つまり、例のあの人登場よ
第一話
「ハッ!」
ガキンッと一夏の刀が振り抜かれ、鈴の青龍刀へと当たる。
現在は9月3日。
2学期初の実践訓練は2組と合同で行われた。
「…クッ!」
「逃がすかよ!」
クラス代表同士で始まったバトルは、終始一夏が押している。それもその筈鈴は、一夏が舞うその速度に着いて来れてないのだ。
故に翻弄され、攻撃を防ぐので手一杯なのだ。
龍砲を打ち込もうと、チャージに時間がかかる事と弾速が遅いために当たらない。逆に一夏は常に鈴の周囲を飛び続け、ヒット&アウェイを繰り返している。
中距離型にロックさせず、常に自分の間合いで戦い続ける。極めて模範的で確実な勝利手段だ。
そうこうしている間にブザーがなり、一夏の勝利で終わった。
ーーーー△ーーーー
「うがぁー!また負けた!!!これで2連敗じゃないのよ!」
「お前は分かり易すぎる、取り敢えずは目に頼らずに龍砲を使い熟さないとな。」
前後半戦、どちらとも一夏の勝利で幕を閉じた実践訓練。その片付けが終わり、何時もの面子で学食へと来ていた。
因みにだが、一夏が頼んだメニューはイングリッシュブレックファーストと言う物。
薄くスライスされたトーストと卵はスクランブル。そして輪切りにしたトマトを軽く焼いたものとマッシュルーム、白いんげん豆をトマトで煮込んだもの。そしてベーコンまたはソーセージ、ハッシュポテトなどが添えらたイギリスの料理。
「あ、ラウラ。それ美味しい?」
「ああ。本国以外でここまで美味いシュニッツェルが食べられるとは思っていなかったが。」
シャルロットと相席しているラウラは、シュニッツェル(仔牛のカツ)をまた一口食べる。
その最中、物欲しそうなシャルロットを見て…
「食べるか?」
「わぁ、良いの?やったぁ、1度食べてみたかったんだぁ。えへへ。」
そういうとラウラは切り分け出す、隣でウキウキ気味のシャルロットの為に。
そしてフォークに一切れ突き刺すと、徐にシャルロットの口元に運ぶ。
「えっと…」
「シャルロット、あーんだ。」
その瞬間、シャルロットの顔がボフンッと紅く染まった。俗に言う『はい、あーん』と言う奴をラウラからされ、先日のことも思い出したシャルロットの顔はそれはもう紅い。
「どうした?要らないのか?」
「えっとね、ラウラ。欲しいけど…皆が居るんだよ?」
「ん?それがどうかしたのか?」
さも当然のように言うラウラに対して、シャルロットは頭を抱える。
理由としてはただ単純、恥ずかしいのだ。
だがラウラにそんなことは通じない。
シャルロットが食べるまで、口元に置いておくだろう。故に…
「あ、あーん。…お、美味しいね。」
顔がもう既に紅く染まりすぎている、それくらいシャルロットにとって恥ずかしい事なのだ。
周囲にはクラスメイトも多々居るのだ、シャルロットの顔は既に火を噴くかの如く真っ赤である。
周りで『百合展開よ』等と小声で呟くのが、更にシャルロットの顔を紅くするのを助長した。
「あー…こういう場合はあれだな。」
「そうですわね。」
その一部始終を見ていた一夏とセシリアは、顔を見合わせ頷き合うとシャルロットに対して同時に口を開いた。
「「ごちそうさま。」」
「もうやだぁ!!」
ーーーー△ーーーー
「…本当、無駄に広いな。」
もはや一夏専用になってきている男子更衣室のロッカールーム。
一夏はISスーツのままユリのコンソールを呼び出すと、簡易的なメンテナンスを始める。
『
「そうか、そんなに壊れて無くて安心だ。」
ユリの自己診断機能と修復機能があるためメンテナンスフリーだが、時々メンテナンスしなければならない。故に空いた時間でやっているのだ。
そんな会話の最中、一夏は気配を感じ入り口へと振り返った。
「誰だ!!」
一夏が声を掛けると、ロッカーの影からふらっと1人の女生徒が現れた。
青い髪を揺らし、その妖艶な紅い眼で一夏を見る。首に着いてるリボンから2年生だと分かる、そしてここまでの情報で一夏が知っているのはただ1人。
「生徒会長…2年の更識楯無か。」
「あらびっくり、まさか知っているなんてね。」
その件の少女…楯無は何時の間にやら取り出した扇子を口元に当て、クスクスと笑う。その際扇子の文字が『吃驚仰天』と書かれていたのはご愛嬌だろう。
「で?その生徒会長様が一介の男子学生に、一体何の用だ?」
「一介…ね。代表候補生の筆頭であるセシリアちゃんと互角以上に戦える人は、一介とは言わないとお姉さん思うけどなぁ。」
口元を扇子で隠しながらも一夏に詰め寄る楯無。一夏の情報は、その殆どが秘匿されているため疑うのは仕方が無いだろう。
「それはどうでも良いだろう。で?何の用件で?」
「政府から貴方の護衛を任されたの、と言っても必要無さそうだけど一応ね。」
「護衛…ねぇ。」
政府、と言ったらこの場合は日本政府だろう。
本来なら護衛される筋合いなど無いと言うのだが、生憎と表向きにはただの男子学生であるためにそれは出来ない。
「まあ、正式な挨拶は後日するわ。また会いましょう?織斑一夏君♪」
そう言って、男子更衣室を出て行った。
残るはその後ろ姿を睨むように見つめる一夏だけだった。
ーーーー△ーーーー
「だから何度も言ってるじゃないですか、その要求は呑めませんわ。」
『そこを何とか、貴女のような優秀な方が来てくだされば我が国も安泰なんです!』
6限が終わり、2クラス分の女子を詰め込んだロッカールームの端。そこでセシリアは、もう何度目か分からない勧誘の電話に対して断りを入れていた。
「私の所属国家は今までも、そしてこれからもイギリスですわ。ですからどんな好条件だとしても、移籍するつもりは毛頭ありません。残念ですが、この話はおしまいですわね。」
『ま、待ってくださいセシリア嬢!私共としても新たなーーーー』
その続きを聞くまでも無く、セシリアは通話を切った。そして携帯を粒子変換で収納した。
「はぁ…全くしつこいですわね。もうこれで何回目でしょう…色々な国から掛かってきますわね。そろそろ嫌になりますわ…」
「あれ?セシリア、どうかしたの?」
「ああ、いえ。何でも…些細なことですし、何でもありませんわ。」
深い溜息を吐いたセシリアに声を掛けてきたのはシャルロットだった。既にISスーツから制服に着替え、汗を吸った髪を拭いている。
「さて。溜息ばかりついていても仕方ありませんわね。デュノアさん、少々気分転換にお茶しませんこと?この時間帯でしたらちょうど学食カフェも空いていると思いますし。」
「そうだね、気分を上げるにも良いし。」
話題転換の為に、セシリアはシャルロットに提案する。自身の娯楽も含まれているが、ただ純粋に気分転換という理由も大きい。
「あ、じゃあさ…鈴とラウラも誘って行こうよ。皆で女子会しよう?」
「良いですわね、そうしましょう。」
気持ちを切り替えて、セシリアは自身のロッカーを閉じる。そしてその軽やかな足取りで、カフェへと向かった。
ーーーー△ーーーー
翌日。
SHRと1限の半分を丸々使い、全校集会が開かれた。
内容は近々行われる学園祭についてである。
「それでは生徒会長から、説明を頂きたいと思います。」
そう静かに告げた生徒会役員の言葉に、ざわつきが前からスーッと引いていく。
そして壇上に上がったのは、昨日一夏の前に現れた謎の人物。
「やあ皆、おはよう。今年は色々と立て込んでて正式な挨拶はまだだったね。私は更識楯無、君たち生徒の長である生徒会長よ。以後よろしく。」
にっこりと微笑みを浮かべながら言う楯無は、同性でさえも魅了するらしい。列のあちらこちらから熱っぽい溜息が零れていた。
「さて、今月の一大イベントの学園祭だけど…今年も今までと同じなんてつまらないでしょう?だから今回は特別ルールを導入するわ、その名も!」
閉じた扇子を慣れた手つきで横へスライドさせ、それに応えるように空間投影ディスプレイにとある文字が浮かび上がる。
「名付けて…『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」
「what?」
その浮かび上がった文字を見て、英語が出てしまう程に一夏は混乱していた。
だが周囲の女子はそれ以上だったらしい、殆どが固まっている。だが…
「「「ええええ~!!!」」」
割れんばかりの叫び声に、比喩では無くホールの窓硝子が悲鳴を上げた。
そして視線は一気に一夏へと向く。
「はい静かに。…学園祭では毎年、各部毎に催し物を出してそれに対する投票を行う。そして上位組は部費に対して、特別な助成金が出るしくみだったね。でも今回はそれじゃあつまらないと思って……」
ビシッと、最前列に居た一夏を扇子で指し。
「1位を取った部活に織斑一夏を強制入部させようと思います♪」
「うぉぉぉぉ!!」
「いよっしゃぁ!!!会長、一生着いていきます!」
その場の勢いは凄まじく、結果として強制入部が決まってしまったのであった。
「俺の意見は全面的に無視かよ…」
ーーーー△ーーーー
その日の放課後に設けられた特別HR。
クラス毎の催し物を決めるため、盛り上がっていた。
そしてクラスから出た意見、それを纏める役目がクラス代表である一夏にある。そして出た意見の内容が『織斑一夏のホストクラブ』『織斑一夏とツイスター』『織斑一夏とポッキーゲーム』『織斑一夏と王様ゲーム』等々。
一夏の意向は半ば無視された意見が多い。故に…
「全て却下。」
「「「「ええええー!!」」」」
「阿呆か、誰が嬉しいんだこんなもん。」
大音量でブーイングが響き渡る。
出された意見を全て却下すれば、ブーイングも起きるだろう。だが一夏からすれば、自身の利になるような意見では無い為却下して当然だろう。
「私は嬉しいわ!断言する。」
「織斑一夏は共有財産である!」
その提案の弁護を助長するように言う女子数名。だが…
バキッ
2列目の後ろから3番目の席。
そこから何かを無理矢理へし折った音が聞こえ、周囲は途端に静かになった。
その音の出所はセシリアの右手に握られていた、1本のシャーペンが半分になっていた。
「あー…真面目にやりましょうか。」
「そ、そうよね。真面目にやりましょう。」
セシリアから放たれる絶対零度の雰囲気に、周囲全員が固まる程に緊張が溢れる。
セシリアと一夏が付き合っている事は1組の共通認識である(箒以外)のだが、からかいすぎた模様である。
「ではメイド喫茶はどうだ?」
そう言うラウラの発言により、クラス全員が惚けてしまう。
「客受けは良いはずだ。それに飲食店は経費回収が容易だ。確か招待券で外部からの集客も見込めるだろう?それなら休憩所としての需要もあるはずだ。それにこのクラスにはただ1人の男子が居るのだし、執事と言うのも良いではないか。」
普段言わないラウラらしからぬ発言に、理解するのに時間を要した。そして次の発言により再度空気が変わる。
「それにメイド服を着て接客というのも楽しいものだぞ。」
「それ着たいだけだよね!?」
シャルロットが堪らず突っ込みを入れた。
確実に先月働いた時のメイド喫茶で味を占めた為の提案だと分かったからだ。
「では1組の催し物はメイド喫茶。異存は無いな?」
「「「はーい!!」」」
こうして1年1組はメイド喫茶に決まったのだ。
書くことが無い…
後書き…