シャルロットとラウラのお出かけ、後編です。
何故こうなったかは自分でもわからないが、取り敢えず可愛いから良い!
「もう夕方になっちゃったねぇ。」
「ああ、思わぬ
強盗犯と遭遇してから2時間後、2人は買い物を済ませて駅前に戻ってきていた。
強盗犯を制圧したとはいえ、シャルロットは銃を一発撃っている。事情聴取が長引いて余計な時間を使いたくなかった2人は、裏口から早々に退散することにしたのだ。
とはいえ、
そして何気に接客の楽しさを覚えた2人は、ちょくちょくバイトしに来る事を約束していた。
「買い物はこれで全部か?」
「うん。ていうかラウラ、本当にそれだけで良かったの?」
そう。
ラウラが買ったのは自身の趣味であるフィギュア以外には1つだけ。
シャルロットとお揃いの猫パジャマである。
「何を言うか。シャルロットが選んでくれたんだ、不満など無いぞ。」
「う、うん。それなら良かった。」
何の躊躇も無く照れ臭い台詞を言うラウラに対し、シャルロットは頬を染める。
「そ、それにしても結構買っちゃったね。店長さんがお給料入れてくれたから、予定より沢山買えて助かったよ。」
「む、金か。確か口座に2千万ユーロ程あるはずだが…」
「え!?そんなに持ってるの?」
想像を超えた金額に、シャルロットは驚愕を隠せない。
2千万ユーロ、日本円にして22億円。
明らかに1学生が持っている金額では無いのだ。本来であれば…
「ああ。私は生まれたときから軍属だからな、その分の給料と言った所だ。それに、代表候補生になってからは、その分も上乗せされている。」
シャルロットも代表候補生になってからそれなりには貰っているのだが、ラウラのそれは文字通り桁違いだった。
「だがまあ、この学園に来るまではそんな金等…使い道が全く無かったがな。」
そう言う通り、ラウラはお金の使い道とは無縁の生活だった。
軍の施設内で生活していたし、日用品も軍からの支給品で事足りた。
趣味の物。所謂グッズ類などは、今持っている物は全てラウラが師匠に買って貰った物である。
故に今日初めて、ラウラは自分の物を自分で買ったのである。
「あ、そうだ。ラウラ、この先の公園に行ってみようよ。」
「公園…この先と言えば城址公園だが…」
「うん。日本のお城跡。んー何のお城だったかなぁ。」
「ほう、それは興味深い。日本の城は守りやすく攻め難いと聞く、跡地とは言え一見の価値がありそうだ。」
相変わらずの着眼点に、シャルロットは苦笑いを隠せない。だがそれについてはシャルロットも口を挟まない。個人の意見や感想は、決して押しつける物では無いからだ。
「ここだね。ここに来たらクレープ屋さんを探すんだ。」
「クレープ屋?何故だ、何かあるのか?そのクレープ屋とやらに。」
そう言ってラウラは首をかしげる。
クレープ屋等、今まで居た駅前のデパートに何件か入っているからだ。ここまで来て今更クレープ屋に行く理由が分からなかった。
「休憩中にお店の人に聞いたんだけど…ここの公園のクレープ屋さんでミックスベリーを食べると幸せになれる、ていうおまじないがあるんだって。」
「『おまじない』…と言うと日本のオカルトか何かか?」
「あー…えっと、ジンクスだよ。」
「ああ、なるほど。験担ぎか。」
ガクッと、シャルロットは転けそうになる。
確かに合っているのだが、シャルロットは違うと叫びたかった。もう少し女の子らしい言い方で言って、と。
とは言えシャルロットは、今日一日ラウラを付き合わせている。その為のお礼も兼ねて、クレープ屋を探す。
幸い人気の店らしく、部活帰りらしき女子高生が列を作っていたためすぐに見つけられた。
「じゃあ早速頼んでみようよ。」
ラウラの手を両手で引きながら、シャルロットはバンを改造した移動式クレープ屋へとその足を運ぶ。
「すみませーん。クレープ2つください、ミックスベリーで。」
その言葉に、無精髭を生やしバンダナを巻いた男性が出てくる。
「あー。ごめんねぇ、ミックスベリーは今日はもう終わっちゃったんですよ。」
「あ、そうなんですか…残念。ラウラどうする?」
望む物が無いと知り、シャルロットは肩を落とす。そしてどうするかを聞くのだが…対するラウラは、何とも含みのある笑みを浮かべ…
「ふむ、そうだな。イチゴとブドウを1つずつ頼む。」
「…フッ、はいよ!」
クレープ屋の店主も、ラウラと同様に含みのある笑みを浮かべる。そのまま、注文通りイチゴとブドウのクレープがラウラに手渡される。
そのままラウラは、シャルロットの分の料金をも全額支払ってしまう。
「いいよラウラ、ここは僕が出すって。付き合って貰っているんだからさ。」
「なに、気にするな。」
そのまま2人は、近くのベンチに腰掛ける。
今度はラウラが先導していた。
「ふむ、どちらが良い?」
「んー。じゃあ、僕はイチゴ。」
「では、私はブドウを頂こうか。」
そう言って各々のクレープにかじり付く。
かじり付いた時に、溢れてきたクリームが頬に付くのはご愛嬌。
「んむ、これ美味しいね!」
「そうだな。クレープ等実物は始めて食べたが…存外美味いものだな。」
噂のミックスベリーを食べられず、気落ちしていたシャルロット。だが、出来たてのクレープを食べてその気持ちも何処へやら。既に声も弾んで、上機嫌であった。
「おいしー。ねえラウラ、また来ようよ。」
「そうだな、また…買い物にでも。」
気分上々のシャルロットは、クレープを食べるペースが少し早い。そうなれば唇付近にクリームが付くのは必然。
それを見て、ラウラは少し微笑み…
「シャルロット。」
「ん?何?ラウーーーー!?」
ぺろッと、ラウラはシャルロットの唇を舐めた。その行為と共に、シャルロットの顔は瞬時に紅くなる。
「なっななな、何をーー」
「ふっ、ソースが付いていたからな。それとも…。」
期待したのか?
とラウラはシャルロットの耳元で囁く。
その甘い声、そして妖艶なその表情にシャルロットは更に顔を紅くする。
「おっと。」
ぺろッと、今度は自身の手の甲に落ちたソースを舐め取る。
その姿は、さながら猫が毛繕いをしているようだった。
「っ~~~!?」
ラウラのその突飛な行動に、シャルロットは胸の鼓動が収まらない。同性だなんだと言う前に、先程の妖艶な表情が未だに頭から離れないのだ。
「そうむくれるな。ほら、私のクレープを一口やろう。」
「い、いただきます。」
その紅い顔を隠すかのように、シャルロットはラウラの持つクレープにかじり付く。だが自身の行動を思い返し、またもや紅くなる。
これは俗に言う、間接キスなのだから。
「ああ、そうだ。あのクレープ屋だがな、ミックスベリーはそもそも無いぞ。」
「え、そうなの?」
「ああ、メニューに無かったからな。それに厨房にも、それらしきソースは何処にも無かった。」
「そ、そうなんだ…。」
シャルロットは残念そうに肩を落とす。
噂のミックスベリーと言う物が、そもそも存在していないと言う事を知ってしまったが故。
「だがミックスベリーは食べられただろう?」
「え?」
「これと、そのクレープは何味だ?」
その言葉に、シャルロットは頭を捻る。
ラウラが手に持っているのはブドウ、そして自分の物はイチゴ。
そしてその2つの英語で言うと…
「あ、ストロベリーとブルーベリー!」
「ご名答。」
とても楽しげに、ラウラはクレープを頬張る。
「ーーってラウラ、ブドウはブルーベリーじゃないよ!」
「同じような物だろう。それにあそこでブルーベリー等と言えば、シャルロットが気付いてしまうではないか。」
そう言えばと、シャルロットは思い出す。
ラウラがイチゴとブドウと言ったとき、店主が含みのある笑みを浮かべたのを見た気がしたのだ。
「そっかぁ。『何時も売り切れのミックスベリー』ってそう言うことだったんだ。」
なるほどと思いつつも、先ほどのラウラの行動を思い返して顔が紅くなる。
自身の唇を、クリームが付いているとは言え舐められ、剰え間接キスまでもしてしまったのだから。
「それにしても、そろそろ夏も終わりだな。」
「そうだねぇ。」
ベンチに座りながら、2人は沈む夕陽を眺める。
この夏は…2人にとって忘れられない日になるであろう。
ーーーー△ーーーー
「ね、ねえラウラ。本当にこれやるの?」
「ああ、当たり前だろう。何を今更躊躇う必要がある、言いだしたのはシャルロットだぞ。」
「そ、そうだけどさぁ…」
ラウラ・シャルロットの自室。
夕飯後特にすることも無くゴロゴロしていた2人は、シャルロットの提案で早速今日買ったパジャマを着てみようと言うことになったのである。
そしてそれに便乗するかのように、ラウラも猫にまつわることを言いだしたのだ。
そう…
「ほら、言うだけだぞ?『お帰りにゃさいませ、ご主人様。』ほら、言ってみるにゃぁ。」
「うー…だってぇ」
悪乗りし出したラウラを止める者は、この部屋には居ない。
それ故にシャルロットは顔を紅くしていた。
着てみようと言ったのはシャルロットで、にゃーんと言わせるつもりではあった。だがラウラがその更に上のことをしてくるとは、到底思っていなかったのである。
そして尚且つシャルロットの後ろから、絡み付くかのようにラウラが抱き着いているのだ。そのままラウラはシャルロットの耳元で、妖艶な笑みで囁いているのだ。シャルロットはその時点で、顔がどんどん紅くなる。
「ほらシャルロット、にゃーん。」
「うぅ…本当に言わなきゃダメ?」
「ああ、もう逃げ場等無いぞ。」
シャルロットはラウラに後ろから
シャルロットがラウラから離れるには、選択肢は1つしかないのだ。
「…お、お帰りにゃさいませ…ご、ご主人様。」
ピッ
「良いぞシャルロット。凄く可愛いぞ。」
「ま、待ってラウラ。今の音は?」
そう言いながら、シャルロットはラウラの手に注目する。そこにあったのは、今ではお手軽な値段で誰でも買うことが出来る『ボイスレコーダー』だ。だがラウラのは一味違った。
軍からの支給品であり、かなり高性能な物。
普通に買うとなれば、20万はくだらない程の物だ。クリアな音声が直ぐに録れ、容量もかなり大きい。
「ん?こんな可愛いもの、記録に残さねば損であろう?」
「な!?待ってラウラ、後生だから!それだけは勘弁してくれない?」
かなりの必死さでラウラに頼み込むシャルロット。だが、そう簡単にラウラが渡すはずも無く。
「ふむ、無理だ。私には家も家族も無いが、これは家宝にする。そして師匠に自慢するんだ。」
「それだけは絶対にだめぇ!!」
シャルロットはそのままラウラを組み伏せようとするのだが、位置的にかなり不利。
そして体勢は、未だにシャルロットがラウラに後ろから抱き着かれているのだ。
ラウラのやりたい放題出来る。
「返して欲しいのならば…」
チュッと、ラウラの唇がシャルロットの耳に触れる。
顔が紅くなり、シャルロットはヘナヘナと体の力が抜けてしまう。
「…少々ジッとしていることだ。」
「ま、待ってラウラーーーー!?」
声にならない悲鳴が、その部屋を満たした。
果たして部屋の中では何が起きたのか、知る者は居ない。
な
ぜ
だ
何故百合展開になったのか、皆目見当も付かない。
だけど可愛いから良いよね。
ラウラ・ボーデヴィッヒ
怒ったシャルロットには絶対に逆らうことが出来ないが、逆に言えば怒ってなければ完全に手玉に取ることが出来る。
この知識も数あるアニメ等から仕入れたもの。
シャルロット・デュノア
ラウラの妖艶な笑みに翻弄される女の子。
必死でラウラは女の子、と心の中で復唱している。