ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第七十四夜

11/16(月)

 

 

「明日からいっよいよ修学旅行だな!」

 

 順平が修学旅行のしおりを読みながら順平が楽しそうに言う。

 

「ここんとこ楽しい話題なかったから余計楽しみだゼ!」

 

「確かに最近くらい話題だったからね」

 

 順平の言葉通り此処最近は楽しい話題はなく、暗い話が続いていたから本当に嬉しいようだ。精々良い話題と言うのはアイギスの復帰と言う所だろうが、幾月の行動が無かったらその原因であるキバVSBライジングイクサと言う状況等起こらなかっただろうから、吉報と言うべきかは頭を捻る事となるだろう。

 

 一時的に奏夜が戦線離脱した際には、奏夜の持つ指揮能力や複数のペルソナを操る能力が欠けただけでタルタロスの探索が……頓挫こそしていないがペースは大きく落ちていたと言うのも暗い話題の一つと言えるだろう。

 

 まあ、他のペルソナ使いの使えるペルソナが一人に付き一つで、ペルソナにも得手不得手が有るので、複数のペルソナを操る事ができる奏夜の存在は事実上一人で複数のペルソナ使いの働きが出来ると言う事だ。

 

 月光館学園では二、三年生合同で奏夜、風花、ゆかり、順平、アイギスの二年生のメンバーだけでなく、三年生の明彦や美鶴も一緒に修学旅行に行く事になっている。S.E.E.Sのメンバーの大部分……コロマルと乾の二人を除いて全員が修学旅行で出かける事となる。

 

(時期的にも丁度いいかな? 満月に被らないし)

 

 記憶の中にある月齢を確認しつつ、S.E.E.Sのメンバーになってから欠かさずに記憶している月齢の事を考える。未だに全ては終わっていない、新たに何かが起こるとすれば、それはきっと次の満月の日だ。

 満月が修学旅行の日程と被ってしまっては拙いと、適当な理由でサボる事も考えていたので無事に行ける事に対して心底嬉しかったりする。

 

「順平さん、元気ですね。心配して損しちゃったかな?」

 

「んー? オレッチは何時でも元気だぜ?」

 

 そんな順平の姿を見ながら言う乾に順平はそう言う。まあ、今までの順平の様子ではとても元気などと言えないだろう。……主にチドリ関係で。一応アドバイスはしていたが……幸いにも立ち直ってくれた様だ。

 

 ……普通に仲の良い恋人(本人達に自覚なし)が居る奏夜に対して色々と思うところは有るかもしれないが。

 

「そっちこそ、ちゃんとイイ子でお留守番してろよ?」

 

「ああ、お土産とか気を遣わなくて良いですからね」

 

「それって、買って来いっつー、アピール?」

 

「そんな、違いますよ。……ただ、京都のお菓子は美味しいですよね」

 

 そんな順平と乾の会話に耳を傾けつつ奏夜は、

 

(……お菓子か……。定番だけど悪くないね……)

 

 そんな事を思う。……主にキャッスルドランの中に居る四魔騎士(アームズモンスター)達へのお土産だが……何故か屋久島の時と同様、またシルフィーが着いて来そうな気がするのは絶対に予感では無いだろう。

 

「どうしたの、奏夜くん?」

 

「え? うん、定番だけどお菓子なら丁度良いかって思ってね」

 

「うん、私も皆さんへのお土産はそれが良いと思う」

 

 一応、キバットとタツロットは連れて行くが……まさか京都でも屋久島の時のようにファンガイアタイプの襲撃や平行世界のキバーラと戦う様な事は無いだろう。

 そんな訳で流石に四魔騎士(アームズモンスター)は連れて行けないが、最悪の場合に備えて何時でもキバに変身出来る様にキバットとタツロットも連れて行く事にした。

 

 まあ、S.E.E.Sのメンバーにはキバの事は知られているので新幹線や他の生徒と一緒の時だけ静かにしていて貰えば問題ないだろう。

 ……まあ、四魔騎士(アームズモンスター)達については風花の力を借りなければ連れて行ってもフォームチェンジは出来ないし、エンペラーフォームになれれば大抵の場合問題は無いだろう。

 ……寧ろエンペラーフォームの力でも対応できない状況に直面した状況でフォームチェンジ出来た所で、何とかできるかは疑問だ。

 

「でも、クラスが違うから奏夜くんとは新幹線の席は別になっちゃうね」

 

「うん、風花さんも一緒の方が楽しいんだけどね」

 

「残念だね」

 

「うん」

 

 やっぱり何時もの奏夜と風花だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

11/17(火)、修学旅行当日

 

 

 新幹線の車内、トランプを持って睨みあう順平、綾時、クラスメイトの友近、ゆかりの四人……。付け加えるとアイギスの隣になった奏夜は二人仲良く寝ているので不参加だったりする。付け加えるとジョーカーを持っているのは綾時。

 

「負けた奴は一枚脱ぐのな」

 

「え!!?」

 

 突然の順平の言葉に慌てて抗議の声を上げるゆかりだが、

 

「ちょっ!!! 何、勝手に決めてんの!」

 

「だまらっしゃい」

 

 ゆかりの抗議もあっさりと斬り捨てられる。そして、順平は仲間二人……綾時と友近へと自然を向ける。

 

(いいか? 分かってるな、みなの者?)

 

(ああ……総攻撃を仕掛ける)

 

(ええ……ターゲット指示、“岳羽ゆかり”ですね)

 

 アイコンタクトだけで会話をする三人。……視線だけで会話を成立させているという、一流のスポーツチームの選手も真っ青な、奏夜が起きてたら呆れるほどのチームワークの良さだ。

 ……この二人がS.E.E.Sのメンバーだったら順平がリーダーになっていたかもしれない。

 

(これを取れ!)

 

(オッケー!)

 

(これだぁー!!!)

 

 妙に気合の入っているババ抜きをしている三人には流石にゆかりも呆れている。

 どうでも良いが友近よ、引かせたいカードをちょっとだけ高くしている辺り、普通にミスなのだが……。寧ろそれは逆効果だ。否、寧ろ逆に引かせたくないカードをそうする事によってカモフラージュすると言うのも一つの手だが、彼の表情から言ってそうでは無いようだ。

 

 さて、肝心の勝負の結果はと言うと……

 

「!?」

 

「いいよ? 別に脱がなくても。見たくも無いし……」

 

 ジョーカーを手に真っ白に燃え尽きているのは順平。……最下位はキャッスルドラン内のトランプゲームで次狼達を破った順平となった瞬間だった。

 そして、口には出していないが友近と綾時も心の中でゆかりの言葉に同意していたりする。確かに順平が脱ぐ所なんて見たくも無い。

 

「いーや……いやいやいやいやいやいや。男に二言は無いですよ」

 

 そう言って順平はゆかりを制しながら、手を伸ばし帽子に触れると、

 

「見てくれ、俺の脱ぎっぷり!」

 

 

 

―ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……―

 

 

 

 そんな効果音と共に帽子を脱いだ瞬間、綾時と友近の表情が変わる。

 

「ほい! 次! 次の勝負、もいっかい!!!」

 

「ほら! そこうるさいよ!」

 

 表情が固まった綾時と友近を放置しつつハバ抜きの再開を主張する順平だが、担任の鳥海先生に注意されてやむなく中止となってしまったのだった。

 

 

 

 そんな事をしている間に新幹線は京都へと到着するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……どうしてこんな事に?)

 

 修学旅行最終日……ホテルのロビーで真っ白に燃え尽きている順平、明彦、綾時の三人……。

 

「あっ、あのさ……三人とも……」

 

「紅……オマエだけ上手く逃げやがって……」

 

 声を掛けた瞬間、順平の恨みがましい目で見られる。

 

「い、いや……元はと言えば順平達があんな時間に……」

 

「行きましょう、奏夜くん」

 

 全力で困った笑顔を浮べながらフォローの言葉を探している時、風花が奏夜の手を引いている。

 

「えっと……風花さん?」

 

 普段の彼女からはちょっと創造できない冷たい眼で順平達を見ている所から、先日の事をかなり怒っているのだろう。

 

「行こ、紅くん。こんな連中の事はほっときましょう」

 

「そうだよ」

 

 同じく冷たい目を向けているゆかりに同意する風花。

 

「い、いや……あの……」

 

「関係の無い紅まで巻き込もうとするとは……見下げ果てたな」

 

 纏っている雰囲気が彼女によーく似合う。と言える凍えるほどの冷たい空気を纏って順平達を睨み付ける美鶴。そんなS.E.E.Sの女性陣に連れられて行く奏夜。

 

「……なんで紅くんはあんなに信用されてるんだろ……」

 

「見付からなかったと言うのも有るだろうが……元々の信頼だろうな。大体、オレと紅はお前達の巻き添えだろうが」

 

「ちくしょう……なんでアイツばっかり!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ては先日の夜まで遡る。

 

「こっちこっちー」

 

「おー!」

 

 順平と綾時の二人が奏夜と明彦の居るプレイルームに入っていく。

 

「センパーイ、紅―、風呂行きましょうー。……って」

 

 そう言って綾時に案内されてプレイルームの卓球台の有る場所へと視線を向けた瞬間、順平の表情が驚愕で固まる。

 

「ふっ!」

 

「はぁ!!!」

 

 物凄いスピードでラリーを続ける奏夜と明彦……そして、何故かテニスの審判のコスプレをしているキバットの姿だった。20分間続く激しいラリーの末、明彦の一瞬のミスを突き、

 

「ダークネス・ムーン・スマッシュ!」

 

 真紅の満月でも背負ったかのようなスマッシュを叩き込み見事勝利したのだった。

 

「良し! って、二人とも?」

 

「あー……二人とも、風呂イカネ?」

 

「そうだね、丁度汗もかいたし。運動して汗を流した後の露天風呂か……良いね」

 

 そう言って綾時の存在に気が付いて人形の振りをしているキバットを回収しつつ、敗北した事にorzな体制で項垂れている明彦と共に四人は露天風呂に入る事になった。

 

 ……そう、彼らはまだ知らない……。

 

 

 

「「見付かれば?」」

 

「処刑だな」

 

 凍りつく順平と綾時。

 

 

 

 これが身も凍る恐怖の瞬間の……

 

 

 

「順平!!!」

 

「黙れッ!!!」

 

(ゆ、湯煙殺人事件……!!!)

 

 

 

 

 

 

ーさようなら、順平ー

 

 

 

 

 

 

 始まりだと言う事に。


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