蒼白コントラスト   作:猫パン

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一波乱もクソも無かった。

何にも起きてないよ!
何故だ!!


第四話

 

 

 

 

 

 

 

専用機持ち5人全員が外へと出ると、見慣れないカタパルトと、自身の機体の倍以上のサイズがありそうなブースターが5機鎮座していた。

 

専用カタパルトにドッキングされたそれは、各専用機毎の色に染色されており、一目で誰の機体に合わせてあるのか分かるものになっていた。

 

 

VOBは、その特異な性質上1度きりの加速装置である。

その為、作戦領域まで運ぶ役目を終えた時にパージが容易となるよう、非固定浮遊部位(アンロックユニット)として装着するように制作されていた。

故に、操縦者側からでも外部からの遠隔操作でも容易に切り離せる。

 

 

「さて、今1度確認をする。今回のターゲットは銀の福音。目標は操縦者の確保と銀の福音の機能停止だ。無論お前達、1人でも欠けて帰ってくるなど許さん。

追加の情報だが、この旅館の沖合い20㎞地点を通過するまでまだ1時間はある。なら、少しでも被害を抑える為こちらから出向く。」

 

そう言って千冬は、周囲を見渡す。

 

 

「本来なら私が行くべきなのだろうな…」

 

「姉さん…指揮官は現場に出るもんじゃ無いぜ。」

 

一夏は励ますつもりであったのだろうが、千冬はそう捉えてはいない。

 

 

「…うるさい馬鹿者、口より手を動かせ。」

 

 

「はいはい。」

 

意図が伝わったのか、千冬の顔が若干紅くなる。

軽口を叩ける位の余裕がある一夏に、千冬は檄を飛ばす。

 

 

「こんな物が5機も並ぶとは、凄い光景だな。」

 

そこに、男の声が響く。全員が、声の主へと視線を向ける。

そこに居たのは、兎印の荷車を引きながら出て来た…1人の男だった。

 

「あ。りゅうくん、ありがとね。」

 

「これくらいお安いご用さ。で、PC2台とサーバー代わりのISコア…で良かったんだよな?」

 

「うん、バッチリだよ!」

 

 

りゅうくんと呼ばれた男性…『泉童子龍之介』がその姿を表す。

 

「!?…し、師匠!?」

 

「ん?…おお、ラウラじゃないか。元気だったようだな。」

 

「はい、師匠もお変わりないようで何よりです!」

 

 

その声を聞いたラウラが作業を止め、龍之介の前へと躍り出る。

だが今は作戦開始まで時間が無いのだ、ラウラは挨拶をしてそそくさと戻っていく。

 

 

「おっと、今はこんなことしている暇は無かったな。おい、あんたが織斑千冬で良いのか?」

 

「ああそうだが、お前は?」

 

話し掛けられた千冬は、そう聞き返す。

束の私物を持ってきている事から、無関係では無いと察した為追い出す選択肢は無かったからだ。

 

 

「俺の名は泉童子龍之介、今回はオペレーターを務める。っても、必要事項程度の連絡位だがな。」

 

「ああ、よろしく頼む。だが、戦況は逐一報告してくれ。」

 

 

簡単な会釈をしてそれぞれの分担へと戻ってく

龍之介は、束の手伝いだ。

 

「こことここを繋げて……よし行けた。」

 

PC に表示されたのは、専用機5機。シールドエネルギー残量や、破損部位の有無だった。

PCに接続されたISコア。そのコアネットワークを介して機体の情報、そして各機体への通信を行う。

 

「オペレートの準備出来たよ!」

 

「了解だ。織斑、そっちはどうだ!」

 

千冬は無線にて、進捗状況を尋ねる。

一夏達5人全員が作戦の要、故に1つの不備も許されないからだ。

 

『異常は無い、全員VOBとの接続は終了した。』

 

「そうか…では始めるとしよう。」

 

そんな千冬の言葉を聞き、束は1つのボタンを押す。

VOBはその特性上、ブースターの点火は完全に外部任せだ。

故に外部からの入力が無ければ発射しない、ロケットと同じなのだ。

 

 

「作戦開始!!」

 

 

 

その言葉と共に、轟音が響き5機のVOBは起動する。そしてカタパルトから射出され、時速2000㎞…マッハ1.6を超える速度で消え去った。。

 

 

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

『あー、テステス。聞こえるかな?』

 

「ああ、感度は良好だ。」

 

 

無線から聞こえてくる龍之介の声に、代表して一夏が答える。

 

『それは何より。さて、会敵まで秒読み段階だ。標的目前の50m地点到達時に、予定通りVOBはパージされる。何か質問は?』

 

「パージしたVOBはどうするのですか?作戦終了後に回収しに戻ってきたりとかは…」

 

『しない、そのまま投棄する。そういう仕様なんでな、納得してくれ。さて、残り50秒…総員戦闘態勢。』

 

全員が臨戦態勢へと移行する。

物が物だけに速度があり、漫談は早々に終了する。

 

そして全員のハイパーセンサーが、銀の福音の存在をキャッチする。

 

その距離80。

そして…

 

『VOBパージ。 行け、お前ら!』

 

 

一斉にパージされるVOB。そして先頭に居た一夏は、そのままの勢いで銀の福音に突撃する。

 

 

「ッらぁ!!」

 

時速2000㎞まで加速した機体から繰り出される斬擊。銀の福音も一夏の存在をキャッチし、敵対行動として対処しようとするが…

 

 

「遅い!」

 

銀の福音の反応速度を上回り、一夏の袈裟切りがその表面装甲を削りとり、体当たりをする。

『削った』だけなのだ、それはつまり銀の福音の健在を意味する。

そして一夏は銀の福音と対峙していて、次の攻撃が出せない。

今一夏の手にあるのは銃では無く刀、つまり振るう空間が無ければならない。

次の一手が出せない状況だが…

 

 

「ッチ! 浅いか…セシル!」

 

「了解ですわ!」

 

銀の福音を蹴って距離を取った一夏、その直後に銀の福音は爆発する。

セシリアが撃ったのは、面制圧用のクラスターミサイル。

対IS特殊弾だ。

それが2発。計60発の子機に分裂し、銀の福音に襲い掛かる。

AIS弾だけあって、威力は絶大。

膨大なSEを削り取る。

 

 

「凰さん!」

 

「おーけぇ!」

 

突如銀の福音が横に吹き飛んだ。

鈴の武装、『龍砲』。それが火を噴いたのだ。

龍砲はその衝撃は凄まじく、機体が吹き飛ぶ程。だが、そこまでダメージは高くない。

だからこその波状攻撃。

相手に休む暇など与えず、攻撃を加え続けると言う物。

 

 

「はぁぁぁっ!!」

 

間髪入れずにシャルロットの盾殺し(シールド・ピアース)が炸裂する。

盾殺し(シールド・ピアース)…パイルバンカーと呼ばれるそれは、鉄杭を炸薬させた火薬の力で射出し対称をぶち抜くと言う物。

当たれば大ダメージが期待できるが…装甲部に当たった場合、対してダメージが入らない欠点がある。

銀の福音は全身装甲だ。

一夏やシャルロット達のように、生身の部分が露出している訳では無い。

故に…

 

 

「浅い、ラウラ!」

 

「任せろ!」

 

瞬時に飛び退いたシャルロットの真横を通り過ぎるように、ラウラが放ったレールカノン…88㎜砲(アハト・アハト)の砲弾が銀の福音に直撃する。そしてそれは、容易に銀の福音の装甲を破壊する。

ラウラが無駄に蓄えた日本知識、そこから得た物で…拡張領域(バスロット)に何時もお守り代わりに入れている物だ。

 

88㎜砲(アハト・アハト)…第二次世界大戦中ドイツ軍が開発、使用していた対空砲だ。

1.5㎞先の100㎜の装甲をぶち抜く威力がある。当時のドイツ軍はその対空砲を、戦車に乗せて運用していた。

 

そしてラウラが持っている88㎜砲(アハト・アハト)は改良型だ。

本来であれば、一発撃つ毎に手動で砲弾を再装填する必要がある。

だがラウラのモノは、リボルバー型の弾倉が付いており連発可能だった。

 

だがそれだけではない。

なんとラウラは両肩に88㎜砲(アハト・アハト)を乗せている。

完全な遠距離砲撃型の追加パッケージ『パンツァーカノニーア』、それを改造したものだった。

計2門、12発の砲弾が撃てるのだ。

 

 

それにより、銀の福音はラウラを…『シュヴァルツェア・レーゲン』を最大の障害と判断する。

そして…

 

 

「来るぞ!データにあった銀の鈴(シルバーベル)だ!」

 

一夏の声が響くと同時に、銀の福音の主武装…36門の砲口から縦横無尽に放たれるエネルギー弾。

広域撲滅武装であるそれは、容易に一夏達全員の退路を塞ぐ。

だが、

 

 

「こんな物!!」

 

「セシリアの牢獄に比べたら!!」

 

「「甘い!!」」

 

鈴とシャルロットが同時に言う。

セシリアのエネルギー弾は、通常時の攻撃も、包囲攻撃時も、全て追尾弾(ホーミング)なのだ。

避けても隠れても、何かに当たるまで常に自身を後ろから追尾してくる。

それに比べれば、ただの弾幕等恐るるに足らない物であった。

 

 

「はぁぁっ!!」

 

「せっや!!」

 

鈴が振り抜く青龍刀の一撃。シャルロットが繰り出す盾殺し(シールド・ピアース)の一撃。

 

その2つが正確に、ラウラが破壊した装甲…その下にある生身の部分、そこへとぶち当たり絶対防御を強制発動させる。

 

絶対防御が働くと、ISはSE(シールドエネルギー)を極度に消耗する。

 

生身の部分にはバリアーがあるとはいえ、パイルバンカーなんて喰らえば致命傷は免れないのだ。

その致命傷を防ぐ為に、絶対防御が発動する仕組みだ。

 

つまりどう言う事かと言うと…

エネルギー切れで強制解除される。

 

 

「はぁ…いくら同性とはいえ、女性に対して手荒すぎません?」

 

落下していく銀の福音の操縦者。

そこを下から掬い上げるように抱き上げるセシリア。

 

 

「まあ、一応無事に確保出来たんだしーー」

 

『織斑一夏、領海に侵入者だ。』

 

突然、一夏に向けて無線が鳴る。

相手は龍之介。

緊迫したその内容に、一同警戒を強める。

そして辺りに響く、スラスターの音。

その機影が確認できる距離まで近づくと、機体と機体名がハイパーセンサーに表示される。

 

『侵入した機体はーー』

 

「ああ、こっちでも確認した。」

 

その機体は濃蒼をしており、手には長大なライフルを持っている。

背面に生えた翼状の武装が存在して、外見は…さながら蝶に見えるその機体の名は…

 

 

『「サイレント・ゼフィルス」』

 

 

僅か1年前。

イギリスから強奪されたBT兵器搭載型IS、『ティアーズ』型2号機。

1号機の『ブルー・ティアーズ』から得たBT兵器の稼働データを基に制作された、まさに上位互換とも言えるIS…『サイレント・ゼフィルス』がそこに居た。

 

 

 

 

 

        ーー△ーー

 

Side??

 

 

 

「織斑一夏…私が私であるために貴様を…」

 

M(エム)、忘れてないでしょうね?貴女の任務は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の確保。それが相手に取られた今ーー』

 

「ああ、分かっている。」

 

エムと呼ばれた少女は、我前に居る一夏達を見下ろしながらそう言った。

今回エムに課せられた任務は銀の福音の確保、そこに操縦者は含まれていない。

専用機さえ確保できればそれでいいのだ。

だが一夏達がそれら全てを確保している状況、専用機を確保するためには一夏達5人全員を倒さなければならない。

 

いくら『ーーーーーーーー』の実働部隊、その中でも上位の実力を持つエムであっても、5人全員を相手取るには些か不利な状況だった。

 

 

『ならいいわ。無駄なことしないで、さっさと戻ってきなさい。』

 

「分かっている!!」

 

苛立ちながら、エムは通信を終了させた。

そして荒れる心を強引に抑えつけ、機体を反転。

 

 

「ッチ、精々首を洗って待っているんだな。」

 

そう呟くと、スラスターを吹かし領域を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

         ーー△ーー

 

 

 

 

『領海の離脱を確認。ステルスモードかナニカだろうな、もう追跡出来ねぇわ。』

 

「そうか…」

 

そう返事をする一夏。

だが心は穏やかでは無かった。

 

一夏がちょうど1年半前まで居た第2の祖国とも言えるイギリス、そこから盗まれた機体なのだ。しかもティアーズ型2号機という、セシリアのブルー・ティアーズから取られた様々なデータを基に作られた上位互換であり傑作機。

 

そして、穏やかではないのはセシリアも同じであった。

 

 

「大丈夫?セシリア。」

 

「…ええ、大丈夫ですわ。」

 

 

自身の姉妹機でもあるサイレント・ゼフィルス。それが盗まれたのは知っていたが、こう間近で見てしまうとは思っていなかった為にショックも大きい。

 

 

自国がサイレント・ゼフィルスを…ティアーズ型2号機を完成させるために、セシリアは様々な協力をした。

元々ブルー・ティアーズはデータ取り用のテスト機、BT兵器搭載型ISを完成させる為の足掛かりでしか無い。

2号機が完成しても尚搭乗出来ていたのは、セシリアの技量、その高さ故だ。

 

BT適正がずば抜けて高く、他の候補者が出来なかった事を次々こなしていったセシリアだ。

国側としても、有能すぎる操縦者のデータは欲しいのだ。

故に降ろすこと無く1号機パイロットを続けさせた。

国の予想通りにセシリアは誰にも為し得なかった事を成し遂げた。

 

自身が機動戦闘中にも関わらず、予備BTを含め計12機を導入した1対4の立体機動戦闘。

しかも全BTでの偏向射撃まで行っている。

ただBTを動かすだけでも、並の人間では1機が限界なのだ。

それを自身が動きながら、しかも12機も動かすというのがどれだけの事か分かるだろう。

 

 

 

そんなことをすれば、希少価値の高いデータは次々手に入る。

そのデータは、少々スペックダウンされたもののサイレント・ゼフィルスに継承されている。

 

セシリアが居たからこそ、国が威信をかけた機体…完成形のティアーズ型が出来たのだ。

 

 

だからこそ、セシリアのショックはかなり大きかった。

 

 

 

『ま、これで作戦終了だ。お疲れさん、帰投してくれ。』

 

「了解、ベッドを用意しておいてくれ。」

 

『分かった。』

 

そう言って無線を切る。

一夏はそのまま振り返り…

 

「取り敢えず考察は後だ、今は帰るぞ。」

 

「了解。」

 

各々自然と陣形を組み、旅館へと飛びたった。

来たときは一瞬に近い速度だったが、帰る時は結構時間が掛かる。

1時間近く、飛び続けるのであった。

 

 

 

 

 




これあれですわw
セシリアと一夏が居るから代表候補生の実力が軒並み上がっているって事w


88mm砲(アハト・アハト)・・・・・・・・・!! そいつは素敵だ! 大好きだ!!!





設定



サイレント・ゼフィルス


Mの第3世代型IS。
経由は不明だがイギリスから強奪した機体。
BT兵器搭載ISの2号機で、1号機であるブルー・ティアーズ
のデータが基盤となっている。
ブルー・ティアーズが正式搭載している数、4基を凌ぐ6基のBT兵器が搭載されている。

機体カラーはブルー・ティアーズよりも濃い蒼色、濃蒼と言える。


2号機の為、性能は確かに1号機であるブルー・ティアーズを上回る。
だが操縦者の技量の問題でいくらでも性能差は埋まるため、然したる問題は無い。



悠然とBT兵器12機を個々に操りながら、自身はライフルで高機動状態からの狙撃。
とかなんとかしているセシリアがそう。




ブルー・ティアーズ


BT搭載型ISの試作型テスト機。
データ取り専用であった為、本来であればデータ取り終了後に解体される筈だった。

セシリアの並外れた技量と操作技術による稼働データ、それを惜しく思ったイギリス政府がセシリアの専用機としたもの。



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