蒼白コントラスト   作:猫パン

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オリジナル展開!



意外な新事実!


第三章  銀の福音編
第一話


 

 

 

 

『私に専用機をくれませんか。』

 

「…箒ちゃん。それがどういうことか、分かってる?」

 

『はい。』

 

その言葉を聞き、束は一層顔を歪めてしまう。

その表情は狂気に狂った笑みでは無く、悲しみに満ちた顔だった。

 

「専用機を持つその意味…その責務、その覚悟、本当に全部分かってるんだね?」

 

専用機。

国、または企業に所属する者が与えられる物。

正確に言えば代表候補生適応試験を受けた者、その約半数が選定され、その中から技能、実力、判断力等々で選ばれた人間に専用機が与えられるのだ。

代表候補生になったからと言って、必ず専用機が貰える訳では無い。

 

それに代表候補生以上の身分になれば、有事の際の義務も発生する。

国、もしくは企業から強制される義務だ。

そして国家代表候補生はその名の通り、国の代表。候補生とはいえその事実は変わらない。

故に行動1つで国を脅かし、専用機と地位を剥奪。という可能性もあるのだ。

 

だがこの場合…『篠ノ之箒』はどうだろう。

国や企業に所属している訳でも、ましてや代表候補生という訳でも無い。

 

ISの開発者であり、自身の姉…『篠ノ之束』へと直接頼み込んだのだ。

その意味はとても重い。

世界に現存するISコアは467、その全てを1人で作り出したのが束だ。

ISの製作者が機体を作るのに、既存のコアを使うはずが無い。そう世間は思うだろう。

 

それに代表候補生でも無いのに専用機を持つという事、これが大きな問題である。

国にも企業にも所属していない一般人が、専用機を所持する。

これは国でも企業の物でもなく、『篠ノ之箒』個人の所有物として所持するという事に他ならない。

つまり箒がそれで何をしようとも、国、そして企業が専用機の剥奪は出来ないという事だ。

 

個人所有の専用機と言えば、一夏の専用機もそれに当たる。束製作の唯一無二の、一夏専用。

だが一夏は元々所属はイギリスだ。

今もそのつながりはある。故に問題は地位だけだった。

 

 

『ええ、理解しています。私には力が足りない、だからその為の専用機が欲しいのです。』

 

「…じゃあ、臨海学校の時にね。その時に詳しく聞かせて貰うよ。」

 

 

返答を聞かず、そのまま束は電話を切った。

そしてそれを床へと落とす…

 

「…何も分かっていなかった!」

 

そして、一切の容赦なく『それ』を踏み砕いた。

 

 

「結局は自分のため!」

 

何度も…

 

「自分がいっくんに近付きたいから!」

 

床が陥没してもなお踏み付ける。

基盤がはみ出し、配線もグチャグチャ。

もう既に、それは携帯としての存在は無かった。

 

「自分が邪魔だと思った人間に思い知らせる為、その為のISじゃないのに!!」

 

視線は格納スペースに飾られた1つのISに向きながらも、その声は震え、目からは涙がこぼれ落ちていた。

 

 

ISは束の夢の結晶。

いつか大空を…宇宙を羽ばたく為の大きな翼だ。

戦争に使われていた時期もあったが、それでもと信じていた。

戦争自体、束は否定できない。

人類は戦争を繰り返す事で進化し、それを悔いて来ているのだ。

だからISには翼以外に、武力という側面を持たせた。抑止力となるように。

 

だがそれと同時に、戦争にISを使われるのは否定的だった。

宇宙を飛ぶための翼…あくまでもISは束の夢である、INFINITE STRATOS(無限の成層圏)なのだ。

 

そしてそれを実の妹である箒が、他者に見せ付ける為だけの専用機を…ISを力の側面だけしか見ないことに嘆いていた。

 

 

「今の箒ちゃんには、やっぱり…」

 

「ああ、何を言っても無駄だろうな。恐らく。」

 

束とは別の声がラボに響く。

声と共に姿を現したのは、1人の男性だった。

 

「りゅうくん…」

 

「束、人間は誰しも間違いを犯す。戦争の歴史がそうだ、大小は違えどな。」

 

りゅうくん、と呼ばれた男性は喋りながらもそっと束の隣に寄り添う。

 

「だが、間違いを正してきたのも同じ人間だ。なら、まだ可能性は0では無い。後はあいつの返答次第だ。」

 

「…うん。そう…だね。」

 

その涙を隠すよう、束は胸に飛び込んだ。

 

声を押し殺して泣いている、という事実を隠すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「束様…」

 

部屋の外では昼食であろうサンドイッチを乗せたお盆を持ち、ドアの前で立ち竦んで居る銀髪の少女が居た。

 

心が荒み、自身の本音を曝け出した姿を見てしまった。

だが、自身には何も出来ない…そう思ってしまったのである。

 

 

 

 

       ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

7月某日。

日曜日。

 

窓から差し込む朝日を浴びて、一夏は大きく伸びをするように目覚める。

 

軍に居た頃の一夏であれば周囲の警戒により熟睡等とは無縁であったが、ここはIS学園。

無法地帯と化した戦場での野営では無いのだ、故に熟睡しきっていた体を起こすために体を伸ばす。

 

 

そして…

 

そそくさと身支度をし始める。

 

枕元に置いてある拳銃…『Maxim 9』をホルスターへと仕舞い、ホルスターを装着する。

そして腰にはコンバットナイフ(ユリの待機形態)を差す。

 

そして、その物々しい装備の上から制服に袖を通す。

 

ここまで準備するのには理由がある。

 

 

織斑一夏は世間一般的に言えば、『世界で唯一の男性操縦者』という肩書きが付く。

そして情報操作の結果、一夏は単なる一般人という事になっているのだ。

 

 

一夏の存在を羨む人間も居れば、排除しようとする人間も居るのだ。

 

ISは、一夏の存在が出て来るまで女性しか乗れなかった。故に世間は女尊男卑が広がり、それが当たり前となっていった。

無論それをよく思わない人間も居るが、強く出れないで居た。

 

そんな中出て来た一夏の存在は、世の男性達にとっては希望であり、科学者にとっては未知の研究対象なのである。

それと同時にISをいわば神聖化している女性権利団体にとってみれば、一夏は異物でしか無い。

外へ出れば暗殺等や研究材料(モルモット)として、狙われる事となる。

 

それ故一夏は、例え近場でも外出するときは銃を携帯するのだ。

銃を嫌う一夏だが、自身の命を狙ってくるのだ。つまり実戦という事、四の五の言っていられない。

 

 

「さて、行くか。」

 

そう呟き、一夏は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

「お待たせしました、アイン。」

 

「いや、気にすることは無いさセシル。俺も先程来たばかりだ。」

 

一夏はモノレール駅の側、複合型ショッピングモール『レゾナンス』に来ていた。

ただ、1人では無い。

制服姿のセシリアがそこに居た。

 

「では行きましょうか、アイン。」

 

「そうだな。」

 

そうして2人は歩き出した。

手を…世間一般的に言う恋人つなぎと呼ばれる、指を絡ませるようなつなぎ方で。

 

 

「先ずは何処へ行きましょうか。何気に私、ここには初めて来ますわ。以前から来てみたいと思ってたんですの、楽しみですわ。」

 

「それは何より。前に1度来たが、案外色々売っていて楽しめたぞ。」

 

 

この2人の周囲だけ、何やらピンク色の空間を幻視する。そして周囲の人目を引く。

 

それもそのはず、セシリアは10人に聞けば10人が同じ答えを出すほどの美少女である。

そして一夏も、イケメンと言えるルックスである。

この2人がIS学園の制服姿でレゾナンスを歩いているのだ、注目されない筈が無い。

 

だがその雰囲気から、近寄る人物は居なかった。

 

 

「そうだ。前に見たとき、銃器専門店なんて店があったな。」

 

「良いですわね、そこに行きましょう?」

 

 

なんとも物騒なカップルである。

 

そのまま一夏達2人は、目当ての店がある7階へと上がるためエレベーターへ乗って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

2人が目当ての店に入る。

その後ろ姿を、物陰から覗き見る3人の姿があった。

1人は金髪でもう1人は銀髪ロング。

そして躍動的なツインテール。

 

シャルロット、ラウラ、鈴の3人だった。

 

「あのさ…あの店って、私の見間違いじゃなければ…」

 

「ああ。このレゾナンスで唯一、銃器を取り扱っている専門店だ。」

 

「そもそも、何でそんな店があるの?」

 

シャルロットの疑問は最もだが、あるものは仕方が無い。

 

何故、ここに居るのかと言えば。

この3人は、どこから掴んだのか…一夏とセシリアが今日この時間にレゾナンスへと行くことを把握していた。

そして面白そう、という理由で後を着けてきたのだ。

 

近々臨海学校があり、自身の水着を買うのにもちょうど良い。そして、偶然を装って接触しておちょくってやろうというのが鈴の魂胆だった。

 

シャルロットについては自身の水着の購入と、完全なる興味本位。あるとすれば、今までイチャイチャを見せ付けられていたための気晴らし程度。

 

ラウラについては、偶然シャルロットと鈴に出会い着いてきただけだ。

 

 

そんな3人がまず最初に予想したのは水着売り場。

臨海学校間近の為、一番最初はここに行く。

そう予想を立てたのだったが。

物の見事に外れたわけだ。

 

その為ラウラ以外は、一夏達が何故ここに来たのか検討も付かなかった。

だがラウラがそれを言うはずが無い。

よって…

 

「あっ、出て来た。」

 

 

店の中で何をしていたのか分からないまま、一夏達を追うことを再開した。

 

そしてそのまま進んでいく先にあるのは…

 

「俺の心にトゥヘア?  え?これなんの店なの?」

 

店の名前から、何を売っているのか分からない。そんな店を計5件回った一夏達、そしてそれを尾行していた3人は謎が深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

 

 

「ふむ、ここが水着売り場か。売り場が別々なのが気に入らないが…」

 

「仕方が無いですわ、今のこのご時世では。」

 

一通り見て回った一夏とセシリアは、最初の目的通り水着売り場へとやって来ていた。

女性用水着売り場はここ2階そして、男性用水着売り場が何故か1階なのである。

 

 

「ではアイン。これとかどうですか?」

 

そう言ってセシリアが手に取ったのは、ただの紐だった。

 

「却下だ。布が無い時点で無しだろ。」

 

「では…これは如何です?」

 

続いて手に取ったのは、蒼のビキニ。

だが、ビキニはビキニでも布面積が最低限のマイクロビキニだった。

 

 

「いや、刺激が強すぎる。却下だ。」

 

「ならアインが選んでくださいな。」

 

「んー。そうだな…これはどうだ?」

 

そう言って一夏が選んだのは蒼色のビキニ。

同色のパレオが付いた、ごく普通のビキニだ。

 

「やっぱり、セシルには蒼が似合うと思ってな。」

 

「相変わらず、センスが良いですわね。」

 

そのままセシリアは、一夏の選んだ水着を自身の体に当てる。

 

そして、

 

「これに決まりですわね。感謝致しますわ、アイン。」

 

「気にするな、これ位当たり前だ。じゃ、買ってくる。」

 

一夏が選んだ水着を持ち、会計に並ぼうとしたところで…

 

 

「じゃあ貴方、これも買いなさい。」

 

後ろから近付いてきた見知らぬ女性がやって来て、水着を付きだしてきていた。

 

ISによって世の中に浸透している『女尊男卑』。

女性優遇も行き過ぎて、男が冷遇されすぎているのだ。

故にこうなる。

だが…

 

 

「何で俺がお前の水着を買わなければいけない?」

 

「そうですわね。というかそんなことをして、恥ずかしく無いのですか?」

 

一夏とセシリアの口撃。

それが始まった。

 

「そもそも俺に命令する権利が、お前にはあるのか?」

 

「初対面の筈ですし…ただの妄言としか聞こえませんわね。」

 

同じ女性であるセシリアからも言われた為、逃げていった。

セシリアの、汚物を見つめるような視線を浴びながら。

 

 

「やはり、ISが出て来た弊害というものは何処にでもあるものですわね。」

 

「そうだな、こればかりは今のところ何も出来ないし。」

 

「はぁ…嫌になりますわね。」

 

 

気分が沈みながらも、2人はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一夏は、とある3人へとメールを飛ばしたのだった。

 

 

《尾行は楽しかったか?》

 

 

 

 

 

 

        ーーーー△ーーーー

 

 

 

「海ぃっ!見えたぁっ!!」

 

 今は臨海学校の宿泊先へと移動中。クラスの女子は窓際から見える海を見てはしゃいでいた。

一夏とセシリアは静かに海を横目で見ていた。

別段騒ぐほどのことでも無いからだ。

 

一夏もセシリアも、祖国は島国だ。

故に海など見慣れた光景である。

それに今更、この年ではしゃぐほど子供では無いのだ。

 

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ。」

 

千冬の言葉で、席交換や大富豪等をしていた全員がさっとそれに従う。

指導能力抜群であった。

言葉通り程なくして、バスは目的地の旅館前に到着。四台のバスからIS学園の一年生、全員が出てきて整列した。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないよう注意しながら寛ぐように。」

 

「「「よろしくお願いしま―す。」」」

 

千冬の言葉の後、全員で挨拶する。

この旅館はIS学園が、毎年利用しているらしく、着物姿の女将さんも手慣れた感じで迎えていた。

 

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね。」

 

歳は三十代くらいだろう、しっかりとした大人の雰囲気を漂わせている。仕事柄笑顔が絶えないからなのか、その容姿は女将という立場とは逆に凄く若々しく見える。

 

「あら、こちらが噂の……?」

 

ふと、一夏と目が合った女将が千冬にそう尋ねる。

 

 

「ええ。今年は一人男子がいるせいで、浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません。」

 

「いえいえ。

それに、いい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ。」

 

「案外しっかりしてますね。ほら、挨拶をしろ。」

 

千冬に促されるまま一夏は前に出た。

そのまま癖のように染み付いた体が、勝手に動いた。

 

背筋を伸ばし、ピンッとした姿勢になる。

 

 

「織斑一夏です。3日間お願いします。」

 

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

そう言って女将は丁寧なお辞儀をする。その動きは先程と同じく気品のあるもので、大人な女性と言う物を醸し出す。

 

「それじゃあ皆さん、お部屋の方にどうぞ。

海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければいつでも従業員に訊いてくださいまし。」

 

女子一同、はーいと返事をすると直ぐ様旅館の中へと向かう。

初日は終日自由時間であり、ビーチが解放されているのだから。

因みに食事は、旅館の食堂にて各自とる事になっている。

 

 

「そうだ織斑。お前の部屋は私と同室だ。変に1人部屋にしては、女子の突撃に合いかねんからな。」

 

「了解だ。では部屋に荷物でも置いてくる。」

 

 

そう言って、一夏は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 





次回、りゅうくんと呼ばれた人物は出てきます。
因みにオリキャラですが。



それまでのお預けです。

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