ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第七十二夜

「この前の……ありがとね」

「あ……うん」

「見れて、ホント良かった……」

「ゆかりちゃん……」

 放課後の月光館学園の校舎で風花と二人、ゆかりはそんな事を呟く。内容は勿論風花が復元した過去の父親の映像の事だ。珍しく風花は奏夜と一緒では無くゆかりと下校していた。

 ……本人達にしてみれば交番で武具を買ったり医薬品を買ったりしているので、デートとかとはほど遠い物なのだが。現場の指揮官とオペレーターな二人なので仕方ないと言えば仕方ないだろう。味方の状況を最も把握しているのはこの二人だ。

 まあ、つい数日前の武具の更新……キャッスルドランの中で見つけた物に変更した奏夜と優勝商品で強化された順平の二人の武器は兎も角、防具や二人以外の戦闘メンバーの武具を変えたり、古い武具やタルタロスの中で見つけた使わない武具は予備を除いて時々売ったりしている。

 高校生の身の上で武器の売買をしているのは傍から見ればどうかと思うが。一番の問題はアイギスの武具だったりする。……腕と一体化している銃や脚部やボディーと言ったパーツは流石に持ち運びに不便な上にマネキンと言う事にして運ぶのは苦労した。……美鶴に頼むのは良いが居ない時は流石に自力で売りに行くしかない。まあ、そんな形で得た資金は活動資金として確保した分以外の余った分は仲間内で分けたりもしているが……。

「お蔭で色々分かったよ。……私達のやらなきゃいけない事」

「そうですね」

 11時59分を指した所で壊れた時計、影時間の寸前で止まったその時計は色々と印象的なものである。この月光館学園が全ての始まりとなった地で有る事を考えると。

 帰り道の途中誰かを必死に探しているアイギスの姿があった。キョロキョロと必死で彼女が探している人物は奏夜意外居ないだろうし、二人の姿を見た時『はっ!』とした表情を浮べる。そんな姿からは彼女は意思を持った一人の人間にしか見えない。

「風花さん、ゆかりさん。奏夜さんの現在位置を把握していたら教えていただきたいのでありますが」

「「現在位置……」」

 ずいっと近づいてくる彼女にそう聞き返す。

「現在位置は分からないけど、バカ二人と遊びに行ったみたいだけど?」

「バカ二人……」

 ゆかりの説明にうーんと言う表情で考え込むアイギス。アイギスの頭の中に二人の人物の顔が浮かぶ。

「順平さんは特定できるのですが、あと一人が分からないであります」

 即座にバカ二人の片割れが順平と認識できた様子だった。哀れ順平、アイギスにも『順平=バカ』と認識されているようだ。

「綾時くん」

「あ…………」

 ゆかりの答えにアイギスの表情が変わる。妙に暗いものを背負った表情にワナワナと振るえている。

「あの人はダメです!!!」

 そう叫んで『ピュー』と言う擬音を背負って走っていくアイギスの背中を見送りつつ、

「なんか……まるで恋敵みたい」

「え!?」

 風花の言葉に顔を真っ赤にして反応するゆかり。……だが、恋敵だと言うのなら、一番の強敵……と言うよりもラスボスは風花だろう、以前から秘密を共有して居たりとか、どう考えても。

「?」

「いや、別に……」

 天然なのか、完全に勝利者の余裕にしか見えない風花の姿に色々と複雑な感情を抱くゆかりさんでした。

「でも、言ってくれれば奏夜くんに電話したのに」

 そんな風花の呟きが零れるのだった。

 同日、ゲームセンター。其処に奏夜達の姿は有った。色々と根を詰め過ぎても良くないだろうと考え、順平に誘われたのも良い機会だと思って参加した奏夜だが、

「……っ、くそッ!」

 ゲーム画面の奥で順平の操作する斧を持ったキャラが剣を持ったキャラに負けている。

「やッ……」

 剣を持ったキャラのトドメの一撃が斧を持ったキャラのライフを削り取る。

「たーっ!!! 勝ったーっ!!!」

「おめでとう」

「くっそー! 油断したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 勝利の叫びを上げる綾時と対照的に項垂れている順平。付け加えるなら奏夜の足元には大量のジャックフロストの人形を初として色々と景品が入った袋がある。

「これで晩御飯は順平くんのおごりだね!」

「この辺の店の事は色々と知ってるし、何処にしようか」

「おいっ、紅! あんま高い所は止めろよ!」

 流石に泣きが入っている順平。……この辺の店のメニューの事は何故か良く知っている奏夜。……当然ながら値段も、だ。

「しっかし、なんつー上達の早さだよ……。オマエ、いったい何者?」

「ふふ」

 一度自販機でアイスと飲み物を買って休憩している三人。

「初めて来たけど、『ゲーセン』って楽しい所だね。色んなゲームで遊べるし、色んな物を貰えるし、勝てば御飯はタダだし」

「そうだね」

「オイ、それは何か違くねぇか……? つか、色々貰えるのは紅だけだろ」

「クレーンゲームも対戦だよ。店員との、ね」

「そっ、そっすか」

 『クスクス』と黒い笑いを浮べる奏夜に微妙に引き気味で答える順平。どうでも良いが背後では景品を根こそぎ取られたゲーセンの店員が泣いている。……このゲーセンからクレーンゲームが撤去される日もそう遠くないかもしれない。

「おっ」

 順平が見つけたのは『もぐら叩き』。

「もぐら叩き一回百円だってよ。やってみようぜ」

「えぇっ!?」

「な、何だよリョージ」

「だって……態々僕に会いに出てきてくれるのに叩くなんて可哀想だよ」

「………………。オマエなぁ……。まー、ゲームなんだし、一回やってみろって」

 そう言って綾時に順平はもぐら叩きを進めている。

「楽しそうで何よりだね」

 そんな二人を見ながら苦笑しつつクイズゲームを解いている奏夜。新しいクレーンゲームに近付こうとした時、本気で店員が『止めてくれ』と言う目で見られていたためだ。

「……分かった。そういうことなら……」

 ハンマーを受け取りもぐら叩きの前に立つ綾時。そして、

(容赦ねー! 手ももぐらも見えねーし!?)

 順平の心の中の絶叫が物語っていた。手元が見えないほどの速度で少しでも頭を出したモグラが叩かれている。先程まで可哀想等と言っていた人物のプレーとは思えない。そんな時綾時の携帯電話の着信音が聞こえてくる。

「……ん? リョージ、ケータイ鳴ってるぜ」

「あっ、ホントだ。ハイ、もしもーし」

『あー、やっと繋がったぁー! りょーじくん、今度アタシたちと遊んでくれるって言ったのに、今日もすぐ帰っちゃうんたでもーん!』

 茎ラスの女子らしき声がゲームセンターの音楽にも負けない音で響いている。

「まぁた女かよ。……リョージも、オマエも大変だ……」

「あっ、風花さん。うん、それで……」

 何時の間にかクイズゲームを終えた奏夜も風花と話していた……携帯で。

「……………………、じゃあ、またねー」

「じゃあ、寮でね」

「……な」

「ふー……」

 そう言って二人が携帯電話を切った時、ゲームは終了した。

「なんか電話掛かってきちゃったから、あんまり集中できなかったよー」

(ええー!?)

「凄いよね、この『KIVA』って人。断トツの一位だよ。どのゲームでも上位はこの人の名前ばっかりだし」

(うぇ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)

 その名前の由来は間違いなくキバで、どう考えても奏夜です。

「それにしても酷いよね。僕だって偶には男の子と遊びたいってゆーか」

「うん、偶には男同士で遊びに行くのも良いよね」

「お前等、帰れ」

 『#マーク』を貼り付けて即答する順平と、その言葉に落ち込んでいる綾時。そんな彼の肩を叩いて慰める奏夜。

「お、懐かしーな、コレ」

 順平が新しいゲームを見つける。比較的古いゲームらしく他のゲームとは違って旧式と言うイメージがある。

「なあに、それ?」

「ムッフー。ん? これはな……」

 一時期はやったそのゲームの名は、

「本格電車運帝シュミュレーター!!! 電車だ『わぁ!!!』」

「ねこちゃん可愛い」

「ホントだ、風花さん喜ぶかな?」

「聞けよ」

 誰も聞いちゃいなかったりする。なお、新たな獲物を狩人に見つけられた店側は本気で土下座して止めて貰っていた。

「で。電車と言えば、お前だな」

 結局そのゲームをする事になった三人……挑戦するのはクレーンゲームを店員に土下座して止められた奏夜だ。

「そう言えば気になってたんだけど。電車の横に書いてある『モハ』って何?」

「……物凄く早い、じゃないかな?」

 違います。正しくは列車記号の一つで『モ』は中間電動車で、『ハ』は普通車の事です。……順平の顔色が少し青くなる。

「『キハ』は?」

「キバの誤字だよ、絶対」

 間違いなく違う。同じく電車記号で『キ』が気動車(ディーゼル、ガスタービン車)で、『ハ』は上と同様普通車、間違っても『キバ』の誤字ではない。順平の顔が真っ青に染まる。

(不安だ……!!!)

 順平心の叫び。

 顔色が真っ青を通り越して真っ白に代わる順平。ゲームの中の電車がとんでもない動きを見せている。あまりにも凄惨な光景なので順平の心の叫びだけでご想像ください。

(うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!? 電車が回転した!? なんだよ、それはぁ!? 前の電車を上から追い抜くか、フツー!? しかも上から!? ちゃ、着地、成功? せ、線路を無視して壁とかジグザグに走った!?)

 駅に着いたもののゲームだからなのか笑顔で降りてくる乗客たち。

(あの時……良く生きてたな、オレ)

「良し、高得点」

「ハーイ、次僕やるー」

 綾時がゲームの前に座ったとき近付いてくる人影……。どうでも良いが何故そんな無茶苦茶な動きで高得点が取れたのかは不明だ。回転した時点で乗客もよく無事だったと思う……。なお、評価は『車掌よりもレーサーになって下さい、マジで』と有る。

「や……やっと……」

 奏夜達三人を指差して現れたのは

「発見したであります!!!」

「アイギス?」

「そう言えばさっき、ぼくの事をアイギスが探してるって電話があったね……風花さんから」

 アイギスだった。まあ、奏夜は風花からの連絡でアイギスが探していると知っていたので驚きも無いが。

 学校で会った風花とゆかりから話を聞いてからずっと探し回っていたのだろう。

 実際、先程だが風花に何処に居るのか聞かれて答えたのだし……連絡を貰えれば居場所くらい答えたのに、と思う奏夜だった。


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