたら良いか分からなかった。
今までポニーテールだったクラスメイトが、ドアを開けたら短髪になって土下座をしてるのだ。驚愕しない方が可笑しいだろう。
だが…
「私は変わる、変わってみせる。それを伝えたかったのだ。では、私は行く!」
「あ、おい!」
言いたいことだけ言って立ち去った箒を見て、根っからの性格までは難しいと思った一夏だった。
ーーーー△ーーーー
学園祭の準備は各クラス、各部毎に進められた。
そろそろ準備も終盤に差し掛かって来ているため、提供する料理の試作等に取りかかっていた。
料理好きなシャルロットやセシリア、一夏等が主導して試作品を作りテーブルに広げていた。
「んー!このショートケーキ美味しい!!」
「このモンブランも絶品!」
「最高だよぉ!これならお店に出せるよ!」
等々。
かなり好評であった。
他にも、一夏が作った『マカロンと紅茶のセット』や、セシリアが作った『林檎のタルト』等。どれもこれも出来が良すぎる程で、大人気であった。
そんな中……
「おりむ~、準備できたよ~。」
「待ってたぞ布仏さん。」
「ささ、早く着替えるのだ~。」
紙袋を片手にパタパタと小走りでやって来た本音は、半ば強引に仮の更衣室となっている教室の隅へと紙袋と共に一夏を押し込む。
「はいこれ。なるべく早く着替えるのだ~。」
「はいはい。わかったからそう急かすな。」
一夏は苦笑いを浮かべながらも、仕切りとなっているカーテンを閉める。
その瞬間、大多数の目がカーテンへと集中した。理由は簡単、期待しすぎるあまり今か今かと出て来るのを待っているのだ。
そして、一夏が入ってから5分後。
そのカーテンが開かれた。
「ふむ、サイズもぴったり。やはり良い仕事をしますね、後でお菓子の1つや2つ差し上げましょう。」
「やった~、流石おりむ~なのだぁ~。」
カーテンから出てきたのは、両手に白い手袋をはめた執事。その執事は、手袋を直しながら歩き出す。
テールを靡かせ、銀時計が付いた鎖を揺らすその姿は…完璧な執事そのものだった。
「……格好いい//」
全員が固まっているなか、そう誰かが呟いた。
其程までに型にはまった姿であり、誰も一夏から視線を外そうとしない。そんな中…
「アイン、こちらをお忘れですわよ?」
セシリアが一夏へと近付き、銀色の
そしてそのナイフを全て懐に仕舞うと、トレーを左手に持ち替えて立つ。
「これで完璧ですわね。ではアイン、使用人のなんたるかをご教授して差し上げなさい。」
「御意のままに、お嬢様。」
片膝を着き礼をするその姿に一層見惚れてしまい、誰もが見とれていた。だが…
「さて、何を見とれているのです?貴女方もメイド服を着て接客をするのですから、お客様に対して恥じのないよう徹底的に覚えて貰いますよ?もう学園祭まであまり時間は無いのですから。」
両手を叩きながら言う一夏の言葉に、全員ハッとして現実へと戻ってきた。
「ここは当日、メイド喫茶になります。そして貴女方はメイド…つまり使用人です。そしてやって来るお客様は総じて主人です。使用人たる者、主人に粗相があってはなりません。これから急拵えではありますが作法を教えますので、皆様早急に覚えてください。よろしいですね?」
『はい!!』
「結構。では始めますよ。」
結局、準備の終盤は全て1組メイド隊の育成に費やされたのだった。
「あ、そうだシャルロット。シャルロットは執事服な。」
「なんで!?なんでなのラウラ!?」
因みにだがラウラの提案は、衣装の都合上却下された。
ーーーー△ーーーー
いよいよもって学園祭。
その日IS学園は大賑わい。普段入れない女だけの花園に入れると、妹から招待券を貰った兄も居れば。来年入学する為の見学と意気込む女子中学生も多々居た。
そんな中ただ1人の男子が居る為1番の賑わいを見せる1年1組はというと。
『お帰りなさいませ、お嬢様。』
「…え?」
入ってきた女子中学生が入り口にいる4人のメイドに困惑していた。
そもそもとして、一夏が日本発祥のメイド喫茶を知っている筈が無いのだ。
身近にそう言う知識を持った友達は居なく、幼少期から既にイギリスに居たのだ。サブカルチャーを教え込まれたラウラとは違うのだ。
一夏が知っているメイドと言えば、オルコット家に居るメイド以外知らない。つまり本業の人しか見たこと無いのだ。
そしてメイド喫茶にも行ったことが無いため、どういう場所でどういうことをするのか全く分からないのだ。
その為、メイドと喫茶店が曖昧な形で繋がった事になる。
故にこの場所はメイド喫茶ではない。
一夏指導の元育成されたメイド隊が給仕に回り、時折一夏自身も応対する。
カフェ風にテイストされている室内は純白のテーブルクロスがかけられた丸テーブルがいくつか並び、それを取り囲む形で8つのイスが並んでいる。掲示物も黒板すらもなく、レンガの壁で覆われている。元が教室等とは思えないほどだ。
そんな中一夏が困惑している女子中学生に近付く。
「お帰りなさいませ、お嬢様。そして、ようこそ『ISガーデン』へ。」
カフェテリアISガーデン。
元々の案はメイド喫茶だったのだが、メイド喫茶を知らない一夏が企画を主導した為に、貴族がやるような本格的な御茶会の会場風になった。これには提案したラウラも首を傾げていたが、メイド服が着られるので気にしないらしい。
「それではお嬢様、お席へご案内いたします。」
「は、はい!」
この学園唯一の男子生徒であり、誰が見てもイケメンと答えるであろう一夏。そんな一夏が格式の高そうな執事服を身に着けて話し掛けられれば、年頃の少女等簡単に頬を紅く染めてしまう。
「ではお掛けください。」
「はい。」
少々落ち着きを取り戻した少女を、一夏はイスを引いて誘導する。
そして座ったのを確認すると…
「ではお嬢様、こちらメニューになります。決まりましたらお申し付けください。それからもうまもなく、本日のメインイベントが始まりますので、お楽しみください。それでは。」
そう言うと一夏は、普段は窓際となっている場所へと移動する。そこには大きなグランドピアノ、そしてその脇にバイオリンを持って佇むセシリアが居た。セシリアは他のクラスメイトとは違い、蒼のドレスを着ていた。その様が、舞踏会に着たお嬢様に見えてしまう。
そして一夏がイスに座り、セシリアに目配せをする。そして微笑み合うと、演奏が始まった。
ピアノとバイオリンの
部屋の雰囲気にマッチした曲が流れ、心を癒すかのように微笑む人が出て来る。
たった一曲限り。学園祭は1日だけなので、この一曲が最初で最後の大イベントである。
主席代表候補生であるセシリアの奏でるバイオリンと、世界唯一の男性操縦者である一夏が奏でるピアノ。
そして一夏が立ち上がると、セシリアと共に一礼。
大きな拍手で、その演奏は締めくくられた。
ーーーー△ーーーー
一夏とセシリアが丁度同タイミングで休憩時間となり、着替えもせずにそのまま並んで廊下を歩いていた。そしてちょうど人通りが少ない場所に差し掛かった時…
「ちょっといいですか?私こういう者なのですが…」
ふと声を掛けられ振り向くと、スーツ姿の女性がそこに立っていた。その女性は胸ポケットから手早く名刺を取り出すと、一夏へと渡してくる。
「IS装備開発企業…『ミツルギ』渉外担当……
「はい。織斑さんに、ぜひ我が社の装備を使って頂けないかと思いまして。声を掛けた次第です。」
その話を聞いて、一夏はため息を吐いた。
実際一夏は世界唯一の男性操縦者であるので、そんな一夏に後付け装備を使って貰おうと言う企業は後を立たない。使って貰えればハクが付き、良い広告になるのが主な理由だ。
だが一夏の専用機『ユリ』には後付け装備を付ける余裕はあれど、その好みが合わない。
自我意識が表に出たAIであるコア人格が拒絶するからだ。
いちいち好みの有無を検証するのも至極面倒な事であるため、現在の装備だけで十分なのだ。
それに新しい装備というのは、それだけでなれるまで時間が掛かる。実戦で不慣れな装備を使って負けたなんてことになりたくないからこそ、今持っている信頼できる装備だけあれば良いのだ。
「残念ですが、こう言う話は学園を通してからお願いします。今人を待たせていますので、今日はこの辺で失礼します。」
「あ、ちょっと…」
割と強引に話を切り、その場から急いで離れる。ある程度離れた所で…
「アイン。今の方、かなり怪しいですわよ?」
「ああ。事前に情報も無く、俺に直接来る企業は今まで居なかった。それに…」
1度区切った一夏は、1番確信めいた言葉を口にする。
「ミツルギは…1番最初に来た筈の企業だしな。」
ーーーー△ーーーー
「ふ。ふはははは。遂にやって来たぞ!IS学園!!」
IS学園の正面ゲート前でチケットを握り締めながら、堪えきれない笑いを漏らす男子が1人居た。紅い長髪にバンダナを巻きにやけるその姿は、色々と残念な人だった。
浮いた服ではないよう気を付けているつもりではあるようだが、生憎とここは
女子の花園であるので男子というだけで目立っていた。
「あそこの男子…誰かの彼氏かな?」
「案外イケメンじゃない?」
視線を感じながらきゃいきゃいと騒ぐ女子を見て、件の青年の心臓はバクバクしていた。
「そこの貴方。」
「はいっ!」
突然後ろから声を掛けられて、ビクッと背筋を伸ばして振り向く。そこには眼鏡を掛けファイルケースを持った布仏虚がそこに居た。
「貴方、誰かの招待を受けてここに?規則だから一応、チケットを確認させて貰えないかしら?」
「はいっ」
青年はあたふたとしながら握り締めてぐしゃぐしゃになったチケットを差し出す。
「配付者は、えっと…凰鈴音。ああ、凰さんね。はいありがとう、返すわね。」
「…はい」
顔をほんのり紅くした青年は、手渡されたチケットを受け取る。そしてなんとか喋ろうとしているのだろうが…緊張のせいか口をパクパクさせるだけだった。
その結果、無情にも虚は立ち去ってしまい…青年は膝から崩れ落ちた。
ーー△ーー
「何してんの?弾。」
「…鈴か。俺にはセンスが無いみたいだ…」
「今更でしょう?」
鈴の言葉にグハッと再度崩れ落ちる弾と呼ばれた青年。彼の名は五反田弾。鈴が送ってきた招待券によってここに来た、現在高校1年生の男子である。
「ほら起きる!一夏を紹介したいんだから。」
「その一夏とやらは、えっと…」
「そう、私の初恋だった人よ。」
鈴は迷い無くそう言った。
もう過去のことと、割り切ったようだ。
「さて、行くわよ!学園祭は今日しか無いんだから。」
「おうよ。」
ーーーー△ーーーー
現在、一夏は待ち合わせ場所にセシリアと向かっていた。
待ち合わせ時刻から5分ほど過ぎているのだが、2人は気にせずに歩いていた。
そして待ち合わせ場所に差し掛かった所で…
「ギャハハハハハ、見てよキャロリン。1番高そうなのが落ちたぞ。」
「おめでとうございます、主任。」
待ち合わせ場所から少し離れた場所で、暢気に射的をやっている待ち人が居た。
それもいい歳した大人が射的で1等と書かれた札を落として大はしゃぎしている、割と好奇な目で見られているが気にしていなかった。
「はぁ…何やってるんですか、主任。」
「ん?…おおセシリンじゃん、3年振りだが結構成長したなぁ、見違えたぞ。」
主任と呼ばれた男性が振り返り、セシリアを見付けると嬉しそうに笑いながら近付いてくる。
そしてある程度近付いた所で…
「ん?…ん!?アインじゃん!なんぞその格好?」
「うちのクラスの演し物の制服みたいなものですよ。」
二度見をした主任と2~3言葉を交わし、今度はキャロリンと呼ばれた女性へと向き直る。
「お久しぶりですね、2人とも。最初に拾った時はあんなに小さかったのに…今ではここまで立派になるとは…」
「うんうん。おじさん嬉しいよ。グスっ。」
明らかに嘘泣きと分かるキャロルと、それに乗る主任。
「さて、休憩時間も残り少ないですし案内しますよ。」
「そりゃ助かる。実はさっき来たばかりで射的しかやってないんだよね。ギャハハハハハ。」
「「はぁ…」」
随分とテンションが高い主任を見て同時にため息を吐く一夏とセシリア。だがその顔は笑みが浮かんでいた。
ちなみにですが、あくまでも同じ名前ってだけです。本人ではありません。
次回には生徒会の演目に行けるかなぁ
設定
織斑一夏(執事バージョン)
文字通り一夏が執事服を着た姿。
この姿では常に敬語を使っており、外見と相まって本物の執事にしか見えない。
紅茶を入れさせたら、完全に良いとこの執事である。
武器はトレーと、袖内襟元腰回り等に隠したナイフを使う。
因みに外見に反して毒舌であり、ドSである。
一夏が着ている執事服のモデルは、セバスチャン・ミカエリス
セシリア・オルコット(蒼ドレス)
家から学園まで、学園祭の為だけにわざわざ送らせたもの。特にこれといって高価な訳ではないが、銃とナイフを隠す為に要所要所に仕掛けが施されている。
カフェテリアISガーデン
学園祭においての1年1組の催し物。
当初はラウラの提案通りのメイド喫茶になるはずだったのだが、企画主導の一夏がそっち方面の知識を何も持っていない為にこうなった。
テーマはーーお嬢様主催の舞踏会風カフェ。
テーマのお嬢様とはセシリアのことで、お付きの執事と数十人のメイドがスイーツ等を提供するというもの。
主任
本名不詳の軍人。
年齢は30から上。
元Strayed隊の直属の上司。
単身、しかも生身でISと互角以上に戦い、圧勝する。曰く頭可笑しい人。
装備はロングマガジン、セミオート、レールガンの応用等鬼カスタムされた対戦車ライフルを使う。名前は『主任砲』。
初速と弾速が鬼畜であり、ハイパーセンサーを使ってもギリギリ捉えられるかどうか。
弾丸は通常弾ではなく徹甲榴弾のために、ISの装甲すらぶち抜ける。
一夏とセシリアの評価は
信頼も信用も出来る頼もしい人だけど、狂ってる。
キャロル・ドリー
愛称はキャロリン。
主任の秘書兼ボディーガード兼話し相手。
最優先事項が自分の命より主任の命な為、文字通り命懸けで主任を守っている。
専用機持ちではあるものの、どこかの国や企業に所属している訳ではない。無所属のフリーであるが、世間に知られていない為あまり問題は無い。