蒼白コントラスト   作:猫パン

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今回、そして次回はその頃の一夏編。

次回からは他の面子との絡みも出てきます。



第四話

 

 

 

 

 

「一夏!私がその舐めた根性を叩き直してやる!」

 

 

その言葉を聞き、一夏は何故こうなったかを自問自答していた。答えが出るはずが無いのに。

 

 

 

 

少し時間は巻き戻り。

一夏は第2アリーナを貸切状態で訓練中であった。

現在は夏休み中であり、一般生徒は帰省したり買い物に出掛けたりと、訓練をしている生徒はごく少数であった。今日はセシリアも、自宅の用事により数日、学園を空けていた。

故に一夏が出した第2アリーナの申請は、他に誰も居なかったために貸切状態な訳だ。

 

 

そしてそのアリーナの中心にて、刀を振り続けているのが一夏だ。

このアリーナを使う者なら誰しもが使えるが、そもそも使う者が居なく誰も知らない設定。

 

アリーナの中央。そこに書いてある円に向かって、全方位から射出される硬質テニスボール。

それを全て回避、又は撃ち落とす為の物だ。

今回一夏は、後者の方。つまり手に持つ刀で、全方位から迫るテニスボールを斬り伏せていた。

 

 

「チッ、少し遅いな。」

 

明らかに可笑しい速度。ハイパーセンサーを使わなければ見ることさえ叶わない程のテニスボール、それを生身で斬り伏せているにも関わらずそれを遅いと言う。

一夏の規格外さがよく分かる。

 

アリーナとは言っても、必ずしもISを展開しなければいけないわけでは無い。

それぞれ用途に合わせた訓練方法がある為に、展開しなくてもいいのだ。勿論ISを用いて訓練している人が居ない前提だが。

 

 

「さて…終わるか。」

 

そう言うと一夏は刀で斬り伏せながらも、腰に差していた物を投げた。

『それ』は付近に置いてあったスイッチに命中すると、役目を終え地面に落ちた。

 

 

「ふぅ。さて何をやるかな…料理の試作…食べ歩き…あ、茶葉が確か切れていたな。買い出しも候補だな。」

 

そう言いながらも、一夏は片付けを始める。

今後の予定を立てようしているわけで、正直暇な一夏だ。今日1日、最悪3日間程予定が無いのだから。

 

 

「一夏!!」

 

アリーナから撤収しようとしていた一夏に、突然後ろから声が掛かる。現在時刻は朝7時半。

こんな時間に大声で自分の名前を呼び、声を掛けてくる人物等、一夏は1人しか知らない。

一夏と同様夏休み中に用事が無く、学園に残った『篠ノ之箒』だ。

 

 

「はぁ……何のようだ篠ノ之箒。」

 

溜息を吐きながらも、一夏は後ろを向く。

すると案の定、そこには箒が居た。

何故か剣道着に着替え、竹刀を持っていたが。

 

 

「何だその曲芸染みた動きは!来い、その軟弱な腕を鍛えてやる!」

 

そのまま一夏の腕を掴み、引きずりだす箒。

確かに一夏の剣技は曲芸染みた行動が多い。

相手を翻弄し、隙を突いて攻撃を叩き込む。そんなことは、回りから見れば大道芸にも見えるだろう。

だが実際の所、一夏の剣技は戦場で磨かれた実戦的な我流の剣術。明確に流派も無いし、師事した人物も居ない。

それでも的確に相手の急所のみを狙う剣は、邪道とも言えるし王道でもある。一夏の剣は、如何に相手を効率良く斬り殺すか。そして如何に最速で敵を斬るか、その2つのみに主眼を置いている。

魅せる為の剣舞や剣道とは違うのだ。

相手を斬り殺す為だけの剣と、己と相手を律する剣。どちらが強いかなど、明白である。

 

剣道のみの箒。剣術から始まり、CQC、棒術、銃術等に精通している一夏。

結果は言わずもがな。

 

 

わかりきっているが、一夏は仕方なく道場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

         ーー△ーー

 

剣道場へと辿り着いた一夏は、取り敢えずで防具を着けに行った箒を待っていた。

そして戻って来た箒は…

 

 

「いくぞ一夏!曲芸紛い等、忘れさせてやる!」

 

「へいへい。ま、頑張れ。出来るものならな。」

 

そう言いながら、一夏は適当に竹刀を引っ張り出す。そして、振り上げからの袈裟切り、薙ぎ払い、そして牙突。その1連の動作をする。

だが…

 

 

「軽すぎるな。」

 

普段一夏が振るう得物は、竹で出来た竹刀とは比べ物にならない程に重い。

何をどうしてそうなったか謂われは分からず仕舞いだが、一夏の得物…刀は5㎏あるのだ。

それに対し、竹刀は3尺8寸(サブハチ)で400g程しか無い、良くても500gだ。重さの桁が違うのだ。

そしてそのまま、一夏は竹刀を構える。

だがそれは、構えていない様に見えた。

何故ならそれは、居合の構えだからだ。

 

 

「なんだその構えは!それと胴着と防具を着けろ!」

 

「必要無い、これが俺の剣だからな。」

 

一夏の態度が気に入らなかったのか、歯軋りして激昂した箒が竹刀を振り上げる。

しかし、一夏にとって全て見える太刀筋だった。剣道の有効打は面、小手、胴。その3カ所である限り振り方で容易に予測出来る。

一振り一振りを的確に見極め避けていく。

 

 

「貴様!さっきから避けてばかり……男なら正面から掛かってこい!!」

 

「はぁ…仕方ない。この技を使うには少し役不足だが…」

 

一夏は竹刀を握る左腕を少し上げ、後ろに引いて低く身を屈めた。

 

 

「剣道をしろと……言っているだろう!!」

 

竹刀を振り上げて、馬鹿正直に真正面から突っ込んでくる箒。それに対し、一夏は焦ること無く対処する。

 

 

「絶技…」

 

そして決着は一瞬だった。箒の視界から一夏が消えて、胴に衝撃がはしる。その数は10。そしてゆっくりと倒れる箒の後ろには、いつの間にか竹刀を納刀する格好にしている一夏がいた。

 

 

「疾走居合。」

 

「な…に…」

 

体のあちこちに打撃を受け、意識が朦朧としている箒。既に立ち上がる気力も体力も残されていない。それでも意識を失わないのは、執念か或いは意志の強さか。どちらにしても一夏には関係なかった。既に朦朧として何も聞こえていない箒等、もはや一夏の眼中には無い。

そのまま流れるかのように、一夏は竹刀をあるべき場所へ戻す。そして…

 

 

「じゃあな、篠ノ之箒。俺はお前のことが、昔から大嫌いだったよ。」

 

「ま…まて‥」

 

聞こえていないが故にそう言い残して、一夏は剣道場を後にする。

その後、この日の箒がどうなったのか一夏が知ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

 

「ふむ、この時間帯なら喫茶店も空いているのか。」

 

現在、一夏はレゾナンスにて喫茶店巡りならぬ食べ歩きをしていた。朝9時。朝食には少し遅く、昼食には少し早い時間。一夏は自身が作れるスイーツ、そのレパートリーを増やすためこうして食べていた。

そして入った1件目の喫茶店。

この店は独特で、客1人1人に店員が専属で1人付くという何とも異質な店だ。

 

 

「すみません、この店長のオススメを1つ。」

 

「はい、かしこまりました。少々お待ちください。」

 

食べなければなんとやら。

朝食がまだな一夏は、1件目では普通に食べることにした。朝早くから要らぬ運動(篠ノ之箒の我が儘)に付き合わされた一夏は、これを食べることで忘れようとしていたのだ。

 

 

「お待たせ致しました、この度の店長のオススメ『店員のまかない飯』でございますが…宜しいでしょうか?」

 

「ああ、問題ない。こういう物ほど美味いと、よく言うだろう?」

 

「恐縮です、ではごゆっくりお召し上がりください。」

 

そう言って下がる店員を横目に、一夏は早速スプーンを付ける。

目の前にあるのは、見た目からしてリゾットだ。見るからに庶民的だが、それ故不味い等とは限らない。

そのままスプーンで掬い、口に運び…

 

 

「ーーッ!?おいおい、これがまかない飯?冗談だろ。」

 

一口食べただけで、一夏は驚愕を露わにする。

見ただけではわからない、明らかにあり合わせで作ったとは思えない料理に舌鼓を打つ。

 

 

「一発目から当たりを引いたな、これは最高だ。」

 

「お気に召して頂けたようで、何よりです。」

 

何時の間にか、先程の店員が一夏の元へと戻ってきていた。基本的に接客を掛け持ちする店員だが、1人の客専属なのだ。

それに対し一夏は、早速感想を言う。

 

 

「ああ。これほどの物がただのまかないとはな、メニューに載せても売れるぞこれは。」

 

「ありがとうございます、ですが…あくまでもこれは『まかない』ですので。」

 

「そうか…美味いんだがな。」

 

今後同じ物が食べれるとは限らない為、一夏はメニューに載せる事を薦めるのだが、店員としてはメニューに載せるつもりは生憎と無いらしい。若干気落ちしながらも、一夏は食べた分の代金を取り出す。

 

 

「この店は気に入った。また来るとしよう。」

 

「恐縮です。その時は是非、私をお呼びください。」

 

そう言いながら、店員は名刺と会員証を一夏へと差し出す。それを一夏は受け取りながら…

 

 

「ではまたお越しくださいませ、『織斑一夏』様。」

 

「ーー!?あ、ああ。」

 

名乗ったはずが無いにも関わらず、自身の名を言われる。驚くなと言う方が無理と言う物だろう。

 

 

「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております。」

 

その言葉を背に、一夏は喫茶店を後にした。

 

 

 

 

 

         ーー△ーー

 

 

 

喫茶店を出た一夏は、今人気急上昇中の喫茶店『@クルーズ』へと向かっていた。

ケーキやパフェなど、スイーツが有名となっている店だ。

間近に迫った頃、一夏は異様な人集りを見つける。

 

 

「あー犯人一味に告ぐ。君達は既に我々が包囲した、大人しく投降しなさい。繰り返すーーーー」

 

警察、野次馬。

その他大勢が、@クルーズへと視線を向けていたのだ。

@クルーズを囲むように配備された警察の部隊、そして窓から除く犯人らしき人影。

 

「はぁ、なんだか今日は厄日だな。」

 

そう一夏は呟く。

朝は箒に絡まれ、次は行きたかった喫茶店が犯人の立て篭もりに使われている。

流石の一夏も溜息を零さずにはいられなかった。

 

 

『おい聞こえるか警官共!人質を安全に解放したかったら車を用意しろ!勿論追跡車や発信機なんて付けるんじゃねぇぞ!』

 

威勢良く割られた窓からそう叫ぶ犯人の1人が、宣言が本当だと証明するようにパトカーに向け発砲する。

幸いなことに車に当たっただけで済み、死傷者は出なかった。だがそれでも、周囲の野次馬はパニック状態に陥ってしまう。

 

そんな中一夏は、その喧騒を鎮める為に野次馬へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

「はぁ…結局何も出来ずこんな時間だ…」

 

現在は17時、夕方である。

一夏は@クルーズの騒動の鎮圧、そして何故だか長い事情聴取に付き合わされ気落ちしていた。

 

 

「あー止めだ止めだ。こんな事考えていても仕方が無い、取り敢えず……」

 

ふと、一夏が視線を上げる。

そこには、

 

 

『おいしー。ねえラウラ、また来ようよ。』

 

『そうだな、また…買い物にでも。』

 

城址公園。

その中央のベンチに、端から見たらカップルにしか見えない2人組を見つける。

結わえた金髪の少女と、ストレートな銀髪(銀髪ロング)の少女が2人仲良く並んでクレープを食べている。

片方は制服の為、容易に判断出来た。

シャルロットとラウラである。

 

 

「ふっ、随分仲良くなったようだな。」

 

その光景を微笑ましく眺めると、今度こそ一夏は目的を持ってレゾナンスへと向かった。

 

 

 

 

 

 




強盗3人組が@クルーズに立て篭もらなければ、一夏はラウラとシャルロットとばったり出くわしていたね。








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一夏の刀について



謂われは完全に不明。

何時の時代の誰が、何処で何のために何を使ってどういう風に鍛えたのか何1つとして不明な刀。

怪しげな祠に祀ってあった物を、束が拝借した物。

鞘が妖刀村正に外見が似ている事から、同じ製作者の物かと思いきや、刀身はとても似ていない。
目釘を外しても製作者の名前は疎か、銘すら入っていない。


この刀で一夏は割と人数を斬ったが、刀身にうっすらと紅い線が入った事以外は変化が無い。この事は、束の考察により妖刀では無いかとの意見がある。


今のところ、所有者である一夏を喰らったりする危険は無いらしい。


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