因みに前後編の前編となります。
今回はラウラとシャルロット以外出て来ません。
第一話
8月某日。
現在は夏休み。
IS学園の一年生寮、その一室のベッドでシャルロットはぼんやりと目を開けた。
そのまま起き上がらずベッドの隅に置いてある目覚まし時計を見る、それは朝の8時40分を指していた。
ある意味衝撃だった臨海学校を終えた、最初の日曜日。特に宿題も無く、平穏な休日。となれば彼女の朝は遅い。
所属している部活も料理部であり、運動部なら練習があったりするがそんな物は無い。
偶に熱心な生徒が調理実習室で試作を作ることはあるが、基本的に土日は休みである。
「ふぁ……」
軽く欠伸をして再び寝返りを打つ。シャルロットは基本的に、休みの日は寝ていたいのだ。
ふとベッドの外に視線を向けると、同じ部屋の住人であるラウラが熱心にテレビを見ている。内容はテレビアニメのようだが、やたらカトリックやプロテスタント等の単語が聞こえた。
「(あれ、確か……HEーーSINGだったかな?でもこの時間だったかなぁ。)」
この時間だと朝のスーパーヒーロータイムの筈である。シャルロットは毎回見ている訳ではなく、まして彼女はアニメをそこまで熱心に見るほうでもない。
ラウラが毎週日曜に必ず見ているので、漠然とながら放送時間を理解していた。
「(確かいつもならプリキュアの筈なんだけどなぁ)」
いつも通りなら掛かっている筈のアニメの内容を思い起こし、視線をラウラの見ているテレビに向ける。そこには平和を愛する少女達の活躍ではなく――
『往生際が悪いお嬢さんだ、いくらあがいても無駄だ。この倫敦に、この死都にお前達が逃げる所も隠れる所も存在しない。あきらめろ人間!!』
『あきらめろ? あきらめろだと。成程、お前達らしい言いぐさだ。
「人間でいる事」に耐えられなかったお前達のな。人間をなめるな化け物め。来い、闘ってやる。』
『くッくくッ。上等じゃないか女!!』
『お前は…ッ。ヴァチカン イスカリオテ第13課…!!』
『「殺し屋」「首斬判事」「
神父 アレクサンド・アンデルセン!!』
『ゲァハハハハハハッ!! 鼻血を出しながら
かかってこい? 戦ってやる? 聞いたかハインケル。聞いたか由美江。』
『貴様はイスカリオテ!! 邪魔立てするか貴様!!』
『
唯一の理法を外れ、外道の法理をもって通過を企てるものを、ヴァチカンが。第13課が。この私が許しておけるものか。貴様らは震えながらではなく、
『我らは己らに問う。汝らは何ぞや!!』
『我らは
『ならばイスカリオテよ。汝らに問う、右手に持つ物は何ぞや!!』
『短刀と毒薬なり!!』
『ならばイスカリオテよ。汝らに問う、左手に持つ物は何ぞや!!』
『銀貨三十と荒縄なり!!』
『ならば!! ならばイスカリオテよ。汝らは何ぞや!!
我ら使徒にして使徒にあらず。信徒にして信徒にあらず。
教徒にして教徒にあらず。逆徒にして逆徒にあらず!!
我らはただひたすら
ただ伏して
闇夜で短刀を振るい、
我ら死徒なり。死徒の群れなり。我ら刺客なり。
時到らば我ら銀貨三十
『されば我ら徒党を組んで地獄へと下り、隊伍を組みて方陣を布き、
七百四十万五千九百二十六の地獄の悪鬼と合戦所望するなり。』
「おぉ、これが第13課。
「(ラウラ! 見ちゃダメ!! これ死が溢れてるよ!というかなんで今これがやってるの!?これは確か、深夜枠だった筈だよ!?)」
ラウラが見るようなものではないと、シャルロットは心の中で叫ぶ。このアニメは確かに深夜枠だった筈、なのに何故今やっているのか疑問に思う。そこでラウラはシャルロットに気が付いたのか彼女の方を向いた。
「む、シャルロット。すまない、起こしてしまったか?」
そこでラウラはリモコンの停止ボタンを押した。すると映像が切り替わり、平和を愛する少女達のアニメ…プリキュアが映り出す。
シャルロットの疑問はこれで解決される、録画だったのだ。
「う、うぅん。大丈夫、今起きたところだったから。」
後ろからまじまじ見ていた事を誤魔化しながら、シャルロットは起き上がる。
「あ、そうだラウラ。今日は何か用事はある?」
「特には無いが、なにかあるのか?」
「うん。あのね…」
ーーーー△ーーーー
「買い物?」
「うん、そう」
寮の食堂、そこで2人は朝食を取りながら話していた。2人以外は部活の朝練をしている面々がちらほらと居る程度で、驚くほどすいていた。
そして2人が食べているのはマカロニサラダにトースト、そしてヨーグルトである。
それに加えてラウラは…
「あ、朝からステーキって胃がもたれない?」
そうステーキなのだ。
如何にも『肉』なメニューに、シャルロットは若干胸焼けを覚える。
「何を言うか。朝に沢山食べる方がエネルギー消費的に考えて、体にも良いのだぞ。あとは寝るだけの夕食で食べるのは、エネルギーの消費先が無いのだ。そのエネルギーは全て脂肪になるんだぞ?」
確かにその通りなのだが、シャルロットは頭痛を覚えた。1ヶ月近くラウラを見てきたシャルロットだったが、明らかにラウラは他人の言動や、アニメなどにすぐ影響される。
「ーー誰から聞いたの、その情報。」
「師匠からだが。」
「あぁやっぱり。」
シャルロットは溜息を吐きながら、フォークでマカロニを刺す。その際フォークの先端を、マカロニの穴に通す。
「む。なんだそれは。」
「え、何ってマカロニだけど。」
「それは分かっている。私は何故フォークに通したかを聞きたいのだ。」
そうシャルロットに聞いてくるラウラは真剣そのもの、おかげでシャルロットはフォークに通したマカロニを口に持っていく。その途中で止まっていた。
「何故って…なんとなく?」
「ふむ…なんとなくか。」
「ラウラもやってみたら?案外楽しいよ。」
そう言ってから気付いた。
何を子供っぽい事を薦めているんだと。
だがシャルロットの懸念は、憂鬱のものとなる。
「シャルロット、確かにこれは面白いな。折角だ、全ての穴に通すとしよう。いくぞマカロニ、穴の貯蔵は十分か。」
そう言ってラウラは本格的にマカロニの穴と格闘し始める。
そして…
「出来た。私に掛かればこれくらい造作もない。」
「おー。」
先端、その4本全てにマカロニを通したフォークを軽々と持ち上げるラウラ。
それに対し小さく拍手を贈るシャルロット。
「それで、買い物には何時行くんだ?」
「えっと、10時位には出ようかなって思うんだけど…1時間位街を見て回って、良さそうなお店でお昼にしようよ。」
ーー△ーー
「…ラウラ。私服は無いの?」
「ああ。私が持っているのは軍服と、今着ている学園の制服だけだ。」
「………」
流石に頭を抱えるシャルロット。
そういえば、と思い出す。
同じ部屋でも、ラウラは女の子らしい格好をしているところを見たことが無かった。
「ラウラ。服、買いに行くよ!」
「あ、ああ。わかった。」
そのまま学園を出て、バス停に行く。
丁度バスが来て、2人はそのまま乗る。
夏休み。それも10時過ぎとあって、車内はすごく空いている。
制服のラウラと違い、シャルロットは私服だ。
白を基調としたワンピース、それに淡い水色が加わった如何にも夏らしく、涼しげで軽快さを醸し出している。
都市バスにしては珍しく、冷房では無く窓からの風のみで涼を得ていた。
そしてシャルロットもラウラも、窓から見える景色を眺めていた。
ただ両者共に、考えてることは違ったが。
「(そういえば街の方ってあんまり見る機会無かったなぁ。良い機会だし、今日は色々見ておこう。)」
「(…あの建物はアウトブレイクが起きた際の絶好な狙撃ポイントに使えそうだな。あそこのスーパーは、ライフラインが安定的に使えそうだから立て籠もるには最適だ。いざというときの為の脱出手段に下水道や地下鉄側道等、地図の確保と同時に独立した発電施設の場所も確認しなくては。)」
金と銀の髪が風によりなびく、それが正しく幻想的な雰囲気を醸し出している。
「ねぇねぇ、あそこ。見てあの2人。」
「うわぁ、凄い綺麗。」
「隣の子も凄い可愛いよねぇ、モデルかしら。」
ラウラとシャルロットの容姿により、バス内の女子高生が騒ぎ出す。2人共に美少女と言っても過言ではなく、容姿、雰囲気共に優れている。
「あれ…銀髪の子が着てるのって、制服?見たこと無い形だけど。」
「バカっ、あれはIS学園の制服よ。カスタム自由の。」
「えっ!?確かIS学園って、倍率が1万超えてるんだっけ?」
「そう、入れるのは国家を代表するエリートクラスだけ。」
シャルロット、ラウラに注目している女子グループは声のボリュームを抑えること無く話している。
そんな風に盛り上がっていれば、当然2人の耳にも届く。
だがそんな事はどこ吹く風、2人共全く気にも止めていなかった。
ラウラはそのまま、アウトブレイク発生後の展開を妄想し続ける。
「(確実にアウトブレイクが発生したらISは無力だ。確かに現状世界最強の兵器に君臨している。だが、それは補給が出来たらの話し。補給が出来なければエネルギーも弾薬も、直ぐに尽きる。尽きればISなんぞただの鉄で出来た拘束具と大して変わらん。なら普通にナイフと銃が何丁かあった方が、確実に生存できる。それにーーーー)」
「ーーラ、ラウラ。」
「…なんだ?」
「ほら、駅前に着いたよ。考え事は中断して降りないと。」
「ああ、分かった。」
2人は数名の乗客と共にバスを降り、そしてそのまま駅前のデパートへ入る。
「うん、こう回れば無駄が無いかな。最初は服から見ていって、途中でランチ。次に生活雑貨とか小物を見ていく感じで良いかな?」
「ああ、任せる。」
「じゃあ、まずは7階に行こうか。上から行った方が色々都合も良いし。」
そう言って、2人は歩き出した。
だがシャルロットは、7階と言って目が光ったラウラを見ては居なかった。
ーー△ーー
「ねえラウラ。僕は先に服を買うって言ってたよね?」
「あ、ああ。そ、そうだな、最初に言っていた。」
現在ラウラは、シャルロットに詰め寄られてガラスのショーウィンドウを背に冷や汗を流していた。
「じゃあ、ラウラ。ここは何処かな?」
「何処ってそれは…」
ラウラが居る店先、それはコアなファンなら誰しも1度は来てみたいと憧れる店であり、結構お高めの物が数多く揃っている所。
それは…
「HELーーING、フィギュア専門店だが。」
「何そのどや顔!?」
深夜枠で放送して作者からブーイングを受け、作者自身がOVAを制作した話題のアニメ。
曰く「アニメ本編よりOVAの方が面白い」と言われている。
そのフィギュアを数多く取りそろえているのがこの店である。
「おお、これは!アンデルセン神父12分の1フィギュア!こっちはアーカード等身大フィギュア!おお、どれも素晴らしい。」
「…ラウラェ。」
半ば無視するような形で自身の趣味を突っ走るラウラに、シャルロットは完全に遠い目をしていた。
だが今日の予定は既に立ててある、そうなれば必然的に…
「はい、ラウラ。こっちに行くよ。」
「ま、待て!まだだ!まだ私の戦いはーー」
「また後で来るから、今はこっちに来ようねぇ。」
そのままラウラは、シャルロットに首根っこを掴まれて引き摺られて行った。
ーーーー△ーーーー
「『サード・サーフィス』…変わった名前の店だな。」
「結構人気のあるお店みたいだよ。ほら、女の子もいっぱい居るし。」
シャルロットに手を引かれながら、ラウラは店内へと入っていく。
その店内には、女子高生、女子中学生が多く、賑わっていた。
セール中である店内の接客は、基本的に客が多くなるほどおざなりになりやすい。
「……」
ばさりと、客に手渡す筈の紙袋が店長の手からこぼれ落ちる。本来であれば、この行為は恥ずべき事で誰しもが注意する筈なのだが…
「…
「お人形さんみたい…」
店長の異変に気が付いた他の店員、客も含め全員がその視線を釘付けにしていた。
「…お客さんお願い。」
そして店長は視線を2人に向けながらも、フラフラと歩み寄ってくる。紙袋を受け取るはずだった客も、文句を忘れてシャルロットとラウラに見とれていた。
「ど、どんな服をお探しで?」
若干うわずった声で言う店長、サマースーツを着こなし見事に接客していた威厳はもう何処へやら。
そこで注目を浴びていると気付いたシャルロット、もう既に店を出たかった。
注目されることに慣れていないのだが、今回はラウラの私服を買うために来たのだ。帰るわけにはいかない。
「取り敢えずこの子に合う服を探しているのですが、良いのありますか?」
「こ、こちらの銀髪の方ですね、今すぐ見立てましょう。はい!」
そのまま店長は、マネキンに飾っていたセールス対象外の服を手に取る。
夏物であろうと、売れる商品は店頭に飾り集客に使うのだ。
基本的に『それ』はもちろん売るための商品ではあるが、あくまでとっておきと言う物。
初来店の客のために態々脱がしてくるというのは普通はあり得ない。
普通ならば。
「ど、どうでしょう?お客様の綺麗な銀髪に合わせて、白のサマーシャツは。」
「薄手でインナーが透けて見えるんですね。ラウラはどう?…あれ、ラウラ?」
手を繋いでいた筈のラウラが、何時の間にかシャルロットの手から消えていた。
「あれ?何処行ったのかなぁ。」
「お連れ様でしたら…あちらに。」
その指差す先には、赤いコートを見て目を輝かせるラウラが居た。
「ラウラ!」
「っ!?あ、ああ。出来ればもう少し暗い色が良いな。」
突然呼ばれて、ラウラは肩がビクッと震える。
だが話しは聞いていたみたいで、的確に意見を言う。
「じゃあ、ストレッチデニムのハーフパンツに…」
「インナーにはVネックのコットンシャツなんてどうでしょうか。」
「あ、良いですねそれ。色は同系色か相対色か…」
あれやこれやと、店長とシャルロットは楽しそうに服を選んでいく。
その服を着るラウラは、少し距離を取った場所でそれを眺めていた。
ラウラは実際の所、服選びのセンスが無い。つまりは自分で選んでも意味が無いのだ…
「さ、ラウラ。これに着替えてきて。」
「ああ、分かった。」
「試着室はこちらになります。」
そのまま連れられて、ラウラは試着室に入る。
シャルロットから手渡された服は、『クール系』と言えるもの。
それをラウラは着ていく。
自身が憧れる、格好いいと呼ばれるものである。
「どう?ラウラ。着替えた?」
「ああ、着替えたぞ。」
そのままラウラは、試着室のドアを開ける。
「どうだ?格好いいだろう。」
「うんうん。似合ってるよ。じゃあ次はこれだね。」
新たな服を手渡され、ラウラは再度強引に試着室に押し込まれた。
そして20分後、着替え終わったラウラが試着室を出ると、店内全員が息を呑んだ。
「うぁ…凄い綺麗。」
「妖精さんみたい。」
店内の視線を一同に受けて、流石のラウラも照れてしまう。
ラウラが着ているのは、肩を露出させた黒のワンピース。部分部分にフリルのあしらいがあり、可愛さを演出している。
ややミニよりの裾が、さらに妖精のような雰囲気を醸し出している。
「シャルロット…く、靴まで用意したのか、驚いたぞ。」
「せっかくだもん、ミュールも履かないとね。」
普段はブーツを履いているラウラにとって、ヒールのある靴は始めて履くのだ。
故に履き慣れないヒール付きの靴に、ラウラは体勢を崩してしまう。
全員があっと思った瞬間に、ラウラのその体をシャルロットはすぐさま支えた。
「すまないな」
「ううん、どういたしまして。」
ラウラの手を取り、お辞儀をするシャルロット。その様は、貴公子とプリンセスといった感じで、まるで物語のワンシーンのようだった。
「写真撮って良いかしら!!」
「私も!!」
一瞬で囲まれて、当たりは騒然となる。
2人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべるのだった。
ラウラの見るアニメが、大体装備している武装とかに影響していたりw
あとラウラよ…現代でアウトブレイクなんて起きないよ。
これ書いてるときにISでのアウトブレイクの二次を妄想しちゃったよ。
書かないけどね!